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2019年2月25日(月)

“辺野古沖埋め立て” 沖縄県民投票の舞台裏

“辺野古沖埋め立て” 沖縄県民投票の舞台裏

米軍普天間基地の移設に伴う沖縄県名護市辺野古沖の埋め立て。その賛否を問う県民投票が行われた。政府が埋め立て工事を進める中で、沖縄県民はどのような選択をするのか。番組は、様々な立場の県民の選択とその背景にある思いを取材。県民投票の舞台裏と移設問題の行方を探る。

出演者

  • NHK記者
  • 武田真一 (キャスター) 、 田中泉 (キャスター)

反対多数 舞台裏に密着

昨日(24日)、沖縄で行われた辺野古埋め立ての賛否を問う県民投票。「反対」が7割を超え、「賛成」「どちらでもない」を大きく上回りました。

今回の結果を、政府はどう受け止めるのか。

安倍首相
「沖縄の負担軽減は、政府の大きな責任であります。県民投票の結果を真摯(しんし)に受け止め、これからも基地負担軽減に向けて全力で取り組んで参ります。」

沖縄が示した民意、そして移設問題の今後。私たちはどう向き合うべきか考えます。

舞台裏に密着 “選択”の裏の本音 葛藤…

投票日が迫った、辺野古のある名護市。20代の若者たちが、国が埋め立て工事を進める中で行う県民投票の意味について、話していました。

「やる意味って、行く意味あるの?」

「行くんですか?」

「行かない。」

「俺も行かないかもね。だって県民投票したからって、県民で投票して、じゃあ今の問題が覆るかっていったら、結局、国の問題だから。」

「そもそも賛成にも反対にもデメリット・メリットがあるからこうなってるわけで。ずっと続くんだろうなと思って。」

新垣康大さんです。今回の投票にどう向き合うべきか、悩んでいました。新垣さんは辺野古の近くで生まれ育ち、今も地元の会社に勤めています。

新垣康大さん
「小さい頃は、ここで潮干狩りやったり、貝とったりしていました。だから『懐かしいね』と自分のおばあちゃんとかお父さんお母さんは言うんですけど。近くで見てみたら、やっぱりきれいなんですね、海。そこを埋め立てられるのは、本当に複雑ですね。」

大学時代には、移設に反対し、抗議活動の場に足を運んだこともありました。しかし工事は止まらず、県民の対立が深まる現状を見るうちに、反対を訴え続ける限界を感じるようになったといいます。
移設問題が争点になった去年(2018年)の名護市長選挙では、一転して政権与党が支援する候補者を応援。移設を容認することで、基地問題に終止符を打ちたいという理由からでした。悩んだうえでの決断でしたが、SNSでは反対から容認に転じたことに、批判やひぼう中傷の声が上がりました。今回の投票でどちらに投じても対立が深まるだけではないか。複雑な気持ちを抱えたまま、重い選択を迫られていました。

新垣康大さん
「何も解決しないまま、同じ問題をずっとやってきた。その問題、解決策がないというか、ゴールが見えない。普天間の問題も解決しないといけない、だけど埋め立ても嫌です。どっちも嫌。」

県民投票で民意を示すことは、事態の打開に向けた一歩になると行動してきた人がいます。元山仁士郎さん、27歳です。投票を呼びかける音楽イベントを開き、基地問題についてもう一度考えようと訴えていました。

元山仁士郎さん
「沖縄戦だとか戦争というものと基地というものを、どういうふうに考えていけばいいのか、向き合っていけばいいのか、大きく分かれ道に来ているんじゃないかなと。もう1回、基地について戦争について、向き合う機会をつくりたいなと。」

元山さんは、県民投票のきっかけとなる署名活動を中心となって行ってきた1人です。県知事選挙などで、移設に反対する候補が繰り返し当選しても、沖縄の主張が届かない現実に疑問を感じていました。埋め立てにテーマを絞って沖縄の意思を明確にすることは、大きな意味を持つと元山さんは考えています。

元山仁士郎さん
「今回、県民投票で意思が示されたにもかかわらず、それを聞かないのは民主主義の根本が問われてくる。本当に民主主義の国なんですか、日本は。決して無駄にはならないと信じてやっています。」

反対が賛成を上回った今回。NHKの出口調査では、移設を進める政権与党を支持する人々の中にも、反対に投票した人が少なくないことが分かりました。

その傾向が強かったのが、公明党を支持する人たちです。
沖縄市で暮らす喜納高宏さん。平和を重視する理念にひかれ、長年、公明党を支持し、党の推す候補に投票してきました。連立政権の一翼を担ってきた公明党。県知事選挙などでは自民党と足並みをそろえ、移設問題よりも暮らしの充実などを前面に打ち出してきました。辺野古沖の埋め立てに絞って問う今回、公明党沖縄県本部は、賛否の方針を示さず、一人一人に判断を委ねる自主投票としました。
アメリカ軍・嘉手納基地の近くに住む喜納さん。沖縄が背負ってきた歴史や基地負担が集中している現状を踏まえ、今回は反対に投じようと考えていました。

喜納高宏さん
「沖縄の歴史を振り返った時に、自分の意図する所でない所に、強制的に移動させられたわけです。沖縄だけで抱える問題じゃないということを、もう1回、全国の皆さんで考えてほしい。」

沖縄県民としての思いと、移設を進める連立政権を支持する立場。支持者の間では、年々葛藤が深まっていると喜納さんは感じています。

喜納高宏さん
「あんたが言うから公明党に『○』入れるよ、公明党に投票したよ。県知事選でもしかり、宜野湾市長選挙でも名護市長選挙でも、信じてきて語ってきて活動をやってきているわけです。いろんな情報見たら悩むじゃないですか。自分がやってきたことって本当に良かったのって。だから悩むんですよ。」

沖縄全土で反対が賛成を上回った今回。とりわけ難しい選択を迫られたのが、普天間基地を抱える宜野湾市の人たちでした。宜野湾の市議会議員で、自民党員の呉屋等さん。地域を回るたびに、普天間基地の騒音被害などを訴える声に直面しています。

保育園 園長
「小さい子たちは怖がったり、泣く子もいるし、先生たちが耳を塞いであげたり。」

宜野湾市議会議員(自民党員) 呉屋等さん
「(市議会の)定例会冒頭で意見書を出す予定にしてあります。」

呉屋さんは、県民投票で反対が賛成を上回れば、問題が長期化し、普天間基地の返還が遠のくことを懸念していました。

宜野湾市議会議員(自民党員) 呉屋等さん
「とにかく1日でもいいから早く危険性の除去をしてくれと、23年間、宜野湾市民は待っている。反対が圧倒的に多くなると、宜野湾市民も反対しているんだというメッセージが出ちゃうと一番困ると思います。」

支持者の間でも、今回の県民投票では普天間基地返還への思いを反映させられないという懸念が広がっていました。

(棄権)
「賛成・反対・どちらでもない、この意見ではおかしいと思うんです。乱暴な3択かなと思って、(投票は)厳しいです、今回は。」

今回のやり方では複雑な民意をくみ取れないと考えた呉屋さん。県民投票そのものを認めないという意思を示すために、棄権することにしました。

宜野湾市議会議員(自民党員) 呉屋等さん
「同じ土俵に乗るというのは、自分の中では初志貫徹できない。早く県民投票終わってくれないかなというのが、正直な気持ちです。」

(賛成)
「本土に住まわれる方に、沖縄の人が全員反対じゃないんだよって。」

宜野湾市議会議員(自民党員) 呉屋等さん
「伝えたいですね。」

(賛成)
「沖縄の人が全部反対じゃないんだってしっかり伝えたいですけれども、伝わらないので、ちょっと残念。」

県民投票の期間中も続けられた埋め立て工事。先週には、予定地の海底に存在する軟弱な地盤を改良するため、工期がさらに遅れることが判明しました。
県民投票にどう向き合うべきか迷っていた、新垣康大さんです。ふるさとの海の将来に、自分たちは意思を示す責任があると考え、反対に投じることにしました。

新垣康大さん
「自分たちの選択で、この海が守られるかどうか。反対という気持ちは、(仮に工事が)止まらなくても伝え続けていかないといけない。」

そして、昨日。

(テレビの音声)
“『反対』が有権者数の4分の1に達することが確実になりました。”

新垣康大さん
「反対に入れた人たちも、いろんな思いで反対というのがあって、賛成に入れた人たちもいろんな思いがあって賛成。真剣に沖縄県民の人たちって、悩んで悩んで悩みぬいた末に、みんな賛成か反対かに入れているので、これを皆さん否定はせずに、なぜこういう結果になったのか一緒に考えてほしいです。」

反対多数 示された“民意”とは

武田:一人一人が悩みながら臨んだ、昨日の県民投票。沖縄放送局の松下さん、結局、反対が賛成を大きく上回るという結果になりましたけれども、沖縄では、この結果はどう受け止められているのでしょうか?

松下温記者(NHK沖縄):予想を上回って、反対が強く示されたという声が広がっています。反対票は43万。これは、県知事選挙の中で過去最多となった去年の玉城知事の得票数を上回ります。そして、その反対は全有権者の37.65%で、4分の1を超えたため、玉城知事は条例に基づき、来月(3月)1日にも、安倍総理大臣とアメリカ大使館の幹部にそれぞれ面会し、結果を通知する方向で調整に入りました。
また、注目されていた投票率ですが、自民党と公明党が静観するスタンスを取ったため、低くなることも予想されていました。しかし、実際には52.48%と、50%を超えたことで、玉城知事は、県民の意思が示され、重い意味があると受け止めています。

田中:VTRでは「反対」「賛成」、そして「棄権」、それぞれに深い葛藤がありましたけれども、今回の投票結果からどんなことが読み解けますか?

松下記者:NHKの出口調査で、それぞれ選択した理由を聞きました。「反対」の理由で最も多かったのが「沖縄の過重な基地負担」で48%。一方、「賛成」の理由で最も多かったのは「普天間基地の危険性除去」で58%。賛成・反対と立場は違っても、基地負担を軽減してほしいという思いは共通していたんです。こうした背景には、戦後、次々と基地が建設され、アメリカ軍による事件や事故に悩まされ続けている苦悩が表されているのではないかと思います。

移設問題の今後は “民意”は何をもたらす

武田:こうした結果を政府はどう受け止めるのか。今日(25日)、岩屋防衛大臣に聞きました。

武田
「昨日の県民投票では反対が賛成を大きく上回った。民主主義が今、問われていると言える状態。そうした県民の声にどのように答えるのか?」

岩屋防衛相
「今回の県民投票の結果は、政府として真摯に受け止めなければいけないと思っている。しかしそのうえで、普天間の危険性を除去し全面返還を果たすということは、沖縄の皆さんとも思いは同じだと思う。同じく民主的に選ばれた国会が政府を構成して、安全保障という大きな責任を担っている。抑止力をしっかり維持して、沖縄に集中している基地負担を少しでも減らしていく。この責任を、私どもとしては果たしていかなければいけない。」

武田
「工事への影響はどうなのか?」

岩屋防衛相
「1日も早い普天間の全面返還につながるようにご理解をいただく努力をしながら、工事は続けさせていただきたい。」

武田:政治部・防衛省キャップの高野さん、岩屋大臣としては、政府は安全保障を担う責任があるということを強調していましたけれども、政府の中の率直な受け止めはどうなのでしょうか?

高野寛之記者(政治部・防衛省キャップ):防衛省の幹部は、反対が40万票を超えるとは、想定よりも多かったと話していました。安全保障政策は国の専権事項であり、地方自治体が条例に基づいて行った投票の結果で、政府の方針が変わることはないとしつつも、防衛省などには波紋が広がっているのも事実です。今回の結果で反対の世論がさらに高まることになれば、工事に影響を与えかねないと懸念する声も出ています。

武田:その工事ですが、岩屋大臣は続けたいという考えでしたね。政府の姿勢は本当に変わることはないのでしょうか?

高野記者:基本的に、強気の姿勢が崩れることはないと思います。普天間基地の危険性除去を求める地元・宜野湾市の強い要望もあり、そのためには辺野古への移設以外に選択肢がないと考えているからなんです。与党の関係者は、4月の統一地方選挙や夏の参議院選挙に向けて、野党が「政府は沖縄の民意を無視している」といった批判を強めるだろうという声も上がっているのですが、全国的な世論への影響は限定的で、政権への大きなダメージにはならないのではという見方が大勢なんです。

移設問題の今後は 軟弱地盤問題は

田中:政府と沖縄の溝が深まることが懸念される中、今後、大きな焦点となってくるのが、「軟弱地盤」の問題です。
こちらは辺野古沖の埋め立て予定地。全体の4割が軟弱地盤だと、先週、防衛省が認めました。防衛省は、地盤を強固にするためには、海底におよそ7万7,000本のくいを打ち込む改良工事が必要だとしていて、費用が当初の見込みを大きく上回ることや、工事が長期化することが懸念されているんです。

武田:こうした問題は本格的な埋め立てが始まってから明らかになったことなんですけれども、沖縄県はこれをどう捉えているのでしょうか?

松下記者:軟弱地盤の可能性は、以前から国も把握していました。沖縄県は、軟弱地盤の存在を隠したまま埋め立て工事を強行しているとして、国に対して強い不信感を抱いています。軟弱地盤は最も深い所で、海面から90メートルに及んでいて、そうした大規模な地盤改良工事は前例がないと沖縄県は指摘しています。工事のためには東京ドーム5個分に相当する砂が必要で、これは県内で採取できる砂利の数年分の量に及ぶことから、どれだけの年数を要することになるのか、全く分からないとしています。また費用については、去年、最大で2兆5,500億円かかるという、独自の試算を示しています。

武田:この問題に対して防衛省はどう対応するのか、そちらも聞いてきました。

岩屋防衛相
「従来から実績のある工法で、安定的な工事が可能だと確認している。多少期間が延びたり、多少費用が増えることはあるだろうが、それも最小限にとどめる形で努力したい。」

武田:「影響を最小限にとどめる」ということでしたけれども、これは沖縄県の主張とは隔たりがありますね。

高野記者:防衛省は、深さ6、70メートルまでの工事は国内外で実績があり、90メートルの工事も専門家に意見を聞いた結果、技術的に可能だとしています。コストがどこまで膨らむかは、現在、設計変更を検討中で見通せませんが、沖縄県の試算は高すぎると反論しています。

武田:ということですが、沖縄県はどうなのでしょうか?

松下記者:ただ、国民の税金を使って工事を進めるわけですから、具体的な費用や工期はどれくらいになる見通しなのか、しっかり説明するのは当然です。それをあいまいにしたまま工事を進めることは、到底、理解を得られません。こうしたこともあり、沖縄県は今後、国が設計変更を申請しても、今回の県民投票の結果を踏まえて、承認しない構えです。

武田:そうしますと、今後ますます対立は深まっていくということが考えられるわけですけれども、政府は打開策を見いだせるのでしょうか?

高野記者:地盤改良工事に伴う設計変更について、防衛省は年内にも沖縄県に申請する方針です。県の承認が得られない場合には、法廷闘争もやむをえないとしています。政府関係者は「今は埋め立て反対が多いとしても、埋め立ての既成事実を着実に積み上げていくしかない。普天間基地の返還が実現に近づけば、住宅や学校への危険がなくなることを、多くの県民に感じてもらえる。そして、広大な跡地を利用して、新たな経済発展につなげることもできる」と話しています。粘り強く、移設の必要性を説明していく構えです。

武田:国の姿勢が変わらない中で、沖縄としては、今回示された民意を次につなげていけるのでしょうか。

松下記者:これまで沖縄の人たちが移設計画に対して抱えてきた思いを、初めてはっきりと示したという点で、今回の県民投票は歴史的な意味は大きいと思います。沖縄の人たちはこうした声を、日本国内だけでなく、世界に届けて、世論を喚起していくということにかけています。沖縄でなぜ県民投票が行われねばならなかったのか、その意味を考えることが大事だと思います。そしていかにその声に耳を傾けて、問題解決に向けて国民全体で一緒に考えていけるのか、この国の民主主義の成熟度が問われているのではないでしょうか。

武田:沖縄だけで抱える問題ではない、全国の人たちも一緒に考えてほしい、こうした声が心に響きました。本当の意味で沖縄に寄り添う、それはどういうことなのか、今、問われていると感じます。