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2020年6月9日(火)

“新たな日常”
取り残される女性たち

“新たな日常” 取り残される女性たち

学校や飲食店の再開など、社会経済活動の制限が緩和され、“新たな日常”が始まる中、働きたくても働けずに困窮する女性たちがいる。「雇い止めにあい、再就職先も見つからない。貯金を取り崩すしかない…」「子どもは分散登校、夫は在宅ワーク。家事と育児で負担増…」。新型コロナの影響が直撃するサービス業に従事する女性、無償のケア労働を押しつけられる女性が多い中、どんな支援が必要か考える。

出演者

  • 大沢真知子さん (日本女子大学人間社会学部 教授)
  • 武田真一 (キャスター) 、 合原明子 (アナウンサー)

休業手当ゼロ 雇い止め “非正規”を直撃

コロナショックの影響が大きかった業種の一つ。小売業で働く洋子さんです。
職場の百貨店の食品売り場は売り上げが半減。派遣社員の洋子さんは、今月で終わる契約の更新は難しいと言われました。

洋子さん(仮名)
「派遣の人みんなだと思うんですけど、なんなんだ みたいな感じです。」

緊急事態宣言が出されてから、ほとんど働けなかった洋子さん。生活は追い詰められています。

洋子さんは88歳の父と2人暮らし。月の収入は、手取り20万円と親の年金8万円でした。貯蓄はほとんどありません。


「大変だな、こりゃ。」

洋子さん(仮名)
「どうなるんだろうね。」

来月の家賃5万8000円を支払えるかどうか分かりません。

洋子さん(仮名)
「仕事は決まってないので不安ではありますけど、なんとかします。」

この日、洋子さんが訪れたのは個人で加盟できる労働組合の事務所。休業中の手当の支払いを求めて、雇用主の派遣会社と交渉することにしたのです。

法律では会社の都合で従業員を休ませた場合、休業手当を支払う必要があります。国は今回、休業手当の支払いを促すため雇用調整助成金の制度を拡充。支払った実績に応じて、最大で全額を助成するとしています。

しかし、洋子さんの派遣会社は、国の自粛要請による休業で会社の都合ではないため“支払う義務はない”としていました。

洋子さん(仮名)
「生活もあるし、会社として私たちが働くことで(あなた方の)お給料も発生してますし、そこのところをちゃんとやってほしいです。休業手当なり、何なり、お願いします。」

派遣会社
「通常ならお支払いするべきものだと思うんですけど、今回、不可抗力ということで。」

労働組合
「雇用調整助成金の制度は知ってましたね。」

派遣会社
「雇用調整助成金を申請して、(国から)お金が入ってくるのが何か月も先になるんですね。正直に言いますと、弊社のほうでですね、資金繰りのほうも売り上げもだいぶ落ちておりまして、なかなかそこを払うっていうのができなくてですね、現状。」

派遣会社は、売り上げが5分の1に減少したため、国からの助成金が入るまで資金がもたないと説明しました。話し合いは2時間以上続きましたが、この日は結論が出ませんでした。

洋子さん(仮名)
「やっぱり派遣という仕事だからか、使い捨てみたいな感じにしか思えなかった。だいたい販売派遣っていうのは ほぼ女性が働く職場なので、働く人は私だけではないので絶対勝ちたいと思う。」

その後、派遣会社は取材に対し、休業手当を支払う準備をするとしています。


非正規雇用の女性が増えている中で、今回のコロナショックが起きました。
男女雇用機会均等法ができた35年前は、働く女性のおよそ3割でしたが、今では6割近くを占めています。

女性の賃金は男性よりも低く、年齢が上がっても月収20万円未満にとどまっています。

経済危機のたびに… 氷河期女性の悲鳴

非正規雇用のまま、低賃金で働く女性たち。特に深刻なのが就職氷河期の世代です。
久美子さんは3つの仕事を掛け持ちしていましたが、コロナの影響で2つが無くなり、収入は2割ほど減りました。

久美子さん(仮名)
「88円のパンを買ってまして、これを毎日2つずつラップにくるんで会社のお昼ご飯に食べてます。これだとちょうど6個入りで3日分もつので。」

久美子さんが専門学校を卒業したのは1994年の就職氷河期。
当時、女性の新卒正社員率は男性を大幅に下回っていました。
久美子さんも50社以上受けましたが、採用には至りませんでした。

久美子さん(仮名)
「自分が男だったらよかったのかなって、若いときに何回も思いましたね。そうすればもっと安定したところとか、家庭を持つだろうから、正社員にしてやるとか言ってくれる人、出てきてくれたのかなって。」

派遣社員として働きながらステップアップを目指してきましたが、経済危機のたびに あおりを受けてきたと言います。
2008年に起きたリーマンショックの影響で、派遣先だった建築会社の部署が統廃合。正社員の雇用は守られたものの、久美子さんは雇い止めとなりました。
その後、務めた製造業の会社では正社員にならないかと誘いを受けましたが、東日本大震災をきっかけに状況が一変。男性の就職希望者が集まったため、登用の話は取り消しとなりました。

年収はずっと手取り230万円ほどが続いてきた久美子さん。スキルを磨いて少しでも収入を上げようと考え、去年パソコンの資格を取得しました。

久美子さん(仮名)
「派遣って、やっぱり努力しないと上に絶対行けないから。」

現在の時給は1650円ですが、資格があれば時給2000円の仕事に転職できると考えていました。
しかし、今回のコロナショックで求人は激減。望みは絶たれました。

久美子さん(仮名)
「もっと生活が楽になるかなと思って、ちょっと旅行とか、自分も好きなことやれるかななんて、ちょっと自分の中では夢があったんですよね。そこが結構こけちゃったなって。」

“非正規” 先行きも不安が

非正規雇用の女性を直撃したコロナショック。
影響は今後も続くと見られています。

創業40年になる人材派遣会社です。
派遣先は食品やアパレルなど、今回の危機が直撃している業種が中心で、休業が明けた今も多くの人が仕事に戻れていません。

「その後、何か厳しい状況だと思うんですけど、イベントとか、そういった短期的なお仕事、ないですよね。」

登録する女性は現在1900人。コロナショックで1.5倍に急増しましたが、紹介できる仕事は限られていると言います。

株式会社エルスタット代表取締役 野口光弘さん
「(こんな経験は)はじめてですね。スタッフの役にも立ちたいし、メーカーさんの役にも立ちたいっていうのはあるが、どこも怖がりつつの状況できているので、まったく先行きが見えない。」

非正規雇用の女性を追い詰める経済構造のひずみは?
このあとスタジオで考えます。

“非正規”を直撃 経済構造のひずみ

武田:コロナショックが直撃している女性たち。経済的に追い詰められている非正規雇用の女性の実態とともに、後半では、正社員の女性も含めて、新たな日常の中で仕事と家庭の両立に悩みを深めている実態を見つめていきます。まずは、非正規で働く女性たちの経済的な苦境。

合原:新型コロナウイルスの打撃を受けまして、働く人が最も減っているのがこちらの3つの業種です。このうち、宿泊・飲食サービスと卸売・小売は女性が多く働いています。しかも、非正規雇用で働く人の割合が非常に高いんですね。宿泊・飲食サービスでは85.2%、卸売・小売では68.7%となっています。

武田:女性の労働問題について、長年研究を続けてこられた大沢さん。今回の危機というのは、女性、特に非正規で働く人たちを直撃しているということなんですね。どんな危機感を今お持ちですか。

ゲスト 大沢真知子さん(日本女子大学人間社会学部 教授)

大沢さん:リーマンショックのときは派遣切りが問題になりました。この時、焦点化されたのは、製造業に従事する非正規の男性だったんですけれど、今回は女性の非正規労働者が解雇されたりして生活に困っている、あるいは家がないというようなことで、初めて女性の非正規雇用が社会の問題になったというふうに捉えています。

武田:この30年余りの間に、非正規の女性の割合が増えてきているわけですよね。今や半分以上になっているわけですけれども、これはなぜなのでしょうか。

大沢さん:やはり経済のバブル崩壊後、労働市場の規制緩和が起きて、非正規が雇いやすいような環境がだんだん作られていったということが大きいと思います。同時に、(男女雇用機会)均等法も強化されてはいるんですけれども、どちらかというと、正社員の雇用も減りましたから、女性が非正規に流れていったというのが現状です。その背後には経済構造の変化がありまして、製造業からサービス経済化、サービス部門に大きく雇用の受け皿が変わっていったということなんですね。サービス経済化は女性の雇用を多く生み出すというところで、今、女性の雇用の危機が大きくなってきているというふうに考えています。

武田:まさに今、日本の経済をある種、引っ張っている存在が女性になっていて、そこに直撃していると。

大沢さん:そういうことだと思います。

武田:もう一つデータがありました。非正規雇用の中でも女性の賃金が男性よりも低くなっている。しかも、年齢が上がっていっても月収20万円未満の状況ということですが、これはなぜ、こういう状況になっているのでしょうか。

大沢さん:日本の中に、「正社員は男性」「男性は稼ぎ主」という考え方があって、女性は補助的に働いている労働者というふうに見られがちだったんですね。

武田:補助的に働いている?

大沢さん:稼ぎ主ではないと。いざとなれば、お父さんや夫が養ってくれるという前提があったんですが、実際には母子世帯もいますし、独身の女性、女性の稼ぎ主がたくさんいるんですね。そういう人たちが今、非常に困難な状況に陥っているということだと思います。ですから、セーフティーネットがないということですね。つまり、夫や父親がいるというわけではない人たちが、どう生活を維持していくのか。セーフティーネットの拡充というのが今、非常に大きな問題になっていると思います。

合原:さて、今回の新型コロナ危機。追い詰められているのは非正規雇用の女性だけではありません。新たな日常の中で、家庭と仕事の両立を掲げて これまで進められてきた支援や制度が十分に機能していない実態があらわになってきています。

コロナで明らかに “女性活躍”の実態

2人の子どもを出産し、今月仕事に復帰する予定だった30代の愛さん。
正社員として働いていた会社から、突然、事実上の解雇を言い渡されました。
育児休業が明ける直前のことでした。新型コロナウイルスの影響で業績が悪化したため、“復帰しても戻るポジションはない”と言われたといいます。同じ部署で働いていたのは10人。通告を受けたのは、愛さんだけでした。

愛さん(仮名 30代)
「『いつかは社会に戻れるんだ 戻れる場所がある』っていうだけで、少し自分の心の支えになっていたのが、突然それもなくなってしまって、もう本当に必要ない人間。社会から はぶられたみたいな、そんな感覚になってしまいました。」

愛さんがこの会社に就職したのは2015年。
女性活躍推進法が成立した年でした。育児や介護をしながら働き続けられる環境作りを国が後押しする中、愛さんの会社でも柔軟に働くことができる態勢を整えていたと言います。

愛さん(仮名 30代)
「フレックス制を会社が導入したらしいんですね。その時に『働くママさん 女性もかなり働きやすい環境になったよ』『こういうふうに変更したからね』って社長から言われて、会社もどんどんよくなっているんだなって思っていたのに、こんなにあっさり さよならってされてしまうと、何だったのそれは?っていうところですね。」

愛さんが失業することで、家族4人の将来設計は崩れてしまいます。商社で働く夫と復帰後の自分の収入を見越して、ことしマイホームを購入。月15万円の住宅ローンの支払いに充てようと思っていましたが、愛さんの収入が見込めない中、貯金を取り崩すしかないと言います。

愛さん(仮名 30代)
「今回のコロナで解雇っていうところで、一気に崩れてしまうので、なんだかもう、子どもを産んだっていうことが本当に不都合でしかないとまで感じてしまいます。子どもに対して憎いって気持ちは全くないですけど、子どもを産む選択をした自分を憎むっていうような気分ですね。」

仕事と家庭の両立と言われても…

新たな日常が求められる中、仕事と家庭の両立に追い詰められる女性もいます。

夫婦共働きで、2人の子どもを育てている田山仁美さんです。
大手メーカーに勤める夫は、新型コロナの影響で週の半分は在宅勤務。ベンチャー企業で働く仁美さんは、週のほとんどが在宅勤務です。

先週、小学校は再開しましたが、仁美さんの負担は以前より増えています。
息子は1年生。感染予防のため集団登校ができず、毎日送り迎えが必要です。夫は朝8時すぎから仕事のため、対応するのは仁美さんです。

2歳の娘。
仁美さんは、保育にも追われます。

在宅勤務の場合は、登園を自粛してほしいと保育園から言われているのです。
なかなか仕事ができません。

分散登校のため、息子はお昼前に帰宅します。
給食はないため、仁美さんは休む間もなく家族全員のお昼ご飯を準備します。

新たな日常で、さらに教育の負担も。
学校の授業が減った分、ひらがなの学習や音読など、家庭で補うように言われています。


「じゃあ(オンライン会議)やってくるわ。」

夫は在宅勤務でも頻繁に会議が入ります。家事や育児に対して、会社から特別な配慮はありません。


「お仕事しないでよ。」


「お仕事しないと、お金がもらえませんよ。」

日中、子どもに対応するのは ほとんど仁美さんです。

夜11時すぎ。
仕事に集中できるのは、子どもたちが寝静まったあとです。


「仁美さんまだやるの?」

田山仁美さん
「うん。できることは少しでも進めておきたい。」


「こんつめすぎるなよ。」

田山仁美さん
「うん。ありがとう、おやすみ。」

睡眠不足から頭痛がひどくなり、痛み止めの薬が欠かせなくなったと言います。

田山仁美さん
「どこまで この状態で続けられるんだろうと日々感じてはいるので、どうにもならないときも来るかもしれないなっていう気持ちはあります。」


新たな日常の中、家事や育児の負担が、男性に比べ 女性により多くのしかかっていることがデータからも見えてきています。
子どもが休校中の人で、在宅勤務になって困ったことに仕事関係をあげた男女の割合は ほぼ同じでした。一方、家事育児はおよそ3倍の差があったのです。

合原:どうすれば新たな日常って持続可能なものになるんでしょうか。何が一番必要だと思いますか?

調査を実施 京都大学教授 落合恵美子さん
「今みんな経済がもつかどうか、すごく心配しているわけですけれども、本当に大事なのは“経済がもつか”ではなくて、“生活がもつか”ということだと思うんです。新しい生活様式っていうのを作るには、お金を回す経済とケアとか生活のために使う時間。それがちゃんとバランスが取れて、きちんと社会が回っていくように、そういう仕組みを作ることだと思うんです。」

ウィズコロナ時代に明らかになった女性活躍の実態。
新たな日常に何が必要かスタジオで考えます。

ウィズコロナ時代 仕事・暮らしをどう守る?

合原:新型コロナの感染拡大を防ぐために始まった新たな日常ですが、定着させるには家庭内に高いハードルがありそうです。例えば、育休の取得率の伸びを見ますと、ここ15年、女性は8割前後を維持しているんですが、男性は僅か6%余りにとどまっています。

そして、家事・育児にかける時間も海外と比べて、日本は歴然とした男女差があります。日本女性の家事・育児の時間は1日当たり7時間34分。一方、男性は1時間23分と大きく開いています。

武田:なかなか変わらなかった、こうした課題。新たな日常が求められる中で、今まさに本気で取り組まなければならないときを迎えているんだと思いますけれども、どういう考え方で変えていけばいいんでしょう。

大沢さん:今のVTRを見ても分かるように、育児、ケア労働は全部女性が担うと。でも同時に、仕事も女性に担ってもらわなければいけないと。これでは回らないんですね。家庭だけだと仕事が回らないし、仕事だけだと家庭が回らない。この両方のバランスをどうとるのかということで、今回のコロナの対応でも政権でも、やはり女性にすべて押しつけてきたことがあると。これがもう破綻しているということが分かったわけですから、じゃあ、どうやって夫婦でそれを担っていくのかという新しいモデルを模索しなきゃいけない。課題が明らかになったことだと思いますね。

武田:家事・育児というのは、経済や社会の基盤を作る上で非常に大切な営みなわけですよね。それを誰が担っていくのかということをもう一回 再構築しないといけない。

大沢さん:そうですね。例えば今回のVTRでも、夫は育児に携わりたいと思っても、オンライン会議でお昼の支度すらできないんですね。こういった会社の配慮がないということも、やっぱり難しくしていると思いますね。

武田:企業や社会はどうすればいいのかということですけれども、キーワードを書いていただきました。

大沢さん:やはり社員の事情に合わせた働き方というのを企業が提供すべきだと思うんですね。

武田:社員の事情に応じた働き方?

大沢さん:それぞれの社員がいろんな事情を抱えていると思うんですね。ケア労働だけじゃなくて、介護労働も抱えているし、あるいは、新しいことを学びたい。そういった事情に合わせて働き方が選べる社会が必要だと思います。

武田:例えば、在宅勤務でもそのまま会社でやっていることを家に持ち込むのではなくて、ほかのことをしながら勤務できるように。

大沢さん:そうそう、それが当然というか、やっぱりそれができるために在宅勤務があるわけで、会社のオフィスが全部家に来たのでは とても成り立たないということが分かったと思います。もう一つは、国も今、短時間勤務制度というと全部 非正規になってしまうわけですけれども、本当にそうなのか。諸外国を見ていますと、正社員のパートタイム、短時間勤務が当たり前なんですね。そういう発想の転換をすると、日本にも安定した雇用で労働時間が柔軟な働き方というのがもっともっと生み出せて、雇用が生み出せるんですね。そうすると、全然違った働き方ができて、もっと経済が発展するようになると思います。

武田:実際にそういう例も海外ではあるんですね。

大沢さん:ドイツがいい例で、リーマンショック後の経済回復がすごく早かったんですが、それは女性の管理職が短時間勤務で働くという形で、働き方の柔軟度をものすごく高めました。

武田:今こそ、そうやって企業も国も、そして私たち一人一人も発想を変えていく時ですね。

大沢さん:その中で、みんな、すべてが包括される社会が作られる必要があると思います。