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2019年5月29日(水)

カスタマーハラスメント!客の暴言で心が壊される

カスタマーハラスメント!客の暴言で心が壊される

暴言や土下座の強要など、客からの悪質クレームや迷惑行為 “カスタマーハラスメント”を取り上げる第2弾。スーパーや飲食店などの事例を紹介したところ、交通機関、介護現場などからも、恒常的に被害に遭っているとの声が多数寄せられた。バスやタクシーの業界ではその密室性から暴言やセクハラを受けやすく、精神的に追い詰められ退職する運転手があとを絶たないという。介護現場では利用者に加え家族からもハラスメントを受けるケースが相次ぎ、厚労省も調査に乗り出している。なぜ “カスハラ”が繰り返されるのか。さまざまな被害の現場や、元加害者への取材などから、不安定な社会に生きる現代人の負の側面が見えてきた。人材の流出を促し、人手不足に苦しむ社会を直撃するカスタマーハラスメント。その深層と対処法を掘り下げる。

出演者

  • 石井光太さん (作家)
  • 宮田裕章さん (慶應義塾大学教授)
  • 武田真一 (キャスター) 、 高山哲哉 (アナウンサー)

カスタマーハラスメント!客の暴言で心が…

番組で取り上げてほしいと寄せられた、カスタマーハラスメント被害の声。中でも目立って多かったのが、介護の現場でした。

西日本にあるグループホームで働く、山本さん(仮名)です。

利用者からのハラスメントは日常茶飯事。前歯を折られたこともあるといいます。さらに…。

山本さん
「私たちがもっと精神的にダメージを受けるのは、利用者さんからよりも家族からのハラスメント、言葉の暴力のほうがもっと痛いですね。」

ある日、入所する高齢の女性の息子から、山本さんに電話がありました。「仕事が忙しいので、サービスとして母親の着替えを毎朝、家まで取りに来い」というのです。

山本さん
「『そういうことはできないんですよ』とお話しをしたんですけど、『じゃあ、いつまでも汚いのを着とけというんか、お前らは』って。」

さらに息子は、母親を施設から外食に連れ出す際に、こう言い出しました。

山本さん
「『終わったら連絡するから、そこの店まで迎えに来てよ』と言われて、『え?』と。『車がないから、ちょっと何時になるかわからないけど』『ついでにうちの家に回って、僕だけ先に降ろして、母親連れて帰ってくれたらいいから』。」

この施設では、送迎サービスを行っておらず、資格を持たない山本さんが利用者などを送り迎えすると違法行為になります。そのことを説明すると…。

山本さん
「『はあ?』という、急に激怒されましたね、本当に。『それぐらいして当たり前なんじゃないの?料金払ってるじゃん』『お前バカじゃないの?』と言われましたね。」

最近では、ほかの家族からも、グループホームでは対応しきれない過剰なサービスを求めるケースが増えているといいます。

山本さん
「『私たちのお金で、あんたたちは生活しているんでしょ』って、平気で言う方もいらっしゃいますし、人として扱ってくださらない方もいらっしゃいますし、どんどん、やっぱり悲しくなってきますよね。やりがいを感じられなくなってきている。」

今年(2019年)国が行ったアンケートでは、訪問介護に携わる人のおよそ半数が、身体的・精神的な暴力を経験。そのうちの半数が、利用者の家族からも繰り返しハラスメントを受けていました。

こうした状況が、福祉業界からの人材流出に拍車をかけるという事態まで引き起こしています。

熊本県ホームヘルパー協議会 高橋宏典会長
「介護の現場としては、非常に困惑している。今どこも人手不足なので、新しく次の方が入ってくることも見込めない。」

運輸業界も、深刻なカスタマーハラスメントに悩まされています。路線バスの運転手、鈴木さん(仮名)です。今年3月、乗客から執ようなハラスメントを受け、精神疾患の診断を受けました。

鈴木さん
「夜になって寝ようと思っても、なかなか思い出して寝られない。あの時に受けた記憶、それが戻ってくる。」

その日、鈴木さんはいつもと同じ路線を走っていました。すると突然、後ろの座席に座っていた男性が、鈴木さんの真横にまで歩み寄ってきました。そして…。

鈴木さん
「『運転があらい、ブレーキがきつい』。一方的な攻撃をされているような感じ、聞かないようにはしていても、どうしても耳に入ってくるし、そういうような状況がずっと続いていた。ほかのお客様の乗車、降車等も確認しなきゃいけないし、やはり精神的に事故になってしまうんじゃないかと恐れがあって。」

クレームは、それで終わることはありませんでした。営業所に戻った鈴木さんに電話が。相手は、先ほどの乗客。

電話口で鈴木さんがいくら謝罪しても納得せず、数時間後、営業所に押しかけてきたのです。会社から直接対応することを指示された鈴木さん。乗客から罵声を浴びせられ続けました。

鈴木さん
「『ここ最近では、お前が一番ワーストで運転が下手だ』と。『こんなこと言われて恥ずかしくないのか』と。謝って、その場を切り抜けるしかないと思っていたので、ひたすらに謝っているだけでした。」

さらに、カスタマーハラスメントがきっかけで職を失った人もいます。タクシードライバーをしていた、佐藤さん(仮名)です。

ある日、佐藤さんは若いグループ客を乗せました。乗車したのに、若者たちははっきり目的地が決まっていない様子。佐藤さんは思わず、「目的地を決めてから乗るようにしてください」と言ってしまいました。

佐藤さん
「サービス業だから、やりとりのやり方にも気をつけなきゃいけなかったけど、どうしても忙しいときはね。やっぱりそういうところが、ちょっとできなかった。」

その数時間後でした。ネット上に佐藤さんの名前と顔写真がアップされているのを、会社の担当者が見つけます。

その会社の車には乗らないように、と呼びかける文章とともに拡散していました。

佐藤さん
「『運転手のサービスが悪い』ということを全国へ流しちゃったわけですからね。もう(タクシーに)乗ることはできないわけですよ。」

結局、会社を辞めざるを得なくなったという佐藤さん。顔と名前がネットにさらされ、その後もタクシー業界で仕事が見つかりません。

佐藤さん
「本当に行き詰まった。生活できない。考えもつかなかった、ネットに流されるということは。あそこまでやるかなと思った。」

ネットを使った客からのカスタマーハラスメントは、バス業界でも多発しているといいます。

バスの運転手
「自分の思いどおりにいかなかっただけで、それをツイッターにのせられちゃうと、ひとりの運転手の人生が全部狂っちゃう。」

「今は弱いところをたたく風潮になってきて、それに対して、萎縮してしまったりとか、そういうところも出てきて、全部が負の方向に行っている。」

深刻化するカスタマーハラスメント。その背景に何が。

武田:介護サービスの枠を理解していない理不尽な要求であったり、運転を妨害するような悪質で危険な行為ですよね。去年(2018年)も、この問題を取り上げたんですけれども、ここまで来ているのかというふうに思いました。

高山:ますますエスカレートしている印象を受けます。
クレームには、消費者が伝えるべき正当な意見があります。一方で、悪質な犯罪に近いものが「カスタマーハラスメント」=「カスハラ」と言われるものです。中には「土下座しなさい」と執ように迫る、強要罪に問われる可能性があるものですとか、あるいは、お金を要求する、慰謝料を要求する、脅迫罪や恐喝罪に当たるものまで出始めているんです。こうしたカスハラは、流通サービス業で7割の人が経験しているというデータもあります。しかし今、流通サービス業以外でも、介護、運輸、交通の業界でじわじわと広がりを見せ続けているんです。

ゲスト 宮田裕章さん(慶應義塾大学教授)
ゲスト 石井光太さん(作家)

武田:こうしたカスハラによって不快な思いをするだけではなく、心を病んだり、あるいは職を失う人まで出ているとすると、これは何とかしなければならないと思います。そこで、なぜカスハラが横行してしまうのか、ゲストの宮田さん、石井さん、そして、こちらの専門家の方々の見方も交えて議論していきたいと思います。

宮田さんは医療福祉政策がご専門でもありますが、そうした現場では、この問題をどう捉えられているんでしょうか?

宮田さん:医療の分野では、2000年代の初め、患者さんを「患者様」と呼び換える運動がありました。ただ、「『患者様』という呼び方は、ハラスメントを助長するんじゃないか」という意見も上がり、実際に調査したところ、ある調査では、患者さん側がそういう呼び方は求めていないという結果も示されました。医療は公共財の側面もあるので、医療者と患者さんが医療を作り上げていくということで、今、少なからずの病院が「患者さん」という呼び方に戻し始めています。一方、介護では、最近、大きく問題視されるようになっています。この一年、労働組合や厚生労働省が、相次いで数千人規模の調査を行ったんですが、結果として示されたのが、この1年の中でカスタマーハラスメントを受けた方の2〜4割が離職を考えたということで、現場の方々がやりがいを持って働く上でも、非常に重要な問題であると考えられます。

武田:大事な仕事が成り立たなくなる可能性もある深刻な問題ですよね。

高山:専門家が考える背景をご紹介していきたいと思います。
まずは、労働社会学がご専門の阿部教授です。「企業がお客様の存在を強く意識するがあまり、消費者の存在感が増し、逆に働く人や働き方への想像力が薄れてきている。労働組合の弱体化もその一つではないか」。

それから、「低成長時代が影響している」と指摘するのは、精神科医の片田珠美さんです。「昔に比べて所得がなかなか上がらないために、消費者のコスパ意識が高まってきている。そのために、対価以上のサービスが提供されるべきだという考え方が広がっているのではないか」。

武田:社会の状況が変わっていることが背景にあるという見方ですが、石井さんはどういうふうにお考えですか?

石井さん:僕も、実際に働いてクレームを受けた方々に取材をしたんですけれども、そのときに感じたのが、仕事格差みたいなものが世の中にあるのではないのかなということだったんです。クレームを受けたお店の方に聞くと、例えば、高級レストランはクレームをつけられないのに、コンビニだとつけられる。あるいは大学病院だとつけられないのに、訪問介護だとつけられる。レストランだとつけられないのに、ファストフードだとつけられると彼らは言っていたんです。「自分たちはものすごくいじめられているんだ」「社会の中ですごくいじめられている立場にあるんだ」と言うんです。それって確かに、社会の中の弱い立場の人たちを強い者がいじめるとか、あるいは弱い人がまたさらに弱い者をいじめるといった構図があるんじゃないかな。恐らく、無意識のうちにそういったようなものが成り立ってしまっている部分もあるんじゃないのかなというふうに思いました。

武田:いじめや虐待と同じような構図が見えてくるということですか。

高山:今回、かつてカスハラを繰り返していたという人物に話を聞くことができました。なかなか先が見えない状況の中から見えてきたのは、心の空白でした。

カスタマーハラスメント!元クレーマーの告白

都内に住む、堀さん(仮名)50歳です。一時期、病院やコンビニなどでカスタマーハラスメントを繰り返していたといいます。

堀さん
「『ちょっと違うだろう』ということに、攻撃モードが自分の中に入るので、正論を振りかざすじゃないですけど、当然、責める強い口調になったりとか、深い責めになってしまう。」

例えばコンビニで、少しでも店員の接客態度が気に入らなかったり、手際にミスがあると、その場で長々と抗議。

それでも納得がいかない時は、家に帰って、コンビニの本部に、店名と共にクレームのメールを入れました。

堀さん
「本部へのクレームメールというのは、お店からするとダメージ大きいんですよ。結構、大騒ぎになるので。」

高山:何で繰り返してしまったんでしょうか?

堀さん
「自分の言っているクレームの正当性が認められたと。認められるというのは、ある意味クセになるんですね。日常の中では、満たされない欲求だったんでしょうね。」

実は、堀さんもかつて、コンビニのオーナーとして働いていました。しかし、重い病を患い、失業。そのころから、自分は周りから見下されているのではないかという思いを抱くようになったといいます。

堀さん
「自分の中の閉塞感が、周りから評価を得て自信をつける必要がある。自分が優位に立てる立場で虚栄心を満たそうと。自分の心を満たそうと。」

今は反省しているという堀さん。当時を振り返ると、いくら他人を責めても心が満たされることはなかったといいます。

堀さん
「相手をやっぱり根底的には責めているものですから、非常に自分の中では罪悪感というか『ああ、また言ってしまった』と、罪悪感は残りますね。」

あなたはカスタマーハラスメントの加害者になっていませんか?

カスタマーハラスメント!客の暴言で心が…

高山:お話を伺った堀さんは、その後、病気のことを何でも相談できるお医者さんに出会えて、就職もできてから、カスハラをしてしまった自分を客観的に見られるようになってきたと。

武田:私は決して、こういった行為をする人たちを擁護したくはないんですが、「周りから見下されているのではないか」といった不満が背景にあるということは、やはり見つめていかなければいけないのかなと思いました。石井さんは、どうですか。

石井さん:実際にクレームをつけた人の何人かに取材をしたんですけれども、共通するのは、複合的な問題を抱えているということでした。例えば、社会的なマイノリティーに生まれて、差別を受けて、いじめを受けて、仕事もうまくいかず、家庭もうまくいかず、精神疾患を抱える。こういう人たちに共通するのは、自分でどうしていいか分からない、解決策が分からないんです。そして、もんもんとしたものを抱えてしまう。それを社会にぶつけないと気が済まないから、ぶつけてしまうんです。ただ問題なのは、彼らはぶつければ全てが解決すると思うんですけれど、根本的にある問題は何も解決していないんです。だから、またもう1回ぶつけてしまう。また解決しないから、もう1回ぶつけてしまう。本人もつらいんですけれど、それをやり続けてしまう。つまり、1回だけクレームを言う、普通に文句を言うことと、それが何回も何回もやってしまうことによって連続したクレーマーになってしまうということ、また違う部分があると思うんですけれども、そうやってクレーマーは成り立ってしまっているのではないのかなと。問題の根本的な解決は、本人が抱えている複合的な問題をどうするかというところが重要なんじゃないのかなと思っています。

高山:心の中に開いた空白が埋まらないから繰り返してしまうということですが、取材して印象的だったのは、高齢者にも心の空白があるということでした。

座談会を行ったバスの運転手の皆さんは口々に、「カスハラは高齢者の方が目立つ」とおっしゃっていたんです。このことに詳しい方にお話を聞いてきました。社会心理学がご専門の池内裕美さん。民間企業のお客様相談室では、苦情を寄せる人の特徴として、高齢男性を挙げた人が最も多い。リタイアした後も現役感が残って、権威をかさにきて、ものを言う傾向がある」。

精神科医の片田さん。「知恵も経験もあるのに必要とされないという、リタイアしたシニアが抱く疎外感を『シルバーモンスター現象』」というふうにおっしゃっていました。

武田:高齢化社会が背景にあるんじゃないかという話ですけれども、宮田さんはどういうふうにご覧になりますか?

宮田さん:高齢化社会の中で、全体の分母としてのシニア人口も増えているので、一概にこの点だけとは言えないと思いますが、「心の空白」だったり、低経済成長、低賃金社会といった、さまざまな問題が複合して起こっていることが考えられます。ただ、ここで一点注意しなくてはいけないのは、問題の源流だけを対策すればいいというわけではないと。例えば企業の視点で言えば、労働者を迅速に確保したいという方向を重視すると、低賃金労働でも納得してくれる外国人労働者を確保しようということだけが先行しがちになるんですが、その対策だけをやって、現場で働く人々のリスペクトを欠いてしまうと、この問題が人種問題をはらんで、格差だったり、あるいは差別という、さらに深刻なものになっていってしまうだろうと。やはり、労働の価値を高めて、働く人々がリスペクトされて、安心して充実した環境で働くことができる、こういったことを真正面から取り組むことも必要なんじゃないかなと思います。

武田:今、まさに従業員を追い詰めるカスタマーハラスメントにどう対処すればいいんでしょうか。各企業がさまざまな取り組みに乗り出しています。

カスタマーハラスメント!客から社員を守れ

都内にあるタクシー会社の新人研修です。

「(客の態度が)あまりにもひどい場合は、『運行を中止させていただきます。降りていただきます』きぜんとして言わせていただきますよ。」

この会社では、急増するカスタマーハラスメントを受け、3年前から、悪質な乗客には、きぜんとした態度を取るよう会社の方針を変えました。きっかけは、4年前に行ったアンケートでした。深夜勤務に当たる女性ドライバーのほとんどが、乗客から暴言やセクハラなどの被害を受けていたのです。人手不足の中、積極的に採用していた新卒の女性ドライバーが、次々、辞めていきました。
入社5年目の岡本望紗さんです。

岡本望紗さん
「(乗客から)すごく見下されて、人格否定までされるような、結構ひどいことまで言われたことはあります。(同僚の)女性ドライバーで、お酒で酔っている男性のお客様に後ろから抱きつかれてしまった。それが怖くてトラウマになって(会社を)辞めてしまったという人がいます。」

日本のタクシー業界では、一度乗せた客は、目的地まで送り届けるというのが原則でした。しかし、このタクシー会社では、昭和28年以来の約款を変え、目に余る迷惑行為があれば、途中で降ろしてもかまわないというルールを設けました。それを乗客にも通知することでハラスメントは減りました。

女性ドライバーの離職率も下がり、結婚した岡本さんは、将来、子どもができた後も、ここでドライバーとして働き続けたいといいます。

岡本望紗さん
「何かあったときには約款によって会社が守るよというふうにしてくれているので、ドライバーたち1人ひとりのことを考えてくれて(約款を)変えたんだな。」

この会社の取り組みがきっかけとなり、関東の400余りのタクシー会社が同じ仕組みを導入。全国にも広がっています。

国際自動車 西川洋志社長
「『お客様は神様です』と当たり前のように言っていた時代と、今、少しずつ変わってきているようなところがあって、業界の中を変えることによって、若い人たちが、そこへ一歩踏み込んでくれるような、そんな環境を作らなきゃいけない。」

高山:カスハラ対策にはこんな動きもあります。厚生労働省の調べによると、運輸業では、弁護士との連携や警察に通報、介護業では、契約を解除するという措置などにも乗り出しています。そして中小企業の中には、顧客や取り引き先に「きぜんとした態度で問題が減少した」という報告もあるんです。

ポイントは、「従業員1人に背負わせない」。企業の問題として受け止め、例えば上司に相談して一緒に対応するなど、労働者を守ろうという動きが出始めているんです。

国も、厚生労働省が今年度中に企業の取るべき対策について指針をまとめたいとしているんです。

武田:カスハラを防ぐ具体的な取り組みはどんなことが考えられるんでしょうか?

宮田さん:介護の現場では、プライバシーに配慮して映像データを使うことによって、カスハラだけではなくて、虐待の防止も期待されています。

武田:映像に撮るということですね。

宮田さん:そうです。これに加えてAIを活用することで、介護の価値を客観的に評価できるようになってきました。今まで日本は、介護の質ではなくて提供量で評価してきたんですが、これだけで見ると、よいサービスが評価されない、やりがいが感じにくい、あるいは受け手側は、お世話をするという側面が強調されて低く見られるという課題があったんですが、例えばサービスが自立度に貢献できたのか、その人の生き方や大事にするものにどう貢献できたのか、こういうことを評価することによって、よいサービスが現場で報われるような形でお返しする、待遇を改善することができるんじゃないかということを、今、行政ともお話しています。人生を支える重要なパートナーとして、日本が誇るべきサービスの価値は介護だけではないんですが、これを高めていくことは、カスハラの抑止を含めて、現場で働く人たちの誇り、未来につながっていくんじゃないかと考えています。

武田:さまざまな技術でサービスの質を高めることで、誇りを高め、カスハラも減らせるんじゃないかと。

石井さん:僕はあるバスの運転手から「すごく過剰かもしれないけれど、いいサービスをしているのは社会のためなんだ」と言われました。例えば、時間をきちんと守ってバスを運行する。あるいはコンビニであれば、社会インフラとして一生懸命頑張る。彼らが言っていたのは、「安月給でも頑張っているのは社会のためにやっているというプライドがあるからだ」と。僕たちはそのプライドを尊重しなきゃいけないと思います。クレームは、それを壊してしまうものです。でも、ある運転手は「僕はやはり、昔はクレームを言う人がいても、必ずバスを降りるときに『気にするな』とか『あいつはちょっと嫌なこと言ったけど大丈夫だよ』というふうに言ってくれる、そのひと言で救われた」と言っていました。会社とか政府に任せるのではなくて、僕たち、現場にいる地域住民として、そういったひと言によって、働いている人たちを支えることが重要なんじゃないのかなと思っています。

武田:そういった声で、カスハラの罵声を聞こえなくすることもできますよね。

石井さん:場合によっては消すこともできるということですよね。

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