クローズアップ現代

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2018年7月23日(月)
日本の保険証が狙われる ~外国人急増の陰で~

日本の保険証が狙われる ~外国人急増の陰で~

私たちが毎月支払う保険料によって支えられている、日本の医療保険制度。ところが今、これまで保険料を払ってこなかった外国人が、保険証を取得し、高額な医療を安く受けるケースが相次いでいる。中には、400万円の医療費が8万円あまりの自己負担で済んだ事例も。取材を進めると保険証の入手法を指南する業者までいることがわかってきた。外国人が急増する中、医療現場で何が起きているのか。知られざる実態を取材する。

出演者

  • 堀真奈美さん (東海大学教授)
  • NHK記者
  • 武田真一・鎌倉千秋 (キャスター)

医療保険に“ただ乗り”!? 外国人急増の陰で何が?

「外国人が日本の医療保険にただ乗りしている」。
取材のきっかけは、医師からの告発でした。

日本赤十字社医療センター 鈴木憲史医師
「日本で保険料も払ったこともない人が、(公的保険で)治療をやってくれと。“ただ乗り”という言い方は変ですけれど、そういう形はやっぱり許せない。」

中国人の患者
「大変助かります。」

保険料を払ってこなかった外国人が保険証を取得。高額な治療を安く受けている実態が、私たちの取材で明らかになってきました。

中国人の患者
「保険が使えるから日本に来た。負担を大いに軽減できるので、とてもうれしい。」

中には、400万円以上かかる治療を8万円余りで受けていた事例も。

病院関係者
「今、日本人でも十分な医療が受けられない。とても不公平だと思う。」

「日本の保険証が簡単に手に入る」と、手口を指南する業者の存在も分かってきました。

業者
「日本の制度には抜け穴がある。新たに来た外国人に厳しい規制がない。」

私たちの保険料で支えられている医療保険制度に今、何が起きているのか。知られざる実態に迫ります。

がん治療200万円が20万円に 海外から来てなぜ保険証を?

中国人女性
「気持ちが落ち着いた。」

今年(2018年)1月。私たちは、日本で治療を受けている60代の中国人女性と出会いました。女性は、日本に来てすぐに大腸がんの手術を受け、その後、抗がん剤治療を続けていました。

「お預かりいたします。」

かかった治療費はおよそ200万円。日本の保険証を持っていたため、本人の負担は20万円ほどで済みました。

中国人女性
「日本で保険を利用して、病気を治療できて、負担を大いに軽減できるので、とてもうれしい。」

実は、女性はこれまで中国に住んでいて、保険料を支払ったことがありませんでした。なぜ、日本の保険証を持っていたのでしょうか。女性が使ったのは、保険制度のある仕組みです。
日本で暮らす人たちがお互いに保険料を出し合い、病気に備える医療保険。医療を目的に来日した外国人は原則入ることができず、治療費は全額自己負担になります。保険料を支払っていない外国人が誰でも加入してしまうと、財源が足りなくなるからです。

しかし、仕事や留学などの目的で来日した人は、保険に加入できる制度になっています。この中に、扶養を受ける人も含まれます。女性には日本人と結婚した娘がいました。がんの治療目的ではなく、娘の夫の扶養に入るという名目で来日。保険に入ることができたのです。保険証を取得する決め手となった扶養。本当に日本に来て、養ってもらう必要はあったのでしょうか。

中国人女性の娘
「旅行に行ったときの写真。」

話を聞くと、女性には中国に夫がいて、年金などで十分に暮らせていました。娘からの援助は受けたことがなかったといいます。

中国人女性
「(中国で仕事を)退職してからは、社会保険からの年金で生活をしている。(娘に)生活費をもらったことはない。」

さらに、治療を目的に来日したことをうかがわせる資料も見つかりました。中国の病院が出した、女性の診断書です。日付は来日する1か月ほど前。すでにがんの診断を受けており、その際、娘を通じて日本の病院の予約もしていました。
私たちは、「初めから治療が目的だったのではないか」と聞いてみました。

「なぜ日本に来たのか?」

中国人女性
「日本に来る前に、娘から『保険で治療できる』と聞いた。保険があるから日本に来た。全額自己負担なら絶対に来なかった。」

扶養ではなく、保険証の取得が目的だったことを明かしました。女性はがんが進行し、中国では治療できないと言われ、悩んでいました。

中国人女性の娘
「(母は)とても田舎の所に住んでいて、体を検査する機械も無い。人口的に医療設備が全然足りない。」

そんなとき、中国人の知り合いから、日本の保険で高度な治療を安く受けられる方法があると聞き、来日したのです。

中国人女性の娘
「不公平と思う人もいるかもしれないが、保険を使って命が助かったから、とてもいい。」

中国人女性
「日本政府の制度はすばらしい。」

中国人女性の娘
「バイバイ。」

女性は、がんの治療が終われば、すぐに中国に帰りたいと話しています。

狙われる医療保険 脅かされる公平性

武田:日本の医療保険制度は、外国人にも門戸が開かれています。就労や留学などで日本にやって来た外国人が、万が一に備えて保険に加入して治療を受けるのは、なんら問題はありません。

鎌倉:ただ今回、問題になっているのは、制度の公平性が脅かされているのではないかという点なんです。日本の医療保険は誰もが公平に保険料を負担して維持している制度です。しかし、外国人が病気になったときだけ来日して、保険に加入して治療を受けられる抜け道があることが分かってきたんです。こういったことが相次ぎますと、公平性が崩れ、制度への不信感が高まってしまうと指摘されているんです。

武田:取材を進めると、こうした手法を指南する業者がいることも分かってきました。

さまざまな手法を追跡…

私たちが問題の広がりを実感したのは、中国のウェブサイトを調べたときでした。中国語で「日本」「治療」「保険」と文字を打ち込むと…。

“(医療費を)3割だけ負担すればいい”

“毎月9万円を超えたら日本が負担”

中国人でも日本の保険を利用できるとうたうサイトが、数多く出てきたのです。

中国人番組スタッフ
「中国人が日本にきて病気を治療する(場合)、“無料で受けられる”と。」

サイトの業者に直接電話をして、話を聞いてみることにしました。

「保険に加入できるか?」

業者
“条件を満たせば大丈夫。日本人と同じように保険を受けられる。”

さらに業者は、具体的な方法も明かしました。

業者
“目的は治療でも、来る前はほかの理由を言う。『日本に来たあとに病気になった』と言えば、(保険で)治療は受けられる。”

別の業者も、目的が医療であることを隠すことが重要だと話しました。

業者
“(病気を)知っているのは私と顧客だけ。日本人は知らない。私たちの目的は顧客が日本で治療すること。日本人に知られてはダメだ。”

本来、加入できない外国人が、数多く日本の保険制度を利用しているのではないか。医療の現場ではそうした声も上がり始めています。年間2万人近くの外国人が治療を受ける、国立国際医療研究センターです。

国立国際医療研究センター 堀成美さん
「ここに外国人患者の事例が入っている。」

この病院では、保険で治療を受けた外国人の患者について、今年初めて調査しました。すると…。保険証を取得したいきさつに疑問のある患者が、昨年度、少なくとも140人いることが分かりました。

国立国際医療研究センター 堀成美さん
「この方は日本語学校に入学する。」

中には留学という目的で入国し、保険で高額な治療を受けた人もいました。
中国からやって来た男性のケースです。日本語学校で学ぶといって入国し、保険証を取得しました。ところが男性は重度の腎臓病で、入学して半年もたたないうちに手術を受けたといいます。病院は、重い病の人が留学に来ること自体が不自然で、初めから治療が目的だったのではないかとみています。

国立国際医療研究センター 堀成美さん
「日本に来る前から、本当は腎臓が悪かったのではないか。変だなと思っても、患者が保険証を持っていたら普通に医療が提供される。」

このまま事態が放置されれば、保険制度の公平性が揺らぎかねない。病院は懸念を強めています。

国立国際医療研究センター 堀成美さん
「今、日本人でも十分な医療が受けられない。負担が大きくなっている。医療をあきらめている人もいる中で、とても不公平だと思う。」

狙われる医療保険 その実態とは…

ゲスト堀真奈美さん(東海大学 教授)

武田:国の医療保険の審議会の委員でもある堀さん、保険料を負担する側としては、これはやはり見過ごせない問題だと感じるんですけれども、どう捉えていらっしゃいますか?

堀さん:非常に複雑な気持ちです。VTRに出たようなケースは、必ずしも違法とまでは言えないんですけれど、でも本来の社会保障制度の在り方、趣旨からかなり逸脱していますし、そもそも社会保障というのは、社会的リスクといいますか、みんなで公平に負担をして、保険料や税金を払って支えられているという仕組みですので、今回のようなケースがまだ例外的だと思うんですが、増加してくると制度の根幹を揺るがすというか、信頼を損ねるような問題になりかねないなというふうに思っております。

武田:「みんなで負担している」という信頼というか、安心感があるから、保険の負担をするということが前提になっているわけですよね、そこが揺らぐ可能性があるということですね。取材にあたった山屋さん、ほかにはどんなケースがありましたか?

山屋智賀子記者:疑問が生じているケースはほかにもいろいろありました。例えば、留学目的で来日した外国人が、入学式の翌日に入院したというケースです。また、12人の外国人が同じ住所で扶養されているとして、保険証を取得したというケースもありました。調べてみますと、この住所は2DKのアパートだったんですけれども、病院関係者は「居住実態が疑われる」と話していました。

武田:全体としては、こうした問題というのはどのぐらい広がっているんですか?

山屋記者:実は国はこの問題を重くみて、去年(2017年)、実態調査をしているんです。外国人が国民健康保険に加入して、半年以内に80万円以上の高額な治療を受けたケースが、1年間におよそ1,600件あったことが分かっています。

この中で、医療目的を隠して、保険証を取得したという疑問のあるケースがどれぐらいあるかは、実は分かっていないんです。はっきりと偽装滞在で、違法の疑いがあると確認できたケースは数件見つかっています。国は危機感を持っていて、全国の自治体に高額な治療を受けた外国人の調査を求めるなど、対策に乗り出しています。

日本の医療保険 なぜいま狙われる?

武田:なぜ今、こうした問題が起きているのでしょうか。日本に入ってくる外国人が増えているということも背景にあるんですか?

堀さん:恐らく間接的にはあると思います。政府が医療ツーリズムを推進していますし、医療ビザで入ってくる分には、医療保険には加入できませんし、特に問題はないです。また、日本の医療のよさというのを世界に知っていただくということも全く問題ないんですが、人間、よりよいものをなんとかして安く利用したいというふうに思うところもあるでしょうし、そうした中で今回のような不適切なケースというのが出てきてしまったのかなと。ただ、今の(ケース)は間接的なものでして、一番大きいのは、入管であるとか、住民基本台帳の関係で、もともと国民健康保険の場合、加入に1年間必要でしたが、それが3か月に短くなりましたので、恐らく加入の要件が今までより少しハードルが下がったということもあるのではないか。医療保険制度というよりは、そういう問題もあるのではないかと思います。

武田:今までは滞在して1年たたないと保険証がもらえなかったのが、2012年から3か月に短縮されたと、これが1つの契機になっているんでしょうか?

堀さん:これは国民健康保険の場合ですので、会社員が入る健康保険はまた違うんですけれども、1つのきっかけになったのではないかなと。あとSNS等で、日本の医療のよさというのが世界中に広まったというのも、これも決して悪いことではないんですけれども、そういう時代的な背景があるのではないかと思います。

増え続ける医療費 高まる危機感

鎌倉:そもそも日本の医療費を見てみますと、急速な高齢化によって年々増加し、財政は厳しさを増しています。その額は42兆円。平成元年と比べますと、およそ2倍以上に膨れ上がっています。

保険料だけでは賄いきれず、40%近くは税金が投入されているんです。だからこそ、今回の問題が見過ごせないこととしてクローズアップされてきているんです。

今、自治体はこうした問題の調査を始めているわけですが、そこには課題も見えてきました。

狙われる医療保険 自治体が対策 しかし…

東京・葛飾区。外国人の数が5年で1.5倍以上に増えました。今や、区が発行する保険証を持つ人のおよそ1割は外国人です。区は、将来この問題が広がれば保険財政の圧迫につながりかねないと考えています。

葛飾区 福祉部 池嶋雅人国保年金課長
「危機感がある。外国人の割合もどんどん増えてくることになるので、もしそのようなこと(問題)が頻繁に起こっているんだとすれば、何らかの手を打たなきゃいけない。」

区は今年、新たな調査に乗り出しました。対象としたのは、保険証を取得して1年以内に高額な治療を受ける外国人です。そもそも、なんの目的で入国したのか。病気にかかったのはいつなのかをチェック。保険証の取得に疑問がないか確認しています。ところが、区は壁に直面しています。

葛飾区 福祉部 池嶋雅人国保年金課長
「これが実際の調査内容。」

本人が医療目的ではないと主張すると、それ以上、追及できないといいます。

葛飾区 福祉部 池嶋雅人国保年金課長
「聞き取りしても、『実は治療のために入国した』と言わない。」

「本当は医療目的では…と聞くことは?」

葛飾区 福祉部 池嶋雅人国保年金課長
「国保の窓口でそんなことしたら、人権問題になってしまう。」

狙われる医療保険 取り締まりはできないのか

では、外国人の在留資格の審査で見抜くことはできないのか。入国管理局は、入国の目的を偽っていた場合、資格を取り消すことができます。しかし、留学や扶養などの形式が整っていれば、問題を指摘することは難しいといいます。

法務省 入国管理局 曽我哲也審査指導官
「仮に高額な医療を受けていたからというだけでは、偽り、その他不正の事案がなければ在留資格を取り消すことはできない。法令のあてはめを行っているので、申請に基づく審査を行っている。」

こうした事態について、保険制度を管轄する厚生労働省はどう捉えているのか。当面は、現状の制度の中で対策を講じていきたいとしています。

厚生労働省 保険局 鳥井陽一国民健康保険課長
「医療保険制度のあり方について、外国人が増えていく中でどうすべきか、将来的に議論があってもおかしくはないと思うが、(今の)仕組みの中でできることをまずやっていきたいと考えている。」

狙われる医療保険 国の対策は?

武田:チェックしていくことも難しいとしますと、国はどんな対策を取ろうとしているのでしょうか?

山屋記者:厚生労働省は、健康保険組合が扶養を審査する際は、仕送りしていたことを示す証明書の提示を求めさせるなど、対策を強化しています。また国会議員の間でも、今月(7月)からプロジェクトチームを立ち上げて、対策を検討する動きも出ています。

外国人の医療を巡って… 海外でも悩みが

鎌倉:実は、似たような問題は海外でも起きているんです。例えば韓国では、2年前から結核のまん延を防ごうと、保険を使って無料で治療を受けられるようにしたところ、海外から多くの患者が訪れて、大きな問題となっているんです。またイギリスでは、医療財政が厳しい中、外国人が無料で医療サービスを受けていることへの批判が高まり、3年前から「ヘルスサーチャージ」という制度が導入されました。半年以上の滞在が見込まれる外国人に、年間200ポンド、およそ3万円の支払いを義務づけ、医療費に充てることにしたんです。これに対して、外国人の排斥につながるという議論が起きているんです。

狙われる医療保険 何をすればいいのか?

武田:イギリスのように外国人からあらかじめ一律にお金を取るべきだと、こういう制度を日本でも取ったほうがいいのでしょうか?

堀さん:慎重に考えるべきではないかと思います。そもそも制度の枠組みが違いますし、外国人労働者の受け入れ状況も違います。したがって一律にイギリスの制度を導入するというようなことは、若干早急であると思うんですね。ただ、イギリスの経験から学ぶべきところはあると思います。ブレグジットといわれて、EUの離脱問題でも議論になりましたが、国民の外国人労働者に対する反感というか、感情が非常に複雑になっていまして、国民を分断させるというようなことになりましたし、そうならないためにも、客観的な事実、エビデンスに基づいた議論が必要だと思うんですね。イギリスはややセンセーショナルな議論が先行してしまったように思いますので、そこは日本もまずは実態把握をして、きちんとすべきだと思います。

武田:日本でも医療財政が厳しい中では、おっしゃったように議論が過熱していく可能性もあると思うんですけれども、どういう制度にしていけばいいのでしょうか?

堀さん:短期的な視点と中長期的な視点もあると思うんですね。短期的には今回のケースにあったような、不適切な利用を改めるような、扶養の定義のチェックであるとか、あるいは入管における適正化であるとか、そういうこともあると思うんですが、中長期的には、社会保障制度における外国人の方をどういうふうに積極的に、あるいは受け入れていくのかというところを検討する必要があるのではないかなというふうに思います。
積極的に受け入れるというのは、国民国家として日本の社会保障制度というのは成立したというところもありますので、国民として相応の負担を、保険料と税金とを負担していただく、外国人であっても、そうではなくても、日本人と同じように負担していただくという視点も必要だと思っています。ただ、もともと日本の制度はグローバル化に対応するようにできていませんので、今後の日本の社会の中でどういうふうにグローバル化に社会保障制度を対応させていくのかというところを、国民的に冷静に議論していく必要があると思っています。

武田:今すぐに始めなくてはいけない?

堀さん:高齢化の問題もそうですが、20年以上前から、あるいはそれ以上前から問題になるということは予測されてましたので。同じようにグローバル化の問題も、もう今は分かりつつありますので、今現在は少ないレアなケースだとしても、これから大きな問題となる可能性もありますので、まずエビデンスを求めて、皆さんで冷静に議論したほうがいいと思っています。

武田:日本を訪れる外国人が増えていく中、日本人も外国人も安心して医療を受けられる制度をどう作っていくのか、負担の公平性をどう保っていくのか、今、欠かせない議論だと思います。