クローズアップ現代

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2019年11月12日(火)
台風19号1か月  被災地からの訴え ~いま何が必要か~

台風19号1か月 被災地からの訴え ~いま何が必要か~

各地で河川が氾濫し、広域に甚大な被害が広がった台風19号。1か月がたった今、被災地は次々と厳しい現実に直面している。冬を目前にして長野や東北に重くのしかかってきているのが「寒さ」。その中で、数多くの人が壊れた自宅の2階での生活を余儀なくされている。さらに東北では東日本大震災との“二重被災”も大きな課題として浮かびあがってきている。これまでにない災害の影響が続く被災地の現状を伝える。

出演者

  • 在間文康さん (弁護士)
  • 肥田浩さん (OPEN JAPAN緊急支援プロジェクト 代表)
  • 武田真一 (キャスター) 、 栗原望 (アナウンサー)

ボランティア足りず…“在宅被災者”厳しい暮らし

台風19号で甚大な被害が出た、宮城県丸森町。多くの人が、被害を受けた自宅で避難生活を続ける「在宅被災者」となっています。
丸森町の中心部で床上浸水した245世帯を調査すると、実に、233世帯が在宅被災者。避難所とは違う悩みに直面しています。

原淳さんです。避難所は落ち着かないと、発災直後から自宅で暮らし続けています。1階では暮らせないため、母と娘の3人、2階で寝泊まりしています。

原淳さん
「下にあるもの全部、上にあげちゃったので、こんな感じなんですけど。」

浸水でコンロが使えないため、食事はスーパーの総菜です。

原淳さん
「手のこんだものは何もないですよね。」


「煮物も何もできません。」

原淳さん
「毎日、同じようなものばかり食っているような。」

中学3年生の茉莉さん。来月、高校の入試を控えています。

茉莉さん
「あと1か月は面接とか、書類の書き方とか、勉強もちゃんと学んでいかないといけないなということですね。不安で、夜寝たら、ときどき起きちゃうことが何度もあって。夢も、雨降っている夢をたくさん見ました。」

東日本一帯を襲った台風19号。これまでにない広い範囲に、大きな被害をもたらしました。
それから1か月。復旧に向けて、被災地ではどんな悩みがあるのか。NHKが、長野、福島、宮城で被災した、およそ330人にアンケートを行ったところ、住宅の再建や修理に最も不安を抱えていることが分かりました。

冬間近“在宅被災者”襲う厳しい寒さ

千曲川の堤防が決壊し、2人が死亡、3600棟が被害に遭った長野市。
決壊現場から700mの場所で暮らしていた、芝波田利直さんです。床上2mまで浸水。冷蔵庫は横倒しになっていました。

芝波田利直さん
「今、初めて家に来た。ただただ驚き。」

あれから3週間。

栗原:全部(床を)取り除いたんですね。

芝波田利直さん
「前来たときは、まだ床があった。」

今は、比較的被害の少なかった部屋を選んで生活しています。住宅の修理を急ぐ芝波田さんが、直面している問題があります。

栗原:今、一番必要なサポートだったり、困っていることって何ですか?

芝波田利直さん
「寒いね。だいぶ冷えてきたね。」

寒さの原因は、復旧作業に伴ってできた穴。水を吸った部分をそのままにしておくとカビが生え、健康にも悪影響を及ぼすため、床や壁を剥がしてるのです。この日の最低気温は3度。冷たい空気が室内に吹き込みます。エアコンの室外機は濁流に流され、暖房器具は石油ヒーターだけ。靴下を二重にし、カイロを貼って過ごしています。

芝波田利直さん
「12月から1月に入ると、零下7~8度とか、朝方はそういう感じになるから、こういうものを、気がついたときにどんどん補修しながら、何とか過ごしたいっていうよりない。この寒さにも耐えなくちゃいけないから。」

不眠・ストレス…“在宅被災者”襲う心身の不調

今回のアンケート、体調の変化について、およそ半分が「あった」と答えています。

夏井川などが氾濫し、3900棟が床上浸水した福島県いわき市です。
被害が最も深刻な地区にある臨時診療所。11月に入るころから「眠れない」と訴える在宅被災者が増えました。

患者
「2時間位おきに、目が覚めるんです。」

夫と2人で暮らす自宅が、床上1.2mまで浸水した米山みち子さんです。心に重くのしかかっているのが、次の被害に対する恐怖です。決壊した川は、すぐ目の前。自宅が濁流にのまれた後の凄惨な光景が繰り返しよみがえり、寝ても覚めても強い不安に襲われるといいます。

米山みち子さん
「睡眠導入剤を1錠飲んでも1時間(で目が覚める)。もう本当に眠れない、もどかしさ。そういうので、胸が張り裂けそう。」

米山さんが自分のこと以上に気にかけているのが、夫、治夫さんの様子です。被災する前は手料理をふるまってくれるなど、家のことはなんでもこなす夫でした。

米山みち子さん
「この被害を見て、がく然としたみたい。もう終わりっていうことで、心も変わってしまった。」

治夫さんは、台風の翌日、泥をかき出す作業で疲れ、寝込んだあと、部屋に引きこもるようになりました。そのころから、心身ともに不調が現れました。耳がほとんど聞こえなくなったのです。

米山みち子さん
「生きる気力、そういうものはなくなっちゃいました。こんなときに、もしかして『万が一』ってあったら、どうしよう。ストレスが倍増しちゃう。もう人生やめちゃおうかな。」

被災地では今、何が必要とされているのか。
最前線で活動する専門家に話を聞きます。

豪雨から1か月 いま何を必要としているのか

武田:被災者支援団体の代表で、今回も丸森町に入っている肥田さん。被災された方々、今どういうことに困っているのか、肥田さんはどう感じていらっしゃいますか?

ゲスト 肥田浩さん(OPEN JAPAN緊急支援プロジェクト 代表)

肥田さん:困ってる声が聞こえてこない、届きにくい。丸森町の場合は、保健師さんがおうちの訪問をかけた中で、その集計がこれからっていう状況になってます。

武田:まだニーズが把握できてないという段階なんですね。

肥田さん:それもあります。

武田:そうした中、肥田さんのこれまでのご経験の中で具体的にあえて挙げるとすると、どんな点でしょう?

肥田さん:お風呂どうしてるか。食事、インスタントが続いている中で、食事が面倒で飲酒量が増えていくとか、あと、住宅の再建に向かっての見通しが立ちにくい状況に立ってるかと感じています。

武田:暖房器具なんかは十分なんでしょうか?

肥田さん:壁、床がない中での在宅の方が多い中で、圧倒的に暖房器具の不足と、ボランティアさんが入ってくるのに、これから冬を迎えてスタッドレスタイヤじゃなきゃ入れないとか、そうしたことの懸念も非常に考えてますね。

武田:今回、被害が非常に広い範囲に及んでますよね。そういった中で、支援の手が十分に回ってこないという状況もお伝えしたんですけど、実際これはどうなんでしょう?

肥田さん:広域的な災害において、専門的な経験とか知識を持った団体やボランティアの数が圧倒的に少ないんで、そういったことが伝えにくいというか、伝わらない現状がありますね。

武田:専門的な支援というのは、たとえば具体的にどういうことでしょうか?

肥田さん:重機を使っての土砂撤去とか、大工さん系の床、壁剥がしたり、床下潜ったり、消毒作業なんかがあがってきますね。

武田:それはやはり、そういう専門能力を持った人たちの力がいろんなところに分散化してしまってる。

肥田さん:これだけ広域化してるので、かなり分散しています。

武田:被災された方へ、何が不安かということをアンケートで聞いています。「住宅再建・修理」「金銭面」「住まいの確保」。こうした不安が多いということが分かってきました。皆さん、一体どういう状況なんでしょうか。

30%超が「住宅再建・修理に不安」豪雨から1か月

今月に入り、長野市の避難所では体調不良を訴える人が増えています。この日、高齢の避難者が発熱のため病院に搬送されました。
こうした中、長野市は、ある方針を示しました。14ある避難所を、すべて今月末をめどに閉鎖したいというのです。

長野市の担当者
「本格的な冬を迎える前にですね、よりよい住まいに移っていただきますよう、ご理解をいただければと思っております。」

今、担当者が避難所を回り説明を行っています。

避難所を運営する長野市教育委員会 中澤和彦 総務課長
「寒さへの対策です。あと、感染症のリスク。これから冬を迎えて、インフルエンザ、ノロウイルス、寒さによって寝られない方も出てきますから。それによって健康を害して、重篤な病気になる方々もいらっしゃるということで、そのリスクを優先したということになります。」

被災からまもない中で示された方針に動揺が広がっています。

「何の準備もできていないので、まだ片付けの方がいっぱいで、みんな(家を)探すという状況でもない。」

取材班
「避難所の後、どこに行くというのは?」

「まだ、そこまでいっていればいいやさ。決まっている方が少ねぇよ。」

避難所を出たあとの住まいに悩む、岡野春男さんです。

栗原:体調はいかがですか?

岡野春男さん
「女房がね、ちょっと風邪っぽくて、今休んでるんで。」

被災直後の岡野さんの自宅の様子です。

岡野春男さん
「どっから手をつけたらいいのか。手がつけられないね。」

2階まで泥水につかり、全壊。取り壊すほかなくなりました。

避難所の閉鎖を知った岡野さんが頼ったのが、市や県が募集する公営住宅への入居です。しかし、希望者が殺到し、抽選になりました。
この日、岡野さんに抽せんの結果が伝えられました。

岡野春男さん
「残念。長野県の県営住宅は外れ。」

今、岡野さんが危惧しているのは、住み慣れた地域から人がいなくなってしまうことです。岡野さんは、この地域に住み続けたいと考えていますが、妻の美子さんは、各地で水害が相次ぐ中、同じ場所に住むことに不安を感じています。

妻 美子さん
「いま地球温暖化で降水量が増えてきて、千曲川は(堤防が)いいと言われていたのが切れるんだから。」

近所に住む人
「ゴーストタウンになると困るんだよね。こういう状況でね。」

取材班
「この辺りの人たちはみんな残る?」

近所に住む人
「それが今のところ分からない。意思表示しているのは数軒じゃない。私はいますよっていう人は。」

岡野春男さん
「どうしたらいいんだかね。弱った。」

“二重被災”震災から債権のさなかに…

アンケートでは、多くの人がローンの返済など、金銭面に不安があると答えました。

堤防が決壊し、深刻な浸水被害が起きた宮城県大郷町。米やトマトの生産が盛んな地域です。
被災したトマト農家の半澤文典さん。

トマト農家 東北アグリヒト 半澤文典さん
「水に浸かったことによって、もう使えない状態。正直、何から手をつけていいのか、わからない状況です。」

およそ15億円を投資したトマトハウス。生産開始を間近に控えていました。

「このフォークリフト、被災の1週間くらい前に納品されて、1回もまだ使っていないんですけど。」

実は、半澤さんが大きな災害に見舞われたのは2度目のことでした。かつて、沿岸部の山元町で農場を経営していた半澤さん。東日本大震災による巨大な津波で甚大な被害を受けました。2年前に、津波の恐れのない、内陸の大郷町に移転していたのです。

トマト農家 東北アグリヒト 半澤文典さん
「津波があって、そこから再建を果たして、これからというときに被災にあってですね。このたび2回目ということなんですけど、やっぱり慣れないですよね。本当に何をやったらいいか、わからないですよね。この状態。」

繰り返し被災する、いわば二重被災。取材を進めると、こうした農家が多くいることが分かってきました。

その一人、阿部聡さんも、8年前の震災で被災。津波によって、当時、栽培していた作物は全滅。その負債は1億2000万円残っていました。

トマト農家 イグナルファーム大郷 阿部聡さん
「修繕、修復をする、新たに備品、機材を買うというと、やはり多重債務になってきて。」

毎年1200万円の返済を続けている阿部さん。さらに、今回の台風による被害で、負債の総額は2億4000万円に膨れ上がるとみています。

トマト農家 イグナルファーム大郷 阿部聡さん
「融資を受けないと、なかなか再建って難しいと思うので、また多重債務に。なんて人生だなって思いました。なんでこんなことばっかり起きるのかな。」

東日本大震災の月命日のきのう。沿岸部で農業を営んでいた阿部さんは、津波によって祖母と妻、そして3人の子どもを亡くしました。

トマト農家 イグナルファーム大郷 阿部聡さん
「ディズニーランドに忙しくて、1回も連れて行けなかったので、震災があった次の年の春休みに連れて行くって約束したんです。約束守れなくてですね。」

再起の場所として選んだのは、農家の担い手を誘致していた大郷町でした。そこを今度は、台風が襲ったのです。
二重被災をどう乗り越えていくか。その具体的なすべを、見いだそうとしています。

トマト農家 イグナルファーム大郷 阿部聡さん
「津波も経験して、洪水も経験して。ただ、あの津波のときも、僕らは強い気持ちで復旧、復興してきたので、今回も心は折れていないです。僕ら、心が折れない限りは、必ず復旧、復興させます。」

深刻な状況に直面している被災者。
どんな支援がいま求められているのでしょうか。

“生活再建”何が必要か?

武田:東日本大震災で被災者支援に当たられた、弁護士の在間さん。1か月がたって、まだ皆さん混乱した状況にあるんだと思いますけれども、被災者の皆さん、そして支援に当たる人にとって、いま一番大切なことってどんなことでしょうか?

ゲスト 在間文康さん(弁護士)

在間さん:生活再建支援金や応急修理さまざまな制度があるんですが、非常に複雑です。どの制度を使うのがいいのか、慎重に検討していく必要があります。大変な状況にある中で、一人で正確な判断をしていくのは非常に難しいですので、被災者の方には、一人で抱え込まずに、周囲の方や身近な方にぜひ頼っていただきたいなというふうに思います。

武田:行政の人たちに自分から訪ねていってもいい?

在間さん:そのとおりです。

武田:どんな支援受けられますか?私はどうしたらいいんでしょうかっていうことを声を出していいってことですね。

在間さん:遠慮をしてはいけないと思います。

武田:それに応える側の課題もありますよね。

在間さん:支援する側、行政であったり、民間であったり、さまざまな団体ありますけども、それが相互に連携をして、被災者の方それぞれ置かれる立場は異なりますから、一人一人に寄り添った支援をしていく必要があるというふうに思います。

武田:今回のアンケートでは、宮城、福島で被災された方に東日本大震災と原発事故でも被害を受けたか聞きました。受けたという方が52%に上ってるんですね。こうした二重被災による、特に債務の問題、これは深刻だと思うんですけれども、特別な支援はあるんでしょうか?

在間さん:二重被災に関しては、残念ながら今のところ、それに特化した制度というものは設けられていません。ただし、二重被災か否かにかかわらず、被災ローン減免制度という制度があります。この制度は災害が原因で返済が困難になってしまった借り入れを、一定の条件のもとで減額、免除してもらう制度です。制度のメリットとしては、手元に生活再建に充てるお金を残しながら、借金の減免を受けられる。それから、いわゆるブラックリストに載らないために、再度のローンを組むことができる。もう一つが、原則として保証人に請求がされませんので、気軽に利用できるという面がございます。

武田:これ、どうすればこういった制度が受けられるんでしょう?

在間さん:メインバンク、一番借入額が大きい金融機関に同意書を発行してもらいます。そのうえで、弁護士会に利用の申請をするという流れになっています。

武田:ということは、弁護士さんに相談しながら、こういった制度を適用してもらうかどうか、ちゃんと決めたほうがいいということですね。

在間さん:そうです。利用にあたっては、各地の弁護士会で無料電話相談をやっておりますので、対象になるのかどうかも含めて、ぜひ気軽に利用していただきたいと思います。

武田:先ほどおっしゃった、さまざまな支援制度も含めて、各地の弁護士会に連絡をすればいいということですね。

在間さん:そうですね。無料の電話相談があります。

豪雨から1か月 いま何を必要としているのか

武田:被災した人たち自身が、これから一体どういう状況になっていくのか、本当に想像もできないのが現状だというふうに感じたんですね。肥田さんは、全国の皆さんに一つだけ大切なことを伝えるとしたら、どんなことでしょうか?

肥田さん:忘れないでください。忘れないでほしいですね。年末を迎え、まもなくオリンピックムードの中、真冬に壁や床がない中、見通しの立たない生活をしてる方々。みんなで、できるときに、できる場所で、できることを。そして、みんなで乗り越えていけたらなというふうに考えています。

武田:忘れないということで、今できる支援もあれば、あと1か月後、2か月後に必要になる支援もある。それは、その場によって違うわけですよね。

肥田さん:そのときそのときで必要なもの、これから暖房器具であるとか、春に向かって季節ごとに衣類が必要になってきたりとか、そうしたことが必要になってきます。

武田:そのためにも忘れないで。

肥田さん:忘れないでください。

武田:ありがとうございました。最後に、私たちに寄せられた被災者の切実な声をご紹介したいと思います。

郡山市 60代女性
“もう何もかもないから…。いま何も考えられない。”

大崎市 60代男性
“ここで生活したいけどお金の問題が大変。これから借金をして返せるのか。また災害があるのではないか。”

大崎市 60代女性 二重被災
“二度三度と繰り返されるとは、悪夢でしかありません。年金生活でなんとか農業をやりながら食いつないでいるので、この先のことを考えると不安しかありません。”

長野市 30代女性 避難所生活
“寝られない、食べられない。子供が泣かないよう、ずっとだっこをしていたから腰が痛い。子供が遊べる物、乳製品が全くない。”

長野市 30代男性 リンゴ農家
“リンゴの木がほとんど倒れ、泥が20cmもつもっている。これから先、農家をできるかとても不安。”

郡山市 70代女性
“ストレスがたまって夫と皿を投げ合った。夜思い出して涙が出た。夫がもう疲れてしまって「死にたい」と言っている。前向くしかないんだけどね…。”

武田:1か月がたちましたが危機はまだ続いています。