クローズアップ現代

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2020年10月7日(水)
あした介護が受けられない ~コロナ長期化が生む“介護の空白”~

あした介護が受けられない
~コロナ長期化が生む“介護の空白”~

新型コロナの影響が長期化する中で、これまで利用していた介護が受けられなくなる“介護の空白”が、高齢者やその家族の暮らしを揺るがしている。介護サービスを提供する事業所が感染対策を迫られる中、「発熱したら帰宅」「県外と行き来のある家族がいたら利用停止」などの条件が課され、従来の介護サービスを受けられなくなるケースが相次いでいる。介護を担う家族の負担が増え、介護疲れも深刻化。感染対策の負担から経営難に直面する介護事業所も増加している。感染対策とケアを両立しながらどのように高齢者の暮らしを守っていくのか、新たな時代の介護のあり方を考える。

※放送から1週間は「見逃し配信」がご覧になれます。こちらから ⇒https://www.nhk.jp/p/gendai/ts/WV5PLY8R43/

出演者

  • 早坂聡久さん (東洋大学ライフデザイン学部生活支援学科 准教授)
  • 宮田裕章さん (慶應義塾大学医学部 教授)
  • NHK記者
  • 武田真一 (キャスター)

“介護が受けられない” コロナ長期化の陰で…

新型コロナの影響が長期化する中、“介護の空白”は誰にでも起こりうる事態となっています。
都内で1人暮らしをする岡根香代子さん(89)は、身近に感染者はいませんが、突然、介護サービスが利用できなくなる事態に直面しました。認知症があり、これまで週4日デイサービスに通っていた香代子さん。施設では歌を歌ったり体を動かしたり、ほかの利用者との交流を楽しみにしてきました。

岡根香代子さん
「皆さんそろっていい方でしたから、長時間過ごしておりました。」

しかし、新型コロナの感染拡大で、デイサービスの利用に制限がかかるようになりました。施設では、体温を数時間ごとに測るようになり、37度を超える場合は帰宅を求められることになったのです。高齢のため体温調整が難しく、日頃から発熱しやすかった香代子さん。多いときには週2回、途中で家に帰されることもあり、1人で過ごす時間が増えました。そのつど、近くに住む息子の一雄さんが対応に追われたことで、結果的にデイサービスに通うことが難しくなりました。

息子 一雄さん
「デイサービスの存在は本当に救いだった。それがコロナ(の影響)でうまく使えないというか。以前だったら全くありえなかったけど、私が来るとめそめそ泣いているときがあったり、母を預けて安心して仕事に行けたのが、預けたあともずっと落ち着かない。」

“介護の空白”はなぜ生まれてしまうのか。香代子さんが通っていたデイサービスが取材に応じました。施設では、これまで利用人数を減らしたり、カラオケなどのイベントを中止したりしてきました。どこまでやれば感染が防げるのか、明確に分からない中、思いつく限りの対策を講じざるをえなかったといいます。

デイサービス事業所 施設長 藤原健治さん
「皆さまのことも、安全も配慮しなければいけない。職員も、自分たちの安全も考えなければいけない。お仕事をされているご家族、すぐ帰ることができないご家族も多かったと思うので、『どうしても申し訳ないです』という形でお電話させていただくことが何度かあった。ものすごい葛藤し続けています。」

先月(9月)、全国の介護に携わる人を対象に行われた調査です。緊急事態宣言の解除から4か月たった今も、施設の休止や利用制限が相次ぎ、デイサービスではおよそ3割に上っています。「新規利用の受付を止めている」「利用回数や入浴回数を制限している」など、介護サービスが縮小している実態が浮き彫りになりました。

デイサービスに通うことが難しくなった香代子さんは、7月から自宅を訪問してもらうサービスに切り替えました。しかし、これまで週に4日通っていたデイサービスに比べ、利用できるのは、看護師の訪問や入浴介助などの介護に限られます。

家に籠もりがちになった香代子さんは、足のむくみが悪化。体力の低下が見られるようになりました。さらに…。

「フルネームで(サイン)頂けますか?」

岡根香代子さん
「自分の字が分からなくなっちゃう。」

「これ先週、香代子さんが書いたやつ。」

岡根香代子さん
「そうですか?私こんな字書いていました?」

1人の時間が増えたことで、認知機能の低下が進んでいるのではないか、家族は不安を感じています。

息子 一雄さん
「ヘルパーさんとか看護師さんに来ていただいて本当に助かっているけれど、決してこれがベストではない。これまで見てきた人との接触があって、母は楽しい時間を過ごしてきていると思うので、今はそれがないというところが、それが葛藤です。」

利用できるはずだった介護サービスが受けられなくなる、“介護の空白”。家族が精神的に追い詰められるケースも出ています。
青森県に住む前田美保子さん。若年性認知症の夫、栄治さんを14年間介護しています。

前田美保子さん
「これはデイサービスの写真で、調子よかったんだと思います。」

栄治さんはこれまで、デイサービスなどを週に5日利用してきました。しかし、緊急事態宣言を受けて、施設が2週間の休業を決定。美保子さんは、再開まで1人で介護を担うことになったのです。特に苦労したのが、入浴でした。栄治さんが美保子さんに体を触られることに強く抵抗し、しばしばもみ合いになったといいます。

前田美保子さん
「力ずくです。力ずくでやっても、男性だから私より力が強いので、私は飛ばされます。結局、毎日青あざが絶えない。この辺もこの辺も、青あざだらけです。」

生活のリズムが崩れたことで夜中にたびたび起きることもあり、美保子さんは睡眠が2、3時間という日が続きました。
2週間後、デイサービスはようやく再開。ところが、美保子さんが想定していなかった事態が起きました。施設から、栄治さんの利用を引き続き控えるよう求められたのです。当時、同居する家族が月に1度、青森から県外の医療機関へ通院していたため、感染のリスクが否定できないとされたといいます。

前田美保子さん
「その時は、すごくショックでした。自分も在宅で介護頑張っていたのに、本当にこれからどうしていくんだろう、どうすればいいんだろうと不安感でいっぱいでした。」

その後、夫を受け入れてくれる施設を探しましたが、思うような施設は見つかりませんでした。当時、友人に宛てたメールには、悲痛な思いが残されていました。

“理屈はわかっていても、見放された!孤独感
誰も助けてくれない…。
結局自分一人で耐えて、考えて生きていくのか”

前田美保子さん
「車で運転して隣に主人を乗せて、このまま海に飛び込んだらどうなるかとか、このまま2人つらい思いをしてもだめだよねとか、そういう時期はありました。お互い悲惨な日々だったのかなと、今振り返ると思います。」

8月下旬、栄治さんは自宅で体調を崩し、現在は入院生活を送っています。退院後、栄治さんにとってどのような介護が望ましいのか、美保子さんは今も答えを出せずにいます。
広がる“介護の空白”。何が求められているのか、さらに掘り下げます。

広がる“介護の空白” いま何が求められる?

武田:高齢者介護の制度に詳しく、介護事業所の経営者でもある早坂さん。サービスが利用できないことで健康や生活の質まで低下してしまう、非常に厳しい状況だと思うんですけれども。施設側は、それでも感染防御というものにあれだけ気を使わなくてはならないんですか。

ゲスト早坂聡久さん(東洋大学 准教授)

早坂さん:本来支えられなければいけない人が支えられていない、孤立してしまっているというのが、大変大きな問題。そして、福祉は本来寄り添わなければいけないのに、寄り添えないという状況にあります。その理由は、やはり事業所が慎重にならざるを得ないという状況なんです。大きく2つあって、1つは利用者の命をいかにして守るか。インフルエンザですら感染リスクがあるということで対応策を取りますので、新型コロナはやはり致死率が高いということもあって、そこは慎重になっています。もう1つが、感染施設になることで廃業を視野に入れた経営難に陥っていく、これをいかにして避けるかということで、どうしても慎重になっているんですね。

武田:取材に当たった社会部の小林さん。利用者や家族が追い詰められている状況があるわけですけれども、それを救うために、どんな手だてが今求められているんでしょうか?

小林さやか記者(社会部):こちらが、求められる具体的な支援です。

まず「代替サービスの確保」。国は、例えばデイサービスが利用できなくなった場合は訪問介護を活用するなど、代わりのサービスを検討するように求めてきました。しかし、この訪問介護も深刻な人手不足で十分ではないので、結局、代わりのサービスが見つからなかったという人も多くいます。ここを拡充していくというのは簡単ではないんですが、状況を改善していく必要があると思います。
また、「一時避難施設の整備」も重要です。家族が感染した場合などに一時的に受け入れてもらえる施設のことで、一部の自治体で設置が進んでいますが、さらなる整備も必要です。
そして「事業所の感染対策への支援」です。特に求められるのが、どこまで対策をすればリスクを抑えられるのかという正確な知識の共有です。ここがあれば、過剰に利用を制限しなくてもよくなるというケースも出てくるかと思います。国は大枠のガイドラインは示しているんですが、具体的な対応というのは現場に任せられているというのが実情です。例えば、医療の専門家を施設に派遣し、直接アドバイスする、そういう支援も考えられると思います。
そして最後に、「検査の拡充」。利用者に検査を実施できれば、もっと安心して受け入れられるという声もあります。検査を強化する自治体というのも今、出てきているんですが、まだ地域差があります。こうした感染対策は1つの事業所の力だけでは限界がありますので、国や行政は対策をさらに強化していく必要があると思います。

武田:宮田さんは、介護施設の事業者で組織する協議会の理事もされているということですけれども。こうした“介護の空白”をなくしていくためのさまざまな方策、特にどういったことが必要だというふうにお考えですか?

ゲスト宮田裕章さん(慶應義塾大学 教授)

宮田さん:感染対策については、データを積み上げる中で効果的な対策も明らかになってきている一方で、まだ分からないことも多くあります。「これは絶対大丈夫」と言い切れない状況だからこそ、現場の目安となるガイドラインを共有しながら、変化する状況の中で更新していくということも必要です。また、こうした感染予防対策は、介護の現場においても有効であるということが、8月の厚生労働省のLINE全国調査でも示されました。やはり目安となる基準を理解した上で、正しく恐れていくということが必要です。
一方で、こうした対策が有効に行われているかどうかを把握して、効果を検証していくということも必須です。すでに飲食店については、GoToイートに登録するために店舗が感染対策を行っていることが必要になっているように、介護においても、必要な設備を買うとか、あるいはインセンティブをつけていくというような、現場をサポートするような対策も必要なのかなと考えています。

武田:現場の感染対策をしやすくなるような何らかの仕掛けというものが、これから必要になってくると。

宮田さん:今は持ち出しでやっているので。例えば、濃厚接触者、症状がない人も検査を無料で受けられると。一般の方と介護現場ではリスクが違ってくるので、そういった検査の拡充というところとも連動できるといいのかなと思いますね。

武田:こうした対策、まさに待ったなしなんですが、さらに“介護の空白”が広がりかねない事態が起きています。新型コロナの影響が長期化する中で、介護サービスを提供する事業者側が深刻な経営難に陥っているんです。

“介護の空白”解消へ 模索する事業者

神奈川県鎌倉市のデイサービスです。新型コロナウイルスの影響が続く中、経営難に陥り、6月に閉所しました。重い認知症の人を専門に受け入れてきたこの施設。広さ30平米の一室に、定員いっぱいの8人の利用者がいました。しかし、感染リスクを抑えるために利用人数を制限。大きな赤字を抱えてしまったのです。

デイサービス 社長 稲田秀樹さん
「認知症が進行した人が多かったので、マスクを着ける意味が分からない。なので外してしまう。リスクが非常にある。1日の滞在人数を半分にする対策を取らざるを得なかった。結果的にそれが経営を圧迫した原因になる。」

利用者が8人いたころの施設の収支は、収入は月におよそ195万円で、そのほとんどすべてが介護報酬でした。これは、利用人数やサービスの時間に応じて、自治体などから支払われます。しかし、利用人数を半分にしたことで、収入は3割以上減少。人件費などの支出は変わらないことから、とたんに経営が立ち行かなくなったのです。

この施設を運営する会社では、別のデイサービスも経営しています。代表の稲田秀樹さんは、共倒れを防ぐため、やむなく赤字が大きかった認知症専門のデイサービスを閉めざるをえなかったといいます。

稲田秀樹さん
「こんな狭い場所で、気に入ってくれて笑顔で過ごしてくれて。それを閉める、無くしてしまうのは非常に心が痛む。」

地域の住民からは、デイサービスの一刻も早い再開を望む声が上がっています。その一人、田島幸子さんです。

田島幸子さん
「覚えてる?ケアサロンさくら(デイサービス)。」

同居する母親・法子さんは、閉所したデイサービスに週に3日通い、仲間と楽しく過ごしていました。

田島幸子さん
「デイの前を通ると、私より先に母のほうが自分の家に招くみたいにして『幸子~』とかいって手を振ってくるので、もう元気、元気と思って。家にいるより、はつらつとしていましたから。地域にそういう所が1つでも2つでもあるのは、とても大事なことだなと思っています。」

利用者の要望を受けて、稲田さんは再出発を図ることにしました。利用者を減らさずに済むように、これまでの2倍の広さがある空き家を購入しました。

稲田秀樹さん
「ここから換気扇を付けて、外に逃がしてもらうというのができると、ここら辺でおしゃべりしていた空気が流れていくルートができるので。」

換気扇を8か所につけて空気の流れをよくする。体調が悪い人が休む静養室は、個室にする。手洗い場も、増設する計画を立てています。しかし、感染対策に気を配るほど改修費は膨らみ、1,200万円に上っています。

稲田秀樹さん
「小規模事業者持続化補助金について、ちょっとお尋ねなんですけれど。」

稲田さんは今、資金の確保に奔走しています。現在、7つの補助金を申請し、400万円を得られる見込みです。

稲田秀樹さん
「助成金、補助金は申請できるものはすべて申請します。かき集めています、はっきり言って。」

さらに、クラウドファンディングも立ち上げました。地域の住民を中心に、240万円以上の支援が集まっています。

しかし、借入金の返済のめどは立たず、苦しい経営が続くと見ています。

稲田秀樹さん
「費用もかさんでくるし、電気代もかかる。ランニングコストもかかるし、覚悟はしなきゃいけない。コロナ禍の今に、こうやって移転する。先がちょっと見通せない状況ではありますけれど、やる意義はあるのかなと。」

“介護の空白”を避けるために、必要な事業者への支援とは?さらに掘り下げます。

“介護の空白”解消するカギは?

武田:小林さん、介護事業所の経営難はどれぐらい広がっているんでしょうか?

小林記者:こちらは先月、全国の介護従事者を対象に行われたアンケート調査なんですが、半数近くがコロナの前より「収入が減少している」と回答しました。

特にデイサービスなんですが、利用の制限利用自粛が相次いだ影響で78%と、深刻な状況です。

さらに、こちらが民間の信用調査会社による調査なんですけれども、ことし(2020年)8月までの介護事業者の休業や廃業は313件と、去年(2019年)の同じ時期より20%増加して、過去最多となりました。

このまま経営難が続いて介護事業所そのものがなくなっていくと、“介護の空白”がさらに加速することも懸念されます。

武田:介護事業者の方の先は見通せないけれども、「やる意義がある」とおっしゃっていました。そういった心意気に頼るだけでこの先持続できるのかという思いも禁じ得ないですよね。

早坂さん:介護保険制度ができてから20年。特にこの間、介護事業者と労働者の献身によって業界が支えられている実態があるんですね。介護報酬は、増減はありましたけれども、ずっと下がり続けているという実態があります。そういった中で未曽有の人材難もありまして、経営は大変厳しい状況になっています。

武田:今、ちょうど介護報酬改定の議論がなされているときだと思うんですけれども、何をどういうふうに変えていったらいいというふうにお考えでしょうか?

早坂さん:介護報酬というのは基本的に、単価とサービス提供時間を掛け合わせて提供するものなんですけれども。本体の基本報酬というのがあって、さらにそれがずっと介護保険制度が始まって以来減額されて、さらに細かな加算というもので対応していたと。実際は予算がついても使われなかったりする加算があって、非常に分かりづらい制度になっています。そういったものをすっきりとさせて、本体の基本報酬を太くして、そして加算を分かりやすくする。利用者も事業者も分かりやすく。そして基本報酬は少なくとも2~3%ぐらい上乗せするぐらい手厚くしなければ、介護業界が成り立たなくなってしまうという危機感を持っています。

武田:使われていないような加算を整理して、その分をきちんと基本報酬に乗せていくということが必要だということですね。宮田さんは、財源は限られていると思うんですけれども、どういうふうに使っていけば“介護の空白”は防げるというふうにお考えですか?

宮田さん:コロナ禍における行政の対応には、例えばケアプランの変更なしで、訪問や電話対応でも介護報酬に算定ができるなど、現場から評価の声が上がっています。ただ、一方でもともと厳しい中で経営している現場が、コロナ禍でますます厳しくなって、これが倒産の増加にもつながっているんですよね。やはり介護はなくなったらみんなが困る。公共財であり、社会で支えていかなければいけないものです。特に対人サービスに関わる人の幸せは、サービスの質に直結するという研究があるように、介護職がやりがいを持って仕事ができる環境というのが重要になります。このような点からも、早坂先生が今ご指摘した、基本報酬の引き上げは見通しをもって前向きに働くという上でも、とても重要だと思います。

宮田さん:もう1つ、加算部分についても、現場のやりがいを引き出せるような設計というのが大事です。例えば介護の現場が大切にしているものの一つが、一人一人の生きがいに寄り添うということですが、私が所属する協議会でも、こうしたサポートを客観的に評価する取り組みというのが行われています。例えば、これは今後の話ですが、コロナ禍でZoomの会議システムを使って遠隔サポートするというのが、今、行われ始めています。例えば今、対面のカラオケってなかなかできないんですが、今後はこういったシステムを使うことで、好きな娯楽とかあるいは話題ごとに、みんなで集まるということができるようになりますし、それと同時に、心拍とか顔色から見守りをするということもできるであろうと。新型コロナに対応した新しい日常の中で多様性を尊重して、誰も取り残さないということを今現場の人と目指していますし、そういった現場の人たちが報われるような仕組みが大切になると考えています。

武田:基本的な介護報酬のあり方の検討と、それから新型コロナの今を見据えた早急な支援を、両輪でやっていかないといけない。

宮田さん:そのとおりだと思います。

武田:介護の現場は、本当に人と人が密接に関わらなければいけないところなので、私たちもこれから、どうやって生きていくかというヒントがそこにあるかもしれませんね。しっかり見ていかなければいけないと思います。