クローズアップ現代

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2020年6月30日(火)
第1波 知られざる生と死の現場 ~そのとき家族は 医師は~

第1波 知られざる生と死の現場
~そのとき家族は 医師は~

新型コロナの重症化で命を救う最後の砦とも言われる人工心肺エクモ。実は第1波の際、エクモが足りず、装着できないケースが発生していたことが分かった。やりきれない思いを抱える家族。「何とか命を救いたい」と苦悩する医師。第2波に備える重要な時期に、「危機感を共有してほしい」と訴える。一方、海外では人工呼吸器の不足がさらに深刻だったため、高齢者は救急搬送が行われないという事態まで起きていた。いま家族から訴訟の動きが生まれている。第2波に備えるために、何が必要なのか考える。

※放送から1週間は「見逃し配信」がご覧になれます。こちらから ⇒https://www.nhk.jp/p/gendai/ts/WV5PLY8R43/

出演者

  • 武田真一 (キャスター)

“最後のとりで” エクモがつかえない

4月下旬、栃木県で新型コロナウイルスの重症患者が搬送されました。患者は1人暮らしの高齢の女性。体を動かすことが好きで、大きな病気にかかったことはありませんでした。

長女
「普通の風邪ぐらいにしか考えていなかった。」

長男
「足腰が丈夫で、コロナというのがいまだに信じられない。」

しかし、入院から5日後…。

済生会宇都宮病院 救命救急センター長 小倉崇以医師
「ちょっと困ったんですけど。昨日の夜からきょうの朝にかけてガクンと悪くなりまして。」

救命救急センター長の小倉崇以医師は、厳しい現実に直面します。

小倉崇以医師
「もともとこれだけきれいだったものが、これだけ汚くなって。」

女性の症状が急速に悪化。人工呼吸器だけでは回復が見込めない患者の最後のとりでといわれる、「エクモ」をつけたいと考えました。

人工心肺装置・エクモは、肺の代わりに体内に酸素を送る装置です。肺を休ませ、回復につなげることができます。

小倉崇以医師
「ここから先がコロナスペースです。あれがエクモで、いま処置を行っています。」

しかし、この病院で感染対策をして新型コロナの患者に使えるエクモは1台だけ。すでに別の重症患者が使っていました。

なんとかエクモをつけられないか。小倉医師が県内のほかの病院の空きを調べたところ…。

小倉崇以医師
「エクモはすでに1台回っていて、これ以上のキャパシティがない。ちょっと厳しいですね。」

全国で感染拡大が続いていた4月。エクモを使う重症患者も急増していました。

こうした中、栃木県内で患者に使えるエクモは全部で4台ありましたが、すべて使われていて空きがありません。調べた結果、隣の群馬県の病院に使えるエクモが1台あることが分かりました。小倉医師はその病院に、搬送できないか電話をかけます。

小倉崇以医師
「難しい症例なんですけれども、エクモの転院をどうかなと思っています。」

しかし、群馬県内も感染者でひっ迫し始めているのに加え、長距離の搬送は女性に負担が大きく難しいという回答でした。

小倉崇以医師
「個人のことを考えれば救命したいとは思うんですけれども、明日来るかもしれない別の患者さんのことを考えると…。悩んでいます。家族と話してみるしかないですね。」

その日の午後、小倉医師は女性の家族、長男と長女を呼びました。

小倉崇以医師
「今の肺の状態は、総じて非常に具合が悪いんです。今後どうしていくかというところなんですけれども。」

長男
「今の状況を打開するために(エクモを)やって、そのあと全快にはならないまでも、状況は厳しい?」

小倉崇以医師
「そうですね。」

小倉医師は、今つけられるエクモがないことを告げました。

小倉崇以医師
「県内はもうエクモができるICU(集中治療室)のベッドが今ないんですね。群馬県でエクモができるか問い合わせました。しかし残念ながら、いま群馬県民のためにエクモが回せるキャパシティがあと1個なんです。それをわざわざ栃木から転院して使わせていただく決断をするのは非常に難しい。」

長男
「そうすると、いまの現状維持で?」

小倉崇以医師
「そうですね。」

それまで黙って聞いていた長女。

長女
「レム…テレビでアメリカの…。」

小倉崇以医師
「レムデシビルですね。」

長女
「北里大学からできた、名前忘れちゃったんですけど、効果があった…。」

小倉崇以医師
「寄生虫のお薬ですかね?」

長女
「そうですね。」

テレビで見たという薬の名前を次々と挙げ、治療を続けてほしいと訴えました。

長女
「手に入るんだったら、母で実験っていう言い方は変ですけれども、していただけたらなって。」

小倉崇以医師
「わかりました。あらゆる薬の選択肢をあたってみて、使える薬は安全性がある程度確証を持てるような状況でしたら、やらせていただこうかと。」

そして…。

長男
「できる限りの手当てをしていただいて、それがやっぱり可能性が低いのであれば、せめて痛みですとかね、苦痛をともなわない形で。ただ苦痛をともなうだけの延命は本人も望まないと思います。」

長女
「父が亡くなったときも『もう延命はしないでくれ、痛みだけはとってくれ』って。それ、母もよく聞いていて納得していますので。」

小倉崇以医師
「わかりました。」

長男
「ちょっと一目見るだけもできないですものね。」

小倉崇以医師
「検討させていただきます。」

突然告げられた深刻な事態。家族はこのとき女性の死を覚悟していました。

小倉崇以医師
「よく理解してくれたと感謝していますね。ご家族の満足、少しでも納得して今後の治療を受け入れられるように、看護師と話し合いながら、小さなことでもなんでもやってあげたい。」

エクモをつけられなかった女性。私たちはその後も取材を続けました。

エクモにつなげたい 救えたかもしれない命が…

第1波のピークで使われたエクモはおよそ120台。国内に1,400台あるとされていますが、専門知識を持つスタッフが限られ、感染対策に人手もかかるため、ひっ迫した地域もありました。

取材からは、エクモを使うことができずに死に至っていたケースがあったことも分かってきました。
3月下旬、都内の病院に入院した75歳の男性。アビガンの投与など考えられる手をすべて打ちましたが、回復には至らず。担当医はエクモを使用したいと考えましたが、この病院にその設備はありませんでした。そこで、エクモを備える病院10か所ほどに転院を打診しましたが、受け入れ先は見つかりませんでした。

男性を担当した医師
「この患者さん、もともと既往症もなくて体力もあって、体格もいい方で、一生懸命治療を助かると信じてやっていたのもあって、次々断られて、もどかしさは結構ありました。」

稼働できるエクモが限られる中、ネックとなったのは男性の年齢でした。エクモは身体への負担が大きく、特に高齢者の場合は命が助かっても重い後遺症が残るリスクもあります。
受け入れ先が見つからなかった男性は、エクモにつながることなく亡くなりました。

男性を担当した医師
「普段の状況で(エクモが)適用になっていて、転院が済んでいれば助けられたのかなって、今でも思います。年齢だけで切られたのは、患者の家族がつらかったなと思います。診ている自分たち医療者としても、つらいという気持ちはありました。」

亡くなった男性の遺族は、次のように話しています。

男性の遺族
「絶対治ると信じて転院先が決まるのを待っていましたが、年齢でダメだと言われ無念でなりません。今でも夫の死を受け入れられません。」

エクモを扱う医師などで作る団体の代表、竹田晋浩医師です。
今回、エクモをつけた患者の救命率は7割を超えた一方で、機器を扱える人材の不足という課題があらわになったと指摘します。

日本COVID-19対策ECMOnet 代表 竹田晋浩医師
「機械(エクモ)を装着すれば自動的に患者が回復するかというと、それはないんです。あくまでも人間を治すのは人間なんです。(エクモを扱える)人がいないとなったらエクモという治療を提供できなくなって、そうなると当然、救命率が下がってくる。だから何とかして今の集中治療を行える状況をしっかりと守る、確保していくのがとても大事。」

“年齢”で受けられなかった治療

医療崩壊が起きた海外では、年齢によって治療される人が選ばれる事態が起きていました。
これは、スペイン・マドリードの病院のカンファレンスの映像です。

「高齢者はもう治療しません。もしコロナウイルスに感染していたら、運が悪かったと思うことにしましょう。できればこんな目に遭わずにいたかった。」

カタルーニャ州バルセロナに住む、ダニエル・マルティネスさん。高齢者施設に入っていた88歳の母親を新型コロナウイルスで亡くしました。母親が発熱した直後、マルティネスさんのもとに施設から驚く内容のメールが届きました。高齢者を病院へ搬送することが制限されているというものでした。

ダニエル・マルティネスさん
「年齢によって“死の宣告”が行われたのです。『こんなに重症化しているのに、なぜ搬送しないのか』と施設側に問いました。彼らは“できない”の一点張りでした。」

取材を進めると、このとき一つの勧告書が行政から救急救助隊に出されていたことが分かりました。

“80歳を超える患者には人工呼吸器を使用しない。”

“改善が期待できなければ、自宅か高齢者施設に残すこととする。”

この勧告書を出したカタルーニャ州保健省の責任者が、取材に応じました。

カタルーニャ州保健省 マルク・ラメントル局長
「集中治療室から高齢者が排除されているという批判は確かにあります。ただ、回復の可能性が高い患者を優先することは、やむを得ないことだと考えました。我々が道を誤ったのか、後で振り返り検証すべき時が来るでしょう。」

6月末現在、カタルーニャ州の高齢者施設の死者は4,000人を超えています。マルティネスさんは、ほかの遺族たちとともに、行政と施設に対する訴訟の準備を進めています。

ダニエル・マルティネスさん
「何が起きていたのか知りたいです。みな病院に連れて行ってあげられなかった悔いを抱え続けているのです。」

エクモつけられず 手探りの治療の先に

重症の女性に人工心肺装置・エクモをつけられなかった小倉医師。

「レムデシビル投与開始します。」

5月中旬、新たに承認された治療薬・レムデシビルの投与などを続けました。

そして5月下旬、女性は奇跡的に回復。容体が安定したため、家族と面会できることになりました。

長女
「ああ、ばあちゃん。」

ガラス越しですが、1か月ぶりの再会です。

長男
「痩せましたね。」

長女
「口を動かしている。」

長男
「本当に安心した。顔を見られるのが一番ですね。」

長女
「もう仕方ないのかなと覚悟はしました。でもコロナで亡くなってほしくないという思いはすごい強かったです、本当に。」

「ばあちゃん、がんばれ。」

結果的に回復した女性。小倉医師にとって思い悩み続けた1か月でした。

済生会宇都宮病院 救命救急センター長 小倉崇以医師
「エクモ以外でどうやって救っていくのか、正直分かりませんでした。まだまだ安心はできないですけれども、ちょっとほっとしている自分がいる。」

第2波に備える 命を救うために

今、小倉医師はみずからの経験をもとに、エクモを扱える人材を増やしたいと活動を始めています。この日、講習に訪れたのは富山県。新型コロナウイルスに対応するエクモを使える人材は限られています。

講習会に参加した、厚生連高岡病院です。エクモは頻繁に使用していますが、そのほとんどが心臓の機能を補うためのもの。新型コロナウイルスの治療で行うような肺のサポートのために使ったことは、この10年で3回しかありません。第2波に備えて新たに1台増やし、トレーニングを続けています。

厚生連高岡病院 救急科部長 菊川哲英医師
「地域で(新型コロナによる)重症呼吸不全の患者が出たときには、当院でしっかり治療できる態勢を目指していきたい。」

済生会宇都宮病院 救命救急センター長 小倉崇以医師
「大量の患者さんを一人では救えないんです。なので、みんなと協力して、なるだけ多くの人を救っていかなければならない。」

第2波に備える 今求められるもの

武田:医療資源が切迫する中、医師が行いたいと考えた治療を選択できないという厳しい状況が実際に起きていたということを今、改めて重く受け止めなければならないと感じます。
きょう(30日)、東京では54人の感染が確認され、1日で50人を超えるのは5日連続となります。

第2波への警戒が高まる中で、こうした厳しい経験をどう生かしていくべきなのか。取材させていただいた小倉崇以医師に聞きました。

武田
「第1波のコロナとの戦いを振り返って、エクモが使えればあるいは助かるかもしれないと考えながらも、ほかの選択肢をとらざるを得ないという状況だったわけですけれども、そこは医師としてどんな思いでいらっしゃったんでしょうか。」

済生会宇都宮病院 救命救急センター長 小倉崇以医師
「ひとことで申し上げると、苦しかったと思っています。今、振り返っても同じですね、苦しいです。またそういった状況に立たされるのかと思うと、正直申し上げて、怖いです。」

エクモを高齢者に使用すると、重い後遺症が残るリスクもあります。そのため、高齢者には一般的に適さないという指摘もある中、現場でどのように考えていたのか聞きました。

小倉崇以医師
「チャレンジしたいんです、ドクターは。みんなそう思っていると思います。けれども、そのチャレンジを許されないような切迫した医療供給体制だと、どうしてもそのチャレンジが許されない。きょう、この人にエクモをつけてしまったら、明日、本当に必要な人が失われるかもしれない。そういった中で仕事をしてきたこと、これは本当につらかったなと思います。」

武田
「小倉さんご自身もノウハウを広める活動をいま始められていますけれども、第2波に備えて今やっておかなければならないことを、小倉さんご自身はどういうふうに捉えていらっしゃいますか?」

小倉崇以医師
「あの苦しかった経験を2度と繰り返さないために、我々は医療のキャパシティを広げる。人もしっかりと教育して育てていかなければならない。第1波に比べれば、第2波を迎え撃つ我々医療スタッフは強くならなければならないんです。」

武田:今求められる第2波への備え。医療体制だけでなく、私たちの側も心にとどめて置くべきことがあると訴える医師がいます。

支えとなった“事前の対話”

ニューヨークの病院に勤める医師、宮下智さんです。3月下旬、人工呼吸器の不足が深刻化する中で、病院からある通知を受けました。重症化して救命の難しい患者に対しては、医師が人工呼吸器などの治療の打ち切りをすすめ、患者や家族の同意をとることを求める内容でした。

マウントサイナイ・ベスイスラエル病院 宮下智医師
「“命の選別”みたいなものをやっているのではと、その葛藤というものは常にありました。」

患者と向き合う中で、宮下さんはあることに気付きました。患者の多くが、家族と治療の希望について話し合ったことがあるということです。
入院してきた70代の男性。最初の面談で、以前、腎臓がんになったとき、「最期は呼吸器をつけたくない」と家族に話したことがあると語りました。その後の検査で、男性が重症であることが分かります。宮下さんは、本人や家族へのつらい説明に臨むことになりました。それを後押ししたのは、最初の面談で男性から聞いた話でした。

宮下智医師
“人工呼吸器を選択しても、残念ながら回復の見込みは低いです。使うとすれば、あなたの価値観とは合わないかもしれません。”

すると、男性と家族はこう語りました。

男性
“人工呼吸器は望みません。薬で呼吸苦を取り除いてください。”

家族
“私も、人工呼吸器を付けない父と最後まで話をしたいです。”

このあと、男性は治療の中止に同意しました。そして2週間後、息を引き取りました。

宮下智医師
「もし入院して急に最期のときをどうしたいかと言われても、あらかじめ話しておかないと、それを決断するのは非常に難しい。事前に(患者と家族が)話をしているのは、我々としても大変救いになったと思う。」

ニューヨークの教訓は

第2波に備えるためにどんな心構えをしていたらいいのか、宮下医師に話を聞きました。

武田
「患者、家族、医師がどんな治療を選ぶのか、事前に対話しておくことは非常に重要だと感じたんですけれども、それはこの日本でも、やはり参考にすべきことなんでしょうか。」

マウントサイナイ・ベスイスラエル病院 宮下智医師
「普通の病気は、やはり入院してからある程度、話し合う時間がしっかりとあるけれど、新型コロナウイルスの場合は、入院してからどんどん、場合によっては酸素状態が悪化して話し合いができなくなってしまう。急速に悪化される方がかなり多くいらっしゃるのが特徴でして、やはりあらかじめ患者さんとご家族がしっかりと話し合って、自分たちの価値観、死生観を明らかにしておくことが非常に大切になると思います。
いざそのときがくると、やはり現状を受け入れるのは非常に難しいと思います。ただ、まったく話し合っていないと、もしものときが起きたときに、受け入れるのはさらに難しくなると思うんです。」

武田
「世界ではいまだに感染が拡大していますし、日本でも第2波への警戒が高まっています。その医療崩壊の危機にひんしたニューヨークから今、日本の状況をどういうふうにご覧になっていますか?」

宮下智医師
「実際、ニューヨークの現場で患者さんを診てきて、入院した患者を診ると、私としては未だかつてないほど多くの方が重症化しましたし、多くの方が亡くなってきました。やはり感覚的にも、これほどまで患者さんと医療従事者を苦しめた病気はないと思います。なので、常にコロナの怖さをまた再確認して、第2波が起きないように個人個人がしっかりと予防していくことが大切です。」

武田:最悪の場合、命について究極の選択を迫られるかもしれない。それくらい恐ろしいウイルスであることを、もう一度心にとめておかなくてはならないと感じます。
まずは、医療体制をしっかりと今のうちから拡充しておくこと。そして感染を拡大させないよう、一人一人が気をつけることが今、求められています。