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2019年1月15日(火)

不正横行!?ツアーバスの“闇” ~追跡取材 軽井沢バス事故3年~

不正横行!?ツアーバスの“闇” ~追跡取材 軽井沢バス事故3年~

15人が死亡した「軽井沢ツアーバス事故」から3年。バス業界は安全管理を誓い、国は規制強化を進めてきたはずだったが、今も人命に関わるようなバス事故は年間300件に上る。取材を進めると、表面上は法令を守り、安全対策をしているように見せかけながら、水面下で不正を続けるバス会社が存在する実態が見えてきた。最近重大な事故を起こしたバス会社は、法律で義務づけられた「運転手の健康管理」をおざなりにしていた事実を告白。またある運転手からは、「国の監査を逃れるため、会社の名義をころころ変えていた」と驚きの証言も明らかになった。事故の教訓が生かされないツアーバス業界の闇に迫る。

出演者

  • 尾木直樹さん (法政大学特任教授)
  • 戸崎肇さん (首都大学東京・特任教授)
  • 武田真一 (キャスター) 、 田中泉 (キャスター)

ツアーバス 安全対策で不正が 重大事故 年300件超 何が

3年前の今日(15日)起きた、軽井沢のツアーバス事故です。長野県内のスキー場に向かっていたバスが道路脇に転落。事故の背景には、バス会社のずさんな安全管理がありました。死者15人。過去30年で最悪のバス事故でした。

事故を受けて国は、85項目にわたる対策を実施。違反が見つかった場合の処分や罰則が、大幅に強化されました。にもかかわらず、死傷者が出るなどの重大事故は、年間300件以上起きているのです。
一体なぜなのか。一昨年(2017年)事故を起こした会社が、取材に応じました。北海道の国道で、居眠り運転でバスが横転。40人が重軽傷を負いました。このバス会社は法令で義務づけられた、運転手の体調確認を行わない日があるなど、違反が見つかりました。

バス会社安全管理責任者 成田裕行さん
「北海道を楽しみにきていただいたお客様を、一瞬にして凄惨(せいさん)な事態にしてしまったことは、旅客運送業としては、あるまじき行為だなと。(体調確認が)おざなりにやっていたところが、どうしてもあったんじゃないかと思います。」

追跡 “水面下”の手口

取材を進めると、より悪質なケースがあることも分かってきました。
関西のバス運転手Aさん。安全上問題があるとして禁止されている、「日雇い」の形態で働いています。

貸し切りバス運転手 Aさん
「明日ちょっと仕事あるねんけど行ってくれへんかなって、そんな形で電話が入ってきて、いきなり言われることもある。」

「契約書みたいなものは?」

「無い。交わしてないですわ。」

バスの運転手の勤務は原則1日13時間までと決められていますが、18時間以上働く日もあります。運行ルートの指示書も渡されないことがあるといいます。ルートの安全を確保する目的で義務づけられているものです。

貸し切りバス運転手 Aさん
「急な出庫だったら、運行指示書がないときもありますわ。困りますね。」

どうすればルールを徹底できるのか。軽井沢の事故のあと、国が罰則強化とともに打ち出したのが、チェック機能の強化です。バスの事業者で作る民間の機関が立ち入り調査をする、巡回指導を行っています。

指導員
「(勤務時間)13時間超えがちょくちょくある。」

重大な違反が見つかれば国の監査が入り、行政処分につなげる仕組みです。

しかし、どこのバス会社にいつ入るか事前に伝えられるため、対策できるというバス事業者もいます。

バス会社 社長
「(巡回指導は)日にちを指定してくる。何月何日の何時ごろ行きますと。そのときは対応するから、全部できるわけ。不正をいっぱいしているところは、手入れされないだけの自信を持っている。実際に入っても大丈夫なんだもん。証拠あげられないから、どうにもならない。」

さらに、監査で不正が見つかっても、処分を逃れる手段があることも分かってきました。日雇いの形態で働いていると証言した運転手のAさんは、会社が、名前や事務所の場所をたびたび変えたといいます。

「ある日突然、名前が変わったと?」

貸し切りバス運転手 Aさん
「そうですね。」

しかし、実態は同じ会社でした。今回、独自に入手したバスの車検証。名義は異なりますが、車台番号は全く同じ。会社が変わっても同じバスが使われていました。

仕事の連絡をしてくる人も同じでした。見かけだけ会社を変えたのは、国の処分を逃れるためではないかと疑っています。

貸し切りバス運転手 Aさん
「監査何回も入られて、それなら名前変えてしまいよる。名前変えて、経営者変えて、役員変えたら分かれへんから。」

軽井沢の事故のあと、国の対策作りに携わった加藤博和教授。今も抜け道が残ってしまい、規制の限界を感じています。
国の監査で違反が見つかっても、処分が出るまでに数か月はかかります。その間に別の会社を立ち上げ、親族に経営を行わせたり、バスの車体の色やナンバーを変えたりされると、同じ会社がどうか分からなくなり、処分を出せないのです。

名古屋大学 加藤博和教授
「頻繁に名前が変わっているような会社は(処分逃れをしている)可能性がある。法律を守っていない、守っても抜け駆けして、その中でいろいろ悪いことをする人はいっぱいいるわけなので。(対策に)完璧を求められると非常につらいところがある。」

軽井沢バス事故3年 教訓は

3年前の教訓が生かされず、今も根強く残る不正。軽井沢の事故で次男を亡くした、田原義則さんです。遺族会の代表として、たびたび国や業界に対して安全管理の徹底を求めています。

田原義則さん
「2度とあのような事故を起こしてほしくない。ひとつ間違えばというバス事故が年に何回も起こっていますから。今のやり方でいいのかというのは、国土交通省も振り返りをしていただきたい。」

なぜ? 軽井沢バス事故の教訓は

ゲスト尾木直樹さん(法政大学 特任教授)
ゲスト戸崎肇さん(首都大学東京 特任教授)

武田:軽井沢の事故では、尾木さんご自身のゼミ生も4人、犠牲になりました。怒りを持ってご覧になったのではないでしょうか。

尾木さん:本当にショックですね。これは、ご遺族にお見せすることができないほど、つらい思いがしました。ご遺族のお墓参りをしながら、それでお話もゆっくり聞いたりね。それから2日前には、実際にけがをして、今、頑張って働いている学生たちにも会ったんですけれども、僕が感じたのは、やっぱり亡くされたご遺族の方は、時間は止まったままなんですよ。大けがをした学生たちでも、命があれば、なんとか前進しようと思って頑張っているんですよね。3年目の今回すごく感じたのは、命のある子たちは動いて、生活を作っていっている。でも命を落としたご遺族たちは、そのまんまで、つらい思いをされていて、せめてもの、これが子どもの犠牲が安全策に生かされればというのを、はっきりおっしゃるわけです。そういうことを考えると、亡くなったこと、それから今、必死になって生きてる子とのギャップが、ぐーっと広がっていくと。これはご遺族にとっては一生続くわけですから、これはね、いけないと思います、とんでもないと。

田中:貸し切りバスというのは、事故を起こしては規制が強化され、でもまた事故が起きるということを繰り返してきたのですが、あの軽井沢の事故を受けて、国とバス業界は総合的な対策を講じたはずでした。しかし、NHKが調べたところ、事故のあとの3年間で、行政処分や警告を受けたバス会社は、全国でなんとおよそ1,000社にも上ることが分かったんです。
違反件数の半数以上というのは、運転手の健康状態などを確認する「点呼」の違反でした。この点呼というのは、軽井沢のバス事故を起こした会社でも指摘されたもので、国の事故調査委員会が事故の要因に挙げているものです。また、2割近くは、「車両の定期点検を行わない」などの車両に関わる違反でした。

武田:尾木さんも事故後の動きをずっと追ってこられて、巡回指導や監査の体制に問題があるということを、お感じになっているそうですね。

尾木さん:制度的には85もの項目が整備されてきたと。これはご遺族の一生懸命訴えられた成果だと思いますけれども、前進はした、体制は整ったんだけれども、本当に中がどうなのか、実効性があるのか、空洞化しているのではないのかというところで見ていかなければいけないと思うんですよね。そこらへんが、本当に本気でやってくれてるのかなというのを感じざるをえないんですけれども。その「適正化センター」というのがありますけれども、人数はどれぐらいおられるんですか?

武田:巡回指導を行っているところですね。そのあたりの実効性がどうなのかということを、今日、石井国土交通大臣に問いましたので、お聞きください。

取材班
「監査の処分を逃れようとする業者に、どのように対応をするのか?」

石井国土交通大臣
「国の監査体制につきましても強化をし、また新たに(バス事業者で作る)機関を設けて巡回指導を行う。着実に行うことによって、監査逃れなどが起こらないように取り組んでいきたい。」

武田:このように「着実に行いたい」と。

尾木さん:「着実」とおっしゃっていたので、頑張ってくれてるんだなと思うんですけれども、そのバス会社は4,000ぐらいあるんでしょう?それに対して、何人ぐらいなんでしょう?

武田:バス業界に詳しい戸崎さん、いかがでしょうか。

戸崎さん:まだ十分ではないですね。やはり完全な監査をしようとしたら、やはり相当な人数が必要です。そのためにはやはり新たに人を雇わなければいけない。そのためにお金がかかりますから、それだけの財政措置ができないので、やはり監査の質を高めるためには、覆面調査とか、いろいろな形の工夫が必要になってきますし、行政だけではなくて、業界、あるいはわれわれも含んだ社会的な監査が必要になってくると思います。

武田:その抜本的な対策を取ったにもかかわらず、なぜ、こんなことになっているのかという点については?

戸崎さん:先ほど尾木先生もおっしゃいましたけれども、そもそも業界は業者が多い。その中で、ドライバーさんが不足している。さらに冒頭にあったように、インバウンドといわれている海外からのお客さんがどんどん来ている。だからドライバーさんに無理が生じてくるわけですね。先ほどの点呼の話も出ましたけれども、この点呼を、あまりにも厳しくやり過ぎると、当日、体調が悪いから運転できないということになれば、これ、もうバス会社としては上がったりになりますので、そういった要因もあって、なかなかルールが守られないというところはありますね。

尾木さん:これは本末転倒という言葉がぴったりですよね。ありえないと思います。

水面下で“下限割れ”が

田中:もう1つ、安全管理がずさんになる背景として大きいのが、バス会社の経営の悪化なんです。安全を維持するには、さまざまなコストがかかりますよね。例えば安全管理の担当者を雇う人件費ですとか、安全設備の費用、さらにはバスも定期的に新しくする必要があります。国はこうした安全にかかる必要最低限の費用を盛り込んだ、「下限運賃」というものを実は定めています。これは法令で義務づけられているものなのですが、残念ながらかつては形骸化していまして、軽井沢の事故を起こした会社も、下限を下回る安い運賃で仕事を請け負っていたことが問題となったんです。国はその後、下限運賃を順守させるための対策も強化して、「下限割れは減った」としています。

しかし今回、NHKの取材で、水面下に潜って、今もこの下限割れが続いている実態が明らかになりました。

続く“下限割れ” そのカラクリ

関東地方にある、中規模のバス会社です。安全管理を担当する社員が、今も下限割れが横行している実態を明かしました。

バス会社 社員
「下限とかっていうのは全然(頭に)ないです。それは考えたこともない。」

見せてくれたのは、外国の旅行会社と行ったやり取り。たびたび値切りを要求されていました。

「これは中国の旅行会社とのやり取り。これは4万円で(受けた)。」

特に下限割れが大きいのは、外国人観光客のバスツアーだといいます。国内のツアーに比べ運賃の相場が安く、日本の運賃制度を十分理解しない旅行会社もあります。しかし、日本のバス会社は9割が中小規模。厳しい競争の中、要求を断るのは難しいといいます。

バス会社 社員
「仕事欲しいから(適正な運賃を)全部よこせとはできないと思いますね。もちろん契約はしてもらえないです。」

国が安全を担保するために最低限必要と定めた「下限運賃」。人件費や車両費の維持費などに、それぞれ安全確保のための人員や新車の購入費などを上乗せします。その他の経費なども組み込み、基準額を設定。ここから10%差し引いたものが、下限運賃です。軽井沢の事故を受け、下限運賃は、国の監査対象となる運送引受書に明記することが義務づけられました。

ところが、下限割れをしても監査をくぐり抜ける方法があるといいます。そのからくりが、「手数料」です。

バス会社 社員
「一番低い金額だと、9万9,000円。」

「この金額は最低もらわないといけない?」

「そうですね。」

「実際の金額はこれだと。」

「そうです。6万円。」

例えば、下限運賃が9万9,000円のツアー。バス会社は、最低この金額を受け取ることになっています。ところが、宣伝や集客にかかる「手数料」という名目で、3万9,000円を逆に旅行会社に支払います。安全確保に必要な下限運賃を下回る、6万円で請け負うことになるのです。この仕組みは、日本人向けのツアーでも広く行われているといいます。実はこの手数料、運送引受書に記載する義務がありません。見た目上は、請求額が下限運賃を下回っていないのです。

バス会社 社員
「割引というのはダメという認識ですね。だから『手数料』と。(法的に)グレーだと思うんですよ。」

数年前から出回り始めたという、バス専用の管理ソフトを見せてくれました。ツアーの行程などを入力すると、下限運賃とともに、手数料も自動的に表示する機能が備わっています。

「ちゃんとコンプライアンスを守って、しっかりやっているように取り繕っているのかな。書類を提出すれば安全対策が通ったことになる。いつか(事故を)やっちゃうんじゃないかと心配です。怖いですよ。」

こうした手数料を、日本の旅行会社側はどう捉えているのか。業界団体の幹部は、問題になっていることは認識しているとしつつも、本音は別だと語りました。

旅行業界団体の幹部
「手数料は当然いただくものであると。旅行業界としては、手数料は通常の営業の経費のやりとり。バス会社も旅行会社を通じることによって仕事が入ってくる。そして両方の会社が、なりわいがいけているわけですから。」

手数料は、あくまで旅行会社が行う営業活動の対価だと説明。手数料がなければ、逆に旅行会社の経営が圧迫されると訴えました。

「今はこういうご時世ですから、非常にシビアにお客さんは見ているから、なんであんたのところのバスは高いのと。当然の商習慣の中での手数料ですから、この手数料を出すことによって下限割れとなれば、ほぼこの(旅行)業界は商売にならない。」

軽井沢の事故のあと、下限割れは減ったとする国土交通省。手数料による実質下限割れは問題ないのか、認識を問いました。

国土交通省 バス事業活性化調整官 藤井裕士さん
「実質的な下限割れというのは、法令違反にあたると考えている。旅行会社とバス事業者はBtoB(企業間取引)になるので、下限割れとならないように手数料を国で一律に決めることは、個別の専門家の判断・審査もあるので、国で一律に決めるのは困難と考えている。」

運転手の安全管理を怠り、40人が重軽傷を負う事故を起こした、北海道のバス会社です。事故後は、安全の確認を運行途中にも行ったり、新たな設備を導入したりするなど、対策を進めています。人命を守るツアーバスの責任を痛感しています。

バス会社安全管理責任者 成田裕行さん
「事故の根絶に向けて、代表取締役から、上から下まで同じ方向を向いて、事故の無いようにいかに進んでいけるかという認識をどこまで持てるかが問われているところだと思います。」

どうする?“実質下限割れ”

武田:尾木さん、いかがでしょうか?

尾木さん:事故が起きてからでは遅いのであって、それぞれ言い分はおっしゃっていますけれども、命を預かっているのであって、ほかの業種とはちょっと違うんだというところ、ここの自覚をもっと持ってほしいなと思いましたね。

武田:安全を担保するための最低限のコスト、本当にきちんとかけるようにしてもらいたいというふうに思うんですけれども、戸崎さん、この手数料との兼ね合いはどう考えればいいのでしょうか?

戸崎さん:通常の商行為に伴う手数料は払って問題ありません。ただいまのVTRにあるように、それは次の仕事をもらうためのキックバックになってしまうと、その分、バス会社が安全に対するコストをかけなくなるということが問題なんです。やはり安全というのは、ただじゃない。それに対してきちんとお金をかけるような体制にしていかないと、こういった事故は繰り返されてしまいますね。

田中:この手数料による実質的な下限割れについては、バス業界と旅行業界が、連携して対策を始めています。例えば、通報窓口を設置して、下限割れが疑われるケースについては事業者に改善を指導したり、あるいは国に通知したりするなどの体制を整えています。しかし、バス専門の行政書士・飯島勲さんは、このように話しています。
「“バスツアーは安い”という常識がある状況では、仮に“手数料”のチェックを厳しくしても、例えば“サービス料”、あるいは“ガイド料”など、別の名目を立てて、実質値引きに近い状況は続くのではないか」。

軽井沢バス事故3年 安全は守られるか

武田:さまざまな事例を見てきましたけれども、ツアーバスの安全を徹底するために、結局何をしていけばいいのでしょう?

戸崎さん:ここに2点挙がっていますが、1つは監査体制を、行政を中心としてやっていくと。今、監査要員は大体420名強で、それが今、だんだん増えてきていますけれども、やはりそれでも不十分です。それをより実効性を高めるためにどうするか。さらには、安全なものを選び取っていただくために、バス業界も安全の認証制度などを作って、そしてこれを選んでください。ここにあるように、「セーフティーバス」という制度をやっています。こういったものをきちんと消費者に訴えて、選んでいただくということが大事だと思います。

武田:こういうマークが貼られているわけですね。

田中:ちなみに、どこのバス会社がどういう認定を受けているかについては、日本バス協会のホームページでも見ることができます。

武田:ツアーバスの事故、本当に二度と起こさないでほしいと思います。尾木さん、国やバス業界に何を期待されますか。

尾木さん:やっぱり、本当に命の安全を守るということがどんなに大事なのかと。失われた命は、もう帰ってこないんだという、当たり前のことですけれども、ここへもう1回、原点に立ってほしいということですね。そしてそのためには、これだけ安全確保のためにはお金がかかるんだと、コストがかかるんだということを、正直にわれわれ国民にも訴えてほしいし、われわれの意識も、安全・安心のためには高いコストもかかって、僕ら利用者も、それは応分に負担していかないといけないという、そういう常識っていうのかしらね、そのレベルまで高めていかないといけないという気が、すごく今回しましたね。

武田:犠牲になった命に報いるためにも。

尾木さん:報いるために、ぜひ、われわれの意識も変えたい。

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