クローズアップ現代

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2018年2月7日(水)
ピョンチャン五輪 極限への挑戦  スノーボード 平野歩夢

ピョンチャン五輪 極限への挑戦  スノーボード 平野歩夢

スノーボードハーフパイプの平野歩夢選手19歳。今季W杯連勝、ピョンチャン五輪の有力な金メダル候補だ。去年、当時世界で3人しか成功させていない4回転の大技に挑み転倒、大けがを負った。恐怖を克服し、五輪ではその技を連続で跳ぶという究極の挑戦を掲げる。最大のライバルは五輪連覇のショーン・ホワイト選手。戦いのゆくえを展望する。さらに技の高難度化によりケガのリスクが増大する中、採点方法の模索など安全確保への最新の動きを伝える。

出演者

  • 野上大介さん (スノーボードジャーナリスト)
  • 生島淳さん (スポーツジャーナリスト)
  • 武田真一 (キャスター)

ピョンチャン 金メダルへ スノーボード 平野歩夢

オリンピックへ大きな期待を背負う19歳。スノーボードハーフパイプの日本代表、平野歩夢選手です。

今シーズン、ワールドカップで優勝2回。金メダルの有力な候補です。
変幻自在に空中を舞うハーフパイプ。中でも、最高難度といわれるのが、平野選手のこのジャンプ。ダブルコーク1440です。体をひねりながら、1回転、2回転。このとき、地面からの高さは13m近くに達しています。さらに降下しながら3回転。そして、4回転。パイプの縁ギリギリで踏み切り、空中へ。危険と背中合わせの大技には、高い技術に加え、強じんな精神力が求められます。

武田キャスター 五輪会場を“体感”

ピョンチャンオリンピックの本番の競技が行われるハーフパイプです。パイプの両側の巨大な壁。選手達は、この壁を猛スピードで駆け上がって宙を舞います。ここに来て見ますと、その大きさに圧倒されます。選手たちが、いかに極限の技を駆使して戦っているのか、ひしひしと伝わってきます。

ピョンチャン 金メダルへ スノーボード 平野歩夢

全長180m、斜度18度の半円状にくりぬいたコースで行われるハーフパイプ。5回ないし6回ジャンプし、高さや難易度、完成度を競います。これらの採点基準全てで、ずば抜けて高い評価を受けている平野選手の4回転。ピョンチャンでは、2回連続で跳ぶという前人未到の領域を目指します。

スノーボード ハーフパイプ 平野歩夢選手
「攻めて周りを黙らせる滑りをするしかない。さりげなく勝つのはいやですね。」

自らの肉体と精神の限界を超えて。平野選手、戦いの日々に密着しました。

スノーボード 平野歩夢 金メダルへの道

平野選手がすい星のごとく現れたのは、4年前のソチオリンピックでした。

実況
「さあドロップイン、15歳の夢。」

15歳、中学3年生で銀メダルに輝いたのです。日本選手として、冬のオリンピック史上最年少でのメダル獲得でした。
当時「クローズアップ現代」の取材に対し、平野選手はある選手を目標として挙げていました。

スノーボード ハーフパイプ 平野歩夢選手(2014年)
「ショーンを倒して優勝したい。」

オリンピックで2連覇を果たしているスーパースター、ショーン・ホワイト選手です。

“オリンピックで、あこがれのショーンに勝って金メダル”

それが、平野選手の小さいころからの夢でした。ところが2年前、思わぬ事態に直面しました。

全日本スキー連盟 古川年正専務理事(当時)
「今回の当連盟の不祥事につきましては、本当に真摯に受け止めております。」

スノーボードの、未成年の強化指定選手が大麻を使用したことが発覚。平野選手は無実だったにも関わらず、ネット上で犯罪者扱いされたのです。

スノーボード ハーフパイプ 平野歩夢選手
「意味わかんねえよっていうぐらい感情的になる部分があったから、オリンピックもういいかなって。」

全日本スキー連盟は、国際大会への日本代表チームの派遣を自粛。平野選手は、名誉だけでなく、実戦の機会まで奪われました。
さらに、去年(2017年)3月。気持ちの整理がつかないまま、個人の資格で出場した大会。悲劇が待っていました。当時、平野選手を含め、世界で3人しか成功させていなかった4回転。踏み切りのタイミングがわずかに遅れて、体がパイプの外側へ。ボードが縁に引っかかったのです。左膝のじん帯と肝臓を損傷。全治3か月の大けがでした。

しかし、この逆境が闘争心に火をつけます。懸命なリハビリを重ねた、平野選手。驚異的な回復で、けがをした左足だけで体重を支えられるまでになりました。けがから5か月。左膝の痛みは完全になくなっていました。本格的な雪の上でのトレーニングを始めます。

スノーボード ハーフパイプ 平野歩夢選手
「戻って来られたという安心感に包まれている部分もあったり、これから始まるなって。」

最初の滑走。まずは半回転から。

徐々に回転数を上げ、3回転。予定では、次は4回転。けがにつながったジャンプです。しかし、跳ぶことができません。

スノーボード ハーフパイプ 平野歩夢選手
「“やっぱ怖いな”って。例えばあした(4回転を)やろうかなって思う日の、寝て、朝起きて、どんどん山行って、どんどん滑る。自分がやることに近づくと同時に、それって思い出してくる。」

スノーボード 平野歩夢 “恐怖心”を乗り越えて

心の中に忍び込んだ「恐怖心」という見えざる敵。成功のイメージを取り戻したい。平野選手は、過去の4回転の映像を繰り返し目に焼き付けていました。

スノーボード ハーフパイプ 平野歩夢選手
「みんな結果にこだわるために、自分の体ひとつで、いつけがするか分からない覚悟を持ちながら練習してると思うんですけど、自分もそこにいなきゃいけない。そういう覚悟を持ってやるんだったら、1440(4回転)入れなきゃ勝てない。」

12月、ワールドカップ第2戦。平野選手に、背中を大きく押される出来事がありました。あこがれのショーン・ホワイト選手です。実はこの3か月前、ジャンプで転倒し、顔を62針縫う大けがを負っていました。

それでも、こんなメッセージを発していました。

“私はすぐに戻る さらに強くなって!!”

その言葉をショーン・ホワイト選手は実践してみせます。持ち前のダイナミックな滑り。代名詞である、3回転半のダブルマックツイストも決めました。合計3本を滑って、最も高い点数を競う決勝。1本目で、87.25の高得点をたたき出します。これを見た平野選手。

スノーボード ハーフパイプ 平野歩夢選手
「ショーンは“あきらめない人”なんで、“何が何でもやってやるぞ”ぐらいな気持ちを持って大会には出てくるので、人間として強い。すごい刺激を感じる。」

向かったのは、ボードのメンテナンスを行うスタッフの元でした。

スノーボード ハーフパイプ 平野歩夢選手
「(ボードを)走らせられるんなら、もっと。」

スタッフ
「じゃあ、もっと走らせる。」

ワックスをいつもより念入りにかけてもらうことにしたのです。助走のスピードが上がり、より高く跳ぶことができますが、一方で、コントロールが難しくなります。

スノーボード ハーフパイプ 平野歩夢選手
「よし。」

賭けでした。
繰り出したのは、最高難度のあの「4回転」。ついに試合で成功させました。ショーン・ホワイト選手に8点もの大差をつけてトップに立ちます。

スノーボード 平野歩夢 前人未到の領域へ

優勝は確実。祝福ムードが漂う中、平野選手は1人集中していました。
最後の滑走。再び4回転。さらに、なんと連続で4回転を跳んだのです。世界中の誰一人成功させたことがなかった4回転の連続技。着地がわずかにずれたものの、自らの限界への挑戦でした。
オリンピック2度の王者を抑えて優勝。ピョンチャンでも4回転の連続技に挑戦する決意です。

ショーン・ホワイト選手
「歩夢にはすばらしい才能がある。オリンピックで勝つには、絶対倒さなくてはならないから、闘志がわいてきたよ。」

スノーボード ハーフパイプ 平野歩夢選手
「常に紙一重の状況で、自分は賭けて滑っているっていう。そこを目指している以上は、1440(4回転)は2連続つなげて、オリンピックでも、今後大会で出せるときは出したいと思ってるし、人がたどりつけないようなことを、自分の夢にできればなと思いますね。」

その平野選手、先月(1月)末に行われた世界最高峰のプロの大会「Xゲーム」で、ついに4回転の連続技に成功しました。

実況
「こんなの見たことあるか?ない。地球上で初めてだよ。得点は?99点、うそだろ?!オーマイゴット。」

ピョンチャン 金メダル スノーボード 平野歩夢

ゲスト 野上大介さん(スノーボードジャーナリスト)
ゲスト 生島淳さん(スポーツジャーナリスト)

今日(7日)はピョンチャンにあるスタジオからお伝えしてまいります。
スノーボードを18年にわたって取材し続けている野上さん。
オリンピックを前にして平野選手が4回転の連続技を決めて優勝した。これは、金メダルに向けて弾みがついたのでは?

野上さん:僕も現場で見ていたんですけれども、この技の構成、ルーティーンを決めたら、ピョンチャンオリンピックで間違いなく金メダルが取れるんじゃないかという大技の連続を、彼はもうピョンチャンオリンピックの2週間ぐらい前に成功させてしまったので、期待はかなりできると思います。

そして、スポーツジャーナリストの生島さん。
日本選手団の中で、スノーボードの平野選手にどんな期待をされている?

生島さん:冬のオリンピックを振り返ってみますと、日本の最高の金メダルは長野大会の5個だったんですね。実は意外なことに、ほかのオリンピックでは1つずつしか獲得していないんですよ。今回、複数の金メダルが期待されていますので、大会前半に登場する平野選手がすばらしいパフォーマンスを見せてくれれば、波及効果が生まれていくので、ぜひとも日本選手団に弾みをつけるような演技を期待したいというふうに思います。

ただ、ライバルは強力だが?

野上さん:トリノ、バンクーバーを連覇した、ショーン・ホワイトが今年(2018年)の1月ですね、ワールドカップ。歩夢は内定が出ていたので、出場はしていなかったんですけれども、そのワールドカップでなんと100点満点を。
(100点満点?)
技が、普通の昨年12月に歩夢が決めた世界最高難度のフロントサイドダブルコーク1440という4回転を決めて、さらに最後のヒットを続けて1260という3回転半の大技を連続で完成度高く決めてきました。

ショーン選手がオリンピックで4回転を2回入れてくる可能性は?

野上さん:間違いなく入れてくると思います。

この4回転の連続技を決めるかどうかが、オリンピックの金メダルを左右するともいえるだが、そうなるとどちらが有利?

野上さん:やはり歩夢の最初にやる4回転の大技の着地がすごい鍵を握ってるといいますか、やはり次にも4回転の大技を入れ込むためには、どうしてもスピードを失速させてはならないので、やはり着地の精度が高くなければ、連続で4回転を決めることはできないと。そう考えると、ショーンに比べて、歩夢のほうが勝ってますね、最初にやる4回転の技の着地の精度が。
(うまく着地が決まれば、金メダルの可能性は十分ある?)
十分あると思います。

さあ、この2人以外にも金メダルを狙える選手がいるんです。
去年、Xゲームと世界選手権の2冠を達成したオーストラリアのスコッティ・ジェームズ選手。そして、日本にももう1人期待の選手、16歳の戸塚優斗選手です。今シーズン、ワールドカップで初めて4回転を成功させました。

ハイレベルの戦いとなっているハーフパイプ。技の高難度化が急速に進む一方で、選手たちの挑戦は極限にまで達しようとしています。

加速する“技の高難度化” 極限への挑戦は…

2010年のバンクーバーオリンピック。

実況
「ダブルマックツイスト(3回転半)決めた!人類が回せるのはここまでと言われている技。」

さらに、前回のソチ。

実況
「ダブルコーク1440(4回転)。」

ジャンプは4回転に到達しました。進化が止まらない選手の技術。派手で見栄えのする技への注目度は高まるばかりです。
ソチ大会から採用された、スノーボードのスロープスタイル。ジャンプ台やユニークな障害物のあるコースを滑走します。さらに今大会から採用されたビッグエア。急斜面をすべり降り、曲芸師のように宙を舞います。一歩間違えれば、けがにつながりかねませんが、選手たちの限界への挑戦はやむことがありません。

ハーフパイプ 日本代表 片山來夢選手
「はたから見れば、ばかなのかもしれないけれど、命をかけて危険を顧みずやることはかっこいい。そこにスノーボードの魅力がある。」

挑戦と安全性 リスクをどう防ぐか

高度化する技に対し、選手の安全を確保するための模索も始まっています。ピョンチャンオリンピックでスノーボードの審判として採点にあたる、橋本涼さんです。

見ているのは、公式練習。競技が始まる前から、選手の技の特徴や動きを細かくチェックします。目的は、一人一人の実力を正確に把握すること。

ピョンチャン五輪 スノーボード審判員 橋本涼さん
「この選手は(本番で)こういう技をしてくるとか、話し合いながら見ている。」

自分の実力以上の危険な技に挑もうとする選手に対しては、採点を厳しくする方針を打ち出しています。

ピョンチャン五輪 スノーボード審判員 橋本涼さん
「明らかに選手のキャパ(能力)以上のことをやっていても点数はつけない。技をコントロールして、きれいにやらないと点数がでない。(選手に)わかってもらえればと考えている。」

止まぬ“技の高難度化” 安全どう確保?

選手の無謀な挑戦を防ぐための審判の取り組み、こうした模索が始まっている理由は?

野上さん:いわゆるプロ大会といわれている大会では、各選手の個性だったり、技の独創性を評価する項目があるんですけれども、オリンピックだったり、ワールドカップのジャッジは総合的な印象で判断しているために、どうしてもエアの高さだったり、技の難易度に目が行きがちといいますか。ですので、やはり選手たちは勝つためにどうしても高難度の技を入れなければいけないというふうに、今はなってますね。

どんどん高難度化していくと、やはり安全に関するリスクも高まってくるが、選手の向上心とどう折り合いをつければいい?

生島さん:人間っていうのは貪欲というか、本当に人間の向上心があらゆる競技の魅力だとか、競技力を非常に高めているというのは間違いないと思います。これは、スノーボードだけではなくて、例えば男子フィギュアでも世界中の選手がもう次々に4回転、あらゆる種類の4回転に挑戦していくと、しかも成功させていますよね。そういった意味で、本当に魅力を増しているのは間違いないんですが、ただ、そこにはリスクが潜んでいる。その意味では、選手の保護が必要なぐらい、選手は、アスリートは進化してしまったなというふうに思いますね。

高度な技に挑戦する選手をどう守っていくのか。フィギュアスケート日本代表の医師は、練習の見直しも必要だと指摘しています。

フィギュアスケート日本代表チームドクター 土屋明弘医師
「(練習で)3回転で20本跳んでギリギリの人が、4回転は10本にとどめるとか、数ではなく質でこなすことで、けがの予防になる。」

ピョンチャン五輪 日本勢への期待は

野上さん、平野選手のオリンピックの舞台での活躍、どんなことに期待する?

野上さん:ソチ五輪で銀メダルを取ってから、彼はもう、この舞台でゴールドを取ることしか考えてこなくて、それに相応する力をつけてきたので、もう自分のかっこいい滑りを最大限に表現して、取ってほしいです。

生島さんは今大会、どんなことに期待する?

生島さん:ふかんして見ますと、東京オリンピック、各競技団体に向けて、非常に強化が進んでいますけれども、それが僕は冬の競技にも波及効果が出ていて、いろんな競技でメダルが期待されているという状況になっていると思います。そして僕は、現実にさまざまな競技でメダルが取れると思います。そして今回、ピョンチャンで非常にいい結果が出れば、それがまた2年後の東京オリンピックにつながっていくんじゃないかなというふうに期待しています。

とっても寒いピョンチャンですけれども、熱い大会に期待したいですね。
「周りを黙らせる滑りをするしかない」という平野選手。金メダルへ挑む決勝は14日。恐怖と戦い、そして極限へと挑みます。その姿、楽しみにしたいと思います。
明日(8日)はスピードスケート、小平奈緒選手の強さに迫ります。