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2020年11月4日(水)

米大統領選挙“異例”の投票日
~分断社会の行く先は~

米大統領選挙“異例”の投票日 ~分断社会の行く先は~

11月3日に投票日を迎えるアメリカ大統領選挙。アメリカの行く先を決める歴史的な日になると注目される一方で、各地で混乱も予想されている。支持率で遅れをとるトランプ大統領の支持者たちは、投票日当日、“選挙監視”の名の下に投票所周辺に集結する見通し。一方、バイデン候補の支持者たちも抗議デモを呼びかけるなど不穏な空気が・・・。勝者は早期に決まるのか、あるいは長期に渡るのか。投票日翌日の最新情報を交え、アメリカの今後を占う。

出演者

  • 渡辺靖さん (慶應義塾大学環境情報学部教授)
  • 三牧聖子さん (高崎経済大学経済学部准教授)
  • ロバート・キャンベルさん (国文学研究資料館館長)
  • 武田真一 (キャスター)

勝敗のカギ握るミシガン州で何が?カメラが記録

勝敗の鍵を握る州の1つ、ミシガン州の開票所は異様な空気に包まれていました。大勢の市民ボランティアが、票の集計作業のそばで監視にあたっていたのです。

今回の選挙では、不正がないか、より厳しい目が注がれていました。特に郵便投票の集計では、欄外に記入していたり、印の付け方が不明瞭だったり、本来、無効になるべき票が有効になっていないかチェックしています。

市民ボランティア
「初めて郵便投票する人が多いので、ミスも多い。」
「1票が重複していた。どうやってこのエラーを修復するのか説明がなかった。」

ボランティア団体 副代表 ブレンダ・サベッジさん
「だれにも違法なことをしてほしくないし、問題を起こしてほしくない。有権者の意思が正しく反映されるべきだ。」

今回の選挙で、トランプ大統領が繰り返し訴えていたことがあります。民主党が選挙で不正を企てているというのです。

トランプ大統領
「私の政治生命や、この国の未来を民主党の一味に委ねるなんておかしい。だから投票を監視してくれ。監視することが何より重要だ。」

トランプ大統領の呼びかけに応じてボランティアに参加した、ナンシー・ティシオさん。投票日当日、向かったのは都市部の投票所です。有権者としての資格がない人が投票していないか、目を光らせるといいます。

ナンシー・ティシオさん
「私たちが監視するのは、身分証明書と本人の照合です。身分証明書を持たない人が投票する、そういうことが起きるかもしれない。」

ナンシーさんは、トランプ大統領の経済政策や移民政策など、掲げた主張を次々と実現する実行力を高く評価してきました。今回もトランプ大統領の主張に共感し、選挙そのものに不信感を抱くようになったのです。
早朝から13時間にわたって見回りを続けたナンシーさん。投票に来た人は本当に有権者の資格があるのか、選挙管理人は不正をしていないか、見逃してはいけないと考えています。

ナンシー・ティシオさん
「トランプ大統領が負けるとしたら、不正が行われた時だけだ。ほかに理由はないはず。」

双方の支持者が激しく衝突した今回の大統領選挙。

「ここを動かないぞ!」

「バイデンなんて、ただの老人よ。」

ミシガン州で人種差別の抗議運動に参加してきた、ジョーダン・ウェーバーさん。選挙戦が進むにつれて社会の分断が深まる状況に、危機感を募らせてきました。

ジョーダン・ウェーバーさん
「トランプ大統領になり、人種差別主義者が数多くいる現実を思い知らされました。もし彼が再選されれば、社会の分断は深まる一方でしょう。」

選挙当日、ウェーバーさんはデトロイト市内の投票所でビラを配り始めました。公正な選挙が行われるよう訴えたのです。

ジョーダン・ウェーバーさん
「私たちはここで、すべての票が数えられるように闘っているのです。何かが起こるのではないかと心配しています。」

ウェーバーさんが恐れていたのは、白人至上主義の団体“プラウドボーイズ”などの存在。武力を見せつけて、投票を妨害する可能性があると考えていたのです。

その火種を生んだのは、トランプ大統領の討論会での発言でした。

司会者
「白人至上主義などを、この場で非難しますか?」

トランプ大統領
「どの団体のことだ?」

バイデン前副大統領
「プラウドボーイズ。」

トランプ大統領
「プラウドボーイズ、後ろに下がって待機せよ。」

力で公正な選挙が脅かされてはいけない。ウェーバーさんが投票したのはバイデン候補。民主主義が守られることに希望を託しました。

ジョーダン・ウェーバーさん
「誰がどう言おうと、バイデン候補のほうが少しは事態を改善できると思うのです。」

投票日の夜、ウェーバーさんは仲間たちと切実な思いで開票の行方を見守りました。アメリカの民主主義はどこに向かうのか、不安は尽きません。

ジョーダン・ウェーバーさん
「民主主義は、本当にこの国の生死に関わる問題。この国の分断が私が生きている間に解決できるとは思いませんが、変わるためにはここから始めるしかないです。」

接戦から見えるアメリカ社会の現実

武田:投票日の当日まで、分断の中の異例の選挙を象徴するような光景が繰り広げられたわけですけれども、まだ最終的な結果は出ていません。
ゲストの皆さんは、ここまでの状況を含めて、今回の選挙の何に注目して、どう受け止めているのでしょうか。ロバート・キャンベルさんは、ペンシルベニアにご実家があったということですけれども、「私の1票の行方は?」とお書きいただきました。


ゲストロバート・キャンベルさん(国文学研究資料館 館長)

キャンベルさん:私はペンシルベニア州で投票登録を行いまして、法にのっとって3週間ほど前に郵便投票をしました。私が投票した地区は、ちょうど日本時間の今から集計が始まる予定です。そういう決まりになってます。

武田:まさに当事者でいらっしゃるわけですね。

キャンベルさん:そうです。で、一方では6時間ほど前にトランプ大統領が直接投票、当日の投票以外の票を数えることは詐欺である、アメリカの恥であるというふうに言いつのって、私の1票が果たして開かれ、数えられ、民意の1つとして数えられるかということを、私はこれから見つめなければならないわけです。世界は固唾をのんで今、勝敗の行方を見ようとしていると思いますけれども、私は、私の1票がどうなるのかということはとても心配をしているわけです。アメリカ人として、20歳になって以来、ずっと大統領選挙に1票を投じているわけですけれども、民意とは何か、民主主義とは何かというのを、きょう、この時間ほど、私はちょっと心が穏やかではないというときはなかったんですね。

武田:そして、アメリカの政治外交が専門の三牧さんは、「民主主義のゆらぎ」とお書きくださいました。


ゲスト三牧聖子さん(高崎経済大学 准教授)

三牧さん:平和的に多くの人々が安心して投票権を行使できるというのは民主主義の根幹ですけれども、それがまずコロナという状況によって脅かされた選挙。それに加えて、投票の事前投票や、あるいは先ほども出てきたような、投票所における暴力をちらつかせる、ああいった集団によって、安心して投票できる権利というのが脅かされた。そしてトランプ大統領は、投票日のきょう(4日)直接投票で表明されたものが民意であるとして、伝統的に使われてきた、そして今回コロナ禍で非常に多くなっている郵便投票というのは不正である、本当の民意ではないと言う。何を民意とみなすか、非常に基盤的なところで両党対立している。アメリカという国は世界に対して、民主主義を誇ってきた国ですけれども、その国で民主主義が揺らいでいるということで、こちら提示させていただきました。

武田:そして現代アメリカ論が専門の渡辺さんは、「相互不信」。


ゲスト渡辺靖さん(慶應義塾大学 教授)

渡辺さん:先ほどのリポートを見ましても、相手がずるをしているんじゃないかということで、すさまじい疑心暗鬼の念にかられていると思うんですよね。本来、選挙というのはこの民主主義の象徴であるはずなんですけれども、まさに相互不信の象徴になっているという印象を強く受けますね。

武田:まさに今回の選挙というものが、お互いの不信感というものを増幅したという面もあるわけですね。

渡辺さん:そういう念を強くします。

武田:現地時間の深夜ですけれども、バイデン候補は、すべての開票が終わるのを待つべきだという考えを示しました。これに対してトランプ大統領ですけれども、その後、演説をしまして、郵便投票などの集計作業が今後も続くことに不満を示し、法廷闘争も辞さない構えを見せました。

両候補の受け止めは

バイデン前副大統領
「われわれは今回の選挙で勝利に向かっている。かつてないほどの期日前投票や郵便投票があった。(集計に)時間がかかる。いま懸命に集計が行われているので、辛抱強く待とう。すべての票が集計されるんだ。」

トランプ大統領
「これはアメリカ国民に対する詐欺だ。国にとっての恥だ。率直に言って、われわれは今回の選挙に勝利した。われわれは法律を適切に運用してほしいので、連邦最高裁判所まで争う。法律によって投票を止めてほしい。」

現在の情勢について、共和党に強い影響力を持つと言われる保守系ロビー団体の代表は…。

保守系ロビー団体 グローバー・ノーキスト代表
「大統領の勝利が確実に近くなってきていると思います。世論調査では民主党が7%、8%、9%などのリードで勝つというふうに言っていました。でも、そうはならないでしょう。人種に基づいて皆が投票すると思っていたんです。キューバ、メキシコ、いろいろな中南米の人たちがアメリカに来ていますけれども、共和党、あるいはトランプ大統領に対して、ずっと好意的です。民主党はそうは思っていませんでしたけれども、人種に基づいて、皆がある特定の候補に投票すると考えるのは民主党の考え方ですけれども、これは破壊的で間違っていると思います。」

どちらが勝利?注目のポイントは

武田:共和党側は大統領のリード、そして勝利への確実性が深まったと自信を深めていますけれども、今の内容をどうお聞きになりましたか?

渡辺さん:共和党としては、前回の大統領選挙で投票率が55%だったんですね。ということは、45%の人は投票をしていないと。本当に数が少ない浮動層の数%をねらうよりは、この45%の中から経済、社会、それから安全保障も含めて、こういう保守的なメッセージを共有しているような人を、どんどん掘り起こそうとした。そのために大規模集会を開き、そして個別訪問をデータを積極的に活用しながら行って、その結果、今回、世論調査よりはるかによい結果を出しているということなのかなと思います。

武田:今回は過去最高と言われる67%の投票率になるという見通しもありますけれども、保守系ロビー団体の代表は、民主党の思惑が外れたんだというようなことも強調していましたね。

渡辺さん:例えば、アメリカはミドルクラス以上の人ですと結構、資産運用を行っている方が一般的なんですね。そういった方々からすると、このコロナの影響はあったけれども、株価というのはコロナ以前の状況に戻っているということになって、しかも最近GDPや失業率の数字も大幅に改善しているということであれば、やはり人種とかということではなくて、むしろ経済的な、要するに現実的な観点から、トランプ氏のほうがいいだろうという判断を下したということが言えるんじゃないかなと思いますね。

武田:キャンベルさんは今の両候補の発言、それから今回の選挙がもたらしたものを、どうご覧になっていますか?

キャンベルさん:私は1つは、非常に分断の溝が深まるばかりであるということを、本当に4年前のきょうとほぼ同じ構図を描いているということに、少なからず驚いているといいましょうか。地滑り的な勝利を、どちらもできないということは予測はしていましたけれども、4年前のときとほぼ同じ場所で、同じ色、赤か青かということが決められているわけですね。郊外に住む女性たちがバイデン氏に流れ、トランプ氏が、先ほど渡辺さんがおっしゃったように、白人の労働者たちの掘り起こしに成功していることがあって、補完し合っているわけですけれども、基本的に構図は変わらない。
ということは、この1年間のしれつな政治的な闘争、人命の喪失、つまりコロナによる経済の打撃。それから人種間の大変な衝突、行動、反省ということは何であったのかということは、やっぱり問わなければならないと思うんですね。
これほど大きく揺れるこの1年間、あるいは半年間のアメリカの状況の中で、政治的な分布図というものが4年前ともう微動だに変わらない、ほとんど変わらないということは、それほどまでに溝が深く刻印されているという。アイデンティティーが同じ国の中に2つ、異なる、相並ばないものとして確立をして、確定をしているということを、今の状況で見ているわけですね。

武田:三牧さんは、今回の選挙がもたらしたものをどうご覧になっていますか?

三牧さん:分断という話が出ましたけれども、客観的には、20万人超の新型コロナの感染死者数、感染者数においても、世界でもナンバー1になってしまっているということで、非常にひどい状況があるわけなんですけれども。こうした新型コロナの深刻度だったりとか、あるいは現在のそのことによる経済的な打撃、これに関して共和党支持者と民主党支持者で、本当に評価が完全に分かれてしまっている。基本的な現状認識というものが今、共有できなくなっている。
そして今回の選挙は、郵便投票が新型コロナ感染のために非常に多くなっています。そして新型コロナ感染を深刻に考える民主党が多く使っていると見られていますが、こうした伝統的に使われてきた手法ですら、郵便投票というのは不正の温床であると。アメリカの民主主義選挙制度を、政治的な闘争、不信の種をまく形で使われて党派の道具にされているという。非常に分断が深刻化していると思います。

武田:混迷を極めているこの大統領選挙なんですけれども、今後の行方はどうなっていくのか。現在の開票状況をここで見ていきたいと思います。現在、両候補が獲得した選挙人はトランプ大統領が213人、そして民主党のバイデン氏が225人となっています。過半数は270人です。

残りは9つの州で、選挙人の数で言いますと100人ということになりますけれども、渡辺さんはこのあとの展開、どこに特に注目されていますか?

渡辺さん:まずはアリゾナ州ですね。ここでは、バイデン候補が今のところリードしていると言われています。もしここを本当にとると、いわゆる決戦の舞台となる中西部、ラストベルトにおいて、少し戦い方に余裕が出てくると。例えばペンシルベニア州を仮に落としても、ほかにどこか1人選挙人をとってくれば、ぎりぎりですけれども270に到達すると。そのあととしては、もうアメリカ時間の今ごろから郵便投票が次々と集計されていくと思いますけれども、この中西部のラストベルトでは、若干、郵便投票が今週末、あるいは来週以降まで長引くかもしれない。その過程の中で政治闘争とか、あるいは法廷闘争といったことが主戦場になっていくかもしれないというふうに思います。

武田:その注目のペンシルベニア州ですけれども、現在、開票率は推定で75%。トランプ大統領がバイデン氏を少しリードするという形になっていますね。

渡辺さん:そうですね。ここにいわゆる郵便投票分が加算されていくと、郵便投票は総じて民主党が多いというふうにされていますので、これがだんだん青が優勢になっていく可能性もあるということですね。

武田:今後、アメリカはどうなっていくのでしょうか。ここで、ワシントンで取材に当たっている河野総局長と中継がつながっています。先が見えない展開ですけれども、いつ決着がつくのか。そして、現地ではどんな見方が広がっているんでしょうか?

河野憲治総局長(アメリカ総局):まだ決着のついていない州ですけれども、このあと、郵便投票で到着するものの、開票をこちらのあす(5日)以降に行うとしているところもあります。主要メディアが各州での勝敗を判断して、大勢判明を打ち出すのは、早くても2~3日はかかるんじゃないかという見方も出ています。これに対してトランプ大統領は、「連邦最高裁に訴えて開票作業を止めさせる」というふうに発言をしています。専門家は、法的な根拠は疑わしいとしていまして、各州の選管はそのまま開票を続ける見通しです。

仮にトランプ大統領が法廷闘争に訴えた場合、裁判はいくつかの州レベルで争われるということになると見られていますけれども、場合によっては、連邦最高裁までもつれ込むことも考えられます。また、裁判が長期化し、選挙人が決まらないということになりますと、およそ200年ぶりという連邦議会での決選投票に持ち込まれることすら取り沙汰されています。
このようにいろいろなシナリオが想定され、アメリカはまさに、海図のないまま漂流するような状況になるかもしれません。

“分断のアメリカ” 今後は

武田:選挙の結果がいつまでも決まらないという、こうした異例の状況が続きますと、アメリカには今後どんな混乱が待ち受けているんでしょうか?

河野総局長:社会的にも政治的にも、極めて不安定な時期を迎えるということになると思います。しかも、法廷闘争の結果次第では、双方の支持者による抗議デモが激しくなって、緊張が高まる事態も考えられます。選挙に向けて一層深まった社会の分断は、選挙後の政治的な混乱、そして対立の中で、さらにその傷口を広げるということになりかねません。
今、アメリカが抱える最大の課題は、再び感染が拡大している新型コロナウイルス対策と、落ち込んだ経済の立て直し、そして人種差別問題などをめぐって分断を深める社会の融和です。中でも新型コロナ対策については、世界最高の医療技術を誇る国でありながら、最も多くの犠牲者を出してしまっていることに、国民の間では政府の統治機能が働いていないのではないかという不信感が強まっています。もし、このまま混乱が長引けば、どちらが勝利するにせよ、新たな政権への準備が十分にできないという事態も考えられます。

“分断のアメリカ” どう乗り越えるか

武田:これからアメリカはどうなっていくのでしょうか。アメリカが直面している課題と、両候補がどのような未来を目指しているのか、まとめました。

あらゆるテーマで2つの見方や立場が対立している状況なわけですけれども、こうしたアメリカの分断というものを、果たして乗り越えていけるのか。鍵となるのは何なのか。キャンベルさんはそのキーワードとして、「『根拠』を共有できるか?」と。

キャンベルさん:今、アメリカが置かれている状況というのは、党派のレンズを通してしか現実を捉えることができないという状況なんですね。例えばコロナの発症者たちが、毎日、例えば9万人を超えて、第3波が激戦州を中心に訪れているのに対して、大統領が「もう収束に向かっている」というふうに言い、科学的な根拠を軽視するというところがあります。
今、見ていただいている右と左、赤と青というのは、これは二項対立として背反するものではなくて、もともと深くつながって相関していることとしてあるわけですね。人種間の差別や貧困問題、これは防衛の問題もそうですけれども、法律と秩序、あるいは平等ということではなくて、一緒にどういうふうに解決できるか。そのために、同じ事柄を事柄として認識する必要があります。今の政治のあり方は、インターネットを中心とする私たちのメディア環境というものが土俵というものを(作っている)、まず土俵作りからして、非常に対立をしながら議論をするということを困難にさせているわけですね。誰が勝っても誰が負けても、来週あたりから温和に解決したとして、どういうふうに溝を越え、どこに解消する種がまかれているのかということを考えて、育てていかないといけないと思います。

武田:そして三牧さんは今後のポイントとして、「弱さと向きあえるか」。

三牧さん:今回のこの選挙において、民主主義国としてのアメリカのもろさというものが前面に出ていますし、もう少し長期的に見ると、新型コロナでアメリカのもろさ、社会保障制度のぜい弱さが非常に見えた1年だったなというふうに感じています。そこで今、両候補の政策が本当にきっちり分かれているんですけれども、しかし最後の「外交政策」に関しては、今回の大統領選挙を少し思い出してみると、外交政策に関する議論というものがほとんど不在。産業政策と関連して、少しパリ協定について議論されるぐらいで、ほとんど世界というものがアメリカの政策論争というものから無くなってしまったという、そこにも一つ、今回の大統領選挙の特徴があったというふうに思っています。

そして、今回バイデン候補の国際協調の訴えが、実はあまりアメリカの人々の心には正直、私は届いていないように見えました。他方、私たちも日本も含む世界にとって、今後トランプ大統領のアメリカ第一主義の外交が続いていったら、もうこのあと4年はもたないと思うんですね。そういったところで、私たちがここで国際協調にアメリカを戻していくための一つのキーワードが、この「弱さ」。新型コロナ感染など、さまざまな弱さが見えているアメリカにとって、今、国際協調というのは、アメリカにとって必要なのではないかという、アメリカの国益を世界と関連づけて再定義する。そして、若い世代というのは今、自国アメリカに対する肯定感が低いというふうに言われていますけれども、そういった自国の弱さを見つめた次の世代によって、アメリカが1つにまとまって、弱いアメリカを立て直して世界と結びなおすという作業をしてほしいという期待を込めて、このように書かせていただきました。

武田:そして渡辺さんは、「忘れられた人々」。

渡辺さん:まだ最終結果は出ていませんけれども、少なくともきょうまでの状況を見ると、やはり世論調査よりもトランプさんは健闘していると思うんですよね。それでトランプさんを語るときに、よく「民主主義の破壊者」というふうに語られることがあるんですけれども、しかし、今の政治に完全に取り残されたような感覚を持って、しらけていた人にとっては、このトランプさんという存在は、多少荒々しい存在ではありますけれども、彼を通してまたこの政治の回路の中に戻ってくることができたと。彼らにとってみれば、トランプさんというのは「破壊者」ではなくむしろ「救世主」なんだと。なぜ彼らがこういう思いを持つようになったのかということは、やはりいわゆるリベラル派と言われる人たちも、もう少し謙虚に耳を傾けて批判することで、道義的な高みに自分を置くのではなくて、まずは寄り添って耳を傾けていくという姿勢が、今、やはり重要なのではないかというふうに思いました。

武田:いずれにしても、まだアメリカ大統領選挙の結果は出ていません。これから開票作業がどうなるのか。そしてアメリカがこの選挙を経てどこに向かっていくのか。私たちも注視していきたいと思います。

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