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2018年7月4日(水)
揺れるミサイル防衛 “イージス・アショア”

揺れるミサイル防衛 “イージス・アショア”

去年、北朝鮮の弾道ミサイル発射が相次いだことを受け、日本がアメリカから導入を決めたミサイル防衛システム「イージス・アショア」。イージス艦の機能を地上に移した最新の施設で、2基で日本全土をカバーできるとされ、配備に向けた準備が進められてきた。ところが今年、米朝首脳会談で情勢は大きく変化。緊張が緩和したことから「必要性」や「巨額の予算」などについて、改めて議論が勃発している。最前線の現場から報告する。

出演者

  • 香田洋二さん (安全保障専門家・元海上自衛隊自衛艦隊司令官)
  • NHK記者
  • 武田真一・田中泉 (キャスター)

“1基1,000億円”が日本に 揺れるミサイル防衛

1基、およそ1,000億円。この建物なんだか分かりますか?

日本に導入される最新のミサイル防衛システム、イージス・アショアです。
北朝鮮による相次ぐミサイル発射。対策を急ぐ政府は、アメリカから2基購入することを決めました。高性能レーダーで捉えたミサイルを大気圏外で迎え撃つ、“最強の盾”と呼ばれています。
ところが、歴史的な米朝首脳会談で情勢は変化。配備を急ぐ必要があるのか?コストは高すぎないか?今、議論が巻き起こっています。配備の候補地となった地域でも…。

住民
「決定したときと情勢変わってきていると思いますけれども、もっと考える余地があるのかないのか。」

揺れるミサイル防衛。その在り方を考えます。

“最強”ミサイル防衛 イージス・アショアとは

最新のミサイル防衛システム、イージス・アショアとは、一体どんなものなのか。ルーマニアに、世界で唯一運用されている基地があります。入り口は厳重に警備されていました。

「撮影をやめてください。」

2か月に及ぶ交渉の末、内部の撮影が許されました。ゲートを越えた先に見えてきた建物。これが実戦配備されているイージス・アショアです。

イランのミサイルからヨーロッパ諸国を守るためとして、アメリカ軍が運用しています。全方位を24時間絶え間なく監視できる高性能レーダー「SPY1」。

そして、大気圏外まで迎撃ミサイルを打ち上げる発射装置で構成されています。

デベゼル基地イージス・アショア マーク・フェグリー司令官
「これは海上のイージス艦と同じシステムです。」

海上から敵のミサイルを撃ち落とすイージス艦。そのレーダーと迎撃ミサイルの発射機などを地上に移したものが、イージス・アショアです。高性能レーダーで、大気圏外の弾道ミサイルを探知し、迎撃。“最強の盾”と呼ばれています。ルーマニアの基地では、発射装置1基当たりに8発のミサイルを格納。3基合わせ24発が、いつでも発射できる態勢になっていました。

デベゼル基地イージス・アショア マーク・フェグリー司令官
「地上にこれを置くことで広い範囲を防衛し、その分イージス艦は他の任務に就くことができるのです。」

日本が、このイージス・アショアの導入を決めたのは、去年(2017年)12月。北朝鮮のミサイル発射が相次いでいたからです。日本全土を守ることができると、秋田、山口を候補地に想定。1基、およそ1,000億円とされ、5年後をメドに運用開始を目指すとしました。当時は緊迫した情勢の中で対策が急がれ、その必要性や高額なコストについて、広く議論されることはありませんでした。

北朝鮮情勢の変化 揺れるミサイル防衛

ところが先月(6月)米朝首脳会談で緊張が続いていた北朝鮮情勢が変化したのです。自民党内部からも、イージス・アショア導入の方針を検討し直す必要があるのではないかという意見が上がりました。
米朝首脳会談から10日後。初めて、小野寺防衛大臣が配備の候補地、秋田県を訪れました。当初、イージス・アショアそのものの必要性には理解を示していた秋田県。地元への十分な説明なしに国が配備に向けた手続きを急いでいるとして、不信感をあらわにしました。

秋田県 佐竹敬久知事
「正直言って当初は、北朝鮮と極度の緊張関係にある中で取り上げられました本事案でございますので、どこかが引き受けなければならないものであれば、状況次第では協力もやぶさかではないと思っておりました。ただ、これまでの御省(防衛省)のことの運び方をみますと、不安を覚えざるを得ない。具体的な説明をもって、地域住民はもとより、我々が納得できる状況を作り上げていただくことなしに強行することは、大変私どもの不本意なところ。」

小野寺防衛大臣
「いま米朝の対話の状況にはありますが、安全保障上の弾道ミサイルの防衛の問題の本質はなんら変わっていない。私どもはしっかりとした備えをするのが、日本を守る、防衛省・自衛隊としての役割だと思っている。」

国は、米朝間の協議は始まったばかりで、北朝鮮の脅威は変わっていないとしています。ミサイル防衛に詳しいアメリカの専門家は、北朝鮮の情勢だけにとらわれるべきではないと指摘します。

米国戦略国際問題研究所 トーマス・カラコ上級研究員
「日本は、北朝鮮だけが脅威のように考えがちですが、実際は中国の方が脅威だと言えるでしょう。中国は高性能のミサイルを多数保有しており、日米にとって長期的にみて最も大きな脅威です。アメリカにとっても日本のレーダーの情報を共有することで、共に対処できるのです。」

どうなるミサイル防衛 イージス・アショア

ゲスト 香田洋二さん(安全保障専門家・元海上自衛隊自衛艦司令官)

田中:イージス・アショアについて、政府が導入を決定したのは去年12月。その後、北朝鮮はミサイルを発射していませんが、先月1日、イージス・アショアを配備する候補地として、秋田と山口の演習場が公表されました。米朝首脳会談の11日前のことでした。ただ、配備先として正式決定したわけではなく、防衛省はこの夏以降、現地調査を行った上で場所を決定し、5年後をメドに運用開始を目指します。

武田:海上自衛隊でイージス艦などの部隊の司令官を務めた、香田洋二さん。
米朝首脳会談で、北朝鮮を巡る情勢は変化しているわけですが、それでも防衛省が、このイージス・アショアの配備を急ごうとしている。これは、なぜなんでしょう?

香田さん:国の防衛を考えます時に、特定の国の意図とかアクションではなくて、国に関わらず、能力、今回の場合は弾道弾ですね。これに対して、わが国をどう守るのかという体制を作るのが主眼だと思いますので、やはり北朝鮮のアクションが今、やんでいるように見えますけれども、やはり弾道弾という能力に対して、わが国はどう対応するかと。

武田:北朝鮮だけじゃないということなんですね。
社会部防衛省担当の喜多記者にも聞きたいと思いますが、高額な予算に対する懸念も出ています。これは実際、どのぐらいかかるんでしょうか?

喜多祐介記者(社会部防衛省担当):イージス・アショアはアメリカから購入するもので、1基当たりの金額はおよそ1,000億円とされ、2基で2,000億円かかります。また、迎撃ミサイルは1発当たり数十億円となります。さらに、敷地の造成や関連施設の建設も費用がかかるほか、導入後はシステムの更新を続ける必要があります。最終的にいくら必要なのか、防衛省も現状では計算できないとしていて、予算規模は膨らむ見通しです。

武田:香田さん、これまで海上に展開してきたイージス艦のシステムを、なぜ陸上に上げなければならないんでしょうか?

香田さん:今までは、弾道弾防衛の能力があるのがイージス鑑とPAC3だったわけですけれども、ただ、イージス鑑自体というのは、もともと弾道弾防衛だけのために作られたわけではありませんし、そのイージス鑑も現実には、防衛省は公表していませんけれども、実際60日以上、現場にいるということで、やはり乗員の負担ですね、これは非常に高くなっているということで、なんらかの、1日24時間365日、陸上においてしっかりと地に足を置いて警戒監視ができるというシステム、体制ができるのであれば、それを導入するということで、今回、そういう条件が整ったということだと思います。

武田:PAC3は射程の問題で、全国をカバーできるわけじゃないと。

香田さん:PAC3は、主要な戦略拠点を中心に、あるいは攻撃の態様によっては、攻撃されそうな所に機動展開するということだと思います。

武田:喜多さん、イージス・アショアの導入、日本の防衛上、どんな意味があるんでしょうか?

喜多記者:今の自衛隊のミサイルの装備は、全て移動式のタイプなんですけれども、このイージス・アショアは、固定化されたミサイル防衛の拠点となります。ですので、自衛隊にとって初めての本格的なミサイル基地ともいえると思います。最新のレーダーが導入されることによって、日米の情報共有が強化されると見られます。結果として、アメリカ軍との一体化が進むことにならないか、注視していくことが必要となります。

田中:イージス・アショアの配備計画は今、具体的に動きだしています。防衛省は候補地となった秋田県と山口県で、先月17日から住民説明会を開始しました。今のところ、両県の知事とも「より詳しい説明を聞く必要がある」としています。防衛省は「地元の理解を得たい」としていますが、候補地は自衛隊の演習場なので、最終的には、国の判断で配備することができます。住民たちの受け止めは複雑です。

イージス・アショア 揺れる配備候補地

先月、秋田市で初めて開かれたイージス・アショアについての住民説明会。

候補地周辺の住民の代表など、およそ120人が参加しました。防衛省の幹部が、なぜ今、配備が必要かを説明し、計画への理解を求めました。多くの住民たちが気にしていたのは、候補地が住宅街に近いということでした。

住民
「わが町内会はイージス・アショアが来る自衛隊演習場から近いところで300メートル、400メートルになります。その辺はみんな住宅密集地です。」

国が配備の候補としたのは、秋田の市街地に隣接する、陸上自衛隊・新屋演習場。演習場のすぐ隣には、人口が密集する住宅地が広がり、学校も集中しています。

懸念の1つは、ミサイル探知の際に発する強力な電磁波。イージス艦で運用する時は、原則、甲板に人が出ない措置を取っています。

住民
「365日、常に電波を発している。副作用が起きないということは私は考えられない。」

防衛省 東北防衛局 北川高生企画部長
「基本的には皆さんの人体に影響はないと考えています。」

さらに強く懸念の声が上がったのが、有事の際、この地域が攻撃の対象になるのではないかということでした。

住民
「万が一、攻撃された時にどうなるんだということが一番心配。」

これに対し国は、「そもそも攻撃させないようにするものだ」と説明しました。

防衛省 戦略企画課 五味賢至課長
「まさにイージス・アショアのような、非常に能力の高い装備品を導入することによって、むしろ抑止力が高まるということによって、わが国が攻撃される可能性は一般的には低くなると。」

住民
「(攻撃される可能性は)100%ないと断言できますか。断言できれば私、町内に戻って『大丈夫だって』そういう話はできますけど。」

「万が一のリスクを知りたい」と問う住民。「リスクは低くなる」と繰り返す国。議論がかみ合っていないとして、その後も不安の声が相次ぎました。

“最強”ミサイル防衛 導入の影響は?

リポート:宮下大輔(社会部)

イージス・アショアは、地域にどんな影響を及ぼすのか。秋田と同様に、市街地の近くで配備が進むポーランドの街を取材しました。配備が正式に決まり、すでに建設が進んでいる、レジコボ基地です。

再来年(2020年)以降、アメリカ軍による運用が始まる予定です。基地は人口10万のスウプスク市中心部から4キロの場所に位置しています。このイージス・アショアによって、市の経済に思わぬ影響が出ていることが分かりました。

スウプスク市 マレック・ビエルナツキ副市長
「ここにはたくさんの制限が書いてあります。例えば“高さ”。15メートル以上の建物を建てる場合は、アメリカ軍の合意が必要になりました。」

アメリカ軍が作成した文書です。基地から35キロ圏内では、レーダーを妨げないよう建物の高さが制限され、「基地周辺の空域は飛行を制限する」となっています。配備計画は、アメリカ政府とポーランド政府の合意事項で、規制の内容が市に明かされたのは合意の後だったといいます。この規制によって影響を受けたのが、市が進めてきた風力発電です。基地から4キロ圏内では、新規の風車の建設が禁止されたのです。ほかにも規制を嫌い、進出を取りやめる企業が出ていて、経済損失は25年間で900億円に上ると試算されています。

スウプスク市 マレック・ビエルナツキ副市長
「損失は市の年間予算の5倍に匹敵する額で、極めて深刻です。投資が減れば雇用も減り、人材も流失します。基地による制約は大きな打撃で、市の発展を阻害する要因になっています。」

さらに、暮らしを脅かす新たな事態が生じていました。軍事大国・ロシアの反発です。

ロシア プーチン大統領
「ロシアの安全保障に生じた脅威を除去することを考えざるを得ない。ポーランド人はこれまで穏やかに不自由なく安全に暮らしてきたことを思い知るべきだ。」

イランに備えるとしたイージス・アショア。実際にはロシアに対応するための措置だと、強く反発したのです。

スウプスク市 マレック・ビエルナツキ副市長
「ポーランドだけでなく、NATOにとっても、防衛力を高めるこうした施設がどこかに設置されるべきなのは理解しています。しかし、基地が近いことは恐怖です。いざ戦闘となれば、一番最初に狙われる可能性が高くなるのです。」

地元住民はどう捉えているのか。基地に隣接する地区の住民たちです。

「住民同士で今、基地についてどんな話をしますか?」

住民代表
「今は話さない。最初のころは話していたけど、今は話さない。もうあきらめた。考えないようにしている。」

住民
「どういう解決法があるの。労力の無駄よ。」

住民代表
「決定してからでは遅すぎました。全てが決まる前に疑問を解消すべきでした。基地を建てようとする人たちからだけでなく、多くの専門家に検証してもらうべきです。」

イージス・アショア 揺れる配備候補地

配備の候補地となった秋田市。演習場から1キロの場所にある保育園です。

最近、保護者との間でイージス・アショアの話題が増えたといいます。

母親
「私は基本、それで守ってもらえるなら。」

保育園 園長 高橋摩美さん
「私も自分の国だから、自分の国は自分で守らなければいけない。いつまでも、いつまでも他の国の人にってわけにもいかない。だけど、果たして私たちにどんな影響が起きるのか。もしかして一番最初に狙われる場所にもなりうる。」

母親
「どっち取るかだよね。守ってもらうのを取るか。でも弊害あるよっていう。」

保育園 園長 高橋摩美さん
「メリットとデメリット。」

リスクも含め、正確な情報を知りたい。住民たちの切実な思いです。

保育園 園長 高橋摩美さん
「子どもさんをお預かりする仕事をしているから、ちゃんと情報をもらって対策をとらないと、全てが自分の責任になるわけじゃないですか。知らなかった、やらなかったではすまない立場なので。」

イージス・アショア いま何が必要か

武田:喜多さん、住民はリスクを含めて情報を知りたいとしているわけですけれども、実際に取材して、住民の声をどう受け止めましたか?

喜多記者:候補地周辺に住む人たちに話を聞きますと、自衛隊に対し、協力的な人が少なくないと感じました。今回、住民たちが求めていた情報は、配備されることになった場合の万が一のリスクと、その時の対策をどう立てればいいかということでした。しかし、結局それが分からなかったため、結果的に不安と不信感を募らせる状況になっていると思います。防衛省は今後も住民説明会を開くとしていますが、このままの状況では、住民との間の溝が深まる可能性もあると思います。

武田:香田さん、「イージス・アショアが配備されれば、攻撃対象になるんじゃないか」という住民の声に対して、防衛省は「そもそも攻撃させないようにするものだ」と答えています。正面から答えていないように見えるんですけれども、実際にはどうなんでしょうか?

香田さん:防衛省の立場も、理解はできるんですけれども、やはり軍事的に見ますと、日本のミサイル防衛を担当する、わずか2つのシステムですので、その1つを破壊、あるいは2つを破壊するとなると、日本の防空システムはゼロに近くなるということで、相手にとっては非常に魅力的な目標であることも事実なんですね。ですから配備することについていうと、全く攻撃されない、あるいは、されるリスクが少なくなるということではなくて、日本にとっても虎の子のシステムである以上、自衛隊の相当の能力をかけて、その防護をして、ミサイル防衛能力を維持をすると。結果的には、住民の皆様の安全を十分に確保できると。こういうふうな観点からの説明というものも、やはり現実的には必要じゃないかなというふうに考えます。

武田:喜多さん、万が一のリスクを考えますと、住宅地から遠いことにこしたことはないと思うんですけれども、なぜ、秋田では住宅地に近い場所が、候補地に選ばれたんでしょう?

喜多記者:イージス・アショア導入を決めた去年12月、防衛省には急いで場所を決めたいという思いがありました。北朝鮮が、2年間で40発もの弾道ミサイルを発射する状況が続いていたからです。そのため、すぐに配備できるよう自衛隊の敷地から候補地を絞り込んでいったんです。その結果、秋田と山口の日本海側の演習場が選ばれたんですけれども、やはり住宅地との距離をどのように考慮していくのか、配備先を正式に決定する際の大きなポイントとなりそうです。

武田:香田さん、ポーランドの住民は「全てが決まる前に議論すべきだった」と言ってましたけれども、周辺の住民の不安を考えた時、防衛省、今後、どう対応すべきですか?

香田さん:情報の制約というのもやはり基地問題、あるいは新しい基地の設置というのを、住民にいかにきめ細かく説明をして、あるいは住民の不安点というのを正確に理解して、正しく対応していくということで、もう1つ、自衛官が十分に任務を達成する上では、地元の住民の理解というのは、これは一番大きな要素なんですね。そういう意味で今後、混乱はありましょうけれども、あらゆる手段を尽くして、地元の方との信頼関係をしっかりと作るということが望まれます。

武田:北朝鮮の脅威が高まる中で導入を急いだ、イージス・アショア。米朝対話で緊張が緩和している今こそ、その必要性やリスクについて議論を尽くし、国は国民の疑問に応えていくべきではないかと思います。