クローズアップ現代

毎週月曜から木曜 総合 午後10:00

Menu
2018年3月6日(火)
原発事故 “英雄たち”はいま 被ばく調査拒否の実態

原発事故 “英雄たち”はいま 被ばく調査拒否の実態

7年前、世界最悪レベルの事故を起こした東京電力福島第一原子力発電所。汚染が広がる恐れもあるなか、極めて高い放射線量のもと、収束作業にあたった原発作業員たちがいた。「フクシマ50」とも呼ばれた彼らのように、事故直後の原発構内で作業に当たったいわゆる「緊急作業従事者」の数は約2万人に上る。事故後、国は彼らの健康影響を把握し、将来の放射線防護に役立てるために大規模調査を立ち上げたが、7年経った今、その調査が思うように機能せず、対象者の6割以上から協力が得られていないことが明らかになった。調査はなぜ立ちゆかなくなったのか。“汚染”のリスクにさらされながら、決死の覚悟で作業に当たった人びとの、厳しい現状を独自取材で描いていく。

出演者

  • 祖父江友孝さん (大阪大学大学院教授)
  • 斉藤隆行 (NHK記者)
  • 武田真一・鎌倉千秋 (キャスター)

原発事故7年 “英雄たち”の厳しい現実

4日前に撮影した、最新の東京電力福島第一原子力発電所の映像です。奥に見えてくるのは水素爆発を起こした1号機。中には、溶け落ちた核燃料が今も残されています。

東京電力社員
「こちらはまさに1号機から4号機の前になります。」

建屋近くの放射線量は、毎時およそ0.1ミリシーベルト。事故直後に比べ100分の1以下に低下しているといいます。事故の収束と廃炉の作業に、膨大な数の作業員が動員されてきました。7年前、世界最悪レベルの事故を起こした福島第一原発。事故直後、極めて高い放射線量のもとで収束作業に当たった人たち。

YouTubeより
“英雄の名は「フクシマ50」”

命の危険もある中、危機に立ち向かった行動が世界から称賛されました。その年の収束作業に当たったのは、全国の原発や建設現場から集められた、およそ2万人。放射線の影響は出ていないか。国は今、作業員の健康状態を追跡する調査を行っています。しかし、予想外の事態が…。6割以上の人が調査に応じていないのです。取材を進めると、彼らの口から出たのは“英雄”と称された姿とはかけ離れた言葉でした。

元原発作業員
「私らみたいなのは、切り捨てなんですよ。それで命を懸けていたのかと言ったら、ほんと情けないですね。」

原発事故から7年、作業員たちに今、何が起きているのでしょうか。

未曽有の事故の収束作業に当たった原発作業員たち。そもそも原発作業員の被ばく線量の上限は、通常1年間で50ミリシーベルト、5年間で100ミリシーベルト。緊急時は作業の期間中、100ミリシーベルトと定められていました。それが福島第一原発の事故直後は、特例措置として、さらに250ミリシーベルトまで引き上げられたんです。こうした過酷な状況下で作業に当たった人たちを、緊急作業従事者と呼び、その数はおよそ2万人に上ります。

鎌倉:その緊急作業従事者の被ばく線量を見てみますと、特例で設けられた上限を超えている人が6人、100ミリシーベルト以上の人が168人いました。この人たちに対しては、がんや甲状腺、白内障の検査などが定期的に実施されています。100ミリシーベルト未満の人たちに対しては、こういった検査は行われてきませんでした。健康への影響が十分に解明されていないこともあり、緊急作業従事者全員を対象に、3、4年に1回無料の検診を行って、健康状態を調査することにしたんです。

過去にこれだけ多くの原発作業員が被ばくしたケースは、国内ではもちろんありません。それだけ重要な調査のはずなんですが、進んでいないんです。

原発作業員2万人調査 相次ぐ“拒否”はなぜ

先月(2月)、福島県内で行われた緊急作業従事者の健康調査です。通常の健康診断に加え、放射線の影響を受けやすい甲状腺のエコー検査。そして、がんを早期発見するための血液検査なども行われていました。事故直後から半年間、原発で作業を行ったという男性。被ばくの影響を心配し、調査を受けに来たといいます。

緊急作業従業者
「来て良かった。エコーとかまずやらないですから、会社の(健康診断)では。」

国から調査を任されたのは、放射線影響研究所・放影研。広島、長崎の被爆者の健康影響を調査してきた実績があります。

放射線影響研究所 大久保利晃顧問研究員
「被ばくの制限を一時緊急作業のために、政府の責任で撤廃して引き上げたんですね。基準を変えたわけだから、それについてはやはり政府に責任があると。実際に有害物に接してしまった人、そういう方々の調査なので、とにかくその時できる最善を尽くして記録に残していく。」

調査は、国が管理するデータベースをもとに行われます。作業員の累積被ばく線量に加え、住所などの個人情報が登録されています。郵送などで協力を依頼。同意した作業員が調査を受け、健康の記録を生涯にわたって蓄積しようというのです。国は当初、全体の80%の参加を目標に掲げていました。ところが、事故から7年。参加者は35%にとどまっています。調査に応じていない人が相次ぎ、その数は1万2,000人を超えています。

放射線影響研究所 喜多村紘子研究員
「現状、かなり厳しいです。どうすると増えるのかというヒントすら今ない。」

なぜ重要な調査が進まないのか。私たちは、作業員など100人を超える関係者に接触。匿名を条件に話を聞かせてくれる男性にたどりつきました。福島県内に暮らす20代の男性です。下請け業者として依頼を受け、事故直後から原発で働きました。

20代の男性
「自分の中では死に物狂い。現場での恐怖心だったり、過酷な環境の中での作業というのは、押しこらえながらやってました。」

作業に当たったのは、水素爆発を起こした原子炉建屋の周辺。ゴム手袋を渡され、汚染したがれきの撤去に当たりました。

20代の男性
「目に見えるものであれば怖いものはないけど、触れるもの一個一個に汚染物質が付いていると思ったら、正直、触れるのは嫌じゃないですか。どこで汚染するか分からない。一回自分も汚染があった。(ゴム手袋が)破れた状態で手が汚染した。体に(汚染物質が)付いてるんじゃないか。家に帰って布団に入っても、布団に付いていたら、家の中が汚染した状態になっちゃうんじゃないか。」

男性は、今年(2018年)結婚するつもりです。収束作業で浴びた放射線量は20ミリシーベルト近く。政府が定めた限度内でしたが、将来、何か影響が出ないか不安に感じています。しかし、下請けの立場で健康調査のために休暇を取ると仕事を失いかねないといいます。

20代の男性
「行きたいのはやまやまですね。ただ、現場回らなくなっちゃうので。月曜日から土曜日までずっと出勤。」

元請け企業などの理解が乏しく、健康調査のことを口にすることさえできないといいます。

20代の男性
「急に『この日休み』『この日休み』と言うと、上(元請け)がどういう顔するかなと。『何の休みなんだ』って、上(元請け)から言われるわけなんで。」

「1日休んで、上からどう見られるか?」

20代の男性
「怖いですよ。」

ほかの作業員の取材からも“調査では、仕事を休んでも補償がない”“病気が見つかっても治療してもらえない”など、今の不十分な体制では調査を受ける気になれないという声が多く聞かれました。

20代の男性
「国もしっかりして欲しいなと。やるんだったら、とことんやって欲しい。結局、作業員は捨て駒みたいな感じで、使ってだめだったら切り捨て切り捨てなんで。そう考えると、原発で働いてて本当に良かったのかなと、振り返っちゃいますよね。」

取材を進めると、国や東電への不信感から調査を拒否する人がいることも分かってきました。51歳の元作業員の男性です。事故直後、原発に入りました。

元作業員の男性
「ちょうどあの電線追っていくと、排煙塔の下あたりが3号機がある所。50年以上生きてて『死ぬかもな』という感覚に襲われたのは、この現場が初めてです。」

男性が不信感を抱くようになったのは、ある深刻な事故がきっかけでした。

2011年3月24日 NHKニュース7より
“3号機で行われていたケーブルを敷く作業。足から放射性物質が検出されました”

汚染水に足をつけた作業員3人が、緊急搬送された事故。100ミリシーベルトを大幅に超える被ばくをし、当時、大きなニュースになりました。この現場に男性は居合わせていたのです。

元作業員の男性
「ここが3号機入り口です。こんな風にめくれてて、ここも立ち止まってると線量が高いので、『走り抜けてくれ』ということで。」

この日、男性は元請け企業の社員ら3人に連れられ、同僚と水素爆発した3号機のタービン建屋に入りました。地上と地下の電源盤をケーブルでつなぐ作業。事前に危険な作業ではないと聞かされていました。しかし、前の3人が階段を下りたとき、突如、線量計の警報ブザーが鳴り響いたといいます。

元作業員の男性
「入って行った順番にアラームが鳴った。かなりうるさいですね、ピーって。」

地下にあったのは、大きな水たまり。高濃度の汚染水ではないか。退避命令が出ると考えた男性に出された指示は、思わぬものだったといいます。

元作業員の男性
「(作業に)入っちゃったから、そのままやり続けましょう。『死にに行け』と言ってるのかと。責任とれる行動ではないですよね、元請けとして。」

男性は、汚染水には足をつけなかったものの11ミリシーベルト被ばくしました。深刻な被ばく事故の現場にいたにもかかわらず、その直後、男性に対しては、東電からの聞き取りや病院での検査すら行われませんでした。

元作業員の男性
「結局、末端の人間は関係ないという考え方なんだと思いますよ、使い捨て状態。使える時に使って、あとは関係ないから何も聞かないし、という形なんじゃないですかね。」

男性は、調査が自分の健康を守ってくれるものには思えず、応じるつもりはないといいます。

元作業員の男性
「信用できないんですよ、はっきり言って。国が何をやりたいのか。何年後かに(体に影響が出ても)『検査しましたが、この人の場合は放射線の異常は認められず』、終わっちゃうじゃないですか。あそこで被ばくした人がどうなろうと最終的には考えてないと思う。それで命懸けてたのか、ばからしくて、本当に情けないですよね。」

取材を続ける中、被ばくの影響か分からないものの健康を害している人たちがいることも分かってきました。ある元作業員の男性の自宅を訪ねたときのことでした。男性は、一昨年(2016年)60代で亡くなっていました。がんで入退院を繰り返した末のことだったといいます。被ばくとの因果関係は分からないままでした。調査に応じていない1万2,000人の作業員。たとえ亡くなっている人がいても把握するすべはありません。

原発作業員2万人調査 不信の背景は?

ゲスト 祖父江友孝さん(大阪大学教授)
斉藤隆行(NHK記者)

調査に応じていない人たちの不信の背景には何があるのか?

斉藤記者:作業員から話を聞くと、“自分たちは捨て駒だ”といった強い言葉を聞くことが少なくありませんでした。その背景には、命の危険を冒して作業に当たったのに、その後、原発から離れると、国や東電から健康面などでフォローもなく、見捨てられたという不信感があります。さらに今回の健康調査についても、何か異常が見つかっても、治療を受けられる仕組みにはなっておらず、研究の材料に使われるだけではないかと感じている作業員も多くいます。実際に作業員の自宅に届く調査票のタイトルは、研究への協力に関する同意書となっていて、作業員の健康を守るためという、調査のもう一つの趣旨は十分には伝わっていないように思います。

とても大切な調査だと思うが、本来はどんな意味があるという考えだったのか?

祖父江さん:この緊急作業者の方々は、国難の際に、みずからのリスクに顧みず作業に当たった、国の誇りに当たる人たちです。国からリスペクトされる人たちのはずです。その人たちを放置せずに、行く末を見守るということが、まず第1の目的だと思います。さらに、仮にこの人たちの中に予測されないような健康被害が生じた場合に迅速に対応するということの目的もあるかと思います。第2の目的としては、放射線の健康リスク、これを正しく評価するということもありますけれども、多くの人たちが100ミリシーベルト未満の被ばくです。このことに関して、現在の知識では、それよりも高線量を浴びた人よりもリスクは低い。ただ、ゼロではないかどうかというところが分かっていないということであります。こういう人たちで2万人という数字が、そこの決着をつけるために十分な数かというと、必ずしもそうではありません。ただ、こうした状況をきちんと情報として残すということが将来に向けて重要なことだと思います。

鎌倉:改めて調査に参加していないという65%の人たち、その内訳を詳しく見てみますと、宛先不明などで連絡がつかない人が9%、返事がない人や参加したくないと答えた人が52%に上っています。

そういった意義がありながら、うまくいっていない現状。これはどう考えるか?

祖父江さん:今回の調査は、あまり有利な条件ではなく、行われています。というのが、作業に当たった人たちは、作業のときは1か所に集まっていましたけれども、今や全国に散らばっています。そういう人たちに対してのアプローチは郵送調査しかないのですけれども、この郵送調査というのは、一般的には回収率が3割、あるいはそれ以下ということになっています。ですから、今回の回収率等、頑張った結果ではあるかと思いますけれども、もうちょっと上げたいというところではあると思います。唯一のアプローチのしかたが郵送調査であるというところが最大の弱点なんですけれども、レスポンスさえしていただければ、その後の情報の提供ですとか、あるいは個々の人の状況に応じた電話相談ですとか、あるいは情報提供とかができると思いますので、ぜひとも調査に協力していただきたいというふうに思います。

国はこうした現状をどう受け止めているのか?

斉藤記者:厚生労働省は取材に対し、参加者の確保は重要な課題だとしたうえで、放影研と連携し、作業員の意思を尊重しつつ、参加者の増加に取り組んでいくと答えています。国は調査の主体は、あくまで研究機関の放影研という姿勢です。枠組み上はそうであっても、この姿勢は調査の研究的な目的を強調させることになり、作業員の不信感につながっているように感じます。国は主体的に作業員の健康を守るという姿勢が欠けていると言わざるをえないと思います。

鎌倉:緊急作業従事者の被ばく線量なんですが、実は、この値自体にも疑問が出ているんです。事故直後に集められた作業員の被ばく線量は、国のデータベースに登録されて、今回の調査に利用されています。しかし、作業員からは“数値は信用できない”“実際はもっと被ばくしたのではないか”といった声があるんです。国も事故直後の混乱期は、線量計の不足などで、被ばく線量の把握に問題があったことを認めています。調査を任された放影研では、被ばく線量の再確認の作業を始めています。

原発作業員2万人調査 揺らぐデータの信頼性

放影研に届けられた作業記録。国のデータベースとは別に、原発事故の収束作業に当たった企業が独自に保存していたものです。作業員一人一人の作業場所や作業内容、被ばく線量が詳しく記されています。新たに集められたこの作業記録を、国のデータベースと照らし合わせていきます。すると、ある作業員の記録に食い違いが見つかりました。

放射線影響研究所 喜多村紘子研究員
「3月は、この2日しか働いていないみたいな記録になっていますけれども。」

国のデータベースでは作業日は3月26日と27日。ところが、新たに集められた記録では28日も作業をしていました。そこには被ばく線量が記されていました。この数値は国のデータベースから漏れていたのです。

放射線影響研究所 喜多村紘子研究員
「信頼のあるデータで説明するっていうのが大事になると思います。再評価することで、その人たちの不安もひょっとしたら取り除ける。」

原発作業員2万人 進まない被ばく調査

データのそごがあると、調査の前提そのものが揺らぐことにならないのか?

祖父江さん:ですから、混乱期に情報の収集不足があったということは、確かにそういった点もあると思いますので、不足したデータを補っていくということを継続的に繰り返していくということが重要だと思います。

この調査を進めて、生涯にわたって作業員の健康をサポートするためにはどうしたらいいのか?

祖父江さん:調査に協力したくてもできないという方がおられるので、この方々に関しては、できるだけ協力していただけるような環境作りが必要だと思います。例えば、研究費から日当を支払うですとか、あるいは会社のほうで有休の手続きを取っていただく、そのために厚労省のほうから協力金を出すとかが考えられると思います。こうした方々が胸を張って“緊急作業者である”と名乗れるような環境作りが非常に重要なことなんだと思います。

これから廃炉の作業は本番を迎え、今後も多くの人が働くことになる。そうした人たちの健康を守っていくために、どう取り組んでいけばいいのか?

斉藤記者:廃炉作業は、今後30年とも40年ともいわれる長期間に及ぶ国家的な事業です。今後、抜け落ちた核燃料を取り出すなど、さらに高い放射線量のもとでの作業が待ち受けています。一方で作業員が不足するという懸念もあります。それだけに作業員の健康を継続的に見守る体制を作る必要があると思います。

目に見えないこの放射線の恐怖と闘ってきた作業員が口にした“切り捨てられた”という言葉が胸に響きました。廃炉という長い道のりを支える人たちの安全を守り、その不安を和らげるための真摯な取り組みが今、求められていると思います。