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2018年10月25日(木)
激震!ダンパーのデータ改ざん~広がる影響 再開発・五輪は~

激震!ダンパーのデータ改ざん~広がる影響 再開発・五輪は~

地震による建物の揺れを抑える「ダンパー」。メーカーが、検査データを改ざんし、国の基準を満たしていない製品などを販売していたことが明らかになった。被害は、高層マンションや病院など全国の約1000の建物に及び、住民に不安が広がっている。取材からは、近年、免震・制振技術のニーズが急拡大する中、利益追求の一方、安全がないがしろにされていた実態が明らかになっている。いま、安全を守る技術をめぐり現場で何が起きているのか、最前線から報告する。

出演者

  • NHK記者
  • 武田真一・田中泉 (キャスター)

独自取材“ダンパー改ざん” どうなるタワマン 広がる波紋

免震制振用ダンパーの検査データ改ざん問題。想像以上に深刻な事態が進んでいることが見えてきました。都内の一等地に立つ、この高級マンション。不動産会社からの通知で、住民に不安が広がっています。「不適合のおそれのある免震オイルダンパーが使用されていたことが判明しました」。「使用状況、是正方法、是正スケジュール等について、施工会社を通じて確認をいたしております」。

マンション住民
「地震に対して揺れが全然違うということで購入している。本当にそれだけ耐えられるのか、心配している。」

50代のこの女性。1億円近い部屋を購入したばかりです。

マンション住民
「ローン組んでやるわけですから、いいかげんな対応で商売されては、大人としての道理というか、社会の道理に反する。詐欺ですよね。」

外国人向けに高級マンションの売買を仲介してきた、この会社。ここ数年、地震に強いマンションで売り上げを伸ばしてきました。まだ、どのマンションに問題があるか分からず、顧客にどう説明すればいいか困惑しています。

プラザホームズ 売買営業課 久保健士課長
「地震に強い安全な建物ということを売りにビジネスをしている。そこが崩れてきてしまうと、外国人の方にも不安が広がって、下手に安全ですよとも言い切れないので、身動きがとりづらい状況です。」

独自取材“ダンパー改ざん” タワマン・五輪 驚きの影響が…

7年前の東日本大震災。首都圏でも高層のビルやマンションが大きく揺れました。最大2メートル近くの幅で揺れた高層階。こうした揺れを抑えるため、導入が進んでいたのがダンパーです。地下に設置されるのが、免震オイルダンパー。そして、制振オイルダンパーは壁の内部に埋め込まれることがあります。

免震・制振装置を導入する分譲マンションは、急速に需要が高まり、1,137物件に達しています。データに改ざんがあったダンパー。もし地震に襲われたら…。

東京理科大学の髙橋治教授です。安全上、懸念があると指摘するのが、免震ダンパーです。地震が起きた際、ブレーキの役割を果たし、揺れを抑えることができます。しかし、基準よりも柔らかい場合はブレーキが利かず、最悪の場合、擁壁にぶつかるおそれがあります。逆に、硬すぎるとブレーキが利きすぎ、家具が倒れたり、けがをするおそれがあると言います。

東京理科大学 髙橋治教授
「買った時に不動産会社などから説明された安全が確保できていない可能性がある。」

さらに、高橋さんが大きな問題だと考えるのが、ダンパーの交換に時間がかかる可能性があることです。例えば、壁の内部に埋め込まれている制振ダンパー。交換する場合、壁を剥がす必要があり、居住者が立ち退きを迫られるケースもあります。

東京理科大学 髙橋治教授
「例えば、50階の建物に1階から50階まで制振ダンパーが入っている。(壁を)壊したあとボルトを外して、今度はそれをどうやって外に運び出すか、悩ましい。実際に建物に持っていって設置して、性能を元通りに戻すには、プラス5年、10年かかる可能性がある。」

影響は、東京オリンピック・パラリンピックにも及ぼうとしています。再来年(2020年)2月の完成を目指す水泳の施設。ここでも、改ざんが疑われるダンパーが使われていました。

ダンパーを取り付けた工事関係者が取材に応じました。

ダンパーを設置した工事関係者
「縦がこうあって、横がこうあります。1本の柱に(ダンパーが)8本ついている。要は縦の揺れと横の揺れ。つけるときは、そんなに時間もかからないし、手間でもない。」

ダンパーは全部で32本。すでに工事が進んでいるため、交換が必要となった場合、作業は難しくなると言います。

ダンパーを設置した工事関係者
「変えるなら今のうち。今からでも遅いくらい。今は屋根がふさがっているので、クレーンが上からはいけません。横も壁がついているので、横からも差し込めません。」

これからマンションに入居する人たちにも影響が出始めています。数多くのマンションを見学し、情報を発信している星直人さんです。地震に強いという首都圏のタワーマンションを5,000万円で購入しました。入居は半年後の予定でした。

星直人さん
「(マンションの)販売会社から送られてきた資料になります。」

電話で不動産会社に確認したところ、引き渡しの日が遅れる可能性があると伝えられました。

星直人さん
「非常に困っていますね。引き渡し日がどうなるかなと。」

問題は、全国で進む再開発にも暗い影を落としています。検査データの改ざんが相次いで明らかになったKYBと川金ホールディングスのグループ。国内の免震オイルダンパーの製造は、2つのグループで9割を占めると見られています。

2社が受注を停止したため、新たなダンパーはほとんど供給されない事態に陥っています。年間およそ300の物件を請け負う、大手ゼネコンの担当者です。今、顧客からの問い合わせの対応に追われています。

大手ゼネコン 担当者
「(KYBから)情報がまったく出てこない。お客様に我々が説明にいったときに何か隠しているとか、遅いと言われる。そこが非常に困っている。」

今後の新たな案件について、設計やスケジュールを見直す必要がないか、検討を始めています。

大手ゼネコン 担当者
「オイルダンパーが入らない事態はありえるかなと。設計を違う形にするとか対応はできるが、設計者の労力はかなりかかると思う。工期が予定通りスタートできなくて、予定通り終わらない事態が考えられる。」

独自取材“ダンパー改ざん” タワマン・五輪 広がる影響

武田:相次ぐダンパーのデータ改ざん問題。どのような影響が出ているのでしょうか。今回、私たちは、KYBグループのダンパーが使われていることが分かった、50以上のマンションや10を超える不動産会社を取材しました。

田中:ほとんどのマンションの住民には、不動産会社や管理会社からの連絡はまだ届いていませんでした。そして、安全性に問題はないのか、問題のダンパーが使われているのかなど、多くの方が不安を感じていたのです。不動産会社はどの物件が該当するのか、そして、交換までどれくらい時間がかかるかなどの情報がなく、施工した建設会社からの回答を待つしかないと、今後の対応に不安をにじませる会社もありました。

武田:広がる影響、今後はどうなるのか。社会部の藤島記者に聞きます。ダンパーが入っている建物の安全性はどうなのでしょうか?

藤島新也記者(社会部):国は、調査の結果、問題のあるダンパーが入っている建物であっても、震度6強、それから7の地震であっても倒壊するおそれはないというふうに指摘しています。ただ、建物ごとに使っているダンパーの数ですとか、構造、これは異なりますので、お住まいの建物にどの程度の影響があるのかということは、それぞれ異なります。現在、設計会社などがそのあたりを調べていますので、その結果をしっかり確認してください。

田中:では、3つの場合に分けて考えていきたいと思います。まず、すでに完成していて、問題のダンパーが入っている建物です。その地下にある免震ダンパーは?

藤島記者:この免震ダンパーは、地下に設置されていますが、建物を直接支えているわけではありませんので、交換は比較的簡単だという指摘もあります。ですが、ダンパーは長さがありますので、地下に配管があったり、ダンパーを出すための穴が足りない場合、この場合には地上に持ち出すのが困難になりますので、交換に時間がかかるケースもあるということです。

田中:そして、制振ダンパーです。

藤島記者:こちらは、壁の中に入っているものも多いです。この場合には、一度壁を剥がしたり、窓を壊したりして取り出して、それで交換をする必要がある。その場合、住民や利用している方は、一時的に使えなくなる可能性がありますので、これは生活に大きな影響が出てきます。免震ダンパーも制振ダンパーも、いずれもメーカー側は交換する方針を示していますが、優先順位や交換の時期、これはまだ分かっていません。そして、最終的には、建設会社などが建物の構造などを確認した上で、利用者、それから住民などの意向を踏まえて対応を決めることになってきます。

田中:続いては、建設中のマンションやオリンピック関連施設です。影響が心配されますが?

藤島記者:建設中であっても、すでにこの問題のダンパーが設置されている場合には、交換することによって完成が遅れてしまう可能性があります。2年後に迫っている、このオリンピックの施設でも、こうしたダンパーが使われていることが分かっていまして、東京都の小池知事は、交換は最優先で進めてほしいという趣旨の発言をしています。ただ、これもどうなるかというのは、まだ分からないのが現状です。一方で、問題の施設の中には、災害対応に当たる自治体の庁舎や病院も含まれています。ですから、このオリンピック施設と、どちらを優先するのかということは、非常に難しい問題だと思います。

田中:そして、これから作る建物はどうなるのでしょうか?

藤島記者:現在、メーカーは、すでに設置されている問題のダンパー、これを交換することを優先するとして、これから建てられるものにはダンパーが回ってこないおそれがあります。他のメーカーが作ればいいのではないかというふうに思われるかもしれませんが、この免震オイルダンパーで言うと、この問題を起こしているKYBと川金ホールディングス、この2つでシェアが9割と言われています。ですから、同業他社もほとんどありませんし、供給できない状況が続けば、さらに完成は遅れてしまうおそれがあります。

武田:影響は今後も広がっていきそうですけれども、ではなぜ、このような不正がそもそも行われたのでしょうか。

関係者を取材“ダンパー改ざん” 工場内では…納期優先で不正

データ改ざんが発覚したKYBのPR動画です。需要が高まり続けるダンパーのリーディングカンパニーとして、さらなる成長を宣言していました。

KYB 企業PR動画より
“現場力を高めること、それがKYBがさらに成長するキーポイントになると考えています”

しかし、その生産現場こそが改ざんの舞台になっていました。KYBの社員が描いた工場内の見取り図です。工場には部品を加工し組み立てるラインと、性能を検査する試験機がありました。その検査結果をチェックするのは、別棟にある品質保証部でした。

この工程に、改ざんにつながるいくつもの要因があったことが、関係者への取材で見えてきました。1つ目はダンパー生産の難しさです。ダンパーは、建物ごとにサイズや性能が設計されるオーダーメイドです。そのため、すべて手作業で組み上げて作られます。そして、試験機にかけ性能を確認し、出荷します。オーダーによっては、1つ組み上げるのに7時間かかるものも。もし、基準を満たさなければダンパーを分解し、また手作業で組み立て直さなければなりません。
ゼネコンで10年間勤務し、免震技術を研究している名古屋大学の福和伸夫さんです。改ざんの背景には、手間がかかる生産工程があったと見ています。

名古屋大学 減災連携研究センター 福和伸夫教授
「オイルダンパーは年間でも1千本のオーダーでしか作っていない少量生産で、かつ大きな物。極めて厳しいコスト競争の中、人手も足りない、時間的にも制約が大きい中で、不具合があったときに全部分解して作り直しながら性能を保証していくことは大変なこと。」

もう1つの要因が、大規模な地震災害が頻発する中で求められるようになった厳しい品質水準です。NHKが入手した、この会社の試験機の映像です。力を加え、ダンパーが正しく機能するかチェックしています。顧客であるゼネコンからは、国の基準よりも厳しい水準をクリアするよう求められていました。

今回の取材で、検査の現場には週に3、4回顧客のゼネコンが立ち会っていたことが分かりました。しかし、検査データはその前に改ざんされていたと言います。検査員は、顧客の水準に満たない数値が出た場合、あらかじめデータを書き換えていました。改ざんした上で、ゼネコンに立ち会わせていたのです。さらに、検査するサンプルをKYBが選ぶなど、立ち会い検査は形骸化していました。改ざんは、少なくとも15年にわたって行われました。会社は、品質よりも納期を優先させてしまったと説明しています。

「生産計画、あるいは日程計画をキープできないという思いから、少し軽く考えたというか、日程を守りたいがために、それを少し省いてしまった。」

なぜ、改ざんしてまで納期を優先したのか。そこには、建物の下に取り付ける免震ダンパーが納期どおりに設置されなければ、建設コストや手間が増大してしまうことがあると言います。

名古屋大学 減災連携研究センター 福和伸夫教授
「オイルダンパーというのは、建物のいちばん下のところで使うもの。そこの工事が予定の時期に終わらないと、実際の建物をつくって上にあげていくのが、後工程が全部影響を受けてしまう。工期が遅れることについて配慮をした。いくら余裕がなくても、技術者としての倫理とか責任感の中で、一線を越えてはいけない。」

独自取材“ダンパー改ざん” タワマン・五輪 広がる影響

武田:こうした製品の安全性というのは、メーカーとして最も大切にすべきだと思います。なぜ、それが軽視されるような事態になったのか、説明を聞いても納得できないのですが、なぜなのでしょうか?

藤島記者:現時点でメーカーが言っているのは、納期のプレッシャーです。例えば免震ダンパーは、建物の地下に設置されているので、これが遅れてしまうと、その後の建物の建設、これが遅れてしまうおそれがある。このため、納期を守らなければいけないという意識が働いたと説明しています。それからもう1つは、地震が相次ぐ中で、より高い性能が求められるようになったということです。国の基準よりも厳しい水準の製品が求められる中で、それに応えるために改ざんをしたと見られます。メーカー側は現在、検査員が不正を行ったとしているのですが、どこまでの社員が知っていたのか、それから組織ぐるみ、組織的な関与はなかったのか、こうした点について、現在、外部調査委員会が調査をしています。長年、不正が続いてきたということです。

武田:それを防ぐ手だてはなかったのでしょうか?

藤島記者:改ざんが続いてきた背景には、検査体制が機能していなかったということがあります。こちらは、KYBの社員が描いた工場の内部の図です。

この図から分かるように、生産も試験機を使った検査も、同じ社内で行われています。これが根本的な問題だと考えられます。現在、改ざんを行ったKYBグループでは、問題の発覚の後も、交換用のダンパーを作っているのですが、今は検査のところに第三者機関の担当者が立ち会って、チェックをしています。免震構造に詳しい福岡大学の高山教授は、外の目を入れた検査が必要だと指摘しています。今回を機に、検査の体制について抜本的な見直しが必要だと思います。

田中:免震装置を巡るデータの改ざんは、今回が初めてではありません。2015年、東洋ゴム工業が免震ゴムの検査データを改ざんしたことが発覚しました。免震ゴムは建物の土台に設置し、ダンパーとともに揺れを抑える装置です。建物の耐震性に関わる重要な部品だけに、大きな批判を浴び、会社は対応に追われました。

田中:同じような問題が繰り返されたことに憤りを感じますが、このときと今回とで、問題が起きた背景に共通点はあるのでしょうか?

藤島記者:この東洋ゴムの改ざんでも、背景には納期の問題があったと指摘をされました。調査報告書によると、検査の担当者は、期限を守るようにという圧力を受けた結果、不正をしたとしています。この問題で、東洋ゴムは、すでに設置していた免震ゴムの交換、これを余儀なくされたのですが、3年が経過しても交換は6割にとどまっています。原因は、工事を行うための住民の合意形成に時間がかかっているということ。それから交換に大規模な工事が必要になるということがあります。

武田:今回のダンパーの交換の際にも、こういった問題が起きる可能性もあるのではないでしょうか?

藤島記者:それを指摘している専門家もいます。ダンパーの中には、先ほど説明しましたように、壁の中にあるものもありますので、交換のためにはいったん壁を剥がしたり、それからクレーンを設置しなければならないこともあります。ですから、住民や利用者同士で合意を取りながら進めていく必要があります。

田中:これからマンションを購入する人も注意が必要です。新築の場合は、入居時期が遅れる可能性もあるので確認しましょう。そして、中古の場合は、問題のダンパーが入ったマンションが市場に出回る可能性もあります。ですから、不安があれば、該当のダンパーが使われていないかどうか、不動産会社に調べてほしいと伝える必要があると言います。

武田:今年(2018年)も地震が多発してます。そういった中で、こうした不正があると、やはり安全に対する人々の不信感につながると思いますが?

藤島記者:南海トラフの巨大地震、それから首都直下地震、地震のリスクが高まる中で、免震や制振への期待は大きいものがあります。この信頼を裏切ったという意味でも、企業の責任は非常に大きいと思います。

武田:安心・安全を求める声が高まる中で、それをないがしろにする不正は、決して許されるものではありません。徹底的な原因究明に加えて、二度と繰り返さないための、一刻も早い対策を望みたいと思います。