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2019年1月22日(火)

追跡!“フェイク”ネット広告の闇

追跡!“フェイク”ネット広告の闇

見られていない広告の費用を企業や自治体が負担させられる問題などを追った「ネット広告の闇」。取材を続けると、一般消費者に狙いを定めた不正も明らかになってきた。それは、“フェイク広告”。「ダイエットに効く」とするサプリなどを芸能人が体験談を元に宣伝しているが、その画像は無断加工され、体験談も全くウソだったケース。そして「スマホで簡単に収入を得られる」などと副業や投資のノウハウをネット広告でアピールし、多額の金銭を支払わせるケースなど、各地の消費生活センターなどへの相談件数は急増している。なぜ問題のあるネット広告が見逃され配信されてしまうのか。そして、こうした“錬金術”に手を染めているのは、何者か。巧妙な手口やその手法を広める闇の人脈を追跡。泣き寝入りしないための対策についても紹介する。

出演者

  • NHK記者
  • 武田真一 (キャスター) 、 鎌倉千秋 (キャスター)

“フェイク”ネット広告 ご用心!インスタでも横行

東北地方に住む大学生Aさん。先月(12月)ネット広告をきっかけに、ダイエットに効くという、あるサプリメントを購入しました。

大学生 Aさん
「マツコ・デラックスさんとかが出てて、テレビ番組で紹介された商品なのかなって信用しちゃって。」

代金は月額6,980円。「30日間解約保証」などと書かれていたことも購入の後押しになったといいます。しかし…。

「私の場合、体に合わなくて効果が見られなかったので、解約したい旨を伝えたかったんですけど、全然電話に出てくれなくて。ツイッターで調べたら『解約できない』みたいな人が多かったので、どうしようって。」

取材班が確認すると、このサプリがマツコさんの番組内で紹介された事実はなく、画像もテレビ局やタレントに無断で使用されていたフェイク広告でした。

取材班
「その時ご覧になった広告、何に出ていたか覚えていらっしゃいますか?」

大学生 Aさん
「インスタグラムです。」

若者を中心に、国内だけでおよそ3,000万人のユーザーを抱えるインスタグラム。そこに広告が出ていたサプリのメーカーに、まず事情を聴くことにしました。メーカーの所在地を調べると、住宅街の中の一軒家でした。

取材班
「反応ないですね。」

近所の住人に聞いてみると…。

近所の住人
「(誰も)住んでいないですよ。たまに何人か集まって、会議みたいなのをしていることがありました。若い人じゃなかったかな。」

そこで、会社の登記に載っていた社長の自宅へ。

取材班
「急にお訪ねしてすみません。」

サプリのメーカー 社長
「いえいえ、とんでもないです。」

取材に応じたのは、関東の大学に在籍しているという20代の男性。サプリは自分が立ち上げたベンチャー企業が製造・販売していると話しました。しかし、サプリの広告については広告仲介業者に依頼していて、中身には関わっていないといいます。

サプリのメーカー 社長
「広告仲介業者を介して広告を出稿していて、僕らメーカーとしては、誰がどんな広告記事を書いているか追いきれない。」

取材班
「マツコさんを使っていた業者は?」

サプリのメーカー 社長
「それは、言ったら怒られそうなので。」

男性は、社名は言えないが、サプリの広告を依頼している広告仲介業者はおよそ30社に上ると明かしました。
取材班が広告のサイトを分析すると、そのうちの1社が判明。特定した広告仲介業者の代表を直撃取材しました。この業者は、広告にフェイクが紛れ込んでいたことを認めた上で、広告を作ったのは自分たちではなく、契約している広告制作者だと話しました。

広告仲介業者
「芸能人を出すと、やっぱり売れるんです。広告制作者は、隣もやっているからいいだろうと軽い気持ちでやっています。場合によっては巨額の賠償金を求められる事態だとわかっていない人が多いんです。私たちも『フェイクはなくしたい』と思っていますが、チェックが行き届かず、すみません。」

サプリのフェイク広告を作ったのは何者なのか。広告サイトに残された情報をもとに追跡しました。そこは、ウェブ制作を行う小さな会社でした。社長に話を聞こうと何度か訪ねましたが、取材には応じませんでした。

フェイスブック社を直撃

こうしたフェイク広告が、チェックもされずに配信されてしまうのはなぜか。サプリの広告が掲載されたインスタグラムを運営する、フェイスブック社にただしました。

フェイスブックジャパン 鈴木大海執行役員
「全ての広告につきまして、掲載の開始前に審査をさせていただくことになっており、これ以外にも、広告から遷移した先でどのような内容の広告なのかを私どものほうのAIと人の目で審査している。」

全て事前に審査しているのに、フェイク広告が掲載されてしまうのはなぜか。さらに説明を求めました。

「フェイク広告について大変残念に思いますし、あってはならないことかなと思います。弊社の創業者でありますマーク・ザッカーバーグも、ここ数年で安心・安全を最も重要な課題として明確に言っておりますので、メディアですとか、広告のあり方そのものを変えようとしている。取り組みを進めているところです。」

“フェイク”ネット広告 ご用心!インスタでも横行

武田:衝撃ですよね。これ、何が起きているのか、今日は取材陣に徹底的に聞いていきたいと思います。フェイスブック社は審査をしていると言っていましたが、それをすり抜けているということなんですね?

田辺幹夫記者(ネットワーク報道部):そうなんです。フェイスブック社のインスタグラムですけれども、ユーザーが国内およそ3,000万と非常に大きなメディアですので、日々、大量の広告が出されるわけです。そのため、なかなかAIや人の目を使ってもチェックしきれないというのが現状なんです。

武田:具体的には何をしようとしているんですか?

田辺記者:AIを使って、例えば違反している広告の画像が出ていないか、使ってはいけないような言葉が使われていないかということを自動的に検知できないかということも考えています。

武田:しかし、それをすり抜ける可能性もあるわけですよね。

田辺記者:なかなか完璧ではないので、今、現状はこういった状況になっているということです。

武田:そこはなんとかしたいということなんですね。広告主も広告仲介業者もフェイク広告を把握していない、どんな広告が出ているのか分からない、こんなことが果たしてあるのかと思うのですが、この点はどうなのでしょうか?

田辺記者:実際に取材をしてみますと、広告主も、広告を仲介している業者も、いずれもまずい広告が出ているという現状は把握していました。ただ一方で、人数が少ないなどの理由で、その責任は把握しているものの、チェックをするという本来の責任が果たせていないため、現状こういうことになっているということです。

武田:何かまずいものが出てるということは分かっていながら、十分に対処できないということですね。それもちょっと納得できませんが。

鎌倉:サプリメーカーなんですけれども、NHKの取材でこうしたトラブルが複数起きていることを確認したとして、その対応の不備を認めて、コールセンターの人数を増やすということを約束していました。ちなみに買ってしまった女性は、契約を解除することができました。
今回、私たちの取材で、こうしたフェイク広告が、新聞社のいわゆるニュースサイトという、多くの人が信頼するサイトにも掲載されていたことが分かったんです。

ニュースサイトというのは、その日のニュースがずらっと並んでいます。記事と記事の間には、同じような形で広告があるわけです。「PR」と小さく書かれているのですが、実はこうした広告の中に、フェイク広告が紛れ込んでいたんです。NHKが確認したところ、少なくともこちらの12の新聞に載っていました。

武田:地方新聞が多いですね。

鎌倉:こちらの新聞社に取材を申し込んだところ、このような回答を得ています。このうちの1社です。
「誤解を招くような広告が当社のウェブサイトに掲載されたことは誠に遺憾であり、直ちにネット広告配信会社に対応を申し入れるとともに、当社としても当該広告が再び掲載されないよう、ブロックしました」。
なお、各新聞社の回答の全文は、クローズアップ現代+の番組ホームページ、NHKの特設サイトからご覧いただけます。

各新聞社の回答の全文
NHK NEWS WEB 特設サイト

武田:大手の、皆さんがしっかりしていると思われているメディアにも、こうした広告が出てしまう。その背景には何があるのでしょうか?

田辺記者:背景には、ネット広告でお金がもうかるという仕組みがあります。
まずユーザーがネットに掲載された広告を見てクリックすると、画面がブログ風の広告サイトに飛びます。そのサイトからボタンを押して商品を購入すると、報酬が広告サイトの運営者に入ってきます。こういう仕組みを「アフィリエイト」というんです。この広告サイトの運営者の中には、より人目を引く広告にして、報酬を多く得ようと、フェイク広告を作って掲載する場合も出てくるんです。

武田:広告代理店や広告制作会社ではなくて、サイトの運営者が広告を作る。そういうこともあるんですか?

田辺記者:そうなんです。特別な知識がなくても、比較的基礎的な知識があれば、広告を作ることができる状況になっています。今ですと、個人が作れる時代になっています。
実際に広告の作り方を教えるというセミナーもありまして、主婦や学生、副業をやりたい会社員、こうした方たちで盛況になっていると。私たちは取材の中で、あるセミナーの動画を入手しました。

ネット広告トラブル 誰でも簡単に稼げる!?

ネット広告で収入を得たい人を対象にしたセミナーの動画です。参加者が作ったある下着の広告に対し、講師がアドバイスをしています。

講師
「これって筆者の方が(商品を)使っている設定でしたっけ。」

参加者
「使っている設定ですね。」

講師
「であれば、ポカポカ度もアップするみたいです、というよりは、言い切った方が良い。もしくは実際にそうでしたみたいな。」

講師
「ここだけ急に(商品を)使っていないのがバレちゃう。」

武田:このセミナーというのは?

田辺記者:一般の人が集まって、いかに売れる表現ができるのかということを学んでいるセミナーなんです。実は、この動画の中に出てきた広告の題材として使われていた商品、このあとネット広告の中で不当な表示をしていたとして、東京都が実名を公表し行政処分をした商品が題材として使われています。
実際にこのセミナーの動画が、フェイクを書くように教えていたか、実際の広告の中でそれが使われてたかどうかは確認できていません。ただ、私たちが取材をしている中で、こういう一部の心ない広告制作者の中では、うその体験談を作って宣伝するということは、日常的に行われているという証言もありました。

鎌倉:こういったフェイク広告が、消費者がより深刻な金銭トラブルに巻き込まれるケースも明らかになってきているんです。「クリック1つで1日いくらもうかります」という話、最近、よく聞きませんか?その手の話なんです。

“フェイク”ネット広告 金もうけ話にご用心!

SNSの広告をクリックすると現れる動画です。

“こんな感じで、ぽちぽちとする感じでやっていきます。ほんとにこの程度のことしかしないので…。”

「スマホを操作するだけで簡単に収入を得られる」と誘いかけます。これは「情報商材」といわれる、金もうけのノウハウを教える商品の広告です。

“見てください、見てください。すごい!こんなに一日で稼げるなんて。だからやめられないんですよね。”

この広告、最大120万円を支払うと、さまざまな商品を転売して稼ぐノウハウを入手でき、電話サポートなども受けられるとしていました。ところが、消費者庁が聞き取りを行ったところ、稼いだと語っている人物は偽名で、体験談の内容もすべて虚偽だと判明。実際には稼いではおらず、動画の内容はフェイクでした。業者の売り上げは、半年でおよそ6億4,000万円。消費者庁は業者名を公表して、注意喚起を行いました。
こうした情報商材のフェイク広告。別の業者の動画に出演した経験があるという男性が、制作の裏側を証言しました。

フェイク広告に出演した経験がある男性
「私は専門学校生の役ということで、『半年間で30~40万ぐらい、これ(情報商材)だけで稼ぎましたよ』って、実際あった人のていで。」

このときのアルバイト代は、交通費込みで4,000円程度だったといいます。

取材班
「動画でご自身がしゃべっていることは事実ではない?」

フェイク広告に出演した経験がある男性
「もちろんです。言わされたので、ウソです。」

ネット広告を信じて高額な料金を支払うなど、情報商材を巡る相談件数は昨年度6,000件以上。今年度はそれを上回るペースで急増しています。

広告作り 驚異の内幕

そこで取材班は、トラブルに遭った人へ情報提供を呼びかけました。すると、数多くの声が寄せられました。
中でも多かったのは、Kという人物が出演している広告の動画を見て、その情報商材を購入したという人たちの声。

その1人、都内に住む60代の女性です。親の介護のために働きに出られず、内職にちょうどいいと、動画の情報商材にひかれたといいます。

K氏の情報商材を購入した女性
「Kさんって結構、ネットのビジネスの業界ではそこそこ名の通っているというか。私もずっと親の介護をしていましたので、おうちにいて少しでもできるものといったら、やっぱりパソコンでと思って。でも私たちのような情報弱者が、こうやってワケ分からなくやられているっていうか。」

K氏の手法は、特定の短い言葉を自分のSNSなどに書き込むだけで、誰でも簡単に収入を得られるというもの。女性は80万円を払って購入。実践しましたが、1年たっても全く収入を得ることはできなかったといいます。K氏の広告は、法律的に問題があると指摘する専門家もいます。

東京リプラス法務事務所 行政書士 田中康雄代表
「まず契約上で言うと、特商法違反、誇大広告とか、あと、こう断定的に『毎月これだけ稼げますよ』という表現を広告にうたう行為そのものに問題がある。」

行政書士のもとに寄せられたK氏を巡るトラブルの相談は50件以上。消費者庁に注意喚起を出すよう申し立てを行いました。
取材班は、K氏を直撃取材しました。K氏はかっぷくのいい中年男性でした。広告動画について聞くと、「だまそうとは思っていない。去年は仮想通貨の問題などでたまたま稼げていないだけだ」と話しました。

記者
「広告の内容は、事実なんですか?」

K氏
「確かに、ちょっと盛っているところはあります。でもそれは、(人が)化粧をして自分を少しでも良く見せようというのと同じです。動画では、私はステージで歌う歌手のような役割。シナリオやコメントを考えるのは、別のプロモーターです。」

記者
「そのプロモーターは誰ですか?」

K氏
「それは絶対に言えない。」

K氏が口にした「プロモーター」とは何者か。K氏と面識がある関係者が、取材に応じました。この関係者によると、情報商材ビジネスを取りしきっているのがプロモーターで、K氏は広告動画の出演者にすぎないといいます。

K氏を知る関係者
「(動画の出演者は)ただ単に派手な生活をアピールすることにたけている。いわゆる教祖になって生徒を洗脳することにはたけているんですけど、相手の心を変える文章を書いたり、相手の“ない懐”をさらに開かせようとする動画を作るスキルというのはないです。必ずこの上に、企画を立案する人が必ずいます。表に出てこない分、ここが黒幕になるということは間違いない。」

取材を進めると、こうしたプロモーターが複数存在することが判明。K氏のグループと別の1社で働いていたという男性が、取材に応じました。男性がまず口にしたのは、情報商材のもうけが桁違いだということです。

プロモーターのもとで働いていた男性
「1つの案件で10億円とかって売り上げたりするんですよ。社長とか幹部はタワーマンションの高層部に住んで、ランボルギーニみたいな高級車を乗り回して。」

一体、どのような人たちが働いていたのか。

「20代が圧倒的に多かったですね。反社会的勢力的な雰囲気があって、半グレといいますか、中には元ヤミ金業者とか。」

男性は、組織の内情を具体的に証言しました。

「まずはシナリオを練ったり動画を作ったりする、ある意味一番メインの部署。プロモーターとかの人がシナリオを作って、大体こんな感じでしゃべってくれと。カリスマが何円稼いでいるというのは、ウソなものばっかりですね。」

中には、費用を回収する取り立ての部署まであったといいます。

プロモーターのもとで働いていた男性
「どなり声が聞こえるんですよ。『何とかさんよ、何回も電話してるけど無視しやがって、金払えよな!』みたいな感じで。」

トラブルから身を守る術

武田:怖い話ですけれども、結局、何者なのでしょうか?

斉藤直哉記者(科学・文化部):まだ、どういった組織なのかということはまだ分かっておらず、謎が残されている状況です。

武田:引き続き取材を続けるということですね。広告がフェイクだということもそうですけれども、売っている情報そのものも問題があるということですよね。

斉藤記者:消費者庁は、“誰でも簡単に投資した以上の利益が確実に得られる”などという話については、まずうそだと疑ってほしいと話しています。今回、こうしたトラブルが増加している背景には、SNSやスマートフォンの普及があるということで、こうしたものを悪用する業者というのがまた出てきますので、消費者庁としては「消費者ホットライン188」へ相談してほしいと呼びかけています。

鎌倉:そのほかにも、困った方、こういった方法もあります。これは、同じトラブルに遭った人どうしを集めるネット上のプラットホームで、一定数の被害者が集まれば、弁護士を紹介して、場合によっては集団訴訟も可能。実際に返金に成功している事案も出ています。

武田:広告の信頼を取り戻すためにも、業界を挙げて、今すぐ何か対策が必要ですね。

田辺記者:今やらないといけない事態になっていると思います。

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