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2019年6月27日(木)

留学生が“学べない” 30万人計画の陰で

留学生が“学べない” 30万人計画の陰で

「実態はまるで派遣会社ですよ・・・」。外国人留学生を受け入れる学校関係者が、カメラの前で暴露した。留学生を囲い込み、日本語はほぼ教えず、地元企業へと紹介。法律上限の週28時間以上働かせ、地域ぐるみで留学生が“食い物”にされているというのだ。背景にあるのが、国が掲げた「留学生30万人計画」。日本語学校で借金を抱えた学生が専門学校・大学へと移り、授業にも出ず失踪状態で働き続ける現実も―。実態を独自取材。

出演者

  • 佐藤由利子さん (東京工業大学准教授)
  • 指宿昭一さん (弁護士)
  • 武田真一 (キャスター) 、 栗原望 (アナウンサー)

追跡!なぜ1,600人が行方不明に…

世界中から、さまざまな人たちが集まる多国籍の街、新大久保。その路地の奥に建つビルに、たくさんの外国人が駆け込む場所があります。ここには、朝から夜遅くまで、さまざまな問題を抱えた留学生たちが相談に訪れます。

最近、特に増えているのが、東京福祉大学の学部研究生です。ネパールからやって来た、リル・タパさん。研究生の窮状を語りました。

外国人をサポートする会社を経営 バスネト・ナレスさん
「研究生としての勉強はどうでした?」

リル・タパさん
「将来がなかったので、研究生でいても、将来が見えなかった。」

3年間で、研究生など1,600人以上の留学生が行方不明となった東京福祉大学。文部科学省による立ち入り調査の結果、留学生に対する管理がずさんなどと指導を受け、改善を求められました。
国が掲げる「留学生30万人計画」では、専門的な技術や知識を持つ「高度人材」の獲得、育成が狙いの1つとされています。通常、留学生は「日本語学校」で学んだ後、日本語能力に応じて、大学や専門学校へと進学し、高度な知識や技術を身につけます。東京福祉大学は、留学生が急増する中で、大学進学を前提として、1年間学ぶ「学部研究生」という枠を独自に作りました。正規の学部のような定員はなく、書類選考と面接で、研究生として次々と受け入れていったのです。

ITエンジニアを目指していた、タパさん。1年間、研究生として学べば、大学進学への道が開けると、入学金と半年分の授業料およそ35万円を支払いました。しかし、実際に行われた授業は、期待とは全く異なるものでした。授業で使われていた教材は、市販の日本人向けの本。意味も分からないまま、ただ朗読するだけの授業だったといいます。

リル・タパさん
「とても大変でした。内容を理解できているかも確認せず、一方的な教え方だった。出来ないところを教えてもくれなかった。」

研究生として勉強を続けても大学進学は難しいと感じた、タパさん。半年で退学しました。

リル・タパさん
「私は勉強するために来た。悲しかった。日本のイメージも変わった。」

さらに取材を進めると、研究生たちは、一見、大学とは思えない環境で学んでいることが分かってきました。

栗原:東京福祉大学のどこの学部ですか?

留学生
「今、研究生です。」

栗原:専攻研究生。

留学生
「そうです。」

今年(2019年)4月に研究生として入学した留学生。勉強している教室を案内してもらうと…。

留学生
「このビルです。」

栗原:え、どこですか?

留学生
「この上です。」

栗原:え、このビル?

留学生
「教室はこちらです。35人くらい。」

研究生はなぜこんな状況に?東京福祉大学グループが作成した、留学生向けの学校紹介です。6年前、僅か5人だった「研究生」は年々増え続け、去年(2018年)2,656人に。

東京福祉大学グループが作成した動画
“なぜ毎年、こんなに卒業生が多いのでしょうか。それは魅力のある大学だからです。なぜ、魅力のある大学なのでしょうか。それはよい大学だからです。”

こうした研究生受け入れの旗振り役と言われているのが、東京福祉大学の中島恒雄元総長です。

少子化で厳しくなる大学経営。「研究生がその打開策になる」と、元総長が発言する音声データです。

東京福祉大学 中島恒雄元総長
(音声)「俺は(研究生など)2,000ぐらい集めようと思っている。2,000人いけると思うんだ。4年間やれば、上手にやれば、今の勝手な試算だけど、120億円入る。ガス代だ、電気代だって、ちまちま、けちってやってもしょうがないんだって。こうやったら、こんだけ銭がもうかる。よその大学、どこもやってないだろう。すごいだろうお前、このアイデア。そうしたらガバチョ、ガバチョだろう。」

去年まで東京福祉大学で留学生を教えていた男性教員です。

研究生を大量に受け入れる中で、教育環境がずさんになっていったといいます。

東京福祉大学 元教員
「来たい、研究生として入学したい学生は、ほとんど来る者を拒まずという状態だった。なりふり構わず確保した。はっきり言って、てんてこまいでしたね。研究生の中には、途中で頓挫する学生もいるので、そのチェックで大変でした。」

「研究生は金になる」と語った元総長に、私たちは取材を申し込みました。

栗原:東京福祉大学の問題について、中島元総長にお話を伺いに来たんですが…。

明かりはついていましたが、応答はありませんでした。
東京福祉大学は「学部研究生の増加は元総長の私的な打合わせ時の発言とは無関係。学部研究生については当面、募集を見合わせ、文部科学省から求められている改善計画の提出に向け検討していく」とコメントしています。教育の現場で、なぜこんなことが起きているのでしょうか。

「30万人計画」の裏で何が

ゲスト 指宿昭一さん(弁護士)
ゲスト 佐藤由利子さん(東京工業大学准教授)

武田:今年(2019年)改正出入国管理法が施行され、外国人労働者の受け入れをどうしていくか、大きな課題となっていますが、学びを目的とした留学生にも、さまざまな問題が浮上しているんです。背景にあるのは、2020年の達成を目指してきた、「留学生30万人計画」。これは、国の計画です。日本語学校から、大学や専門学校に進学してもらい、高度人材の獲得・育成、諸外国に対する知的国際貢献などを目指しています。

そのために、勉学に専念できる環境づくりや、受け入れに関する審査の簡素化などを進めるとしてきたんですけれども、今回のケースは、こうした計画の理念とはかけ離れた実態があることが分かってきました。

栗原:今回、私たち、東京福祉大学の学部研究生として通っていた留学生にアンケート調査を実施しました。「なぜ『学部研究生』になったのか」という問いに対しまして、大学に進学したかったなど、およそ7割が「学びたい」という意欲を持った学生たちだったんです。

さらに、「『研究生の行方不明』の原因は何だと思うか」と尋ねますと、「授業が分からないから」が46%、「学校が教えないから・施設が不十分だから」と答えたのは18%に上っていたんです。

武田:外国人留学生からの相談を受けてきた、弁護士の指宿さん。
これは何が問題なのか、そして東京福祉大学だけの問題なんでしょうか?

指宿さん:こういう問題のある大学・学校に対して、国が何もチェックをしてこなかった、大学・学校任せになっていたというのが、まず大きな問題だと思います。あと、同じようなことが他の大学や学校でもたくさんあると思います。

武田:その実態はどうなんですか?

指宿さん:留学生は週に28時間以上、働いてはいけないんですが、実際はそれを超えて働かないと、生活費と授業料が稼げない。結局、過労で勉強どころじゃない状態でいる留学生がたくさんいます。また、それに合わせて学校側も、ちゃんとした教育体制を取っていない。これは東京福祉大学だけではないと思います。

栗原:今回、東京福祉大学の問題について、国は新たな方針を定めました。それがこちらです。文部科学省は「当面、学部研究生の新規受け入れを見合わせること」、法務省の出入国在留管理庁は「申請があっても、在留資格『留学』の付与を認めないこと」を定めています。ほかの学校については、文部科学省は「必要に応じて、今後、ヒアリングや実地調査を検討していく」としています。

武田:大学や専門学校で留学生が行方不明になったり、受け入れ体制に問題があるというケースは過去にも相次いでいます。にもかかわらず、こうした問題が繰り返されました。

留学生の研究を続けている、佐藤さん。「30万人計画」の理念と、どこでかけ離れていったんでしょうか?

佐藤さん:「30万人計画」は2008年に発表された時に、高度人材の受け入れと連動してということで、そういう優秀な留学生を受け入れると。もう1つは、漢字圏、中国とか韓国とかからの受け入れが、7〜8割という想定で始まったんですが、2011年の東日本大震災で、そういった近隣の漢字圏の人たちが帰ってしまったり、来日中止が相次ぐ中で、日本語学校の方たちが危機感を抱いて、漢字圏ではない、ベトナムとかネパールとか非漢字圏からの留学生をたくさんリクルートしたわけですね。「日本は留学資金がなくても、アルバイトをしながら学費や生活を賄える」ということをキャッチフレーズにリクルートして、そのことに期待して、日本留学に夢を抱いて、多くのベトナム、ネパールなど非漢字圏の若者がやって来たんですけれども、彼らは漢字を使わない国なので、日本語の学習に漢字圏の人よりずっと時間がかかるということと、アルバイトをしながら学ぶということで、先ほどVTRにもありましたが、昼間は疲れてしまって勉強に集中できないということで、日本語学校は2年間までしかいれないんですが、2年後、大学で日本語の授業を受けることができる日本語能力、日本語能力試験「N2」と言われるんですが、それが身についていない学生が大量に出てしまったということで、東京福祉大学の学部研究生は彼らの受け皿になり、大学・専門学校では、そういった学生を入れて、きちんとした専門教育が行えない状態で入れてしまったと。

武田:全国で相次ぐ留学生を巡る問題。背景には、学びを掲げながらも、留学生に労働力としての役割を求めざるを得ない日本の現実がありました。

学校がバイトあっせん “名ばかりの教育機関…”

この10年で日本語学校が2倍近くに急増している福岡県。夕方、駅前のロータリーに留学生たちが集まってきました。アルバイト先の企業が用意したバスで、次々とピストン輸送されていきます。

日本語学校の留学生
「(アルバイトは)夜8時から朝5時まで。」

取材班
「朝の5時まで?明日は学校ありますか?」

日本語学校の留学生
「学校あります。忙しい。難しいです。」

バスが向かったのは、配送センターや弁当工場など、いずれも24時間操業の現場。翌日の朝から授業があっても、深夜や早朝に働くのはなぜなのか。日本語学校に入るには、およそ100万円の初期費用が必要になるため、留学生の多くは、母国で借金を抱えて来日します。さらに、来日した後も数十万円に上る翌年の授業料が必要になるのです。今回、日本語学校の元職員が、学校が留学生にアルバイトをあっせんしている実態を語りました。確実に学費を徴収するよう、経営者から強く命じられていたという元職員。取り出したのは、留学生を徹底的に管理するためのリストです。

日本語学校 元職員
「学生の名前がここに並んでいるんですけど、濃い緑の人はアルバイトを2つ以上もっている。」

リストには、一人一人のバイト先や勤務時間、給料日などが詳細に記されていました。学費の支払いが滞らないよう、工場や飲食店などに留学生を送り込んでいたといいます。

日本語学校 元職員
「赤の人はアルバイトをもっていない。学校としては収入源が確保できなくなってしまう。日本語をちゃんと教えるより、まずアルバイトを紹介してやれと。学生というのは金づるで歯車ですよね。」

独自に入手した学校の映像です。授業中、ほとんどの学生が寝ています。

留学生のアルバイトは、法律で週に28時間以内と定められていますが、それ以上働く人もいるといいます。学校側には、上限を超えないよう指導することが求められますが、あえて見過ごしていたと、元職員は証言しました。

日本語学校 元職員
「学校はそれ(28時間超過)を自分から調べようとはしません。見て見ぬふりをする。実際には、まったく学校としての機能をなしてない。名ばかりの教育機関ですね。」

理想とは程遠い生活の中で、将来が見通せないという留学生に出会いました。

取材班
「何人暮らしですか?」

留学生
「2人。」

取材班
「家賃はいくら?」

留学生
「(2人で)4万円。」

去年ベトナムから来日し、日本語学校に通う、チャンさん(仮名)。弁当工場とコンビニのアルバイトを掛け持ちしています。労働時間が週28時間を超えることもあるといいますが、学費を支払うとほとんど手元に残りません。

取材班
「所持金は?」

チャンさん
「たぶん1,000円くらい。」

取材班
「これでいつまで生活?」

チャンさん
「1週間。」

チャンさんは大学に進学し、日本で就職したいと考えていますが、アルバイトに追われるあまり、まだ日本語もままなりません。

チャンさん
「通訳になるのが夢だけど、自信がありません。(将来が)どうなるか不安です。」

チャンさんには、ベトナムから大切に持ってきた人形があります。

チャンさん
「寂しいときに鳴らすんです。ベトナムが恋しいです。」

人材確保のため…留学生に頼る地域の戦略

どうすれば留学生が学ぶことに専念できる環境を作れるのか。北海道東川町では、この春、専門学校の介護福祉科に26人の留学生を受け入れました。

教員
「まず枕をずらします。
しゃべる、しゃべる。『頭、失礼します』『枕ずらします』。」

留学生
「左側、向いてください。」

留学生が急増するきっかけとなったのが、4月から町が導入した新たな「奨学金制度」です。介護を学ぶ2年間が対象で、金額は560万円。返済は不要です。費用の8割を国からの特別交付金で賄い、残りをこの制度に参加する東川町と3つの町が負担します。

介護人材が圧倒的に不足する中で、町は税金を投入する決断をしたのです。

東川町 松岡市郎町長
「『なんで外国人だけに資金を』という話になるかもしれませんけれど、そこは誰もが避けては通れない老後という問題ですので、そのためにはしっかりした人材を養成することではないか。」

留学生の1人、ベトナム人のグエン・ヴァン・ナムさんです。奨学金で授業料だけでなく、生活費も賄えるところに魅力を感じ、ここで学ぶことを決めました。奨学金を受け取る条件は、資格を取った後、最低5年道内の決められた介護施設で働くことです。

グエン・ヴァン・ナムさん
「(1日)10時間とか11時間くらい勉強します。奨学金がなかったらアルバイトしなければなりません。毎日楽しくしています。」

人材確保のためには、留学生に頼らざるを得ない。今週、町は、専門学校などと合同で、海外で初めて、学生向けの説明会を開きました。

旭川福祉専門学校 担当者
「日本は介護の仕事をする人たちがたくさん必要です。2年間、介護の勉強のときは、アルバイトをしないで勉強に集中してもらいたい。」

どうしたら留学生が安心して学ぶ環境を作っていけるのか。この後、スタジオで考えます。

「30万人計画」の裏で…抜本的な対策は?

武田:VTRの前半で、「留学生は金づる」「歯車」という声がありました。怒りを感じると同時に、日本人として恥ずかしくも思うんですけれども、どうご覧になりましたか?

指宿さん:人材確保のために留学生を食い物にしたり、犠牲にしてはいけないと思うんですね。逆に北海道のケースでは、人材確保の目的ではありますけれど、経済的支援をして、留学生が安心して勉強できるようになっている。やっぱり、こういうケースをもっと増やしていかなければいけないし、過重な労働で勉強ができないような状況はおかしいと思います。

武田:人材不足の穴を埋めるために留学生を受け入れる。ここも考えさせられることではありますよね。

指宿さん:ただ、留学生にとって、自分のためになる、そして、犠牲にならないようであれば、それはいいのではないかと私は思います。

武田:昨日(26日)もフィリピンからの留学生が、週に28時間を超える労働を強いられて「仕事を辞めたい」と申し出たところ、日本語学校から帰国するよう命じられたとして、学校を訴えるということがありました。この件も、指宿さんが相談を受けたということですけれども、留学生が安心して学べるには、今、何が必要なんでしょうか?

指宿さん:さっき言ったような支援体制も必要ですけれど、何かあった時に外の社会につながることができる、特に相談窓口ですよね。昨日のフィリピン人のケースは、NPO法人のPOSSE(ポッセ)というところに駆け込んで助けてもらったから裁判までつながったんですが、普通これはなくて、ほとんど泣き寝入りしています。そうならない相談窓口が必要だと思います。

武田:こうしたことをなくすためにどうすればいいのか、佐藤さんが挙げる3つのポイントがこちらです。

まず、「教育の質のチェックを」ということですけれども、これはどういうことでしょうか?

佐藤さん:先ほどの東京福祉大学のケースもそうですし、日本語学校の場合、7割以上が学校法人格を持っていないので、教育の質のチェック体制が不十分です。ビジネスにならないように、チェックする必要があると思います。

武田:そして2番目は、先ほど指宿さんがおっしゃったようなことですね。3番目は「学校・学生に対する支援の充実」、これはどこがどう足りないんでしょうか?

佐藤さん:日本語学校のような学校法人格を持っていない学校に対して、国の支援、補助金とか税制上の優遇措置がないので、質が高い教育が提供できるように支援が必要ですし、学生は日本語学校にいる間、一番、奨学金や学費免除が少ないので、でも日本語ができなくて大変ですので、彼らに対する支援が必要ですし、先ほどの東川町のような、留学生を将来雇用したいような企業のグループや、自治体が一緒になって奨学金を出していくというような知恵が必要ではないかと思います。

栗原:先週、私は、留学生を多く送り出しているベトナムを取材したんですが、日本のネガティブな情報がSNSなどを通じて、現地にも伝わっているということなんですね。それでも日本で学びたいという学生はまだまだ多くいるという実感を感じました。

武田:佐藤さん、私たちはどう向き合っていけばいいんでしょうか?

佐藤さん:留学生というのは、これから日本にとって、彼らの国と日本の懸け橋になる非常に重要な人材なので、彼らを大事にして、日本を大好きになってもらって、スキルもアップして帰してあげるということが非常に重要だと思います。

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