クローズアップ現代

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2019年11月19日(火)
車上生活 社会の片隅で…

車上生活 社会の片隅で…

「車しか行き場がない」と道の駅の駐車場などで暮らす車上生活者たち。トラック運転手の職を失い、亡き妻との思い出が詰まった車で、食うや食わずの生活を続ける60代の男性。幼少期の虐待が原因で対人関係がうまく築けず、各地を転々とする20代の男性。認知症の妻が徘徊をするため「誰にも迷惑をかけたくない」と高速道路のサービスエリアで車上生活を送る70代の夫婦も。社会の片隅で車上生活を送る人々の実態を追う。

出演者

  • 武田真一 (キャスター)

3割超の道の駅で…なぜ?亡くなる人も

私たちが取材を始めたきっかけは、ことし8月に起きたある事件でした。
50代の女性が、母親の遺体を車の中に放置したとして、逮捕されたのです。母親と息子の家族3人で1年間、車で生活していたことが、警察への取材で分かりました。しかし、なぜ車上生活を続けていたのか、詳しいことは分かっていません。

取材班
「その家族を見かけたことは?」

家族を見たという男性
「1回か2回だけ。ぐったりしていた。おばあさんが。」

道の駅 従業員
「あまりジロジロ見ても、営業の邪魔にならなければ。」


私たちは、車上生活の実態を調べるため、各地の道の駅を取材することにしました。

幹線道路沿いにある、群馬県の道の駅です。ドライバーが休憩をとるため、駐車場もトイレも24時間開放されています。
夜になると…。

後田ディレクター:見えますでしょうか。この真っ暗に見える駐車場に、1…2…10台弱、車が止まっています。

休憩する車に混ざり、ここで生活しているとみられる人の車が…。

66歳 仕事失い道の駅で…車で暮らす理由

数か月前から駐車し続けている車があると聞き、訪ねました。

後田ディレクター:すみません、突然。

「カメラはだめ。」

後田ディレクター:話だけでも。

「車もだめ。世間には出たくない。嫌だ。」

この日は、取材をすることはできませんでした。

男性の元を訪ね続けて2週間後。取材に応じてくれることになりました。

後田ディレクター:お父さん、こんにちは。

車上生活を続ける男性(66)
「はい。」

後田ディレクター:昼になったら気温が上がってきましたね。

車上生活を続ける男性(66)
「そうだね。」

後田ディレクター:この道の駅は、どれくらい?

車上生活を続ける男性(66)
「12月が来れば、1年。」

後田ディレクター:車の中、見せてもらっても?

車上生活を続ける男性(66)
「いいよ、好きなように撮って。」

後田ディレクター:寝るのは後部座席ですか?

車上生活を続ける男性(66)
「うん。」

後田ディレクター:カセットコンロも。ここで煮炊きも?

車上生活を続ける男性(66)
「できる。」

後田ディレクター:ごはんは、どうしていますか?

車上生活を続ける男性(66)
「食料があれば、それなりに。こういうゼリー状になるから。」

後田ディレクター:(手作りゼリーを勧められ、食べてみて)なんか、さわやかな味。

車上生活を続ける男性(66)
「だから前は70kgあったんだけど、体重は40kgぐらいまで落ちて。」

後田ディレクター:そんなに?

66歳の男性はトラック運転手でしたが、去年、仕事を失い、生活に行き詰まりました。仕事を見つけるためにも、車を手放せないといいます。

車上生活を続ける男性(66)
「(アパートの)支払いが滞るように。不動産屋もうるさくなってきた。『じゃあ出るか』車中泊の状態になって。」

男性によると、収入は月に10万円の年金。アパートで暮らすと家賃4万円に加え、光熱費もかかり、毎月4万円ほどの赤字になります。

車上生活では、家賃、光熱費はかかりません。ただ、冷蔵庫がなく、そのつど食材を買わねばならないため、食費はかさみます。支出は年金の範囲内で済むものの、ギリギリの生活を余儀なくされています。

車上生活を続ける男性(66)
「知らない人は『生活保護でも受ければ』と簡単に言うけど、1回市役所に行って聞いたら、『車を持っているんでしょ?だめですね。』パッと切られて終わり。」

それでも、車を手放さないのはなぜなのか。

車上生活を続ける男性(66)
「これが別府温泉。一応ツーショットありますよ。」

後田ディレクター:写真、大事にされていますね。

車上生活を続ける男性(66)
「これが、女房が死んだときの遺影。」

長年連れ添った妻は、7年前に亡くなりました。子どもはおらず、この車には、夫婦でドライブに行った思い出が詰まっていると教えてくれました。

車上生活を続ける男性(66)
「いなくなると、がっかりだよね。夢も希望もなくなっちゃった。」

後田ディレクター:旅行に行った車なんですよね。

年金支給日の前夜。

後田ディレクター:今から、どこに行くんですか?

車上生活を続ける男性(66)
「これから燃料。ガス欠だから。」

後田ディレクター:ガソリンの量、完全に空に?

車上生活を続ける男性(66)
「うん。」

年金は、支給日の午前0時に振り込まれます。

ATMの前で、午前0時を待ちます。
購入したガソリンは5リットル。
そこから1時間、歩いて戻ります。

後田ディレクター:これからどうされるんですか?

車上生活を続ける男性(66)
「移動するよ。ここには戻らないで、どこかよそに行くから。いくらなんでも、ずっと止まったままじゃ、相当目立っていると思う。ここに止まったままが、相当まずいんじゃないの。じゃあ行きますよ。」

男性は、行き先を告げずに去って行きました。

27歳 若者も…「人間関係は難しい」その理由

私たちが取材した車上生活者の中には、若者もいました。

ディレクター:車に泊まられた?

「そうですね。」

ディレクター:何をされているんですか?

「ちょっといろいろな事情があって。あまり言えない事情が。」

朝7時。
福岡県の道の駅で出会ったのは、27歳の男性でした。

ディレクター:僕、そっち(助手席)座っても?

車上生活を続ける男性(27)
「別にいいですけど、めちゃめちゃ散らかっていますよ。」

ディレクター:生活感ありますね。

車上生活を続ける男性(27)
「そうですか?」

現在は無職の男性。人と話をするのは久しぶりだといいます。

ディレクター:あの白いのは?

車上生活を続ける男性(27)
「ペットのハムスターの遺骨です。」

ディレクター:ハム太郎ですか?

車上生活を続ける男性(27)
「いや、ハム吉です。」

男性は1か月前まで、派遣社員としてトラックの製造ラインで働いていました。しかし、限界を感じ、退職。会社の寮を出ざるを得ませんでした。

車上生活を続ける男性(27)
「朝8時に出勤し、終わるのが夜中の1時。めっちゃ続くし、(周囲に)ぺこぺこやっていても、結局そこまででしかないし。特にやりがいも感じず、続かなかったですね。」

日中、男性は混み合う道の駅を避け、ファミリーレストランへと移動します。座るのは、いつも端の席。なるべく人とは関わりたくないのだといいます。

車上生活を続ける男性(27)
「難しいですよね、人間関係は。働いていたあのころに比べれば、だいぶ気持ち的には楽です。」

なぜ、人間関係が難しいと感じているのか。この夜、男性が心の内を語ってくれました。男性が、「飲みませんか」と誘ってくれました。

車上生活を続ける男性(27)
「ふだん飲まないんですよ。友達ゼロで、彼女もいない。引きこもり車中泊。」

話し始めたのは、幼い頃に受けた虐待の記憶でした。

車上生活を続ける男性(27)
「じいちゃんにどなられたり、ずっと7年間ぐらい。もうノイローゼみたいになっていました。トラウマですね。」

男性は、小学生の時に両親が離婚し、父親の実家に引き取られました。そこで祖父から虐待を受け続け、人を信じられなくなったといいます。

車上生活を続ける男性(27)
「(虐待を)見て見ぬふりをしていた、父親が正直許せない。引き取ったくせに。それだったら母親の方に行きたかった。子どもに選ぶ権利はなかった。いろいろな事情があって。親のせいにするわけではないですけど、今の自分の生活が。」

どの職場でも人間関係に悩み、長続きしなかったという男性。仕事を失うたびに、車上生活を繰り返してきました。
今、男性はプログラミングの勉強を続けています。今後はなるべく、人と関わらない仕事に就ければと考えています。

車上生活を続ける男性(27)
「最終的には、こんな生活していられない。仕事を見つける。住む場所を確保する。この2つですね。こんな(生活)を幸せと思いたくない。」

30代 妊娠・幼子を連れて 誰も頼れず…

幼い子どもを連れながら、車上生活を余儀なくされた人もいます。
女性は、行政の支援を受け、現在は夫と3人の子どもとアパートで暮らしています。

車上生活をしていた女性(30代)
「これが、当時乗っていた車。このサイズで寝泊まりしていました。」

車上生活をしていたのは、3年前の冬。長女は、まだ1歳。さらに、長男を妊娠中でした。

車上生活をしていた女性(30代)
「車がなかったら、野宿するしかない。雨風をしのげる唯一の場所。インターネットカフェは子どもがいたらだめですよね。子どもと一緒にいるためには、どうしようと。」

当時、夫婦共に日雇いの仕事をしていましたが、収入は月に10万円ほど。アパートを借りる余裕はありませんでした。

車上生活をしていた女性(30代)
「(日雇いの)仕事もお互いにどっちかが行って、子どもを見て。子どもはちゃんと寝かせてあげて、私たちは交代で寝る。永遠にこの生活か、とか。一番つらかったのは、子どもが泣いたとき。とりあえず外であやすけど、寒いじゃないですか。ごめんねって。」

両親とは疎遠だった夫婦。同居していた親戚とのトラブルをきっかけに、車上生活を余儀なくされました。幼い子どもを抱えていたため、友人に相談することもためらったといいます。

車上生活をしていた女性(30代)
「『子どもを連れて、どうした?』『こんな時だけ?』というのもあるから、事情を話しづらかった。頼れる相手がいれば違ったのかもしれないけど。」

支援の手が届きにくい…亡くなる人も

住まいのない人たちを支援している静岡県のNPOです。
最近、車上生活者についての情報が相次いで寄せられています。

居住支援を行うNPO 鈴木和樹さん
「ものすごい違和感を感じられたと。車、見れば分かります?けっこう汚れていて。」

高齢の母親と娘が2人で車上生活をしているようだといいます。

居住支援を行うNPO 鈴木和樹さん
「いるといいけどね。」

道の駅を探しますが…。

居住支援を行うNPO 鈴木和樹さん
「白のセダンということだったんですけど、セダンが無いですね。」

すでに移動してしまったあとでした。

居住支援を行うNPO 鈴木和樹さん
「難しいですよ。車って、どこまでも行けるので。もしかしたら通過点だったかもしれないし、とにかく会わなきゃ始まらない。」

さらに、車上生活者と接触できても、支援には課題があります。これまでのように生活保護を勧めても、拒まれるケースが少なくないのです。


NPOのシェルターで、一時的に暮らしている男性です。
8年間、車上生活を続けた末、仕事を失い、飲まず食わずの状態で保護されました。

ディレクター:生活保護を受ける考えはありましたか?

車上生活をしていた男性(64)
「それは、正直無かったですね。生活保護というのは。自分の中にはね。やっぱり意地もあったんでしょうね。働ける間は、自力で働きたい。人に食べさせてもらわなくても、なんとかしようって。どんどん深みにはまっていっちゃった。」

居住支援を行うNPO 鈴木和樹さん
「『助けて』って言えない人のほうが、世の中いっぱいいますし。僕だってなかなか言えないですよ。言えないなら、言ってもらえるような関係を作るしかない。」

車上生活を続けた末に、人知れず、亡くなる人もいます。

道の駅 従業員
「道の駅の看板のすぐ下、一番すみですね。脳梗塞で、いきなり、ばたんと倒れちゃったらしくて。あと、熱中症みたいな症状で、救急車を呼んだことも何度もある。」

関東地方すべての道の駅を取材したところ、車上生活者とみられる人が、少なくとも9人亡くなっていることが分かりました。

道の駅 従業員
「きっと声をかけて、少し話ができたら、死ななくてすんだかもしれない。こういう所で亡くなっているのを、珍しいと思わなくなっている。」

なぜ増加? 知られざる実態

武田:取材にあたった後田ディレクターです。今回、およそ50人を取材してきたそうですけれども、このほかにも、さまざまな事情を抱えた人がいたんですよね。

後田ディレクター:例えば、神奈川県の海老名サービスエリアでは、70代の夫婦が2年間、車上生活を送っていました。妻が認知症のため、徘徊(はいかい)することを心配して“近所に迷惑かけたくない”と家を出ざるを得なかったといいます。

さらに、夫婦と子どもたちの5人家族は、公園の水道で洗濯をするなどして車上生活を送っていました。長女は小学2年生でしたが、通学をさせていませんでした。私たちは児童相談所にも連絡しましたが、車上生活をしていた理由は最後まで明かさないまま、取材の途中で行方は分からなくなってしまいました。

また、働きながら車上生活を送る清掃員の女性もいました。住宅ローンを返すために借金を重ねた結果、多重債務に陥りました。給料のほとんどは借金の返済に消えてしまい、車上生活から抜け出せなくなっていました。
また、家は近くにあるけれど、事情があって帰れないという50代の女性もいました。心配した道の駅の従業員の方が警察に通報すると、実は夫のDVから逃れるために車上生活をしていると言っていたそうです。

武田:こうして聞いてみますと、皆さん、貧困に苦しみ、そのうえでさまざまな難しさを抱えて、車上生活を強いられているということなんですね。

後田ディレクター:取材をしてみると、引きこもり、DV、認知症など、現代社会で人々を孤立させているさまざまな問題と車上生活が結びついているように感じました。一見すると、レジャーとして車中泊をしている人たちと見分けはつきませんが、一つ一つの車に声をかけてお話を伺ってみると、車上生活を長年続けているという人が想像以上に多く、とても驚きました。

武田:誰しもが、ふとしたきっかけで陥りかねない車上生活。社会はどう向き合えばいいんでしょうか。

「社会との交わりが閉じられて…」「冷たい社会に…」

30年前から、ホームレスの支援を行っているNPOです。
車上生活者の現状を、貧困の問題として、ひとくくりにはできないと戸惑いを感じています。

武田:これほど多くの方が、車の中で暮らしている。長年、困窮者支援をしてきた立場で、どう捉えているのか。

居住支援を行うNPO 阿英紹さん
「10年前の、いわゆるホームレスの方々と、ここ10年の車上生活の方々とは、まったく質が変わってきた。かつてのホームレス対策で、とにかくアパートに入れて保護、生活保護を受けるだけではすまないのが今の時代。」

武田:なぜ、そこまで困窮してしまったのか。なぜ、そこまで人間関係に悩むようになってしまったのか。

居住支援を行うNPO 阿英紹さん
「ここが一番難しいところ。その問いは、私たちも正解はなかなか見当たらない。どこかで、社会との交わりが閉じられてしまっている。原因はいろいろある。難しい生き方になっている。『本来はこういう生活するはずじゃなかった』と思っていると確信しています。」

武田:自らそういう暮らしを選んでいる?

居住支援を行うNPO 阿英紹さん
「選んだんじゃなくて、追い込まれてしまっているとしか思えません。」

武田:ご本人を取り巻く状況に問題があるのか?

居住支援を行うNPO 阿英紹さん
「今、冷たい社会に日本がなっているような気がします。いつでも誰でも、何かのはずみで、そういう状態に陥ってしまう。私たちは、そういう中に生きているんだろうと。オアシスみたいなものがあれば、一息つけるような場所があれば、変わって、また立ち上がっていけるんじゃないか。具体的には、言うは易しで、なかなか難しいですよね。」

いま 社会はどう向き合う?

武田:住まいを持って、日々やりがいを持って働くという、ごく当たり前だと思われてきたことが、今すごく難しくなってきている。そういう今の社会の1つの断面を表しているように感じたんですが、どういうふうに感じましたか?

後田ディレクター:取材を通じて、「誰にも迷惑をかけられない」という言葉を繰り返し耳にしました。一度人生でつまずいてしまうと、家族にも友人にも頼ることができない社会になっているのだなと痛感しました。
車上生活をしている方は、私たちが、ふだん使っている駐車場で暮らされています。身近な場所にもかかわらず、人知れず、車上生活を送っている人がいる。社会の無関心の中で、この問題が広がっている怖さを感じました。
引き続き取材をしていきたいと思っています。

武田:しっかり見ていかなくてはいけないですね。