クローズアップ現代

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2020年7月15日(水)
“森友問題” 裁判はじまる ~疑問は明らかになるのか~

“森友問題” 裁判はじまる
~疑問は明らかになるのか~

森友学園をめぐる問題で、決裁文書の改ざんに関わり、自殺した近畿財務局の職員、赤木俊夫さんの妻が、国や佐川元理財局長を相手に損害賠償を求める裁判をおこした。裁判では何が争点になるのか、新たな事実が明らかになるのか、最新情報を交えて伝える。自殺した赤木さんは、手記に何をつづっていたのか・・・妻が語る、亡くなるまでの夫の様子とは。財務省の報告書や証言などから浮かび上がる、改ざんの経緯や組織の問題とは。これまでの経緯を整理し、“森友問題”の何が解明され、何が疑問として残されているのか考える。

※放送から1週間は「見逃し配信」がご覧になれます。こちらから ⇒https://www.nhk.jp/p/gendai/ts/WV5PLY8R43/

出演者

  • NHK記者
  • 武田真一 (キャスター)

“森友問題”裁判始まる

武田:森友学園を巡る問題。そもそもの発端は2017年2月、小学校の用地として学園に売却された国有地が、地中のごみの費用撤去などとして、8億円値引きされていたことが発覚したことでした。当時、小学校の名誉校長を安倍総理大臣の妻の昭恵氏が務めていたことから、政治が関与した不当な値引きではないかと国会で大きな議論となります。
2月17日、安倍総理大臣が国会で「私や妻が関係していれば、総理大臣も国会議員も辞める」と発言し、関与を否定。財務省の調査によると、土地取り引きに関する決裁文書の政治関係者の記載の取り扱いを巡って、当時の財務省・理財局長 佐川宣寿氏が「最低限の記載とすべき」と反応。2月26日、財務省と近畿財務局の職員が改ざんを始めました。そのおよそ1年後の3月2日、改ざんの疑いが初めて報じられました。5日後の3月7日、指示を受け、改ざんに関わっていた近畿財務局の職員・赤木俊夫さんが自宅で自ら命を絶ちました。その5日後、財務省は改ざんの事実を認めます。5月、大阪地検特捜部に告発されていた佐川氏や財務省の幹部らが全員不起訴となりました。
亡くなった職員の妻・赤木雅子さんは、国と佐川氏に1億1,000万円余りの損害賠償を求めています。裁判を通じて、夫の自殺の原因と経緯を明らかにしたいとしています。

夫の自殺の原因と経緯を明らかに 原告の訴え

2年前の3月7日、自宅で命を絶った、近畿財務局の職員・赤木俊夫さん。妻の雅子さんは、遺影に語りかける毎日を送っています。

妻 雅子さん
「信じられないんですよ、まだ。ふってね、あれやっぱりいないんやって思うことは、いまだに、しょっちゅうあるんですよ。夜になったら帰ってくるんちゃうかなとか。電車に乗ってても隣の車両にいるんじゃないかなとか。やっぱり似た人見たら、後ろ姿を目で追いかけるし。さみしい。」

高校卒業後、旧国鉄を経て財務局に採用された俊夫さん。いわゆるノンキャリアの職員でした。手帳の初めのページに、国家公務員倫理カードを掲げ、「僕の雇用主は国民です」とよく語っていたと言います。


そんな俊夫さんの人生が一変したのが、2017年の2月。国会では、森友学園に8億円値引きして国有地が売却されたことを巡って、財務省が連日釈明に追われていました。

財務省 佐川理財局長(当時)
「売買契約締結をもちまして、すでに事業終了してございますので、記録が残っていないということでございます。」

2月26日、日曜日に財務局から呼び出しを受けた俊夫さん。森友学園への国有地売却を巡る経緯を記した文書を改ざんするよう上司から指示されました。この日以降、ほかの職員も加わって改ざんが繰り返し行われ、鴻池参議院議員や安倍総理大臣の妻・昭恵氏らの名前が削除されたのです。
さらに、森友学園を優遇したと受け取られかねない部分が削除されるなど、改ざんは最終的に300か所に及びました。

雅子さん
「(俊夫さんは)『もう絶対やったらいけないことで、とんでもないことを今、近畿財務局はやっているんだ』って言っていたので。ただ私も怖くて聞けないし、職場のことは言わないので、それ以上聞かなかったんですけど、相当なことはあったんだろうなと思ってました。」

改ざんに強く抵抗した俊夫さん。その後、さらにショックなことが起きます。人事異動で、改ざんを命じた上司をはじめ、関わった職員が他の部署に異動。俊夫さんに内示はなく、取り残される形になりました。


今回の取材で、雅子さんは俊夫さんがつづったノートを初めて見せてくれました。「病院」と題されたノート。改ざんから5か月後、俊夫さんはうつ病を発症し、仕事に行けなくなりました。ノートは、俊夫さんが病状や日々の思いを記したものです。

雅子さん
「ここに書いてあるのは『したくないことをさせられる』『病気の原因が仕事に起因している』って書いてますね。当時を思い出すし、かわいそうですね。」

“一日一日が無為で、仕事もできずにただむなしく過ぎていく。”

“このつらい思いは筆舌に尽くしがたい。”

このころ、森友学園への国有地売却を巡り、検察の捜査が始まりました。俊夫さんは、自分だけが責任を問われるのではないかと追い詰められていきました。

“地検のこと、事案は今後もずっと継続する。いつかは応じる必要がある。”

“とにかく苦しい。時折、自分を失ってしまう。”


改ざんから10か月がたった2017年の年末。俊夫さんのもとに1本の電話がかかってきました。

雅子さん
「12月25日に、私が仕事から帰ってきたら、『とうとう検察から電話があったんや』って言われて、まさしく検察の人が電話してこられてから急激に体調壊れたんですよ。『死ぬ死ぬ』とずっと言いだしたので、『自分がひとり悪者にされる』ということは言っていたので。もうすごく、おびえていました。壊れていくんですよ、ちょっとずつ、ちょっとずつ。」

雅子さんが医師に病状を説明するために撮影した俊夫さんの姿。ほとんど睡眠が取れず、幻聴や幻覚に苦しんでいました。

雅子さん
「とっちゃん(俊夫さん)耳鳴り、幻聴なんよ。だって、いっこも聞こえんもん私には。そんなんで何で死なにゃいけんの。」

俊夫さん
「わし車で出かけるけん。それだけ許して。」

雅子さん
「絶対いやじゃ。
とっちゃん、そんなんで死ぬって、頭おかしゅうなっとるよ。」

俊夫さん
「おかしゅうなってない。大丈夫じゃ。」

雅子さん
「おかしいよ。」

雅子さんは当時の思いをメモに残しています。

“このころから、口を開けばマイナスのことばかりでケンカをするようになる。それまで20年ケンカをしたことはほとんど無かった。私も限界になっていました。”

亡くなる前日の出来事。

“深夜、私の首をしめる。”

その翌日、出勤する雅子さんを玄関まで見送った俊夫さん。最後の言葉は「ありがとう」でした。
改ざんからおよそ1年後の2018年3月7日。俊夫さんは自宅で命を絶ちました。54歳でした。


死の直前に書いた手記。改ざんに関わった公務員としての責任を、自らに問うていました。

“この手記は、真実を書き記しておく必要があると考え作成したものです。元はすべて佐川理財局長の指示です。抵抗したとはいえ、関わった者としての責任をどう取るかずっと考えてきました。”

亡くなった部屋のテーブルには手書きのメモが残されていました。

“最後は下部がしっぽを切られる。なんて世の中だ。手がふるえる。恐い。命。大切な命。終止符。”

雅子さん
「死んでほしくはなかったけど、これで楽になれたなって声かけたんですよ。やっと楽になれたなって。自分もやし、夫も楽になれたなと思うぐらい、つらかった。
いくら今どれだけ考えても、どうやったら助けてあげられたかが分かんなくて。そう思うとやっぱりちゃんと(裁判で)もう1回助け直したいというか、あのとき助けられなかったので。」

被告の国の主張は?

武田:きょう(15日)から始まった裁判。国側は、改ざんが自殺の原因になったかについては明らかにせず、俊夫さんが改ざんに強く反発したことや、作業によって連日、長時間労働となったことなどは認めました。
一方で、賠償請求については争う姿勢を示しています。裁判に至ったことをどう受け止めるのか、きのう(14日)麻生財務大臣に聞きました。

麻生財務相
「近畿財務局の職員が亡くなられたということについては、残されたご遺族の方々の気持ちを思いますと、これは言葉もありません。
訴訟に関わるご意見についてのコメントは差し控えると。」

きょうの裁判で何が?

武田:森友問題の取材を続けてきた、大阪放送局の加戸記者に聞きます。きょうの裁判で、原告の雅子さんは「夫・俊夫さんの自殺の経緯を明らかにしてほしい」と求めました。それに対して国は、俊夫さんが改ざんに強く抵抗していたことは認めたんですね。

加戸正和記者(NHK大阪):そうですね。財務省は改ざんの経緯など、調査報告書にまとめ公表しています。この中には、本省からの改ざんの指示に抵抗した近畿財務局の職員がいたこと自体は書かれているんですけれども、それが俊夫さんのことなのかどうかはっきり分からない記述になっているんです。
今回、俊夫さんが抵抗していたことをはっきり認めたことだけでも、雅子さんは提訴した意味があったと話しています。
俊夫さんが残した手記にも改ざんの指示にあらがったことがつづられています。手記の内容が正しいことが部分的ですが、改めて裏づけられた形です。
一方で、国がきょうの答弁書で触れた改ざんの経緯。これは財務省の報告書に書かれている内容をなぞるものにとどまりました。俊夫さんの自殺の原因については国は答えませんでした。そして、賠償請求の棄却を求めて争う構えを見せ、具体的な主張は9月末までに示すとしたんです。

裁判の後、記者会見した雅子さんは「夫がなぜ死んでしまったのか知りたいだけなのに、訴えを認めてもらえないことの意味がわかりません。国は真面目に答えてくれていないと思う」と述べました。

武田:原告の雅子さんは、ほかにもこうしたことを裁判で求めています。官僚の保身や、そんたくによる軽率な判断や指示で現場の職員が苦しみ、自殺することが二度とないように組織の問題を明らかにすること。そして、誰の指示で改ざんが行われたのかを法廷で当事者が説明することです。

財務省の報告書が指摘 組織の問題

組織の中にどのような問題があったのか。改ざんの発覚後、財務省が調査結果をまとめた報告書です。改ざんの主な目的は「国会審議で森友学園案件が大きく取り上げられる中で、さらなる質問につながりうる材料を極力少なくすること」「連日の国会審議への対応により職員が疲弊しており、それ以上議論の材料を増やしたくなかった」などとしています。
そして、当時の佐川理財局長から具体的な指示はなかったものの「改ざんの方向性を決定づけた」と認定しました。こうした対応は「あってはならない不適切なものだった」と結論づけています。


報告書をどう受け止めたのか。近畿財務局に勤務していた男性に話を聞くことができました。

近畿財務局 元職員
「どうしても責任を取りたがらない組織であるので、個人での必ずしも明確な言葉が使われるわけではないんですね、特にダーティな場合。いわゆる忖度(そんたく)、つまり上司、特に決裁権者が何を考えているか推測し、それに見合った結果を迅速に出す。そういった能力を鍛え上げられているというのが、役人、特に財務省の特徴です。結局『集団責任は無責任』という言葉を具現してしまっている。」

報告書では、近畿財務局が本省の指示に従ったことについて、「改ざんに多くの職員が反発していたが、本省理財局の立場を慮(おもんぱか)って作業に協力した」としています。

近畿財務局 元職員
「本省あるいは本庁から『こうしなさい』と言われれば財務局に反論する権限はない。本省や本庁が“頭脳”だとすると、財務局は“手足”。指示があれば財務局は粛々と遂行していくという立場が基本。」

裁判を起こした雅子さんは、審理を通じて組織内部の問題点を明らかにし、俊夫さんのような悲劇を二度と繰り返さないよう訴えています。
その思いを強めた出来事がありました。俊夫さんが亡くなった翌日、財務局の同僚が弔問に訪れたときのことです。同僚は、俊夫さんが組織の体質を問うた手記について、公表を控えるよう働きかけてきたと言います。

財務局 同僚
「それ(公表)を望んでやるのであれば、もっと違う形で彼も出しようがあったと思いますので、どこの新聞社でも本人が送りつければいい話なんで。そういう形で出たら雅子さんが格好の餌食になって、マスコミにさらされちゃう。そんなんなったら大変なことになる。その後の人生がめちゃくちゃになってしまう。」

親戚
「読むだけ読んで棺おけに一緒に入れて送るのでもええかと思ってます。」

財務局 同僚
「そうですね。」

さらに…。

雅子さん
「これから先、私も一人になっちゃうので。」

財務局 同僚
「そこはこっちでどうできるか。こちらでもお勤めうんぬんやったら、財務局で働くことができるようなことがあり得るかどうか。」

雅子さん
「いいえ、それはないです。」

財務局 同僚
「いややね、そんなの。」


雅子さん
「なんでそんな、人の気持ちをえぐるようなことがいえるんだろうって思って。なんか私にしゃべらすまいっていうか、抱え込みたいんやったんかな。」

疑問は明らかになるか

裁判で雅子さんは佐川氏に賠償を請求し、法廷で証言することも求めています。
2年前の証人喚問。

財務省 佐川理財局長(当時)
「刑事訴追の恐れがありますので、答弁を控えさせていただきたい。」

佐川氏は改ざんの経緯について、これまで公の場で説明していません。告発を受けた検察の捜査でも、佐川氏は不起訴になりました。当時の検察幹部は次のように語っています。

“佐川氏が改ざんを具体的にどのように指示したのかや、官邸や政治家らの関与があったのかどうかは、捜査でも明確にならなかった。”

「関係者はみな知っていることを話してほしい」。雅子さんはその一心から手記を公表し、裁判を起こしました。

雅子さん
「せめて改ざんを指示した人は話して欲しい。しゃべることが責任を取ることのスタートだと思う。」

きょうの裁判で佐川氏側は、「在職中の行為で、公務員個人は賠償責任を負わない」とする答弁書を提出。争う姿勢を示しています。

問われているのは

武田:佐川氏側がこのように主張しているのはどういうことなんでしょうか?

加戸記者:佐川氏側が主張したのは「国家公務員が職務上の行為で他人に損害を与えた場合、その賠償責任は個人ではなく国が負う」というもので、裁判では確立した判例なんです。公務員個人が賠償リスクに萎縮して職務に消極的にならないよう考慮されたもので、この判例が適用されるという主張をしているんです。
これに加えて佐川氏側は「公務員が退職後に説明や謝罪の義務を負うこともない」と主張しました。これに対し原告側は「そもそも今回行われたような改ざんという不正な行為は、国家公務員がすべき職務には当たらない」と反論しているんです。

武田:財務省担当の経済部・竹之下記者にも聞きます。
この組織の問題について、財務省はどのように考えているんでしょうか?

竹之下茂記者(経済部 財務省担当):財務省はNHKの質問に回答を寄せました。
「二度とこうしたことを起こさないよう、文書管理の徹底など必要な取り組みを進めるとともに、組織として抱える課題を抽出した上で、問題行為の発生を許した組織風土の改革を進めているところで、信頼回復に努めたい」としています。
財務省には鉄の結束があると言われていまして、地方の財務局にとって本省の指示は絶対だ。あるいは、上司の指示命令は従うものだといった空気がありました。ですから、これを改めようと意識改革を進めているんです。
職員からは「地方からの風通しはよくなった」といった声も聞かれているんですけれども、改革がかけ声倒れに終わらないようにするべきだと思います。

武田:裁判を起こした後、雅子さんは再調査を求めて署名活動を始めて、賛同した人は35万人に上っているわけですけれども、この再調査について財務省はどう考えているんでしょうか?

竹之下記者:財務省は再調査を行う必要はないという立場です。その理由については、「赤木さんの残した手記と財務省の報告書の内容に実質的な違いはないからだ」と説明しているんです。報告書でも「一連の改ざんは佐川元局長が方向性を決定づけ、近畿財務局の職員の抵抗にも関わらず、理財局の指示で行われた」と結論づけているからなんです。

武田:公文書の改ざんによって人の命が失われたということ。この一連の問題が投げかけているものは何だというふうに考えていますか?

竹之下記者:官庁の中の官庁と言われる財務省で公文書を改ざんするというあってはならないことが起きました。財務省の信頼が地に落ちていることを改めて認識すべきだと思います。しかし、改ざんは過去の問題になりつつあると話す官僚さえ今はいるんです。職員の命が失われたことを重く受けとめて、改革を真剣に続ける必要があると思います。

武田:加戸記者は今回の裁判が投げかけるものどういうふうに考えていますか?

加戸記者:改ざんのキーマンとされる佐川氏は、理財局長を務めた後、国税庁の長官に栄転しましたが、改ざんが発覚し長官を辞任しました。その際、「これまで誠心誠意、国民に尽くしてきた」と述べていました。しかし、刑事訴追される可能性がなくなった今も口を閉ざしたままです。
佐川氏だけではありません。夫が死に至ったその真実を知りたい。雅子さんの問いかけに正面から応えようとする官僚は、これまで1人もいませんでした。こうした姿勢に雅子さんは「今も組織の理屈が優先され、時間が過ぎることを待っているように感じる」と話しているんです。
ただ、きょうの法廷で雅子さんは「裁判になれば、本当のことを話しますと伝えてきた職員もいた」と明かしました。
「国民が雇用主だ」と話し、最後に手記を残した俊夫さん。苦しみに抜いた末に裁判を起こさざるを得なかった雅子さん。この裁判にどう向き合っていくのか、改ざんに関わった公務員一人一人の心に重く問いかけられていると思います。

武田:理不尽な組織の論理で、死にまで追いやられた赤木俊夫さん。夫を失った雅子さん。その2人の無念の思い。そして、国民がこの国の行く末を委ねている、その場所で一体何があったのか。私たち国民もある意味、当事者です。私たちもこの裁判が投げかけるものを知る必要があると思います。