クローズアップ現代

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2020年9月8日(火)
台風 新たな時代にどう備えるのか

台風 新たな時代にどう備えるのか

“最強クラス”とも言われ最大限の警戒が呼びかけられた台風10号。これまで「将来やってくる」と言われてきた「スーパー台風」が日本を襲うようになる時代が現実味を帯びていることを私たちに突きつけた。今回の台風では猛烈な風が吹いたが、今後も同じような風や大量の雨に備えなければいけなくなる。現地で調査にあたっていた専門家などを取材し、最新の知見を伝えていく。また、長期的に見ると台風のコースなどが変わってきており、日本は今回のような台風に、より頻繁に備えなければいけなくなると専門家は指摘する。そこで問われるのが、情報発信や避難行動をどうしていくのか、ということ。今回も、事前に島の外に避難したり、河川名をあげて氾濫の危険性を訴えたりするなど、これまでよりも踏み込んだ対策がとられた。新たな時代の到来にどう備え、どう命を守っていくのか考える。

※放送から1週間は「見逃し配信」がご覧になれます。こちらから ⇒https://www.nhk.jp/p/gendai/ts/WV5PLY8R43/

出演者

  • 中村 尚さん (東京大学先端科学技術研究センター教授)
  • NHK記者
  • 武田真一 (キャスター)

各地で観測史上最大 暴風の脅威

今回の台風10号。西日本の33地点で、観測史上、最も強い最大瞬間風速を記録しました。

最も激しい59.4メートルの風が吹いた、長崎市野母崎です。倉庫の屋根が強風で吹き飛んだ、漁師の男性。かつてない風への恐怖を感じたといいます。

男性
「風の音じゃなかったよ。ハンマーでたたき割るような音だった。」

身の危険を感じたという夫婦。吹き荒れる風の様子を撮影していました。窓越しに聞こえる風の音。奥には、飛来物が。

「飛んだ!」

「シャッターがないんで、ガシャガシャバンバン飛んでいくのが見えたので。こっちにきたら怖いので、近寄れなかったです、窓際。」

風速35メートルの環境で行われた、実験映像です。身近なものでさえ、凶器に変わる可能性があるのです。

最大瞬間風速59.4メートルを記録した野母崎。風は、どう強くなっていったのか。風の変化の一部始終を記録していた山崎楓太さんは、これまでの台風とは全く違っていたといいます。山崎さんが撮影を始めたのは、6日午後9時45分ごろ。部屋の停電がきっかけでした。

このとき、台風の位置は鹿児島の西側。野母崎の平均風速はまだ15メートルほどでした。

山崎楓太さん
「本当に来るのかなという状況はあった。22時くらいまではたいしたことがないと。」

ところが、日付が変わると状況は一変。平均風速は、2時間の間におよそ30メートルも強くなったのです。

山崎さんは、これまでの台風と比べて明らかに危険が増していたと感じています。

山崎楓太さん
「予兆があまりなかった、9号よりは。9号は徐々に来た。10号は急に来たような感覚があった。風に吹かれているというよりは、風がぶつかっている感じ。慣れている人たちからしても今回は別格だった。」

今回、猛威を振るった風は、予測不能な動きをしていたことも分かってきました。
鹿児島市で行われていた観測では、あらゆる角度から風の動きをとらえるため360度カメラを設置。さらに、風圧計を取り付けたマネキンと、超音波風速計も用意されました。

実験を行った、京都大学の西嶋一欽准教授です。注目したのは風が市街地に与える影響でした。

京都大学 防災研究所 西嶋一欽准教授
「多くの人が生活しているのは市街地。そういう市街地でもし外に出たら、どのような風を受けて、それがどのような危険につながっていくのか。」

6日、日曜日の午後6時。鹿児島市上空では東からの風が吹いていました。しかし、そのとき地上では、一方向からではなく、さまざまな方向から不規則に風が吹いていました。

西嶋一欽准教授
「風向(ふうこう)とか風速がかなり乱れているような。周りの木とか見ると、地表面に近いところだと、いろんな障害物、木、建物とかあるので、そういうものがあることで風の乱れが大きくなる。」

西嶋准教授は、詳しい解析はこれからだとしながらも、障害物が多い市街地では、予測不能な風の動きに警戒しなければならないと指摘します。

西嶋一欽准教授
「突然強い風で風速が変わるとか、風向が突然変わるとか、自身が転倒したり吹き飛ばされるということと、飛散物に衝突してけがをすることがある。これに対して抵抗するのは難しいので、そもそも強風が吹いているときには外に出ないことが重要。」

九州大学大学院の、塚原健一教授です。

九州大学大学院 塚原健一教授
「看板が飛んでけが人が出たとか、ああいうのはいつでも起こりうるので、それをどうするか考えないといけない。」

市街地で特に警戒が必要だというのは、古い建造物による2次災害です。今回の台風では、福岡市博多区で観測史上最も強い39.1メートルの最大瞬間風速を観測。

市内では、古い建造物の被害が相次ぎました。

塚原健一教授
「はがれた壁の破片、あれが風速40メートルの風に乗って飛んできたら、多少頑丈なガラス窓でも簡単につきやぶる。ひとたび災害がおきて、弱い建物が被害を受けると、その地区全体にいろいろな悪影響が出てくる。」

古い建造物が混在する市街地。たとえ自分のいる場所が風に耐えられるとしても、安全は担保できないと警鐘を鳴らします。

塚原健一教授
「周りを見て弱い建物があった場合、その自分が住んでるエリアの強さは、自分の建物の強さではなく、周りで一番弱い建物の強さで決まってくる。洪水や地震のハザードマップはあるが、風のハザードマップはない。自分の家の周りがどれぐらい安全か、そういう目で自分の街をもう1回見てほしい。」

スーパー台風並みの暴風から命を守るには、どう備えればいいのか。専門家は、新たな時代に向け、建物が暴風に耐えるための設計をする必要があると指摘します。

東京工芸大学 松井正宏教授
「どういうところに耐風性を確保するカギがあるのか、現在起きている被害から学んで耐風性を考えた設計をすることが、今後、建物の耐風性を確保する上では重要になると思う。」

日本襲来のメカニズム

最大風速60メートル以上のスーパー台風。それと同程度の台風が次々と起こる時代が、もうそこまで来ています。最大の要因は海面水温の上昇です。過去100年、日本近海の水温は年々上がり、ことし(2020年)の8月には、日本の南などで統計開始以来最も高い温度となりました。この影響で水蒸気が多く発生し、強力な台風を生んでいるのです。

名古屋大学 宇宙地球環境研究所 坪木和久教授
「海の温度が上がれば上がるほど、それだけ強い台風の数が増える。最大強度になる。」

さらに、地球温暖化も原因の一つといわれる、高気圧の異変が影響を与えています。太平洋高気圧が北や西に張り出し、それに押し上げられるように台風の進路が日本に接近していると見られるのです。東京周辺に接近した980ヘクトパスカルより強い台風の数は、過去40年で2.5倍に急増しました。

坪木和久教授
「現在は気候の大変動の時代にある。台風の最大強度が増す方向に変わっていくだろう。日本の本土付近まで非常に強い勢力を維持して接近する。」

今回、九州を襲った台風10号。実は、もっと強い勢力に発達していた可能性も浮かび上がってきました。台風の発達メカニズムを研究している、宮本佳明さん。注目しているのが、およそ1週間前に通過した台風9号の存在です。

慶應義塾大学 環境情報学部 宮本佳明専任講師
「台風9号が通過したことによって、その強い風で海の中が混ぜられて、海面の水温が下がった。」

9号が通過したことで低下した、九州西側の海面水温。それと同じ経路を台風10号がたまたま通過したことで、勢力が抑えられたと見られるのです。

宮本佳明専任講師
「通常の台風を上から見たとすると…。」

さらに台風の発達が抑えられる、ある珍しい現象も起きていました。台風の目の周りには“アイウォール”と呼ばれる壁のような雲があり、海からの水蒸気を引き上げる役割を果たします。台風10号が奄美大島にさしかかったとき、アイウォールの外側にもう1つ、壁のような雲が現れたのです。

宮本佳明専任講師
「取り囲むようにもう1つ、リング状の雲が見える。」

発生のメカニズムがまだ解明されていない、2重のアイウォール現象。これによってエネルギーが分散し、台風の勢力が弱まったと宮本さんは分析しています。

宮本佳明専任講師
「外側の雲が出来なかったとすると、内側の雲があれだけ急速に弱まったことはなかったんじゃないか。本当に恐ろしいことになってたんじゃないかと思われます。」

今後もスーパー台風への警戒を緩めてはいけないという、坪木和久さん。関東の南の海面水温が高いままのため、さらに強い台風が大都市を襲う可能性は否定できないといいます。

名古屋大学 宇宙地球環境研究所 坪木和久教授
「関東の南の海上というのは、まだ30度近い海面水温になっている。そのようなところで発生して接近、上陸するような台風は極めて強い台風となる可能性も十分あります。備えも十分していく必要がある。」

私たちは、スーパー台風時代とどう向き合えばいいのでしょうか。

新たな脅威にどう備えるのか?

武田:異常気象、気候変動が専門の東京大学の中村さん。最大級の警戒が呼びかけられた台風10号ですが、こうした台風が生まれてくるようになっている状況をどう受け止めていらっしゃいますか?

ゲスト中村尚さん(東京大学 先端科学技術研究センター 教授)

中村さん:いわゆるスーパー台風というものは、現実に日本に襲来するような、そんな時代がやってくるのではないかというような予感を強く抱かせました。これは地球温暖化の影響もあって、日本の近海まで熱帯並みに暖かいというようなことが要因だったと思います。
この長期的な温暖化に重なったのが実は自然変動でありまして、7月には、夏の太平洋高気圧が例年になく南西に強く張り出すような状況で、これによって南の海上の水温がかつてないほど上昇しておりました。それは、実は令和2年の7月豪雨の要因にもなっていたわけですけれども、それが時間差の影響として台風10号の急発達を促したのではないかと考えています。

武田:そして社会部・災害担当デスクの島川さん。台風が強くなって、特に住宅地での風のリスクが増しているとありましたけれども、だとすると、まちづくりのあり方も考え直していかなければならないんでしょうか?

島川英介記者(社会部・災害班):先ほどの西嶋准教授に話を聞きますと、やはり既存の建物をどう強くするか、その対策の必要性を訴えていらっしゃいました。去年(2019年)の台風15号は、千葉県では大きな被害がありましたが、今でも修理が進んでいない住宅というのが多数あります。そういった中で、さらに台風被害があって、被害が拡大する。さらにそれがほかの地域でも起きますと、これは日本の社会としての対応が困難になるのではないかと懸念しているわけです。住宅が壊れますと、その住宅だけではなくほかの住宅にも被害を与えますから、現在の建物の住宅をどう補強していくかということについて、今後支援を考えていくべきではないかと指摘をしていました。

武田:中村さん、まだ海水温が高い状態だということですけれども、今シーズン、今後も台風10号のような規模の台風がまだまだ発生するということになるんでしょうか?

中村さん:そうですね。今回、たまたま台風9号が東シナ海を北上した影響で、水温が急速に低下したということもあって、3日前の予想よりも勢力が保てなかったというだけであって、これはまさに偶然の所産です。もし9号が来なかったら、例年になく暖かい海の上を台風10号がやってきて、それで水蒸気を大量に受けるわけですから、猛烈な勢力に発達した後、勢力を維持したまま九州に接近して、そうなれば被害が非常に甚大なものになったかもしれません。
東日本の近海が例年よりも2~3度も高いような状態が続いておりますので、昨年の台風19号のような、関東にまっすぐ北上してきて上陸するようなルートを取った場合、被害が非常に大きくなる可能性があると思いますので、警戒が必要だと思います。

武田:今回の台風10号、気象庁は事前に最大級の警戒を呼びかける異例の対応を取りました。自治体や住民はどう備え、命を守る行動をとったのでしょうか。

迅速な避難で命を守るには

台風10号の最接近が2日後に迫った、鹿児島県十島村。かつてない島外への避難が行われました。

気象庁 予報部 中本能久予報課長
「自分の命、大切な人の命を守るため、早めの対策をお願いいたします。」

気象庁は連日会見を開き、最大級の警戒を呼びかけました。

国土交通省は、台風襲来の前に氾濫する可能性のある河川を特定して発表。異例の対応でした。過去の経験を上回る台風に対し、新しい仕組みを使って、いち早く避難情報を出そうとしている自治体に密着しました。

危機管理課長
「記録的な大雨、暴風、高波、高潮となる恐れがあるということであります。」

過去の台風でも川が氾濫した西都市。避難に時間のかかる高齢者も多く、洪水に対して最大限の警戒をしていました。
避難対応を担う危機管理課の新田雅伸さんが、今回、避難情報を出すために期待を寄せていたのが、東京大学とJAXAが研究中の「Today's Earth JAPAN(TEJ)」という洪水予測システムです。西都市は、ことしの夏から実証実験に参加しています。

西都市役所 危機管理課 新田雅伸係長
「災害対応に役立てていこうと考えています。」

TEJでは、衛星画像などから川の流れや土壌、植生などを割り出し1キロメートル四方ごとに蓄えられる水の量、「保水力」を推定します。さらに、風や湿度、水分の蒸発なども考慮し、いつ、どこで洪水のリスクが高くなるかを予測します。
ピンが立った場所は水位の上昇が予測された地点。最大39時間前に予測できます。

これまで利用できたのは、実際の水位や雨量をもとに最大6時間前に提供される気象庁からの情報。これに対し、TEJは格段に早く、避難のための判断材料にできると期待されているのです。

新田雅伸係長
「河川氾濫については、どうしても事前に早ければ早いほうが住民避難の準備情報を出せますので、非常にありがたい情報になると考えてます。」

西都市に台風が近づいてきました。予報によると、台風が通過するまでの48時間に宮崎県で降る雨は最大1,000ミリ。過去に経験したことのない大雨です。TEJは、県内2つの川の流域にリスクを示すピンを表示しました。しかし、西都市にはピンが立ちません。

新田雅伸係長
「西都市はまだ(洪水予測の)表示がないので。」

その日の昼過ぎ。これから雨が強くなれば避難が間に合わなくなると判断し、市は一部地域に避難勧告を出すことを決定しました。

新田雅伸係長
「(アナウンス)避難勧告を発令しました。」

住民
「雨が激しくなったら出られないから、早めに(避難所へ)行こうかって。」

6日深夜。台風10号は最接近。想定よりも雨は少なく、川の氾濫は起きませんでした。結果として、TEJの予測どおりになりました。
一方、TEJがピンを表示していた2つの川の流域では、実際に氾濫危険水位に達していました。

西都市では、今後TEJも使いながら、確実で素早い避難情報の提供を行っていく必要があると考えています。

新田雅伸係長
「本当に情報のひとつとして使わせていただければなと感じています。」

新たな脅威にどう備えるのか?

武田:さまざまな情報を避難に生かそうという自治体の模索が続いていますが、中村さんは各自治体のこうした取り組みをどうご覧になっていましたか?

中村さん:被害を抑えるために、例えば事前に大型ヘリで避難するという様子も見られていましたけれども、これは大変有効な方法だと思います。今回は、事前に台風の特別警報が出るという可能性が報じられていましたので、台風の接近が多い九州でも、初めて避難をしたという方が少なくないと聞いています。それでも、これで予報が外れて、ここまでする必要がなかったんじゃないかと考える人もいるかもしれませんけれども、これはたまたま、偶然で被害が少ない状況になったということだと思っています。今後、温暖化が一層進めば、過去の経験が役に立たなくなるという事態に遭遇するかもしれません。そういうことを肝に銘じておくべきだと思います。

武田:今回の台風10号について、時系列で整理しました。台風が発生したのは今月(9月)の1日でした。翌日には、気象庁は特別警報級の勢力に発達するおそれがあると異例の呼びかけをしました。それを受け、自治体でもこうして早めの避難の動きが見られました。島川さん、気象庁はたびたび国土交通省などと会見を繰り返しましたけれども、こうした対応にはどんな意図があったのでしょうか?

島川記者:やはり直前の段階でも例えば、九州南部でも最大瞬間風速70メートルというような予測が出ていたわけです。そうなりますと、暴風域に入った段階では、もはや外に出て避難するという通常の行動が困難になるということが予想されるわけです。異例の形ではありますけれども、週末までに移動をしておいてほしいという呼びかけを行いました。
ただ、その数日前でありますと、台風の予報には進路や強度の一定の誤差が残っていますので、そういったところはある程度やむを得ないという面があると思います。こういった台風10号のような勢力の強い場合は、空振りというのを無駄だと思わずに、事前の避難をしていくというのが大事だと思います。
ただ一方で、今後、中長期的には、この台風予報の精度の改善もやはり必要になってくると思います。今回、事前の予報ほどは強くならなかった要因は、台風8号や9号が通った東シナ海を、改めて10号が通ったからだとされています。ただ、専門家によりますと、直前の海面水温などが、今の気象庁の台風予報の中には十分に盛り込めていないという指摘もあります。スーパー台風の時代に合わせて、こうした台風予報の精度改善も求められてくるというふうに思います。

武田:そしてもう一つの課題として、今回、避難所の定員を上回る人が訪れて、受け入れができなかったというケースも相次ぎましたね。

島川記者:今回NHKがまとめたところ、定員に達した避難所の数は500か所にも上るということなんです。暴風雨の中での移動というのは危険が伴いますから、もし風が強まっているということであれば、いったんは受け入れて、その中で最大限の感染防止対策をするということが望まれると思います。避難所に行くだけが避難ではないということを、改めて考えていただきたいと思います。災害に遭うおそれがなく、頑丈な建物なのであれば、知人の家や親戚の家などに早い段階で移動するといったことも、これからは前向きに考えていただきたいと思います。

武田:中村さん、台風シーズンはまだまだ続きますが、私たちはどう備えていけばよいとお考えでしょうか?

中村さん:今回、たまたま9号が同じ海峡を先に通っていたという偶然で、予想ほどは台風が強くならなかったということだけですので、今回無事だったからといって、来年以降やってくるような台風についても大丈夫と油断するのは、大きな間違いだと思います。日本の近海は温暖化がどんどん進んでおりまして、近い将来、猛烈な台風が近づいてくる可能性も否定はできません。過去の経験が役に立たなくなる、そういう状況も想定して、柔軟な発想で命を守るような対策をぜひ考えていただきたいと思います。

武田:新しい時代に合わせて私たち、何ができるのかもう一度身近なところをしっかりと見渡して考えていきたいと思います。ありがとうございました。