クローズアップ現代

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2018年10月9日(火)
ノーベル賞 偉業を生んだ“本庶哲学”

ノーベル賞 偉業を生んだ“本庶哲学”

ノーベル医学・生理学賞の受賞が決まった本庶佑特別教授が生出演!がんの免疫療法につながる画期的な研究はどのように生まれたのか?そして今後の可能性は?徹底インタビューで迫る。始まりは偶然見つけた分子PD-1。何の役割を持つのか不明だったが、8年かけてその機能を特定、さらに国内の製薬会社が創薬に二の足を踏む中、新薬開発を実現した。「教科書を全て信じてはいけない」「必要なのは好奇心・勇気・挑戦・確信・集中・継続」。偉業を生んだ“哲学”とは?

出演者

  • 本庶佑さん (京都大学特別教授)
  • 武田真一・田中泉 (キャスター)

ノーベル賞 本庶佑さん生出演 研究メンバーが明かす舞台裏の秘話

ノーベル医学・生理学賞の受賞が決まった本庶佑さんの29年前の映像です。

分子生物学者 本庶佑さん
「一番大事なことは、自分が何が知りたいか、いつも意識している。そこに自分のエネルギーをなるべく向けるべきであって、何ができるかということに逃げない。」

かつて、本庶さんの研究室で助手を務めていた仲野徹さん。本庶さんの研究哲学は贈られた色紙の言葉から感じ取ることができると言います。書かれているのは、「渾沌(こんとん)」。

本庶さんが好んで研究室のメンバーに伝えていた言葉です。その意味を本庶さんはこう記しています。

“科学の原動力である好奇心は、「渾沌」の中に光りを探し求める時最も高まる。だから私は「渾沌」が好きだ。”

大阪大学医学部 教授 仲野徹さん
「科学というのは渾沌(混とん)ですよね。そういった訳の分からないところが一番刺激的でいいということで、最初は訳の分からないところから何かをやっていくのが大事だ、という教えかなと推測しています。」

こうした本庶さんの研究哲学が生み出したのが、免疫の働きを利用したがん治療薬、オプジーボ。全く新しい発想で生まれました。

体内にがん細胞が生まれると、免疫細胞が攻撃し死滅させようとします。これに対し、がん細胞は免疫細胞にあるブレーキを押すことで攻撃を免れ、増殖しようとします。このブレーキこそが本庶さんの発見したもの。PDー1と呼ばれています。オプジーボは、このPDー1を防御することで、がん細胞を攻撃する免疫細胞の働きを取り戻すのです。

手術、抗がん剤、放射線治療に並ぶ第4のがん治療法を切り開いたオプジーボ。この薬が誕生するまでには、偶然発見され、働きが分からなかった遺伝子に注目し、その謎に挑んだ本庶さんの22年がありました。当時、研究に携わった岡崎拓さんです。

徳島大学 教授 岡崎拓さん
「本庶先生が『ぜひ一緒にやろう』って実は言ってくださって、ちょっとそれにだまされたって言ったら言葉が悪いですけれども、のせられてしまったところはなくはないと思います。」

岡崎さんが本庶さんから任された研究テーマは、謎の遺伝子が作るたんぱく質PDー1。当初は働きが分かっていませんでした。岡崎さんは、その働きを探るための実験を、来る日も来る日もマウスを使って続けました。

徳島大学 教授 岡崎拓さん
「本庶先生に言われたからやっているっていうのではなくて、自分でやりたいと思うようにイズム(哲学)をいただいていた。とことんやれ、ということですかね。徹底的にデータをとれというよりは、(自分の)目的を達成しろという。」

マウスを多く扱ったせいでアレルギーを発症した岡崎さん。しかし、PDー1の働きを決定づけるデータはなかなか取れませんでした。そんな状況でも、本庶さんはPDー1の研究を諦めようとはしませんでした。「渾沌」の中からやっと光が見えたのは、10年後。PDー1が免疫細胞のブレーキであること、さらに、がんの治療に応用できることが可能性として示されたのです。

徳島大学 教授 岡崎拓さん
「継続は力。チャレンジを続けることは、すごく難しいことだと思います。コンティニュイティ(継続)はすごくある先生だなと思います。」

ノーベル賞 本庶佑さん生出演 秘話 がん治療の新たな道

ゲスト 本庶佑さん (京都大学特別教授)

武田:ノーベル医学・生理学賞の受賞が決まった、京都大学特別教授の本庶佑さんです。改めておめでとうございます。

本庶さん:ありがとうございます。

武田:途中、笑みも浮かべていましたけれども、お弟子さんのさまざまな言葉、どんなふうに聞きましたか?

本庶さん:ずいぶんと古い話なので、確かにそうだなと思って。長いこと、いろんな人に本当に助けられて、運が良くてね、ここまで来て。本当に感謝しています。

武田:日本人の2人に1人ががんになるという時代に、第4の治療の道を開いた画期的な研究だったわけですけれども、発見した当初は、それが何の役に立つか分からない、まさに「渾沌」の中にあったわけですよね。どこに可能性があると直感したのですか?

本庶さん:我々は、まず構造を見るんです。物質の構造を見て、すでに分かっているものと比較して、それからどういう機能を持っているだろうかという類推をすると、これは誰でもやることなんです。それから言えたことは、これはリンパ球に発現していて、細胞の膜にあって、なんらかの信号を細胞の中に伝える。それがどういう信号かは、もちろん分かりません。しかし、従来知られていた、それまでに10以上、そういうものが知られていたんですが、それと似てるところと違うところがあった。似てるところは、これはなんらかの信号をしている。しかし、違うということははっきりしていた。何か新しいことをしている物質だなと、それははっきりしたんです。

武田:これまでの治療の積み重ねで、これは何かおかしいぞ、という直感は、その場では感じていたわけですね。

本庶さん:その点はもちろん治療レベルじゃなくて、研究レベルなんですけれども、明らかに違うと。だから、これは継続して研究を続ける価値がある、そういうことは確信したところです。

武田:その後、免疫のブレーキ役である可能性が見えてきたわけですけれども、それががんの治療という、人の命を救うために役立つのではないか。この発想はどこから出てきたのですか?

本庶さん:それは私自身が特に何か着想したということではなくて、免疫学の研究者は、常に免疫を制御すれば、感染症はもちろん、がんとか臓器移植、それから場合によっては自己免疫病、こういうものをコントロールできるんじゃないか、そういう期待は常に持っていました。ただ、アクセルとブレーキが必ずあるんですが、アクセルはたくさん知られてたんですが、ブレーキ役というのは。

武田:免疫のブレーキをかける役目?

本庶さん:かける役。この役割をする分子が長いこと分からなかった。それだということで、当然、がんも1つの応用のターゲットだということになります。

武田:それが分かってきたときには、ずいぶん興奮もしたと思いますけれども、どうでした?

本庶さん:興奮は、そう簡単にしないんです。一番興奮したのは、実際にネズミで、がんの増殖を抑えることができると、このブレーキ役を外してやったネズミでは、その元の野生動物と比べて、がんの増殖が遅いということが分かったときには、これはやっぱり“おっ、これはすごいな”というふうに思いました。

武田:そのあたりのことを引き続き見ていきます。

田中:PDー1が、がん治療に生かせるのではないかと分かってからも、実際に新たな治療薬の開発に至るには、大きな壁がありました。

ノーベル賞 本庶佑さん生出演 “6つのC”で乗り越えた壁

PDー1を利用したがん治療薬の実現に向け、国内外十数社の製薬会社に研究開発を持ちかけた本庶さんたち。しかし、初めは全く取り合ってもらえなかったと言います。本庶さんの下で、PDー1とがんの関わりを明らかにした岩井佳子さん。当時の状況をこう語ります。

日本医科大学 大学院教授 岩井佳子さん
「そのころの状況として、免疫療法でがんが治るなんて、お医者さんも信じていない。そういう時代でしたので、興味をもってもらえる企業は、ほとんどなかった。普通の人であれば諦めてしまうところを、先生は本当に諦めないで、粘り強く、この薬が実現するような方法がないか考えていらっしゃって。」

このままでは薬の実現が難しいと考えた本庶さんは、アメリカのベンチャー企業に話を持ちかけたこともありました。ようやく日米の企業によって臨床試験が始まったのは、2006年のことでした。そして、2014年。世界に先駆け日本でオプジーボの販売が開始されたのです。PDー1の発見から22年がたっていました。

オプジーボは今、大勢のがん患者の希望となっています。去年(2017年)、ステージ4の進行した肺がんと診断された近藤忠男さん。これまでの抗がん剤では十分な効果が得られませんでした。そこで半年前、オプジーボを使い始めたところ…。

国立がん研究センター東病院 呼吸器内科長 後藤功一さん
「今は非常に小さくなっている。」

肺がんと診断された 近藤忠男さん
「息をするのも大変だったし、声が出なかったですから、だいぶ良くなりました。」

がんの大きさは、10分の1程度になっています。

肺がんと診断された 近藤忠男さん
「病院に行くのが楽しくなりました。明るい希望を授けてくださったですよ、本庶教授がね。」

国立がん研究センター東病院 呼吸器内科長 後藤功一さん
「この薬は、かなり画期的な治療薬。(がんに対し)新たな武器を人類はひとつ手にした。」

現在は、研究室を率いる立場となった岩井さん。本庶さんから受け継いだ心構えを研究室の教えとしています。

日本医科大学 大学院教授 岩井佳子さん
「6つのCというのを先生は常々おっしゃっていて、好奇心、勇気、挑戦、確信、集中、継続。」

“好奇心を大切に、勇気を持って困難な問題に挑戦し、必ずできるという確信をもち、全精力を集中させ、あきらめずに継続することで、時代を変革するような研究を発信することができるのです。”

ノーベル賞 本庶佑さん生出演 秘話 がん治療の新たな道

武田:当時は多くの製薬会社から共同開発を断られ、第4の治療法と言われる免疫療法の実現の壁は相当厚かったんですね。どういう思いでいましたか?

本庶さん:僕は必ずいけると、これだけネズミに効いてるんだからという思いがあった。なんでこういうことが分からないのかなと思って、正直、腹立たしいという気持ちがありました。だから、薬会社がやってくれないなら、自分でベンチャーと一緒にやろうかなということでアメリカに行って、それでやろうかと思ったんですけれども、幸い、特許が出て、登録してあったので、1年半たったら全部公開される。それを見たアメリカの別のベンチャー、メダレックスという会社から、直接、日本の特許の権利を私と一緒に持っていった小野薬品に共同研究をやろうということで、それから非常にとんとん拍子で進んで、そのメダレックス社というのは、現在、ブリストル・マイヤーズに買収されて、小野薬品とブリストル・マイヤーズで製造販売をしている。一旦、動き出すと、あとはほとんど大きな壁はなかった。最初のとっかかりだけは非常に大変だった。

武田:今、薬が実際に使われ始めて、がんの患者さんも明るい希望を授けてくれたというふうに言っていました。どういうふうに聞きましたか?

本庶さん:今回、思いがけずノーベル賞をもらって、ノーベル賞というのは研究者の夢です。誰でもそういうことを夢みる。だけど、人生の目標ではないんです。僕にとっては、やはり患者さんの命を救えたというのは、そういう話は今回のVTRでもあったし、僕のゴルフ場の仲間もそういう話をしてくれたときに、本当に僕の人生は報われたという、非常に大きな喜びがあります。

田中:さて、本庶さんの研究に向かう姿勢が凝縮された言葉がさまざまあります。例えば、“教科書を簡単に信じない、常に疑え”“物事に不可能はない、必ず道がある”。こうした言葉、街で聞いてみますと、多くの人たちの心に響いていました。

ノーベル賞 本庶佑さん生出演 じっくり伺う!“本庶哲学”の神髄

30代 食品製造会社
「“ナンバーワンではなく、オンリーワンになれ”。スイーツを作っているんですが、他と同じようなことをしていても、うちの良さを出していくのが重要だと思うので。」

30代 今年父親になった
「“教科書を簡単に信じない、常に疑え”というのは響きました。(子どもにも)世の中の表面的な情報がすべてではないんだ、と感じながら生きていってもらいたい。」

19歳 研究職志望
「“何を知りたいか、不思議だと思う心を大切に”です。科学者としては身近なことを全部ひとつひとつ不思議だと思えるのが、すごい大事だと思ってて、当たり前のことですけど、改めて大事だと思いました。」

田中:こうした本庶さんの言葉ですが、他にも印象に残った言葉を挙げた方も多くいたんですが、研究者以外の人たちからのこうした反応、本庶さんはどう感じましたか?

本庶さん:この6つのCというのは、突然出てきたものじゃなくて、研究室の若い人といろいろ話しているうちに、僕がいつも言ってることをまとめたほうがいいんじゃないかということで、最初は3つのC、上の3つだったんですが、それから、それ以外の3つがさらに加わりました。

武田:最初は、好奇心と勇気と挑戦だったそうですね、それから増えてきたと。

本庶さん:確信、集中、実際には順番は集中と継続が先で、岩井さんはちょっと順番逆に言ってたんですが、僕自身の気持ちとしては、あまり最初から確信を持ち過ぎると危ういことがあるから、集中して継続をしている中で、確信が生まれてくるというふうには思っています。

武田:ただ、「渾沌」が好きとも書いていましたけれども、右も左も分からない中で、知りたいという気持ちだけで、ここまで突き進むことができるのだろうかと思うんですが?

本庶さん:気持ちだけでは進めない。だから気持ちを大切にしながら、山に登るのと一緒ですから、1つのルートがだめなら別のルートを探すとか、いろんな努力をしていくと。そういうことが重要です。

田中:今、オプジーボのような免疫のブレーキを使って、がんを治すという薬は、国内で6つ承認されています。一部の皮膚がんや肺がん、そして胃がんなどの治療に用いられています。しかし、こうした薬には課題もあります。まだ一部のがんでしか効果は確認されていないこと。そして、同じがんの中でも、効く人と効かない人がいる。それを事前に判定できないこと。また、今までの抗がん剤と違う副作用にどう対応していくか。こうした中、今、新たな研究が進められています。

ノーベル賞 本庶佑さん生出演 どう挑む?残された課題

免疫のブレーキを使った薬が確実に効く患者を、どのようにして見つけ出すのか。その手がかりを探しているがんの研究者、小川誠司さんです。注目しているのは免疫細胞ではなく、がん細胞の遺伝子です。小川さんは5,000を超える人のがん細胞のサンプルを使って、遺伝子を徹底的に調べました。すると、免疫細胞のブレーキを利用して攻撃を逃れているがん細胞には、いずれも共通の遺伝子変異が見つかったのです。

さらにマウスの実験で、この遺伝子変異のあるがんでは、免疫のブレーキを使った薬の効果が高いことが確認できたと言います。この遺伝子変異の有無を検査すれば、薬が効く人を事前に見つけることにつながるのではないかと考えています。

京都大学 教授 小川誠司さん
「この人は絶対に効くという人には(薬を)使いましょう。こういう考え方は前向きな方法だし、患者さんのメリットをより確保する方法だと思います。」

進んでいるのは、がん治療の課題克服だけではありません。実は今、がん以外のさまざまな病気にも応用されようとしています。この研究室が目指しているのは、リウマチや一部の大腸炎など自己免疫疾患と呼ばれる病気の治療です。自己免疫疾患とは、免疫細胞が暴走し、本来、攻撃対象ではない正常な細胞をも傷つける病気です。

もし暴走した免疫にブレーキを利かせることができれば、暴走を止められると考えたのです。今、ブレーキを利かせる物質を探し出し、新たな薬の開発につなげようとしています。

先端医療研究センター 部長 太田明夫さん
「我々が日々やっていることは、まだ基礎研究ですが、ゆくゆくは候補物質となり、臨床研究、さらには最終的に臨床応用となったら、これに勝る喜びはないと思います。」


武田:まだチャレンジの余地があるということですけれども、1つだけ特に伺いたいのは、がんの免疫療法は、原理的にはすべてのがんに効く可能性があると話されていました。ただ、現状では効くがんと効かないがんがある。この問題は乗り越えられるのでしょうか?

本庶さん:基本的には、いつか乗り越えられると思います。まず効く、効かないの原因としては、2つのことがある。1つは、がん細胞自身が持っている性格で、さっき小川先生がおっしゃっていたようなこととか、あるいはがん細胞がなぜ免疫の細胞からやっつけられるかというと、がん細胞は、もともとは自分の細胞だったんですが、どんどん変わっていって、自分ではないものになっていくんです。そういうことがひどいほど効きやすい。だから、これはがん細胞側の問題。もう1つは、同じ異物であっても、人によってそれをやっつける能力は千差万別。インフルエンザウイルスにかかっても、くしゃみ、鼻水でおしまいの人もいれば、逆に38、9度の熱を出して、死にかける人までいました。個体の免疫力の差というもの、この両方の面から効く人と効かない人というのを見分けていかなきゃいけない。

武田:免疫とは何か、その全体像を解き明かすチャレンジがどうしても必要になってくるんですね。

本庶さん:まだまだ生命科学というのは、非常にプリミティブな段階で、分からないこといっぱいありますから。ただ、今1つ、突破口が開けたので、多くの人がこれは感染症におけるペニシリンだといっているように、やがて次々と新しい抗生物質とか、新しい強化する方法が見つかっていき、また見分ける方法も見つかってくると、非常に強い期待を持っています。

武田:本庶さんは、日本の基礎研究の将来については、非常に暗いと書いています。この新たなブレークスルーをこれから生み出していくために、何が今、必要なんでしょう?

本庶さん:非常に暗いとまでは言ったかどうか知らないんだけども、私がちょうど始めたころは、経済も右肩上がりの状態で、研究費の手厚い支援を受けたんです。ただ、民営化の時代から投資が下がって、しかも応用に非常にウエートが置かれているということで、一番これで被害を受けるのは生命科学。なぜかと言うと、そんなにすぐに応用につながらない分野ですから。

武田:なるほど。資金とその使い道を、これから考えていく必要があるということですね。