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2020年12月15日(火)

教員からの性暴力なくすために 最前線からの提言

教員からの性暴力なくすために 最前線からの提言

去年5月から継続取材を行うクローズアップ現代+の「#性暴力を考える」プロジェクト。今回は、わいせつ行為などで処分される公立学校の教員が過去最多となっている、学校現場の問題に迫る。私たちの取材で明らかになったのは、処分に至るのは氷山の一角に過ぎず、多くの被害が意識や制度、時間などの“壁”に阻まれ、埋もれたままになっている実態。現場の徹底取材に加え、最前線で活動する専門家たちとともに、教員からの性暴力をなくし、子どもたちを守るための提言を行う。

出演者

  • 武田真一 (キャスター) 、 合原明子 (アナウンサー)

立ちはだかる“時間の壁”

学校現場でのこの問題。大きく立ちはだかるのが時間の壁です。
きょう(15日)、東京高等裁判所で判決の日を迎えた、石田郁子さん(43)。中学3年から大学2年まで教員による性暴力を受け、その後PTSDを発症したとして、損害賠償を求めました。石田さんが裁判を起こしたのは2年前、41歳のときでした。

石田郁子さん(提訴時の会見)
「私はこのまま、ずっとこのことを黙って生きていくのは、もう耐えられない。自分の15歳から19歳の、被害にあっていた自分を守れるのは、今の大人の自分でしかないので。」

裁判を起こすまで20年以上かかった石田さん。そこには、自分が被害を受けたと認識するまで、時間がかかるという、学校現場ならではの特徴がありました。相手は中学校の美術教員。高校で美術を学びたいと考えていた石田さんは、絵の描き方などを教わっていたといいます。教員から誘われ、美術の展覧会に行ったとき、石田さんは腹痛に襲われました。すると教員は自宅へと連れていき、突然キスをし、抱き締めてきたといいます。

石田郁子さん
「まず、何が起こったのか分からない。自分が先生から、そういう(性的な)対象として見られていると、想像すらしなかった。」

高校に入ってからもたびたび呼び出され、上半身を裸にされたり胸を触られたりしたといいます。

石田郁子さん
「断るとか、そういう選択肢は自分にはないんです。先生が言うことだから、先生の言うことを疑わないし、まして、先生が犯罪をするとは思ってないので。」

教員から性暴力に遭った149人に聞いたアンケートです。8割近くが被害を受けたとき被害だと認識できなかったと回答しました。

被害だと認識できるまでには、10年、20年と、時間がかかるケースが少なくありません。

石田さんが被害ではないかと気付いたのは37歳のとき。裁判で被害を証明するために教員と対面しやりとりを記録しました。

石田郁子さん(音声)
「先生、覚えてます?」

教員(音声)
「玄関でキスした。」

石田郁子さん
「玄関でしたっけ?」

教員
「そう。」

石田郁子さん
「先生が上になって。」

教員
「はい。」

石田郁子さん
「キスしたり。」

教員
「はい。」

石田郁子さん
「けっこう覚えてる?」

教員
「当り前じゃないですか。」

石田郁子さん
「分かるとまずいとか、あったんですか?」

教員
「クビです。当然、教育委員会にばれたら、俺クビだから。」

教員はこの発言について答弁書で、石田さんが「ありもしない妄想にとりつかれていると恐怖を抱き、言い分をすべて認めて、場を収めることにした」と主張しました。さらに、石田さんが訴えた中学からの行為については、「大学生の頃は交際していたが、それ以前にわいせつな行為などはしていない」としています。そしてきょう、石田さんは一審に続き二審でも訴えを退けられました。

二審は、中学・高校時代にわいせつ行為があったことは認定しました。しかし、石田さんが直面したのは、賠償を請求できるのは20年と定めた“除斥期間”でした。すでにその期間を過ぎているとされたのです。

石田郁子さん
「性的なことと分かることと、性暴力と分かることは別問題。分かるのは時間がかかるので、みんな言い出せないし言いたくない。だから、知られていないだけで。法律とか裁判官とか、いろんな社会の認識が、ただ知られていないだけ。」

責任を問うため 30年ぶりの対面

時間の壁に阻まれ、直接、教員の責任を問わざるを得なくなった女性もいます。
みさとさん(40代・仮名)は、小学生のころ担任の教員から受けた行為が原因で、PTSDと診断されました。今も大量の薬を飲んで生活しています。

みさとさん(仮名)
「自分は汚されてしまって、汚い存在なんじゃないか。心が死んでしまった。」

2年前、同級生の中に、同じような経験をした人がいることを知ったみさとさん。すでに時間が経っていたため、裁判を諦め、元教員に直接謝罪を求める手紙を書いたところ、応じると返事が届いたのです。
返事が届いてから1か月。元教員と面会する日を迎えました。

みさとさん
「今、区切りをつけなければ、これから前に進めない。」

同級生と臨む30年ぶりの対面です。当時30代だった教員は60歳を超えていました。

元担任
「大きくなったね。」

みさとさん
「おかげさまで、なんとか死なずに生きております。何度も自殺はしようと思いましたけども。先生にされたことくらいで死ぬのは悔しいので、頑張って生きてきました。まずは先生の口から、どんなことをしたのか、聞かせていただきたい。」

元担任
「本当に覚えていないんです。記憶にないんです。」

元教員は覚えていないと繰り返しました。

みさとさん
「先生、修学旅行の夜、女子の部屋に1人で入ってこられて、1人1人の生徒の横に添い寝をして、『舌を出してごらん』。キスをして、服を脱がして。」

元担任
「1人1人?」

みさとさん
「乳首を触って、先生も脱がれましたよ。服。『おっぱい大きいね』と、もんでいましたよ。それ、覚えていないのでは、納得ができないんですが。」

元担任
「スキンシップというか、いっぱいあったと思う。抱っこするとか。」

2時間続いた話し合い。スキンシップをしたことは覚えているとした元教員は最後、こう語りました。

元担任
「あまりのことをしてきたんだと思って、ごめんなさい、本当に。」

この日、元教員がみさとさんたちの訴えた行為について、詳細に語ることはありませんでした。

みさとさん
「関われば関わるほど、がっかりすることばかりで、さらに傷が深くなってしまう。どうか、希望につながるような仕組み作りをしていってもらいたい。」

立ちはだかる“時間の壁”

武田:最も信頼できるはずの先生から、性暴力を受け心を殺される。そして、その苦しみを訴える声がどこにも届かない。そんな現状が決して、許されていいはずはないと思います。

合原:しかも、その心の傷が大人になっても消えることなく、苦しみ続けているという現実。本当にあってはならないことだと感じます。改めて見ていただきたいのが、こちらのデータです。

ご紹介した石田郁子さんが支援団体とともに行ったアンケート調査では、被害と認識できるまでに、20年30年と時間がかかるという実態が明らかになりました。その主な理由は…。

“学校の先生を疑う発想がなかった”

“性的なことの知識や経験がなかった”

“被害のとき、その場にいるだけでも精いっぱいだった”

つまり、何が起きていたかすら分からなかった、ということがうかがえます。
では、どうすれば教員からの性暴力をなくすことができるのか。石田郁子さん、そして弁護士や教育行政の専門家など、最前線の現場で活動する4人の方と解決策を考えました。

最前線で活動する専門家が提言

合原
「石田さんは、ご自身も当時はなかなか気付けなかったということなんですけども。」

中学の教員からの被害を訴える 石田郁子さん
「先生と生徒という以外に、大人と子どもという(上下関係)があって、教師がやったりすることで、自分が分からないけど大人はこうするのかなとか、いろいろ自分で想像したり。不快だけど合理化しようとしたりとか、それも先延ばしにして。そういうことが被害認識が遅れることにつながっているのかな、と思います。」

公認心理師 齋藤梓さん
「加害をする人って、すごく巧妙に信頼関係を築きながら子どもに近づいていったり、徐々に体に触ることを増やしていったりする“手なずけ”、“グルーミング”と専門用語ではいいますが、そういうことを行っていきます。信頼感や好意を利用されているという点も、子どもが相手から行われていることを暴力だと気が付きにくい一因になっていると思います。」

被害者を支援するNPO法人の米田さんは、この問題の捉え方を大きく変える必要があると訴えます。

NPO法人 千葉子どもサポートネット 理事長 米田修さん
「まず、この時点で考え方を明確に変えていただきたい。こういった性暴力について、必ず行政は『不祥事』という言い方をする。これは教師の観点から、組織としての不祥事ですけれども、『不祥事ではなく“子どもへの暴力・人権侵害”』であると。」

教育行政が専門の末冨さんが提案したのは、いじめと同じく「定期的なアンケート調査」を行うことです。

日本大学 教授 末冨芳さん
「(子どもは)『こういうことを先生から言われたことがありますか?』とか『されたことがありますか?』と聞かれると、小学校のある程度の学年以降なら『これっていけないことなんだ』と分かりやすい。実はこのアンケートをすることによって、教員の側が『これはまずい』と。特に、子どもたちを手なずけて、隙あらば恋愛関係だというふうに思わせて、自分の欲望を達成したいと思うタイプの教員が、『こういうことが調査されているのは、まずい』と気づくことも同時に大事だと思います。」

公認心理師の齋藤さんは、「人によって被害と感じる程度は、異なることを認識すべきだ」と指摘しました。

齋藤梓さん
「人には心理的、身体的、物理的な“境界線”が存在すると言われていて、例えば、同意なく人の心に踏み入ることって、すごく暴力的ですし、境界線を人の同意なく侵害するのは暴力なんですよってことを、ちゃんと伝えていく必要があると思っています。」

石田郁子さん
「境界線の話が出ましたけど、性教育って『プライベートゾーン(性器や胸など)を大事にしよう』と言うと思うんですけど、(149人の)アンケートを見ていると、『頬ずりをされたのが嫌だった』とか、『体育の授業の延長で水泳を教えるフリをして、足を持たれて嫌だった』とかなので、性暴力はプライベートゾーン以外でも成立するというか、齋藤先生がおっしゃてたように、心理的に境界を越えてくるように、やっぱりそういうことはどういうことなのかということを、やっぱり具体的に教員に研修して。」

“指導”とされ調査打ち切りに

教員からの性暴力。子どもが訴えても被害と認められない、学校や教育委員会の構造的な課題も見えてきました。

中学2年生の香織さんは、PTSDと診断され、3年間、不登校が続いています。きっかけは小学5年生のとき。担任の男性教員から授業中に突然、頭や頬などを触られたといいます。

香織さん(仮名・14歳)
「テストというか、そういうのに集中しているときに触られて。えっと思って、いま何があったんだろうと思って、みたら笑っている感じで。他の子にもやっているのかなと思って、ちょっと見たんですよ。そしたら、やっていなくて。もしかして自分だけやられたのかと思ったら、気持ち悪くなって。メモみたいな感じで、殴り書きで書いたんで。」

その後も行われたという、担任からの行為を記したメモには、“ほっぺたをさわられた”“かみの毛をもまれた”と書かれていました。身の毛がよだつほど、精神的に追い詰められたといいます。

香織さんは担任の行為をやめさせてほしいと、女性の副校長に相談。しかし…。

香織さん
「大げさにうなずいたりとか、メモもしなかったし。本当に聞いているのかなって思わせるような感じだった。改善とか、そういうのもなかったし、ただ話を聞くだけだった。」

香織さんと母親は、校長ら学校側に実態の調査を求めました。

聞き取りに対し、男性教員は次のように主張しました。「算数の問題を解いていたときに、突然、驚いたような声を上げたことがありました。静かに学習に取り組む時間でしたので優しく注意する意味で、こめかみ辺りを一度つついたことはあります」。
教員は、授業中の指導だったとしたのです。

校長は男性教員に対し、“体に接触する指導は行わないように”と、口頭で注意したといいます。クラスメートなどに聞き取ることなく調査が終了し、被害だと認められなかったことに、香織さんは納得がいかないといいます。

香織さん
「大人って、こんなに自分の都合で『(被害が)あった』と言ったとしても、『あれは指導だった、これはなかった、こうしたんだ』って全部片づけちゃうんだなって思ったら、なんか悲しくなっちゃって、まったく信用できなくなりましたね。」

香織さんと母親は教育委員会に対し、踏み込んだ調査を求めました。教育委員会が実施したのは男性教員と管理職などへの聞き取り。その結果、セクハラ行為やいじめ行為に当たらないとしました。学校の見解と同じく、あくまで指導とされ、調査は打ち切りとなりました。

香織さんの母親
「子どもの主張なんか無視。教師の言っているほうを優先して、正しいってされてしまうので、不登校にもなって、大きく被害にあっているのに、なにが“指導”なんだろう。これってはっきり言って、教育的な虐待だよね。」

処分決める教育委員会にも限界

教育委員会が学校の性暴力に対応しようとしても、限界があることも見えてきました。
30年ぶりに元教員に面会し、直接被害を訴えた、みさとさん。当初、みさとさんは教育委員会に、教員の懲戒免職を求めていました。しかし、教員の聞き取りは行われたものの、結局処分されることはありませんでした。当時、教育委員会で対応に当たった担当者は、教員側が事実を認めなければ、処分は難しいといいます。

教育委員会の担当者
「本人(教員)が自分で事実を認めて、そのことが訴えてきた方のものと一致して、初めて事実が認定できたと。警察ではないので、自分たちが証拠集めをするとか、捜査をすることができない。そこに限界があるかもしれません。」

最前線で活動する専門家が提言

どうすれば、訴えた声が被害だと認められるのでしょうか。
公立学校の教員の懲戒処分を決める仕組みです。子どもなどから相談を受けた学校長は、教員らに調査をします。

自治体の規定に基づき、違反行為に当たると判断すれば、市区町村の教育委員会に報告します。重大な事実と判断されれば、都道府県の教育委員会に報告され、懲戒処分とするかどうか検討されます。

石田さんは、こうした“身内が身内を調査”する仕組みに問題があると指摘しました。

中学の教員からの被害を訴える 石田郁子さん
「教育委員会だと、私のケース(と同様)教員と立場が同じで、自治体に雇用されている人という点で全く一緒で、特に調査の方法など知っているわけでもなく。誰かが明確な責任をとるわけでもないのに、とにかく立場を守るために処分をしない。」

石田さんは、教育委員会に弁護士など第三者による調査を求めましたが、却下されたといいます。中立な立場の人たちを入れるべぎたと主張します。

石田郁子さん
「第三者的な相談機関があって、何かあれば保護者なり、子どもがそこに相談をして、何か調査をするときも、その機関が調査すると。」

NPO法人 千葉子どもサポートネット 理事長 米田修さん
「いじめの問題でも、過去、本当に各自治体の被害者の子どもたちや、親御さんも含めて困っていました。いじめ防止の対策推進法ができて、学校の責任も明確になりますし、さらに自治体の責任も明確になって、それでも重大事態の場合は第三者委員会でやるということで、教育委員会以外の自治体の第三者委員会も話ができるようになっております。」

さらに、弁護士の寺町さんが提案したのは、学校内で対応せず、警察への通報を義務づけることです。

弁護士 寺町東子さん
「学校の中での教師によるわいせつ行為とか性的虐待というのが、『児童虐待ですよ』っていうことを、ちゃんと法律で定めて、児童虐待防止法と同じように、その守秘義務を解除して通報義務を課す。(通報された教員は)有罪判決が出るまでは推定無罪ですよ、ということをきちんと守る。」

法整備が必要だと訴える末冨さん。まず変えるべきは、学校教育制度の基本を定めた「学校教育法」だといいます。校長や教員による体罰の禁止については定められていますが、性暴力については触れられていません。

日本大学 教授 末冨芳さん
「子どもに対する虐待や暴力は、子どもの権利がちゃんと位置づいていない社会では常に、やっぱり隠ぺいされる。イギリスでは『子ども法(チルドレン・アクト)』と呼ばれるものを作って、子どもの権利はあらゆる場面、あらゆる場所で尊重しましょうと。そこまでやって初めて、学校の中でも子どもが守られるルールができた。」

米田修さん
「身体的・性的・ネグレクト・心理的虐待についての条項を当てはめて、新しく改正していただきたい。子どもたちの最善の利益をまず優先して、守るべきは国であり、法制度を作るべきだと。(被害者)相談のなかで、本当に身近に感じている。」



※関連記事
学校での “教員からの性暴力”なくすために オンライン・ディスカッション/前編
https://www.nhk.or.jp/gendai/comment/0014/topic033.html

被害をなくすために 最前線からの提言

合原:改めて、こちらが5つの提言です。真面目に子どもと向き合う多くの教員のためにも、こうした対策は必要だと感じました。

武田:この一部を取り入れている自治体もあるそうですね。

合原:千葉県や神奈川県などでは、公立学校の子どもたちに対して、セクハラの実態調査を行っています。また大阪のNPO法人は、各地の教育委員会と教員たちに「子どもが何を不快と感じるのか」などを教えています。

武田:国は、今年度から3年間の性犯罪・性暴力対策の強化の方針を決定し、わいせつ行為を行った教員などへの厳正な処分を、施策の1つとして進めています。私たちは、これらの提言を文部科学省に提出し、今後の取り組みについてこんな回答を得ました。

文部科学省の回答
“教師による児童生徒に対する、わいせつ行為の実態があることは、喫緊の課題であると認識しており、引き続き、各教育委員会に対して厳正な対応を取るよう、周知徹底を図るなど、適切に対応してまいります。”

合原:対策が急がれる一方で今、苦しんでいる方にお伝えしたいのが、性暴力被害の相談を専門に受けている窓口です。24時間、全国どこからでも「ワンストップ支援センター」につながる電話相談は「#8891」です。そして、「キュアタイム」というSNSの相談もあります。ぜひアクセスをしてください。

武田:教員からの性暴力に苦しむ子どもが1人でも、絶対に出ないようにするため、学校現場は変わらなければならないと思います。私たちは、引き続き取材を続けていきたいと思います。


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