クローズアップ現代

毎週月曜から木曜 総合 午後10:00

Menu
2020年4月21日(火)
コロナショック 苦渋の解雇の裏で ~密着・あるバス会社の3か月~

コロナショック 苦渋の解雇の裏で
~密着・あるバス会社の3か月~

新型コロナウイルスの影響で、74人中33人の解雇を迫られることになった観光バス会社。2月以来、インバウンドの激減、日本人の外出自粛に翻弄され、売り上げは1割にまで落ち込んだ。従業員の中には、幼い子どもや高齢の親を抱え、アルバイトをして家族を支えようとする人も。解雇を告げる側の経営陣もまた、その苦しみに耐えきれずにいた。苦悩する社員たちの3か月に密着、いま必要な支援とは何か考える。

※放送から1週間は「見逃し配信」がご覧になれます。こちらから ⇒https://www.nhk.jp/p/gendai/ts/WV5PLY8R43/

出演者

  • 斎藤太郎さん (ニッセイ基礎研究所 経済調査部長)
  • 海江田 司さん (家康コーポレーション 社長)
  • 武田真一 (キャスター)

中国人観光客が激減 苦しい資金繰り

私たちがバス会社の取材を始めたのは、2月上旬。
国内で初めて日本人の感染が確認された直後でした。
このころ、すでに中国からのツアーはすべてキャンセル。他の国や日本人の観光で、何とか売り上げを確保していました。

福岡県に本社を構え、全国に3つの営業所を持つ このバス会社。役員と従業員、合わせて74人が働いています。

社長の海江田司さんです。
売り上げの4割を占めていた中国からのツアー客を失い、厳しい資金繰りに直面していました。

家康コーポレーション 海江田 司社長
「金融機関に緊急融資のお願いができればということで、5000万円 希望しております。」

会社の1か月の経費は、およそ4500万円。人件費やバスのリース料などを賄うため、多額の融資が必要でした。

家康コーポレーション 海江田 司社長
「生き残りをかけて、いろんなことを矢継ぎ早に動いている。『会社を残すにはどうすれば』『いかにこれを乗り越えればいいか』みたいな、そんなことばかり考えているから。」

給料カット 希望退職… 追い詰められる従業員

この日、社長の海江田さんが向かったのは、最も深刻な影響を受けていた大阪の営業所。従業員を集め、厳しい経営状況について説明しました。

家康コーポレーション 海江田 司社長
「本当に残念な状況になりました。いかんともしがたい状況です。役員、私どもは3割カット、事務系職員の給料は2割カット。」

全員の給料をカットし、希望退職も募るという内容。

不安の声が相次ぎました。

従業員
「普通の会社は3か月、1年仕事がなくても社員の給料は保証します。リスク管理はどのように考えていますか。」

家康コーポレーション 海江田 司社長
「リスク管理がどうこう言われたら、すみませんけど、これに関しては、今回のコロナウイルスに関して言うとリスク管理ができていなかった。」

このころ、“数か月で事態は収束する”と考えていた海江田さん。「それまで我慢してほしい」と訴えました。

家康コーポレーション 海江田 司社長
「4か月くらいしたら動くんじゃないか。いま耐え忍んでやるしかないので、協力をお願いします。」


大幅な給料カットで、従業員は厳しい生活に直面していきました。

ドライバーの川村孝さん37歳です。
2月の勤務がほとんど休みになり、給料は半分以下に減っていました。

ドライバー 川村孝さん
「この数字はちょっと、改めて見ると…きついですね。普通にきついですね。この年でこの額をもらうって。」

もともと別の会社でバスの運転手をしていた川村さん。この会社に入ったのは5年前、事務をしている父親の文夫さんに誘われたのがきっかけでした。

当時、会社はインバウンドで急成長。設立から僅か3年で、売り上げは4億円を超えていました。バスの台数やドライバーも大幅に増やしていた時期でした。

文夫さんは、この会社なら、結婚を控えていた川村さんの生活も安定すると考えたといいます。

父 川村文夫さん
「(息子が)結婚するにあたって、前の会社では生活が大変だと。こっちに来れば、まあどうにかこうにかやっていけるぐらいの給料は稼げると。ほな、こんなになってしまった。」

今は結婚し、2歳になる娘と妻、そして両親の5人で暮らす川村さん。自分や父親の収入が減り、家族の生活はどうなるのか、不安を募らせていました。

ドライバー 川村孝さん
「子どもと毎日会えるのはいいんですけれど、すごく複雑ですよ。会社がどこまで踏ん張っているか、仕事が戻ってくるという期待より、会社がどこまで持ち続けるか、不安のほうが大きいですかね。」

消えた外国人観光客 生き残りへの模索

国内の感染者が40人を超えた、2月中旬。
中国以外の外国人観光客の予約も軒並みキャンセルとなっていました。

大阪営業所 西田和浩所長
「中国以外の国をなんとかということで動いてはいたんですけれど、それすらキャンセルが来ている状況です。」

会社はこの日、従業員にある提案をしました。

大阪営業所 西田和浩所長
「国内とか地域の仕事が1本でもあれば、みんなで動こうと。」

外国人観光客以外の国内の仕事を見つけるため、ドライバーにも営業を呼びかけたのです。

大阪営業所 西田和浩所長
「1本(営業)取れたら、その乗務員が乗務する。一緒に動くことが価値がある、大事で、今後につながればいいし。」

会社の呼びかけに応えた1人、ドライバーの中川香里さんです。
慣れない営業。それでも、1日100件以上 電話をかけ続けます。

もともとバスガイドをしていた中川さん。観光に携わる仕事を続けたいと13年前、大型免許を取得。ドライバーの収入で家族を養ってきました。

ドライバー 中川香里さん
「オレンジが98円、安いな。」

72歳になる母親と2人で暮らす中川さん。感染が拡大する中、高齢の母親の体調も心配です。

ドライバー 中川香里さん
「(感染者の)人数が増えると、お母さんとか自分にも影響するじゃないですか。それを思うと不安ですね。早く終わってくれればいいのに。」

母親を安心させるためにも、営業で仕事を取り、収入を安定させたい。中川さんは連日、結婚式場などを回り、観光以外の送迎の仕事を探しました。

ドライバー 中川香里さん
「一応マイクロバスもあって、ハイエースもお安くしているので。」

「結婚式も本当に少なくなっているんですよ。」

ドライバー 中川香里さん
「皆さん延期されますよね、こんな時期。」

契約は20件回って1件取れるかどうか、厳しい状況が続きました。

“従業員にも家族が…” 幹部たちの苦悩

金融機関に融資の相談を続けていた、社長の海江田さん。
その後、国の支援策を使って、およそ5000万円の融資を取り付けました。

それでも数か月分の経費しか賄えないため、地元の金融機関に追加の融資を求めていました。しかし、多くの金融機関から「経営の見通しが立たずリスクが高い」として融資を断られたといいます。

家康コーポレーション 海江田 司社長
「銀行なんていうのは、語弊があるかもしれないけれど、すごく真摯に対応してくれるところもあれば、『当行は当行です 当行の基準です』と『こちらから融資させていただくことはございません』とはっきり言われました。」

会社は業績が悪化した2月以降、雇用調整助成金などの国の支援も利用して、雇用を守ろうとしてきました。

しかし、支給されるのは申請から2か月後だと分かりました。

3月中旬、売り上げが1割にまで落ち込む中、幹部たちは解雇の決断を迫られます。

家康コーポレーション 海江田 司社長
「大阪の、いま残っている人ね。実際に辞めてもらえるかということも考える。」

大阪営業所の所長、西田和浩さんです。
何人解雇しなければならないのか、話し合いが持たれていました。候補に挙がったのは、給料の高いベテランドライバーなど。大阪営業所では、最終的に26人中11人を解雇することになりました。

所長の西田さんは解雇を言い渡さなければなりません。
中には、小さな子どもを抱える従業員もいます。

大阪営業所 西田和浩所長
「ひとりの乗務員だけ(の問題)じゃない。家族もいる。いまの状況、どうしても整理せないかん人が出てくると思う。それはもう決まっているけれど、それを決めていいものか。もうちょっと、この人の背景を知らないといけない。悩む、むちゃくちゃ悩む。」


この日、解雇される従業員が事務所に集められました。

大阪営業所 西田和浩所長
「役員の給料、管理者の給料、事務職の給料をカットしてきたけれど、それでも追いつかない。もう本当、事業の継続が厳しくなった。きょうは解雇通知を渡します。」

1人1人におよそ1か月分の賃金と慰労金10万円が渡されました。

解雇を通告された従業員
「不安がありすぎて、どれが不安なのか分かりません。私個人としてはもう年齢も年齢ですので、いまから違う職種に就けと言われても、なかなか就くのは難しい。言葉が見つからないけれど、このコロナウイルスが無かったらなと。それしかない。」

大阪営業所 西田和浩所長
「つらいだろうなと思います。頑張ってきたのに。なんとも言えない。お疲れ様です、しかない。」


中には、みずから退職を申し出る人もいました。
西田さんとともに幹部として会社を支えてきた小森哲也さんです。
沖縄営業所で所長を務めてきました。沖縄でも13人中7人の解雇が決まり、小森さんは本人たちにそれを伝える役目でした。

沖縄営業所 小森哲也所長
「『何人か肩をたたいてくれ』と連絡がございまして。断腸の思いで従業員さんに声をかけたんですけれども、どうしても言われた本人としてみれば、いい感触じゃない。」

従業員からは「納得できない」という声も上がりましたが、小森さんにはどうすることもできませんでした。

沖縄営業所 小森哲也所長
「(従業員の)気持ちが十分 分かるんですよね。もう辞めていただいたんですけれど。それが苦しくて、自分としてみれば。その面もあって、今回は自分も身を引こうかなという形で。」

沖縄営業所ではバスの台数も減らし、大幅に規模を縮小することになりました。

沖縄営業所 小森哲也所長
「(働くのが)3月いっぱいなので、出来る限りのことはしようと思う。会社には頑張ってもらいたい。」

3月末までに解雇されたのは、会社全体で33人。従業員の4割以上に上りました。

緊急事態宣言 見えない収束

4月上旬、会社では大型連休を1か月後に控えて、新たな取り組みを始めていました。

「イメージはこういうふうな形。」

車内に、乗客の体温を測れる“サーモグラフィー”を設置。
安心してバスに乗れることをアピールすることで、ツアー客の獲得を目指していました。
ところが…。

安倍首相
「『緊急事態宣言』を発出いたします。」

バス会社の営業所がある大阪や福岡などで出された緊急事態宣言。5月6日まで外出の自粛が強く要請され、連休に向けた計画は頓挫しました。


営業活動に奔走してきたドライバーの中川さん。
新たな取引先を見つけるのは難しくなっていました。
収入の回復が見込めない中、新たにアルバイトを探し始めています。

ドライバー 中川香里さん
「これ死角がめっちゃ…」

「ちょっと待って、感覚が全然分からない。」

この日は、ダンプカーで建設資材を運ぶ仕事の研修。観光バスの仕事を諦めることも考えていました。

ドライバー 中川香里さん
「収束の見通しが立たないと、転職も考えていかないといけない。どんどん感染者数が増えてきたら、観光業界自体が難しくなると思ったときに(転職を)判断するかもしれない。」

緊急事態宣言とあわせて国が打ち出した経済対策。
中小企業には、最大200万円の給付などが決まりました。
そうした支援でどこまで会社を維持できるのか、試練の日々が続いています。

大阪営業所 西田和浩所長
「もしかしたら、もう(会社は)もたないかもしれないし、本当に(収束までの)期間が全く見えない状況だから。それでもね、いま出来ることをするしかない。」

コロナショック 現場の訴え

先週、緊急事態宣言は全国へ拡大。
会社の現状について、社長の海江田さんにきょう 話を聞きました。

ゲスト 海江田 司さん(家康コーポレーション 社長)

家康コーポレーション 海江田 司社長
「8月ぐらいまでは予約は全く入っておりません。冠婚葬祭の送迎ですとか、コロナの軽症患者を病院からホテルなどの宿泊施設に搬送する仕事をやっています。」

武田:国は実質 無利子・無担保の融資ですとか、従業員の休業手当を助成する雇用調整助成金の拡充といった支援策を打ち出しています。そうした支援を活用しながら雇用を守っていくということは、できなかったんでしょうか。

家康コーポレーション 海江田 司社長
「雇用を守れなかったことは経営者として非常に責任を感じております。雇用調整助成金の特例措置に関しても、2月から先んじて申請しましたけれども、実際、私どもに給付されるのに2か月かかります。早くても大型連休明けではなかろうか。」

武田:そのタイムラグという点なんですけれども、1か月、あるいは2か月でも、やっぱり持ちこたえるというのは難しいわけですか。

家康コーポレーション 海江田 司社長
「中小企業はやはり、2・3か月というのは大変大きいです。好き好んで社員を解雇しようと思う経営者はそんなにいないと思います。」

武田:行政に対して、どんなことを求めていきたいと思っていらっしゃいますか。

家康コーポレーション 海江田 司社長
「長期的展望といいますか、政府から援助策が出ているから何とかやっていけるだろうと、個人も企業も思える支援策を出していただきたい。」

武田:今、何を大切にして一日一日の仕事を進めていらっしゃるんでしょうか。

家康コーポレーション 海江田 司社長
「今も細々と仕事をいただいております。2万円、3万円のお仕事です。当社の1か月の売り上げは1億円前後ですが、1億円分の1万円だとか2万円だとか思わずに、一つ一つの仕事を大事にやろうと、社員一同 心がけています。」

“雇用”“暮らし”をどう守る?

武田:話を伺って、中小企業の置かれた深刻な状況を実感しました。雇用を巡る厳しい状況、こんなデータもあります。こちらは民間のシンクタンクが試算した失業者の数の見通し。ここ数年は減少傾向で、直近の数字では156万人。しかし、今後1年間で100万人増えて270万人に上るといいます。この試算をしたニッセイ基礎研究所の斎藤さん、これは衝撃的な数字だと思うんですが、どう捉えていらっしゃいますか。

ゲスト 斎藤太郎さん(ニッセイ基礎研究所 経済調査部長)

斎藤さん:経済が落ち込めば、残念ながら失業者は増えてしまいます。この数字は、今後予想される実質GDPの見込みをもとに私が試算したものですが、緊急事態宣言の期間が仮に延長されるようなことがあれば、この270万という数字はさらに大きくなってしまうということを心配しています。

武田:斎藤さんが今の局面で強調されたいことが「命か経済かの選択ではない」。これは失業者と自殺者の関係を表したグラフなんですが、バブル崩壊後、失業者が急激に増えるとともに自殺者も増えましたが、その後、2010年以降は景気の回復に合わせて、ともに減っていきました。そこを新型ウイルスが直撃した形となっているわけですが、斎藤さん、「命か経済かの選択ではない」、これはどういうことでしょうか。

斎藤さん:私が申し上げたいのは、「新型コロナウイルスの感染拡大」「経済を止める」、これは両方とも命に関わる問題だというふうに考えているということです。

武田:両立していかなくてはいけないということですね。

斎藤さん:そうですね。新型ウイルスによる死者を減らすことが仮にできても、経済的な死者を増やしてしまっては失敗だということになると思います。

武田:それでは、今どんな支援が必要だとお考えでしょうか。

斎藤さん:まず、スピード感というのが大事だと思います。政府は国民一人一人に10万円を配るということを決めました。これは決して多い額ではありませんが、スピーディーにやることによって、国民の手にすぐに行き渡るようにすれば、それは1つの成功だというふうに思います。

武田:まずはスピードということですね。

斎藤さん:はい。

武田:一人一人の暮らしを支えていく。海江田社長は「長期的な支援も必要だ」というふうに訴えていらしたんですが、斎藤さん、その点についてはどういうふうにお考えでしょうか。

斎藤さん:経済活動をこれだけ止めてしまっているわけですから、個人への給付もそうですし、企業を倒産させてしまうと失業者が急増してしまうので、やはり企業への給付、休業補償という形で、企業の支援というのを今後 より強めていく必要があると思います。

武田:まず今の局面は、一人一人の暮らしを支え、中長期的には倒産を防ぐ。

斎藤さん:そうですね。それが大事だと思います。先ほども申し上げましたけれども、経済を止めるということは命に関わる問題ですので、やはり企業を倒産させないということに全力を尽くすと。今回の経済対策では恐らく足りないということになると思いますので、これから先も迅速かつ大胆な政策を打っていく必要があると思います。

武田:ありがとうございました。