クローズアップ現代

毎週月曜から木曜 総合 午後10:00

Menu
2018年10月31日(水)
AIがうまい米を作った!~“農業革命”最前線~

AIがうまい米を作った!~“農業革命”最前線~

今年、全国屈指の米所新潟で米作りに“革命”を起こすプロジェクトが始動した。田植えから稲刈りまで、1年を通じ収集したビックデータをAIに解析させ、最上級のブランド米を作る挑戦だ。経験や勘がモノをいう米作り、AIの力で美味い米は出来るのか?さらに北海道では、人気小説のモデルとなった無人農業ロボットの開発が進む。人手を全くかけない完全自動化の世界とは?技術革新がもたらす “農業革命”の最前線を追う。

出演者

  • 三輪泰史さん (日本総研創発戦略センター・エクスパート)
  • 武田真一・田中泉 (キャスター)

あなたの食卓を変える! AI・ドローンでおいしい米

ふっくら、つやつや。今年(2018年)取れたばかりのブランド米。おいしそうですよね。

猛暑。そして、たび重なる台風。異常気象を乗り越えて出来た、このお米。実は、人工知能・AIを活用して作られたんです。
今年、米作りの現場で驚きのプロジェクトが行われました。ドローンや人工衛星などを扱う企業が、米作りに関するあらゆるデータを収集。情報をAIで分析し、最上級のブランド米を作ろうというのです。
プロジェクトに参加した新潟市の米農家、加藤誉士寛さん。農業を始めて12年になります。

この新たな米作りに、1年にわたって密着しました。

米農家 加藤誉士寛さん(42)
「農業は“大変、汚い”みたいなイメージがあると思うんですけど、最新技術を使っているとか、労働力、そんなかからないのかなと思って。」

5月中旬、田植えが始まりました。この時、農家が特に気をつけることがあります。苗の成長にばらつきが出ないよう、田んぼの養分を見極めること。ベテラン農家でも難しいといいます。

米作り名人 関隆さん(66)
「田んぼ1枚の中でも、肥料分の多いところ少ないところがあって、みんなクセがあるので、そこは長年の経験と、勘と言ったら恥ずかしいんですけど、体に染み込んでいるものがあります。」

ベテラン農家の経験に頼らず、うまい米を作る。プロジェクトで導入したのが最新鋭の田植え機です。前輪に土壌の養分を測る特殊なセンサーが取り付けられています。

集めたデータを分析し、田んぼの養分を2メートルごとに色分けします。

その結果をもとに自動で肥料の量を調整。田んぼの養分を均一にすることで、苗の成長が一定になるのです。

米農家 加藤誉士寛さん
「すごいよ。
状態をちょっとチェックするぐらい。誰でも乗れていいと思います。」

7月中旬。順調に進むかに見えたプロジェクトは、思わぬ事態に見舞われました。最高気温38度。記録的な猛暑が新潟を襲ったのです。このままでは稲に養分が行き届かず、高温障害が起きるおそれがあります。米が白くなり、味が著しく落ちてしまう現象です。

それを避けるには、肥料を追加する「追肥」が必要です。ここでも稲の色を見て生育ムラを見極める熟練ワザが求められてきたといいます。

米作り名人 関隆さん
「肥料がないところは色も薄いし、肥料があるところは色が濃いように、目で見て生育が分かります。そこを見ながら肥料をまいていきます。」

「色むらが見えないのですが。」

米作り名人 関隆さん
「いいこと言ってくれますね。そこが40年の経験ということで。」

「追肥」のためにプロジェクトで導入したのが、AIと連動したドローンです。まずは、上空からカメラで稲を隅々まで撮影。一見同じ色に見えるこの画像をAIに送ります。

AIには、過去2年にわたって全国の田んぼで撮影された稲の画像。そして、その稲の茎の本数や、葉緑素の量など、生育のバロメーターになる情報が記憶されています。そこから独自のアルゴリズムによって、稲の生育状況を7段階に分類。赤に近いほど生育が遅れていることを示しています。

この結果を、肥料をまくドローンに組み込みます。すると、自動で肥料をまき始めました。

ただ飛んでいるように見えますが、よく見てみると、ある場所では減速しています。稲の生育が悪いところでは、多くの肥料をまくためです。

米農家 加藤誉士寛さん
「分かりますよ。白い粉が残ってる。」

猛暑を乗り越え、稲は順調に育ちました。

米農家 加藤誉士寛さん
「人間って感情とかあって、肥料を『こうまこうかな』と思っていても、田んぼ行ったら変えちゃったりとか、そういうのは機械にはないと思うので。」

プロジェクトの終盤。米の品質を大きく左右する局面を迎えました。収穫です。

人工衛星を扱う会社 担当者
「どこから、いつごろがいいかという診断をする上では、収穫前に我々としても、いろんな情報を取っていかなければいけないかなと思っている。」

プロジェクトでは、これまで刈り取るまで分からなかったデータを事前に捉え、収穫することにしました。
味の決め手の1つ、タンパク質の割合です。NHKが取材したところ、一般的にタンパク質が5〜9%のお米が、味がよいとされています。利用したのは人工衛星です。赤外線カメラを使って田んぼを撮影。過去の膨大なデータをもとに、この衛星画像を解析し、タンパク質の含有率を色で表示するようにしました。9月下旬の田んぼは全体的に赤っぽく、タンパク質が多くなっていました。

NHKの取材では、この段階で刈り取った米は粘りがないことがあります。9日後、時間をおき、加藤さんは収穫することにしました。
今年は天候不順で、周囲の農家から品質を維持することが難しいという声が上がっていました。果たして、加藤さんの米の出来はどうだったのか。3週間後、結果が報告されました。タンパク質の含有率は6.3%。新潟の最上級ブランド米の基準をクリア。見事、一等米に合格していました。

AIが作り出したうまい米。すでに全国に向けて出荷されています。

ついにここまで!米作り 夢の技術 無人ロボットとは

最先端技術を使った米作りは今、全国各地で進んでいます。このあと、人の手を介さない完全自動化の現場に初めて迫ります。

AI・ドローンでおいしい米 ついに!驚きの新技術が

ゲスト 三輪泰史さん(日本総研創発戦略センター・エクスパート)

武田:これが、今回のプロジェクトで収穫したばかりのブランド米です。つやつやして、香りも本当にいい香りです。ひと口いただきたいと思いますが、どうでしょう。
おいしいとしか言いようがないですね。

田中:ここから見てもつやつやしていますもん、いいですね。

武田:モチモチしています。

田中:武田さんが食べているブランド米なんですが、新米検査で最上級の一等米の評価を獲得しました。この一等米がどのように認定されるのかといいますと、粒の形や大きさに加えまして、光沢や水分量など、国の厳しい規格をクリアする必要があります。しかし今、猛暑や台風など相次ぐ異常気象で、この米の品質低下が懸念されているんです。例えば、新潟が誇る最高級のブランド米「魚沼産コシヒカリ」。米の味を評価する団体のランキングで、最高評価の「特A」を28年連続で獲得してきたんですが、去年(2017年)収穫されたお米は、例年にない長雨や日照不足の影響で、初めてこの「特A」から転落。大きな衝撃が広がりました。こうした中、AIなどの技術で品質確保ができるのではないかと注目されているんです。

武田:新潟のプロジェクトでは、来年(2019年)以降、ドローンの画像解析で、稲の病害を早期に発見したり、除草が必要な場所をAIに判断させて、ピンポイントで除草剤をまく取り組みにも乗り出す予定で、さらなる品質向上を目指しています。専門家は、「AIなどの技術革新によって、米作りが大転換を迎えている」と指摘しています。

日本総研創発戦略センター・エクスパート 三輪泰史さん
「例えば、お米だと機械化が遅れていたり、生産性が低い、競争力のない産業だと言われてきた。それがいま、IoTやAIやロボットなど、ハイテク技術が入ってくることで、農業が競争力のある新しい産業に生まれ変わろうとしている。まさに農業において新たな革命、“農業革命”が起きている。」

武田:なぜ“農業革命”が可能になってきているんでしょうか?

日本総研創発戦略センター・エクスパート 三輪泰史さん
「15年、20年前でもハイテク技術を使って農業を効率化しようという動きはあった。その時は、専用に業務用の非常に高価なパソコンが必要だった。いまはどうか。機器の値段も下がったし、通信のコストも下がった。先人の優れた技をAIやビッグデータが読み解いて『見える化』して伝えることで、農業の経験が浅い方でもベテランに近いノウハウを獲得して、いい農作物を作ることができるようになった。これまで以上においしい農産物が食卓に並ぶようになる。」

武田:技術革新がもたらす“農業革命”。さらに、こんな夢の技術まで開発が進んでいます。

夢の技術 ついにここまで! 無人ロボットで“ブレークスルー”

ドラマ化され、話題を呼んでいる小説「下町ロケット」。その最新作で主人公が開発に挑むのが「無人農業ロボット」です。人が乗らずに、刈り取りなどの農作業を自動で行う技術です。作者の池井戸潤さんが、この技術に注目した理由をコメントで寄せてくれました。

作家 池井戸潤さん
“無人農業ロボットのコンセプトは、もはやこれしかないといえるほど斬新で、決定的なものだと思います。日本の農業の在り方を変えるブレークスルーになり得ると確信しました。”

「下町ロケット」で登場する人物のモデルとなったのが、北海道大学の野口伸教授です。

開発しているのは、無人で動くロボットトラクター。通称「ロボトラ」です。

「じゃあ、動かしますか。」

人が乗らずにワンタッチで倉庫を出て、農場へと出発。農場までは、いくつもの曲がり角がある300メートルの道のりです。到着すると、自ら作業機を降ろし耕し始めます。ロボトラは天井に付けられた丸いアンテナで、人工衛星から届く電波を受信。自らの位置を判断し、自動で動いているのです。

センサーが人や障害物を感知すると自動で停止します。さらに、複数のロボトラが同時に作業することができます。ぶつからないように互いの位置を確認しながら、効率よく耕していきます。
開発の背景には、日本の農業が抱える危機的な状況があります。これは農業就業者の人口ピラミッド。65歳以上の高齢者が全体の6割を占めています。今後、農家の数は減り続け、17年後には今の半分近くに落ち込むと推計されているのです。

北海道大学大学院 教授 野口伸さん
「いちばんの課題は、いま人手不足だと。だからロボットを入れることによって、その人手不足を解消する。」

日本のロボトラ技術は、海外の農業先進国からも注目を集めています。この日訪れたのは、オランダからの視察団です。

オランダからの視察団
「驚きました。こんなの初めてです。将来、農業の未来を変えるに違いありません。」

すでにロボトラは、商品化に向けた動きが始まっています。大手農業機械メーカーの開発製造本部。今回、初めて撮影が許されました。

「設計寸法が2100、重量が2300、オッケーです。」

年内の商品化を目指し、開発は最終段階に入っていました。こだわってきたのは、自動運転の精度。車よりも高い水準が求められるといいます。

ロボットトラクター 開発責任者 小野弘喜さん
「車はわりとアスファルトの上で環境が整っている場面が多いけれども、農機の場合は農地を運転されるので、環境がいろいろある。高度なところにも挑戦していかなければいけない。」

商品化に向け、最後の壁になっているのが、日本ならではの特殊な田んぼの形です。この日のテストでは、中山間地などで多い、いびつな四角形の田んぼを再現。隙間なく耕すには高い精度が求められます。
ロボトラは、まず田んぼの中心部から耕していきます。最後に耕すのが「枕地」と呼ばれる周辺部。

その時、予想外の事態が起きました。中心部の作業と枕地の作業の間に僅かな隙間が生まれたのです。

作業のやり残しが大きな課題となりました。問題は、ロボトラの動きを制御するプログラムにありました。

「タイミングがちょっと早いので残耕が残っている。」

原因は、旋回する際の作業機を上げるタイミングでした。テストでは、ロボトラが作業機を上げるタイミングが僅かに早かったため、作業のやり残しが発生していたのです。

「枕地での(ロボトラの)速度はどれくらい?」

「枕地での速度は(時速)1.1キロから1.2キロ。」

「時間でいくと2秒遅らせてみよう。」

「そうですね。それでやってみたら。」

1か月後の先週。ロボトラの制御プログラムが修正され、再びテストが行われました。ロボトラは旋回するギリギリまで作業機を上げることなく耕し続けました。課題となっていた枕地の作業。中心部の作業との間に隙間はなくなりました。

複雑な形の田んぼを隙間なく耕すことが可能になったことで、12月に発売するメドが立ちました。

ロボットトラクター 開発責任者 小野弘喜さん
「今年の生産をなんとか間に合わせて、来年につなげていきたい。それを継続して進化させていくことで、本当に農業に貢献できる。省力化、超省力化につながっていく商品になっていく。変えていかないと、日本の農業が守れない。」

“無人”技術 ついにここまで! 農業で進む“革命”

田中:無人農業ロボットは、ほかにも開発が進んでいます。

こちらは誰もが簡単に植え付けができる「無人田植え機」。

そして、自動で収穫作業が行える行える「無人コンバイン」。

田植えから稲刈りまで、全ての作業を完全に自動化する新たな時代が近づいているのです。

武田:私がインタビューした専門家の三輪さんは、これまで技術革新から取り残されてきた農村から、最先端の産業が生まれてくると指摘します。

イノベーションは地方から! “農業革命”が日本を変える

日本総研創発戦略センター・エクスパート 三輪泰史さん
「これまで新しいイノベーションは都会で起きるものだと思われてきた。そうではなくて、これからは地方にも魅力的な仕事がたくさんあるし、地方だから稼げる時代が来る。農業法人に就職してみようとか、一旗あげようと農業ベンチャーを立ち上げたり、ドローンが撮ってきたデータを分析して、それを農家にフィードバックする、分析をしてあげるベンチャー企業が立ち上がったり、ひとつ新しい技術が地域に入ってくることによって、新しい革命・イノベーションが生まれて、他の産業に好影響を与えていくこともできる。」

田中:農業から生まれたイノベーションは、ほかの分野からも熱い視線が注がれています。例えばロボトラの自動運転技術が、一般の車に転用されたり、収穫作業を支援するロボット技術を、介護で寝たきりの人の介助に応用することなどが期待されています。農村発の技術が私たちの暮らしも変える可能性があるんです。こうした最先端技術を駆使したスマート農業。国内市場は、すでに100億円を突破。5年後には300億円を超えるという推計もあるんです。農林水産省も実証研究のため、総額50億円を来年度予算の概算要求に盛り込むなど、強力に後押ししています。

武田:ただ、課題もあります。三輪さんは農業革命を進める上で必要な3つのポイントを挙げています。

日本を変える“農業革命” これから必要なのは?

日本総研創発戦略センター・エクスパート 三輪泰史さん
「1つ目は、やはりスマート農業の機器とかシステムがまだ高いことなんですね。これを農家の方々が導入しやすいような価格まで下げるというメーカー側の努力が1つ必要です。もう1つは、日本もしくはアジアに多い、小区画の農地に合わせたスマート農機をもっと作っていくことですね。棚田とか、山あいの小さな畑であったり、もしくは温室の中であったり、日本とかアジア特有の農地に合わせたスマート農業技術の開発というのは、より一層進めるべきだと思います。3つ目が、スマート農業の良さをいかに消費者に届けていくかだと思います。「効率的に作りました」と言っても、われわれ消費者にとっては「それはすごいね」で終わってしまうわけです。どれだけおいしくなったかとか、どれだけさらに安全になったかとか、そういう付加価値をきちんと消費者に伝えていく、それによって消費者がスマート農業でできた農産物に払っていく、こういうような構図をいかに早く作るかというところだと思います。これから10年15年、日本の農業はすごい面白いんじゃないかなというふうに思いますね。」

武田:“農業革命”は、成し遂げられるのか。現場を自ら取材してきた下町ロケットの作者、池井戸潤さんは、番組に寄せたコメントの最後をこう結んでいます。

作家 池井戸潤さん
“研究者、農家の皆さんの取り組みは真剣そのものであるだけでなく現実的であり、そして何より、日本の農業の未来を切り拓くための真摯な挑戦です。その背景には、もはや閑却を許さない危機的な状況が存在します。こうした問題意識を、より多くのひとたちが共有して行くことが大切ではないでしょうか。”