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2020年1月29日(水)

防げるか? 大人の“いじめ”

防げるか? 大人の“いじめ”

10月に神戸市の小学校で発生した教師同士の“いじめ”。先輩教師が若手に激辛カレーを押し付ける動画が社会に衝撃を与えた。子供の見本となるべき教師が、なぜ“いじめ”に走ったのか? 取材してみると、教師間いじめは全国の学校で行われていることが明らかに。背景にあるのは、ブラック企業並みに多忙な教育現場の現状だ。子どもの学力向上に加え、思春期期の心のケアや保護者への対応に追われるストレスから、いじめが多発しやすいという。番組では、同じように多忙とされる介護現場や銀行などでの“大人のいじめ”も紹介。防ぐ手立てはないのか、多方面から考える。

出演者

  • 内田良さん (名古屋大学 准教授)
  • 坂倉昇平さん (NPO法人 POSSE 理事)
  • 石井光太さん (作家)
  • 武田真一 (キャスター) 、 高山哲哉 (アナウンサー)

“大人のいじめ”教員の間でなぜ?

番組に寄せられた体験談の中で目立ったのは、教育現場からの声でした。
西日本の中学校で教員をしていた坂本たけしさん(仮名)。同僚の教員から欠点を何度も指摘され、次第にそれが、生徒を巻き込んだいじめに発展していったといいます。
子どものころ、インターナショナルスクールに通っていた坂本さん。英語の楽しさを伝えたいと教員を目指しました。
しかし…。
事の始まりは、ささいなミス。坂本さんが授業で漢字を間違えてしまったのです。すると、指導役だった50代のベテラン英語教員が…。

指導役 ベテラン教員
「先生、今の授業の漢字、こっちの「回答」じゃなくて、こっちの「解答」だから。」

元中学校英語教師 坂本たけしさん(仮名)
「すみません。」

当初は、ありがたいアドバイスと受けとめていましたが、徐々に指導がエスカレート。

指導役 ベテラン教員
「声が暗いのよ。」
「あと表情も硬いんだな~。」
「チョークが短いの!もうちょっと長いのをちゃんと準備して!」

そんななか、さらに坂本さんを追い詰める出来事が。
生徒からの連絡ノートに書き込みがあったのです。

“英語ができるからって威張りすぎ。”

なぜこんなことを書いたのか生徒に確かめたところ…。なんと、ベテラン教員が“坂本さんが生徒をバカにしている”とうわさを流しているというのです。

坂本さんは次第に生徒たちからも孤立するようになりました。

元中学校英語教師 坂本たけしさん(仮名)
「うそをついて、わたしの評判を落としていたんですね。悔しくて。その悔しさを、この時はもう我慢できなくて…。」

なぜこんなことをするのか、ベテラン教員に問い詰めました。

指導役 ベテラン教員
「あなたね、英語はうまいかもしれないけど、教員としては私のほうが上だから!」

実は、このベテラン教員のいじめは有名で、別の先輩教員によれば、以前も若手を退職に追い込んだことがあるといいます。しかし、なぜか職員室では大きな発言力を持っていました。

元中学校英語教師 坂本たけしさん(仮名)
「この方(先輩教員)は7年、この学校にいました。一番長く働いているので、この人が実質、校長・教頭よりも牛耳るというか、独裁的になってしまうので。」

教員は一般に30~40代で、校長などになる管理職コースと、ずっと現場で生徒を教えるコースとに分かれます。管理職は2~3年で異動を繰り返しますが、現場のベテランは長期間、同じ学校で教えることも。こうして、次第に誰も文句を言えなくなっていくといいます。

坂本さんは結局、生徒との関係を改善できず退職。
今回の取材を通して、こうした教員どうしのいじめは、決して特殊なものではないことが分かってきました。


<CASE1 生徒の前で>

愛知県の、ある中学校のケース。
若手教員がクラスをまとめきれず、集合時間に遅れてしまいました。すると、先輩教員が生徒たちの目の前でカラーコーンを10メートルも蹴り飛ばしたといいます。

いじめ被害を受けた教員(40代)
「もう完全に子どもたちはおびえましたし、同僚の若い先生がいたんですが、その先生も引いてしまうような。」


<CASE2 職員室で無視>

西日本の、とある学校。
30代の小林さんは講師を経て、正規採用されたばかり。ベテランの学年主任に細かいルールを繰り返し尋ねたところ…。

学年主任
「同じことを何度も聞いて、あなた“無能”ね。何もしないで座っていたら?」

それをきっかけに、学年主任はほかの教員にも小林さんを無視するよう指示。仕事に必要な情報も1人だけ教えてもらえないこともありました。

いじめ被害を受けた 小林ひとみさん(仮名)
「その先生が『右』と言ったら(全員が)『右』っていう感じなので、(他の教員は)意見を言える感じではなかったと思います。」

小林さんは困り果てて、校長に直訴。しかし、ほとんど取り合ってくれなかったといいます。背景にあったのは、現場の教員よりさらに過酷だという学校管理職の日常。

いじめ被害を受けた 小林ひとみさん(仮名)
「(校長や教頭は)とてもハードな仕事だと思います。誰よりも早く来て、土曜日にもいて、地域イベントにも顔を出し、ほとんど学校で生活している。」

勤務実態を見ると、学校の管理職が現場の教員と同等か、それ以上に多忙だということが分かります。

余裕がないなかで、職員室の人間関係にまで目を配ることができず、ベテラン頼みになってしまう現状があるといいます。
小林さんのいじめは、結局、解決しませんでしたが、数年後に希望がかなって別の学校に異動。しかし、それで終わることはありませんでした。

「君が“無能”か。よく聞いているよ。」

前の学校の学年主任からうわさを聞いていたと話す、50代の男性教員。小林さんは、この教員からたびたび陰口をたたかれることになったといいます。

いじめ被害を受けた 小林ひとみさん(仮名)
「悔しさより、悲しいですね。ひと言で言えば、子どもたちに見本を見せられない悲しさですね。『いじめはダメだよ』って言っているその口が、自分で自分にうそをついている気分になりました。」

“大人のいじめ”実態と原因を深堀り

武田:今の声にもありましたけれども、いじめは絶対にだめですよね。

高山:はい。

武田:それが大人の間でも起きている。ちょっと本当に驚いたんですけど。

高山:すべてのケースではないんですけども、今回、声を寄せてくださった先生のエピソードのほとんどが、経験の浅い新人の時のことなんですよね。最初は、自分が未熟だから自分に非があるんだろうとずっと思い続けて、周囲を見渡すと、いつの間にか仲間外れにされ、無視され。あれ?これはひょっとしていじめだったの?と、後で気が付いたということを異口同音におっしゃっている。

武田:自分を責めてしまう。二重に気の毒なことですよね。
教育社会学が専門の内田さんも、学校現場でのいじめはよく聞く話なんですか。

ゲスト 内田良さん(名古屋大学 准教授)

内田さん:もちろんすべての先生ではないということが前提ですけれども、やっぱり若い先生が生徒の前でどなられる、同僚からどなられるというのは本当によく聞く話ですね。

武田:例えば、無視されるとか。

内田さん:特に、そうやって同僚から生徒の前でどなられることによって、自己肯定感が低くなっていって鬱になっていく。そういったケースをたくさん聞いています。

武田:どうして学校の管理職が、それを抑えられないんでしょうか。

内田さん:まず長時間労働、そして、特に教頭先生というのは先生たちに近い立場ではあるんだけども、実は学校の中で一番長時間労働だと。そうすると学校の中では、なかなか先生たちに目が行き届かないという現状もありますね。校長先生は外向きの仕事がありますけれども、教頭先生が忙しくて、そういった声が教頭先生に届かないということもありますね。

武田:そもそも、なぜ教員どうしでいじめが起きてしまうのか。

高山:それにつながるデータというのがありまして、こちらをご覧いただきましょうか。公立で学級担任を持っていらっしゃる現役の先生、1日にどれぐらい休憩時間があるのか。小学校で、なんと1分。中学校で、わずか2分。

これは休んだうちに入るんでしょうか。ただ、これぐらいの時間しかないので、相談すらできないというのが現状。

内田さん:学校の先生って、学校にだいたい11時間20分ぐらいいるんですね。その間で1分や2分しか休んでいないと。これでは何かつらいことがあっても、当然子どものいじめも含めてですけれども、そういった問題に対応できない、相談できないという状況が広がっているわけですね。

武田:ほかにも学校現場で先生方のいじめが生まれてしまう原因として、何か学校特有の体質があるのでしょうか。

内田さん:学校って教育指導によって成り立つ場ですね。時には、どなって子どもたちに指導するというのと同じように、同僚の間でもどなりながら厳しい指導をしていくということが広がっていると。学校文化そのものにも、こういった根があるのかなというふうに思いますね。

武田:まだそんな文化があるんですか、学校には。

内田さん:まだまだたくさん。どなり散らすというのは結構日常的に行われているという現状ですね。

高山:調べてみると、“大人のいじめ”は日本だけではないんです。
実は世界中にあります。まずカナダ。こちらはフランス語なんですけれども、「L‘intimidation chez les adultes(ランティミダシヨン・シェ・レザデュルト)」。これが“大人のいじめ”という意味なんだそうです。韓国では「갑질(カプチル)」と読むそうです。“大人のいじめ”です。イギリスでは英語です。「Adult bullying(アダルト・ブリング)」というふうに言われていまして、会社員の4人に1人がいじめに関係しているというデータまであるんです。

こうした世界の流れを受けて、去年初めて、職場でのハラスメントを全面的に禁止する国際条約が採択されました。

武田:NPO法人で、ブラック企業の労働問題に取り組む坂倉さん。世界でもこういったことばが広まっているようですけれども、やはり“大人のいじめ”と労働環境って何か関係があるんですか。

ゲスト 坂倉昇平さん(NPO法人 POSSE 理事)

坂倉さん:そうですね。私たちの団体にも、学校からもたくさんの相談が来ます。標的になっている先生に対して、生徒にあら探しをするようにさせたりとか、あるいは、それこそ神戸の事件を例にとって、「おまえも神戸の事件みたいにしてやるぞ」というような事を言ったりとか。そんな事例もあります。ただ学校に限らないんですね。私たちのところに来る相談のうち、最初に電話やメールで相談を受けますけれども、職場の人間関係で悩んでいる、いじめを受けているという相談は非常に多いです。ところが、じゃあいつからいじめや人間関係に悩むようになったかということを聞いていきますと、例えば職場の仕事のやり方についていけなくなったとか、そもそも職場の働き方に疑問を呈したとか、そういうことをしたところ、ベテランや先輩の社員の方からいじめを受けるようになったと。このように、実はいじめの背景に労働問題があるというケースが非常に多いんです。

武田:労働問題は人手不足であったりとか?

坂倉さん:人手不足ですとか、人員の一方で業務量が非常に多いとか、そういう問題が多くあります。

武田:石井さんはさまざまな現場を見てこられましたけれども、“大人のいじめ”というケースはご覧になったことがあるんですか。

ゲスト 石井光太さん(作家)

石井さん:そうですね。やはり、立場の下の人に対して“物事を正す”という仕事がどうしても多くなるのかなという印象があります。

武田:学校のように?

石井さん:学校だとか。僕の知っている場合ですと、保育園で、あるシングルマザーの先生が昼間の仕事だけではお金が足りなくて、夜にスナックでアルバイトをしていたそうなんですね。ダブルワークは許されているらしいんです。しかし、先輩がそれを見て、いかんだろうと。こんな仕事、保育士ではあり得ないと正すわけですね。周りの人間も正すことが認めることなので、職員周りの同僚たちも「うん」とうなずいてしまうんです。仕方ないんですけど、やっている人たちは。でも、それによって、その話というのが保護者にまで伝わってしまったり、広がってしまったりする。そうすると、その人というのは、ものすごく四面楚歌になってしまって孤独になって、誰も助けてくれない、いじめられてしまっているというケースがあったんですね。やはりそういった“人を正す”という仕事になってくると、どうしてもそれは容認されてしまう。いじめというのは単純に1対1でやることではなくて、周りの人間がそれを見過ごしてしまう、認めてしまうといった中で初めて成り立つものなので、そこを考えないといけないことかなと思っています。

武田:1人1人の生き方よりも組織の価値みたいなものが優先されて、いじめが…。

石井さん:組織の理論みたいなものが優先されてしまうということですね。

高山:厚生労働省の調べで、いじめや嫌がらせを受けたという相談がこの10年で倍増していて、過去最高だったんです。NHKで、どんな体験談があったのかというのを皆さんから募ると400件ほど寄せられました。どんな業種だったのか。目立ったのが病院、保育園、介護、金融機関の窓口といった業種だったんです。取材を進めると、今の日本を映す社会的な背景も見えてきました。

“大人のいじめ”追い込まれる銀行窓口

心療内科でカウンセリングを受ける、高橋ゆみこさん(仮名)。同僚から無視されるなど、職場いじめでうつ病を患いました。仕事は、金融機関の窓口業務。最近は特殊詐欺対策などで確認事項が増え、待たされた顧客が怒り出すことも多いといいます。

高橋ゆみこさん
「早くして早くしてって言っている人がものすごく多くて、いつも怒っている。(職場で)ミスしたり遅い人がいたら他の方に迷惑をかけるので、ものすごいピリピリしています。」

緊張感が漂う職場で、当時新人だった高橋さんはミスを連発。たびたび全体の仕事を止めてしまいました。次第にお荷物のように扱われ、無視されるように。

今は、月に1回カウンセリングを受けることで、なんとか気持ちを保っているといいます。

高橋ゆみこさん
「私が悪いとはもちろん思っているんですけれど、最初の『おはようございます』以外に会話がないので。一緒の席に座ろうと思って私が行ったら向こうに行く。私にとってはつらいんで。」

“大人のいじめ”加害者の告白

被害者を深く傷つける“大人のいじめ”。
加害者側はどんな気持ちでいるのでしょうか。

職場のいじめ加害者
「生活はカツカツだし、(ストレス解消には)人をいびるっていうのが一番てっとり早いんだと思います。」

老人ホームで非正規職員として働く田中和子さん(仮名)。かつて、職場で同僚の男性をいじめたことがあるといいます。
事の起こりは2年前。40代の男性職員が、糖尿病の患者にココアを作っていたときのこと。なぜか男性は、健康に影響を与えかねない大量の砂糖を入れてしまいました。

男性職員(40代)
「作り直すのも面倒だし、別にいいじゃないか。」

実はこの男性、ベテランの正社員。しかし、使用済みのオムツを放置するなど、ふだんから仕事上のミスが目立ちました。正社員に歯向かうのは勇気がいりましたが、田中さんはたまらず「いいかげんにしろ!」とどなってしまったのです。

田中和子さん(仮名)
「私も派遣だから、もし(正社員に意見したことで)何かあって問題があったら、私がやめれば済む話だし、そこまで気を遣わなくていいんじゃないか。」

思い切って声を上げた田中さん。しかし、この発言をきっかけに思わぬ事態が起こったといいます。

「やめてあげなよ~。」
「そんな怒ると、その人泣いちゃうよ~。」

それまで見て見ぬふりをしていた非正規の仲間が突如加勢して、みんなで男性をばかにし始めたのです。思わぬ形で、いじめのリーダー格となった田中さん。どこか胸のすく思いがしたといいます。その後も田中さんたちは男性にわざと難しい仕事を頼むなどして、たびたび間違いを指摘。いじめは、いつしかストレス解消の格好のはけ口となっていったのです。

田中和子さん(仮名)
「生き物として必要だからいじめる。プチカーストみたいな感じ。他の人は並列だけど、この人だけは下って感じの。そこら辺がタガが外れるみたいな感じがあると思います。」

どう防ぐ?“大人のいじめ”

高山:ご紹介した加害者の田中さんなんですが、いじめをしているときには自分がいじめをしているという認識はなく、みんなと一緒にいじめを続けてしまっていたということなんですね。取材で、当時どうだったんですかと対話を重ねると、当時の行き過ぎた行動に反省をして、ちょっとやりすぎたかなというふうにも話はしていました。

武田:そういう正規・非正規の格差であるとか、あるいは少しのミスも許されないとか、お客さんからの厳しい要求とか。社会全体に広がっているいろんなひずみが関係しているようにも思うんですけれども、坂倉さんのもとに寄せられる相談からはどんなことが見えてきますか。

坂倉さん:今おっしゃっていたいただいたようなさまざまな労働問題があるところを、言ってしまえば覆い隠すような形でいじめが役に立ってしまっている。本当は人を増やすとか、ちゃんと仕事を少なくするとか、そういう改善が必要なのに、いじめが一番の問題だというふうに思われてしまっている。そういうことがあると思います。きょうの先ほどの映像の中でも、介護の中で正社員の方と非正規の方が対立しているという映像が出てきましたけれども、こういった相談は非常に多くて。例えば飲食店ですとか、コンビニとか、そういったところで正社員の人が店長をしている。ほかの方はフリーターの方とか学生のアルバイトの方がほとんどで。お互いに非常に多い業務量を押しつけ合って、しわ寄せをどちらが受けるかという形で対立してしまっている。本当は押しつけ合いをするのではなくて、お互いに、なぜそこでいじめが起きるのか、いじめが起きている背景の問題に一緒に取り組んでいく。それが本当は重要なんだと思います。

武田:本来、職場が抱えている問題があって、それを解決しなければならないのに、それをいじめという問題に…。肩がわりさせてるというか。

坂倉さん:本当は会社にいろいろ請求していかなければいけない、会社が改善していかなければいけないことを、職場の中でいじめという形で対立し合って、それで消耗してしまうというか。

武田:無理を解消するのではなくて、いじめという形で「おまえ頑張れよ、何やってんだよ、文句言うなよ」というふうにして組織自体が成り立っていると。もしかしたら社会全体がそのように成り立っているのかもしれないですね。
石井さんは社会の問題との関係をどんなふうにご覧になりますか。

石井さん:本当に今までの話だと、職場の厳しさがいじめを生むということになっていますよね。ただ、同じ職場でも、やる人とやらない人というのは当然いるわけです。やる人を見てみると、その職場以前にいろんな問題を抱えているケースというのが見られます。例えば僕が知っている介護の人ですと、本当に家庭がうまくいっていなくて、家出して、中卒で頑張ってヘルパーの資格を取ったんだけれども給料が低くて、離婚して、友達ともうまくいかなくて、転職すると介護の職場が非常に厳しかった。それで、いじめをしてしまったんですと。これを考えてみると、その人というのは職場に入るまでに、ものすごくいろんな問題を抱えてしまっていて、そして、その職場というのが1つ扉を開いてしまったような形になると思うんですよね。そういうふうに考えた場合に、もちろんいじめはいけないんですけれども、単純にいけないというふうに押さえつけるだけでは済まなくて、そのいじめをした人間が抱えている問題をどうやって組織としてケアしていくか。例えば、組織の中にメンタルをうまくケアする人たちを雇って、そういう人たちと社員の人たちの問題を見ていく。そういったシステムが必要なんじゃないかなと思います。

高山:もし大人がいじめにあったら、どうすればいいのか。まずは勤めている企業にある窓口を訪ねていただきたいんですが、そこでもうまくいかないという場合には、公的な窓口というのがあります。各都道府県にありまして、こちらでは無料で、しかも必要であれば弁護士の紹介もしてくれるということで、ぜひサイトのほうでご確認をいただきたいと思います。

そして、坂倉さんも実は相談に乗ってらっしゃる。

坂倉さん:そうですね。なかなか会社の窓口がちゃんと対応してくれないケースなんかも多いので、そういった時に私たちの窓口のほうでちゃんと対応できたりとかします。最初、自分がいじめの被害者で自分が悪いんだというふうに罪悪感を抱いてしまっている人が多いんですけれども、それは職場の問題で、自分の問題ではないということが非常に多いので、まずは気軽に相談していただきたいと思います。

武田:まずは声を上げるということですね。内田さん、学校現場でのいじめの問題を見てこられましたけれども、広く社会の中で“大人のいじめ”を防ぐためには、どんなことが必要だというふうにお感じになりますか。

内田さん:子どものいじめに関して、実は重要な理論があって。被害者、加害者がいる。実は、それ以上に、はやし立てる観衆、そして見て見ぬふりをする傍観者、これがいじめの継続に大きな役割を果たしているということが分かっているんですね。傍観者の役割というのは決して子どもだけじゃなくて、大人社会でも、そういうことが結局は職場の中でいじめやハラスメントを見えなくしているということなんですね。そういった人たちもちゃんと心の余裕をもって、相談しながら解決していくということが必要だと思います。

武田:石井さんは。

石井さん:僕は、いじめというのは会社のような組織にとってものすごくマイナスだと思うんですよね。利益的にも。本当にそれをなくすための、いろんな評価基準というのは作れるんじゃないかなと思っています。僕が知っている少年院ですと、「美徳カード」というのがあるんですけど、美徳というのはどういうことかというと、親切にしろとか、人によくしろとか、人の気持ちを考えろとか、そういったカードを配って、「きょうどれだけ美徳をしましたか」ということを評価基準にするんですね。それによって、人というのはいじめに加担したり、笑ったり無視したりするものではなくて、自分でその中に積極的に入っていって、それをなくしていくということが、褒められて評価につながる。やはり企業も、1つガバナンスということを大切にしている以上、社員の中に、そういったような評価がいいことはいいんだよ、ということを評価基準にすれば、会社はまた変えられるのではないかなと思っています。

武田:利益を上げることが会社の一番の美徳ですけど、それだけじゃない。ほかの評価基準。

石井さん:そういったことをすることによって、会社自体がうまく回っていけば利益も上がっていく、というような考え方がいいのではないかなと思っています。

武田:坂倉さんはいかがですか。

坂倉さん:まず1つは、制度的な改善が必要だと思います。昨年、パワハラ防止法が成立しましたけど、パワハラを禁止していないんですね。明確に違法だというふうに言っていない。会社に防止義務を命じているわけなんですね。ですので、いざパワハラ問題のときに法的根拠が明確じゃないというところがありまして、会社が要は本気になってちゃんとパワハラに取り組めないという、そういうふうな制度でもあるんです。一方で、制度の改善と、あと現場でどれだけ制度がよくなっても、それをかいくぐってパワハラやいじめは起きますから、もちろん当事者もそうですけど、いじめやパワハラに気づいた周りの人たちが声を上げていく。それをちゃんとやるということが重要だと思います。

武田:どうしても会社の価値観、自分の組織の価値観のほうが優先されてしまうようなところがあると思うんですけれども。そうじゃなくて、いじめはだめだと、最も基本的な価値観ですよね。

坂倉さん:そうです。なかなか黙認されちゃったりすることが多いので、まず気づいた人が声を上げていく。自分が被害にあったときに声を上げる。大変ですけれども、それが必要かと思います。

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