クローズアップ現代

毎週月曜から木曜 総合 午後10:00

Menu
2018年11月6日(火)
シリーズ アメリカ中間選挙②  “分断”されたアメリカの選択は

シリーズ アメリカ中間選挙②  “分断”されたアメリカの選択は

全米各地で、トランプ大統領と言動がそっくりの「ミニ・トランプ」候補が次々と出現!その背後には、2年後の再選まで狙うトランプ大統領が、自らの意に沿う候補者を支援し、対立する議員を次々と引退に追い込んでいった実態があった。しかし、こうした「不寛容」な手法についていけず、“トランプ離れ”をする支持者も出始め、そこに、民主党が食い込もうとしている。選挙戦に密着し、アメリカの、そして世界の行方を左右する民意の行方を探る。

出演者

  • 武田真一・鎌倉千秋 (キャスター)

投票始まる 激戦どうなる? “ミニ・トランプ”続々 ねらいは?

先ほどから投票が始まった、アメリカ議会の中間選挙。

「トランプ!トランプ!」

「消えうせやがれ!」

トランプ大統領の2年間で深まってきたアメリカ社会の分断は、さらに進むのか。

アメリカ トランプ大統領
「壁を作るぞ。」

「移民は犯罪者だ。」

「ワシントンからゴミを一掃する。」

トランプ大統領の過激な発言。今回の選挙では、同じような主張を掲げる「ミニ・トランプ」と呼ばれる候補者が、共和党の大きな原動力になっています。

共和党候補のCM
“国境の壁を作ろう。”

“ワシントンからゴミを一掃する。”

彼らは、不法移民の排除など、社会の多様性を否定するような不寛容な主張を掲げています。共和党が勝利すれば、こうした主張がさらに勢いを増すことになります。
中西部インディアナ州の共和党候補、マイク・ブラウン氏もその一人。この日は、射撃場で銃規制に反対する姿勢を支持者にアピールしました。裕福なビジネスマンの出身で、政界のアウトサイダーだというのもトランプ大統領そっくり。不法移民を排除し、アメリカ人の雇用を守ると訴えています。

インディアナ州上院 共和党 マイク・ブラウン候補
「ビジネスマン出身として、ワシントン政治をチェンジしたい。トランプ大統領の政策を後押しします。」

こうしたミニ・トランプたちは、トランプ大統領の熱烈な支持者に頼ろうとしています。

共和党 支持者
「トランプ大統領は、歴史上で最もすばらしい大統領だ。」

「経済が第一。ときどき変なことも言うが、国民や経済のためにがんばっている。アメリカに希望を取り戻してくれた。」

かつて、イスラム教徒を排除するトランプ大統領の姿勢を批判していた、マーサ・マクサリー候補。

(MSNBC 2015年)
アリゾナ州上院 共和党 マーサ・マクサリー候補
「ありえません。トランプ氏の発言は、共和党やアメリカの信念に反するものです。」

ところが、今回は一転してトランプ大統領に同調し、支援を求めたのです。

トランプ大統領
「彼女は強く賢く勇敢だ。」

マーサ・マクサリー候補
「(移民を阻止する)壁を作ろう!」

一方で…。

トランプ大統領
「お前はクビだ!出て行け!」

トランプ大統領の政策に批判的な議員は、次々に排除されていきました。こちらのベテラン議員は、大統領からツイッターで繰り返し誹謗(ひぼう)中傷を受け、引退を余儀なくされました。

トランプ大統領のツイッター
“人気のない現実を見ろ!この変人め!”

共和党 ジェフ・フレイク上院議員
「私はこの逆風の政治状況の下で、思ったように中間選挙の活動を行えなかった。」

トランプ政権下で、辞任や引退を表明した共和党の議員は37人。一方で、トランプ大統領の政策に同調したり、資金面で支援を受けたりしているミニ・トランプと呼ばれる候補者が、少なくとも66人擁立されたのです。

党内の多様な意見を排除し、みずからに忠実な議員を増やそうとしているトランプ大統領。それを後押ししているのが、巨額の選挙資金です。
アメリカ西海岸の高級住宅街、ビバリーヒルズのホテルで開かれたパーティーです。参加費は1人なんと150万円。パーティーでは、トランプ大統領を支持する政治資金団体が支援を呼びかけました。

政治資金団体副代表 キンバリー・ギルフォイル氏
「トランプ大統領のために立ち上がり、国のため、経済や雇用のために闘おうではありませんか。」

トランプ大統領の選挙戦略の参謀、カトリーナ・ピアソン氏です。ミニ・トランプを支援する背景には、2年後の大統領選挙で再選を狙うトランプ大統領の戦略があると明かしました。

トランプ大統領の選挙戦略アドバイザー カトリーナ・ピアソン氏
「今の議会には、トランプ大統領の邪魔をする議員がたくさんいる。中間選挙で勝利することができれば、邪魔者を取り除き、前回の大統領選挙で誓った公約をどんどん実現できるようになる。そうすればトランプ大統領は、次の大統領選挙で再選を果たせるだろう。」

事前の世論調査では、トランプ大統領率いる共和党が、議会上院で多数派を維持する勢いです。
一方で下院では、共和党が議席を減らす可能性が指摘されています。その背景には、一部の支持者のトランプ離れがあるといわれています。

 

過激な“トランプ流” 離れる支持者も

伝統的に共和党が有力な地域でも、トランプ大統領への疑問の声が上がっています。
インディアナ州に住む、アン・ウィシャードさんです。曽祖父から100年以上、共和党支持一筋の一家です。共和党への選挙協力でもらった記念品が、代々受け継がれています。

ウィシャードさんは、幅広い声に耳を傾けるというアメリカの価値観を体現してきた共和党に、誇りを持ってきました。しかし、異なる意見を排除するトランプ大統領のやり方に失望し、今回は民主党に投票することも考えています。

アン・ウィシャードさん
「かつて共和党はさまざまな人や意見を受け入れる“寛容な党”だったが、すっかり変わってしまった。父が生きていたら、今の共和党を見て、ショックで死んでしまうだろう。」

 

リポート:山元康司(国際部)

2年前、トランプ大統領に期待した人々にも変化が起き始めていました。東部ペンシルベニア州にある炭鉱の労働組合です。伝統的に民主党を支えてきましたが、前回の大統領選挙では、多くの組合員が「労働者の生活を守る」というトランプ大統領の支持に回りました。

労働組合 エドワード・ヤンコビッチ副組合長
「トランプ氏が“私はやる”と断言したことに、労働者は期待した。しかし今、2年前トランプ氏に投票した人は失望し、考え直しているだろう。」

国の経済は好調ですが、トランプ政権が財政赤字を減らすために年金や医療保険を切り捨てれば、生活が立ち行かなくなるという不安が広がっています。

「今回の選挙は私たちにとって、とても重要な選挙だ。」

組合が呼びかけたトランプ大統領に抗議する集会には、250人が集まりました。

組合員
「物価が上昇して、私たちの生活は苦しくなるばかりだ。トランプ大統領には本当に失望した。」

中間選挙に勝利し、2年後の大統領選挙への布石としたいトランプ大統領。

「GO!トランプ、2020!」

果たしてどのような審判が下されるのか。情勢は混とんとしたまま投票日を迎えています。

“トランプ流”への審判は?

武田:こちらは、首都ワシントン近郊にある投票所です。ここでは投票が2時間前に始まっています。現地は朝8時過ぎ、出勤前に投票に訪れる人などの姿が見られます。まれに見る接戦となっている今回の中間選挙、大勢が判明するのは、日本時間のあす(7日)午後になる見通しです。

果たしてトランプ大統領にどのような審判が下されるのか。現在は上下両院ともに、共和党が多数派となっています。事前の世論調査による情勢です。

鎌倉:まず上院については、共和党が49議席を押さえる勢いで、過半数を維持する可能性が高くなっています。一方、下院は、一部のトランプ離れもあり、民主党が僅かにリードしていましたが、最終盤に共和党も巻き返していて、予断を許さない状況となっています。

この下院で、共和、民主、どちらが過半数の議席を取るのか、それが焦点となっています。
というのも、仮に共和党が上下両院で過半数を維持した場合には、トランプ大統領が2期目も視野に、より過激な政策を打ち出していく可能性があります。一方、下院で民主党が多数派を奪還した場合、トランプ大統領の政策が議会を通らなくなったり、場合によっては大統領の弾劾に向けた動きが進む可能性があり、これは2年後の大統領選挙にも大きく影響することになります。

武田:ワシントン近郊の投票所で取材を続けている、油井支局長に聞きます。いよいよ投票が始まりましたが、情勢は読みにくくなっているようですね。この状況、どう見ていますか?

油井秀樹支局長(ワシントン支局):選挙戦の終盤で情勢は混とん。特に下院は不透明です。その理由は、共和党の激しい巻き返しにあります。トランプ大統領が眠れる共和党支持者を目覚めさせ、一気に追い上げたとみられます。トランプ大統領みずから先頭に立つ、極めて異例の選挙戦を展開してきましたが、その攻撃の対象はもちろん野党・民主党です。不法移民を守り、国内の犯罪を助長させている、「犯罪の政党」とまで主張し、民主党に対する敵意や怒りをあおることで、共和党の原動力へと変えてきました。

私は2年前の大統領選挙も、ここワシントンで取材しましたが、ほとんどの専門家がトランプ勝利を読みきれなかったのを目の当たりにしてきました。世論調査には出にくい「隠れ支持者」の存在も指摘されるだけに、結果を予測することは非常に難しいと思います。

武田:その共和党の最大の原動力となっているのが、トランプ大統領本人への根強い支持です。

鎌倉:こちらは、トランプ大統領の支持率です。数々のスキャンダルが取りざたされても、40%前後を維持しているんです。3月以降は、40%台割り込むことはありませんでした。

武田:この岩盤支持層の票を死守するため、大統領みずから、この2か月間で、全米およそ30か所を遊説する異例の過密日程をこなしてきました。

鎌倉:対する民主党ですが、反トランプの社会的なムーブメントと連携する形で、巻き返しを図ってきました。「♯MeToo」を合言葉に、権力を持つ男性によるセクハラを告発する動きから派生した、「ピンクウェーブ」と呼ばれる女性たちの運動。そして「レインボーウェーブ」と呼ばれる、LGBT・性的マイノリティーの人たちによる運動などと連携を進めています。

武田:さらに、民主党候補の応援には、あの人も走り回りました。オバマ前大統領です。任期を終えたばかりの大統領が政治の表舞台に出るのは、極めて異例です。「政治の暗黒から人々が目覚めようとしている」と、有権者を喚起し、反トランプで攻勢をかけようとしています。

今回の選挙では、アメリカ社会で寛容と不寛容を巡る激しい対立が起きています。その最前線となっているのが、メキシコと国境を接する南部テキサス州。移民をどこまで受け入れていくのか、市民たちが揺れていました。

寛容か不寛容か? 選択は

テキサス州上院 共和党 テッド・クルーズ議員
「壁を作るのです!」

テキサス州のテッド・クルーズ上院議員。2年前の大統領選挙にも名乗りを上げた、共和党の有力者です。トランプ大統領も応援に駆けつけ、そろって国境警備の強化を訴えています。

トランプ大統領
「民主党はアメリカの国民よりも、犯罪者の外国人を守ろうとしている。」

伝統的に保守系住民の多いテキサス州。25年間、共和党が上院議席を守り、共和党の牙城と呼ばれてきました。2,000キロにわたりメキシコと国境を接しているため、近年、移民が急増人口の4割に迫っています。トランプ政権が不法移民の親と子を引き離し、全米に波紋を広げる中、移民政策はテキサスの人々にとって切実な問題となっています。

このテキサスで、寛容な移民政策を掲げる民主党の新人候補が、急速に支持を伸ばしてきました。ベト・オルーク氏。オバマ大統領の再来ともいわれています。

テキサス州上院 民主党 ベト・オルーク候補
「どんな宗教を信じようが、誰を愛そうが、ずっとアメリカに住んでいても、きのう来たばかりでも、みな同じです。移民の親子が引き離された現実を目にしたわれわれが、この経験を踏まえ、すべての親子が再会を果たせるようにしましょう。」

ミュージシャン ウィリー・ネルソン氏
“オルークに投票しよう♪”

カントリーミュージックのレジェンドも、支持を表明。個人からの寄付金は歴代の上院議員候補の最高額に達し、クルーズ議員の政治資金の2倍近くに及んでいます。

テキサス州上院 民主党 ベト・オルーク候補
「多くの人々が立ち上がってくれて、とても勇気づけられています。希望を感じ、自信につながっています。」

オルーク氏の訴えは、伝統的な共和党支持者の心も揺さぶっています。2年前、トランプ大統領に投票したサラ・ベイリーさん。幼い子を持つ母親として、不法移民の親子を引き離す政策に心を痛めてきました。

共和党支持者 サラ・ベイリーさん
「移民の親子たちは苦しんでいます。トランプ大統領の経済政策は支持してきましたが、親子を引き裂く不寛容な政策は、私の信条に反しています。」

こうした声は、これまで共和党を支持してきたほかの若い母親たちの間にも広がっています。この日、ベイリーさんは、友人たちと候補者の討論会を見るために集まりました。

テキサス州上院 共和党 テッド・クルーズ議員
「オルーク氏は国境の壁の建設に反対しているだけでなく、すでにあるフェンスや壁についても多過ぎると言っています。しかしそれは間違っています。凶悪な犯罪者を野放しにするわけにはいきません。」

テキサス州上院 民主党 ベト・オルーク候補
「私の地元エルパソは、人口の4分の1が外国で生まれた移民たちですが、アメリカで最も安全な町のひとつです。壁の建設など何の解決にもなりません。」

ベイリーさんたちは、オルーク氏の、党派を超えて融和を訴える姿勢に共感しています。

友人
「オルーク氏は『共和党と協力して問題を解決したい』と何度も話していたわ。とてもうれしかったわ。」

共和党支持者 サラ・ベイリーさん
「そういうことを聞きたかったの。アメリカに必要な価値観よね。この国は、世界の国の見本でなければならないのよ。」

 

リポート:神津全孝(ロサンゼルス支局)

トランプ政権の下で強い風当たりを受けてきた当の移民たちは、社会が不寛容になっていくことをひときわ恐れています。5歳のころ、両親に連れられメキシコから不法に入国した、ノエ・ラブラドさん。6年前、オバマ政権によって合法的な滞在資格を与えられました。しかし、トランプ政権はその資格を撤廃すると宣言。このままでは強制送還される可能性もあります。

メキシコ系移民 ノエ・ラブラドさん
「私はアメリカでとてもいい教育を受けることができました。親身になってサポートしてくれる先生たちにも会い、今も覚えています。平等を求め差別と戦ってきた、そんなアメリカではなくなろうとしています。」

みずからは投票権を持たないラブラドさん。オルーク氏への1票につなげようと、投票所に行くことの難しいお年寄りなどの手助けを行ってきました。

「オルークさんに投票したかったから、助かったわ。」

ノエ・ラブラドさん
「投票率が上がり、移民にやさしい候補者が選ばれてほしいんです。」

「アメリカは今、重要な瞬間を迎えています。できることは何でもしたいのです。小さな活動ですが、大きな成果につながると信じています。」

寛容な社会を求める声は、どこまで広がりを見せるのか。そしてこの2年で分断が深まった社会は、どこへ向かうのでしょうか。

“南北戦争のような 臨界点に…”

武田:アメリカのあるべき姿を巡って、市民たちの葛藤が続いています。アメリカの選挙分析の第一人者で、政治評論家のジョン・ゾグビー氏に、社会を覆っている今の空気を読み解いてもらいました。

アメリカ政治評論家 ジョン・ゾグビー氏
「アメリカの分断は以前からあったが、トランプ大統領の下でより深まった。その分断は間違いなく、家族や近所の人の間にまで及んでいる。友人をどう選ぶかにも影響している。今回の中間選挙は互いに中傷合戦ばかりで、まさに『戦争』だ。かつては、どんなに激しく非難しあっても、選挙が終われば歩み寄った。しかし今、そのような歩み寄りは見られない。考えたくもないが、今アメリカは南北戦争のような“分断の臨界点”に立っているのかもしれない。
本来アメリカは人々を分断する力もあるが、団結させる強い力を持っている。すべては政治家たちの指導力にかかっている。」

アメリカ社会はどこへ…

武田:ゾグビー氏は、今回の選挙戦を「まさに戦争だ」と表現していましたが、長年、アメリカを取材してきた油井さんはどう捉えているのでしょうか?

油井支局長:私は、2001年にアメリカを襲った同時多発テロ事件の直後にワシントンに赴任しましたが、そのときアメリカは、愛国心の高まりによって、かつてなく結束していました。内政や社会的な問題については、保守、リベラルの間で分断していても、外交・安全保障では超党派というのが、アメリカの強みといわれてきました。しかし、今やあらゆる面で分断が加速しています。
そして、今回の選挙戦で見えてきたのは、まさしく両極の台頭でした。共和党は、ナショナリストとみずからを呼ぶ、
「トランプ大統領の政党」へと化しているように見えます。一方の民主党も、最も勢いがあるのは、党内左派の急進的な主張を掲げる勢力です。共和、民主の溝は、今後ますます広がる見通しです。そうなれば、アメリカの政策は、選挙の結果しだいで右へ左へと振り子のように振れ、その揺り戻しも大きくなるおそれがあります。かつてない局面にあるアメリカ。同盟国日本を含む国際社会に大きな影響を与えるだけに、深刻化する分断の行方に、目の離せない状況が続きそうです。

武田:私たちは2年前、全く予想しなかったトランプ大統領の登場に衝撃を受け、その後、型破りな主張や政策に翻弄されてきました。しかし、それは大統領一人のものではなく、アメリカ社会の分断された現実を投影したものであることが分かってきました。アメリカが次にどのような一歩を踏み出すのか、私たちもその選択と向き合っていかなければなりません。