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2018年2月6日(火)

男にもタイムリミットが!?~精子“老化”の新事実~

男にもタイムリミットが!?~精子“老化”の新事実~

去年、「欧米男性の精子の濃度が40年で半減した」という衝撃の調査結果が発表された。日本人も対岸の火事ではなく、欧州4か国との比較で、精子の数が最も少なかったことが過去に判明している。最新研究でも、新たな精子のリスクが明らかになっている。ある年齢を境に、「受精卵の細胞分裂をさせる力がない」精子が急増する可能性があるというのだ。 WHOによると、不妊の原因は、半数が男性側にあるという。精子の状態を回復させる術はあるのか―。そして、不妊治療を受ける場合は、どのように向き合っていけばよいのか―。不妊治療を経験した俳優の石田純一さん・理子さん夫婦にも話を聞いた。 精子に関する最新事情を伝え、多くの当事者たちへのヒントを探る。

出演者

  • 小堀善友さん (獨協医科大学埼玉医療センター 講師)
  • 小倉智子さん (臨床心理士・生殖心理カウンセラー)
  • 武田真一 (キャスター) 、 田中泉 (キャスター)

精子が急滅!? 男性に忍び寄る危機

日本人にも、精子の危機は忍び寄っているのか?番組では、検査を希望する20~50代の男性9人に集まってもらいました。専門医の監修のもと、あらかじめ採取してもらった精液を顕微鏡で拡大し、精子の濃度と運動率を測ります。
まずは、将来は子どもがほしいという20代未婚の男性です。

「これが今日の精液の写真なんですけれども、はっきり申しまして、私今まで見た中でいちばん濃度が濃くて、いちばん運動率がいいという。」

WHOによると、自然妊娠するには精液1ミリリットル中に精子が1,500万以上。そのうち活発なものが40%以上いるのが望ましいとされています。この男性は大幅に上回っていました。

一方で気がかりな結果が出た人も。この40代の男性は運動率が38%と、WHOの基準を僅かに下回りました。

「数としては、ものすごいいっぱいいるんですよ。最低限の人の20倍ぐらい。ただ問題としては、動いているやつはすごい動いているんだけれども、動いていないやつもいっぱいいるんですよ。」

50代半ばのこちらの男性は、精液の濃度・運動率ともにWHOの基準を大きく下回りました。原因として指摘されたのは…。

「実は精子というもの自体が、年をとるごとにデータが悪くなる。」

30代でも、思わしくない結果が出た人がいました。こちらの男性は、濃度が基準の3分の1。運動率も大きく下回りました。

「(子どもが)できる可能性は十分あるんだけれども、かなり自然妊娠する可能性はちょっと低いかもしれない。生活習慣が精子に関わってきて、精子の状態が悪くなっているという可能性があります。」

30代男性
「わかりました。ちょっと気をつけて考えてみたいと思います。」

結局、自然妊娠が可能とされる基準を9人中5人が下回る結果に。日本人も精子の数が減っているのでしょうか。
より規模が大きな調査でも、心配な結果が出ているといいます。都内のあるクリニック。この3年間で564人の精子の濃度や運動率を検査しました。その結果、6人に1人がWHOの基準を下回ったのです。

順天堂大学 浦安病院 辻村晃教授
「これは多分、かなり衝撃的なデータだと思う。一般の方が想像されているよりは(下回る)率が高いだろう。」

お隣、中国でも深刻な結果が出ているといいます。近年、不妊が大きな問題に。産婦人科には若い夫婦も訪れています。男性が原因の不妊も多いため、行政機関が全国25か所に精子バンクを設立。精子を提供すると謝礼をもらえるとあって、若者が次々と訪れています。

ここでは、提供を受ける女性が妊娠する確率を上げるため、精液に関してWHOより厳しい基準を設定。調べてみると、男性のおよそ7割が基準を下回り、精液が足りない状態が続いています。大気汚染など、環境の変化も原因の1つだと考えられています。

国営 精子バンク管理組長 范立青さん
「私たちはとても深刻な問題だと考えています。たぶん食べ物の添加物の成分とか、大気汚染とか、ライフスタイルとか、それらの要因が精子の数や運動率の低下を招いたと思います。」

精子が“老化”する! 30代から要注意!?

さらに最新の研究で、新たなリスクが分かってきました。見た目が元気な精子でも、中身が老化している場合があるというのです。獨協医科大学の岡田弘教授は、精子のある能力に注目し研究を続けてきました。動きのいいヒトの精子をマウスの卵子の中に入れて、その経過を観察します。

右側は正常な精子を入れたもの。受精卵が活性化し、細胞分裂をする準備が整っています。一方、精子が老化していた場合、受精卵は分裂に必要な活性化に至りません。
岡田教授によれば、35歳を過ぎると細胞分裂を促す精子の力が衰えていく人たちが存在するといいます。

なぜ、精子の力が衰えてしまうのか?原因の1つと考えられているのが、精子の中にあるDNAの損傷です。精子が卵子に入り互いのDNAが結び付くと、発育の土台が整い、細胞分裂が進みます。ところが精子のDNAが傷ついていると、うまく結合できず、細胞分裂が正常に進まないと考えられるのです。番組の検査会に参加した9人の精子のDNAも測定器で調べてみました。損傷したものが30%を超えると自然妊娠が難しくなるといいます。

「損傷を受けたDNAは赤く染まる。正常なDNAの形を持った精子は青く染まる。」

こちらは40代の男性のDNA検査の結果です。濃度や運動率には大きな問題がありませんでしたが、損傷率は高く、30%を超えていました。

獨協医科大学埼玉医療センター 泌尿器科 岡田弘主任教授
「精子の質というものの検定がこれからは大事になってくる。いつまでも男の場合は精子さえいれば子どもができるかといえば、そうはいかない。年齢的に子どもができにくくなるというのは、女性だけではなくて男性にも責任の一端がある。」

精子の危機! 数が減少“老化”まで

ゲスト小堀善友さん(獨協医科大学埼玉医療センター 講師)

新たに分かった事実として、1つは精子の数や運動率が悪くなっているということ。そしてもう1つは、一見、元気な精子でもDNAが損傷しているものがあるということが分かってきたということですが、原因はどういうふうに考えられているんでしょうか?

小堀さん:私が考えるものとして2つ原因があるんですけれども、1つは環境の変化、もう1つはライフスタイルの変化であるということを考えています。
例えば、先ほどの中国のケースなんですが、日本国内の研究で、中国の大気汚染の原因であるPM2.5が精子の所見に悪影響を及ぼすというデータが出ております。PM2.5はあくまでも一例にすぎないんですが、さまざまな環境による要因というものが精子に悪影響を及ぼす可能性があるんじゃないかということを考えております。
もう1つはライフスタイルの変化です。それは、ここ数十年で人間のライフスタイルというのは大きく変わってきていると思います。例えば、肥満が増えてきたり、あとは睡眠不足が増えてきたりとか、あとはたばこっていうのは昔からあったかもしれないんですが、そういう体にかかってくる「老化のストレス」というものを増やすような生活習慣、そういうものが精子の所見を悪化させて、さらに精子の中のDNAを傷つけていくという可能性があることが分かっております。

田中:今、不妊の原因の半数が男性側にもあることが分かってきています。WHOの調査では、男性のみが原因の場合、そして男女両方が原因の場合がそれぞれ24%で合計48%となっています。

精子の減少や“老化” 対策は?

これまで女性の側にあると捉えられがちだった不妊の原因が、男性の側にも多くあるんじゃないかということになると、心配される方も多いと思うんですが、検査などはどこに相談すればいいのでしょうか?

小堀さん:まず男性がパートナーを妊娠させることができるかどうかという能力を調べるためには、自分自身の精液を調べる必要があります。その中の精子がどれくらい運動しているか、また数がいるか、そういうことが重要になってくるんですが、まず精液の検査を受けるのは泌尿器科、もしくは産婦人科で受けることができます。ただし、一般的には泌尿器科で精子を調べることができるということを知っている人はあまり多くないです。また産婦人科でも、例えば、「なんとか産婦人科」「なんとかレディースクリニック」という所にみずから足を運ぶ男性はそんなに多くはないですね。そういう中で、私たちが研究していたものとしては、スマートフォンを用いて精液検査ができないかということを研究しておりました。自宅で気軽にスマートフォンを用いて自分自身の精子を観察するということをすることによって、まずは男性側の不妊症のスクリーニングをやっていこうという試みです。そして、男性側が自分自身の精子を調べていって、それで自分自身の精子の状態を知って、自分自身から赤ちゃんを作っていく、不妊症に取り組んでいくという意識を変えていこうと。そして、そこからまた新しい行動に出ていくというふうに変えていけないかということを現在、考えております。

異常が分かったとして、VTRで見てきたような精子の劣化は改善するんでしょうか?

小堀さん:なかなか今、現時点で科学的根拠があるものというのは少ないのですが、現在の自分自身のライフスタイル自体を変えていく。つまりは、例えば睡眠不足であったりたばこだったり、あとは肥満だったり、そういうものを改善させていくことで体にかかっていく老化のストレスをできるだけ下げてあげて、そして精子の所見を改善させてあげる可能性がある、そういうことはありうると考えています。

このほか、精子の状態をよくするために日常生活で気をつける点を挙げていただきました。7か条ありますけれども。

小堀さん:例えば、この2番の「禁欲は間違い」ということなんですが、精子というものは精巣から出てきて精巣の方から作られて、そこから出てくる途中で精管という所を通っていくんです。その途中でもうすでに酸化のストレス老化のストレスを受けていくということが分かっています。またこの3~5番にかけては、精巣自体がこの熱によるストレスに非常に弱いということがありまして、できるかぎり精巣のほうを温め過ぎないということが重要であるということを考えています。また、自転車というもの自体がスポーツとしては非常にいいものではあるんですけれど、会陰部、陰のうの下辺りの細かい血管にダメージを与えてしまう。また、飲み薬による毛を生やすための薬というのは非常に効果があるものなんですが、体の中のホルモンに影響を及ぼすということがありまして、それ自身が精子の所見を悪くしてしまう、そういう可能性があるということが指摘されています。

田中:このように生活習慣の改善やサプリメントなどでも精子の状態が回復しなかった場合、子どもを望む夫婦にとって頼みの綱となるのが、医療の力です。現在では、自然妊娠が難しいとされた場合でもさまざまな不妊治療の選択肢があります。男性の精子を採取し、女性の子宮近くに入れるのが人工授精。費用は1回1~3万円ほどです。また卵子と精子の両方を採取し受精させてから母体に戻す体外受精。こちら費用は1回25~50万円ほど。そして最も高度な顕微授精は、状態のよい精子を1つ選んで受精を試みる手法です。費用は1回、30~60万円ほどかかります。

夫の精子に衰えがあるとされた夫婦は、どのように不妊治療に向き合っているのか。2組の夫婦を取材しました。

精子の危機! 夫婦でどう乗り越える?

30代の夫婦です。1年ほど前から不妊治療に取り組んでいます。クリニックで夫の精子を検査してみると、濃度や運動率がたびたび基準を下回っていました。


「正直、やはり私が原因なんじゃないかなと。申し訳ないという気持ちと、何とか今のこの状況を改善しなければという焦りに変わりました。」

夫は医師の助言で酒を控え、サプリメントを飲むなど精液の状態改善を心がけます。体調を万全に整え人工授精に臨みましたが、4度繰り返しても望む結果が得られませんでした。


「どんどんつらくなっていく感じはありました。私が結構わかりやすく落ち込んで(夫が)励ましてくれる感じだったので。」

夫はずっと妻への申し訳なさと自分へのふがいなさを感じてきました。せめて妻の前では明るく振る舞おうと、不安を胸にしまい込んだといいます。


「私が不安だったりネガティブなことを発したり表情に出してしまうと、それが移ってしまうんじゃないかと考えてたので、気をつけていました。」

「自分の中だけでとどめておくのは、しんどくないですか?」


「しんどいですけれども、自分自身もなんとか奮い立たせなきゃと。」

去年11月、夫婦は人工授精から体外受精に進むことを決断。悩みながら、それでも2人で前に進もうとしています。


「(体外受精は)すごくお金もかかることですし、通院回数も何倍にも増えるので、すごく迷って迷って、迷ったあげく最善を尽くしてダメだったらしょうがないって腹が決まったというか。」


「お互い子どもが本当にほしいんだなと、改めて再確認できたように感じます。」

夫が50代という厳しい状況で不妊治療に挑んだのが、石田純一さん・理子さん夫婦です。治療を始めた当初、純一さんの精子に加齢による衰えが発覚。

石田理子さん
「主人(の精子)は運動率が悪くて、奇形率上がって、量が少なくてと、女医さんにビシバシ言われて。」

石田純一さん
「ちょっとそれは申し訳ないなというか、つらいですけどね。」

夫婦はそこから5回の体外受精と2回の顕微授精を経て、2人の子を授かりました。理子さんは今、42歳。第3子を妊娠中です。2人はいつも、夫婦で不妊治療に向き合うことを心がけてきました。排卵を促す注射の講習には純一さんも参加。毎月、あえて純一さんが打つようにしました。

「ご主人が針刺してくれたりするのは、うれしいですか?」

石田理子さん
「いや、うれしくないですけど、怖いし自分でやった方が簡単だし楽ですけど、この怖さを一緒に味わってほしいという気持ち。」

治療の結果を確認する病院への連絡も純一さんの担当。不妊治療に積極的に参加し、2人で向き合ったのです。

石田純一さん
「僕も時間を割いて、なるたけ共有してるという。これが1人だったら、よけいちょっとこう、落ち込みが激しくなったり考え込んだりしちゃうのかなと。」

田中:不妊のサポートを行うNPOには、近年、男性からの相談も増えているそうです。「子どもがつくれないことを男として受け入れられない」「不妊の原因が自分だと親に言えず妻が親に責められてしまう」「不妊治療をめぐって妻との溝が深まり、離婚してしまった」など、中には深い傷を残してしまうケースもあるそうなんです。

ゲスト小倉智子さん(臨床心理士・生殖心理カウンセラー)

男性側に不妊の原因があると言われた場合、男性側にはどんな苦しさや難しさがある?

小倉さん:今ありましたように、石田さんご夫妻のように語り合うことができるご夫婦がいらっしゃればそうではないかもしれないんですが、ほとんどの場合は、やはり男性の方がご自身に問題があると言われた時のショックというのは、やっぱり女性とはまた別にすごく傷つくものですし、しかも自分が原因なのに、例えば治療する上では女性側の負担が強いられるという所にすごく複雑なものがあるので、そういう特有の難しさはあります。

どう乗り越えていけばいい?

小倉さん:女性は比較的考えることが多いんですが、男性も「なぜ子どもがほしいのか」ということを改めて考えていただきたいと思います。なかなか不妊を経験しなければ考えることはなかったことなんですけれども、やはり自分に子どもがいるということ、あるいは、ほしいということはどういうことなのかということを改めて考えていただきたい。

そして、なかなかそう思ったとしてもすぐに治療に行くというのは難しいので、私のようなカウンセラーや、今、当事者でカウンセリングをやっている「ピアカウンセラー」が存在してますし、ピアカウンセラーには男性のカウンセラーがいますので、そういったサポートを受けていただけたらと思います。

治療を前向きに進めていくために必要なポイントを挙げていただきました。

小倉さん:1つ目は「ズレ」ですよね。女性の場合は問題点があると、やっぱりそれについて感情的な部分を共有したいという気持ちがあるんですね。自分はつらい、あるいは悲しいということを夫に共感してもらうことをいちばん求めるんですが、男性の場合は、もし問題があった場合はそれを解決しようと頑張るんですけれども、女性と男性のズレがあって、お互いに女性は感情を共有したい・共感してもらいたい、男性は解決しようとしてこういう提案をしてくるんだということが分かれば、会話もスムーズになっていくと思います。

「治療以外の会話も楽しむ」。

小倉さん:どうしても治療中は、治療のことを決めなければいけないのでその話になりがちなんですが、その時間をなるべく短くして、それ以外の夫婦としての楽しい時間を過ごしていただけたらと思います。

「夫婦で納得した結論を」。

小倉さん:結局は1人1人の思いというのはあるんですが、子どもを授かるということは2人の選択なので、それぞれの気持ちを共有して、じゃあ夫婦として子どもを授かるということを決めていただいて、その中に治療をする、あるいは子どもを授かるということを改めて問い直すということができればいいと思います。

私たちはどう向き合えばいい?

小堀さん:まず男性にお勧めしたいのは、自分の精液の状態を知ってみようよと、精液の検査を受けてみてほしい、そういうことをお勧めしたいと思います。また男性側の状態を診ることができる医師が今、不足しているというのも現状です。私の泌尿器科としてなんですが、男性側の不妊症を診ることができる医師を今後増やしていって、今後、治療できる状態でしたら、ぜひとも治療を受けていただけたらということを考えております。

晩婚化が進んで高齢で子どもをもうけたいという夫婦が増える中で、精子の減少や老化はより切実な問題になってくると思います。早めの検査、そして精子を守るための生活習慣についても考えていく必要がありそうです。

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