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2019年5月30日(木)

“都会のマンション”に異変!あなたはどうする?

“都会のマンション”に異変!あなたはどうする?

いま、都会のマンションに“異変”が起きていることをご存じですか?人気が衰えない新築マンションの平均価格はバブル期以来の高い水準。しかし、その一方で、所有者がいるのに空いたままの「空室数」が過去最高を記録。老朽化に悩む“空洞化マンション”も目立ち始めています。さらに、都心を中心に急増するタワーマンションでも、「修繕積立金が十分ではない」という危機感を抱く管理組合まで・・・。マンションの価格高騰の裏でいったい何が起きているのか?そして、私たちは、「マンションの終活」とどう向き合っていけばよいのでしょうか?専門家と解決の糸口を探る45分拡大版スペシャル。

出演者

  • 荻原博子さん (経済ジャーナリスト)
  • 長嶋修さん (不動産コンサルタント)
  • 深山州さん (マンション管理士)
  • 武田真一 (キャスター)

追跡!“埋もれた空室”なぜ?所有者は?問題が…

今、東京のマンションで急増する、空室の問題。空き家に関する情報収集を行う民間企業の調査員です。

渋谷区・恵比寿駅周辺の調査に同行しました。都内有数の人気エリアですが、空室が次々と見つかります。

空き家調査会社 調査員
「この状態ですね。テープが張ってあるところが空き室。」

「黒い点が2つありますでしょう。それが電気メーター停止(という印)。電気もガスも止まっている。」

見つかった空室は、外観写真とともに、その場でデータベースに登録します。この会社が探しているのが、不動産市場に出回っていない“埋もれた空室”と呼ばれる物件です。賃貸や販売に出ていない空室や所有者の情報を調べ、不動産会社などに提供。データをもとに、不動産会社が所有者に売却を促すことで取り引きにつなげようとしています。

例えば、築40年のこのマンション。空室として販売・賃貸情報に載っているのは1戸だけ。しかし、この会社が調べたところ、さらに6戸が不動産市場に出回らないまま放置された“埋もれた空室”になっていました。

空き家調査会社 調査員
「結構ありますよね。空き家の調査をしていて、新築がボンボン建っているのを見ると、もったいないなと。」

“埋もれた空室”は、これまでに調査しただけで、東京23区で5,000戸に上るといいます。

最も多いのが新宿区で677戸。次いで多いのが杉並区。人気エリアの港区でも268戸もの“埋もれた空室”を見つけました。

空き家活用会社 和田貴充社長
「5,000件という情報は(実際の)1%くらいなのかなという感じですね。(埋もれた空室が)どんどん増えいく可能性はあると思います。」

この会社のデータベースに登録されている“埋もれた空室”を訪ねました。新宿区にある築30年以上のマンション。最寄り駅から徒歩10分以内と好立地です。

一昨年(2017年)マンションの管理組合の理事長となった女性。いつの間にか、この部屋が空室になっていることに気づいたといいます。

マンション管理組合 理事長
「もう電気が切れてますよね。メーターが動いていませんもんね。給水停止となっていますね。平成27年…。」

水道や電気は4年前から止められていました。部屋の所有者は、共用部分の清掃などにかかる管理費などを4年半にわたって滞納。未収額が130万円近くに上っています。

マンション管理組合 理事長
「階が違うと、マンションなので時間帯が全然合わないので、たぶん面識のない方だと思います。」

理事長は、マンション管理士の国家資格を持つ専門家に助けを求めました。管理士が入手したのは、問題の部屋の登記簿。所有者は女性で、20年前に購入していたことが分かりました。

マンション管理士 中山孝仁さん
「高齢化で病院に入院したり、老人ホームに行かれたりして、いない方。その病院でお亡くなりになって。」

マンション管理会社 加藤政彦さん
「外部に住んでいる方や、連絡が取れない方が多々増えている。」

その後、所有者の親族の住所を探し当てた理事長たち。この日、訪ねることにしました。

「いらっしゃらないみたいですね。」

あきらめかけていたその時、1人の男性が話しかけてきました。

男性
「うちの親です。」

マンション管理組合 理事長
「そうなの、あのね…。」

男性
「所有。」

マンション管理組合 理事長
「所有、居住されてましたよね。」

息子だという男性に、放置されたままのマンションの空室について尋ねました。

マンション管理組合 理事長
「転居届が出ないまま使われていないんですか?」

男性
「はい、使ってないです。」

マンション管理組合 理事長
「空き部屋になっていますよね?」

男性
「(母親が)田舎のほうに戻っているので、こっちの管理がよくわかっていなかった状態で。」

4年前、所有者である70代の母親が地方の実家へ帰ったのを機に、部屋の管理を任されたという男性。母親は売るつもりがなく、男性も何もせずにそのままにしているといいます。

理事長たちは、滞納してきた管理費について話し合いを続けることにしました。

マンション管理組合 理事長
「組合として、きちんと対応していこうと思います。ほとんどの理事会の人は素人になるわけですから、なかなか難しいですよね。」

日本のマンションで進む、所有者の高齢化。国のマンション調査が先月(4月)発表され、70代以上の世帯主が、初めて2割を超えたことが分かりました。

マンションの管理組合をサポートしている、マンション管理士会です。

副理事長の若林雪雄さん。注目しているのが、世代交代による相続放棄です。マンションの所有者が借金を残して亡くなった場合、財産を相続する人は、部屋の所有権とともに、借金も引き受けなければなりません。それを避けるために、相続を放棄すると、マンションの部屋の所有権が宙に浮くケースがあるのです。
マンション管理士会の若林さんが相談に乗っている、築40年を超えたマンション。今年(2019年)1月、ある出来事をきっかけに相続放棄の問題が持ち上がりました。

東京都マンション管理士会 副理事長 若林雪雄さん
「11階の部屋の方から、排水が漏れてくるという訴えがあった。原因を調べたら、10階の天井裏の排水管がつまっているんじゃないかと。」

水があふれる原因となった部屋。調べてみると、70代の所有者は5か月前に亡くなっており、親族からは「相続を放棄したので自分には関係ない」と告げられました。水漏れに対応するため、60万円を負担した管理組合。空室を売却することも検討しましたが、容易ではないことが分かってきました。相続する人がいない部屋を売却する場合、家庭裁判所に申し立て、弁護士などに依頼する必要があります。そのためには、100万円ほどの費用がかかります。たとえ売却できたとしても、所有者が抱えていた借金の返済に当てられ、全額戻らない可能性もあるのです。

マンション管理組合 理事長
「未来永ごう、ずっとマンションは大丈夫だという観念がありましたから、僕にとっては非常に頭の中、白紙の状態ですね。」

東京都マンション管理士会 副理事長 若林雪雄さん
「そういう(借金のある)方が残したマンションという資産を、誰がどういうふうに処分するのかというのは、非常に重い問題だと思います。」

都会のマンションで起きる“埋もれた空室”の問題。どう対応すればいいのでしょうか。

“空室”増加で悩み続出!あなたはどうする?

ゲスト 荻原博子さん(経済ジャーナリスト)
ゲスト 長嶋修さん(不動産コンサルタント)

武田:マンションで空室が増えますと、こんな大変なことになります。
まず、「管理費などが滞納されやすくなる」。管理費で賄われている共有部分の清掃やゴミ出し、メンテナンスなどが困難になっていく恐れがあります。そして、「長期的な修繕計画に影響が出て、老朽化に手を打てない」ということにもなりかねず、マンション全体の資産価値が下がってしまうということにもつながりかねません。

私が住んでいるマンションは、高齢の方も多いですし、私自身もどんどん年を取っていきますので、今のVTRは本当にひと事ではないなと思いました。
経済ジャーナリストの荻原さんは、この空室の問題をどうご覧になりましたか?

荻原さん:マンションって、少し前までは皆さん「仮の住まい」というイメージがあったんですよ。まずマンションに住んで、値上がりしたら売って、一戸建てに移るという。ところが今、マンションそのものが値上がりしなくなってきている。特に中古マンション。ですから、ローンを目いっぱい抱えちゃうと、そこから動けなくなってしまうんですね。動けなくなってしまった方は、ずっとそこにいるしかないということで、マンションの老朽化と住んでいる人の高齢化がダブルでくる。そうなったときに、その先にあるのは相続の問題とか、もしかしたら、マンションを払えなくなったという問題もあるかもしれません。ですから、そういうのでぽつぽつぽつぽつ空室が出てきていってしまって、管理組合もそれを買い取るわけにもいかないので、非常に今、大きな問題になっています。

武田:全体の高齢化が背景にあるということですね。

荻原さん:高齢化は大きいですね。

武田:不動産コンサルタントの長嶋さん。都内のマンションでは、70万戸が空室となっていると。その中には、いわゆる“埋もれた空室”も増えていると見られているんですが、どんなことが起きてるんですか?

長嶋さん:みんな最初は、マンションって鍵一本で、管理が楽だっていって入るんですけれども、言い換えると、そのマンションのドアの内側がどういうふうになっているか、よく分からないんですよね。住んでいらっしゃるのか、いないのか。いないのだとすれば、じゃあどこにお住まいなのか。あるいは相続が発生して、その人の所有じゃないかもしれない。こういう状態が分かりにくくなっている。その数が増えてきてしまうと、マンションの管理そのものがやりにくくなるという状況なんです。

武田:例えば、どんな事例があるんでしょうか?

長嶋さん:VTRにあったような、所有者が実家に帰ってしまった。あるいは介護の施設に入られたとか、あるいは相続になって、息子さんが本来持っているはずなんだけれども、彼らと連絡が取れないとか、ケースバイケースでたくさん事例があります。

武田:そういった事例が増えていくと、全体としては大変なことになりませんか?

長嶋さん:個別に1軒1軒当たって、その状況を伺いながらやらないといけないので、これは大変な労力になります。

“空室”増加で悩み続出!管理費滞納どうする?

ゲスト 深山州さん(マンション管理士)

武田:マンションの管理費の滞納に悩んでいらっしゃるという、埼玉県60代の男性から、こんなメールが届いています。
「アンテナが折れて、衛星放送が視聴不能になった。管理組合の予算がないため、修理が行われていません。管理費を払わない悪質な居住者もいて、対応は難しいと感じます」。

この管理費の滞納問題について、マンション管理士で、管理組合の問題に詳しい深山さんが挙げるポイントはこちらです。「滞納の時効は5年 早めに対応を」ということで、そのためには、こういうような項目を挙げていらっしゃるんですけれど、深山さん、これはどういうことでしょうか?

深山さん:時効は、法律で5年といわれているんですけれども、そもそも5年近く経ってから回収しようとすると、先ほどのVTRのように、100万円以上たまってしまう。たまり過ぎてしまうと、返すにも返せなくなりますので、とにかく早く動き出すことが大事かと。

武田:「管理会社まかせにしない」というのはどういうことですか?

深山さん:まず、毎月の管理費と修繕金を集める。管理会社が早め早めに「1か月、2か月滞納されています」という情報を上げてくると思うので、それを管理組合で報告を受けた上で、早めに次の手段を打つように仕掛けていくことが大事になります。

武田:管理組合が仕掛けるということですね。それでも足りなければ、「登記簿を取り寄せ、所有者に連絡する」。これを管理組合はやっていいんですか?

深山さん:実務は管理会社や、その顧問弁護士などがやるんですが、その指示をするのは管理組合になりますので、決断を早くすることが大事かなと思います。

武田:弁護士に相談するにしても、住民である管理組合が動かないとダメだと。

深山さん:そうですね。同じ屋根の下に住んでいる人同士なので、人間関係も出来ていると、なかなか言いづらいと思うんですが、それでも早め早めに動くことが大事かなと思います。

武田:管理組合のメンバーも素人ですから、そこまでやるのは大変じゃないかと思うんですけれども。

荻原さん:そんなことを言っていると、マンションの老朽化とか、いろんな問題が噴き出してくるので、そこはビシッとやらないとダメですよ。

武田:頑張ります。
空室が増えている一方で、実はマンションの供給は続いています。象徴的なのがこちら。都心を中心に急増しているタワーマンション。現在およそ780棟、22万戸に上っています。

今後さらに、少なくとも34棟のタワーマンションの建設が予定されています。将来、こうしたマンションが直面することになる問題が老朽化です。全国にある築年数30年を超えるマンションは今後20年で、およそ3倍に増加するんです。2000年代に建てられたタワーマンションもここに含まれることになります。

老朽化したマンションに住む住民は、どんな問題に直面するんでしょうか。

進む老朽化!建て替えに“あるカベ”が…

東京・台東区。繁華街から程近い場所に、マンションの部屋を複数所有している、白井茂さんです。

白井茂さん
「真ん中に、でんと建物が建ってるでしょ。」

築50年以上のこのマンション。近づいてみると…。

取材班
「コンクリート落ちてる。」

白井さん
「実際に落ちたのが。」

取材班
「どこですか?」

白井さん
「あの壁まだ落ちたまま。こんなのがずっとあるわけだから、危険は危険ですよ。」

新築当時から、管理組合がなかったこのマンション。建物の修繕に備えて積み立てる修繕積立金を集めていなかったため、エントランスは3年前から水浸しです。

白井さん
「もっとひどいのがね、この電気。」

漏電の恐れがあるため、廊下や階段の電気はつけられません。数年前から修繕を諦め、マンションの建て替えを目指す白井さん。立ちはだかったのが、所有者の同意をどう取り付けるかという問題でした。マンションの建て替えには、部屋の所有者の5分の4の同意が必要です。同意を取り付ける中で白井さんは、複数ある空室の所有者にも連絡を取ろうと考えました。登記簿を取り寄せると、思わぬことが分かりました。所有者の1人の住所が、中国・上海だったのです。

白井さん
「上海に所有がなっている。最終的にはここが最大のネックになるだろうとみてる、最後に。だから、どうしようと。」

この日、白井さんが訪れたのは、古くからある地元の不動産会社。所有者に連絡を試みました。しかし…。

不動産業者
「違いますか。ああ、申し訳ないですね。ありがとうございます。失礼いたします。」

結局、所有者の居所は分かりませんでした。白井さんは、建て替えを実現するためには、態度を保留しているほかの所有者から、自分が部屋を買い取るしかないと考え始めています。

白井さん
「いつの日か、僕が生きているうちに、きれいなマンションになってもらいたいというのが本音です。」

どうする?タワマン修繕 “積立金”に悩みが…

修繕の問題はタワーマンションでも…。建設ラッシュから10年以上が経ち、今、一斉に修繕時期を迎えています。

マンション管理組合 元理事長
「海が見えると気持ちが違いますよね。」

都内のタワマンに住む男性です。数年前まで、管理組合の理事長を務めていました。修繕積立金が今後不足し、工事ができなくなる恐れが出ているといいます。

マンション管理組合 元理事長
「この赤いのが工事費累計(工事に必要な費用)。」

青で示された修繕積立金で、1度目の大規模修繕工事を賄えたものの、4年後には、赤で示された工事費用が積立金を上回ってしまうのです。

マンション管理組合 元理事長
「修繕積立金を使い切ってしまう。」

その原因は、修繕費の積立方式にありました。それが「段階増額積立方式」です。多くのマンションで、入居当初は積立金が低く設定されています。その後、修繕計画上、必要な費用を捻出するためには、積立金を段階的に引き上げていくことになります。値上げするには原則、そのたびに所有者の合意が必要です。

しかし、このマンションでは、一度も値上げできていないといいます。理事会で反対されたからです。

マンション管理組合 元理事長
「(反対する理事が)『この金額って大丈夫なの?安くすることもできるんじゃないか』とか。」

入居開始から10年以上が経ち、所有者の高齢化が進む中、一刻も早く引き上げ始めなければ、マンションが維持できなくなると感じています。

マンション管理組合 元理事長
「(修繕積立金の支払いを)かなりため込んでしまった方がいらっしゃいましたが、最終的には(マンションを)売って出ていきました。マンションを維持するには、やらなきゃいけないことをやっていかなきゃいけない。」

どうする?タワマン修繕 “積立金”解決の模索

積立金不足の問題に直面し、解決策を模索しているマンションがあります。東京都内にある24階建てのタワマン。

515戸の所有者で構成される管理組合です。

代表理事の應田治彦さん。7年前、積立金の値上げを実現しました。1年の間、何度も説明会を開き、所有者に値上げの必要性を訴えることで合意しました。

應田さんは今、新たな事態に直面しています。

マンション管理組合 代表理事 應田治彦さん
「足場の値段が約2.6億円。30%くらいのアップになっている。」

2年後に迫った大規模修繕工事に向け、詳細な見積もりを取ったところ、当初の見込みより6,000万円高くなっていたのです。こうした事態は、タワマンの修繕工事では珍しくないといいます。法律で、高層階は一般的な足場が組めないため、ゴンドラなど、特殊な機材が必要になります。

マンションの形状によっては、特注で部品を作ったり、ゴンドラの数を増やしたりしなければならないため、費用が高くなりがちだといいます。

マンション修繕施工会社 川島賢司さん
「1軒1軒のマンションによって、工法も違えば、やり方も違う。一概にこれという形で言えないのが、タワーマンションの難しいところ。マンションによっては(仮設費は全体の)5割近くの比率になってしまう。タワーマンションは仮設費が非常に噴騰してしまうというかたちです。」

應田さんのマンションは、このままでは積立金の値上げが避けられません。しかし、すでに一度値上げしているため、踏み切れないでいました。修繕工事の費用をどう確保すればいいのか。今月(5月)管理組合の理事会が開かれました。

マンション管理組合 代表理事 應田治彦さん
「計画の変更です。ただかなり大きな変更になります。」

提案したのは、大規模修繕工事の計画の見直しでした。建物の検査で、状態が予想より良いことが分かったため、工事の時期を当初の3年後とし、その間に不足する6,000万円を積み立てようと考えたのです。

マンション管理組合 代表理事 應田治彦さん
「値上げというのは、ものすごくハードルが高いです。今もらっている範囲内でやれるにはどうやればいいかなっていうものを現実的に考える。そういう考え方です。」

修繕積立金不足に悩むタワーマンション。解決のヒントを探ります。

タワマンでも… あなたはどうする?“修繕”問題

武田:今回NHKでは、40余りのタワーマンションの管理組合の理事長を対象にアンケートを行いました。こちらでも多くの方が問題意識を示しています。
「管理を行ってもマンション内で反発が出る。頑張れば頑張るほど損」「管理費・修繕積立金を安くして“今よければいい”とするほうが、短期的には価値が高いという不条理」「管理の悪いマンションが廃虚になり、明暗を可視化するしかない」。

皆さん、本当に苦労していらっしゃいます。住民の皆さんの合意を取る、共通の認識を持つということが、何をするにも出発点だと思うんですが、どうしたらいいんですか?

深山さん:そもそも分譲マンションというのは、たまたまその立地で、その部屋が気に入って買った人が集まっているので、共通の目指すところが何もない状態で住み合っているじゃないですか。ですので、シニアになって、お金がないから値上げもしたくないとか、投資で持っていて、先に出てしまうので値上げしたくないとか、いろんな価値観の方がいるので、そこをうまく1つにするのが一番大変なところだと思いますね。

武田:例えば、どんなアイデアがありますか?

深山さん:「自分たちのマンションはどこに向かうんだ」「こういったマンションを目指したいよね」というものを作って、「だから積立金の値上げは必要なんだよね」という大きな目的を示さないと人は動かない、動きづらいですよね。

武田:いろんな立場があるとは思いますけれども、少なくともそういったことはやるべきだということですよね。

深山さん:必要ですね。

武田:その積立金をどう確保していくのか。VTRでご紹介したのが、段階的に積立金が上がっていく「段階増額積立方式」。当初の負担は少ないんですけれども、値上げのたびに合意が必要になるという方式です。実はもう1つありまして、それが「均等積立方式」。数十年先までの修繕費用を月ごとに割って、定額を積み立てる方式です。当初から修繕積立金は割高になるんですが、毎月の額は変わりません。国の調査では、現在、7割のマンションで「段階増額積立方式」が採用されているということです。

なぜ、こちらのほうが多いんですか?

荻原さん:まず、売る業者さんにとっては、売る時にいろんな経費がかかります。その時に「積立金が安い」というのは1つの売りになるんです。それと、買うほうは、物件を買って登記をしたり、いろんなことをするとものすごいお金がかかります。積立金が安いというのが、一瞬、「本当に助かるな」と感じるんですよね。ですから、「将来は何となく上がっていくだろう」というのは分かっていても、「今、安ければいい」という形で「段階増額積立方式」が採用されるんですが、今、給料が上がっていかないですよね。それから、職も不安定になっています。意外とこの方式でやっている所は多いんですが、将来的には、上げる時に難航するという状況が出てくると思います。

武田:国はどちらかというと「均等積立方式」を推奨しているそうですね。

長嶋さん:「段階的に上げる予定だ」といっても、5年後、10年後にみんなの同意が取れて上げられるかどうかも分からないんですよね。だったら、最初から毎月均等にして、ブレのないように計画的にやりましょうということです。

武田:ただ、住民の合意は取りやすいんですか?

長嶋さん:ケースバイケースですよね。今の積み立て金額が安ければ、「そちらのほうがいいわ」という方が多いと、そちら側に移行できないケースもあります。

武田:目安として、積立金はいくらぐらいがいいんでしょうか?

長嶋さん:占有面積平米当たり200円です。例えば、60平米のマンションだったら、60平米×200円で1万2,000円。これを第1回目からためていた場合、2回目、3回目の大規模修繕も大体対応できます。ただし、タワーとか、豪華な共用施設が付いているものは、もっと高くなります。

国の住宅政策 いびつな構造

武田:取材に当たった社会部の藤島記者。こういった管理には課題がある一方で、建設ラッシュが続いている。これは対策が必要なんじゃないですか?

藤島新也記者(社会部):行政は建設を後押しして、事業者もマンションも供給を続けています。その反面で、維持管理は所有者や住民に事実上“丸投げ”になっているのが現状なんですね。

所有者に、維持管理の責任があるのは当然のことだと思うんですが、VTRで見た通り、多くの所有者がいるマンションの場合には、所有者だけでは解決が難しい問題があるのも事実です。ですから、例えば公的な機関がマンションの老朽化についてチェックして、管理組合に修繕の必要性を助言し、住民の合意形成を支援するという政策も今後必要になってくると思います。

武田:今も続くタワマン建設。東京の新築マンションの価格は、バブル後、最高値となっています。

これまで自治体はタワマン建設を後押ししてきたんですけれども、ここに来て変化も見えてきました。

続くタワマン建設 支える“パワーカップル”

東京湾岸で建設が進む、オリンピック・パラリンピックの選手村です。

大会後、跡地に整備されるタワーマンションを中心とする街「晴海フラッグ」。1万2,000人が暮らす計画です。

先月、公開されたモデルルーム。5,000万円台から1億3,000万円台の部屋が展示されています。

2000年代に入って急速に増えた、都心のタワマン。その人気を支えてきたのが、海外からの投資マネーでした。

外国人投資家向けに不動産を紹介している会社です。

今、その流れに変化が現れているといいます。

不動産仲介会社 田中吉社長
「おととしの後半かな、そこから市場は多少流れが変わった。」

ここ数年、海外からの買いが減っただけでなく、物件の売却を考える人も出てきているといいます。

不動産仲介会社 田中吉社長
「7,090万円ぐらいなら売りますよと。一度手放すという段階に計画的に入っている。」

海外の投資家に代わって、マンション市場を支えているのは“パワーカップル”。ともに高い年収を稼ぐ共働きの世帯です。晴海フラッグの購入を夫婦で検討している男性です。夫婦ともに都内で働いているため、職場に近いタワマンは魅力的だといいます。

晴海フラッグの購入を検討している男性
「老人ホームやら学校やらいろんなものが全部そこで集約してできるわけですから、それは便利だと思いますよね。将来を思って買える。」

続くタワマン建設 ある自治体が“方針転換” なぜ?

タワマンが増え続けてきた背景には、住民を増やそうという自治体の政策がありました。晴海フラッグが建設される東京・中央区には、58棟ものタワマンが林立しています。そのおよそ3分の1は、再開発事業として区が支援したもので、合わせて1,102億円の補助金が投じられました。

さらに建設を後押ししたのが、容積率の緩和です。容積率とは、敷地面積に対し、どのくらい床面積を作れるのかを定めた基準です。

中央区の晴海地区の場合、かつては5階を超える建物はほとんどありませんでした。

容積率を大幅に緩和したことによって、50階建てのマンションの建設も可能になったのです。

中央区 地域整備課 栗村一彰課長
「全部で大体4,000人から5,000人ぐらいの人が住んでいらっしゃいます。」

中央区では、各地でタワマン中心の再開発を進めた結果、人口は20年あまりで倍増しました。この中央区が今、方針の転換に動き始めています。人口が急増した結果、駅のホームは人であふれ、学校や保育所の不足も問題になってきたからです。このままでは、暮らしへの影響が深刻になりかねない。中央区は、住民の増加に歯止めをかけるため、住宅の容積率緩和の廃止を決定しました。

中央区 吉田不曇副区長
「人口増加はおさえて、いまの都市スタイルにあった行政サービスを、どういうふうに提供するかを考えてみようじゃないか。住民の人たちもこれ以上人口が増えることが本当にプラスになるのかという疑問をもっている。その気持ちをわれわれも行政として、きちんとつかんでブレーキを踏んでいく。」

東洋大学 野澤千絵教授
「容積率を緩和していくと、どんどん積み上がっていくわけで、その“積み上がっていく全体をどうコントロールするのか”という仕組みが、日本には残念ながらなかったということが、いまのタワマンの林立につながっているのかなと。住宅ばかり建てさせるような、そういう政策は見直すべき。」

住宅をめぐる東京・中央区の方針転換。どう見ればいいのでしょうか。

どうみる?“方針転換” 再開発の行方は?

武田:中央区は方針を転換しましたが、東京23区の容積率の緩和など、再開発を現在も行っているエリアがこの赤い印がついた所で、まだこれだけあります。

こういった現状をどう思われますか?

長嶋さん:1つは、世界の中での都市間競争もあるんですけれども、全体としてビジョンがないんですよね。住宅をここに、これぐらい建てると、全体として住宅の量がどうなるというコントロールを、自治体も国も行っていない状況です。そのことを受けて、今、中央区は事実上の住宅総量コントロールをし始めたということですね。

武田:人口減少社会で、1つ家が建てば、1つ空き家になるわけですよね。そういった調整が行われていない。

長嶋さん:住宅総量のコントロールをしていないのは、先進国では今、日本だけです。

“空室”に“老朽化” いま何が問われているか

武田:新しいマンションが次々に建つ一方で、空室や老朽化が問題になる。これが今の状況ですけれども、2025年には、東京でも人口が減っていくと言われてます。本当にこのままでいいのかどうか、皆さんにお伺いしたいと思います。

荻原さん:私は、「マンションは運命共同体だ」ということを再認識しなきゃいけないと思います。

マンションというのは、昔はプライバシーを守って、個人生活ができる器みたいなイメージがあったと思うんですけれども、震災を経て、「マンションは運命共同体なんだ」と。自分ができることってすごく少なくて、マンションそのもので、みんなで助け合っていかなければいけない部分がものすごく多い。ですから、それを再認識すれば、マンションの老朽化をどうやって防げるのかを、リアルに自分のこととして考えられるんじゃないかと思います。

深山さん:私は、「ビジョンとチームワークでビンテージを目指せ!!」と。

これはマクロというよりは、ミクロの話になるんですけれども、東京と言えども人口が減ってきて、それで勝ち組、負け組マンションはどうしても出来てしまうと思うんですね。自分が住んでいるマンションを勝ち組に、心地よく資産価値を上げたいのであれば、マンション住民が仲間となって、「こういったビジョンを持って、逆算してやっていこうよ」というチームワークと継続性が必要になってくると思いますし、それを継続することによって、年数が経っても、古いマンションではなくて、渋いビンテージのようなマンションにしていくんだという発想が大事かと思います。

武田:おしゃれなビンテージマンション、最近はやってますよね。

深山さん:そこに向かうという意識が大事かと思います。

長嶋さん:私は、「『管理力』で資産格差」と。

例えば、ABという隣り合わせて同じ条件のタワーマンションが建っていて、Aのマンションは1戸当たり修繕積立金が300万円たまっているけれど、Bのマンションはマイナスになっていると。この2つのマンションの持続可能性も、将来の資産性も同じはずがないんですよね。ここを評価する仕組みを、国、あるいは金融評価としてどういうふうに持っていくかが、今後の課題だと思っています。

武田:例えば、銀行からお金を借りる時に、管理がいいマンションは金利を安くしてもらえるとか、そういうイメージですか?

長嶋さん:金利を安くするでもいいですし、逆に、持続可能性がないと判断できるマンションは「融資できないよ」というようなことでもいいと思います。

武田:立地だとか、築年数だけで判断されているけれども、これからは管理も資産の一部として見るということですね。
取材した藤島記者はどんなことを感じましたか?

藤島記者:老朽化したマンションをどう長生きさせるのか、どう最終的に終わりをつけていくのかという問題について、目を背けたままでは将来に大きな付けを押しつけることだと思います。性能のいい新たな住宅が出来るということは歓迎すべきことです。ただ同時に、こうした課題について、みなが考えていく時期に来ていると思いました。

武田:今、東京って、どんどん姿が変わっていますよね。どうしても新しいものに目が向きがちですが、これから年老いていく建物も、健やかで魅力的なビンテージになれるように、私たち1人1人、そして社会全体で考えていかなければいけないということですね。

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