クローズアップ現代

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2018年7月18日(水)
万引き・痴漢という“病” ~刑罰だけでなく治療も~

万引き・痴漢という“病” ~刑罰だけでなく治療も~

万引きや痴漢など、再犯率の高い犯罪の中に精神疾患が潜んでいることが明らかになってきた。必要がない物を繰り返し盗むケースなどを、WHOは「窃盗症(クレプトマニア)」と認定。また、痴漢を繰り返してしまうケースの一部は「強迫的性行動症」にあたると指摘する医療者もいる。いずれも、ストレスや心の傷が原因になりうるという。治療プログラムを始める医療機関などが増える一方、病か否かの見極めの難しさや、傷ついた被害者の感情にどう対応するかなど、課題も多い。“罪になる病”にどう向き合い、どう再犯を防げばよいか、考える。

出演者

  • 樋口進さん (久里浜医療センター院長)
  • 原田隆之さん (筑波大学人間系 教授)
  • 武田真一・田中泉 (キャスター)

万引き・痴漢という“病” 刑罰だけでなく治療も

万引きで5回検挙された女性
「『どうしよう』って、『盗(と)ってきてしまった、どうしよう』。」

痴漢で2回検挙された男性
「『やっちゃ駄目だ』と思っていても、そういう(痴漢)行為に走ってしまう。」

必要ない物を繰り返し万引きする。やめたいと思っているのに、何度も痴漢をしてしまう。そんな病の存在が、今、注目を集めています。再犯を防ぎ、被害を拡大させないために治療の取り組みも始まっています。

刑事司法の専門家
「再犯をする人たちの問題を解決するというところに、もっと目を向けなければいけない。」

一方で、病を理由に、罪を免れるようなことがあってはならないという声も上がっています。

被害者支援団体 理事
「これはまず病気よりも前に犯罪なんですね。それがとても大きなことであって。」

これまで見えにくかった「犯罪に至る病」。私たちの身近に潜むその病と、どう向き合うべきか徹底検証します。

田中:私たちの身近なところで起き、なかなか減らない犯罪。それが「万引き」と「痴漢」です。警察が把握した万引きの件数は、一昨年(2016年)およそ11万3,000件。また、痴漢はおよそ3,500件で、被害者が声を上げなかったものを含めると、この10倍以上とする見方もあります。深刻なのは、何度も同じ犯罪を繰り返す再犯が多いことです。万引きでは、検挙された人のうち、およそ2割。痴漢では、有罪判決を受けた人のうち、8割以上が過去に同じような罪を犯し、被害者に損害や苦痛を与え続けています。

武田:そうした人のうち、実は病気が原因で犯罪を繰り返し、治療を必要とするケースがあることが明らかになってきました。

万引き・痴漢をやめられない 罪になる病

これまで万引きで5回検挙された、40代の直子さんです。初めての万引きは4年前。当時、10年以上働いていた勤め先を、人間関係のトラブルから退職。将来を悲観し、うつうつと過ごしていました。
ある日、コンビニで目にした300円のスイーツ。おなかはすいていないはずなのに、気付けば手が伸びていました。

直子さん
「家に帰ってきた瞬間もドキドキドキドキしたままで、『どうしよう』って、『盗ってきてしまった、どうしよう』。」

強い罪の意識から、数百円の万引きに対し、落とし物と言って5,000円を店に渡しました。一方でこの時、不思議な解放感のようなものも感じたといいます。

直子さん
「盗ったという行為がすごくうれしいというか、何か魚釣りをしていて、魚が引っ掛かったみたいな、そんな感覚。」

それから直子さんは、気持ちが不安定になると、衝動的に万引きを繰り返すようになります。

直子さん
「紳士物だったり、靴を片一方だけ盗ったり、絶対に使わないだろう食品だったりとか。必要がないから捨ててしまう。盗って帰ってきても、何かまだ満ち足りていない気分になると、もう1回出かけて行って、違う店で盗ったりとか。」

そして逮捕。刑務所に1年半服役した直子さんは、二度と万引きしないと心に誓います。しかし出所後、再び心は乱れます。万引きの衝動が湧き起こり、それを懸命に抑え込む苦しい日々が続きました。

直子さん
「居ても立ってもいられなくて、苦しくて苦しくて、バスタオルで口を押さえてわめいたりとか、声を出したりとかして。」

そして、また万引き。去年(2017年)再び逮捕されました。弁護士に勧められ、初めて精神科病院を受診しました。そこで、病的窃盗「クレプトマニア」と診断されました。

直子さん
「びっくりしました。まず、そういった病気があるのかな。」

「クレプトマニア」は、世界保健機関・WHOが認定する精神疾患の1つです。金銭目的ではなく、物を盗むことで得られる緊張感と満足感のため、衝動的に繰り返すのが特徴です。日常生活で生じるストレスや、心の傷が原因になりうると、専門家は指摘します。

赤城高原ホスピタル 竹村道夫院長
「何らかの心の傷を受けている方が多い。トラウマ体験があるとか、そういう方は結構いますね。達成感とかスリルに取りつかれて、止(や)めるに止められなくなる。それに依存するようになって、ほとんど1日中、人によっては夢の中でも窃盗のことを考えている。」

今、「クレプトマニア」と並んで、もう1つ、WHOが注目する精神疾患があります。先月(6月)病として認める方針が発表された、「強迫的性行動症」です。

生活に悪影響を及ぼし、性的な満足が得られないにもかかわらず、行動を繰り返す病と定義づけられています。日本では、痴漢行為を繰り返す人の中に、「強迫的性行動症」のケースが一部含まれていると見る専門家がいます。
会社員のヒロユキさん。妻と子がいる38歳です。痴漢行為をやめられず、2回検挙されました。初めての痴漢行為は、24歳の時。会社の大きなプロジェクトを1人で任されていました。

ヒロユキさん
「仕事がどんどん立て込んできて『どうしよう、どうしよう』って、人に助けを借りればいいのに、自分で抱え込んじゃって。頭がもうパンパンで、本当にもうパンパンだなって分かる感じがした。」

それ以来、仕事でプレッシャーを感じるたび、ヒロユキさんは通勤電車で痴漢行為を繰り返すようになります。

ヒロユキさん
「電車に乗るだけで、ドキドキする。頭でいくら『今日はやらない、やっちゃ駄目だ』って思っていても、そういう状況になると、そういう(痴漢)行為に走ってしまう。」

ついに現行犯逮捕。執行猶予の判決を受けました。それ以来、ヒロユキさんは、なるべく自宅に籠もることで痴漢行為をやめようとしました。そして、4年が過ぎたある日のことでした。電車の中で再び強い衝動に襲われます。また他人や家族に迷惑をかけてしまうのではないか。衝動と罪悪感の間で苦しみながら、再度、痴漢行為に及びます。

ヒロユキさん
「周りに迷惑かけて、被害者にも迷惑かけてる。悪循環というか負のスパイラルというか、どんどん、どん底に落ちていくような感じになって、もう死にたいぐらいの感じ。」

ヒロユキさんは医療機関を受診。そこで初めて、自らの意思では治すことのできない病だと診断されました。今、「強迫的性行動症」の治療を続けています。

ゲスト 樋口進さん(久里浜医療センター院長)
ゲスト 原田隆之さん(筑波大学人間系 教授)

武田:依存症が専門の医師の樋口さん。
痴漢や万引きがやめられない。こういった病気が実際にあるんですね。

樋口さん:あるんですね。ビデオにもあったとおり、「クレプトマニア」とか「強迫的性行動症」というふうにいわれます。これらは今は、衝動制御の障害というところに分類されてるんですね。衝動がコントロールできなくて起きてくる病気ということですね。もっとも、例えば痴漢をする人、それから万引きする人の全てが病気なわけではなくて、万引きの場合だと1割から2割ぐらいだというんですね。しかし、刑罰だけでなかなか再犯を減らせない状況がありますが、こういうふうな病気の方々に対して治療を施すことによって、それで被害を少なくしていくという取り組みが、世界で、今、行われています。

田中:ただ、視聴者からはこんな厳しい声が届いています。
「『病気ですのでご了承ください』はないでしょ」「病であろうが被害者にとっては迷惑なことに変わりない」。

武田:犯罪心理学が専門の原田さん。
こうした厳しい声もありますけれども、犯罪として罰するのか、あるいは病として治療すべきなのか、これはどう見極めればいいんでしょうか?

原田さん:我々は、その犯罪か病気かって二者択一では考えてないんですね。やはり大前提は犯罪であるということです。ですから、処罰をするっていうことは必要ですけれども、ただ、再犯率の高さを考えると、処罰だけではなかなか効果に限界があるということですね。ですから、今まであまり光が当たってこなかった病気という側面、これを、光を当てて治療するということによって、再犯率を減らせるのではないかと、そういうふうに考えています。

武田:もう一つの選択肢を作る?

原田さん:選択肢を増やすということですね。

武田:樋口さん、どういった人がこういった病気になってしまうんでしょうか?何か分かってきていることはあるんでしょうか?

樋口さん:実は、医学的な知見がまだ十分でなくて、あまりまだよく分かっていないというふうなところがあります。ただ、衝動のコントロールが難しいような精神科の疾患みたいなものがあるんですけれども、こういうふうなものを持っている方っていうのは、そのリスクが高くなるということがいわれています。また、例えば我々がストレスにさらされた時に、そのストレスをうまく対処していくために、いろんな行動がありますけれども、その選択肢が限られているということもいわれていますね。

武田:ストレスへの対処法を持たないというような人はなりやすいということになるわけですね。
こうした罪になる病をどう治療をしていくのか、その現場を取材しました。

性犯罪の再犯を防げ 刑罰だけでなく治療も

兵庫県にある加古川刑務所です。

男性の受刑者772人が服役しています。性犯罪の再犯を減らすため、ある取り組みに力を入れています。
専門家による治療プログラムです。対象は、痴漢や強かんなどで逮捕された受刑者。心理技官や臨床心理士が指導を行います。
この日、受講者は生まれてから現在に至るまでをプラスとマイナスの感情に表し、可視化していました。

受刑者
「中学校に入って、見ての通りガツンと落ちるんですけれども、都合の悪いことは自分の中で秘め事にしておこうと、親とか周りが聞いてがっかりするくらいやったら隠そうって。」

何が犯罪のきっかけになったのか。過去の自分を振り返り心の奥の原因を探っていきます。その原因ときちんと向き合うことで、再び犯罪に走らないようにする取り組みです。
法務省の調査では、受講者の再犯率は未受講の受刑者と比べると、わずかながら効果を上げています。しかし、刑期を終えて出所すると、治療プログラムを受けられなくなり、効果がどこまで持続するのかが課題になっています。

加古川刑務所 安部看守長
「(刑務所は)基本的に当然、性犯罪が起こりえない場所なので、そういう意味では自分自身を客観視、社会にいるよりもしやすい。ただその反面、本当に試されるのは社会に帰ってからになるので、そこで本当に通用するのかどうかは、また別の問題になってくるという難しさはある。」

出所後、社会に出る受刑者たち。その治療を引き受ける民間の医療機関も現れています。
ここは、痴漢などを繰り返してきた人々に、毎週治療プログラムを施す精神科クリニックです。

参加者の多くは逮捕歴があり、再犯を食い止めたいと希望し、全国から通ってきます。
プログラムを行うのは、筑波大学教授の原田さん。薬物依存などの治療法を取り入れています。

筑波大学 原田隆之教授
「前から兆候はあったはずです。その微妙な前触れや兆候に気付きましょうと。そうしたら早めに対処ができます。」

ここでまず行うのは、自らが痴漢をした時、どんな状況にあったかを細かく洗い出すことです。それを避けるために、別の行動を毎日繰り返すようにトレーニングします。
痴漢で2回検挙された、あのヒロユキさんです。

ヒロユキさん
「夜更かしも多くなって、睡眠不足になりがちになった。」

ヒロユキさんの場合、痴漢をしてしまった際、「仕事でストレスをためる」「生活のリズムが乱れる」、そして「1人の時間が多くなる」といった状況が重なっていました。そこで、それを避けるための行動を設定しました。例えば生活リズムを整えるため、毎朝朝食をとる。睡眠時間を十分に確保する。そして、1人で外にいる時は妻と頻繁に連絡を取る。どうしても1人で電車に乗らざるを得ない時には、必ず心がけていることがあります。

ヒロユキさん
「電車に乗ってて『やばいな』となったときは、目を自然に閉じて、耳に集中する。雑音を4つ探す。電車の音とか、新聞のガサガサって音だったり、そっちに集中している間に問題行動に対する思考を完全に断ち切る方法。」

こうした19の目標を掲げ、毎日実践します。

筑波大学 原田隆之教授
「いつものようにスケジュールから聞きますので。」

ヒロユキさん
「土曜日は7時に起きまして。」

実践できていれば青のシール。少しでもできないことがあれば、黄色のシールを貼ります。

犯罪を繰り返さないよう、こうした日々を仲間と確認しながら、一日一日積み重ねていきます。治療を始めて4年。ヒロユキさんは再犯を起こしていません。

ヒロユキさん
「何年たったから大丈夫だというのは、今は思っていなくて、終わりは見えていないというか、もちろん一生かかるかもしれないけれど、やっぱり自分で完治したなんて思っちゃいけないと今は感じている。今のところ、まだ先は終わりはないのかなと思っています。」

万引き・痴漢の再犯を防げ 刑罰だけでなく治療も

武田:原田さん、このプログラム、どの程度の効果が上がっているんでしょうか?また、これは、いつかは治ると考えていいものなんですか?

原田さん:我々の病院は、10年近くこの取り組みをやっておりますけれども、今まで大体500人近くの患者さんお越しになって、1年間のフォローアップですけれども、再犯をしないで済んだ人は96%というデータがあります。

武田:最終的には治る?

原田さん:今、VTRの中でも言っていたように、ここまでやらなければ治ったっていうのはなかなか難しいですね。ですから、長いこと治療に取り組んでいただくというのは大前提だと思います。

武田:それから刑務所の中の取り組みもありましたけれども、どういうふうにご覧になりましたか?

原田さん:刑務所に痴漢や何かで入るっていうのは、恐らくそれ以前に2回、3回、繰り返していると思うんですね。そうすると、もちろん被害者の数も増えていくし、本人も刑務所に入ると失うものもたくさんあります。ですから、ちょっと刑務所に入ってからというのは、治療のタイミングとしては遅すぎるんじゃないかと。もっとそこまでの段階で社会の中で、治療ということができれば、もっともっと再犯率を抑えることができるんじゃないかなというふうに考えています。

田中:アメリカでは、病と判断された人に対し、一歩、踏み込んだ対策が始まっています。
これは「治療的司法」と呼ばれ、薬物依存の犯罪者などに対して取り入れられています。まず罪を犯した人は、裁判所から刑務所に行く代わりに執行猶予を受けて、社会で暮らしながら治療プログラムを受ける選択肢が与えられます。これを選びますと、病の回復や社会復帰がよりスムーズに進むといいます。ただし、途中で治療をやめた場合などは、結局、刑務所に入ることになります。

武田:ただ、日本にはまだ治療を受けられる施設はごくわずか。これはなぜなんでしょうか?

樋口さん:まず、実態がよく分かってないと。「クレプトマニア」の方がどのくらいいるのか、それから「強迫的性行動症」がどのくらいいるのかよく分かってないですよね。それから、診療する医師の側にもやっぱり偏見みたいなものがあって、苦手意識というのがあるのかもしれないですね。ただ片方で、恐らく窃盗を繰り返すとか、あるいは痴漢を繰り返すような方々は一体どうしたらいいんだろうっていうふうな、本人もご家族も困っている方はたくさんいらっしゃると思うんですね。そういう方々が、報道を見ることによって、病気なんだということが分かると、一筋の明かりが見えてくるということですね。もっとも我々も、それに対して十分対応できるだけの医療資源も拡充していかなければいけないと思いますね。

田中:そして、こうした治療を進める上で、犯罪被害者を支援する団体は、次のようなことに配慮してほしいとしています。

罪になる病の治療 被害者への配慮も

全国被害者支援ネットワーク 飛鳥井望理事
「再犯を防止するというために、加害者の(治療)プログラムがとても重要な役割を担うということは、これは確かなことだと思うんです。ただし、これは『病気なんだからしょうがいない』といったことになると、被害者の気持ちとしては、とても飲み込めない。被害者支援に携わる立場から言うと、もう一歩踏み込んで、被害者の気持ちへの理解と共感というところまで(加害者に)進んでもらいたいと願うところです。」

万引き・痴漢の再犯を防げ 刑罰だけでなく治療も

武田:原田さん、被害者の立場に立った考え方ができるようになるということも非常に大事だと思うんですが、この点はどうなんでしょうか?

原田さん:おっしゃるとおりですね。やっぱり治療のプログラムの中にも、共感性、被害者の立場に立って自分の行動を考えるっていう、そういうプログラムが組み込んでいます。被害者の立場から自分に手紙を書くとか、そういう試みは当然やっているんですけれども、ただ、肝心なのは、やはりいくら共感性を高めても、衝動がコントロールできないという病気なので、できるだけ脳にスイッチを入れないで、危ない状態を招かないようにして治療をするというのが、それは一番要であるというふうに思います。

武田:樋口さん、こういった病があるんだという、社会の目も変えていく必要がありますね。

樋口さん:そうですよね。万引きとか痴漢で捕まった後に、出所した後、やっぱり厳しい目で見られると思うんですね。ただ、それだけだと、また元に戻ってしまう可能性が非常に高いということですね。ある一定の割合で病気を持った方がいて、そういうふうな方々に治療をすること、それから我々も偏見を捨てて、回復に持っていくようなそういう姿勢がとても大事だと思います。

武田:犯罪がやめられないという病。被害者をこれ以上増やさないためにも、私たちはその存在をまずは理解し、治療のための受け皿を広げていくための議論をしていくべきではないかと感じました。