クローズアップ現代

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2018年1月16日(火)
現金が捨てられる!? ~“忘れもの”急増の謎~

現金が捨てられる!? ~“忘れもの”急増の謎~

巨額の現金が“忘れもの”として見つかる事態が多発している。群馬で4200万円、石川で2000万円、富山で1700万円。いずれもゴミ集積場や廃棄物処分場で発見された。警察庁の調べでも現金拾得物は過去最高の水準まで増加。いったい何故?取材すると、今の社会状況や家族の姿が浮かび上がる、ある共通する背景が見えてきた。さらに、現金以外の忘れものの量も過去最多となっていることが判明。あまりの量に鉄道会社も警察も保管場所に困窮。持て余した傘や衣類が向かうのは…?作家・重松清さんが現場を取材。現代社会の断面を読み解く。

出演者

  • 重松清さん (作家)
  • 武田真一・田中泉 (キャスター)

捨てられる現金の謎 作家・重松清が現場取材

廃棄物処分場から見つかったのは、現金2,000万円。今、巨額の現金がゴミの中から見つかるケースが相次いでいます。

奈良県で2,000万円。群馬県では4,200万円。去年(2017年)1年間で、少なくとも1億1,000万円以上が見つかりました。

現金を見つけた女性
「ただびっくりするだけだ。まさかお金だとは。」

現金を見つけた男性
「びっくりしましたよね。1万円札の束が2つ。」

現金は、いずれもゴミ集積所や廃棄物処分場から出てきた「忘れもの」。一体誰が?どうして?現代の家族と社会の在り方を見つめてきた、作家の重松清さんと現場を徹底取材しました。

作家 重松清さん
「大切なものをどう引き継いで、どう伝えていけばいいかという問題とかね。(捨てられる現金は)いろんなものをはらんでいる話だなと思った。」


ゲスト重松清さん(作家)

今夜は、捨てられる現金の謎を入り口に、今の社会の姿を重松さんと読み解いていきます。どんな所に関心を持って取材されたんですか?

重松さん:僕は作家としてね、ずっと関係とかつながりに関心があるんですよ。人と人、人とまち。で、人とものはどうなっているかっていうと、なんかすごいことになってる。忘れものが増えたり、その中にお金まで入っている。それを知ったので、ぜひ取材に同行したいなと思ってお願いしたんです。

田中:今、実はこうした現金の忘れものや落としものが増え続けているんです。

こちらは警察に拾得物として届けられた現金の総額を表したグラフなんですが、ひときわ目立つのは、平成23年。これは東日本大震災の津波で流されるなどしたものです。
その後も増え続けていまして、一昨年には177億円に上りました。こうした現金は、一定の期間持ち主が現れなければ、発見した人などのものになります。

増え続ける現金の落とし物の謎。一体何が起きているのでしょうか。

捨てられる現金の謎 急増!お金の“忘れもの”

去年8月のある日、石川県の静かな住宅街が騒然となりました。朝、ゴミ捨て場に来た女性が札束を発見。帯が付いたままの現金2,000万円が、漆塗りの重箱に入れられ捨てられていたのです。

現金を見つけた女性
「ただびっくりするだけだ。まさかお金だとは。」

今、全国各地でゴミの中から見つかる多額の現金。その謎を解くため、重松さんと千葉県にある清掃センターに向かいました。

ここでは3年前から相次いで現金が見つかっています。3年前には、分別されたタオルの中から20万円。去年3月には、布団にくるまれた封筒の中から50万円が見つかりました。

発見した作業員
「そこでパッと見たら、ボロって出てきた。表に50万円って鉛筆で書いたような跡があった。」

いずれの現金も警察に届けられましたが、持ち主は見つかっていません。一体誰が、なぜ現金を捨てたのか。

作業員
「もし両親がいて、亡くなって、それを片づけたりする場合に、知らないでそのまま衣類としてまとめて出したりするケースも多いと思う。」

ここ数年、この清掃センターでは亡くなった家族の遺品を処分しに来る人が増えています。そうした遺品を捨てに来た人が誤って現金まで捨ててしまったのではないかというのです。

遺品を整理しに来た女性
「家族が亡くなったというのもあるので、それで必要なくなったものを処分しようかなと思って来ました。(現金が)あったらいいなと思いますけど。」

作家 重松清さん
「それこそ捨てた人はお金の存在に気付いていなかったというのが、いちばん自然。」

取材を進めると、その仮説を裏付けるケースが見つかりました。群馬県の廃棄物処理会社です。去年4月、ゴミの分別中に現金4,200万円を見つけました。警察は、現金の入っていた空き箱に書かれたメモから持ち主を特定。持ち主の家を訪ねると…。

伊賀亮人記者(ネットワーク報道部)
「こちらですね。今ではすっかりさら地になっています。」

近所の人の話によれば…。

近所に住む女性
「おじいちゃん1人でいたんじゃないですか。息子さんはちょっと離れたところにいたらしかったですけど。」

明らかになったのは、持ち主は1人暮らしの高齢男性で、現金は長年自宅にためていた、いわゆる「タンス預金」ということでした。息子はふだん家に顔を出す間柄でしたが、現金の存在を知らされておらず、依頼された業者が家具などと共に処分していました。
さらに取材を進めると、危うく捨てられかけている現金はまだまだあることが分かってきました。それを示すのが、ある遺品整理業者の現場です。

遺品整理業者は、遺族などの依頼を受けて亡くなった人の家に残された品々を整理・処分します。福岡県にあるこの業者によると、遺品の中から多額の現金が毎月のように見つかるといいます。

「これ束ですね。ここは800万円ぐらいあった。」

「1,000万円以上出てきますね。5,000万円に上る金額が出た時もありました。」

この業者は、5年でおよそ2億円を見つけています。
貴重品や思い出の品をできる限り遺族に返したいという思いから、部屋の隅々まで探します。しかし今、多くの人は遺品への思い入れが薄れ、整理に手間をかけなくなっているといいます。

友心まごころサービス 岩橋ひろしさん
「もう見もしていなくて『捨ててください』と依頼が来るので、親が大切にしていたものという見方ではないと思うんですね。」

では、家族に知られずひっそりと眠っているタンス預金は今、一体どれくらいあるのか。エコノミストの熊野英生さんは、世の中に出回っているお札の量などからタンス預金の総額を試算しました。

第一生命経済研究所 首席エコノミスト 熊野英生さん
「積もり積もったタンス預金のお金が、今や45兆円と非常に巨大な金額になっている。」

異例の低金利政策が続く中、高齢者の将来への不安がタンス預金を膨れ上がらせていると指摘します。

第一生命経済研究所 首席エコノミスト 熊野英生さん
「自分が長生きすればするほど、その時の経済的な不安、これは年金の不安もあるでしょうけど、自分の見えないところにあるんじゃなくて、自分の見えるところにあるのがいちばん安全だと。」

次々と現金が見つかる遺品整理の現場。時に、家族のつながりを思い起こさせることもあります。福岡県にある市営団地。1人暮らしをしていた91歳の男性が、去年10月亡くなりました。作業を始めて2時間。古いタンスの中から見つかったのは金のネックレスです。

「『K18』と書いてありますね。18金というものですね。」

依頼主で、亡くなった男性の一人娘である筒井藤江さん。足や目が不自由な筒井さんは、自分ではほとんど遺品を片づけることができませんでした。

「査定してもらって、これも合わせて全部で14万9,260円。」

遺族 筒井藤江さん
「そんなになったと。」

このネックレス、筒井さんにとってはお金には代えられない価値がありました。

遺族 筒井藤江さん
「おばあちゃんのだね。おばあちゃん好きだったからね。」

それは、父より3年前に先立った、母の思い出の品だったのです。

遺族 筒井藤江さん
「私には(形見を)残しているっておばあちゃんがいつも言ってたけど、何を残しているか分からなかった。ありがたいと思います。まさか見つかると思いませんでした。感謝しています。」

もちろんゴミ捨て場で見つかったすべてのケースに当てはまるわけではないと思いますが、お年寄りの暮らしへの不安や孤立、高齢社会の1つの断面を見た思いがしましたが、どんなふうにお感じになりましたか?

重松さん:現場に行ってみるとね、ゴミっていうんだけど、非常に生々しいんですよ。本当にね、昨日まで使っていた布団とかタンス、それがゴミになると。そうなるとね、生活とか、その人の生活やその人の思いっていうのも一緒にゴミになってるんだけど、ましてやお金でしょ?そのお金をね、どんな思いで、まさに将来が不安だからためていたり、あるいは少しでも残しておこうと思ったりね、その思いが届かずに落ちてしまったような感じがしました。

銀行の袋に入っていましたよね。どんな事情だったんでしょう?

重松さん:ATMにそんなに行けないからまとめて下ろしていたのかもしれないしね。だから本当に、物やお金から、その人の生活とか、それから思いっていうのも本当は貼り付いてるはずなんですよ。

それが見えなくなってしまうのはちょっと寂しい思いもするんですが。私も去年、熊本地震で壊れた家の整理をして、父の遺品もたくさん処分したんですけれども、その思い出は確かにたくさんあるんですが、やっぱり引き受けられないんですよね。そういった事情もあるかと思うんですが。

重松さん:やっぱりすべてを引き受けるのは大変ですよ、現実的に。それからやっぱり処分しなきゃいけないものがあるんだけど、その前に、なんかせめて大切なものとか、それからお金の在りかとかね。不純でもいいんですよ、動機は。それでも何かね、お父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃんの、この思いを受け取っておきたいなと思いました。

“忘れもの”急増の謎 作家・重松清のまなざし

田中:実は、急増しているのは現金の落し物だけではありません。警察庁の調べによりますと、今、落とし物や忘れものの数も増え続けていて、一昨年(2016年)、過去最多の2,796万点となっています。

身の回りのものが大量に忘れものとなっている。重松さんは、忘れものをテーマに、現代社会を見つめた作品を書いています。その一節を田中キャスターが朗読します。

『雨上がりの夕陽に』重松清
“四十五歳。倹約を美徳とするような世代ではない。むしろ大量消費こそが善とされた高度経済成長期に少年時代を過ごしてきた。それでも、あの頃はまだ、傘を止める紐に持ち主の名前が糸で縫い付けられている時代だった。傘をなくしてしまうと母親に叱られた。いや、たとえ叱られなくても、自分の持ち物がなくなってしまうというのが悲しくて悲しくてしかたなかった。”

落とし物や忘れものが過去最多となった時代。重松さんは、どのようにご覧になったのでしょうか。

現金だけじゃない!“忘れもの”急増の謎

この傘は、ある鉄道会社でひと月に見つかる忘れもの。その数およそ2,000本に上ります。

作家 重松清さん
「壮観ですね。」

この鉄道会社では、増え続ける忘れもの対策に力を入れています。こちらは2年前に開設された、忘れものを保管する専用の施設、「お忘れものセンター」です。沿線73か所の駅から集められた忘れもので埋め尽くされています。

海沿いの駅で見つかったという釣り具。

作家 重松清さん
「これ新品ですよ。」

買ったばかりのコートもありました。
集められた忘れものは3か月間保管。発見された場所や品物の特徴を端末に入力。すぐに持ち主に返せるよう、その情報はすべての駅で共有されます。3か月を過ぎたものはこの鉄道会社の所有物となります。

京急お忘れものセンター長 臼井正之さん
「年々件数が増えていますので、相当な作業量があるのかなと。」

それにしても、なぜ忘れものが増えているのでしょう?その要因の1つは、物の価格の変化にあるという見方があります。鉄道会社から50年にわたって忘れものを買い取り続けている、リサイクル業者です。

岩崎商店 社長 岩崎悦征さん
「やっぱり全体的に安価になってますよね。」

最近ファストファッションやディスカウントストアなどが広まり、忘れものの中に価格が安いものが目立つようになったといいます。

岩崎商店 社長 岩崎悦征さん
「(なくしたあと)捜す手間のほうが大変だからいいわという感じになってしまう。」

そのことは、忘れものが持ち主に返される割合にも如実に表れていました。

「お忘れものセンターです。小銭入れの忘れものがございましたので連絡差し上げました。」

財布や携帯電話など、高価なものは8割以上が持ち主が取りに来るのに対して、傘は2割、マフラーや手袋などの衣類は1割程度にすぎません。

作家 重松清さん
「どんなに安物だとしても、自分が選んで気に入って買ったわけですよね。だけど、それはもういいんだっていうふうになっちゃうのかなと思うと、ああ、そうか。」

『雨上がりの夕陽に』 重松清
“やはり、傘というのはうっとうしいものなのかもしれない。雨が降っているときには必要なものでも、いったん雨があがってしまえば、ただの厄介者―
傘のおかげで雨に濡れずにすんだことを感謝されるわけでもなく、気軽に置き忘れられ、捨てられてしまう存在になってしまうのだ。”

忘れものの増加には、なぜかスマートフォンも影響しているという指摘もあります。ヒューマンエラーの研究を行っている芳賀繁教授です。芳賀さんは、コミュニケーションツールの発達が私たちの注意力を奪っていると指摘します。

スマートフォンを使いながら視覚や聴覚などの刺激に対する反応を調べる実験です。SNSやゲームなど双方向で情報をやり取りするほど、忘れもののようなエラーが格段に起こりやすくなるといいます。

立教大学 教授 芳賀繁さん
「いっときもじっとしていないで情報を探りにいっている、あるいは情報を交換しにいっている。そういう時間を使うようになったということが、忘れものを増やす原因になっているかもしれない。」

実際、忘れものの数の推移を見ると、日本でスマートフォンが普及し始めた平成20年ごろからその数は急激に増加していることが分かります。

見向きもされずあふれ出すようになった忘れもの。実はある所に大量に売られていました。
それは、海外です。売れ筋は傘。

ピーエックス 社長 与儀実良さん
「ミャンマーがいちばん傘が売れる国です。」

ミャンマーでは男性でも日傘を差すので、需要が豊富です。フィリピンでは日本の忘れものがオークションで大人気。

オークションに来た客
「日本の製品はとても知られていて、品質もいいです。」

あふれ出す忘れものは、今の日本人の物に対する価値観を映し出しているかのようです。

重松さんの小説は11年前にお書きになったそうですけれども、忘れものの傘、不要になると簡単に切り捨てられてしまうものの象徴、これは人生もそうなんじゃないかという気もするんですが?

重松さん:小説の中では、そういう、先生とか親のように「忘れられちゃう存在」を主人公にしたんだけど、一応救いとしては、忘れられてもまた思い出してくれればいいんだっていうのがあって、言ってみれば、「忘れる」と「忘れ去る」っていうのは違うと思うんですよ。だからまた「思い出せよ」っていうね、そういう救いを小説では描いたんだけれども、11年たって取材してみると、あっさり忘れ去る方向がちょっと増えてるんじゃないかなと思って。

知らせがあっても取りに行かない人が多いということですね。

重松さん:そうなんです、それがもういちばんびっくりしちゃってね。せっかく思い出したのに、また忘れちゃうんだから、「忘れ去る」ですよね。

物に対する思いも希薄になっている?

重松さん:これはやっぱり、物と人との関係が薄くなってる。そもそも物を買うときだって、スマホの、これ(タッチ)で終わりだもんね。昔は、物を買う、買い物ってやっぱりイベントだったと思うんだけど、そうなるとやっぱり、どうしても思い入れも少なくなっちゃうし、薄くなります。

田中:このように物を大切にしなくなったという見方がある一方で、物との新たな関わり方も広がり始めています。例えばシェアリングエコノミー。車や家など、多くの人で共有して使うサービスで、サービスや個人の間で中古品を売買するフリマアプリなど、市場規模は急拡大していまして、2025年には36兆円を超えるという試算もあるんですね。

これは物を大事にするということなのか、それとも個人でずっと所有し続けるっていうことに、こだわりがなくなったということなのか?

重松さん:これはおそらく両面あると思うんですけれども、いずれにしても、昔のような、物を持つ、持ち物が増えるってことが幸せなんだっていう価値観は揺らぐ一方なんじゃないだろうかと思います。

物じゃなくて、体験を重視するというような空気もありますよね。

重松さん:それでもね、思い出と一緒にあるものだって、たぶんなくならない、なくしてほしくないなと思うんですけどね。

田中:今回、SNSを通じて視聴者から忘れものに関するエピソードを聞きました。物に込めた思いも多くつづられていました。
“大切に思う雨傘ほどバスや電車に忘れやすい。3回ほど忘れものセンターで再会、ありがたかった”ですとか、“数年前、タクシーに携帯を忘れました。亡くなった祖母が、私の赤ちゃんを抱いている動画が入っていたので、必死に探しました”というものも届いています。

今日は現代の忘れもの事情を見てきましたが、お金や物に思いを込めるとか、思いを託すっていうことも大事なんだなということを、ちょっと気付かされた気がしました。

重松さん:やっぱり思いのしっかり込もったものを持つって、やっぱり幸せなんじゃないかなと。忘れものをしたらね、必死に捜し回るものがあるというのは、幸せかもしれませんよね。

そういったものに囲まれて日々、暮らす?

重松さん:そう、一体いくつあるのか分かりませんけれどもね。

物があふれ、日々、忙しい暮らしの中で、人とのつながりや思い出といったような大切なものをふと、見落としてしまっているのではないか。忘れものがそのことを思い出させてくれるような気がしました。