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2020年10月21日(水)

「病院、我慢します」
~コロナ禍で増える“メディカル・プア”~

「病院、我慢します」 ~コロナ禍で増える“メディカル・プア”~

病気を抱えているのに経済的な理由で受診を控え症状が悪化、最悪の場合は死に至る・・・。“メディカル・プア”と言われる問題が新型コロナの中で増え始めている。全日本民医連の最新調査では、2月下旬以降、700以上もの、新型コロナが原因での事例が明らかになった。 しかし、これは氷山の一角に過ぎないと専門家は言う。継続的に診療が必要なのに病院に行くのをやめたり、つらい症状を家で我慢した結果、倒れてしまうというケースは、かつては単身者に多かったが、家族で暮らしている場合でも、新型コロナで配偶者の収入が減った結果、家計に負担をかけられないため病院に行けないというケースが今、増えているのだ。 そんな中、一部の病院が力を入れているのが「無料低額診療」という取り組みだ。生活保護を受給できない困窮者が、無料、もしくは低額の負担で治療を受けられる福祉制度で、これによって命を救われた患者も少なくない。しかし適用される収入の範囲が狭いだけでなく、「使える病院が少ない」「治療費は病院の持ち出し」など課題が多く、病院側が断念するケースも出てきた。 これまで健康格差が少ないとされ、「国民誰もが医療を受けられる」はずの日本で何が起きているのか。番組では、受診控えをする人を見守る新たな取り組みなども踏まえながら、新型コロナの中で行われる病院のもうひとつの闘いを伝える。

出演者

  • 宮田裕章さん (慶應義塾大学教授)
  • 吉永純さん (花園大学教授)
  • 武田真一 (キャスター) 、 合原明子 (アナウンサー)

「病院、我慢します」 いま広がる“メディカル・プア”

神奈川県に暮らす、パート社員の田中雅美さん(仮名・40代)。6月、脳の血管に病気が見つかりました。しかし、みずから医療費を出すことが難しいといいます。

田中雅美さん
「手の震えが止まらなくなって、それでおかしいと思って病院に行った。」

以前は派遣社員の夫と共働きで月30万円の収入がありましたが、田中さんは病気で働けず。さらに、夫の収入も新型コロナの影響で激減しています。


「先月(の収入)は6日で6万円弱です。家賃は7万円ちょいです。だからそれより少ない。そういう中で今度は入院になって。」

自己負担の額は24万円。小さい子どもを抱えながら治療できるのか、不安が募ったといいます。

田中雅美さん
「先生かな、いくらかかっているっていう話をしてたんで、その金額が結構高かったんですよ。だからとっとと治して働かないとという感じですね。」


「(特別定額)給付金とかがあったんで、なんとかつなぎあわせてもっている感じ。きつくて、先の収入のあてがない状態。(医療費を払う)めども立たない。」

病院に行くのをためらったことで、危険な状態に近づいてしまった人もいます。高橋花子さん(仮名・52)は、ぜんそくの症状が出ていましたが、1年以上受診を我慢していました。

高橋花子さん
「息が全然できなくなっちゃって、苦しくて苦しくて。階段も上り下りできないし、寝ることもできなくなっちゃって。市販のぜんそくのお薬を買ってごまかして、少し楽になってっていうのを繰り返していましたね。」

しかし、ついに我慢が限界に達した高橋さんは近くの診療所を受診。診察した医師は、その症状の悪さに驚いたといいます。

浜松佐藤町診療所 医師 水谷民奈さん
「何でここまで悪くしてしまったのかなと疑問に思いました。ここまで苦しい方は(大きな病院への)紹介状をお書きするんですけど、『行った方がいいですよ』と言っても『行きたくない』と。『なんとかここのお薬で我慢したい』とおっしゃっていたので。」

そこで、診療所の相談員が高橋さんの生活状況について聞き取りを行いました。

高橋花子さん
「(仕事が)決まりかけたんですけど、飲食店なんで(店の)予約がキャンセルが続いて、待ってくれってなっちゃいました。」

高橋さんの月収は10万円前後。その仕事も、病気の悪化で辞めざるをえませんでした。保険料を納められず健康保険証も失効。高橋さんは、自分は病院に行く資格がないのではないかと思い詰めていました。

高橋花子さん
「私はその資格がないと思ってました。恥ずかしい話、税金も払えない、保険料も払えないから保険証を取り上げられる、銀行も止められている。義務を果たしていない人間が、そんなの受けちゃいけないっていうか。」

生活苦により治療を受けない“受診控え”。この夏、その実態を明らかにしようと病院や薬局などが加盟する団体が調査を行いました。その結果、新型コロナで収入が減り、医療費を払えないという相談が727件集まりました。失業した人や非正規労働者など、若い世代にも広がっていたことに驚かされたといいます。

全日本民主医療機関連合会 事務局次長 山本淑子さん
「40~50代の働く層で、1人暮らしの方が圧倒的に多い。今までの病院に通えなくなったり、具合が悪くても受診ができなくて我慢していたり。」

調査で把握できるのは、最終的に病院に来られた人だけ。人知れず受診を我慢し続けている人は、さらに多いと見ています。

山本淑子さん
「最近すごく悪くなって救急搬送される方多いよねって、現場の医者や看護師が気づいた声で、大変なことが起きているんじゃないかというのに気づいたんですよね。本当に私たちがつながれた事例というのはごく一部であって、まだ氷山の一角だろうなというふうには思っています。」

コロナ禍で多くの人に忍び寄る“メディカル・プア”。命と健康を守るにはどうすればいいのでしょうか?

“メディカル・プア” 命と健康 どう守る?

武田:コロナ禍による困窮で、病気の治療を諦めざるを得ないという事態は、決してあってはならないと思います。合原さん、生活苦で受診控えにつながるという実態は、どこまで明らかになっているんでしょうか?

合原:全日本民医連に加盟する医療機関などでは、新型コロナによって生活が困窮し、医療費の相談をしている例が700件以上ありました。さらに、主に生活困窮者を支援している、NPO法人とちぎボランティアネットワークによりますと、緊急事態宣言が出た4月以降の相談の中で、実に5人に1人が医療費や健康に関する不安を訴えました。

このように見ても、コロナ禍で持病がある人が治療をためらっている実態というのがうかがえるんですが、これはあくまで相談に来た方の数字です。潜在的に、同じ状況の人はもっといる可能性が高いといわれています。

武田:コロナ禍の中で医療のあり方について考えてこられた宮田さんはこの“メディカル・プア”の問題どういうふうに捉えていらっしゃいますか。

ゲスト宮田裕章さん (慶應義塾大学医学部 教授)

宮田さん:こうした問題を考える中で、今、重要だと世界中で考えられるようになってきているのが、「健康の社会的決定要因=SDH(ソーシャル・デターミナンツ・オブ・ヘルス)というものです。

例えば、アメリカでアフリカンアメリカンとほかの人種で、遺伝的にはコロナによる死亡率の差はないはずだったんですが、これが例えば糖尿病、いわゆる周りに肥満の人たちが多いと、やはり肥満になってしまう。周りに喫煙者が多いと、その人もすってしまう。これだけではなくて、困窮する中で働きに出ざるを得ない、あるいは医療にかかってから治療を受けるまでタイムラグがある。こういうものが重なって、死亡率が2倍以上開いたと。これにアメリカは「ブラック・ライブズ・マター」として向き合っているんですけれども。こうした格差は日本にも確実にあるということですね。今回の話で言えば、困窮の中で医療を受けられないということだったり、あるいは「病院に行く資格がない」とおっしゃっている方がいましたが、そういった偏見に阻まれて、かかることができない。これは決して自己責任ではなくて、社会全体として解決しなくてはいけない問題だというふうに思います。

武田:そしてもう一方、生活困窮者の支援のあり方について研究されている吉永さん。長く市役所にも勤め、現場の実態を見てこられたということですけれども、今お話がありましたように「病院に行く資格がない」とまで考えてしまう。そんなことはないと強く申し上げたいと思うんですけれども、どうお聞きになりましたか?

ゲスト吉永純さん(花園大学教授)

吉永さん:非常に心が痛みました。やはりコロナというのは災害なので、自己責任とは無縁だと思うんですね。もうひとつ、コロナというのはいわゆる低所得の方に非常に打撃を与える、たちの悪いところがありまして、テレワークができない方とかステイホームができない方、世帯で言えばひとり親の方とか、業種で言えば飲食業とかタクシーの運転手さん、こういう方に非常に打撃を与える。それによって医療が保障されないというのは、あってはならないと思います。

武田:どうしても困ってしまって、生活保護という手段もあるんだと思うんですけれども、そこはやはりなかなか壁が大きいんでしょうか?

吉永さん:医療保険が難しくなれば、生活保護がありますよという建前になっているんですけれども、ただ、やはりハードルが高い。
いくつか理由がありまして、1つは生活保護を受ける際に、貯金を認めていない。だから丸裸にならないと受けられない。
2つ目は、自動車の問題が大きいわけです。特に地方では足になっていますので、自動車をとるか生活保護をとるかという。例外的に1年間猶予措置がある場合がありますけれども、その問題は大きいと。
3つ目は、住む家があれば受けられないという「誤解」です。持ち家があれば受けられないというのは違っていて、それほど広くなければ受けられるんですけれども。その辺りが相重なって、ハードルが高くなっているというふうに思います。

武田:医療費がないからといって、すぐに生活保護というふうには…。

吉永さん:そこが非常にギャップがあると。

合原:そうした“メディカル・プア”に陥った人のために、国と医療機関によるセーフティーネットがあります。それが「無料低額診療」なんです。患者が一定の条件を満たせば、無料あるいは少ない負担で診療が受けられます。どんな制度なのか、取材しました。

「全ての人に医療を」 現場の取り組み

「無料定額診療事業委員会を始めたいと思います。」

この日、都内の病院で、患者に適用した「無料低額診療」の報告が行われていました。

「30代の男性の方で、胃腸炎と過敏性腸症候群で、3月の新型コロナの第1波の時に、会社が業績不振になってリストラにあったと。とても医療費が払えないということで、無料定額診療事業の対応とさせて頂きました。
11ページは、入院の症例です。ホテルのベッドメイクの仕事をしていたんですけれども、営業自粛で隔日の午前中だけの勤務になって、給与は3分の1程度。」

無料低額診療は、経済的に厳しい人が、一定の条件で無料や低い自己負担で病院に行ける制度。実施している施設は700程度と少なく、そのほとんどで収入が生活保護基準の1.2倍を超えると認められません。厳しい条件ですが、利用者は増えているといいます。

中野共立病院 医療社会課 課長 渋谷直道さん
「4月からの統計ですけども、(前年度比)1.5倍から1.7倍程度で推移している。高齢者層や派遣社員など、非正規雇用の方々が(医療費を)ご心配される症例が多くなってきた。」

この制度の適用を受けている、山田和子さん(仮名・82)です。高血圧やぜんそくなどの持病があります。山田さんの収入は、ギョーザ店のパートと夫婦の年金で月15万円ほど。夫は脳出血で右半身がまひし、要介護3。月2回のデイサービスが欠かせません。

こうした中、山田さんは、持病の医療費が払えないと診療所に相談しました。

山田和子さん
「(過去には)支払いを待ってもらったり、薬代も支払いを後にしてもらって。」

貯金が残っていたため、生活保護は認定されませんでしたが、無料低額診療は適用されると認められたのです。みずから相談したことがきっかけで、自己負担0円で通院ができるようになりました。

山田和子さん
「とにかく感謝しきれないですね、病院には。私の場合は(今後医療費が)かかってきますもんね、ぜんそく、血圧。今の生活で1~2万円かかったら、かかれないですね、病院。」

しかし、無料低額診療などの制度を知らず、みずから相談に行かない患者も多いといいます。
人知れず我慢を続ける患者を受診につなげるにはどうすればいいか。宇都宮市の診療所が、3年前から、ある取り組みを始めました。ソーシャルワーカーと看護師が、しばらく受診していない人を訪ね、体調や生活の相談に乗る活動です。

宇都宮協立診療所 社会福祉士 日下部実さん
「今から行くのは、気になる患者さまの地域訪問をさせていただく予定です。受診の期間があいてる方は心配なので。」

受診を控えているうちに症状が悪化すれば、医療費が高額になるだけでなく、最悪、死に至る可能性もある。そうした危険を減らそうと、月1回ほどのペースで診療所側からアプローチをしています。
まず訪ねたのは、糖尿病で診療所を訪れたものの、そのあと8か月間、治療に来ていない男性です。

日下部実さん
「こんにちは。」

宇都宮協立診療所 看護師長 前田弘子さん
「協立診療所です。…ちょっと窓のほうを回ってみますか。」

日下部実さん
「そうですね。」

前田弘子さん
「生活はされてる感じですかね。」

男性は薬も飲まず、糖尿病を放置していると見られます。悪化し、合併症が起きる恐れもあります。

「お会いできないことも多いんでしょうか?」

日下部実さん
「けっこうありますね。来たことが分かるようにメモとか残したり、メッセージを置いて戻ります。」

前田弘子さん
「病気が何に起因しているかというと、心だったり生活だったりに起因している人がすごく多くて、その辺から診ていかないと、根本的な病気の解決にならない方が増えていると思います。『助けて』という声が出しやすい、そういう医療機関でありたいなと思います。」

次に訪ねたのは、最近、受診が遠のいている50代の女性。1人暮らしで、孤立が心配されています。

前田弘子さん
「こんにちは、様子見に来ちゃった。どう?心配で。今だって半袖短パンだよ、寒くないかい?寒いでしょう。」

女性は関節痛などの持病で働くことができず、生活に困っているものの、誰にも相談していないようです。

前田弘子さん
「ちょっとあげてもらっても大丈夫?身の回りのものとかあるのかなと思って、心配で。ごめんね。じゃ、お邪魔するよ。」

ソーシャルワーカーは、趣味などの話を交えながら、相談しやすい雰囲気を作っていきます。

日下部実さん
「自分で作ったマスクをあげましょうかって、頑張っているんですよね。」

前田弘子さん
「すごいね、いっぱい作ってあるじゃない。すごいすごい、上手よ。」

日下部実さん
「お元気そうでよかった、表情が。」

前田弘子さん
「何か困ったことがあったら、また連絡してもらって、相談に乗らせていただいて。よろしくお願いします。」

面談は30分以上にも及びました。この1時間後、女性は久しぶりに診療所を受診。関節痛の薬を受け取りました。地域に踏み込むこの活動は、今のところは手弁当。しかし、続けていく必要があると診療所は考えています。

宇都宮協立診療所 所長 軽部憲彦さん
「負担じゃないと言えば嘘(うそ)になりますけど、放っておくと、もっと医療費がかかってしまったり、もっと重症化して苦しまれる方がいるわけなので。早めに治療して対応していくというほうが全体的にはいいことではないかと。」

誰にも相談できず、孤立する患者たち。私たちは、どう寄り添えばいいのでしょうか。

“メディカル・プア”を減らすには?

合原:無料低額診療ですが、この事業を行うかどうか決めるのは、各医療機関になります。医療機関が負担する形で、患者さんを無料や低額で診療します。そのかわり、医療機関は国や自治体から税金の一部が免除されるなどの優遇措置が受けられます。ただ、結果的に医療機関の負担が大きくなることも多いという指摘もあります。

全国で実施している医療機関は700程度あります。詳しく知りたい方は各都道府県にお尋ねください。自治体のホームページに掲載されている場合も多くあります。また、全日本民医連の各都道府県の事務所でも相談を受け付けています。手おくれになる前に、ためらわず相談してください。

武田:患者さんにとっては大変心強い制度だと思うんですけども、吉永さんは、どんな意義があるとお考えですか?

吉永さん:先ほど申し上げました制度のはざまの医療を受けられない方にとって、命綱になっているというのが大きな意味がありますし。一方で外国人の方、在留期間が3か月以内の方や在留資格そのものが無い方にとっては無料低額診療しかありませんので、そういう意味では非常に貴重な制度だと思っています。

武田:生活保護を受けるよりも、もっと早く簡単な手続きで受けられる?

吉永さん:やっている病院にたどり着けば、何とかなると思います。

武田:一方で課題もあるんですね。

吉永さん:まず、どれくらい減免されるかがよく分からない。これは制度の仕組みとして、あとで医療機関に税金で補填されるというものになっていて、そこをやはり自己負担分を補填するような、もっと分かりやすい制度にする必要があるかなと思います。

武田:患者さんもいくら安くなるのかが分からないと、なかなか受診しようということにならないということですね。

吉永さん:2つ目には、700か所といいますけれども、全医療機関の0.4%にしか過ぎないんです。ですからアクセスの問題、特に地方ではこれも難しいところがあると思いますね。
3つ目には、薬局の薬代に適用がないということ。院内処方といって病院で出していただけたらいいんですけれども、そうではない場合には適用がないと。そういう問題がいくつかあると思います。

武田:病院に行ったはいいけど薬がもらえない。病院側の負担という点はどうなんでしょうか?

吉永さん:それはいったん持ち出さないといけないので、コロナの中で医療機関も経営が厳しいという状況がありますので、なかなかそれで踏み込めない医療機関もあるかなと思います。

武田:やはり直接、税金ではなくて、負担した分を補填すると?

吉永さん:1割負担、3割負担を直接補填するという分かりやすい制度にする。経営上もそのほうがいいと思います。

合原:その無料低額診療に加えまして、孤立する患者に医療機関側からアプローチする活動も紹介しました。こうした取り組みは「社会的処方」と呼ばれます。例えば、患者を医療につなげるだけではなくて、地元の活動などにつなげることで、地域ぐるみで病気を改善していこうとするものです。

今はまだ一部の医療機関や手弁当でやっている状態なんですけれども、ことし(2020年)6月には、厚労省も医療費の抑制にもつながるとして推進を決めていまして、今後こうした取り組みに新たな手当を支払うことができるかも検討していくとしています。

武田:患者さんの生活や心に働きかけていくんだということばがありましたけども、医療の側から働きかけることで、患者さんの健康、それから増大する医療費の問題にも対応できるんじゃないかなと思いましたが。実現するにはどう進めていけばいいんでしょうか?

宮田さん:やはり、制度自体を知らないのでアクセスできないということだったり、あるいは偏見に阻まれてしまう。そのときに手を差しのべる、これは非常に有効な方法だと思います。ただ、紹介されていたように、手弁当、自己犠牲の上ではやはり持続しないんですよね。このコロナのときも、新型コロナ(感染患者)を率先して受けた病院が赤字になってしまうというケースが多く報告されましたが、やはり構成員の自己犠牲のみに頼るのではなくて、持続可能な仕組みをどう作っていくかが大事だと思います。医療も、これまでは病気になるまで待つという仕組みに重きを置かれていたんですが、これからは社会全体、高齢化社会の問題を解決していく上では、地域の健康そのものを支えていくという考え方が必要ですし。そのときに費用対効果も含めて科学的に評価をしながら、そして1人の医師だったり医療者だけに背負わせるのではなくて、地域全体チームで支えていく、こういうような仕組みも必要になるかなと思います。

武田:コロナ禍の中でも1人も医療からこぼれることがないようにしなければならないと思うんですが、吉永さん、何が必要なのでしょうか?

吉永さん:やはり私は、貴重な無料低額診療事業をしっかり患者の皆さん、地域の皆さんに知らせるというのが一つ大事だと思うんですね。それからコロナは災害だと思いますので、東日本大震災のときに、医療保険の自己負担分を減免するというのを県単位でやってるわけですけれども、それを今回もやる必要があるかなというふうに思います。
それから、生活困窮者自立支援制度の中には医療保障がないわけですね。現金は辛うじて住居確保給付金があるんですけれども、そこに医療保障を組み込むということを考える必要があるというふうに思います。それから、生活保護ももっと柔軟に運用をしっかりやると。国は通知を出していますので。福祉事務所がしっかりと受け止めていただく必要があるかなと。

武田:宮田さんはいかがでしょうか?

宮田さん:必要なタイミングで必要な人々に、そして必要なサービスを届ける。これがまさに今より一層重要になってきています。給付金でまさにこの問題が明らかになったんですが、ドイツが数日で配り終えたものを、かなり時間がかかって1,500億使ってしまったと。さらに、もしデータがあれば、必要な人たちに一人一人寄り添っていくことができたかもしれない。まさに今までは、一律にものを配るということが国の仕事だったんですが。データを適切に活用することで一人一人に寄り添い、誰も取り残すことがない、こういう世界を目指せるようになったんですよね。デジタル化ということが今、社会的な課題になっているんですが、既存の仕組みをパッチワークで作っていくのではなくて、誰も取り残すことがないというところから新しい社会を考えていく、きょうのこうした問題と向き合っていくことが非常に重要なのかなと思います。