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2020年7月1日(水)

あなたはいつまで働きますか?
~多発するシニアの労災~

あなたはいつまで働きますか? ~多発するシニアの労災~

新型コロナの影響が高齢者の働く現場を直撃している。雇い止めなどの窮状を訴える高齢者が相次いでいる一方、慢性的に人手不足の現場では、感染リスクの不安を抱えながらの仕事が続いている。いずれも背景には「年金だけでは暮らせない」という切実な訴えがある。
そうしたなか、仕事が原因でケガや病気になる「労災」は、高齢者層だけが高止まりを続けている。これまで比較的危険が少ないと考えられていた産業で増加傾向にあるのが特徴だ。さらに取材を進めると、仕事で事故にあっても「労災」と認められないケースが少なくないことも分かってきた。
「人生100年時代」といわれるなか、現場で何が起きているのか。その現状を伝え、私たちの老後のあり方を考える。

出演者

  • 藤田孝典さん (NPO法人ほっとプラス理事)
  • 石井光太さん (作家)
  • 武田真一 (キャスター) 、 栗原望 (アナウンサー)

コロナ禍の中で働く高齢者に何が?

4月から定期的に行われている、全国電話相談会です。

担当者
「今67歳でいらっしゃって、ご主人とふたり世帯ということですね。」

新型コロナにより仕事が激減した、解雇されたなど、寄せられた相談のおよそ半数が60代、70代の高齢者からです。

弁護士 猪股正さん
「高齢者からまず先に雇用を打ち切られる。高齢者が真っ先に“雇用の調整弁”とされている実態があって。」



冠婚葬祭の仕出しを行う会社で、20年にわたりパートとして働いていた60代の女性です。緊急事態宣言後の4月。仕事の受注が減ったことを理由に突如、休業を告げられ、月20万円ほどの収入が断たれました。

60代の女性
「今はとても苦しいです。どん底です、本当に。」

女性の会社では、休業補償として正社員に対し給与の6割を支給するとしていました。しかし、従業員の8割以上を占めていたパートには一切、支払われませんでした。パートの4割が60歳以上のシニア層でした。

女性
「一生懸命やってきたのに、別にいらないって、今までやってきたのに捨てられちゃった感じ。20年間はなんだったんだろうと。」

平穏だった人生が一変したのは、コックとして働いていた夫にがんが見つかってからでした。長年にわたる闘病生活で収入は激減。治療費や介護費がかさみ、現在の貯蓄は50万円ほど。月12万円の年金だけでは、今後の人生に不安が残るといいます。

女性
「ほんとに100円のものとか、半額になったものしか、今買ってないですよ。生活を切りつめて、食べるものも食べないで。」

その後、休業補償は支払われることになりましたが、会社は廃業。女性は新しい働き口を探しています。

女性
「仕事は10件ぐらい電話したんだけど、無理でした。60(歳)過ぎりゃ無理だよって感じで。頑張ればまた楽しい老後があるかなと思ったけど。」



生活のため、働かざるを得ない高齢者たち。中には新型コロナへの不安を抱えながら働く人もいます。
金沢市内の介護施設で働く、74歳の林亀雄さんです。

林亀雄さん(74)
「体温をこれ必ず(計る)。」

林さんの仕事は、利用者の送迎や高齢者の自宅への食事の配達。マスクや検温など対策はしていますが、感染への不安はぬぐえないといいます。

林亀雄さん
「もし感染したら、家族的に下手をすると崩壊するようなことになりかねませんから。それはもう絶対にかからないように。」

施設の責任者は、コロナの中にあっても高齢者の働き手は貴重だといいます。

やすらぎ福祉会 専務 酒井秀明さん
「(若い)なり手が、次の人がいないっていう現状もある。期待はしています。(高齢者は)大切な労働力ですので。」

内装業を営み、3人の子どもを育ててきた林さん。老後、年金だけでは不安だといいます。

林亀雄さん
「もし万が一、病気になったり要介護状態になったら生活が成り立たない。医療費払わなきゃいけない、介護保険料払わなきゃいけない。絶対に生活できないです。」

コロナが浮き彫りにした、高齢者が働く実情をあなたはどう考えますか?

あなたはいつまで働く?高齢者受難の時代

武田:冒頭でご紹介した、新型コロナの電話相談にもソーシャルワーカーとして協力されていた藤田さん。働く高齢者からの相談が相次いでいるそうですけれども、皆さんの厳しい状況にはどんな背景があるんでしょうか?

ゲスト藤田孝典さん(NPO法人ほっとプラス 理事)

藤田さん:私たちもたくさんの相談を受けてきていますけれども、まず、そもそも年金生活が成り立たない。年金が非常に少ないという中で、それを補うために無理して働いているという状況があるんだということですね。なので、私たちのもとに相談に来る方は、例えば病気があっても、足腰が悪くても、あるいは中には、がんを発症しているんだけれども働かないと生活していけないので、それゆえに無理して働いている、生活費のためにお金がかかるんだという声が相次いでいますね。一生懸命、生活を成り立たせるために働いているという、働かざるを得ない現状がたくさん見受けられますね。

栗原:藤田さんがご指摘された高齢者の経済的な問題ですけれども、こちらのデータにも裏づけられています。去年(2019年)、国が「高齢になっても働きたいと考える理由」を調査したところ、1位は「ゆとりある生活を送りたい」、そして2位は「生活費が足りない」ということだったんです。

国としての動きですが、今年(2020年)3月には「高年齢者雇用安定法(改正)」が成立しました。社員が70歳まで働き続けられるように企業に努力義務を課すものです。そして5月末には「年金改革法」が成立。年金の支給開始時期を60歳から75歳まで選択可能にしました。いずれも国は、高齢者の就労が進んでいることを理由に挙げています。

武田:さまざまな高齢者の生きる現場を取材し、雑誌で連載している石井さん。この厳しい環境の中で働いている高齢者の置かれた事情、石井さんはそこから何を感じてらっしゃるのでしょうか?

ゲスト石井光太さん(作家)

石井さん:日本の今の国というのは、一億総活躍だとか、人生100年時代だという言い方をします。ただ、リタイアするまでに得た技術でデスクワークをして、ゆとりある生活をできる人はごく僅かで、多くは今おっしゃったように、本当に働かざるを得ない状況がある。しかもその人たちをしっかり見ていくと、いろんな問題を抱えているんですね。例えば奥様が病気になって、医療費がかかるから働かざるを得ないとか、子どもが引きこもってしまっている、あるいは病気で働けない。その子どもたちを養わなきゃいけない。あるいは自分が病気を持っていて、将来いつお金が必要になるか分からないから働いているなんて逆説的な状況もあります。そういった中で働いているということを、僕たちはきちんと彼らのバックグラウンドを見て考えなければならないと思います。

武田:高齢者が働かざるを得ないという状況が広がる中、仕事中にけがや病気になるケースが増えています。

働く高齢者 なぜ?多発する事故

70代の女性
「続けて歩けないんですよね。」

2年前、学校の清掃のパートで大けがを負った70代の女性です。
事故が起きた日、同僚が急に休んだため、女性はいつも以上に忙しかったといいます。そして、階段で学生をよけようとして転倒。5本の歯を失い、けい椎などを骨折する大けがをし労災と認定されました。

しかし入院中、会社から思わぬことばを聞かされたといいます。

女性
「『辞めてくれ』と言われた。その時は私ね、はっきり言って泣きました。悔しくて。ダメだったら次を雇えばいいと、そのぐらいの感覚しかないと思います。部品です、使い捨てです。」

女性の娘は、親の労災は子ども世代にとっても重大な問題だといいます。


「(親が労災になれば)介護という世界に突入してしまう。私たちまだ働ける世代の子どもたちが、介護離職して親の面倒をみるという次の問題がある。」

仕事中や通勤中に、けがや病気になる労災の発生率は、高齢層になるほど増加。60歳以上で年間3万3,000人に上っています。

さらに労働組合によると、これまで比較的、危険性が低いと思われてきた現場で事故が増えているといいます。

労災ユニオン 佐藤学さん
「いわゆる第三次産業、サービス業とかいうところで発生している件数が多い。やはり高齢者になると、どうしても身体とか精神面も衰えがある。」

体力や判断力の衰えがある高齢の労働者が増える一方で、それに対応する仕組みが整っていないといいます。

佐藤学さん
「さまざまな装備の問題だとか教育の問題だとか、一般の現役世代の労働者以上に、労災に関しては配慮が必要だと思います。」



さらに取材を進めると、仕事でけがや病気になっても労災と認められないケースがあることも分かってきました。
関東地方に住む70代の男性です。5年前、妻が長時間労働の末、亡くなりました。

70代の男性
「1日24時間近くね、働きづめだったら、人間、誰も死んじゃいますよ。それはおかしいんじゃないのと。」

妻は、家政婦の仲介や介護ヘルパーの派遣をする会社で、一般家庭で泊まり込みの介護をしていました。妻に示されていたある家庭の業務スケジュールには、朝6時から、おむつ交換や食事の介助、マッサージ掃除や洗濯など、翌朝まで、ほぼ24時間業務が書き込まれていました。

亡くなったときは、重い認知症の高齢者のいる家に1週間連続で泊まり込み、直後に立ち寄った入浴施設で倒れ、帰らぬ人となりました。
ところが、男性が労災保険を申請すると、認められませんでした。介護保険が適用される時間帯は雇用契約に基づく労働だったが、それ以外は家政婦として働いていた。家政婦は個人事業主のため、法律上の労働者ではなく、労災保険の適用外というのが主な理由でした。

男性
「労働者でないというならば奴隷ですかと。国から補償も得られない、ひとりの人間として扱ってもらえないのは、私には納得できなかった。」

ことし3月、男性は妻の死を労災として認めるよう国を提訴。これに対し、厚生労働省は「係争中のためコメントできない」としています。
増加する高齢者の労災。どこまで広がっているのでしょうか?

高齢者の労災 実態は?

武田:藤田さんも高齢者の労災の実態をお聞きになっていると思いますけれども、どれくらい広がっているんでしょうか?

藤田さん:はっきり言って、「労働災害といえば高齢者」というぐらい、高齢者の人たちの災害が多いというふうに思ってますね。事件・事故が多様な職種で生まれていますね。例えば運送業であるとか、荷物の積みおろしだとか、あるいは清掃、警備、あとは建築業界。これは若い人がやるべき仕事ではというぐらい、重労働の業界で高齢者が働かされているという状況があるかなと思います。

武田:それはやはり、人手不足というのが影響しているんでしょうか?

藤田さん:人手不足もありますし、あとは働いてる本人自身がやめたくないために、あるいはそれが生活の糧ですので、ちょっと体調不良でも我慢して隠しながら働いている。労務管理をきちんと会社の側がしてあげなければ危ないという事例はありますね。

武田:この労災保険というものは、正社員に限らず、パートなど非正規の労働組合を雇う企業すべてに加入が義務づけられているわけですよね。なのにこの労災が認められないという状況が起きているのは、なぜなんでしょうか?

藤田さん:これもぜひ覚えておいていただきたいんですが、パート、アルバイト、派遣、いわゆる非正規雇用の方でも、職場で事故に遭う、あるいは通勤時間の間にけがをしてしまうという場合には、必ず労働災害の対象になりますので、ぜひ申請していただきたいと思います。これを知らない方が非常に多くて、なかなか情報が行き届いていないということがありますね。
あわせて、家政婦さんの事例もありましたけれども、最近は非正規どころか「非雇用」という形で、例えば雇用されない個人事業主であったり、あるいはフリーランス業務委託契約という形も広がっていまして、こうなるとかなり労働災害の申請のハードルが高くなってくる。このあたりも、ぜひ専門家や労働組合に相談いただきたいと思います。 

武田:親の労災によって子どもが介護離職しなければいけないという懸念の声もありましたけれども、高齢者の労災が広がっていくことは現役世代にも影響があると思うんですけれども、石井さん、いかがですか?

石井さん:本当にこの問題というのは、僕たちの問題でもあると思います。というのも、日本はこれから少子高齢化の中で、非常に労働人口というのは減っていきます。そこの部分、減った人口をどこで補うのか、今、考えられているのが、いわゆる「女性」と「外国人」と「AI」、そして「高齢者」なんですね。結局、女性、外国人、AIができない仕事を高齢者にやってもらおうと。例えばヘルパーみたいな仕事だとか、営業の仕事もそうでしょう。あるいは労働現場で交通の整備とか、そういった仕事もあります。こういった過酷な仕事をやってもらおうというのが、多分、未来の日本のあり方なんですよね。
しかし、それにもかかわらず、僕たちがその時代になって20~30年後、そこで働くとなったときに、じゃあ本当に安心して働ける環境が整っているかというと、全く今できていない。そこが問題なんですよね。今のままでいくと、できていないまま、現状よりもっと高齢者が働かなきゃいけない。そして仕事はたくさん振られてくる。社会も働けというような圧力が出てくる。そういった時代になってしまうということを、若いわれわれが今考えなければならないというふうに思っています。

武田:働く高齢者が増える中で、それを支える仕組みが追いついていないという実態が見えてきたわけですけれども、全国で70万人以上の高齢者が働くシルバー人材センターでも、けがや死亡事故が頻発している実態が取材で明らかになりました。

シルバー人材センター 多発する事故

高齢者の生きがいや、地域社会への貢献を目的とする「シルバー人材センター」。全国のおよそ1,300の市区町村で働く会員の数は70万人以上。仕事は原則、臨時的、短期的軽易なもの。清掃や草刈り、駐輪場の受付などが行われています。

そのシルバー人材センターで、ここ数年、毎年3,500件以上の事故が発生しています。その中で、死亡もしくは入院6か月以上の重い事故は毎年20件以上。おととし(2018年)は29人が死亡しています。

労働安全が専門の高木元也さんは、事故の発生率の高さに注目しています。

労働安全衛生総合研究所 高木元也さん
「この度数率というのは、問題があるというふうに思いますけどね。」

「度数率」とは、一定の就業時間あたりの死傷者数で事故の発生頻度を示す指標。高木さんの調査では、その数値は建設関係の企業などと比べても3倍以上だといいます。

高木元也さん
「建設業って危険な産業ですよね。墜落とか機械にはさまれるとか、死亡災害も多い。そんなところの度数率をみても3とか4。それを見ると、軒並み10を超えている。びっくりする、驚きがありますよね。」

高木さんは、就業の多くが、発注元からセンターを通して請負契約で行われる仕組みに問題があるのではないかと指摘します。事故が起きると雇用関係がないため、安全管理の責任は原則、高齢者自身が負うとされているためです。

高木元也さん
「請負契約の中だと責任を伴ってしまう。請け負った側(高齢者)がですね。その全体の仕組みを少し見直すっていうのが必要ではないかと。」

大阪に住む78歳の野口光芳さんは、4年前、シルバー人材センターで請け負った仕事中の事故で失明したと訴えています。草刈り中、跳ね上がった泥水が目に入り、その後、菌が繁殖したことが原因だといいます。

野口光芳さん(78)
「こんな目にあうなんて夢にも思ってないし、これからどうなるんやろう。」

センターの資料によれば、安全を確保するため、草刈りでは、防じんメガネをして急斜面での作業は控えるよう記されています。しかし、現場作業を発注した会社が作った配置図や工程表には、「急斜面」と記されていました。

事故が起きた日は、湿度が高く、防じんメガネが曇って見えにくい状態だったため、野口さんは転落しないようふだんは着用していたメガネを外したといいます。

野口光芳さん
「(事故を)回避しないとあかんと思ったら、見えないものをかけてもしょうがないから外しました。」

野口さんは、「安全に就労できるか確認する義務はセンターと発注企業にもあった」として、損害賠償を求めて提訴しました。これに対し所属していたセンターは、「係争中のためコメントできない」としています。

事故が頻発している状況をどう捉えているのか。全国のシルバー人材センターを指導・援助する協会の業務部長が取材に応じました。

全国シルバー人材センター事業協会 業務部長 石原亘さん
「生きがいのための就労の場で、重篤な事故は絶対にあってはいけない。(高齢者は)個人事業主として仕事を請けるわけですから自己責任という原則はありますけれど、センターはきちんと責任を持ってさまざまな取り組みを進めていくという必要は当然ある。」

私たちの老後の安全安心を、どう守っていけばいいのでしょうか?

あなたはいつまで働く? 高齢者受難の時代

栗原:こちらは過去3年間にシルバー人材センターの就業中に起きた死亡事例です。3年間で63件に上ります。目立つのは、黄色で示した「樹木のせんてい中の転落」など。青色の部分の「除草作業での転倒」など。そしてピンク色の部分の「熱中症による死亡」など、こうしたケースも複数起きています。公園などで作業している姿を見かけますけれども、本当に身近なところで亡くなっているということなんです。

ただ、死亡事故が起きているのは一部のセンターで、積極的な安全対策に取り組んでいるセンターも少なくないんです。取材しましたシルバー人材センターを指導援助する協会によりますと、安全対策を最重要課題としていて、「危険な事業の契約を行わない」「安全講習の開催」「現場の見回り強化」などに取り組んでいるということです。

武田:シルバー人材センターといいますのは、本来の理念として高齢者が生きがいを得て地域に貢献するというものだそうですけれども、そこで事故が起きているという実態を藤田さんはどう捉えていらっしゃいますか?

藤田さん:まず実態と、かい離しているという部分が事実としてあるということですね。これは引き続き改善が必要だと思いますし、やはり高齢者の方でハローワークでもなかなか仕事が見つからない、安くてもいいから働かせてほしいというニーズが非常に高まっています。労務管理、人事管理、安全配慮が必要な方がいますので、働かざるを得ないという高齢者もたくさん来ることを想定してぜひ配慮をしていただきたいなと思います。

栗原:どうすれば年間3万件を超えるシニアの労災を減らせるのか。国は対策を打ち出しています。
今年3月、厚生労働省が高齢者を雇う企業に対して出したガイドラインです。まず、滑り止めの靴を用意したり電灯の明るさを上げるなどの、職場環境の改善。そして、高齢者視点での安全教育の徹底。健康状態や体力のチェックを行って、個人に応じた業務のマッチングなどを求めています。また、働く高齢者自身にも積極的に健康づくりに努めるよう求めています。

実際に高齢者の方や家族が仕事や労災などのトラブルに遭ったという方は、こちらの相談窓口に連絡をしてください。弁護士や専門家が無料で相談に乗ってくれます。

武田:こうした取り組みがされているわけですけれども、高齢者が働く社会のあり方はどうあるべきだとお考えですか?

石井さん:国は今後の労働者不足を高齢者に委ねようということであれば、僕は、全然環境は整っていないと思うんですよね。高齢者だって何かしらいろいろな問題を抱えているわけです。そこでいきなり働けと言われたって、安心して働けるわけないんですよね。
環境整備ってどういうことかといいますと、例えば一時代前にあった、女性を働かせようとなったときに、女性が抱えている問題、例えば子育てを軽減するために夫婦共に子育てをしようだとか、あるいは子ども手当をきちんとしようだとか、そうしたことをきちんと整備した上で女性を呼び込みました。
高齢者にも同じことが言えると思うんです。高齢者を呼び込むのであれば、例えば老々介護の問題だとか、この問題を抱えている子どもの負担を減らせるような状況だとか、あるいはきちんとした仕事をつける、健康状態をきちんとサポートしてあげる。そういったようなことを整えて初めて、高齢者を労働者として招き入れることができるんだと僕は思っているんです。今、それは全然整っていない。今、国というのは、きれいごとばかり言う部分があると思うんです。例えば「やりがい」だとか「活躍」だとか。でもそういったことばで濁すのではなくて、きちんと今言ったような現実を見つめて環境を整えることが必要だと思っています。

武田:一生働きたい人もいると思うんですけれども、高齢者が働かざるを得ない社会、高齢者の労働力に頼らざるを得ない社会になりつつあるとすれば、課題はやっぱり多いですよね。

藤田さん:多いですね。だから、私たちはなるべく「リタイアしやすい社会」というか、仕事をする人もいていいし、リタイアすることも選択できるような社会を望んでいくべきだと思いますね。いずれにしても、働かざるを得なくて無理して働いていると。体調面も気遣いながら、病気もありながら働いているという、日本は先進諸国の中では突出して労働者、働く高齢者が多いという国です。ほかの先進諸国では、年金制度、住宅・医療・介護・社会保障制度がきちおんと整っていて、働かなくても暮らせるようにしていますので、ぜひ社会保障体系を見直す機会にしたいですね。

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