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2020年9月15日(火)

自民党総裁選の舞台裏
~各派閥はどう動いたのか~

自民党総裁選の舞台裏 ~各派閥はどう動いたのか~

安倍首相の突然の辞任表明を受けて行われる自民党総裁選挙。「一強」と言われ、憲政史上最長の政権を築いた安倍首相の後を引き継ぐのは誰か?番組では、キーパーソンたちに密着し、党内で繰り広げられている激しい駆け引きや交錯する思惑を独自取材。「ポスト安倍」決定の舞台裏に迫る。

出演者

  • NHK記者
  • 武田真一 (キャスター)

“派閥”が担いだ“無派閥”新総裁

1996年に初当選した菅義偉新総裁。当初は派閥に所属して活動していました。しかし、2009年、総裁選挙で他派閥の候補を支援するために派閥を離脱。以来、派閥政治からの脱却を掲げてきました。

菅義偉氏
「党の年功序列、派閥、そうした古い体質を変える。」

その菅氏が挑んだ、今回の総裁選挙。陣営を支えていたのは党内の有力派閥でした。

派閥がなぜ“菅氏支持”に? キーパーソンの証言

菅氏にいち早く目をつけ支持を表明したのは、二階幹事長が率いる二階派でした。二階氏は夏ごろから、菅氏と頻繁に面会を繰り返していました。その場に同席していたのが、二階氏の側近、林幹雄氏です。二階氏は菅氏を、ポスト安倍の有力な1人と見ていたと林氏は語りました。

二階派 林幹雄衆院議員
「国会が終わって何度か、菅長官と二階幹事長は、人を介していますが会っていますので、そのときにもちらほらと総裁選の話は出ていたので。今年になって、ポスト安倍という話が相当いろんな方面から出てきました。“安倍さんがやらないならば”ということから(二階氏の)頭の隅には(菅氏が)あったのではないかという気がします。」

さらに林氏は、安倍総理の辞任表明の翌日、菅氏が二階氏にアプローチしてきたと明かしました。

林幹雄衆院議員
「菅さんから、森山国対委員長を通じて二階幹事長に会えないかと、しかも今夜会えないかということで(電話が)あったから、即座に夜はオッケーだと返事をしました。」

「会えないかと菅長官が言ったのは、どういう理由でというのは?」

林幹雄衆院議員
「ない、ないけどもピンときますよ、それはね。時期が時期だけに。私は腹を決めたのかなと感じましたね。」

会談が行われたのは赤坂議員宿舎。夜8時、菅氏と二階氏、森山氏そして林氏の4人が集まりました。20分程度の会談の中で、重要なやりとりが行われたと林氏は語ります。

林幹雄衆院議員
「菅長官から『今度の総裁選に出馬しようと思いますが、よろしくお願いします』ということでありまして、『(9月)1日に総務会で総裁選の段取りが決まるので、その後に出馬声明をしたい』ということでした。二階幹事長は『しっかりやれ、頑張れ』と言うと同時に『応援するぞ』という話でした。菅長官がやるならそれでいくと、もう腹で決めていたのではないかという気がします。」

「幹事長として引き続き政権を支えていくと(二階氏は)強い意欲を示していますが。」

林幹雄衆院議員
「そうなるだろうと思っています。この1年の間に、必ず衆議院の選挙がある。過去3回、衆参の選挙をリードしてきた幹事長ですから、当然そういった意味での陣頭指揮の任にあたるのは二階幹事長しかいないだろう。」

武田
「(二階氏が)菅さんを応援したいと、その言葉を聞いたときは?」

菅義偉新総裁
「私が前にでる、背中を押してくれたという感じですかね、正直。」

武田
「まず二階さんとお会いになった。これはなぜだったんでしょう?」

菅義偉新総裁
「二階幹事長は、私のことをものすごくかわいがってくれた。同じ地方議員出身で、2人とも国会議員の秘書でしたから。そういう意味では非常に親近感がありましたよね。定期的に食事をごちそうになっていましたから。」

菅氏圧勝の流れを作ったのは、岸田氏が支援を期待していた麻生派の動きでした。岸田氏との会合に同席していた麻生氏の側近、松本純氏。麻生氏は、これまで同じ派閥の系譜にある岸田氏のことを、将来を担う有力な人材だと期待していたといいます。

麻生派 松本純衆院議員
「私も同席して様子をずっと拝聴しましたけれど、非常に雰囲気は明るくて、ざっくばらんにさまざまな話題で議論をしているという、そんな様子で、総合的に麻生さんは岸田さんを大変評価していたと僕は思います。」

ところが、安倍総理の突然の辞任表明を受けて開かれた、麻生派幹部の緊急会合。岸田氏支持が打ち出されることはありませんでした。実は麻生氏は、新型コロナでの現金給付の対応をめぐって、岸田氏の手腕に疑問を感じるようになっていました。誰を支援するか、さまざまな意見に麻生氏は耳を傾けていたといいます。

松本純衆院議員
「麻生会長が常に言い続けてきたのは、“最終の判断は周辺状況などをしっかり勘案したうえで自らに決めさせてほしい、一任をくれ。いま現在は白紙である”。」

辞任表明の2日後、岸田氏は麻生氏の事務所を訪問し、協力を求めました。麻生氏は岸田氏に、ある条件を突きつけていたことが取材で分かりました。

“安倍総理が支援するなら、自分も支援できる。安倍総理の意向を確認してほしい。”

松本純衆院議員
「(麻生氏は)迷っていらしたと思いますね。誰がこの緊急時に対応するのに最もふさわしいかということ、それを担うのは誰かということで悩んでいらしたと思います。」

麻生氏との面会の翌日、岸田氏は安倍総理と面会。しかし、支援を取りつけるには至りませんでした。

岸田文雄氏
「これからということなんでしょう。」

「総理から何か?」

岸田文雄氏
「いま言ったようなやりとりです。」

安倍総理からの後継指名に活路を見出そうとしてきた、岸田氏の戦略が崩れた瞬間でした。麻生派は、二階派に続いて菅氏の支持を決定。今後の政局を見据えたとき、菅氏の下でまとまることが最善の選択だったと、松本氏は地元で説明しています。

松本純衆院議員
「幅広く全体の国家運営、また内閣の運営というものの隅から隅まで承知をしていて、十分その経験を積んでこられて、それに対しての対応ができる唯一の候補だと思うのが、菅先生。」

松本純衆院議員
「来年10月には、もうどうやっても解散総選挙は間違いなくやってくるわけでありますので、それに向けて皆さんが自民党そのものが結束して政権を支えていくっていう体制をきちんと作り上げていく。菅政権を志公会(麻生派)としても、しっかりど真ん中で支えていきたい。」

こうした中、注目が集まっていたのが、安倍総理の出身派閥で党内最大の細田派の動向でした。派内で独自の候補者を出すべきか、ほかの候補の支援に回るべきか、意見は割れていました。
立候補を模索していた、稲田朋美氏です。派閥の枠を越えて支持を広げようと考えていました。

細田派 稲田朋美衆院議員
「過半数の女性がいる日本の社会において、その代表、代弁、その観点を出すことも、日本の全体の政策にとって厚みを増すことだし、自民党政治の新しさをアピールすることにもつながる。」

辞任表明から3日後。自身の立候補について、安倍総理に直接相談した稲田氏。しかし、その返答は…。

稲田朋美衆院議員
「総理からは『あまり焦らずに一歩一歩頑張っていけばいいよ』というような、そういうアドバイスでしょうか。そういうのはありました。」

同じ細田派で、総理と定期的に面会してきた髙鳥修一氏。安倍総理の考えをこう推し量ります。

細田派 髙鳥修一衆院議員
「もし総理が『岸田さんやってよ』っておっしゃっていれば、それはもう全力で応援をしたと思いますけどね。やっぱり政権の継続性と危機対応を考えると、菅官房長官の安定性。総理は明言はされないけれども、そういう方向性(菅氏支持)で考えてらっしゃるのかな。」

こうして、安倍総理の辞任表明から僅か5日後。主要3派閥の領袖がそろって菅氏の支持を表明。選挙の大勢は決しました。立候補を断念した稲田氏は、これまで見たことのない総裁選挙の光景だったと感じています。

稲田朋美衆院議員
「突然さと流れの速さの中において、手が挙げられなかったのは残念。候補を出している派閥だけはぽつんぽつんと残りましたが、ほかは全部、派閥ではない無派閥の方に乗ったというのは、私は構図として不思議だなと思いました。率直な感想。」

“菅氏圧勝”の影で…新政権に何が求められる?

告示の前から菅氏優位の流れが出来上がっていた、今回の総裁選挙。選挙戦のさなか、岸田派の若手の間では、新たな総裁が派閥の論理で決まっていくことに、懸念の声も上がっていました。

岸田派 西田昭二衆院議員
「最初はかなり感触がいいところもあったりはしましたけれども、後半にいくにつれて、少し相手のほうもちょっとガードがかたくなってきたり。」

岸田派 武井俊輔衆院議員
「同期の中では(投票のとき)後ろから見ていて、書く筆順というか、そういうので分かるんだぞと言われたみたいな人もいて。」

岸田派 國場幸之助衆院議員
「みんな派閥の縛りがあるので、政治生命かかっているから。」

岸田派 古賀篤衆院議員
「ちゃんと政策論争をして総裁が決まるんだというところを見せていかないと、何かやっぱりまずいなと。自民党ってそういう党なのねって声が聞こえてくるから。」

一方、地方の党員からの支持に期待していた石破氏。

石破氏を支持する党員の間では、自分たちが意思表示をする前に大勢が決まっていたことに、違和感が広がっていました。

「実際に盛り上がりはない。」

「始めから、やり方でもう決まってる。菅さんになるということが決まったみたいなもん。」

今後は、永田町の中だけでなく、広く国民の声を聞く政治をしてほしいという意見も出ました。

「派閥の親分が偉かったら大臣(ポスト)が回ってくるから。それで派閥に入っている人が多いんじゃないか。順番だから。もっと国民のためにやってくれないかという思いがある。」

そして今日(15日)、菅新総裁が行った党役員人事。菅氏を支持した派閥の幹部が、続々と要職に起用されました。

武田
「派閥には派閥の考えがある。そして菅さん自身にも考えがある。どうやって折り合いをつけていく考えでしょうか?」

菅義偉氏
「私は政権として、国民のために働く内閣、そうした内閣をつくりたい。みんな散らばってますからね、それぞれの派閥に。そこは良い人はやってもらうというのは、ある意味では当然だと思います。」

武田
「今回の総裁選挙は、党員投票を縮小する形で実施されました。そのことも踏まえて、近いうちに国民に信を問う考えは?」

菅義偉氏
「任期が1年間しかないわけですから、その中で信を問うかどうかというのは、総理大臣になってから考えることなんでしょうけど。やはり目の前のことはまずちゃんとやってくれ、新型コロナをしっかり収束できるようにやってくれ、経済をしっかり立て直してほしい、両立させてほしい。それが国民の声じゃないかなと思います。」

あす発足 菅政権はどう動く?

武田:政治部の小嶋記者とお伝えしていきます。今日、自民党の役員人事が行われました。あす(16日)には組閣が控えています。今もうすでに情報がいくつか入っていますが、これまでに分かっている情報から、菅さんの党内運営の手法や派閥に対する考え方など、どんなことが読み取れるのでしょうか?

小嶋章史記者(政治部):まず党役員人事から見ていきたいと思いますが、主な党役員人事については、自身を支持する5つの派閥から1人ずつを起用しまして、派閥に配慮した形といえると思います。一方、総裁選挙を争った岸田さんは、政務調査会長から外れまして、党4役から外れた形になります。各派閥からの起用ではあるんですが、菅さんは二階幹事長、森山国会対策委員長と信頼しあう間柄です。また、麻生派の佐藤総務会長、竹下派の山口選挙対策委員長については、衆議院の初当選の同期ということで気心の知れた間柄で、今回の総裁選挙でも中心的な役割を担いました。こうした点では菅カラーというのが出ているのではないかといえると思います。
次に閣僚の人事ですが、今夜、続々と情報が入ってきています。あすの組閣を前に、麻生派の会長である麻生副総理兼財務大臣の再任が固まっています。また、竹下派の加藤厚生労働大臣が、内閣の要の官房長官に起用される見通しとなっています。
このほか、竹下派の茂木外務大臣が再任、二階派の武田総務大臣の起用など、重要閣僚については支持した派閥からの起用で固めている印象があります。支持を受けた派閥からは、適齢期と呼ばれる、いわゆる“待機組”の議員を入閣させる方針で、そうした配慮も見せています。一方、岸田派からは、デジタル分野の大臣として平井さん。そして石破派からは、厚生労働大臣に前も務めていました田村さんを起用する方針です。実務能力を重視しながら、挙党体制を演出した形となっています。

武田:今のお話にもありましたが、党役員人事では自身を支持した派閥から幹部を登用しました。今後の政権運営で、菅新総裁はこうした派閥とはどうつきあっていくことになるでしょうか?

小嶋記者:無派閥の出身者としては、事実上初めての総理大臣に菅さんはなります。ですので、党内基盤が決して強いとは言えません。菅さんが掲げる縦割り行政の打破、それから規制改革というものは、いざ実行に移そうとした場合、党内から慎重な対応を求める意見が出る可能性もあります。政府が法案を提出しようにも、党側の了解が必要となります。政策を打ち出して着実に実行するためには、派閥の協力を得ることが不可欠となります。昨夜の段階でも、党役員人事について本人に伝えるだけではなくて、派閥のトップらに事前に連絡するなど、抜かりのない対応をとりました。一方で派閥に配慮しすぎますと、思うような政策が進められないというようなこともありえます。この辺のバランスをどうとっていくのか、菅さんの手腕が問われると思います。

武田:こうした中で、次の焦点は解散総選挙の時期だと思いますが、菅さんは新型コロナの収束と経済の建て直しにまずは力を入れたいと話していました。どう見ますか?

小嶋記者:菅さんは昨日の就任の記者会見で、“せっかく総裁に就任した”“仕事をしたい”と述べました。新型コロナウイルスの対策、デジタル庁の創設など、政策課題に対応したいという考えを示しました。また、NHKの番組では、感染の収束に加えて、経済の底上げにも道筋をつけたいという考えを示しました。こうした言葉だけを見ますと、すぐに解散という感じではないように受け取れます。また、与党の公明党からは繰り返し“新型コロナウイルスの対応を優先すべきだ”ということで、早期の解散には慎重な意見が出ています。一方、衆議院議員の任期満了が来年(2021年)10月まで1年余りとなる中、来年は東京オリンピック・パラリンピックも控えていて、解散のタイミングが限られるのは事実です。自民党内には、新政権の発足後、“支持率が上がれば間を置かずに解散すべきだ”という声が上がっています。麻生副総理も今日、早期に解散というのは考えるべきではないかと発言しています。この感染状況と政治情勢、それから日程をにらみながら、解散の時期について総合的に判断していくものと見られます。

武田:あす菅新政権が発足する一方で、今日、野党第1党の立憲民主党が結党大会を開きました。政府与党にどう対峙(たいじ)していくのでしょうか。

野党は菅政権にどう対峙する?

150人での船出となった合流新党。代表に就任した枝野氏は、新党として政権の選択肢を示す姿勢を強調しました。

合流新党『立憲民主党』 枝野幸男代表
「今こそ国民のみなさんに選択肢を示すときです。過度に競争をあおるいきすぎた自助と、自己責任を求める新自由主義か、支え合いの社会なのか、いま必要なことは、社会のさまざまな現場であがる国民のみなさんの声、それに真正面から応える政治だと私は思う。」

衆議院議員の任期が残り1年となる中で、新政権にどう対峙していくのか。

枝野幸男代表
「あす菅新政権が発足します。ようやく臨時国会が開かれます。しかし首班指名だけの臨時国会です。身勝手な解散総選挙で論戦から逃げようとするならば、それこそ国民不在の政治である。そのことの証明だと言わざるをえません。私は堂々と菅さんと論戦をし、国民の声を伝えていきたい。」

武田:枝野代表は、今こそ選択肢を示すときだと述べていましたが、立憲民主党は菅新政権にどう対峙していくのでしょうか?

小嶋記者:立憲民主党は、支え合う社会の実現を訴えています。菅さんが総裁選挙の際に、自助、共助、公助と“自助”をまず触れたことを意識しています。過度な自己責任を求める政治からの転換を打ち出し、対抗軸としたい考えです。新政権発足後、速やかに国会で所信表明演説を行い、本格的な論戦を行うよう迫っていく構えです。2009年の政権交代前の民主党の規模に迫る勢力を結集したことで、スケールメリットをいかして、国会論戦を通じて自公政権にかわる新たな選択肢を示したいとしています。

武田:最大の課題は、なんといっても新型コロナ対応だと思いますが、それを含めて今後、与野党はどう動いていきますか?

小嶋記者:政府与党は、まずは新型コロナの収束、それから経済の再生に全力をあげる考えです。着実に成果を上げることで新政権に対する信頼感を高めたいとしています。一方、政府与党では、これまで安倍一強と呼ばれるような政治状況が続いてきました。総理大臣が変わるこの局面で、政府官邸、それから派閥を中心とした党側の力関係が変化するのかどうかが焦点となります。対する野党側は、新政権発足のタイミングで新たに合流新党ができました。政権を手放したあと、かつての民主党勢力は離合集散を繰り返してきました。今回の合意をきっかけに、こうした歴史に終止符を打ち、共産党などほかの勢力、それから今回、合流新党に参加しなかった議員も含めて、野党勢力のさらなる結集が図れるかが焦点となります。政局は、1年以内に行われる衆議院選挙をにらみながら展開することになりそうです。

武田:あすの夜には、菅内閣が正式に発足する見通しです。

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