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2020年9月9日(水)

ローン破綻!家賃が払えない!…
身近に迫る“住居喪失クライシス”

ローン破綻!家賃が払えない!… 身近に迫る“住居喪失クライシス”

新型コロナの影響が長引く中、多くの人が「住居を失う危機」に直面している。不動産会社には住宅売却の相談が殺到。収入の減少の長期化で住宅ローンが支払えなくなり、自宅を手放す人がここにきて続出しているというのだ。さらに、賃貸住宅の家賃が支払えなくなった人向けの支援制度「住居確保給付金」の申請件数も急増。給付金は最長9か月で打ち切られるため、年末にかけて住居を失う人がますます増えると懸念されている。番組ではローン破綻や家賃滞納の厳しい現実、制度の問題点などをルポ。住まいを失う危機にある人をどう支えていくべきか、様々な現場を通して考えていく。

出演者

  • 石井光太さん (ノンフィクション作家)
  • 稲葉剛さん (つくろい東京ファンド代表)
  • 武田真一 (キャスター) 、 栗原望 (アナウンサー)

ローン破綻!家賃が…コロナで住まいを失う

都内の不動産会社です。「住宅ローンが払えない」という相談が連日寄せられています。

明誠商事 飛田芳幸さん
「ご相談の伺いをできればと思いますので。」

この日、訪れたのはイベント関連の運送会社で働く50代の男性。

飛田芳幸さん
「ボーナスも7月は全く?」

運送業 男性(50代)
「ないですね。」

飛田芳幸さん
「ゼロですか?」

男性
「はい。このまま復帰しなければ、たぶん11月で…って感じですね。」

飛田芳幸さん
「えっ、11月で何かあるんですか?」

男性
「もう、終わりですね。」

飛田芳幸さん
「会社終わり?」

男性
「うん。」

感染拡大で大規模イベントの中止が相次ぎ、収入が大幅に減少。自宅の売却を迫られています。

飛田芳幸さん
「売っても1,000万円だから、要するに(借金が)700万円くらい残ってしまう。」

5か月ローンを滞納したため、遅延損害金も発生。自宅を売却しても多額の借金が残るといいます。

飛田芳幸さん
「借金を払わないということになると、自己破産という話になるんですよ。全く払いきれないとなると。」

男性
「はい。」

懸命に働いてきたという男性。まさか、自己破産に追い込まれるとは思ってもみませんでした。

男性
「仕事もこういう状況で見通しが立たない。もうさすがにちょっと、どうにもならないという感じですね。」

こうした深刻な相談は、8月以降、急激に増えているといいます。

飛田芳幸さん
「給付金とか貯金があって、いっときは5月、6月、7月は落ち着いてきて、8月になってからコロナの影響でもう我慢できず、返済がどうしても難しいと。貯金も今ほとんどないという方の相談が8月からかなり増えて。相談はどんどん増えていくと思いますね。」

住まいの喪失は、家族の暮らしにも大きな影響を及ぼしています。8月にマイホームの売却を決めた、建設業の男性です。

「おいくらで購入しましたか?」

建設業正社員 男性(40代)
「2,700、2,800万円だったと思う。結婚を機に購入しました。子どもができれば、やっぱり広いほうがいいのかなと思いまして。」

10年前に35年ローンでマイホームを購入。妻と小学生の息子の3人で暮らしてきました。

「一番気に入っている場所はどこだったんですか?」

男性
「やっぱりリビングですよね。やっぱり家族と一緒にいますからね。」

毎月の支払いは9万円。しかし、感染拡大の影響で建設現場の仕事が減り、月収は3分の2に。夏のボーナスも大きく減り、ローンの支払いが苦しくなったのです。

男性
「早いうちに手を打って、売って、そのお金を多少なりとも子どもに少しでもかけられればいいかなと思って。やっぱり何か売る日が近づくにつれて、受け入れられなくなってきますね。いつも、夢なのかなとか、そんな感じですよね。」

先月(8月)22日。男性は、売却の契約書に印鑑を押しました。

明誠商事 飛田芳幸さん
「これでもう書類は全部、売買契約書、重要事項整いました。」

引っ越しの期限は、今月(9月)下旬。子どものことを考え、今の地域から離れた場所に借りられる部屋を探しています。

男性
「子どものお友達も家知っていますし、『何で変わったの?』って言われたら言えないでしょうし。だったらね、学区外に行って、誰も知らないところで、そういうこと言われないように。友達はいちから作らなきゃならないんですけど。子どもと寝ているんですけどね、いつも。そのときは、ああって考えますね。」

賃貸住宅に住んでいる人たちにとっても、事態は深刻です。都内の福祉事務所です。

フリーランスデザイナー(40代)
「お金を使い切ってしまったので。もう数百円なので。次の月から(家賃を)どうしようという感じなので。」

申請するのは、「住居確保給付金」。仕事を失った人などに家賃を支給する、5年前にできた制度です。

給付金の支給期間は原則3か月。その間に新たな仕事を見つけるなどして、生活を立て直してもらうのがねらいです。しかし、新型ウイルスの影響が長期化し、収入回復の見通しが立たない人が相次いでいるのです。

相談員
「お仕事どんな状況ですか?」

ホテル勤務 男性(50代)
「以前よりもだいぶ仕事がない状況というか、ゼロです。」

相談員
「皆さん苦労されている。心配ですけどね。」

ホテルで働く50代の男性。6月から給付金を受けていますが、3か月たった今も収入が回復していません。この日、支給期間の延長を申請しましたが、給付金を受けられるのは最長でも9か月間。それまでに生活を立て直さなければなりません。

男性
「宿泊業界、どこも厳しいと思います。やっぱりここまで続くとは誰も思ってなかったと思いますし。預貯金の面でも、このままいくと底をついてしまうので、不安だらけですね。」

9か月の支給期間内に仕事が見つからず、住まいを失う危機に直面している人がいます。
神奈川県に住む30代の男性。以前は国家公務員でしたが、病気で退職し、去年(2019年)11月から給付金を受けていました。

元国家公務員 男性(30代)
「申請をしたときにですね、最初の3か月以内に仕事を決めて復帰するぐらいの予定でいたので。」

しかし、新たな職を探していたさなかに、新型ウイルスの感染が拡大。50社以上応募しましたが採用されず、給付金は7月で打ち切られました。

男性
「就職活動できれば元の生活に戻れるんじゃないかと思っていたんですけれども、やはり9か月という上限があるということで打ち切られてしまって、困っているところですね。住居確保給付金という名前なのに、住宅が確保されないという状況になってしまっているので、もうホームレスになるしかないのかなと。」

家賃が払えない…コロナで住まいを失う

武田:新型コロナによる生活困窮の実態を取材されている石井さん。住まいを失うということは、場合によっては命の危機につながることでもあると思うんですけれども、石井さんは改めてどう捉えてらっしゃいますか?

ゲスト石井光太さん (作家)

石井さん:生活が困窮するということにおいて、家を失うというのは最後の最後に来ることなんですね。実際は、家を失う前にたくさんのものを失って、生活が破綻しているというケースがあります。例えば、僕が知っている場合ですと、ローンを払えないので実家にお金を借りる。でも借りすぎて、実家のほうから逆に取り立てをされてしまっている。あるいは、配偶者との間にいさかいが絶えなくて、DVが起きてしまう。そして離婚になってしまう。子どもはそういった状況を見て、家に居場所が見つからず出ていってしまう、家出してしまう。そういったようなことが起きてしまうんですね。現状、こうしたことはたくさん起きています。そういう人というのは、いくつものトラブルを抱えながら「新しい仕事を見つけなさい」、あるいは「新しい家を見つけなさい」と言われても、なかなかできない。例えば1か月間に1,000件の方が1,000人が家を失っていると考えれば、その何倍もの数が、家を失う前に、今言ったような状況になっているということを考えなければならないと思っています。

武田:「8月になって再び相談が増えている」ということばがとても心に残ったんですけれども、3月から継続して取材している、社会部の横井さん。この家賃や住宅ローンの支払いが滞ってしまう、困難になってしまうというケースは、今どうなっているんでしょうか?

横井悠記者(社会部):今も増え続けています。NHKが全国36の自治体に調査したところ、住居確保給付金の申請件数は、7月までの4か月間でおよそ5万件。去年の同じ時期の90倍に上っていることが分かりました。

また、最初の3か月では生活を立て直せず、支給期間を延長した人も全体の半数以上に上っていて、住居喪失の危機が日増しに深刻さを増していることがうかがえます。
次に住宅ローンですが、住宅金融支援機構によりますと、計画どおりにローンを支払うことが難しくなり、返済条件を見直して月々の返済額を減らした件数は、3月は2件でしたが、5月以降急増し、8月も1,000件近くに上っているということです。

支払いが滞りますと、先ほど紹介した男性のように、損害金が発生して返済額が膨れ上がり、ついには自宅の売却を迫られるということにもつながりかねません。金融機関の多くが返済条件の見直しに応じていますので、支払いに困った場合は、まずは金融機関に相談することが必要です。

武田:生活困窮者の支援活動に取り組んでいる稲葉さん。危機は長引いていますね。稲葉さんのもとではどうですか?

ゲスト稲葉剛さん (つくろい東京ファンド 代表)

稲葉さん:7月の下旬からコロナの感染が再拡大していますけれども、実はそれに比例するかのように、私たちのもとに寄せられる生活困窮の相談というのが、再び増加傾向にありまして、いわば“貧困の第2波”とも言える状況になっています。
コロナの経済的な影響が長期化、深刻化する中で、飲食業や宿泊業を中心に事業を縮小したり、あるいは倒産、廃業に追い込まれたりという企業が増えておりますけれども、こうした職場で働いていた方々の中から、非正規の方を中心に、仕事を失って、住まいまで失ってしまうというような相談が相次いでいるという状況になっています。そして、こうした人たちを支える仕組みとして住居確保給付金があるわけですけれども、住居確保給付金の支給期間というのが最大でも9か月ということになっております。今、利用されている方の多くが、この春から利用されていますので、そうすると年末年始には支給はストップしてしまうという状況になってしまうので、支給期間の延長を含めて、この制度を拡充していくということが求められているというふうに考えています。

横井記者:今、お話しいただいた住居確保給付金は、生活の頼みの綱となっています。ただ、申請が急増する中で、自治体の相談窓口が今、危機的な状況になっているんです。

住居喪失クライシス 公的支援もひっ迫!

住居確保給付金の申請が殺到している、大阪市内の自治体の相談窓口です。

大阪市への申請件数は、ことし(2020年)7月までの4か月間で6,000件余り。去年の同じ時期の270倍に上ります。人手が足りず手続きも煩雑なため、対応が追いついていません。窓口の負担は深刻です。
大阪弁護士会が府内の相談員に行った調査では、75%が「体も気持ちも疲れ果てた」と回答。「退職を考えた」という人も43%に上りました。


退職を決めた相談員
「日中は相談者からの電話が鳴りやみませんし、常に差し迫った相談者が来る。相手の方から『死ね言うんか』とか、『こんな対応しかできひんのか』と。ストレスがずっとある状態なので、もう辞めるという選択肢しかないのかなって。」

調査を行った弁護士 小久保哲郎さん
「相談員の皆さんが限界に達する中で、悲鳴のような声がたくさん寄せられています。このままいくと“相談崩壊”、もう相談現場自体が持ちこたえられなくなって、市民の相談を受け止められなくなるんじゃないか。」

“相談崩壊”を防ぐために

横井記者:ご覧いただいたような状況は、大阪だけではなくて、全国でも起きています。NHKのアンケート調査でも「多忙で職員の数が足りない」「退職する職員がでてきている」という回答が相次ぎました。生活に苦しむ人たちを支える側も疲弊し、十分な支援が行き届かない状況になっているんです。

武田:“相談崩壊”ということばがありましたけれども、支える側の相談の窓口を改善していくには、どんなことが必要なのでしょうか?

稲葉さん:“相談崩壊”を防ぐためには、相談員の方の負担を軽減するということが急務だというふうに考えています。そのために必要なことは、2つあると考えております。
1つは、相談員の数を増員する。そして、待遇を改善するということが必要だと考えています。実は、相談員の方の中には“官製ワーキングプア”ということばがありますけれども、非正規で年収も200万未満という方も多いので、そうした方々に対してきちんと待遇を保障すると。それによって、相談に集中できるような体制というのを作っていく必要があるというふうに思います。
もう1つは、実は、この住居確保給付金の申請手続きが非常に煩雑であると。たとえば、収入が減少したということを証明する書類など、10種類程度の書類を持ってこなければ申請できないということが、相談者だけでなく相談員にも負担になっているという問題があります。何度も来ていただいて、書類を持ってきてもらうということ自体が、相談員にとっても心理的な負担になってきているということがありますので、思いきってこの申請手続きを簡素化して、収入要件と資産の要件だけでシンプルに利用できるような“家賃補助制度”に替えていくということが求められていると考えます。

武田:支える側も疲弊し、深刻さを増す住居喪失クライシス。民間企業や団体も支援に動き始めています。

住宅を失わせないために 民間の取り組み

千葉県に本社がある、家賃保証会社です。保証会社は、入居者から契約料を受け取って保証人となり、家賃の滞納があれば一時的に立て替えます。このため、入居者の生活が破綻しないよう、さまざまなサポートを用意しています。

入居者
「日雇い行ったりね、そういうのもせんと、もう生活やっていかれへんから。もうギリギリの生活です。」

クラウドファンディングなどで資金を集め、収入が減った人や、ひとり親世帯を対象に、最大10万円を支給します。生活を立て直し、その先も家賃を払い続けてもらうためです。

担当者
「これでエントリーできましたので。」

入居者
「そんなの(普通は)何にもないから、一瞬疑うわ、えーって。ありがとうございます。」

さらに、家賃の支払いが難しくなった場合には、住居確保給付金の申請にも同行しています。飲食店を長年経営してきたこちらの女性は、営業自粛が続き、収入が激減。自宅の家賃が支払えなくなっていました。

飲食店経営 女性
「資産も全部なくしてしまって、本当にお恥ずかしいんだけど、このたびお世話になることにしたんです。」

日本賃貸保証 奥出勝也さん
「お客様からお伺いしているのが、4月、5月の収入が全くゼロの状況と伺っていたんですよ。そこについての収入の証明とかは、のちのち書類で用意すればいい形になりますよね。」

申請に必要な書類や記入方法などを、きめ細かくアドバイスします。

女性
「(支援の手続きを)どうやって、どのようにしたらいいか分からないものですから。ネットもできないし、それですべてが後手後手になっている状態でしたので。すごく頑張ろうという気持ちが起きてきました。」

奥出勝也さん
「市の制度とか国の制度っていうのは、伝わりきらないところはあると思います。なるべく不備がなくスムーズに支給されるように、サポートしていきたいと思います。」

すでに住まいを失った人を支援する、民間のプロジェクトも始まっています。新たな住まいを見つける際に壁となるのが、敷金などの初期費用です。

ビッグイシュー基金 高野太一さん
「住まいを失ったり困窮する人って、めちゃくちゃ増えてくるだろうなってことで。やっぱりそういう方々に直接現物を給付するという形で(入居の)初期費用を出すということ。」

このプロジェクトでは、民間企業からの寄付金を原資に、住まいを失った人に最大30万円を支給。敷金や礼金、家具の購入費など入居にかかる費用に充ててもらっているのです。生活困窮者を支援する全国19の団体と連携しています。

LGBTハウジングファースト(ぷれいす東京) 生島嗣さん
「転居費用っていうのは、すごく大きなハードルになっているというのはあると思いますね。今2、3人くらい(支援したい)候補者がいるので、順次ご提案しながら。」

支援団体の一つを訪ねました。60代の男性。3月に飲食店を雇い止めになり、一時は路上生活を余儀なくされていました。仕事がようやく見つかり、今はアパートを探しています。

不動産会社
「お家賃としては、大体5万円台から6万円台。5万円台が理想という捉え方でよろしいですか?」

飲食業 男性(60代)
「はい、結構です。」

今回、プロジェクトの支援で入居の初期費用のめどが立ち、家探しは大きく前進しています。

不動産会社
「これで絞り込んで、ちょっと多めに図面を出していって、だんだん絞り込んでいこうと思います。」

男性
「そうですね。なんかおもしろくなってきました。今この勢いがあるときに、一気に家を探すことまで進めたい。」

栗原
「30万円の支援というのは大きいですか?」

男性
「もう、とてつもなく大きいです。これは貸し付けではなく支援ということなので、いつか恩返しできればいい。支援されるだけで終わることなく、それを返すくらいの気持ちで働いていきたいと思います。」

いま必要な支援とは

武田:取材に当たった栗原さん、どんなことを感じましたか?

栗原:プロジェクトの支援を受けた男性の話を聞いて印象に残ったのは、「私は運がよかった」ということばです。本当にはっとさせられました。この方は支援にたまたまたどり着いただけで、その裏には支援からこぼれ落ちている人がたくさんいるということを意味しているわけで、この“運”ということばに、問題の根深さがあるというふうに感じました。

武田:稲葉さんがほかに今、必要だと思う支援が具体的にあるそうですけれども、どんなことでしょうか?

稲葉さん:住まいを失った方々の相談支援をする中で、今見えてきた課題としては、通信手段の確保という問題があります。生活困窮者の方々の中には、すでに携帯電話などを失っている方も多く、そうすると、今の社会では電話番号がないと、なかなか仕事を探すにも住まいを探すにも、大きなハードルになってしまうという問題があります。そこで、つくろい東京ファンドでは「つながる電話プロジェクト」という取り組みを始めておりまして、スマートフォンを2年間無償貸与する。これによって公的な支援であったり、あるいは住宅・仕事へのアクセスを容易にしていくという環境づくりを考えております。

栗原:困っている方がたくさんいる状況だと思うんですけれども、改めて支援の窓口をご紹介していきます。家賃が払えないなど、住まいを失いそうになったときの相談窓口として、厚生労働省では住居確保給付金に関してのコールセンターを設置しています。こちらの番号におかけください。
そして先ほどご紹介した入居の初期費用を支援するプロジェクトについては、こちらのホームページからアクセスできます。

武田:住宅を失った方々が、「まさか自分が」と口々におっしゃっていたのが印象的だったんですけれども、ウィズコロナの時代、暮らし方や社会のあり方について、私たちはちょっとずつ慣れている一方で、これから多くの方が、この住居喪失という現実に直面していくんじゃないかという不安も感じるんですが、石井さんは今何が必要だと感じていますか?

石井さん:初めに申し上げたように、家を失うということは、それ以外にたくさんの問題を家族が抱えてしまうということなんです。そこにおいて、例えばNPOに住宅の部分だけ支援してもらって、何とかなるということではありません。やはりそこには、トータルの支援というのが必要になってきます。
僕が知っている例ですと、家を失うことによって子どもが居場所を失って、深夜はいかいをするようになってしまった。そのときに、学校は必死になってその子に対してきちんと家庭訪問をしてあげる。例えば塾だとか習い事などの月謝を低くしてあげる。あるいは、クラブの友達や近くの保護者が、その子たちを家に呼んであげる。つまり、地域で支援するということが、どうしても欠かせないことなんですね。
現状でコロナの状況というのは、本当に被害を被った人と被らない人に分かれます。だけど地域支援というのは、困っている人を支えるということなんです。今必要なのは、誰が困っている困っていないではなくて、地域全部が今言ったような状況を把握して、困っている人に対してトータルで支援をしてあげるということだと思っています。

武田:稲葉さん、まだまだ継続して支援するということが必要だと思うんですけれどもこれ以上、住居喪失を広げないために今後必要となるような施策とはどんなことでしょう?

稲葉さん:私たち全国の民間支援団体は、工夫を凝らしながら、多くの方々にご協力いただきながら支援活動を展開しておりますけれども、やはり民間の力には限界があるというふうに考えています。国に対して私たちは、きょうは住居確保給付金の問題を中心にお話ししましたけれども、例えばほかにも、民間の空き家を借り上げた形での住宅支援であったり、特別定額給付金10万円の再支給などが考えられるべきだと思っております。
そして、最後のセーフティーネットである生活保護。残念ながら生活保護にはマイナスイメージがついて回っておりますので、政府からの積極的な「困っている方は生活保護を利用してください」という広報も必要とされている。そうした形で、あらゆる政策手段を総動員しなければ、今の危機は乗り越えられないと考えています。

武田:たくさんの施策・政策、社会全体での助け合い。そういったもので何とか乗り切ってほしい、そういう状況を作らなければいけないと思いますね。