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2020年1月30日(木)
“地中が燃える” 豪森林火災の脅威 ~異常気象のリスク~

“地中が燃える” 豪森林火災の脅威
~異常気象のリスク~

森林火災による被害が広がるオーストラリア。去年7月以降、およそ30人が死亡し、10億以上もの動物が犠牲になっているとみられている。コアラやカンガルーなどの有袋類やトカゲ、野鳥などオーストラリア固有の野生動物への深刻な影響が懸念されている。火災の背景にあるのが、インド洋で起きる「ダイポールモード現象」。オーストラリア付近の海水温が低くなることで、高温と乾燥を招くが、今回は観測史上、最大級であることがわかった。専門家は、地球温暖化との関連を指摘。影響は日本にも及び、去年夏の猛暑や現在の暖冬にも関係しているという。さらに、来年もこの状態になるという予測も・・・。

出演者

  • 中村尚さん (東京大学先端科学技術研究センター 教授)
  • 早川卓志さん (北海道大学地球環境科学研究院 助教)
  • 武田真一 (キャスター)

“地中が燃える”新たな危機

日本の面積のおよそ3分の1に匹敵する森林や農地が焼き尽くされた、今回の火災。激しい炎が立ち上がり、多くのメディアが近づけないなか、住民たちが火災の様子を克明に記録していました。

これまで消火にあたった人など、およそ30人が犠牲となり、3000棟を超える住宅が焼失しました。

(車の中から撮影した)森林火災の映像は、ある特徴を捉えていました。

「絶対に窓は触るな。」
「これ以上、進んで大丈夫か?」

木々が焼き尽くされたあと、延々と地面が燃え続けていたのです。


私たちは、この映像が撮影された場所に向かうことにしました。
東京都のおよそ2倍の面積がある、カンガルー島です。オーストラリアでしか見られない“固有種の宝庫”として知られています。野生のコアラやカンガルー、ワラビーやハリモグラなど。“柵のない動物園”とも言われてきました。

カンガルー島を捉えた衛星画像です。先月から大規模な火災があり、島の半分近くが焼失。野生動物の宝庫といわれた西側の国立公園の大部分が焼けました。

現在、見た目には火の手が収まったかに見えるカンガルー島。ところが、新たな危機に直面していました。
地表などの温度を測る特別な機器を片手に歩き回る消防隊員。高温の場所があれば、実際に掘り起こしてチェックします。

消防隊員
「216度、220度。ホットスポットがある。」

10センチ程度掘った地中に200度を超える場所がありました。わずかでも草木に引火すれば再び大火災を招きかねず、一つ一つ見つけては消火を続けています。

現在、およそ70人を動員し、島中をくまなく調べています。

消防隊員
「地中の根っこだけでなく、シロアリの巣などからも火災が起きたりしています。再び火災が起きないよう、ホットスポットを確実に潰していかなければなりません。」


地中でくすぶる高温の火は、動物たちにとっても脅威となっています。
先週、動物救護に当たるチームに1本の電話が入りました。道端で身動きできないコアラを見つけたという内容でした。駆けつけると、衰弱している雄のコアラがいました。

通常、コアラは餌となるユーカリの葉から水分を摂取しています。やけどで木に登れず、水たまりの水を飲んで生き延びていたのではないかとみられています。

取材班
「なぜ足にやけどした?」

獣医師
「あちこちにまだ燃えている場所があり、コアラが食料を探しに行ったり、別の火災や煙から逃れようとしたりして、地面を歩き、足をやけどしたと思う。」

4本の足すべてに大やけどを負っていた、このコアラ。1日のうち、ほとんどを木につかまり過ごすコアラにとって致命的です。
この救援チームは、多いときで1日に50匹余りのコアラを保護しています。


地上で見えなくても、地中でくすぶる高温の火。
その背景には、異常気象があると指摘されています。オーストラリアの降水量と気温のグラフです。去年、平均降水量は平年を40%下回り、最も乾燥した1年に。平均気温も観測史上、最も高くなりました。


森林火災を長年研究する、シドニー大学のデイル・ドメニー・ハウズ教授です。

シドニー大学 デイル・ドメニー・ハウズ教授
「森林火災でポイントになってくるのは、地面に残された枯れ葉や枝の量です。火災の激しさ、温度、火の回る速度は、それによって決まるからです。」

地中火災はどのようにして起きたのか。
地面にたまった枯れ葉や枝。ひとたび火災が起こると、それが燃料となって火を強くします。やがて、火は地中に張り巡らされた木の根にも拡大。火は絶えることなく、根は木炭のような状態となって高温を維持するというのです。

シドニー大学 デイル・ドメニー・ハウズ教授
「枯れ木の量を減らすために、野焼きなど対策をとってきましたが、山火事はシーズンを問わず長期間にわたるようになりました。しかも、あちこちで同時多発的に起きるので、これまでの対策では対応しきれない事態になっているのです。」

消防では消火した場所を日々チェックしながら、どこに火種が残っているか探し続けています。

「絶対に防ぎたいのは、ここの火が被災していない地域に広がることです。」
「それを防がないと。」

被害を免れた東側の居住区を中心に、島にはおよそ4000人が暮らしています。今が夏のオーストラリア。40度近くに達する日もあるなか、さらなる被害を防ごうと地道な戦いが続いています。

「島にはホットスポットが点在しています。それが発火することもあります。そこに風が吹けば、あっという間に燃え広がってしまいます。今後1か月近くはこうした活動が続くでしょう。住民の不安を取り除き、拡大を防ぐためにも最後まで戦います。」

最新情報 今も続く危機

武田:火災発生当初から、現地で取材を続けてきたシドニーの小宮支局長に聞きます。小宮さん、地中まで燃えるという未曽有の大規模火災現場を見てきて、どんな印象を持ちましたか。

小宮支局長:カンガルー島を訪れて私が痛感したのは、火の破壊力のすさまじさです。特に島の西側にある国立公園は、見渡す限り焼け焦げた木や灰で覆われていて衝撃を受けました。煙のにおいも残っていて、1か月ほど前まで豊かな生態系が育まれてきた場所とは思えませんでした。とりわけ問題だと感じたのが、地中に残る火種です。一目見ただけでは、どこに火種があるか分からず、高温になっている地面に誤って触れて、やけどをする危険性もあると感じました。火種を取り除いて安全が確認されるまでには、数か月かかるということです。

武田:オーストラリアでは、これまでもたびたび森林火災に見舞われてきたということですよね。今回はどう違うんでしょう。

小宮支局長:例年の森林火災との違いは、各地で同時多発的に発生したことで消火活動が追いつかなかった点にあります。国土が広いオーストラリアでは、従来、消火活動は主に住民たちがボランティアで担ってきました。しかし、今回のような火災については、広域的、組織的に十分に対応できず、結果的に被害の拡大を招いてしまった側面があります。森林火災が長期化するにつれて、政府に対しても国民の間から強い批判が上がっていて、各地で抗議活動も起きています。政治的な火消しに追われるモリソン首相は、復興を支援する新たな政府機関の設置など、対策を打ち出していますが、国民から注がれる目は依然厳しいのが現状です。

武田:この大規模火災は、オーストラリアの貴重な野生動物に深刻な被害をもたらしています。

救えるか野生動物 最前線では

今回の火災によって、オーストラリア全土でコアラやカンガルー、鳥類など、推定で10億以上の動物が犠牲になったと見られています。
シドニー大学のマシュー・クラウサー准教授です。種によっては絶滅の危機にひんしている恐れがあると指摘しています。

シドニー大学 マシュー・クラウサー准教授
「この森林火災はこれまでにないものです。いったん火災を免れた動物も、大火災では消滅したり、再繁殖は難しくなったりするでしょう。は虫類、かえる、小型哺乳類です。多くが限られた地域に生息しているので、火災の影響を受けている可能性があります。」


野生動物を救護する現場では、大きなジレンマに直面しています。
コアラを中心に300匹以上を保護してきた、カンガルー島の救護所。この日、親を失った赤ちゃんのコアラを手当てしていました。

ボランティア
「お母さんを亡くしました。ぬいぐるみをお母さんだと思っているんです。」

ミルクなどを与え、体力の回復を促しています。
しかし、ここにジレンマがあります。人間が餌を与えることで、みずから餌を探し、摂取する野生本来の能力を奪ってしまうというのです。

獣医師
「難しい点は、私たちが介入しすぎると、動物の野生に戻る能力に影響を及ぼすことです。私たちは動物を野生に戻すことと、適切な治療を施すことの間の微妙な境界線の上にいます。」

救援チームの大きな目標は、保護した動物を自然に返し、野生動物の楽園を取り戻すことです。
保護から3日、水たまりの前で見つけたコアラです。

獣医師
「血液検査です。腎臓の健康状態を診るため。」

獣医師
「検査結果は、腎臓の状態がかなり心配。」

懸命な治療が続きましたが、回復の見込みがない腎不全と診断され、安楽死させる決断が下されました。

獣医師
「野生に戻れる見込みのない場合、私たちは安楽死の判断をします。動物愛護の立場に基づいた判断です。残念なことですが。」

今後、動物たちはどうなるのか。
森は再生するのか。
スタジオでさらに深掘りします。

野生動物はどうなる?

武田:カンガルー島などで野生のコアラを初めとする動物の生態研究を行っている早川さん、被害の状況をどういうふうにご覧になっていらっしゃいますか。

ゲスト 早川卓志さん(北海道大学地球環境科学研究院 助教)

早川さん:衝撃的ですね。映像にもありましたが、車道から見たときに森が焼け焦げてしまっている。私も火災が起きる前、カンガルー島で動植物を観察して、あの道路も車で走りましたが、見渡す限りの美しい緑が青々と茂ってました。それがこうやって焼け焦げてしまい、とてもショックです。

武田:あのカンガルー島のコアラというのは貴重な存在だったそうですね。

早川さん:はい。この火災と関係なく、「コアラレトロウイルス」と呼ばれるウイルス、「クラミジア」と呼ばれる細菌の感染が本島で流行していまして、それが問題だったんですけれども、カンガルー島は本島から隔離された島ですので、実はそのウイルスや細菌にまだ感染してないんです。そういった形で貴重な個体群だったんですが、今回、大半がなくなってしまったということです。

武田:それも大きな衝撃ということですよね。そのオーストラリアですけれども、コアラのほかにも、さまざまな固有の動物が生息しているわけですね。こういった動物には、どんな被害が心配されていますか。

早川さん:オーストラリアはこういった貴重な野生動物の宝庫です。コアラ、フクロモモンガは両種とも樹上性の動物。ユーカリの木の上で暮らしている動物です。コアラは専ら葉を食べます。フクロモモンガもユーカリの木から出てくる樹液を食べています。ですので、木が燃えてしまうと、コアラもフクロモモンガも住みかがなくなる。たとえ生き残ったとしても、葉っぱもないし、樹液もない。食べることができず、飢えてしまうでしょう。ウォンバットやフクロネコは地上の動物です。ウォンバットは草食動物、フクロネコは肉食動物です。ユーカリの木が燃えること自体は直接の影響でないですが、やはり地面にも灰が覆われていますので、食べ物もとれないし、住みかもなくなってしまう。そして、フクロネコは小型の動物を食べていますが、それらも恐らく焼けている。

武田:両生類とか、は虫類のようなものですね。

早川さん:なので、このフクロネコも食べ物がなくなる。結局、みんなつながっていますので、こういった動物たちが住みかと食べ物を失っている。絶滅に向かうかもしれないということが非常に深刻です。

武田:ただ、その動物たちを人間が保護するということに関しても、大きなジレンマがあるんですね。ここは、どういうふうに捉えていらっしゃいますか。

早川さん:確かに森が全焼してしまって、絶滅に向かうかもしれない。保護をして、育てて、森が再生するのを待って返すということが必要ですけれども、やはり過剰に人に育てられてしまうと餌の取り方が分からない、捕食者から身を守る方法を知らないということで、森に返っても生きていけないかもしれないです。それから、もうひとつ大事なのは、オーストラリアは車社会です。森に返っても、人慣れしていると車の事故に遭うとか、そういったリスクが高まります。そういった2つのリスクという点で、やはり過剰に人慣れさせてはいけない。ですが、返すべき森の再生が追いつかないという問題があります。

武田:その問題もありますよね。そもそも返すべき森がこれほど広大に燃えてしまったら、再生は可能なのですか?

早川さん:山や森で木が燃えるというのは、オーストラリアでは自然現象です。でも、本来なら一部の森だけが燃えます。周りの森は残っているので、そこが動物たちの避難地となって生き残ることができる。森が再生するのを待って、戻ってくる。ところが、今回は焼けすぎてしまったんです。すべての森が燃えてしまったら、そういった避難地も残りませんので、植物の再生も追いつかないですし、動物たちが身を隠す場所もないと。非常に深刻な事態だと思います。

武田:そのオーストラリアの生態系に深刻なダメージをもたらしている未曽有の森林火災。なぜ、被害はここまで拡大しているのでしょうか。

乾燥 高温…異常気象はなぜ?

未曾有の森林火災を引き起こした、オーストラリアの異常気象。それは、地球温暖化による気候変動の表れだと研究者はみています。

シドニー大学 デイル・ドメニー・ハウズ教授
「人間活動による世界規模の気候変動は、オーストラリアに乾燥や高温、強風や落雷をもたらし、森林火災が起きる可能性を高めています。オーストラリアで森林火災が発生しやすく、拡大しやすくなっていることと、気候変動は明らかに関連しています。」

オーストラリアの気象に大きな影響を与えるのが、数年に一度の頻度で発生する“ダイポールモード現象”。7月から12月ごろに発生する、インド洋の海水温の差です。去年は西側の海水温が高く、東側が低くなる西高東低の状態でした。この場合、海水温が低い場所では晴れることが多くなります。オーストラリアは高温と乾燥に見舞われることになるのです。

“ダイポールモード現象”研究の第一人者、土井威志さんです。今回は観測史上最大級で、異例の長期にわたるものだったと言います。

海水温を示した図。青が濃いほど平年よりも温度が低く、赤が濃いほど平年よりも温度が高いことを示しています。去年5月、西高東低の状態となり“ダイポールモード現象”が始まりました。通常に比べ2か月ほど早い発生でした。その後、月を重ねるごとに東西の温度差は大きくなりました。ピークとなったのは11月。その差は2度と観測史上最大級で、その強さを物語っていました。

収束したのは通常に比べ1か月余り遅い、今月上旬。この“ダイポールモード現象”の強さと長さが、異常気象の原因となったと考えられています。

海洋研究開発機構アプリケーションラボ 土井威志博士
「やっぱり規模が大きかったので、普通なら11月の終わりぐらいから消え始めるんですけども、(1月初旬でも)まだ消えきっていない。まだその残しが残っているような構造で、やはり過去最大級の強さだったということが影響していると思います。」

オーストラリアで森林火災の原因となった“ダイポールモード現象”。実はことしもまた、同様のリスクが予測されています。
スーパーコンピューター「地球シミュレータ」による計算で、ことしも西高東低になるという可能性が浮かび上がったのです。そうなれば、4年連続して西高東低の状態が発生することになり、観測史上、類を見ない事態です。

海洋研究開発機構アプリケーションラボ 土井威志博士
「熱帯インド洋は近年、少し温暖化の進行が早いと。一説によると、温暖化が進行することによってインド洋ダイポールモード現象が甚大化する、あるいは頻発化する、というようなことが言われています。」

シドニー大学 デイル・ドメニー・ハウズ教授
「根本にある地球温暖化の対策に取り組まない限り、森林火災のリスクのみならず、高温や乾燥などの問題を解決することはできないのです。」

森林火災をもたらす異常気象。
今後どうなっていくのでしょうか。

異常気象 今後どうなる?

武田:世界の気象や気候を研究している中村さん。今、VTRでお伝えしたような異常気象の背景をどういうふうに捉えていらっしゃるんでしょうか。

ゲスト 中村尚さん(東京大学先端科学技術研究センター 教授)

中村さん:今回、自然変動であるダイポールモード現象が非常に強かったということで、極端な高温や乾燥をもたらしたということですが、これが、もし40年前、50年前だったら過去最高というようなことには恐らくなっていない。それは、背景に地球温暖化があって、気温にげたを履かせる。そういうようなことで、これだけの甚大な被害をもたらすような状態になったというふうに考えています。

武田:ダイポールモード現象によるインド洋の海水温の西高東低という状況は、実は4年連続の可能性もあるという指摘がありましたけれども、この影響についてはどういうふうにお考えになっていますか。

中村さん:今回の森林火災、高温・乾燥で土壌の水分がかなりなくなってきているわけで、もし、ことしまたダイポールモード現象が起きるとなると、ことしほどではないにしても、高温・乾燥をもたらそうとしますので、さらに土壌の保水力がなくなってくるというふうに危惧しています。ただ、ダイポールモード現象が4年連続すると、これが温暖化の影響であるのか、あるいは赤道、太平洋の持続的な自然の水温変動の影響であるのか、両方なのか。ここは見極めるための研究が必要になってくると思います。

武田:早川さん、土壌の保水力が落ちてしまう可能性もあるというふうにお話しされましたけれども、そうなるとどうなんでしょう。森林の再生はますます遅れてしまう?

早川さん:動植物はやはり水が必要です。木が生えるためには水が必要です。その木が水を吸い上げて、例えばコアラは葉っぱから水分をとっています。木自体も呼吸していますので、土壌中の水分が木から出てきて、呼吸して循環していく。そういう大気と土壌の循環が全くできなくなってしまうので、再生もしてこないと非常に深刻ですね。

武田:今回のオーストラリアと同様に、去年だけでもアマゾンやシベリア、アメリカのカリフォルニアなどでも大規模な森林火災が起きていますね。こうした大規模火災も温暖化の影響があるのかどうか。そして今後どうなっていくのか、いかがでしょうか。

中村さん:オーストラリアで今回起きたように、こうした森林火災は自然の変動によって、例えばジェット気流が北上するとか、そういうことで高温状態になりやすい条件がもたらされるわけですが、以前と違って温暖化が進行していますので、その影響で過去の例にないような異常高温になります。そうすると、各地で火災がより起こりやすいような状況に今後なってくるということで、われわれとしては、その進行する温暖化を意識して、災害や山火事に気をつけていかなければならないと思っています。

武田:警戒が必要ということですね。



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