クローズアップ現代

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2019年3月13日(水)
早く治ってパワーもアップ!? 注目のちょこっと電流

早く治ってパワーもアップ!? 注目のちょこっと電流

感じられないほど微弱な電流が、治療やスポーツの世界を一変させようとしている。腕や足などに流すと、筋肉の疲労回復が早まり、肉離れやねんざなどのケガがより早く治ることが明らかになりつつある。さらに、アメリカで開発された別のヘッドホン型の機器を装着し、脳の運動野に電気刺激を与えてトレーニングすると、神経細胞の信号伝達を強化するという。「パワーや瞬発力が向上する」と、世界記録保持者やプロアスリートで利用が拡大している。こうした動きに対し、「新たなドーピングでは?」「効果は慎重に見極めるべき」という声も上がり、ルールなき普及に懸念も広がり始めている。急速に利用が進む新技術に迫る。

出演者

  • 大野智さん (島根大学 教授)
  • 石井光太さん (作家)
  • 小林航太さん (「みんなで筋肉体操」出演者/弁護士)
  • 武田真一・鎌倉千秋 (キャスター)

痛みが和らぎ ケガが治る!? 注目のちょこっと電流

100m走で日本初の9秒台をたたき出した、桐生祥秀選手。

その肉体を支えてきた、トレーナーの後藤勤さんです。

来年(2020年)の東京オリンピックでも活躍が期待される桐生選手の体のコンディションを整えるのに欠かせない方法があるといいます。「マイクロカレント」と呼ばれる、体にほとんど感じない微弱な電流を使う方法です。

日本オリンピック委員会 強化スタッフ トレーナー 後藤勤さん
「実際に肉離れなんかは、ちょうど患部に電極のパッドを貼って、これで微弱電流が流れて痛みを軽減する。マイクロカレントが登場して、これを当てて、この上にアイスパック当ててバンテージを巻く(応急)処置をするのが、最近のスタンダードになっている。」

後藤さんは、微弱な電流を流すようになって、桐生選手の疲労回復やケガの治りが早くなったと感じています。

日本オリンピック委員会 強化スタッフ トレーナー 後藤勤さん
「マイクロカレントを当てることによって、治療が早まったと感じたことは何度かある。トップアスリートの治療(ケア)には、欠かせないものになっている。」

この微弱な電流の効果。スポーツ医学の専門家も注目しています。アメリカンフットボール日本代表のチームドクターを務める、藤谷博人教授。

藤谷さんも、マイクロカレントを使うことによって、選手のケガの回復が早くなったことに驚いたといいます。

聖マリアンナ医科大学 スポーツ医学 藤谷博人教授
「マイクロカレントをやった方が、何でこんなに(治療が)早いのかなと、本当に驚いた。一般の、今までの知識とは違う。非常に価値があると思った。」

なぜ、マイクロカレントはケガの回復を早めるのか。藤谷さんは、筋肉にダメージを受けたマウスの足に微弱な電流を流し、回復の過程を詳しく調べました。その結果、筋肉の修復を促進する、ある細胞に大きな変化が見られました。筋肉細胞の隙間にあるピンク色の点、筋衛星細胞です。

肉離れなどで傷ついた筋肉細胞の修復には、これが使われます。筋衛星細胞の数は、微弱な電流を流さなかった時に比べ、2倍近くも増加。これが、ケガの回復を早めたと考えられるといいます。

聖マリアンナ医科大学 スポーツ医学 藤谷博人教授
「マイクロカレントが筋損傷の修復を早くすることが、動物実験で証明できた。臨床、スポーツ現場の方にもフィードバックして、こういうこと(マイクロカレント)が使えると、エビデンス(根拠)を広めていきたい。」

今月(3月)行われた、東京マラソンのイベント会場。マイクロカレントを使った体のケアは、身近なところにも広がろうとしています。大手医療機器メーカーの展示ブースに人だかりが出来ていました。お目当ては、発売されたばかりのこの装置。マイクロカレントが搭載されています。

大手医療機器メーカー 浅井義人プロダクトマネージャー
「マイクロカレントは、トップアスリートの方がご自身のコンディショニングに使っている。そういった技術を一般の方にも使っていただけるようにと企画した。」

1回30分ほど装着し、繰り返し使っていくと、効果が期待できるといいます。

来場者
「マラソンを走ったあととか、ジョギングのあととか、激しい運動のあとに良さそう。」

「自宅でケアできるのはすごくいい。」


ゲスト 石井光太さん(作家)

ゲスト 大野智さん(島根大学 教授)

ゲスト 小林航太さん(「みんなで筋肉体操」出演者/弁護士)


武田:本当に微弱な電流が、これほどの効果があるんじゃないかと期待されている。どうご覧になりましたか?

石井さん:この治療の分野は、ものすごい市場ですよね。多分、膨大なお金が投入される市場だと思うんです。先ほどもVTRでありましたけれども、効果期待できるというところはまた微妙なところで、本当にそうじゃなければ、例えばこの番組によって、無意味にこうした市場を広げてしまう可能性もあるわけですよね。そこはやっぱり気を付けて見ていきたいなというふうに思ってます。

武田:最新の医療の動向に詳しい大野さん。効果が本当にあるのかどうか、その辺り、どこまで分かっているものなんですか?

大野さん:効くか効かないかっていうのは、最終的には臨床試験という形で検証しないといけないんですけれども、現時点では、まだ小規模の臨床試験であったり、症例報告というような形での研究結果がほとんどというような状況ですので、トップアスリートでは実際に体感できている方がいらっしゃいますけれども、一般の方が、あるいは高齢者の方が使ったら、どういう結果が得られるのかという点については、まだ情報は不十分というふうにご理解いただけたらとは思います。

武田:マッサージなどで使う電気治療器具は昔からありましたが、それと、このマイクロカレントはどう違うんでしょうか?

大野さん:まず、その機械の仕組みからすると、流れている電流の強さが大きく異なります。マイクロカレントは、本当に微弱な電流であるということが1つ大きな違い。あともう一つは、そのメカニズムとしても、治療用の電気治療器は、筋肉の収縮と伸展を繰り返して血流を改善し、痛みを改善するといったさまざまな効果が認められている一方で、マイクロカレントは、筋肉が収縮するということではなくて、電流が流れている部分の細胞に直接刺激を加えることで、何かしらの効果を発揮すると。ただ、そのメカニズムもまだ研究途上の段階だというふうにご理解いただけたらと思います。

鎌倉:微弱な電流でケガを治すという研究の最先端では、こんなものも開発しているんです。石井さん、これ何だか分かりますか?

石井さん:金ぱくですか?

鎌倉:これは「電気絆創膏」なんです。アメリカのウィスコンシン大学が開発中のものを特別に借りてきたんですが、これを、ケガをした指などに貼っておきますと、指が動く度に、この特殊な金色の金属が動いて、ちょこっと発電するんです。

ちょこっと電流でケガを早く治す未来の絆創膏ということで、動物実験では、ケガの治りが4倍も早くなったという結果も出ているそうなんです。さらに、微弱な電流は、ほかにもさまざまな症状に対する機器が開発されています。

海外で家庭用の医療機器として承認されているものなんですけれども、頭につけて、頭痛に効果があるとするものだとか、腕につけて吐き気を止めるもの、慢性痛を和らげる製品などもあります。

武田:これだけいろいろ広がっていますが、石井さんはどう思いますか?

石井さん:いやあ、怪しいですよね。どこまで効果あるのかが、僕は知りたいですね、きちんと。

武田:微弱電流はなぜ、こんなにブームになっているんですか?

大野さん:微弱電流の研究そのものが注目され始めたのは、ここ10年ほど。その中で、さまざまな臨床的な効果の報告が出てきたことと、あとメカニズムについても、一部それを裏付けるようなデータが出てきつつあるということ。その中から、一般の方にもだんだん普及してきたという背景があるかと思います。

武田:それなりに根拠はあると?

大野さん:徐々に蓄積されていきつつあるというようなことだと思います。もう一つ、痛みというところに焦点を当てていきますと、米国などでは、痛みに対する医薬品の乱用が社会問題化していますので、お薬に替わるもう一つの手段として、この機器の研究を進める後押しにもなっているということは言えるかと思います。

鎌倉:この微弱電流なんですけれども、もう一つ、全く違う技術も登場しているんです。注目しているのは脳です。そもそも人は、脳から弱い電気で命令を筋肉に伝えて動いているんです。小林さんの筋肉を動かしているのも、脳からの電気の力なんです。そして、この脳からの電気を強化できるというのが、こちらの装置。小林さん何か感じますか?

小林さん:(筋肉で応える)

筋力もスピードもアップ!? 注目のちょこっと電流

持ち上げるバーベルの重さを競う競技、パワーリフティングの選手、エミリー・フーさんです。

3年前、エミリーさんは、ベンチプレスという種目で125kgを持ち上げ、世界記録を樹立。いまだ、その記録は破られていません。エミリーさんが今、トレーニングで手放せないのが、こちら。微弱な電気で脳を刺激する、ヘッドホン型の装置です。頭に接する側、イボイボの部分から電気が流れます。

脳に電気刺激を与えることで、トレーニング効果が高まるというのです。

取材班
「どんな感じですか?」

パワーリフティング選手 エミリー・フーさん
「頭皮が少しピリピリするだけです。」

エミリーさん、2年ほど前から練習にこの装置を導入。すると、何年もの間、伸び悩んでいたスクワットの記録が30kgも向上したといいます。

パワーリフティング選手 エミリー・フーさん
「スクワットの限界は132キロでした。電気刺激で163キロまで上がりました。ベンチプレスの世界記録も必ず更新します。」

劇的に記録が伸びたのは、本当に電気刺激装置を使ったおかげなのか。装置を開発した、ダニエル・チャオさんです。

スタンフォード大学などで脳科学を研究してきました。電気刺激が、脳の「運動野」と呼ばれる場所を活性化することが、記録向上の秘密だといいます。

ヘイローニューロサイエンス社 ダニエル・チャオCEO
「運動野は運動の学習にとって重要な役割を果たします。だから私たちは、脳の運動野を(電気刺激の)標的にしたのです。」

体を動かす時、脳の運動野から出された電気信号が筋肉を動かします。しかし、疲労すると、その信号が弱まり、筋肉が十分に動かなくなります。そこで、運動野に電流を流し、細胞を活性化。その結果、電気信号が強まり、筋肉の動きが持続するというのです。20分間の電気刺激のあと、装置を外しても、1時間ほど脳は活性化したままだといいます。そのため、ハードな練習をより長く続けられるようになり、トレーニング効果が高まるのです。スキージャンプの選手がこの装置を使って3週間トレーニングした結果、ジャンプの力強さが30%近く上昇。アメリカンフットボールの選手は、4週間で垂直跳びの記録が20cmも伸びたといいます。

ヘイローニューロサイエンス社 ダニエル・チャオCEO
「今は一部のアスリートが電気刺激をトレーニングに取り入れていますが、将来的には、電気刺激トレーニングはアスリートにとって一般的になるでしょう。」

一方で、こうした脳への電気刺激の効果は、慎重に見極めていくべきだと指摘する研究者もいます。スポーツ脳科学が専門の荒牧勇教授です。

去年(2018年)脳への電気刺激の効果を検証しました。その結果、電気刺激がない場合、ジャンプを繰り返すと、疲労によって記録が低下したのに比べ、電気刺激を行うと、記録の低下を食い止められることが分かりました。

中京大学 スポーツ科学部 荒牧勇教授
「脳への電気刺激をした場合、(記録が)落ちていく度合いを食い止めた。一定の効果があるとみていい。」

しかし今回、海外の研究で示されていた、記録の向上は認められませんでした。

中京大学 スポーツ科学部 荒牧勇教授
「脳への電気刺激自体の効果があるかどうかというのは、可能性があるという段階で、これからもっとたくさんエビデンス(根拠)を積んでいって、強い証拠にしていかないといけない。」

鎌倉:VTRでご紹介した脳への電気刺激は、「tDCS(経頭蓋直流電気刺激)」というものです。もともとは、脳卒中で脳がうまく働かなくなった患者さんのために研究されてきたものです。VTRのあの装置は、日本ではまだ医療機器として認められてはいませんが、日本臨床神経生理学会は、このtDCSについて「3ミリアンペアで30分以内の利用であれば、安全上問題はない」としています。今、アメリカンフットボールやメジャーリーグの選手たちが使用して、結果を出しているそうなんです。

武田:効果の程はともかくとして、電気の力でパフォーマンスを上げる。これ、石井さんとしては「あり」ですか?「なし」ですか?

石井さん:僕は、いわゆる人間ドラマを書くノンフィクション作家としては、「なし」です。はい、面白くないです。例えば、今のオリンピックのメダルを取っている上位10か国でメダルの半分以上を取っているんですよね。いわゆる全部、先進国なんですよ。でも、それって個人的にはあんまり面白くなくて、昔、オリンピックで、アベベという人は裸足で走って金メダルを取ったり、そんなことありえるのかってなるわけです。あるいは、浅田真央ちゃんがあそこまでやって取れなかった。でも、そこにドラマがあるわけですよね。そういったドラマをやっぱり消してしまうという傾向であることは間違いないので、そこに関して、僕は面白くないなとは思っています。

鎌倉:科学雑誌の「ネイチャー」は、こんな記事を出しています。脳への電気刺激が「ブレインドーピングではないか」という指摘。

武田:脳に直接電流を流すのは安全だという話がありましたけれども、本当に大丈夫なんですか?

大野さん:一回限りで使う、あるいは数回単位で使う分には、恐らく安全性には問題がないと理解していただいていいと思うんですけれども、これを例えば数か月、あるいは数年間使い続けることによる弊害というのは、可能性としてはまだありうると思いますので、その点は、ぜひ慎重に考えていただきたいなとは思います。

武田:脳の電流が弱くなるというのは、結局、筋肉が疲れすぎないようにするための自己防衛本能ですよね?

大野さん:おっしゃる通りで、もともと人間が備えている安全装置のようなものを外してしまっている可能性も否定はできないと思うんですよね。そういうことによって、何かしら将来的には不都合が、その方に起きてくることも可能性としてはありうるものかなと思います。

武田:それでも勝ちたい!というドラマはどうですか?

石井さん:経済的には面白いでしょう。やっぱり、それを作る産業としてはね。ただ、人間ドラマとしては、僕はあんまり面白くはないなと思います。

鎌倉:スポーツは自分には関係ないと思っている方もいらっしゃるかもしれませんけれども、勉強の成績を上げたいという理由で、脳への電気刺激を使い始めた人もいるんです。

お手軽機器で成績アップ? 注目のちょこっと電流

大学への進学を目指す、山田さんです。1年前に会社を退職し、今は受験勉強に専念しています。

苦手な数学の成績を上げたいと、脳への電気刺激装置を使い始めました。

山田さん
「オックスフォード大学が、tDCSという電流を流すことによって、数学の能力が向上するというネットの記事を見て、僕、数学が本当に苦手で、克服したいという気持ちがあったので買った。」

こちらが、山田さんが参考にした、オックスフォード大学の研究論文です。

微弱な電気で刺激するのは、ストレスを抑制する働きを持つ、脳の「DLPFC(背外側前頭前野)」と呼ばれる場所です。数学に苦手意識を持つ被験者たちに電気刺激を行って、数学の問題を解いてもらい、その反応時間を測定しました。すると、電気刺激を行う前と比べて、問題を解く時間が短縮。

研究者らは苦手科目の成績向上に有効だとしています。山田さんが装置を使い始めて3か月。数学の成績にまだ変化はありませんが、勉強に前向きに取り組めるようになったといいます。

山田さん
「憂鬱になるときが減ったような気がする。自信がつくというか、前に進もうという意思が強くなる気がする。来年に向けて、希望を持ってやっていきたい。」

武田:受験シーズンですから、これ欲しいなと思う人も多いと思うんですけれど、石井さんどうですか?

石井さん:効果がないということであれば、偽薬ですからね。ただ、先ほど先生がおっしゃっていたように、今、何十回やっても安全かどうか分からないんですよね。でも、こういったものが市場に出れば、当然やる人は何十回、何百回、何千回とやるんですよ。一般に出回ってしまうと、それを止めることはできない。そこにものすごい怖さがあるなというふうに思っています。

武田:本当に効果があるかどうかは、実は異論もあるんですよね?

鎌倉:実は、VTRでご紹介した論文には一方で、数学がもともと得意だったと思っている人は、逆に成績が落ちたということも書かれていまして、まだ臨床研究を重ねている段階にあるんです。

武田:得意だと思っていた人は逆に成績が落ちるというのは、どういうことなんでしょうか?

大野さん:そもそもの話として、脳科学というのがまだ分からないこともたくさんあるという領域になっています。ですので、今回たまたまこういった結果が得られたとしても、同じような研究を行っても、次は違う結果が出るかもしれないという、まだ、そういった危うい状況だと、不確実な情報なんだということで、ご理解いただけたらと思います。

鎌倉:微弱電流は今、確かにブームになりつつあるんですけれども、インターネット上に、乾電池など、身近な材料で電気刺激機器を自作してしまうという人たちが現れていまして、間違えて強い電流が流れて感電だとか、やけどの事故というのも報告されています。

大野さん:自己責任で済むような話ではないと思います。この番組を通じて、自作して行うというのは、ぜひ、やめていただきたいなというのは、声を強くして言いたいと思います。

石井さん:これからは、こういうのってルール作りはしなきゃいけないんですけれども、ルール作りをしようって言ったって、なかなかできないですよね。インターネットと同じように、一回始めてしまうと、もうルールなんてないような世界の中で生きていかなきゃいけない。そういった危険があるということを、私たちは考えた上で使わなきゃいけないのかなと思っています。

武田:そして、小林さん、どうご覧になりました?

小林さん:本当に期待を裏切らない技術になるかどうか、これからに注目したいですね。