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2019年10月1日(火)

大規模停電のリスクにどう備えるか~検証・台風15号~

大規模停電のリスクにどう備えるか~検証・台風15号~

台風15号によって広範囲・長期に及んだ大規模停電。復旧にあたって浮かび上がってきた様々な問題を検証していく。大量の電柱が倒壊した背景にあるとみられる想定外のメカニズム。電話や防災無線など、あらゆるものが停電で使えなくなる中、被害状況の把握が遅れる想定外の事態。各地に電源車が入るものの、必要なところに配車されなかった実態。そして、復旧後に襲った「再停電」や「隠れ停電」… 今回の災害から教訓とすべきものは何なのか、徹底検証する。

出演者

  • 金田武司さん (ユニバーサルエネルギー研究所)
  • 国崎信江さん (危機管理アドバイザー)
  • 武田真一 (キャスター) 、 栗原望 (アナウンサー)

電柱にすべてが…復旧の壁が次々と

停電から3週間。私たちの生活を支えてきた電柱の損壊が大きな問題になっていました。台風で大きな被害を受けた、千葉県鋸南町。

栗原:東京電力の車両が止まっていますね。

先週木曜日、折れて倒れた電柱の状態を確認するために、東京電力の作業員が訪れていました。

東京電力 作業員
「倒木と土砂崩れが合わさって、電柱ごと倒された。」

土砂崩れによって電柱だけでなく道路も被害を受けていました。

東京電力 作業員
「うちだけで、どうしようもない。たとえば道路、土木も絡んできたりするので。」

東京電力だけで道路の補修は行えないため、市や県など、道路管理者の協力をあおぐ必要があります。
電柱の補修が必要なのは、東京電力だけではありませんでした。電柱には電線だけでなく、NTTの電話線も張られていました。

NTT作業員
「東電さんが『立ったよ(立て直した)』と言ったら、うちの方で電話線を張りに行く。逆の場合もあります。」

電柱には、家庭などに電気を送る電線だけでなく、さまざまな役割のケーブルが張られています。固定電話用の電話線、インターネット用の光ケーブル。携帯電話の通信も、この光ケーブルを利用していました。携帯端末から無線で伝えられたデータは、基地局の間は光ケーブルで送られています。こうしたライフラインが寸断され、大きな影響が出たのです。

1000本を超えるとみられる電柱の被害。私たちは、鋸南町の中心部で被害の実態を調べました。

栗原:向こう側に向かって傾いています。(電柱の根元に)げんこつがすっと入る。中は水たまりになっている。

この地域の電柱は100本。そのうち、倒れていた電柱は7本。目で見て分かる損傷がある電柱は、合わせて31本に上りました。

電柱が被害を受けたことで、地域の住民は厳しい生活を強いられていました。停電の影響で、暗闇の中、懐中電灯を頼りにする生活。この家では電気を使ってポンプでくみ上げていたため、水も使えなくなりました。

住民
「これ(トイレのタンクへの水入れ)が一番大変。ひとりで入れるのが容易じゃないんだ、これ。電気がなければどうしようもない。蹴つまでいてケガすれば、ろくなことない。」

相次いだ電柱倒壊“受風面積”が大きいと…

なぜ、多くの電柱に被害が出たのか。思わぬメカニズムが見えてきました。国の基準では、電柱は10分間の平均で風速40メートルに耐えられるよう定められています。一方で、今回の台風15号で千葉県内で観測された10分間の平均風速は、最大でも35.1メートル。すべての観測所で国の基準を下回っていたのです。

それにもかかわらず、なぜ多くの電柱が損壊したのか。
エネルギー政策が専門の金田武司さんです。金田さんは、電柱の損壊には「飛来物」が大きく影響していると指摘します。

ユニバーサルエネルギー研究所 金田武司さん
「どこからか飛んできたものが、これ金属ですよね。飛来物が確かに多いんですよね。トタン屋根とか、看板とか、これがやっぱり被害を拡大していたと。」

飛来物が、電柱の損壊にどれほど影響しているのか。送電設備の安全性などを研究する施設の協力を得て、実験を行いました。強風にさらされた電柱を模型で再現します。電柱は傾きましたが、僅かです。ここに、ビニールシートを想定した飛来物をかけると…。

電力中央研究所 副研究参事 朱牟田善治さん
「風を受ける面積『受風面積』が大きければ大きいほど、この電柱にかかる力というのが大きくなると。だから、面積が2倍になれば、それだけ力が2倍になると。」

風速20メートルのシミュレーションでは、畳7枚分の面積の飛来物が貼り付くと、電柱の設計基準となる風速40メートルの風に匹敵する負荷がかかるといいます。

電力中央研究所 副研究参事 朱牟田善治さん
「(電柱など)配電設備に被害を与えるような力が、飛来物によって増幅されるというような現象が容易に想定されますので、飛来物の発生が停電を引き起こすという可能性は高まる。」

“隠れ停電”はなぜ? 見えてきた実態

今回の停電では、完全復旧の難しさも明らかになりました。東京電力が復旧したとする地域でも停電が続く、いわゆる「隠れ停電」が起きていたのです。先月19日に、停電戸数が0とされた大網白里市です。

取材班
「停電解消されたって、ホームページにあがっているじゃないですか?」

住民
「まだです。うちだけ。」

19日から3日間で停電が続いているという問い合わせは、市に100件以上きていました。なぜ隠れ停電は起きていたのか。

大網白里市役所 職員
「現地に行って、電柱にのぼって調べてみないとわからない。」

その理由は電線の構造にありました。電線には3つの種類があります。6600ボルトの高い電圧で電気が流れる「高圧線」。100ボルトと200ボルトの家庭用の電気が流れる「低圧線」。そして、住宅などに電気を供給する「引き込み線」です。このうち、東京電力がモニタリングシステムで電線の状況を把握できるのは、高圧線だけです。

低圧線と引き込み線については、住民からの連絡を頼りに現地で確認するしかありません。そのため、各家庭の状況がつかめず、復旧したとされる地域で隠れ停電が発生していたのです。

住民
「動きがとれないのが、一番どうしていいかわからない。」

取材班
「こんだけ長引くってありました?」

住民
「ないですよ。」

大型の台風が日本各地を襲う中、いつどこで起きてもおかしくない長期の停電。どう備えればよいのでしょうか。

どうすれば被害を減らせるのか?

武田:スタジオには、災害時における対応が専門で、木更津市の危機管理アドバイザーを務めている国崎さんに伺います。いわゆる隠れ停電をはじめとして、自治体もかなり振り回されてきた様子を目の当たりにされたということですが、現場では何に一番苦慮していたんでしょう?

ゲスト 国崎信江さん(危機管理アドバイザー)

国崎さん:やはり、東京電力さんとのコミュニケーションがうまく取れなかった。これが、災害対応の混乱を招いた一因かなというふうに思っているんですけれども。例えば、東京電力さんからの情報が直接、市ではなく、市がテレビを通じてその情報を知る。そのテレビを見た市民から多くの問い合わせがあったとしても、市としてはその詳細を伝えることができない。さらに、これは東京電力さんの情報を信頼して依存していたからこそだとは思うんですけれども、災害対応に対しても、やはり避難所の設置であったり、物資の調達であったり、さまざまなところに振り回されてしまったというのがあったと思います。

武田:そして、現場をご覧になってこられた、電力エネルギー問題が専門の金田さん。去年、関西や北海道でも停電がありました。それに続く大規模停電だったわけですが、改めて対策をどうとっていくのか、課題として浮かび上がったと思います。

ゲスト 金田武司さん(ユニバーサルエネルギー研究所)

金田さん:非常に明確な課題がいくつかあるように思われます。私、翌日に現場に行って状況をよく見たんですけども、やはり、いろんな飛来物とか毛細血管がやられているということが、今回の特徴だったと思います。そういう中で、停電が起きたらば次に何がどうなるかという時々刻々の被害の波及といいますか、インフラの途絶といいますか、水道が止まる、医療機関が止まるとか、時々刻々と変化していくものに対して、事前に対応ができた可能性は十分にあると思います。

武田:そこにどう備えていたかということを、これから検証していかなくてはならないということですね。

栗原:今回の事態を受けて、どういう対策が求められるのかまとめました。まず考えられるのが「電柱の補強」です。毎年のように台風に見舞われる九州電力では、一部の地域で風速50メートルまで耐えられるように、ワイヤや支柱で電柱を支えるなど、自主的な取り組みを進めています。また、国は電線を地中に埋める無電柱化を進めようとしています。ただ、コストの課題があります。どれぐらいかかるかというと、1kmあたり5億円ほど。電柱に比べますと、10倍くらいかかるということです。

武田:現場で取材にあたってきた佐野記者にも聞きたいと思います。私たちの暮らしを、本当にさまざまな面で支えている電柱の被害。これを最小限にするためには、どんなことをすればいいでしょう。

佐野記者:まず私たちにできることは、身近にある、飛ばされそうなもの。例えば車のカバーなど、こういったものをしっかり固定しておく。台風がくる前に、家の中にしまっておくことが必要です。また、自治体や電力会社としては、復旧作業が長期化する要因となる倒木を防ぐために、電柱の近くにある木を事前に伐採するということも有効なんです。実際、岐阜県では電力会社と自治体が費用を出し合いまして、事前に木を切るという取り組みを進めているんです。

迅速な復旧 何が必要か

武田:一方、復旧についてなんですけれども、東京電力や自治体などの人たちが、それぞれの管轄を超えて手を出せないという現状もありましたね。これはなんとかならないのでしょうか。

佐野記者:私たちが取材に入った現場でも、倒木が電線に接触していると。感電してしまうという恐れがあるとして、東京電力しか作業ができないというケースがありました。このため、自衛隊が現場にせっかく入るんですけれども、作業ができないという状況もありました。和歌山県では、こうした事態を想定しまして、関西電力やNTTと協定を結びました。和歌山県の建設部門の職員や和歌山県が委託した業者が、こうした事態を想定して代行できるようにしているんです。

武田:停電が長期化する中、応急処置として活用されるのが電源車を使って電力を供給することです。必要とされるところに、どのような順番で供給していくか。いわば「電力のトリアージ」が重要になってきます。

“電力トリアージ”機能したのか?

停電3日目の夜、南房総市にある中原病院です。この病院の入院患者は、およそ100人。エアコンを使えない生活が長引き、不調を訴える患者が増えていました。

中原病院 理事 池田哲也さん
「患者さん、日に日に体調が悪くなったら、今の状況が続けば、良くなるのは…。」

現場からのSOS。ところが、すぐには電源車が配備されませんでした。一体なぜなのか。当時、電力を所管する経済産業省は東京電力や自治体に向け、ある指示を出していました。協力して必要な現場に電源車などを配備する、という内容です。この指示を受け、東京電力は全国の電力会社に協力を呼びかけて電源車を集めました。電源車があれば、中規模の病院の場合、通常どおりの診療が可能です。

ところが、電源車をどこに要請するか決める南房総市は当初、中原病院を想定していませんでした。市の担当者は停電のあと、頻繁に中原病院を訪ねていました。当時の病院は非常用の自家発電機で人工透析などができる状態でした。そのため市は、最低限の治療を続けられると判断したのです。

南房総市 保健福祉部 斉藤和幸さん
「病院は自家発電で3日間は大丈夫、準備しているという話を聞いていたので。」

市役所の担当者は、発電機がなかった市内の避難所を優先して電源車を要請しました。しかし、病院では問題が起きていました。エアコンを動かせない中、熱中症の危険性が高まっていたのです。中原病院では危機をしのぐため、東京電力に電源車を要請しようとしました。

中原病院 理事 座間弘枝さん
「その連絡は『あした朝来る』でよろしいですか?」

取材班
「待つしかない?」

中原病院 理事 座間弘枝さん
「待ちです。待つしかないのかな。」

電源車のトリアージはどう行われていたのか。東京電力の担当者が取材に応じました。今回、行われたトリアージの方法です。東京電力や国は、自治体にリエゾンと呼ばれる連絡係の職員を派遣。リエゾンが自治体から集めた情報を東京電力に伝え、最終的に東京電力が優先順位を決めたといいます。

東京電力非常災害対策本部 電源車支援チーム 責任者 佐藤英章さん
「複数か所で同時多発的に、これだけの数の要請があったのは、過去に経験していないと思います。要請の中には、病院や高齢者施設もありますし、上下水道・インフラ関係、そういった所に優先的に電源車を派遣しました。」

中原病院が電源車の要請を行った翌日、市役所からの当初の要請どおりに、避難所では電源車の設置が行われました。その時点で、ここには携帯電話の充電などに訪れる人だけで、避難者は1人もいませんでした。
一方、中原病院では…。

取材班
「電源車の連絡は来ました?」

「まだです。連絡はしているんだけど…。」

結局、東京電力から連絡がきたのは、病院が電話をした2日後でした。患者の命を救おうと電源車を求めた中原病院。結果として、優先されることはありませんでした。

東京電力非常災害対策本部 電源車支援チーム 責任者 佐藤英章さん
「情報が少ない。そういった状況の中で、電源車を派遣していたことが困難だった。逆に、リエゾン(連絡係)の人が自治体に詳しく情報を聞き取れれば、もう少し改善できたのではないかと思います。」

災害時には、市町村の調整役を担う立場にある県。しかし、電源車の配置に関しては明確な役割はなかったといいます。

千葉県 防災危機管理部 次長 萬谷至康さん
「確かに、東京電力との何らかの取り決めはない。各施設は東電と契約を結んでいる。東電はきちんと電気を届ける義務がある。」

一方、非常時の電源に関して注意喚起を行うなど、市町村に対する事前の呼びかけが足りなかったといいます。

取材班
「電源車を要請できるという周知は、県から市町村へしたのか?」

千葉県 防災危機管理部 次長 萬谷至康さん
「本来なら、日ごろからそういったものは周知しておくべきだと思うが、それはやっていなかったと思う。」

NHKが、長期間、大規模な停電が続いた市町村を対象に行った聞き取り調査の結果です。17の自治体のうち15が、電源車をみずから要請できるとは知らなかったと回答しています。

中原病院に聞き取りを行った南房総市は…。

取材班
「国の職員が入るまでは、電源車の話は?」

南房総市 保健福祉部 相川寿夫さん
「全くない。分からない。」

台風の大規模停電の教訓を、今に生かしている自治体があります。去年、台風21号によって、およそ9割の世帯が停電した大阪の泉南市です。市では、停電が長期化したときに備え、電源車を優先的に配置させる場所をリスト化し、関西電力と共有しています。今後、議論を重ねながらさらにリストを充実させていく予定です。

電力トリアージを機能させるために何をしておくべきか。

“電力トリアージ”どう備えればいいのか

武田:市町村に聞き取り取材をした佐野さん。いざ、ことが起きたとき、どう備えるのか。何が欠けていたというふうに思われますか。

佐野記者:まず、担当者が電源車の存在を知らないだけではなく、運用するマニュアル自体もないことが分かったんです。そもそも、今回のような長期間の停電を想定していなかったと話す担当者もいました。

今日、東京電力の社長が一連の対応について陳謝しまして。今後、社内に委員会を立ち上げて検証することを表明しました。初動の対応だけでなく、自治体との連携がどうだったのかについても、しっかり検証して今後に生かすべきだと思います。

武田:金田さん、停電で通信手段も限られる中、状況をどう把握するか、誰が司令塔になって必要な人に必要な支援を送るのか、課題が見えてきました。どうすべきだとお考えでしょう?

金田さん:今回やはり特徴的なことは、人間の体で言えば多数の毛細血管が広範囲で切れたと。それをどう把握し得るかですね。これは、やはり普通の考え方で言えば現場主義だと思います。現場に行かなきゃ分からないのが前提だと思います。そういったうえでこれから先、停電の発見をどうするのかということが、まず一義的に重要かと思います。例えば、スマートメーターで状況を把握する。家庭単位でチェックすることができます。それから、ドローンを飛ばすとか、現場に行けなければ自衛隊のヘリに要請して現場の状況を確認するなどの手があるんじゃないかと思いますね。

武田:国崎さんはいかがでしょう。

国崎さん:私は、災害時の情報収集も、今のようなお話のように重要でありますし、さらに言いますと、県や東京電力さんなどの災害時のお互いの動きであったりとか、先ほど電源車の話もありましたが、こういった資源をどれほど保有しているのかを、お互いに理解しておくことが大事なことだと思うんですね。例えば、自治体なら地域防災計画で、東京電力さんでしたら恐らく災害対応マニュアルがありますので、それをお互いに突き合わせて整合性が取れているのか。特に、災害時の優先順位がお互いにずれていないかとか、そういうところを一つ一つ丁寧に検証しておくべきだと思います。また、さらに言うと、やはり事業者や施設の方々はそれぞれ、こういった災害停電が長期的に起こり得るという前提で、しっかり事業継続計画であったり、それから各家庭でも備えをしておくべきだと思います。

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