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2020年1月14日(火)

米中攻防 最前線で何が ~台湾総統選の裏で~

米中攻防 最前線で何が ~台湾総統選の裏で~

1月11日に行われた台湾総統選の背後で、世界の覇権を巡り争う米中がしのぎを削っていた。中国が台湾に対し、サイバー攻撃に加え、フェイクニュースやスパイ工作などで圧力をかけたとする疑惑が浮上する中、アメリカは、台湾のファクトチェック団体を支援するなどして阻止を試みていた。さらに加熱する“米中貿易戦”の余波は、台湾経済の現場にも。中国が台湾企業への“アメ”として、5Gビジネスへの参入を認める優遇策を示して揺さぶりをかける一方、グーグル、アマゾンなど、アメリカのITの巨人が次々と台湾への投資を拡大。こうした中、中国大陸で大規模な事業を展開してきた台湾企業では、事業の一部を台湾に移す動きが活発化している。2020年、世界の動向を左右する米中攻防の最前線に迫る。

出演者

  • 佐橋亮さん (東京大学東洋文化研究所 准教授)
  • 武田真一 (キャスター) 、 栗原望 (アナウンサー)

台湾を舞台にした“サイバー戦争”

先月、NHKのカメラが入ったのは台湾のサイバーセキュリティーを担う研究機関です。台湾の企業や大学などを狙った海外からのサイバー攻撃を24時間体制で監視しています。

「この1時間で台湾に対し行われた攻撃を示したものです。」

栗原:気になるのはこちらの中国ですが、これは何の数ですか?

「サイバー攻撃の数で、中国大陸から1時間に1000回以上受けているとみています。」

この機関では、台湾のさまざまな機密情報やサーバーの乗っ取りなどを狙って、中国大陸から攻撃が行われているとみています。人工知能などを使って解析を続けたところ、台湾へのサイバー攻撃には、もう1つの狙いがあることが分かってきたといいます。

サイバーセキュリティー技術部門 蔡一郎部長
「台湾が中国の“隠れみの”になっている可能性があります。」

栗原:中国から来て、どこへ行ったのですか?

この機関の調査で見つかったのは、中国大陸から台湾を経由し、アメリカの企業にサイバー攻撃が仕掛けられている事例だといいます。台湾のネットワークの中でセキュリティーの甘い部分を狙い、乗っ取ることで攻撃元が特定されないようにしているのではないかとみています。

サイバーセキュリティー技術部門 蔡一郎部長
「中国大陸から台湾のネットワークを利用し、フェイスブックやグーグルなどに攻撃が行われていたとみています。台湾は踏み台とされているのです。」

アメリカが主張する中国によるサイバー攻撃は、米中対立の要因の1つとなってきました。

アメリカ トランプ大統領
「中国はアメリカの技術を盗もうとしている。」

これに対し、中国は強く否定。

中国外務省報道官
「ウソを1000回言ったら真実になると思っているのかもしれないが、1万回言ってもウソはウソだ。」

警戒を強めるアメリカは台湾への支援を強化しています。去年11月にはサイバーセキュリティーの専門家を送り込み、合同演習を実施。

アメリカ在台協会 副代表
「サイバー攻撃は私たちにとって深刻なリスクです。セキュリティー向上のため、われわれは連携を強化しなくてはなりません。」

アメリカが台湾で行っているのは、あらゆる攻撃を想定した実戦訓練です。台湾のシステムの弱点を見つけ出し、被害を防ぐための技術やノウハウを共有しています。

サイバー攻撃に対抗できる人材を育成するため、支援を続けています。
先月までトランプ政権の国防次官補として、台湾に関する安全保障政策を統括していたシュライバー氏。台湾は、中国に対抗するための重要な存在になっているといいます。

アメリカ シュライバー国防次官補(当時)
「アメリカは台湾への支援を惜しみません。中国の狙いがどうであれ、台湾の友人たちとともに脅威に備えるつもりです。」

台湾総統選 拡散するフェイクニュース

今回の総統選挙では、フェイクニュースが大きな社会問題となっていました。

「これがフェイクニュースです。相手候補を陥れるためでしょう。」

多く見られたのが、現職の蔡総統についてのフェイクニュースです。

蔡総統が学歴詐称をしていると主張する動画も。

蔡総統に関するフェイクニュース
「蔡総統は博士号を実は取得していません。皆さん深呼吸をして冷静になり、蔡総統の熱烈な支持者に、このことをLINEで伝えてください。」

この情報は、蔡総統の出身大学の調査で間違いだと判明しました。
台湾で拡散するフェイクニュースのファクトチェックをしている民間団体です。情報の内容を確認するなかで、中国の影が見えてきたといいます。

「これは蔡総統に関するニュースですが、よく見ると台湾では使わない、中国大陸で使われている漢字で書かれています。」

注目したのは、台湾と中国の漢字の違い。同じ台湾の「湾」でも、違うからです。

こうしたフェイクニュースでは、本文の目立つ部分だけが台湾の漢字に直してあり、詳細に読んでいくと中国の漢字が直されずにそのまま残されているケースも見られるといいます。

Cofacts ビリオン代表
「多くの人はこうした情報を疑わずに信じてしまいます。友達や家族など信頼できる人によって拡散されるので、簡単に信用してしまうのです。」

フェイクニュースの拡散にもアメリカは危機感を募らせていました。
アメリカ政府の援助を受け世界各国の民主化を支援している団体です。台湾に専門家を派遣するなどして、現地の組織の活動を後押ししてきました。

「総統選でのフェイクニュースの拡散は懸念すべき事態で、いま中国の関与を裏付ける証拠を探しています。」

民主化支援団体lRl ダニエル・トワイニング代表
「中国は台湾の選挙に介入することで、政権交代を狙っています。これは単に台湾だけの問題ではありません。アメリカをはじめ、多くの民主主義国家に影響を与える問題なのです。」

台湾総統選で浮上した“スパイ疑惑”

栗原:激しい選挙戦が続くなか、台湾に衝撃を与えた事件がありました。それが「自称・中国のスパイが選挙に介入した」というニュースです。

投票まで1か月あまり。中国のスパイだと名乗る男が、台湾メディアを使って世論操作を行っていたと証言。今回の総統選に介入し、蔡総統を落選させる工作をするよう指示を受けたと明かしたのです。
この報道を受けて、蔡総統は実態調査を行うと発表。

台湾 蔡英文総統
「中国による台湾の選挙への介入が行われている。」

一方、中国政府は真っ向から否定しました。

中国外務省報道官
「(スパイ疑惑は)単なる作り話だ。事実ではない。」

中国政府の台湾政策に関わる専門家は、このスパイ疑惑はアメリカなどが仕掛けたワナの可能性があるといいます。

北京連合大学 台湾研究院 李振広副院長
「スパイだという彼の証言を信じる人などいません。むしろこれは、アメリカや台湾当局などが仕掛けたのではと感じています。台湾の人々の中国への恐怖をあおることで、蔡政権に有利な空気を作ろうとしているのです。」

台湾当局が警戒する中国の影。
その実態を研究してきた専門家がいます。台北大学の沈伯洋さんです。

台北大学 沈伯洋 准教授
「ここは撮らないでください。こういうソフトを使って分析をしていると知られては困ります。」

台湾の有力者と中国共産党の関係者とのつながりを検証しています。

台北大学 沈伯洋 准教授
「ここが共産党の台湾統一戦略を練る組織で、台湾の人との情報やカネの流れを調べています。」

中国のねらいは台湾の人々を使ってウソの情報を拡散させることで、台湾の民主主義への信頼を失わせることにあるとみています。

台北大学 沈伯洋 准教授
「中国のやり方は非常に巧みで、フェイクニュースを作り、資金を提供すれば、カネが欲しい台湾の人が拡散してくれます。そうすることで台湾の人々を分断させることができるのです。」

総統選挙の結果は現職の蔡総統が過去最多の得票で圧勝。
米中の攻防は、この後どうなっていくのでしょうか。

台湾めぐる大国の思惑

ゲスト 佐橋亮さん(東京大学東洋文化研究所 准教授)

武田:アメリカと中国の間の大きな対立。キーワードは「貿易摩擦」、「ハイテク覇権」、「安全保障」、そして「人権・民主主義」です。
台湾と米中関係を研究している佐橋さん。このようなポイントがある中で、両国にとっての台湾の重要性はどうなっているんですか?

佐橋さん:まず中国・習近平政権にとって、これは「祖国統一」の問題である。それは間違いないわけですね。例えば、ちょうど1年前の2019年1月に、「一国二制度」をかなり強い調子で習近平さんは提案した。そして、「祖国統一は必然であり、必須である」と言ったわけですね。他方でアメリカなんですけれども、アメリカから見ると台湾は、1つには過去30年以上にわたって民主化をしてきて、定着したモデルケースであるということ。そして、もう1つが重要なのですが、巨大な中国のパワーの前で経済圧力をかけられたり、政治工作をされたり、サイバー攻撃をされたり。こういった中で、中小国が立ち向かっている「テストケース」。そういうふうに考えられてると思います。

武田:トランプ政権になって、こういった姿勢が示されて変わってきた?

佐橋さん:アメリカではまさに、ここにある4つが重なり合う形で米中関係は競争に入ったというふうに言われているんです。こういった中で、過去、米中2国間の関係は重要だから関与しようという考え方がだいぶ薄れていて、そして、遠慮無く中国・台湾に対して、やりたい政策をやっている段階だと思います。

武田:そういった中で、改めて台湾というものの存在感が浮かび上がってきている。

佐橋さん:過去2年間ほどトランプ政権には親台湾の政府高官がいましたので、より強く打ち出してきたということだと思います。

翻弄される台湾社会

栗原:そうした中で、台湾社会が翻弄されている実態も見えてきたんです。
まずサイバー攻撃をめぐっては、台湾当局によると月に3000万件。時間に直しますと、1時間に4万件。1秒間で11件ものサイバー攻撃を受けているということが分かってきたんです。それだけ世界有数のサイバー攻撃の標的になっている地域であるという実態もあるんです。フェイクニュースに関しては、取材した研究者の分析によると1日3000件を超えるフェイクニュースが蔓延しているということです。

これらの発信源を特定するのはとても難しくて、中国大陸から発信されたものであるとは限らないとみているんです。

武田:台湾を舞台にした米中の攻防。次に、貿易摩擦の最前線を見ていきます。

貿易摩擦の影響が…台湾企業に変化が

今、台湾の企業に新たな動きが広がっています。
3年前にオープンした台湾南部の工業団地。去年から突然、工場の建設ラッシュが起きています。

「ここはアップル社のスマートフォン用に部品を作っている台湾企業の土地です。」

台湾の企業の多くは、安い人件費などを求め中国大陸に進出。製品をアメリカに輸出してきました。しかし去年、米中貿易摩擦によって関税が引き上げられ、製造コストは大幅に増加。貿易摩擦の長期化によるリスクを回避しようと、台湾に戻る企業が相次いでいるのです。

土地の開発会社 張俊良 社長
「当初、土地は全体の8%しか売れませんでした。現在は100%売れました。」

その一つ、去年8月に工場の一部を台湾に戻した企業です。
インターネットの回線ケーブルなどを製造し、主にアメリカに輸出しています。

「中国の工場から持ち帰った機械です。」

米中貿易摩擦で関税が上がったことで、中国大陸で生産したケーブルの価格は230円から10円ほど値上がりしたといいます。

ケーブル会社 葉春榮 会長
「台湾の企業は環境の変化にとても強いです。米中貿易摩擦の中、私たちはあらゆる可能性を視野に入れなければいけません。」

台湾当局も企業の動きを後押ししています。

台湾 蔡英文総統
「私たちの目標は、より多くの台湾企業を戻し、良質なメードイン台湾がメードイン中国に取って代わり、アメリカ向け輸出の力になることです。」

土地を2年間無料で提供したり、低金利で融資をしたりという優遇策を進めているのです。

貿易摩擦の影響が…対応迫られる日本企業

米中貿易摩擦を受けたこうした変化に、日本企業も対応を迫られています。
工場用機械などを生産している電機メーカーです。

「これは台湾政府が出している、中国から生産で帰ってくるお客様のリスト。」

栗原:リストに書かれている会社の名前は、実際に台湾に戻ってくる企業?

「そうですね。」

米中貿易摩擦が激化し、中国での売り上げが減少するなか、台湾に戻った企業への売り込みを強化しているのです。

台湾三菱電機 玉井武志副社長
「台湾の企業の方は意思決定が早いので、そのスピードでいかについていくかが一番大事。ある意味、脅威であり、チャンス。」

貿易摩擦の裏で…米IT企業が事業拡大

アメリカの大手IT企業も優秀な人材を求め、台湾での事業を拡大しています。アマゾン、フェイスブック、グーグルなどが相次いで台湾の拠点を拡大。マイクロソフトは去年、台湾にあるAIの研究センターを拡張しました。

アメリカ在台協会 代表
「台湾のトップ大学は、何千人もの世界レベルのエンジニアを輩出しています。台湾を世界のAI研究開発の中心にします。」

米中貿易摩擦では、次世代の通信規格5Gなど、ITをめぐる覇権争いも大きな争点となっています。アメリカにとって、高い技術力を持つ台湾との連携の強化は中国へのけん制になると指摘する人がいます。トランプ政権の東アジア政策に詳しい元高官、スティーブン・イェーツ氏です。

アメリカ政府 元高官 スティーブン・イェーツ氏
「アメリカと台湾の経済関係は、中国と対じする上で非常に重要です。台湾と強力な貿易協定を結ぶことで、中国との交渉を有利に行えるようになるのです。」

中国 優遇策で台湾人材取り込み

一方、中国も…。

中国中央テレビのニュース
「政府が中国と台湾の経済・文化交流を推し進める新たな措置を打ち出しました。」

この1年あまり、台湾企業が中国大陸に進出する際の魅力的な条件や、人材を取り込むための住宅支援などを次々と発表しています。
台湾から中国大陸に渡る若者は年々増加しています。
上海に渡り、優遇策の恩恵を受けているデザイナーの劉喬禾さんです。上海当局が用意した事務所の賃料は通常より3割ほど安く、仕事も優先的に紹介してもらえるといいます。

デザイナー 劉喬禾さん
「たくさんの支援をしてくれます。今では多くの若い人が中国大陸で起業したり、働いたりしています。」

中国政府は、生活面でも手厚い優遇策を進めています。おととしから、台湾の人向けのIDカードを新たに発行しています。

デザイナー 劉喬禾さん
「何日くらいで手続きできる?」

劉さんの友人
「7日かかると言われたけど、3日でもらえたよ。」

中国大陸では、生活のさまざまな場面でIDカードの提示が求められます。これがあることで、ビジネスや旅行などの手続きが格段にスムーズになったといいます。

デザイナー 劉喬禾さん
「中国の人と同じような補助が得られるのであれば、そのほうがいいです。」

中国の政策に詳しい台湾南華大学の孫國祥さんです。中国の政策には、中国寄りの人たちを増やし、統一を果たしたいという狙いがあると指摘します。

台湾南華大学 孫國祥 准教授
「中国政府は台湾の人材を大変重視しています。台湾の人が中国大陸に行くことで、習近平主席の言う“中国の夢”を実現させようとしているのです。」

米中貿易摩擦の行方、そして、その影響は?
このあと詳しく見ていきます。

貿易摩擦の行方は

武田:米中の貿易協議は先月、第1段階の合意に至り、現地時間の15日にホワイトハウスで署名されます。中国がアメリカ産の農産物を大量に購入する一方、アメリカはすでに携帯やパソコンなど、中国製品への追加関税を見送りました。さらに、来月去年9月に発動した中国に対する追加関税を引き下げることにしています。佐橋さん、この合意にはどんな意味があるとお考えですか。

佐橋さん:私に言わせると、第1段階の合意というのはスモールディールだと思います。小さな合意のパッケージに過ぎないと。中国からしたら願ったりかなったりというか、ここで一服できるのですごくよかったと思いますが、アメリカからすると、かねてから言っていた、例えば補助金や知的財産権といった問題にまったく踏み込めなかった。そういった中で、トランプ大統領の政治優先の判断がされてしまったということだと思います。今後ですが、ここに書いてある農産物の大量購入を中国がするとか、これが例えばできない可能性もあるとか。そうなったとき、トランプ大統領が再び交渉といいますか、対中強硬姿勢を再燃させると。そのときに、今週たしかに為替操作国の指定は外したんですけど、実はまだ関税のほとんどが残っておりますので、第2弾があるかもしれないですね。

台湾の受け止めは?

武田:では、台湾で取材にあたっている高田支局長に聞きたいと思います。高田さん、この米中攻防の舞台となっている台湾の人たちは、こうした事態をどう受け止めているんでしょうか。

高田支局長:米中の間で、どううまく立ち回るのかは、米中貿易摩擦が始まって以降、台湾でたびたび議論になってきました。この間、当局関係者や企業など、さまざまな人に話を聞きましたが、対立の長期化を見込んで臨機応変に対応することが台湾の生き残り戦略だ、というのがこちらの人々の共通認識だと思います。こうした中、台湾の主権を守りたいという立場の蔡英文政権はアメリカとの連携を強めてきましたが、連携が深まれば深まるほど、中国からの圧力が強まるという構図になっています。去年、そんな蔡政権とトランプ政権の親密ぶりを象徴したのが、アメリカとしては27年ぶりとなる新型の戦闘機の売却です。さらに今回の選挙後には、ポンペイオ国務長官が蔡総統の再選を歓迎する声明を発表しました。国交のない台湾のトップの再選に祝意を送るのは極めて異例の対応です。これに対し、中国は早速、厳重に抗議しています。米中の対立という大きな流れが変わらない限り、台湾は今後もアメリカと中国の攻防の最前線であり続けることは間違いなさそうです。

2020年 どうなる覇権争い

武田:では、その米中対立はこれからどう進んでいくのか。まずアメリカ側の出方。11月にアメリカ大統領選挙があり、ここがまず大きな注目点ですね。そのうえで、佐橋さんがポイントとしてあげるのが「“ハイテク覇権”に向けた規制」。それぞれどういうことでしょう?

佐橋さん:まず大統領選ですが、どうなるかは分かりませんが、もしトランプ大統領が再選となると、これまでと同じようにトランプ大統領は貿易摩擦を再燃させるかもしれない。政府はハイテク覇権や安全保障を重要視する。議会は民主主義を重視する。他方で民主党の候補が大統領になっても、実は貿易摩擦に関して関税は非常に評判が悪いので、これはなくなると思うんですけど、残りの要素はすべて同じではないかと私は思っています。特に民主党においては、人権・民主主義は非常に重要なテーマになってくるのではないかなと思います。

武田:一方、「“ハイテク覇権”に向けた規制」はどういうことですか?

佐橋さん:これは、例えば中国からアメリカに輸出される情報通信機器だとか、この規制というのは今年かなり本格化していきます。また、アメリカから中国にいく新しい技術。これを輸出管理していく。きちんと管理していこうと。こういったことも本格化してくる。または、中国からアメリカにくる投資、これもしっかりとやっていく。すべてのいろんなものが今、これからまさに本格始動する段階なので、今年の前半に相当に規制がかかってくると思います。

武田:日本にも影響が?

佐橋さん:日本の政府、企業、大学に大きな影響があると思います。

武田:一方の中国ですけれども、これは来年ですが、中国共産党創設100年を迎えます。これに向けて統一を急ぐのかという点は疑問としてあるのですが、一方で佐橋さんが注目するのは5月の蔡総統の就任式。それぞれどういうことでしょう?

佐橋さん:中国側はそこまで来年、再来年と焦っているわけではないので、私はそれが大きなターニングポイントになるとは思っていません。むしろ長期的にアメリカとの競争に備えながらも、短期的にはまだ当面、中国はアメリカとの関係をしっかり管理していこう、安定していこうと思っていると思います。

武田:統一を急ぐというわけではないと。

佐橋さん:他方で今年の5月20日に蔡英文総統は就任式がありますけど、ここに向けて、大陸との関係で蔡英文新総統がどんな発言をするのか。または誰がアメリカや日本から参加するのか。こういったことを非常に中国は警戒していて、それを見越して、軍事的な圧力だとか経済的な圧力、外交圧力、いろいろかけてくると思います。

武田:最後に今年の米中関係はどう進んでいくのか。どう見てらっしゃいますか?

佐橋さん:一瞬、明るいムードがあるように見えるのですが、決して緊張は解けていないということだと思います。例えば、ウイグルの問題、香港の問題、アメリカ議会もメディアも、そして政府も非常に注目しています。こういったものが引き金になるかもしれませんし、または米中関係、先ほどから申し上げていますとおり貿易協議はまた再燃する可能性があると。まだまだ緊張は解けていない。そういったことだと思います。

武田:波は決して穏やかになるとは限らないということですね。ありがとうございました。

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