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2018年4月24日(火)

郵便局が保険を“押し売り”!? ~郵便局員たちの告白~

郵便局が保険を“押し売り”!? ~郵便局員たちの告白~

郵便局が保険の“不適正”営業を行っているという声が番組に寄せられた。私たちは実態を探るためSNSで情報提供を呼びかけたところ、消費者のみならず、郵便局関係者からも300件以上の情報が集まった。「保険を預金と誤認させる」「親族が同席しないように誘導する」など高齢者を狙った“不適正な手法”の数々。こうした実態は日本郵政グループ側も問題視していたことが内部資料から浮かび上がってきた。放送に先駆け取材過程をSNSで公開し、寄せられた情報をもとに取材を深める “オープン・ジャーナリズム”によって、郵便局で今何が起きているのか、探った。

★SNSに投稿した動画などのまとめはこちら

出演者

  • 田尻嗣夫さん (東京国際大学名誉教授)
  • 武田真一 (キャスター) 、 鎌倉千秋 (キャスター)

郵便局が“押し売り”!? 内部から告白が次々と

「説明なしに保険に入っていた」「郵便局も悪質」。このメールをもとに私たちは取材を始め、その結果を動画にまとめて、先月(3月)、番組のSNSアカウントに公開。情報提供を呼びかけました。

鎌倉:すると、1週間で100通以上のメールが届きました。中でも目立ったのが、郵便局関係者の声だったんです。私たちは、それをもとに取材し、さらに動画を作成・公開という、このプロセスを繰り返しました。これまでに6本の動画を公開し、現時点までに450通を超えるメールが届いています。

こうして見えてきた保険押し売りトラブルの実態と、郵便局員たちが明かす不適正な営業手法の数々。まずは、こちらからご覧ください。

トラブルの実態は

身近な郵便局にだまされたと訴える、山下さん(仮名)親子です。去年(2017年)、70代後半の母親が郵便局員の訪問を受け、納得のいかない保険の契約をさせられたといいます。

山下孝子さん
「郵便局は嫌だと。信頼できない。」

山下満さん
「これですね。」

郵便局員に勧められたのは、毎月の支払い額が4万円の生命保険でした。支払う総額が640万円なのに対し、死亡時の受け取りは、不慮の事故など限られた場合を除き、500万円となる内容でした。しかも、その支払いは孝子さんが90歳になるまで続くというものでした。

山下満さん
「支払う金額のほうが保障よりも大きい。意味のない保険と、まず思った。ありえないでしょと。」

さらに、息子の満さんが問題だとするのは、その営業のやり方でした。契約書類には、「70歳以上の高齢者には家族の同席をお願いする」と書かれていました。

しかし、孝子さんは70代後半にもかかわらず、家族の同席の必要を尋ねられることはなかったといいます。孝子さんによると、「同席拒否」と書かれた紙を渡され、そのとおりに書くように言われました。

山下孝子さん(仮名)
「メモを渡されて『ここに書いてください』と。そのまま書いてしまったんですけど。」

そして、保険の内容について納得できないまま、契約を促されたといいます。

山下孝子さん(仮名)
「『90歳まで私、払えません』と言ったんです。でも『息子さんのために』と繰り返し(話を)して、3人に囲まれて、(サインを)書かなきゃいけないんだと思いました。」

郵便局員が告白 保険“押し売り”の手法

この情報をもとに、SNSで動画を公開。情報提供を呼びかけたところ、次々とメールが。その多くが、郵便局の内部事情を知る関係者からの投稿でした。
そのうちの1人、現役郵便局員のAさんです。「満70歳以上の高齢者と契約するとき家族に同席を求める」という社内の決まりには、抜け穴があると私たちに証言しました。

現役郵便局員 Aさん
「契約の作業途中で、『(家族の)同席をお願いしないといけない、手続きがやり直しになる』。お客様は『せっかくここまでやったのに面倒くさい』と思いますから、『“同席を拒否します”と書いてもらえますか?』と話をすれば、そういう流れになる。」

家族の代わりに郵便局の上司が同席すれば契約が可能になるなどの、「例外規定」があるというのです。

現役郵便局員 Aさん
「上司にとっても新しい契約、それが第一。それだけです。」

実はこうした不適正な営業の手法は、全国に広く出回っていることが、私たちの取材から明らかになってきました。これは、現役の郵便局員から入手した内部資料。そこには2016年の9か月間に客から4,000件以上の苦情が寄せられていたことが記されていました。

さらに、保険業法に違反し不適正であるとして金融庁へ届け出された事案が、去年は少なくとも15件発覚していました。中には局長が事件の隠蔽に関与したり、7年で17件の不適正契約に関わっていたなどという、悪質な事例までありました。こうした違法性の高い営業に実際に関わっていたという証言も、複数、番組に寄せられました。その1人、元郵便局員のBさんです。

元郵便局員 Bさん
「郵便局というだけで、高齢者の場合、だましやすい。」

かつて、営業成績優秀者として表彰されたこともあるBさんが明かしたのは、郵便局の利点を悪用したテクニックでした。

左は、ゆうちょ銀行の貯金通帳。そして右は、かんぽ生命の保険証券です。郵便局で貯金している高齢者に「通帳が緑から青に変わる」などと説明。貯金と保険を誤認させるような説明で契約したといいます。

元郵便局員 Bさん
「郵便局の貯金を見て、このお金でどれぐらいの保険契約ができるか計算して、『緑の通帳が青に変わる』『貯金のようなものです』、そんな話をして契約をいただきました。」

さらに、1人の高齢者から何度も契約を取る「短期(2年)解約」という手法もあるといいます。

元郵便局員 Bさん
「2年もたつと『特約が変わった』『お金を返す』と言って、実際には解約。」

短期解約とは、契約期間の途中で解約させて、払戻金で新たな保険に加入させる手法です。その際、払戻金が減り、客が損をすることは十分説明せず、見かけの契約件数を少しでも増やすことが目的だといいます。
男性が語る手法の広がりを裏付ける内部文書を、番組独自に入手しました。それによると、ある高齢者の4件の保険が中途解約され、その払戻金で2件の保険を新たに契約。その2件も短期解約され、払戻金で新規契約。その結果、3件の新規契約を稼いだ、この事例。客に150万円近い損失を与えたと示されています。

元郵便局員 Bさん
「数字(契約)を上げるための手段でしかありません。損をされるのはお客様。本当に申し訳ない。」

内部から告白が次々と

ゲスト田尻嗣夫さん(東京国際大学 名誉教授)

鎌倉:取材を続けてきた吉田ディレクターです。まず寄せられたメールのほとんどが、現場の郵便局員などからのものだったということなんですが?

吉田宗功ディレクター:まず、これだけの数のメールが来るということに、とても驚きました。しかも、そのメールが届いた時間帯というのは夜ですとか、深夜の時間帯に送られたものが多かったんですね。中身としても、会社にばれるかもしれないと、メールを送るのをちょっと迷ったんだけれども、やっぱり現場の実態を知ってほしいということで送ったというふうな深刻なものがたくさんありました。

鎌倉:現場の危機感の表れということですね。

吉田ディレクター:それを強く感じました。

鎌倉:不適正な営業を行ってしまったという告白をした郵便局員は、日本郵便の社員たちです。日本郵便は日本郵政グループの1つで、郵便の配達に加え、ゆうちょ銀行や、かんぽ生命から業務を委託され、郵便局で貯金の窓口業務や保険の販売を行っています。VTRでは紹介しきれなかった、郵便局関係者からの声です。

30代 元郵便局員
“高齢者に強引に販売せざるを得ない環境が郵便局にはありました。お客さまに申し訳ない気持ちが日に日に強くなり、退職しました。”

40代 現役郵便局員
“以前のような地域の人に頼りにされる局員に戻してください。この番組を機に、世間の目や金融本部、かんぽ生命の偉いさんの考えが変わってくれることを大いに期待します。”

鎌倉:一方で、すべての社員がそういう方法で営業しているのではないといった声もありました。

30代 現役郵便局員
“郵便局で生命保険を取り扱っている渉外社員の者です。全ての社員がそういう方法で営業をしているのではないということを、どうしてもお伝えしたいです。”

鎌倉:吉田さんは、こういった人たちに実際、会いに行ったわけですよね。どんなことが見えてきたんですか?

吉田ディレクター:全国各地の郵便局員の方のお話の中で、「2年話法」とか「相続話法」という言葉をいろんな方から聞いたんですね。
例えば「2年話法」というのは、VTRにもあったような、短い期間の間に契約を解約させて、また新たに契約させるというものを繰り返させるための営業トークであったり、「相続話法」というのは、「この保険に入ると相続のときに有利になりますよ」と、そういうテクニックなんですね。

鎌倉:こういう言葉が使われるほど、ある種、当たり前に行われたということですか。

吉田ディレクター:取材をしていても、全国の郵便局員の方から聞きますので、こういった問題というのが、本当に全国で広がっているという可能性を強く感じました。

元経済記者で、民営化以前から郵便局を取材してきた田尻さん。全国の郵便局で、いわば保険の押し売りのようなことが行われているという告発だが?

田尻さん:郵政民営化が行われましてから11年目になるんですが、何を今さらという感じがいたします。いちばん感じますのは「適合性の原則」、いわゆる「金看板の原則」といわれるもので、かんぽ生命のような金融商品を扱う所は、顧客のための商品を、より何が適しているかということを判断する能力と責任を負っている、より大きな責任を負っているという、そういう原則です。それが今、守られてなかったということだと思います。

短期の間に契約と解約を。

田尻さん:「回転売買」といわれるものでありまして、銀行、証券なんかもずいぶん営業の最前線で、いろいろ問題を起こしてきたわけですね。そういうことは、かんぽ生命や日本郵便が当初から、目標を変えるときから、そういうことを、手を打たないといけなかったという感じがいたします。

一方で契約者は、郵便局に預けておけば安心というイメージがあると思うが、なぜ?

田尻さん:民営化前までは郵便局というのは、絶対に元本割れのしない商品を扱うと、それから、うそは言わない、無理を(言わない)、だましはしないという、そういう信頼関係がこのお客との間にあった。地域社会との間にあったわけですね。それが中身が変わりつつあると。1つは、元本割れのリスクのある商品がどんどん入ってきている。それから2番目は、営業の姿勢が変わってきた、この2つが今回の背景にあるかと思います。

違法性もある?

田尻さん:コンプライアンスといわれる説明責任と、あるいは違法かどうかと、法律に合ってるかどうかということだけではなくて、社会的に受け入れられるか、納得されるか、共感を得られるかということが問題になってるわけですね。

本当はそこまでやらなくてはいけない?

田尻さん:(やらなくては)いけない。そういうことが、かんぽ生命の場合には、郵便局の場合も、マスターされていなかったということだと思います。

保険販売を巡るこの不適正な営業はなぜ起きるんでしょうか。寄せられた情報をもとに取材を進めていくと、現場に強いプレッシャーがかかっている実態が見えてきました。

厳しい目標に恫喝研修

郵便局員に営業を指導する立場の、現役社員・Cさんです。

現役郵便局員 Cさん
「各郵便局の目標額が書いてありまして。」

Cさんが説明したのは、不適正営業の背景にある高い営業目標。それを示す内部文書です。年度ごとの各郵便局の営業目標が記されています。多くの局で昨年度の契約実績の1.5倍~2倍の目標が設定されており、中には前年度の実績の3倍近い目標が割り当てられている局もあります。

現役郵便局員 Cさん
「(営業目標が)現場とかけ離れている。自分は立場上『頑張れ』と言わなきゃいけないが、もう限界だなと。」

「こうした高い目標を達成できなければ、上司からの激しい叱責が待っている」。そう告白したのは、今も毎月、営業目標に苦しんでいるというDさんです。

現役郵便局員 Dさん
「数字が足りなかったら人間否定ですよね。『この仕事に向いてないんじゃないか』『辞めたほうがいいんじゃないか』とか。」

さらに、組織的にこうした圧力をかけられる仕組みがあることも見えてきました。寄せられた声の中に何度も出てくる「恫喝(どうかつ)研修」「懲罰研修」という言葉。この研修に参加したことがある郵便局員Eさんが、電話取材に応じました。

現役郵便局員 Eさん
“目標が未達、できなかったので呼び出されるわけですけど、世間で言うパワハラ研修。”

Eさんによると、営業力を上げるための研修とは名ばかりの実態があるといいます。

現役郵便局員 Eさん
“『低実績の連中が、がん首そろえやがって、お前らここに来て恥ずかしくないのか!』。かなりきつい恫喝を1時間近く受けます。”

「研修に行きたくない」。
Eさんは、こうした厳しいプレッシャーが、不適正な営業が行われる背景にあるといいます。

現役郵便局員 Eさん
「ノルマに追い詰められ、お客様を詐欺まがいで契約させるパターンはしょっちゅう見ます。」

幹部を直撃

番組に届いた声を、直接、郵便局の幹部にぶつけるため、私たちはグループの本社を訪ねました。日本郵便の佐野常務執行役員です。まず、不適正な営業によって高齢者に不利益を与えてしまったとする、現場の告白をまとめたVTRを見せました。

現役郵便局員
“(保険を)必要ないと思って売っている、だましている。心の中では『ごめんなさい 』。”

日本郵便 佐野公紀常務執行役員
「信頼を裏切るような行為が、少ない数、起こっている。会社として非常に深刻。郵便局に対しての信頼を失ってはいけない、改めないといけない。」

そして、「高い目標設定が現場を追い詰めている」という郵便局員たちの訴えも、幹部に直接届けました。

現場の声
“上層部からの苛烈な要求を満たすため、やむをえず、お客様をだます。”

現場の声
“『契約を取れ』と朝礼で皆の前で詰め寄られ、大声で恫喝。”

日本郵便 佐野公紀常務執行役員
「これは行きすぎた状況。上司からの圧力・パワハラは受け止めによって一律にはできないが、営業の目標があるからお客様に転嫁するという話は、絶対あってはいけない。」

利益を追求する上層部と、それに反発する現場。組織の問題点はどこに?

田尻さん:やはり、本社と郵便局、つまり営業の現場との間の距離が、どんどん離れてしまったということが基本的な問題だと思います。つまり、現場の声が本社に届いてないというところが、今回の背景になっていると思います。

なぜこういうことに?

田尻さん:やはり23万人の巨大な組織ですので、日本郵政グループ全体としては、これにどういうふうに取り組んでいくか、まだこれからの問題だと思います。

人事構造にも問題が?

田尻さん:やはり、金融知識の消化能力だとか、さまざまな問題が絡んでいるかと思います。そういった問題を克服していくための方策が、まだ講じられてないということだと思います。

鎌倉:不適正な営業をなくすため、日本郵便とかんぽ生命では、すでに対策を打ち出していると説明しています。契約者に電話や書面で契約内容を事後に確認、80歳以上は家族の同席がなければ、原則、契約を交わさない。こういった取り組みで、苦情件数はピーク時の4分の1にまで減ったといいます。その上で、かんぽ生命の幹部は、営業社員の評価のしかたを見直すとしています。

かんぽ生命 堀家吉人専務執行役
「お客様が契約の内容に満足いただいて、長く継続していただける。そうした『継続』を評価する指標を導入するといった、社内的な評価制度の見直し等もこれから取り組んでいきたいと。」

鎌倉:このほか、高い販売目標が不適正な営業の背景にあるという指摘に対しては、今年度は会社全体の目標を1割引き下げることを決めたといいます。
では、本当に不適正な営業がなくなるのか。私たちは先週、先ほどの幹部のインタビューをSNSで公開しました。それに対し現場から、早速、次のような声が相次いで届いています。

40代 現役郵便局員
“目標を1割削減というが、個人に割り振られた目標はむしろ上がっている。こんな状況では、問題の解決にはならない。”

50代 現役郵便局員
“はっきり言って、表向きのコメント。対策をとったように見せかけて、中身は変わろうとしていない。”

鎌倉:こういった声に対してどう答えるのか。日本郵便に質問を送ったところ、今日(24日)夕方、回答があったそうですね。

吉田ディレクター:まず1つ目の声に対しては、「各郵便局の営業目標や、各社員に期待される目安の金額も平均的には下がっている」という回答でした。そして2つ目については、「お客様本位の営業活動をしっかりと浸透させていく」、そして「必要であれば追加の措置も行っていく」としています。改善が本当に進むのか、それは経営層の本気度が問われると思います。

郵便局は、もともと地域に根ざした、全国あまねくある存在で、それが人々の信頼につながってきたと思うが、なぜこんなことになってしまったのか?

田尻さん:やはり金融で稼いで、このユニバーサルサービスを支えるという、明治以来の基本的な構造というものが、ここに来て限界に来てるということだと思います。ユニバーサルサービスというのは、年間3,000億ぐらいに近いお金がかかっておりますが、これをこの日本郵便の、あるいは、かんぽ生命、ゆうちょ銀行にかぶせているというところが、基本的な問題だと思います。

内部から告白が次々と

郵便局という公益的なサービスと、収益を上げなければいけない、この両立をどう図っていく?

田尻さん:公共性と地域性というのは、決してコスト要因ではない、つまり収益要因だというふうに考えるべきだと思います。アメリカの銀行のケースなんかを勉強いたしましても、例えば今、日本郵便が一生懸命やっている「見守りサービス」というのは、これは家庭ぐるみ、あるいは家計全体の金融ニーズを、世代別に取り込んでいくという大きな窓口になっているわけですね、糸口になっている。アメリカでは成功例がいくつもあるわけです。そういったグループ全体として、商品を開発していく、長期的に取り込んでいくという戦略が必要かと思います。
もう1つは、郵便局っていうのは、安心・安全、交流の拠点でありましたけれども、そういった人のぬくもりのある場所にすべきだと思います。

番組に寄せられた400通以上のメール、その数の多さ、内容の生々しさは、郵便局が抱える問題の深刻さを物語っていました。私たちは今後も、皆さんからの声をもとに、隠された不正や社会の課題を掘り起こしていきたいと思います。ぜひ情報をお寄せください。

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