クローズアップ現代

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2019年9月11日(水)
身近な病院でも!なぜ減らない“身体拘束”

身近な病院でも!なぜ減らない“身体拘束”

治療や患者の安全を理由にベッドや車いすにしばられる「身体拘束」。これまで主に精神科病院で問題視されてきたが、国の最新の調査で、一般病院に入院している認知症の人の半数近くが身体拘束されていることが明らかになった。また認知症でない人も多く拘束され、心身にダメージを受けたというケースも報告されている。患者の高齢化で認知症の割合が急増する一方、ケアの人員は手薄で、治療や安全のため、やむを得ず拘束を選ぶという病院が少なくないのだ。一方で、患者本位のケアや小さな工夫の積み重ねで拘束を減らすことに成功した病院も出てきている。医療現場を徹底的にルポし、身体拘束を減らすためのヒントを探る。

出演者

  • 本田美和子さん (医師/国立病院機構 東京医療センター)
  • 石井光太さん (作家)
  • 宮田裕章さん (慶應義塾大学教授)
  • 武田真一 (キャスター) 、 高山哲哉 (アナウンサー)

身体拘束 知られざる実態

老人ホームで暮らす母親とその息子です。施設に入所する前、母親は自立して1人暮らしをしていました。

息子
「歩く、それから食べる、しゃべる。記憶のほうも特に支障なく。それがしばられたところから大きく変わっちゃった。」

4年前、持病で入院した母親を見舞った息子は信じられない光景を目にします。それは、両手両足を拘束された母親の姿でした。驚いた息子が尋ねると、病院は「点滴を抜いてしまい治療ができない。夜、出歩くので安全を保てない」などと拘束の理由を説明したといいます。そもそも一般病院では命の危険が迫っているなど、やむを得ない緊急の場合以外身体拘束は認められていません。

息子は拘束をやめるよう願い出たものの断られ、やむなく母親を転院させたといいます。これはおよそ2か月にわたる身体拘束の後、転院先の病院で撮影された母親の映像。

コミュニケーションはほとんどとれない状態でした。寝かせきりだったため、足の筋肉が落ち、爪先は伸びたままの「尖足」に。そして、腕や指は固まって動かない「拘縮」という状態になっていました。転院先の病院ではしばるのをやめてもらい、リハビリに力を入れました。すると母親は別人のように回復したのです。身体拘束は私たちの心と体にどんな影響を与えるのか?

「どうしてやっているんですか?」

身体拘束された母親
「どうして?頭がボケないように。」

息子
「しばられることで人間の尊厳が踏みにじられる。あのままいっていたら本当に亡くなっていたかもしれない。」

身体拘束 高山アナが体験

身体拘束は私たちの心と体にどんな影響を与えるのか。患者の気持ちを知るため、職員が実際に身体拘束を体験しているという病院で私も試してみました。

「大丈夫ですか?」

高山:頑張ります。

拘束開始から10分。早くも気になることが…。

高山:おなかのこれがきつい。眠れもしないですね、これ。ちょっと想像以上だな。ああ、孤独。

30分過ぎると ある問題が…。

高山:鼻がかゆくなりました。ちょっと、ちょっと。あと10センチぐらいかな。鼻がかゆい。

そして、開始から1時間余り…。

高山:イライライライライライラ。だんだんイライラしてきた。本当にイライラしてきた。看護師さんにはやさしく接してもらっていると思うんですけど、こっちが自由を奪われている分、下に見られているような気分になります。

高山:ああ、もうダメ。

「どうですか?」

高山:心が折れました。

私が体験したのは 僅か2時間でしたが、実際、身体拘束は心身の状態の悪化や死亡リスクの上昇を引き起こすことが分かっています。

身近な病院でも! なぜ減らない身体拘束

高山:身体拘束をなくすことはなぜできないのか。こちらの病院で状況を聞いてみたいと思います。

身体拘束を減らす取り組みを進めている神戸市の病院です。一部の患者への拘束をどうしてもなくすことができないといいます。その最大の理由が認知症の入院患者の急増です。この病院の急性期病棟の患者の平均年齢は80歳以上。認知症の人の割合が4年で倍増しました。

患者
「これ外してほしいんや。」

看護師
「これね、嫌やね。先生に相談して考えましょう。」

自分がなぜここにいるのか理解できず、点滴を抜いてしまうためミトン型の手袋をしています。また、転倒しないようベッドを柵で囲んだり、車いすにベルトで固定するなどの拘束をせざるをえないといいます。しかし…。

看護師
「ちょっと座ろう。どうやって抜けたん?」

患者
「トイレに行きたいの。」

看護師
「トイレね、行こうね。」

宮地病院 八木千鶴師長
「2~3日、本当に安全に過ごせたから外しましょうとなったとして、では3日後に何も起こらないとは限らない。ジレンマはあります。」

身体拘束が減らせないもう1つの理由は、夜間の深刻な人手不足だといいます。およそ40人の患者を看護師2人とヘルパー1人でケアします。その様子を病院と家族から許可を得て撮影しました。

午後10時半。音がしたのは、足の骨折で入院したばかりの90代の女性の部屋です。

患者
「危ない。」

女性は転落防止の柵を外していました。

患者
「痛い、痛い、痛いよ。」

一時的な意識レベルの低下や注意力の散漫などが起きる「せん妄」という症状です。高齢者は環境の変化や体調の悪化によって、この「せん妄」を起こしやすいのです。

この日も女性は治療に必要な点滴を自分で外してしまいました。「せん妄」は人手が減る夜間に起きやすいため、拘束を減らせないのだといいます。

看護師
「拘束も、もちろんかわいそうだからしたくないけど、患者さんを守るためなのでやむをえないです。」

そして「家族からの要望」も拘束を減らせない大きな理由だといいます。転倒して足を骨折したこちらの男性。日課のリハビリが終わると、家族からの要望ですぐに車いすに固定されてしまいます。

息子
「ベルトをしておいてくれと、こちらのほうからお願いしました。歩けると思って立ち上がって転倒しているわけですから、あくまで危険防止ということでお願いしている。」

本山リハビリテーション病院 安川美智子看護師長
「100パーセント大丈夫ですと私もよう言えないので、やっぱり家族の思いに負けてしまう。これでいいんかなという思いを抱きながら毎日仕事をしています。」


武田:私も高齢の親がいますので、治療のため安全のためと言われれば「どうぞしばってください」と言いたくなる気持ちもよく分かるんですけれども、ただ、その結果あれほど弱ってしまうという現実を見せつけられると怖いですよね。

高山:今回、番組では身体拘束が行われているご家族にアンケートを行いました。いくつかその声をご紹介したいと思います。まずはこちらです。「祖母が認知症になり病院で身体拘束され、そのまま亡くなった。人間の尊厳が奪われ、本当に必要なのか疑問」。もう1通ご紹介します。「母が脳梗塞で倒れた時、手足を拘束された。医師から説明を受け合意書にサインした。仕方ないとわかっていてもつらかった」。身体拘束って我々の暮らしから遠いイメージがあると思うんですけど、全日本病院協会の調べによると、一般の病院の病棟の9割以上で何らかの身体拘束を行ったことがあるというふうに回答しているんです。ですから、本当に身近に行われていると。

武田:本当に問題が多いように思うんですけれども、なぜ、それほど広がっているのか。

ゲスト 本田美和子さん (医師/国立病院機構 東京医療センター)

本田さん:例えば、私が研修医だった時には80代の人は非常にお年寄りだったし、初めて90歳の方を診た時にはすごく驚いたし、そして初めて100歳の方を担当した時にはその方のことは一生忘れないと思ったんです。ですが、今は本当に日常的に100歳を超えた方が病院にいらっしゃる。非常に超高齢化になっているわけなんですけども、それに伴ったさまざまな新しい課題が生まれてきて、その1つが認知症であり、それに引き続く身体拘束であるわけです。点滴を抜いてしまったりというようなことがあると、どうしても自分たちが届けたい医療を受け取ってもらうためには、この他にやりようがないんだと、その他には策がないということで身体拘束をしてしまうという現実があります。

高山:身体拘束を減らそうと、国も診療報酬の見直しという形でアプローチを行ってきました。具体的にどういうことが行われてきたのか。2016年には、身体拘束を行った日には認知症ケアの加算を減額します。さらには2018年、夜間や急性期などの看護体制に関する加算をするうえで、身体拘束をしない環境の整備を求めています。これをしないと加算しませんよということなんです。

武田:国もこうやって政策として身体拘束を減らそうとしているが、進んでいるのか?

本田さん:拘束しなかったことで、さまざまな医療事故が現場で起きる可能性もあります。そうなると院内の事故をできるだけ防ぎたいという観点から身体拘束やむなしという観点もあると思います。

武田:体をしばらなかったことで事故が起きてしまう。

本田さん:例えば、しばっていないことによって歩いて転んでしまうようなことがあると、それが訴訟につながるという例もあります。

高山:番組では、医療・介護の現場で働く皆さんの声も聞きましたので、いくつかご紹介します。まず、こちらは「拘束できなければ24時間の監視が必要になる。心苦しいが『患者さんのため』と自分に言い聞かせている」。さらに「先日、高齢男性に殴る蹴るなどされた。『身体拘束をやめろ』というなら利用者からボコボコにされてから言ってほしい」ということなんです。

ゲスト 石井光太さん (作家)

石井さん:実際に看護師に聞いてみると、確かに日中は10人看護師がいますと。だけど、それプラスヘルパーがいたり、理学療法士がいたり、あるいはお見舞いの家族がいたり、見守ってる人たちが20人30人いるんです。だけど、夜勤はそれが看護師2人になってしまう。そうすると圧倒的に人数として足りなくなります。

武田:本当に厳しい現場で、一体どうすれば身体拘束を減らすことができるのかということなんですが、先ほどのVTRで拘束を減らしたくても減らせないというジレンマを抱えていた病院がありました。そこである取り組みが始まっています。

身体拘束を減らせ 医療現場の模索

高齢者と接する看護師たちが参加する研修です。

ユマニチュードの指導員
「本人に近づいて『大丈夫よ』とか、こういうふうにしてあげるとか。」

学んでいるのは「ユマニチュード」というフランス生まれのケア技法です。

人としての尊厳を大切にしながら接することでコミュニケーションを改善。せん妄の発症を抑え、認知症の人でも穏やかに過ごせるようになるといわれています。ケアの柱は「見る」「触れる」「話す」「立つ」の4つ。触れる時は優しく。つかむのではなく、動こうとする意志を生かして下から支えます。

研修に参加した看護師
「こんにちは。」

患者
「こんにちは。」

研修に参加した看護師
「一緒にお手伝いさせてもらいますね。」

患者
「何を?」

研修に参加した看護師
「背中を気持ちよくマッサージするお手伝い。」

穏やかにポジティブな言葉をかけ続けると「あなたを大切に思っています」というメッセージを伝えられます。

研修に参加した看護師
「自由にいっぱい動きましょうね。」

研修に参加した看護師
「また起きてる、もう寝ないんだったら座ってください、ガチャって(拘束具を)つけてたかもしれないけど、ちょっと動いてもらおうかなという思いが出てきました。」

さらに、命に関わるリスクが高い救急医療の現場でも身体拘束を減らす取り組みが進んでいます。この病院では集中治療室の看護師全員がユマニチュードの研修を受講しました。肺炎で入院し身体拘束されていた95歳の男性です。立つことで覚醒を促し、鏡を見せて本人にチューブの必要性を理解してもらうことで拘束を外せたといいます。

看護師
「少しずつ口から食べられるようになったら、この鼻のチューブは取れますのでね。」

患者
「はい。」

看護師
「少しずつ頑張っていきましょうね。」

患者
「はい。」

このような取り組みを続けたところ、1年で身体拘束率を3分の1に減らしました。

聖マリア病院 杉本智波看護師長
「この管は治療に必要なものだということを患者自身も理解をして、確実な治療をお互いで守りましょうという患者自身の力を引き出す、認識を高めていく。」

これで実現! 身体拘束ゼロ

一方で、患者本位のこまやかな工夫の積み重ねで身体拘束ゼロを実現した病院もあります。取り入れたのは数々の「しばらないケア技術」。こちらは、肺炎で入院した重い認知症の女性です。

看護師
「手からだと取っちゃうんです。だから足から。」

点滴を抜いてしまうため、目に触れにくい足から管を入れています。そして、管を抜かないよう点滴中であることをはっきりと文字で示して記憶を補います。ベッドサイドには人形や家族写真など、患者になじみのある物を置いて管に意識がいかないようにしているのです。

さらに転倒のおそれがある患者はスタッフの作業スペースに一緒に座ってもらい、無理なく見守れるようにしています。そして、髪をとかすなど、本人が集中できる動作に意識を向けます。

認知症看護認定看護師 小池京子さん
「立ちそうになれば、もちろんわかりますよね。」

高山:この距離で皆さんの目の数だと。確かに安心できますね。

しばらないケア技術の徹底で認知症の重症度が入院1週間で半減。そして、現場スタッフの負担度も大きく減らすことができると研究で明らかになっています。

内田病院 田中志子理事長
「(医療スタッフの)負担感はいつまでも続くものじゃない。大変な状況は私たちのケアのあり方によって大きく改善する。身体拘束廃止に対して前向きにみんながとらえられるかが、はじめの1歩なのではないか。」

身体拘束 減らすには 家族にできる工夫

武田:患者とのコミュニケーションを大切にすることで結果的に身体拘束を減らそうという取り組み、実は家族の介護にも利用できるんですよね。本田さんに見せていただこうと思います。家族が入院していてお見舞いに来た時という設定です。

本田さん:まずは部屋に入って近づく時にベッドの足元のボードをノックします。

今度は顔に近づいていきます。できるだけ近づいていって「こんにちは。お見舞いに来ました、高山さん」と言います。ちょっと近すぎるぐらいで大丈夫です。認知症の方の場合は近づいたほうが、より私が来たということをお伝えすることができます。

そして、「こんにちは」と言いながら肩に手を当てるとよりいいと思います。肩というのは鈍いんです。いきなり顔とか手とかに触っちゃうと、ちょっとびっくりします。鈍いところに触るのが重要なんです。

肩に触れて「こんにちは。お見舞いに来ました」と言います。「ちょっと座って話しましょうか」と言って座って大丈夫な時には座っていただきます。

本田さん:座れますか?

高山:大丈夫です。

本田さん:じゃあ、ちょっと起き上がってください。

高山:全部、聞いてくださるんですね。

本田さん:「はい、よく起き上がれましたね」と言って、ベッドに足が乗ったままでももちろんいいんですけど、もっといいのは足を下に下ろすことなんです。足がちゃんと地面に着いていることを確認します。

高山:ベッドが結構ふかふかなのでふわふわしてるんですけど、足がこうやって着くだけで何か落ち着きますね。

本田さん:そうでしょう?

高山:何かどしっとした感じ。

本田さん:人は立つ時に必ず足で支えます。それと同じように座っていても足からのメッセージが脳に届くというのを自分がしっかり体を起こしてるんだなということを体に感じてもらうことができるんです。

高山:これだけでも全然違います。

本田さん:できるだけ正面にいたほうがいいです。正面見ながら話をする。見ることと話をすることと触れることを、同時にできるだけ組み合わせることによって、その方にさまざまな刺激が入るんです。

先ほど認知症の方が混乱してしまうとか、せん妄が起きてしまうということがありましたけど、それが起きてしまうことで身体拘束につながってしまうわけです。それが起きないようにするためには起き上がって、体を起こして話をして楽しい時を過ごすだけでそういった状況が予防できる。

身体拘束を防げ 私たちにできることは

石井さん:非常にいいことだと思うんです。ただ、病院の資源って病院によって限られているじゃないですか。時間だとか人材だとか、そういったような中でどこの病院でもこういったことはできる可能性があるということなんでしょうか?"

本田さん:可能性はあると思います。私どもの病院でも、例えば何人かで採血をしなければならないような方が、コミュニケーションをうまくとることによって1人でも採血ができるというように、結果的には看護やケアの時間を短縮できるということにつながります。

ゲスト 宮田裕章さん (慶應義塾大学教授)

宮田さん:身体拘束を行っているかどうかについては、病院だったり地域の中でも非常にやっぱり差があります。もちろん身体拘束になりやすい条件として、認知症があったり高齢者の患者がたくさんいたりとかあるんですが、そういった条件を調整しても、やはり差があると。技術を学んだりノウハウを共有することによって防ぐことができる部分はかなりの幅が…もちろん、これだけで解決するわけではないんですが、第一歩としては非常に重要な取り組みになるんじゃないかなというふうには思います。

高山:身体拘束ゼロを実現した内田病院で聞いてきました。家族ができる身体拘束の回避策。まず、入院や手術の直後は面会を増やしましょう。寄り添ってくださいということです。そして、時計・カレンダー・家族の写真など、その人が家で大切にしているもの愛用しているものを病室に持ち込んでみてください。さらに早期の離床・リハビリを積極的に応援しましょう。加えて、身体拘束はできるかぎりしないでほしいと担当の先生、それから看護師に相談をしてみてください。

武田:もちろん、どうしてもやむをえない拘束もあると思いますけれども、不必要な拘束を減らしていくために、家族にも、そして何より医療現場でできることはまだまだたくさんあるんじゃないかというふうに思ったんですけれども?

本田さん:認知症の方に対しての拘束というのは、この人がとても暴力的であるとか、何を言っても分からない方だということが理由でなされることが多いわけですけれども、認知症の方というのは暴力的というよりは、自分が分からない状況に置かれてしまって、自分を守るために、その行動は実は防御であるという可能性があるんです。その理解のもとに、この方に分かるようなコミュニケーションをどうやっていくか。より良い医療を相手に届けるために、私たちがまだ工夫できることはたくさんあるように思います。

宮田さん:患者と向かい合うような、こういった業務に関しては提供する側の幸せというのは、それがまたサービスの質にもつながっていくので非常に苦しい現場だとは思うんですが、現場の人たちが非常にやりがいを持って続けていくことができるような、この環境を整えていく中でこの問題を解決できるといいなというふうに思います。