クローズアップ現代

毎週月曜から木曜 総合 午後10:00

Menu
2018年11月21日(水)
密着!移民集団“キャラバン” ~混乱のアメリカ・メキシコ国境では?~

密着!移民集団“キャラバン” ~混乱のアメリカ・メキシコ国境では?~

治安悪化や貧困による苦難を逃れ、ホンジュラスなど中米諸国からアメリカを目指す移民たちの集団「キャラバン」。出発から3週間以上が経過し、ついに国境の町、ティファナに第一陣が到着した。一方、アメリカは国境地帯に州兵などを派遣し、不法な越境への警戒を強めている。祖国に絶望し、生命を賭け、アメリカ移住に希望を託すキャラバンの人々。彼らを拒絶するだけでよいのか?移民への対応をめぐって揺れるアメリカの人々。双方の姿を、国境地帯で見つめる。

出演者

  • NHK記者
  • 武田真一・鎌倉千秋・田中泉(キャスター)

ついに国境へ!移民キャラバン なぜ今1万人がアメリカへ?

鎌倉:今、後ろから移民キャラバンの人たちがこちらに向かってきています。皆さん、数千キロの長い旅をここまで来ました。

アメリカとの国境の街、メキシコ・ティファナです。先週、数百人の人がある場所を目指していました。

鎌倉:あちらに “Access to USA”、ここから歩いてアメリカに入国するための門というのが、この先にあります。

国境の検問所の前に出来た列。アメリカに入国するための手続きを待つ人たちです。

4,000キロの道のりを経てたどりつきました。

ホンジュラス出身の移民
「うれしいです!ついにここまで来ました。」

ホンジュラス出身の移民
「子どもの未来のために、仕事を求めてやってきました。」

先月(10月)中米を出発したアメリカを目指す移民の集団。「キャラバン」と呼ばれ、日を追うごとに膨らみ続け、現在、その数は1万人ともいわれています。道なき道を進み、野宿しながらアメリカを目指してきました。中には多くの子どもの姿もあります。その先頭がアメリカとの国境の街、ティファナに到着したのは、今月13日でした。

鎌倉:国境の近くに本当に大勢の人が滞留するような状況だったので、急きょ数日前に、この施設を提供することになったわけですね。

これまでにたどりついた人は2,500人。泊まる場所がないため、市が開放した公園にテントを張って過ごしていました。その中に、小さな赤ちゃんを連れた女性がいました。ホンジュラスから来た、シオマラ・チリーノスさん。

母国は治安が悪く、夫も安定した仕事を得ることはできませんでした。息子は生まれながらの持病を抱え、治療費も大きな負担になっていました。

ホンジュラス出身 シオマラ・チリーノスさん
「飢えとの闘いでした。息子の薬を買ったら、食べ物も買うことができません。アメリカで1週間働けば、ホンジュラスの1か月分の給料を得ることができます。」

ホンジュラスでは、犯罪集団が強盗や人身売買を繰り返し、市民の日常生活を脅かしています。殺人事件の発生率も、世界で最も高い国の一つです。

シオマラ・チリーノスさん
「もしトランプ大統領が目の前にいたら、子どもたちの将来のために、あなたの国に入って働くチャンスをくださいと言います。子どもたちを読み書きのできない人間にしたくないのです。」

今回のキャラバンはどうやって始まったのか。きっかけの一つが、人々の間で拡散した、あるSNSの投稿でした。「危険な国を出て、アメリカを目指そう」と呼びかけたのは、移民を支援するNGOでした。

集合場所や移動経路も逐一更新され、大勢の人たちがキャラバンに参加していきました。

鎌倉:フェイスブックを使っている人。

人々はSNSを使い、情報収集を続けてきました。最も気にしているのが、移民を巡るアメリカの動きです。

アメリカ トランプ大統領(6月18日)
「アメリカを移民の収容施設にしない。不法入国する人々が引き起こした殺人や破壊を見てみろ。」

移民に強硬な姿勢を取るトランプ大統領。この夏以降、受け入れの基準をより厳しくしてきました。

先週、シオマラさんは入国のための手続きの列に向かいました。しかし、窓口で手続きをするだけで3週間かかると言われました。渡されたのは番号が書かれた紙切れの整理券。

申請が受け付けられても、入国が許可されるのは10人に1人にも満たないといいます。

シオマラ・チリーノスさん
「もうここまで来たら、誰もがあらゆる選択肢を考えています。中には違法な業者にお金を払って国境を越える人も出てくるでしょう。」

ついに国境へ!移民キャラバン 警戒強めるアメリカ 果たして…

一方、国境を挟んだアメリカのサンディエゴ。移民キャラバンに対する警戒感が広がっています。トランプ大統領は、国境警備に兵士を5,900人派遣しました。新たに有刺鉄線も張り巡らされ、監視の目も強化されています。警戒するのは、手続きを経ずに不法に国境を越えてくる移民です。しかし、国境地帯の中には警備が手薄な場所も少なくありません。不法移民の流入を止めることは難しいのが実情です。国境沿いの土地を所有する男性です。

国境沿いに土地を所有 ティム・バーゲットさん
「あそこに不法移民がと通った跡が見えるでしょう。」

国境の川にはフェンスもなく、先週もここを不法移民が通っていったといいます。

ティム・バーゲットさん
「水深は1メートルちょっと。泳いでも歩いてもボートでも渡れる。ここが格好の抜け道になっているんです。まるで無法地帯ですよ。」

先月、不法に国境を越えた後、拘束された人は6万人に上り、その数が減る兆しはありません。アメリカの国境の街では、不法移民の増加に対応が追いつかなくなっています。アメリカ側の収容施設は満員で、入りきらない人が一時的に施設の外に出されています。足にGPS装置を付けられ、監視の対象にされていました。

グアテマラ出身の移民
「足につけたICタグは、私にとっては本人証明書で、どこにいるのか入国管理局が把握するためのものです。」

大規模な移民キャラバンの到来。アメリカとメキシコの国境の両側で、緊張が高まっています。

ついに国境へ!移民キャラバン 鎌倉が現地で見た現実

武田:現地で取材している鎌倉さん。キャラバンの人たちのせっぱ詰まった事情、胸に迫りましたが、実際に接してみてどう感じましたか?

鎌倉:私、一昨日(19日)までティファナで取材していたんですけれども、移民の人の中には、「すでにここに来るまでに多くの人が亡くなりました」「後ろにいた人が行方不明になった」というふうに話す人もいたんです。私たちのところにやって来ては、母国の深刻な状況を伝えてほしいと、本当に思いがあふれるように訴える人も多くて、一人一人の話を聞いていますと、この過酷なキャラバンの道のりや、待ち受ける難民申請の厳しさよりも、はるかに母国の生活のほうが想像を絶する悲惨な状況にあるんだと感じました。

武田:アメリカ中間選挙の報道の中で、このキャラバンは注目されてきたわけですけれども、そもそもこれはどういうことなのか、なぜ今、これほど大規模になっているのでしょうか。

鎌倉:実はもともと、中米からメキシコを通ってアメリカに向かう移民というのは、一定数存在しているんです。ですが今回は、これまでにないほどの規模になっているのが特徴なんです。中でも、女性や子どもが大勢一緒に移動しているのは珍しい光景だと、地元でも聞きました。大勢いればそれだけ襲われる危険が少なくなるため、これまでは参加しづらかった人たちがどんどん参加している状況なんです。3日前にも、このメキシコシティから北へ向かってキャラバンが出発したばかりで、今後も多くの移民が、ここからアメリカを目指すものと見られます。

武田:鎌倉キャスターには、また後ほど聞きます。

田中:移民キャラバン、現地で取材しますと、確認できただけで大きく4つのグループ、およそ1万人が今、アメリカを目指していることが分かりました。第1陣は、すでにアメリカの国境付近に到達しています。第2陣は、メキシコシティをたって、今、アメリカに向かう途中です。

さらにこのほかにも、第3陣、そして第4陣が、すでにメキシコの国内に入っています。どこから来たかといいますと、このメキシコの南、主にグアテマラやホンジュラス、そしてエルサルバドルです。今回、私たちはキャラバンに参加している50人以上に直接取材をし、国を離れた理由を尋ねました。その結果、最も多かったのは、「治安の悪さ」、次が「貧困」でした。このうち、自分や家族が直接狙われたという人が、全体の3分の1近くいました。例えば「ギャングなどに命を狙われた」「脅迫され、財産を奪われた」「拉致されて長期間、拘束された」という声がありました。

武田:キャラバンが迫っている、アメリカ側のカリフォルニア州には神津記者がいます。そちらの状況はどうなっているんでしょうか?

神津全孝記者(ロサンゼルス支局):私は今、アメリカ側のメキシコとの国境の街、サンディエゴにいます。私の後ろに見えるのが、国境の壁です。

早朝の今も国境警備隊が警戒に当たっていて、物々しい雰囲気が漂っています。ここアメリカでは、中間選挙の期間中、トランプ大統領がたびたびキャラバンを敵視する発言を繰り返し、その動向に大きな関心が集まりました。ところが、選挙後はほとんど言及しなくなったため、トランプ大統領が票集めのために有権者の反移民感情をあおり、政治的に利用したという批判も出ています。キャラバンがメディアに取り上げられることも少なくなり、世間の注目も薄れつつあるというのが実態です。しかしこうした中でも、目の前にはかつてない規模の移民が押し寄せていて、これにどう対応すればいいのか、ここ、国境の街だけが現実に直面しているように感じます。

武田:こうした中、キャラバンを人道的に支援しようという動きが、国境を越えて広がっています。

アメリカ目指して!移民キャラバン 密着ルポ 広がる人道支援の輪

今もメキシコを北上しているキャラバンの第2陣のグループです。炎天下の中、歩き続け、人々の表情には疲労の色が濃くなっていました。

過酷な状況の中でも、それぞれの家族が母国に引き返せない事情を抱えていました。アリソン・カナレスさん。3人の幼い子どもを連れ、ホンジュラスから1,500キロの道のりを移動してきました。

ホンジュラス出身 アリソン・カナレスさん
「私たちは身元を証明するものや、お金を準備する間もなく、追われるようにここまで来ました。」

3年前、アリソンさんは突然、犯罪集団に拉致され、2年間、性的な暴行を受け続けました。その時に、今2歳になる息子が生まれたといいます。子どもを連れ、犯罪集団から命懸けで逃げ出しました。

アリソン・カナレスさん
「国に戻れば殺されます。私にはもう国を捨てるしか選択肢はないのです。」

生き延びるためにキャラバンに参加したアリソンさん。支えとなったのが、NGOや地元の自治体の人たちです。幼い子ども連れの家族のためにトラックが用意されました。荷台に50人が乗り、長時間移動します。

体調を崩した人のために、医療チームによって薬が配布されていました。

医療スタッフ
「同じ人間です。彼らには今、支援が必要なのです。人間誰しも助けが必要な時があります。」

アリソン・カナレスさん
「国から逃れてきた私たちをすごく支えてくれています。どんなにつらくても、雨に打たれても、目的地にたどり着きます。」

目指す国境の街、ティファナでも移民を受け入れる準備が整えられていました。地元の自治体が、たどりついた人たちが屋内で休めるようマットを用意していました。

ところが、想定をはるかに上回る人々が一気に殺到。街にあふれた人たちと、いらだつ地元住民の間で小競り合いが起きています。

移民
「休ませてくれ、お願いだ。」

地元住民
「バリケードをつくるぞ。」

それでも地元の市長は、人道上、必要な支援は続けていくとしています。

メキシコ ティファナ フアン・ガステルム市長
「できないことではなく、やるべきこと。問題にどう対処すべきかについて考えよう。」

国境を越えたアメリカ側でも、人道上の懸念が広がっています。不法入国を試みる移民たちが、国境沿いの砂漠地帯で死亡するケースが相次いでいるからです。

「あそこを見てください。」

その多くが、脱水症状や栄養失調によるものだといいます。移民を支援する団体は、国境を越えた人たちが通るルートに水や食料などを置いています。この女性は、かつて父親がこの道をたどってメキシコからやって来たといいます。

父と同じ境遇の人々を見捨てることはできないと活動を続けています。

支援団体 ジャクリーン・アレラノさん
「私はここから生まれたようなものです。私はどこでも自由に行けるので、砂漠で亡くなる人や危険にさらされ、苦しんでいる人を助けたいのです。いくら(政権が)壁をつくろうとしても、生き残るため人々が移動することは止められません。」

ついに国境へ!移民キャラバン アメリカは どう対応?

田中:国境をまたいで広がる支援。UNHCR=国連難民高等弁務官事務所は、「キャラバンの中には、母国で迫害を受けたり、命の危険にさらされたりして、国際法上、保護しなければならない『難民』に該当する人も含まれている可能性がある」として、各国に援助を呼びかけています。

武田:カリフォルニアにいる神津記者。アメリカでこうした支援の動きというのは、広がっているんでしょうか?

神津記者:ここカリフォルニア州は国境に近く、移民に寛容な人たちが多く住んでいることもあり、行き場を失った移民の人たちのために、例えば寄付を募ったり、食料や衣服などの支援物資を送ったりする動きはあります。ただ、これが全米で大きなうねりになっているかというと、そうとは言えません。むしろ、移民に対する恐怖心や不信感をあおるトランプ大統領の発言もあって、反移民感情が高まっているようにも感じます。VTRにもありましたが、やむをえずに不法に国境を越える人たちも後を絶たないのが実情で、こうした不法移民の増加も、アメリカの人たちの移民を巡る考え方をよりかたくなにしてしまっています。

田中:アメリカに不法に入国しようとして拘束された人の数は、トランプ政権が発足した後、増え続けています。去年(2017年)は34万人。今年(2018年)に入ってからは、10月までにすでに46万人。アメリカの取締りが厳しくなる中でも、移民たちの流れというのは止まっていないんですね。

武田:止められない移民の動きに対して、今後、アメリカはどう動くんでしょうか?

神津記者:トランプ大統領の移民政策がより強硬になっていくのは間違いないと思います。といいますのも、2年後にはトランプ大統領自身の再選がかかった大統領選挙が控えているからです。トランプ大統領はこれまでに、移民の受け入れや認定基準をより厳しくする指示を相次いで打ち出し、最近では、アメリカで生まれれば国籍を与えるとしてきた「出生地主義」さえ見直す考えも示しています。その一方、今回の中間選挙では、野党・民主党が議会下院の多数派を奪還したのも事実です。民主党からは、今回初めてイスラム系の女性議員が誕生し、また、ヒスパニック系の議員も次々に当選していて、背景には、移民に寛容であるべきだという声の高まりがあるのだと思います。このため今後は、トランプ大統領の下でより強硬な移民政策を訴える声と、アメリカが自由で開かれた寛容な国であるべきだという両方の声がこれまで以上に高まり、社会の分断が一層深まることも予想されます。アメリカにやって来る移民が増え続けるという現実を前にどう対応していくのか、立場の違いを超えた冷静な議論が求められることになると思います。

武田:そして、メキシコシティにいる鎌倉さん。アメリカへの入国が果たせないまま、メキシコ国内に滞留しているキャラバンの人たち、今後どうなるのか、そちらの動きはどうでしょうか?

鎌倉:入国審査に時間がかかることで、今後、アメリカに不法に入国しようとする人が現れるのは予想できます。一方でメキシコ側でも、次々と押し寄せる移民に対して、地元の住民感情が悪化してきているんです。国境の街のティファナでは、18日にも移民を受け入れるべきだとする住民と、これに反対する住民の双方がデモを行うなど、街は大きく揺れています。また、ネット上では、移民をバッシングする書き込みだとか、動画なども見られるようになっていて、メキシコ全体でも移民に対する厳しい声が上がり始めています。こうした中、焦点となってくるのは、メキシコ政府の対応です。来月(12月)には、アメリカのトランプ大統領のアメリカ第一主義を批判してきた、ロペスオブラドール大統領が就任します。この新しい大統領なんですけれども、先月にメキシコ国内にとどまりたい人には就労ビザを発行することを示唆して、アメリカへの入国を拒否された人たちの受け皿となる可能性を示しました。昨日(20日)のテレビ番組のインタビューの中でも「中米の人にもメキシコの人にも仕事はある」と発言して、移民がメキシコ人の仕事を奪うわけではないと、国民の不安を和らげようとしていたんです。移民が絶えずやって来る中、短期的な人道支援だけでなく、問題の長期化を前に、移民が滞留する地元住民の感情とどう向き合うのか、メキシコも国として対応が迫られています。

武田:より豊かで、安全な暮らしを求めて移動する人々。国境に押し寄せる大勢の移民は、直面する人々に警戒心や恐怖心を抱かせることもありますが、一人一人の移民の置かれた境遇を理解しようとすることは、この問題を考える上で欠かせない出発点だと感じます。