クローズアップ現代

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2018年9月20日(木)
“息子を檻(おり)に監禁” 父の独白

“息子を檻(おり)に監禁” 父の独白

兵庫県三田市で発覚した「障害者監禁事件」。重度の知的障害のある長男を25年以上にわたってオリに監禁してきた父親が逮捕された。保護された長男は片目を失明、もう一方の目もほとんど見えない状態だった。裁判で父親は「市に相談していた」と供述。市は、第三者委員会を立ち上げ、調査を進めてきた。その委員会に密着し、さらに父親もカメラの前で初めて監禁について語った。事件の深層に迫り、今後どうしていくべきか考える。

出演者

  • 香山リカさん (立教大学教授・精神科医)
  • 武田真一・鎌倉千秋 (キャスター)

“息子を檻に監禁” 父の独白 事件はなぜ?

この檻に障害のある長男を25年以上にわたって閉じ込め、父親が逮捕された事件。私たちは、監禁されている時の長男の写真を独自に入手しました。
今回、事件の加害者となった父親が、監禁場所だった自宅で初めて取材に応じました。案内されたのは、庭にある4畳半ほどのプレハブ小屋です。

父親(73)
「ここ(プレハブの中)に檻をつくって置いた。複雑ですね。」

事件が明らかとなったのは、今年(2018年)4月。逮捕された父親は、「暴れるため仕方がなかった」と供述しました。裁判では、監禁罪で懲役1年6か月、執行猶予3年の有罪判決が下されました。今回、父親は“監禁に至った事情を知ってほしい”と、取材を受けました。

父親
「果たして、これでよかったのか。ほかに方法がなかったのか、ずっと考えている。いまだに答えはない、はっきり言って。」

42歳の長男は、監禁が発覚した後、施設に保護されました。今は24時間態勢で、専門のスタッフのケアを受けています。
なぜ、父親は実の息子を監禁したのか。29歳の時に結婚した父親。建設会社で働きながら4人の子を育ててきました。長男には2歳の時、成長しても会話ができないほどの重度の知的障害があることが分かりました。

父親
「これは夏、家族旅行をしたとき。水が好きでね。あそこ行った、ここ行ったという思い出がある。」

父親は、休日のたびに長男を連れて家族旅行をするなど、おだやかな日々を過ごしていたといいます。異変が起きたのは、長男が13歳の時。突然、母親や弟たちの腕をかむようになりました。

父親
「家内もかまれたし、弟たちもかまれている。もう本当に肩から手首の間、真っ赤っかだった。そんなにひどくかまれるんだったら、私も安心して仕事に行けない。下の子らに、もし何かあったらと思うと。とにかくそれを防ぐことを考える。」

両親は、一時的に長男を預かってくれる施設を探しましたが、空きがなかったといいます。長男と家族を引き離すための方法はないか。

父親
「大工に相談して座敷牢(ざしきろう)をつくってもらった。」

父親は、自分がいない時は長男を檻に閉じ込めるようになりました。

父親
「ガラス割って、ひびが。」

長男が成長するにつれ、暴力がさらにエスカレート。押さえつけるのも困難になっていきました。

父親
「大声は出す、暴れる。やめなさいと言って、やめる子じゃない。やっぱり年とともにつらい。」

このころ父親は、自宅を訪問した三田市の職員に長男のことを相談。当時の記録が市に残されていました。

“どうしても用事のある時には一室に閉じ込め、外から鍵をかけている。”

しかし市は、このことを特に問題だと考えませんでした。監禁はその後25年続きました。父親は長男を2日に1回しか外に出さなくなり、食事や入浴ができるのはこの時だけでした。檻の高さはおよそ1メートルで立ち上がることもできません。檻の中にはペット用のトイレシートを敷いていたといいます。

「人権侵害、監禁をした自覚はありますか?」

父親
「善いか悪いかでいうと、善いこととは思わない。じゃあ1人の障害者の生活のために、ほかの5人の生活を犠牲にするんですか。」

事件が発覚したことで、入所できる施設が見つかった長男。毎日食事をとるようになり、体重も増えてきています。長男は監禁中に片方の目を失明しました。もう片方の目もほとんど見えていません。
障害者を支援する団体は、父親の行為は決して許されない犯罪だと訴え続けています。

障害者の支援団体 吉田明彦さん
「被害者の男性が閉じ込められていたのと、ほぼ同じ大きさの檻です。このような檻の中で30年を過ごさなければならなかった人の不幸に思いを致したことがあるでしょうか。」

社会は、加害者である父親に同情的になってはならない。そう主張しています。

障害者の支援団体 石地かおるさん
「障害者が被害に遭うときは、ずっと親も大変だったということが付きまとう。そう言ってしまえば簡単。」

監禁を防ぐことはできなかったのか。今日、市の対応について調査をしてきた第三者委員会が結果を報告しました。

第三者委員会 谷口泰司委員長
「当時の組織、管理体制も問題であり、当時は組織として機能していなかったと言わざるをえません。」

25年前、閉じ込めていたことを把握していた三田市。当時、父親と面談した職員が第三者委員会で証言した音声を独自に入手しました。

音声:第三者委員会
「この家を訪問した記憶は?」

音声:市の職員(当時)
「本当に申し訳ないが、記憶に残っていないのが現実。部屋で鍵がかかるところに(障害者を)入れている方はたくさんいた。」

さらに、市の幹部は「これまでの対応に問題はなかった」と答えていました。

音声:市の幹部
「当時はそれが何とかしないといけない状態という認識ではなかった。引き継ぎを受けたほうもアプローチをせずに待ちの姿勢だった。当時も今も変わらない。行政のスタンスとして現状はやむをえない。」

三田市 森哲男市長
「これは市民の代表でもある市長として、今度は非常に責任を感じています。」

第三者委員会 谷口泰司委員長
「ほとんどの自治体は受け身というか、何もしていないのと同じ。家族も限界を迎えているし、(障害者)本人の人権も無視されている。どこにでもいるということだけは忘れないでほしい。」

衝撃の事件はなぜ? 父が息子を監禁

武田:この事件の裁判の判決では、「長男の尊厳を著しくないがしろにする行為で、到底許されない」としました。一方で、「支援体制の整備などが十分でなかったことも要因だ」と指摘しています。対応してこなかった自治体には、どういう問題があったんでしょうか。

鎌倉:今の仕組みでは、障害のある人は病院など施設への入所以外にも、ショートステイや訪問介護といった支援を受けることができます。自治体はこうした支援につなげる役割を負っているんです。今回、三田市がその役割を果たしていなかったことについて、第三者委員会では次のような問題点を指摘しています。「職員間で情報共有や引き継ぎがされていない」「自治体は受け身の姿勢で積極的な対応をしていない」。自治体の支援が十分に行き届いていない実態が浮き彫りとなったんです。
こちらをご覧ください。精神障害者や知的障害者がいる7,000余りの家族を対象に去年行われたアンケート調査です。

回答者のうちおよそ7割が日常的にストレスを感じていて、“抑うつ状態”である可能性が高いことが明らかになりました。アンケートに答えた家族からは、「本人が暴力を振るって押さえることもできない」「警察、病院、行政、たらい回しになり、結局は家族が一番困っている」「本人が一番大変と思う。自分は逃げない」、こういった声が寄せられていました。

武田:障害者を支えた家族が自らも追い詰められ、結果的に共倒れとなったケースもありました。

障害者を支える家族 苦悩の末“共倒れ”

障害のある弟と暮らす男性を訪ねました。将裕さん、32歳です。

自動車関連の工場で正社員として働いています。

将裕さん(32)
「5〜6年前からこの状況。基本的には一日中ずっとこういう状況。」

5歳下の弟です。知的障害のうえに自閉症があり、他人と会話することはほとんどできません。母親が家を出て行き、父親は6年前に病死。兄弟2人が残されました。

将裕さん
「ハンマーでたたいたりして。」

そのころから、弟が暴れて手がつけられなくなりました。外出して問題を起こし、警察に保護されたこともあり、そのたびに将裕さんが謝罪してきたといいます。

将裕さん
「いつもトラブルがないように願っているが、やっぱり不安がある。閉じ込めたい気持ちは正直ある。だけど閉じ込めるわけにはいかない。」

弟は、家の天井や床を次々と壊していきました。将裕さんは、眠ることさえままならなくなり、人づきあいも減ってきました。「弟を施設に預けて、自分の人生を取り戻したい」。

将裕さん
「(兄弟)お互いに普通の暮らしができればいい。一緒にいるのではなく、別のところで、環境が違うところでお互いに。」

実は、将裕さんは2年前、豊田市に相談をしていました。しかし、担当者から調査に行くと伝えられたきり、連絡はありませんでした。なぜ対応をとってこなかったのか。私たちが市に取材した直後、将裕さんに、市の担当者から電話がありました。

将裕さん
「『弟さんのことで話がある』と。」

一度、市役所で説明させてほしいという連絡でした。その後、市は自宅を訪問し、弟の状況を確認したうえで、将裕さんと話し合いの場を持ちました。市は、将裕さんにこれまで連絡をしなかったことを謝罪。一方、弟に関しては、「弟は地域で問題なく暮らしている。施設への入所も望んでいない」と説明しました。3時間続いた話し合い。将裕さんは、現状から抜け出せないと感じていました。

将裕さん
「限界ですね。疲れきっているような感覚なので、幸せとか、そんなことは考えたこともない。」

このあと、兄・将裕さんは睡眠不足で食欲もなくし、うつ病と診断され、入院を余儀なくされました。これを受け市は、弟を施設に入所させる措置を取りました。保護者である兄が入院したことで、初めて事態が動いたのです。

どう支援すべきか 障害者とその家族

ゲスト 香山リカさん(立教大学教授・精神科医)

武田:精神科医の香山さん。
香山さんのもとにも障害のある人の家族からの深刻な相談が寄せられるそうですけれども、どんなケースがありましたか?

香山さん:障害のある子どもさんを持つ高齢の方からの相談があったことがあるんですが、子どもが小さい時は、とても愛情を持って頑張ってずっと育ててきたんだけれども、両親が高齢化して、焦りもあって、追い詰められて、このままでは一家心中をするしかないというような、そんなお話を打ち明けられたこともありました。

武田:もちろん、困難な中で頑張っていらっしゃる家族もある。そのことは忘れてはならないと思うんですけれども、一方で、子どもを檻に入れてしまう家族もある。なかなか納得し難いんですけれども、香山さんは、何が背景にあると思われますか?

香山さん:理由は2つあると思うんですね。1つは、その日その日を何とかしなきゃいけないという毎日が続く中で、その子どもも人権を持った1人の大切な人間なんだという感覚が、どうしても家族の方が薄れてしまうということが1つですね。

武田:家族であるがゆえに、ということですか?

香山さん:そうです。
もう1つは、日本独特の、ある種の社会の価値観もあると思います。身内で起きたことは身内で何とかしなければいけない。それが外に知られるのは、いわゆる身内の恥なんだというような感覚。あるいは、それがもしも家族のことで、誰かに問題を起こしてしまったら、それはよそ様に迷惑をかける。それを防がなければいけないということで、どうしても自分たちの家族の中で何とかしなければという思いから孤立してしまい、孤立した中で、こういったような、常識から外れたようなことが行われてしまうというのが現実だと思います。

武田:そしてもう1つ疑問なのは、家族が壊れてしまうまで行政の支援が動き出さないという事態は、なぜ起きるのかということです。

鎌倉:最初のVTRの三田市の第三者委員会の委員長は、このように指摘しているんですね。「障害者本人に加えて『家族を支援する』という視点が、全国どの自治体にも欠けている」というんです。国は2012年に「障害者総合支援法」を作って、全ての障害者を、施設から地域社会で支える方向へと、かじを切ったんです。地域で支える仕組み、その三本柱というのが、ショートステイ、デイサービス、訪問介護です。しかし、知的障害や精神障害のある人へのケアを行う専門的な人材の不足などもあって、サービスが行き届いていない実態があるんです。

武田:なぜ、その行政の支援が不足してしまうのか、そしてこの問題をどうしたらいいのか、香山さんはどうお考えですか?

香山さん:まずは、この福祉の現場というのが、とても忙しくて人手不足だということですね。福祉職の方でうつ病になって休職をしたり、受診をされたり、入院されたりしている方も大勢いらっしゃいます。それからもう1つは、やはり今、縦割りの状況で、福祉が扱うのか、教育なのか、医療なのか、ともすれば警察のような司法なのかということが、縦割りで総合的に見られる仕組みがないということですね。あと、やっぱり役所ですと異動もありますので、全くノウハウの蓄積も見られずに、次から次と、あまり引き継ぎも行われていないということもあると思いますね。

武田:そういったことを一つ一つ改善していけることだというふうにお考えなんですか?

香山さん:まずは、何とかして縦割りを防ぎ、総合的に関われるような仕組み作り、そこの中の人材の育成ということが急がれると思いますね。また、民間のいろんな団体とか、NPOなどとうまくつなげるような役割、そういった民間との連携ということも必要になってくるんじゃないでしょうか。

武田:海外には、そういった先進事例もあるそうですね。

香山さん:例えばイタリアは1970年代に、基本的には精神障害のある方が入院をしないというような法律を作りました。特に、その中でも先進的な取り組みをしているトリエステ市というところでは、精神の障害がある方で入院をしている方は基本的にはいない。それで、その方たちが地域でそれぞれ自立して生活しながら、必要な医療のサービス、福祉のサービスを総合的に受けられるという仕組みが出来ているところもあります。
今、日本では30万人の方が精神の障害で入院されているというふうに言われていますけれど、それとはずいぶん大きな違いですね。

武田:先ほどおっしゃったように、そういった方々を支援するために、ワンストップで総合的にサービスを考えるような仕組みも体制もできていると。

香山さん:医療だけではなく、医療、福祉、事務、あるいは薬剤師の方、そういう方たちがチームを作って、1人の人を地域の中で支えるという仕組みができています。

武田:障害のある方の尊厳、それから家族の苦しみ、これがややもすると、1つの家族の中で対立するということも起こりえているわけですけれども、そのどちらも見過ごされてきたようなこれまでの状況を、どうすれば改善できるんでしょうか?

香山さん:まずは、知的障害のある方、精神障害のある方への縦割りではない包括的な、例えば介護の現場では今、「地域包括支援」というようなことが行われていますが、それと似たような、包括的な仕組み作り、ケアの仕組み作り。それから障害のあるご本人か家族かの二者択一ではなくて、その両方を支える側も含めて、1つのユニットとしてケアをできるような仕組みも必要だと思います。

武田:といいますと?

香山さん:その人1人だけが受診したら関われるとかではなくて、その人本人と支える人たちを含めたケアですね。そうすることによって、家族の方が少し楽になれば、障害のある方への対応が変わってくることもありますし、障害のある方がケアを受けることで、家族がうつ病などに陥ることも防ぐことができて、ユニットとしてうまくいくということがあると思いますね。そのために何より大事なのは、世間の理解ということも必要ですね。それを、ただ家族だけに押しつけるのではなくて、みんなの問題なんだと理解をして、共に支えていくような、そういう仕組みも雰囲気も大事じゃないでしょうか。

武田:近くに障害のある方を抱える家族があったとして、やっぱり近所の人たちも社会全体で、そういった家族やご本人を支える。

香山さん:理解をして、ひと事ではなくて、自分たちの問題だという視点がやっぱり何よりも大事だと思います。

武田:我が子を檻に入れる。許される行為ではありませんが、その背景には、限界まで追い詰められた家族に支援が行き届いていないという現実があります。こうした事件がまた起きる前に、手を差し伸べる仕組みを作らなくてはならないと思います。