クローズアップ現代

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2018年10月24日(水)
広がる“遺品再生”ビジネス

広がる“遺品再生”ビジネス

年間130万人を超える人が亡くなる多死社会・ニッポン。1軒家が残されると膨大な“遺品”が出て、その処分に困る遺族が増え続けている。ここ数年、そうした遺品を再生させようという動きが加速している。日本製品が「中古でも欲しい」というアジアのニーズを受けて、フィリピンで“オークション”を始めた遺品整理業者は「まだまだニーズは掘り起こせる」と輸出を拡大させようとしている。遺品になる前に「形見分け」をすることで、大切なものを必要とされる場所で“再生”させようとマッチングに乗り出した業者も。遺品再生ビジネスの最前線を追う。

出演者

  • 中尾彬さん (俳優)
  • 池波志乃さん (俳優)
  • 小谷みどりさん (第一生命経済研究所 主席研究員)
  • 武田真一・田中泉 (キャスター)

困った…遺品の整理 意外な活用法アイデア

田中
「愛知県豊橋市にある倉庫です。こちらにある立派なたんす、そして食器棚。これらすべて遺品なんです。専門家によりますと、1軒の家から出る遺品の量は平均3トン。離れて暮らす家族が突然亡くなると、片づけに困ることになります。」

「遺品整理の依頼は?」

遺品整理業者
「ここ数年で(遺品整理は)3~4倍ぐらいに増えています。多いときは、1日10件以上、お電話いただくこともあります。」

田中
「こうした遺品を捨てずに再生させる、新たなビジネスが急速に広がっています。」

今日(24日)のテーマに興味津々なのが、終活を進めるこのご夫婦。

中尾彬さん
「年をとると、だんだん物欲がなくなってくる。“ねじねじ”も似たものしかやらない、自分の好きな色とか。だから200本くらい捨てた。」

遺品の整理に追われている、こちらの姉妹。母親と弟が住んでいた2階建ての家には、食器棚やたんすなど大きな家具がいくつもあります。

母親が亡くなったあと、弟が引き継いでいましたが、その弟も今年(2018年)亡くなり、この借家から退去を迫られているんです。

池波志乃さん
「一軒家だと余計だよね。一軒家だとね。」

姉妹もそれぞれ家庭があり、遺品を引き取る場所もなく、処分するしかありません。

妹 敏子さん
「みんなそれぞれ別家庭だし、もう年金に突入している人ばかりだから、終活していかなきゃいけないのに、物をまた増やしても困る。」

しかし、姉妹が処分をためらったのが、母親が大切にしていた和だんすです。

姉 基子さん
「まだ残ってるよ。おばあさん(母親)のだね。お着物がほとんど。母親は着物が好きな人だった。」

姉 基子さん
「買ったときは、2つともう1つあって(セットで)100万円だった。欲しいなと思うんだけど、自分のたんす、よけないといけない。」

姉妹の依頼でやって来たのは、遺品整理業者です。業者はまず、遺品を廃棄するものと、中古品として販売できるものに仕分けます。使い古された食器や調理器具なども、販売できると分類されました。母親が大切に使っていた和だんすは、高値で売れると判断しました。

遺品整理業者 荒津寛さん
「日本のたんすが、いちばん気密性もあるし、日本のたんすくらい、こんなスムーズに動くのは。」

姉 基子さん
「この辺にポンと捨てられるよりも利用してくだされば。どんな人が使ってくれるかね。想像してくるね。」

遺品を再生 意外な活用法 殺到!フィリピンで人気

このあと、遺品は意外な場所に運ばれます。海を渡って向かった先は、フィリピンの首都マニラ。経済成長を続けているフィリピンでは、より豊かな暮らしを求める市民の間で、日本人が使ってきた品々が人気を集めています。

「2500ペソ(約5200円)。2700ペソ(約5600円)ないなら2800ペソ(約5800円)は?2800ペソ(約5800円)もないね?」

日本から持ち込んだ遺品は、まずオークションにかけられます。1回でおよそ20トンが出品され、売り上げは平均350万円になります。

「500…600…700ペソ(約1450円)。800ペソ(約1650円)、900ペソ(約1850円)。」

オークション参加者
「日本製は品質がいいです。」

「でも、これらは中古品ですよね?」

オークション参加者
「新品よりも中古品のほうが人気なんです。」

なぜ中古品のほうが人気なのか。日本人が大切に使ってきた遺品なら、丈夫で品質もいいと、むしろ付加価値になっています。日本の中古品に囲まれて暮らすウォリーさんです。

ウォリーさん
「これらは私のコレクションです。」

遺品でも、欲しいものは手に入れたいウォリーさん。買ったときに必ず行う儀式があります。

ウォリーさん
「死んだ人の霊が家に入るかもしれないので、その霊を放つために、私は塩をまいています。時々、霊に話しかけたり、神に祈るんです。『怖い思いをさせないで、幸せに暮らせるようにしてください』。」

さらに、フィリピンには遺品を大切に引き継ぐ文化もあり、ニーズが拡大しています。メリアさん家族が家中に飾っているこの食器。ほとんどが日本から来たものです。

マロン・メリアさん
「ここはジャパニーズルームです。」

家の奥には日本のものばかりを集めた部屋も。元の持ち主が大切にした思いも引き継いで、使っていきたいと言います。

フェルディナンド・メリアさん
「このたんすを所有していた故人も、自分の持ち物が大事にされているのを見たら、喜ぶと思いますよ。亡くなった方が喜んでくれれば、私たちにもいいことが起こると思います。」

先月(9月)、姉妹が見送った母親の和だんすも、オークションにかけられました。和服が好きだった母親が大切にしていた和だんす。

「601番が競り落としました。」

価格は、日本円でおよそ3万1800円になりました。フィリピン人の平均月収の3分の2以上の値段です。

池波志乃さん
「向こうでは結構いい値段だよね。」

中尾彬さん
「やっぱりすごいよ。」

競り落としたのは、マニラで日本の中古品店を営む女性でした。

和だんすを買ったオーナー オーロラさん
「きれいなのが魅力です。本物の木でできていて、セットになっているのもいいですよね。こういうのをいつも買うんです。遺品でも気にしません。」

翌日。和だんすが店に届き、早速、売り場に陳列されました。

「売値は?」

和だんすを買ったオーナー オーロラさん
「もし買ってくれるなら、もっと値引きしますよ。2万6000ペソ(約5万4000円)。2万6000ペソ(約5万4000円)が売値です。ほぼ新品です。」

「考えてみますね。」

和だんすを買ったオーナー オーロラさん
「ぜひぜひ。」

「ありがとう。」

1週間後。和だんすに買い手がつきました。オーナーの女性によると、およそ5万円で売れたということです。私たちは、和だんすが売れたことを、あの姉妹に報告に行きました。

妹 敏子さん
「ジーンとくるというのか。おばあちゃん(母親)と弟が重なって見えちゃう。」

姉 基子さん
「うれしいですよね。感謝になりますかね、やっぱりね。」


ゲスト 中尾彬さん (俳優)
ゲスト 池波志乃さん (俳優)

武田:最近、終活を始めて、身の回りのものを整理しているという中尾さん、池波さんご夫妻、どうご覧になりましたか?

中尾さん:昔の物というのは、何でも場所を取ります。だけど、使い方によっては、非常にうまくできる知恵をフィリピンの人たちは持っているかもしれない。

池波さん:喜んで使ってくれる所があるんだなと思いました。意外と知らないですよね。

中尾さん:うちもフィリピンに出せばよかった。

遺品を再生して活用! “困った”から“役立つ”へ

田中:今、遺品が急増しています。その背景にあるのが、多死社会。1年間に亡くなる人の数が100万人を超えて増え続け、去年(2017年)は、134万人に上ります。専門家によりますと、家1軒から出る遺品の量は、平均3トン。遺品や中古品を再利用するリユース市場の規模も拡大しています。国の調べによりますと、最新のデータでは3.1兆円。眠っている品々が流通した場合を想定すると、7.6兆円まで成長するという試算もあります。

武田:処分される遺品が増え、それを輸出してまで再利用しようという新たな動き。そこには家族の形の変化があると専門家は見ています。


「遺品再生、背景は?」

第一生命経済研究所 主席研究員 小谷みどりさん
「核家族化が進んできたので、おじいさん、おばあさんが使っていた家の物は、離れて暮らす子どもも孫も持っているから、いらなくなっている。遺品を引き受ける、継承する人たちがいなくなっているので、解体されてゴミとして処分されてしまう。それはもったいないから、使ってくれる人が世界のどこかにいるなら、使ってもらうのはいいこと。」

田中:こんなふうに考える人の中には、亡くなってから遺品を処分するのではなくて、生前に持ち主本人が整理する、生前整理も広がっています。遺品整理業者の中にも生前整理を行っている業者もありますし、骨とう品店や引っ越し業者などが、引き取りや販売を引き受けてくれるケースもあります。

武田:中尾さん、池波さんご夫妻も、病気をきっかけに終活を考えるようになって、ここ数年、その生前整理を進めているということです。

田中:一方で、こうした品々を引き継ぐ側の意識の変化というのもあります。去年、民間のシンクタンクが行った調査では、半数近くが中古品に抵抗感がないと回答しています。また、年齢が若い世代ほど、抵抗感がない傾向にあるということも分かりました。

武田:広がる生前整理の現場でも、捨てるのではなく、誰かに引き継いでもらいたいという人が増えています。

生前整理で他の人に… “捨てる”から“再利用”へ

黒田和代さん、67歳。長年、大切にしてきたものを、必要としてくれる人に引き継いでいこうとしています。70歳を前にして、身の回りの整理は進めたいものの、捨てたくないものがたくさんあったからです。

黒田和代さん
「品物はいい物だと思っているので、服とか捨てるのはもったいない。」

そこで、去年から始めたのが、インターネットで中古品を売買するメルカリへの出品。

黒田和代さん
「出品しました。」

この日は、コートを1650円で出品しました。

黒田さんのように、メルカリで生前整理を行うケースは、去年と比べて2.5倍以上に増加しています。出品されたものは、生前整理の品であることが紹介されています。こうした生前整理の品や遺品であっても、持ち主が大切にしてきたからこそ欲しい、という声が高まっていると言います。

メルカリ 広報 志和あかねさん
「人生の終わりについて考えることが、ポジティブに語られるようになりましたので、中古品や遺品というところに抵抗がなく購入されている方が多いのではと感じている。」

黒田さんは、これまでに170点を販売。こちらはお気に入りだったドレス。サイズが合わなくなったため、娘や知り合いに声をかけましたが、誰も引き受けてくれませんでした。しかし、出品すると3500円で売れたのです。買い手からのメッセージには、ドレスを必要としていたことが記されていました。

黒田和代さん
「誰かが喜んでくれた。今から先何年か分からないけれど、使ってくれるんだなと思うと、よかったと思うんです。」

生前整理の進め方が分からない人に対しては、相談や支援を行う取り組みも広がり始めています。訪れたのは、生前整理診断士。業界独自の講習を受けた専門家です。

池波志乃さん
「知らない商売だった。」

依頼をした山田喜代子さんは、4年前に肺がんの手術をしました。体が動くうちに生前整理をしたいと考えましたが、どう処分すればいいのか方法が分かりませんでした。業者はまず、捨てるのか販売できるのか見極めたうえで、持ち主が納得のいく整理を進められるようアドバイスします。

生前整理診断士 三浦靖広さん
「ここにずっと入ってるのは、使ってないってことね?」

山田喜代子さん
「使ってない。」

生前整理では、「捨てる」はタブーだと言います。「手放す」と言い換えることで、持ち主の罪悪感が薄れ、決断がしやすくなるからだと言います。

生前整理診断士 三浦靖広さん
「このまま買い取り業者に買い取ってもらえるから、そんなに高い値段つかないけれど、手放すことが出来るのであれば、荷物はだいぶ減ると思う。」

こちらは、96歳の父親の衣類。捨てる以外の方法はないか相談された業者は、寄付すれば社会貢献につながると提案。ものを大切にするお年寄りでも納得できるような形で進めます。

生前整理診断士 三浦靖広さん
「このまま置いておくと使えなくなったり、虫食ったりするから。介護施設とか、散歩に行くとき帽子をかぶりたい人がいるので、そういった所に寄付してあげると」

相談から、ものを手放すまでの一連のプロセスに寄り添うサービス。2階建ての一軒家では、20万円から100万円で請け負っています。

捨てるだけでなく、活用できる選択肢も教えてもらったことで、山田さんは生前整理の道筋が見えてきたと言います。

山田喜代子さん
「こういうふうにするものだって、具体的な実例が分かってきた。(生前整理診断士が)再利用できるとか把握してくれる。そういうところは、すごくいいです。」

都内にあるコレクターズショップです。ここでは、大切にされてきたものが、持ち主の死後に捨てられてしまう事態を防ぐためのサービスを始めています。例えば、古いおもちゃは、一部のマニアの間では希少価値の高いものとして評価されています。

しかし、周りの人たちが理解してくれないケースも。そこで、持ち主からものの価値を評価してほしいという依頼が寄せられていました。店では、持ち主が生きているうちに、生前見積もりしておくサービスを2年前から始めました。まず、持ち主はコレクションの画像を専門家に送り、査定してもらいます。その後、評価額の見積書が送られてきます。この見積書を遺書と一緒に保存しておけば、持ち主が亡くなったあと、大切なおもちゃを買い取ってもらうことができます。

生前に大切なコレクションに価値を与えてもらうことが、残りの人生の安心感につながるサービス。ものによっては100万円近くになるケースもあり、希少価値のあるものを残したいという依頼が増えていると言います。

コレクターズショップ 辻中雄二郎副社長
「ご家族の理解がなかったら、ゴミになってしまう。その世界自体を好きな人にとっては、大きい損失なので防ぎたい。」


池波さん:コレクションなんかは、ある人にとってはすごいものだけど、ある人にとっては、ただのごみということがあって、処分が難しい。

中尾さん:残されて迷惑だなと思う人もいるかもしれない。

池波さん:最期まで持っておきたいものの、行方はやっぱり心配という人にとっては、いい。


田中:中尾さんのトレードマークといえば、ねじねじスカーフですけれども、200本も整理したと話ていましたね?

武田:そうなんです。もちろん、使えそうなものは、知人にプレゼントしたそうです。さらに、舞台で使っていたカツラも、たくさんあったそうなのですが、これも引き取ってもらえたそうです。

田中:誰に、というか、どこにですか?

武田:気になりますよね。歌舞伎の床山さん。カツラの専門業者さんに声をかけたところ、貴重なものだということで、喜んで使ってもらえたということです。このほかにも、たくさんのものを、新たな持ち主に引き継いだそうです。

生前整理で他の人に引き継いで… 中尾彬さん・池波志乃さんの極意

池波さん:アトリエを処分したんです。だから、中に入っているものをみんな出さなきゃいけない。そのときに、うちのマンションには持ってこられないので、そういうものは欲しい人、お友達、知り合いに声をかけて、自分で取りに来てくれるのならあげると言って、取りに来てもらって。例えば、テーブルは、秋田のレストランにあります。自分たちでやれば、自分たちが見届けられるし、役に立つ。

中尾さん:行く先が分かっていると、何かほっとする。本は何トン。

武田:何トン?

池波さん:本の場合は、ちゃんと行くべきところに行くように。

中尾さん:例えば、料理の本、演劇の本、絵の本、こっちで分けて神田の古書店の方たちを呼んで、持っていってくださいと。

池波さん:本は捨てられないです。次の人が読めるように適材適所を見つける。自分で見つけるほうが楽しいです。楽しんで見つければいいと思います。

武田:改めて、身の回りを整理することの意味を教えてください。

中尾さん:やってよかった、何かほっとしたというのかな。でも、逆に新たな希望も湧いてくるんです。よし、次はいいものを捕まえようと。若いうちは、やたら集めていた。いいものが1つあればいいんだなという気持ちです。

武田:池波さんは?

池波さん:身軽になっていく過程が楽しいです。身の回りがきれいになっていく。頑固だった、意固地だったところがなくなって…。

中尾さん:いや、そうでもない。

池波さん:結構そういうところが、柔らかくなったかなと、自分では思っています。穏やかになりました。

武田:とてもいい話をありがとうございました。僕も、今からすぐ家に帰って片づけようかな。


武田:誰もがたどりつく死を前に、身の回りのものをどうするか、悩む人が増えています。人生を共にしてきた大切なものを捨てるのか、生かすのかを考えることは、自分の心を整理し、新しい生き方を見つけるきっかけにもなるのだなと感じました。