クローズアップ現代

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2019年3月7日(木)
今も10万か所以上 除染ごみがなくならない

今も10万か所以上 除染ごみがなくならない

福島県には、原発事故から8年が経つ今も民家の軒先や駐車場などに、緑色のシートに覆われた除染ごみが「現場保管」されている。当初は速やかに対処するとしていたが、10万か所以上残ったままなのだ。さらに国の方針の県外での最終処分のめどがまったく立たない中、国は放射性物質の濃度が一定基準を下回った除染ごみを、道路や防潮堤の建設資材などに「再生利用」する方針を打ち出したが、地元から反対の声が上がっているのだ。原発事故から8年の現実をルポする。

出演者

  • NHK記者
  • 武田真一 (キャスター)

除染ごみ10万か所以上 なぜなくならない?福島からの訴え

先週、福島を訪れた私は原発事故から8年の現実を突きつけられました。

武田:あっ、庭先に見えました。そこにもありますね。家の駐車場の中に。あっ、あそこにもあります。ここにもありますね。これ、相当な量が積まれています。

除染で出た廃棄物、除染ごみです。住宅の軒先や校庭など、暮らしの中に大量に残っていました。除染ごみがこのように現場保管されている場所。県内全域で、今も10万か所を超えていることが、先月(2月)公表されました。

住民
「すぐ持っていくんだろうなと思っていたんだけど、なかなか持っていかないんだよね。」

原発から60キロ離れた福島市内。歩いていると、自宅の駐車場に除染ごみが置かれたままになっているという女性に出会いました。生活はほとんど元に戻りましたが、ごみを見るたびに、原発事故の記憶がよみがえるといいます。

住民
「怖かったですね、あの日は。だからすごく嫌だね。あんまりそういうとこ寄りたくない、いまだに。」

管理が不十分なまま置かれている除染ごみも目につきます。

住民
「ロープがもうダメでしょう。」

ロープやシートが劣化。補修や撤去を要請しましたが、対応が進んでいません。放射線量は大幅に下がり、健康に影響が出るレベルではないとされていますが、どうしても神経質になってしまうといいます。

武田:放射線量はもう心配ない?

住民
「問題はないけれども、小学校と中学校がすぐそばだから、通るからやっぱりどうしても。やっぱりよくないね。」

8年前に起きた、東京電力福島第一原子力発電所の事故。放射性物質が大量に放出されました。

汚染された土や草木などを削り取り、放射線量を下げるため福島県を含む8県で除染が行われました。総額2兆9,000億円を投入して行われた除染。東京ドーム13杯分の除染ごみが出ました。それが今なお、身近な所で現場保管を強いられているのです。一体どうしてなのか。国が示した除染ごみの処分の流れです。現場保管されたごみは各自治体が管理する仮置場にいったん置かれ、その後、国が管理する中間貯蔵施設に運び込まれます。そして、2045年までに福島県外で最終処分するとしています。

ところが、この計画には狂いが生じています。仮置場は3年程度で解消するとしていましたが、3年を過ぎてもほとんどがそのままです。その理由は、国が4年前に搬入を始めた、中間貯蔵施設の整備の遅れです。仮置場から運び込まれた除染ごみを保管する、中間貯蔵施設。

1,600ヘクタールの広さを予定していますが、用地交渉に時間がかかり、整備が長期化。県内の除染ごみの17%しか運び込めていません。仕事への影響も続いています。福島市内で果樹園を経営している男性です。原発事故の前、男性は収入のほとんどを観光果樹園で賄っていました。ところが、多い時、月に6,000人いた客は事故後、激減。検査で安全が確認されましたが、売り上げは一時9割落ち込みました。このため、果物を安く大量に売る経営方針への転換を迫られました。しかし、そこにも大きな壁がありました。

果樹園経営者
「これ。ここから埋まっている。」

果樹園の一角には、地中に600袋の除染ごみが現場保管されているため、栽培面積を広げることができないのです。

果樹園経営者
「かなり厳しいです。(除染ごみが)無くなれば植えられるから、もったいないという気持ちはあります。なるべく早く持って行ってもらいたい。」

国の責任で処分が進められている大量の除染ごみ。しかし、住民の不満の矢面に立たされているのは、実務を担う地元自治体です。福島市の除染推進室。ここに寄せられる苦情や相談は、今も月におよそ200件に上ります。

除染推進室 職員
「一番はいつ運び出すんだということですね。いつまでも置いておきたくないと。」

市民への影響が続く状況を何とかしたいと、できるだけ多く除染ごみを運び出すよう国に繰り返し訴えています。

福島市除染推進室 室長 岡部達也さん
「空かすために中間貯蔵施設に持って行ってもらわないと、というのはあります。環境省がしっかりと取り組んでいただきたいと考えています。」

果樹園を営む男性です。国が復興五輪と呼ぶ、来年(2020年)の東京オリンピック。せめて、それまでには元の状態に戻してほしいと願っています。

果樹園経営者
「私らの心の中では復興なんてまだまだ。実際に物(除染ごみ)が入っていることは、そんな気持ちですよね。気持ちがちょっとつらいですね。」

武田:住民の皆さんが、口々に強調していたのは、「とにかく早く片づけてほしい」ということでした。話を聞いた多くの人が、「除染自体、事故から数年たってようやく行われた」と言いますし、その時のごみが、今も家の軒先にあるということに憤っていたんです。事故当時の恐怖、今も続く風評被害。そして将来への不安といった事故の苦しみを思い起こさせる存在として、あのごみが目に映っていると感じました。

県外処分はどこへ? 「再生利用」の波紋

武田:その除染ごみの問題、今、新たな局面を迎えています。それは処分の最終段階の話なんです。法律では、こうしたごみは福島県外で最終処分されることになっています。ところが、その県外での最終処分が難航するのを見据えて、国は全く別の考え方を打ち出しました。それが除染ごみの再生利用です。除染ごみの中から、放射性物質の濃度が低い土を選び、資源として全国の公共工事などで使おうという計画です。そうすることによって、最終処分する量を大幅に減らそうというわけなんです。ただ、この場所として真っ先に選ばれたのが福島県内。これに対して地元では、本来、県外で処分するはずのものが、なぜ福島で利用されるのかと反発しています。

福島第一原発から北に20キロ。南相馬市羽倉地区。3年ほど前まで避難指示が出されていました。住民が戻り始めたこの地区で、去年(2018年)12月、地域を揺るがす事態が起きました。羽倉地区で再生利用の実証事業を行いたいと、国が要請してきたのです。国の要請にどう対応するか。先月、地区の役員が集まり、緊急の会議が開かれました。

羽倉地区 区長
「どう思いますか皆さんこれ。」

事業の安全性や、候補地の選定理由に疑問の声が相次ぎました。

住民
「危惧だと言われればそうかもしれないけど、私は(安全性を)大きく心配してる。」

「なぜ羽倉じゃなくてはならないのか。なぜ羽倉じゃないとならないんだ。」

再生利用は、除染で出た土のうち、放射性物質の濃度が一定の基準以下のものを道路や防潮堤などの建設に使おうという計画です。国の試算では、これによって除染ごみの最終処分量を1割以下まで減らすことができるとしています。その実証事業の場として国が選んだのが、羽倉地区で行われている高速道路の拡幅工事。ここで安全性を確認するというのです。しかし地区では、「絶対に受け入れられない」と反対することを決めました。

区長
「(除染で出た土を)入れたら永久的でしょう。最終処分の形なのでしょう。そんなことは許すべき問題ではない。」

住民たちが反対する背景には、国への強い不信感があります。

区長
「いつ来ても同じ状況だな。」

ここは、地区の仮置場。国が搬出のメドとしていた3年を過ぎた今も、ごみは残ったまま。

国が約束を果たさぬまま、除染で出た土を新たに運び込もうとすることに、住民は憤りを感じています。

区長
「先に仮置場の問題を解決して、だんだん話していけば全然違うのに、未だにそのままだから。その矢先にこの問題だから。約束だけは守ってもらいたい。」

国は、住民の理解が得られれば、すぐにでも土の搬入を始めたいとしています。

区長
「なんで今になって、こういう問題が出てきたのか。なんで弱い立場の一番住民の戻りの少ない所からやるのか。東京オリンピックも控えているんだから、そんなに安全性を主張したいなら、東京に持っていって安全性を確かめてもらえばいい。」

一方、苦渋の決断で実証事業を受け入れた地域もあります。飯舘村長泥地区です。村で唯一避難指示が解除されていません。区長の鴫原良友さんです。

地区で協議を重ね、一昨年(2017年)11月、実証事業を受け入れました。除染で出た土を運び込み、その上に汚染されていない土をかぶせて、花などを栽培する計画です。

飯舘村 長泥地区 鴫原良友区長
「これは苦渋の選択でしかないよな。おらも正しいと思っていないから。」

なぜ苦渋の選択なのか。原発事故前、74世帯が暮らしていた長泥地区。住民の結び付きが強く、豊かな田園風景が広がる地域でした。しかし、事故で大量の放射性物質が降り注ぎ、地区は帰還困難区域に指定されました。国は、「当面、人が生活するのは難しい」として、地区の除染の方針を示していませんでした。繰り返し除染を求める住民の声を受けて、ようやく決まったのは僅か3ヘクタールを除染する案でした。

鴫原良友区長
「『(他の地域と)同じく全部除染してくださいよ』とみんなで訴えた。それは聞けないと。全く国は差別するなと。」

そんな時、説明を受けたのが、国が進める再生利用の実証事業。受け入れれば、除染の範囲も拡大するというのです。鴫原さんたちは、迷ったあげく受け入れることにしました。すると、除染の範囲は3ヘクタールから140ヘクタールまで広がりました。

鴫原良友区長
「弱い者いじめするような気するけども、これを止めたと言ったら、この荒れた状態で終わりになるかもしれない。そこが苦渋の選択。他から見れば『なんで汚染土、田畑さ入れてるの?』って言われる。悪いこと分かってんだよ。それでも認めない訳にいかないべ。このつらさがきつい。」

福島の声にどう答える? 環境省に問う

街に残る除染ごみの問題、そして再生利用について環境省に問いました。

武田:10万か所を超える現場保管が、今なお残っている現状について、どういうふうに受け止めていらっしゃるんでしょうか?

環境省環境再生事業担当 新田晃参事官
「住民の皆さんから早く解消して欲しいという声は重く受け止めています。いつまでもそういう状態であってはいけませんので、そこはきちんと進めていかなければいけない。」

武田:そもそも最終処分は県外というのが唯一示されていた方針で、それで住民の皆さんは納得していた部分があったと思います。「あとになって、そういう話を持ってこられても、それは話が違うんじゃないか」ということですが、どう受け止められますか?

新田晃参事官
「再生利用につきましては福島県内、県外問わずという形で進めていきたいと思っています。福島県内が一番除去土壌が多いという事情もあるかと思います。まずは(福島県内で)検討を進めているというのが今の実情です。」

武田:再生利用については、「そうは言っても、これって最終処分じゃないか」というふうに思っていらっしゃる住民が多いと思うんですね。これは最終処分じゃないんですか?

新田晃参事官
「再生利用はそもそも土が土木資材として使われるものであるということで、除去土壌のうち、使えるものを利用しようというものです。最終処分は、不要なものを捨てるということだと認識していますので、利用というものとは異なると思います。ご理解をまだいただいていないということであれば、説明をこれからも続けていかなければいけないと思います。」

何が問題? 国と地元 広がる溝

武田:環境省は「再生利用と最終処分は違う」として理解を求めていくと、繰り返し強調していました。
除染や廃棄物の問題を取材している、福島局の樽野記者です。除染ごみを巡って、国と住民の間の溝が深まっているように見えましたけれども、何が問題だと思いますか?

樽野章記者(NHK福島):場当たり的に対応が行われてきたことが、地元の不信感を高めていると感じます。まず、現場保管は「一時的だ」と当初説明してきたのに、今も県内で10万か所以上残されています。そして、仮置場は「3年程度で解消する」とされてきましたが、今も大半が残されたまま。中間貯蔵施設は、整備に時間がかかり、最終処分場に至っては、再生利用という別の考え方が、今になって強調されるようになってきました。国は去年12月になって、仮置場の解消の時期の見通しについて初めて公表し、3年後の3月としました。この目標も、住民にとっては遅すぎると受け止められています。「話が違う」「約束と違う」というふうに住民が受け止めているのが実情だと思います。

武田:そうしたさまざまな思いがある中で、住民の一番の怒りの根源は何なんでしょう?

樽野記者:除染ごみの福島県外での最終処分を定めた法律は、「原発事故による重い負担を福島が背負っている」として成立しました。しかし実際には、最終処分の議論が進まず、再生利用の場所は県内ばかりです。最終処分場も、結局は福島になるのではないかと、地元では懸念されていまして、負担が福島に集中するのではないかと、反発が強まっているんです。もう一つ、風評被害も深刻な問題です。現在、市場に流通している福島県の野菜や果物は安全が確認されたものばかりですが、価格は回復していません。今回、100人以上の住民を取材しましたが、マイナスイメージを気にする人が多く、「除染ごみを早くなくしてほしい」と、声を上げたくても上げられない人が多いというのが印象的でした。国には、住民のこうした複雑な思いを理解し、できるだけ早く生活圏から除染ごみをなくしてほしいと思います。

武田:問題となっているのは、福島の除染ごみだけではありません。東北から東海までの11都県でも、同じような廃棄物の問題に直面しています。ここでも国の姿勢が問われています。

今も11都県で… 問われる国の姿勢

大量の放射性物質によって、東日本の広い範囲が汚染された原発事故。生活ごみの焼却灰や下水施設から出る汚泥など、比較的、放射性物質の濃度が高い廃棄物が大量に発生しました。指定廃棄物です。その総量は、東北から東海まで11都県でおよそ22万トンに上ります。

しかし、多くの自治体で国による処分場建設のメドが立っていません。そのため、各市町村は行き場のない廃棄物を抱え続けることになっています。

柏市職員
「こちらが指定廃棄物を仮保管している仮保管庫です。」

千葉県柏市では、住民から風評被害を懸念する声が上がり、苦悩を深めています。

柏市職員
「先が見えないので、(市民の)心労とかを考えると本当に心が痛い。(国は)方向性とかこうしていくみたいなものは、最低でも出していただかないと、なかなか地元としては納得できない。」

指定廃棄物の問題について環境省は…。

新田晃参事官
「地元のご理解を得ていく必要がありますので、ご説明を続けている所ですが、なかなか進んで行かないという実情もございます。処理は国の責任で行うと、法律で定められているものです。国として、しっかりと取り組んでいきます。」

原発事故8年 問われているのは?

武田:こうした廃棄物の問題、最終的にどうしていけばいいのかという気持ちになりますけれども、樽野記者はどう感じますか?

樽野記者:誰もが納得できる答えは、簡単には見い出せない難しい問題だと思います。中間貯蔵施設の整備が進む土地の地権者は、涙をのんで、ふるさとの土地を提供しました。福島県外に最終処分場を作る時も、多くの人たちに負担を強いることになります。こうした容易に解決できない問題だからこそ、広く情報発信するべきですが、環境省の取り組みは十分ではないと言えると思います。といいますのも、こちらをご覧ください。

環境省が福島県外の人に行った調査では、再生利用について「聞いたことがない」とか「内容を知らない」と答えた人が合わせて80%を超えました。これは福島の問題ではなく、日本全体の問題です。国には丁寧に説明する姿勢が求められると思いますし、私たちも向き合っていく必要があると思います。

武田:今回の福島の取材の中で、ある女性に、「東京から来た私に何か言いたいことはないですか」と尋ねました。すると女性は、「私たちのことを忘れないでほしい」と語りました。この言葉を、私たちも重く受け止めたいと思います。