クローズアップ現代

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2018年1月9日(火)
2018 新たな時代へ “君たちはどう生きるか”

2018 新たな時代へ “君たちはどう生きるか”

8日は成人式。新たに大人の仲間入りをする若者たちの間で、いま静かに広がり続けている漫画がある。「君たちはどう生きるか」。80年前、吉野源三郎によって書かれた小説を原作とする本だ。なぜ戦時中に書かれた物語が、2018年を生きる若者の心をとらえるのか? 番組では、「君たち〜」押しの若者に人気のタレントや各界の著名人たちと共に作品の魅力とメッセージを紐解き、2018年を生きる“処方せん”を考える。

出演者

  • 小芝風花さん (女優)
  • 池田エライザさん (モデル・女優)
  • 池松壮亮さん (俳優)
  • ベッキーさん (タレント)
  • 羽賀翔一さん (漫画家)
  • 池上彰さん (ジャーナリスト)
  • 志波芳則さん (東福岡高校サッカー部総監督)
  • 高橋源一郎さん (作家)
  • 武田真一 (キャスター)

異例の大ヒットはなぜ “君たちはどう生きるか”

出版不況の時代に、130万部を超す異例のヒットが生まれています。「君たちはどう生きるか」。80年前に書かれた物語が、時代や世代を超えて人々の心を強く捉えているのです。

女優 小芝風花さん
「すごくこれは自分に当てはまった。」

モデル・女優 池田エライザさん
「今だからこそ読んでほしい。」

“僕たちは、自分で自分を決定する力をもっている。だから、誤りから立ち直ることもできるのだ。”

この本を読み、みずからの人生を見つめ直す人も。

タレント ベッキーさん
「今このタイミングで出会ったことに意味がある。」

新たな時代のベストセラーに込められた、珠玉の言葉をひもときます。

2018年、今年は123万人の新成人が生まれました。若者たち、そして、私たちは先行きが見えないこの時代をどう生きていけばいいのか。そのヒントをこの本とともに探してみませんか。

若者たちの心に響く “君たちはどう生きるか”

昨日(8日)成人式を迎えた、女優の小芝風花さんです。
14歳でデビューした小芝さん。今月(1月)からスタートしたドラマでも、重要な役を演じています。「君たちはどう生きるか」を初めて読んだのは、ドラマの撮影が終わった去年(2017年)の冬でした。
物語の舞台は昭和の初期。主人公の中学2年生・本田潤一君は、「コペル」というあだ名で呼ばれています。

学校生活を送る中、友人関係やいじめなど、多くの悩みに直面するコペル君。そのたびに生きていくうえでのヒントをくれるのが、近所に住む叔父さんです。

ノートにつづられる2人のやり取りを通じて、物語は進んでいきます。

(朗読)俳優 池松壮亮さん
“世間の目よりも何よりも、君自身がまず人間の立派さがどこにあるか、それを本当に君の魂で知ることだ。”

女優 小芝風花さん
「『立派な人になってほしいと思っている』というのがたくさん出てきていて、立派って、まず何だろう。」

小芝さんが気になった「立派」という言葉。コペル君の友人で、家が貧しいためにいじめられていた浦川君のエピソードとして出てきます。

浦川君を守るために、いじめっ子に仕返しをしようとするコペル君の仲間たち。すると、いじめられていた当の浦川君がいじめっ子をかばう行動に出たのです。

“世間には、他人の目に立派に見えるように、見えるようにと振る舞っている人が、ずいぶんある。そういう人は、自分がひとの目にどう映るかということを一番気にするようになって、本当の自分、ありのままの自分がどんなものかということを、つい、お留守にしてしまうものだ。
いつでも、君の胸からわき出てくる、いきいきとした感情に貫かれていなくてはいけない。”

一方的にやられる痛みを知っているからこそ、止めに入った浦川君。「周りの流れに勇気を振り絞って逆らった浦川君は立派だ」とコペル君は気付きます。

女優 小芝風花さん
「私あまり自分の意見を言える方ではなくて、たぶん、みんながAって言って、自分の中でBかなと思っていても、まわりに合わせちゃうタイプだったんです。だからすごく自分に当てはまったというか。」

小芝さんは、しっかりと自分の考えを持つ大人になりたいと感じています。

女優 小芝風花さん
「もう二十歳だし、まわりの目ばかり気にしてないで、思ったことは一度言ってみよう。例えば台本を読んで私なりの演技プランというか、このシーンをこう思ってきたけど、どうですかって、自分の意見は言うようにしようと。少しでも、立派そうに見える人から立派な人になれるように、少しずつでも自分の中に積み上げられたらなと。」

異例の大ヒットとなった「君たちはどう生きるか」。若い世代の火付け役の1人が、モデル、そして女優として若者に人気の、池田エライザさんです。

60万人以上いるSNSのフォロワーにこの本を薦めたところ、次々と反応が寄せられました。この本を繰り返し読むたびに心を打たれるというエライザさん。

モデル・女優 池田エライザさん
「ものの見方とか自分の意見も変わってくるだろうし、私自身がそうだったから(薦めたい)。」

特に響いたのが「当たり前のように見えることへの感謝」です。家が貧しく、家業の手伝いで学校にも十分に通えない友だちの浦川君。コペル君も父親を早くに亡くし、母子家庭に育ちました。しかし、叔父さんは「学校に通えるだけでも恵まれていることなんだ」と語りかけます。

“『ありがたい』という言葉によく気をつけてみたまえ。この言葉のもとの意味は、『そうあることがむずかしい』という意味だ。『めったにあることじゃあない』という意味だ。自分の受けている仕合せが、めったにあることじゃあないと思えばこそ、われわれは、それに感謝する気持ちになる。”

子育てのかたわら働く母を、幼いころから見て育ったエライザさん。仕事に追われながらも常に支え続けてくれた母がいたからこそ、今の自分がいる。そう感じるようになりました。

モデル・女優 池田エライザさん
「私自身、母親とか父親の苦労を目の当たりにしてきて、それでも見返りを求めてこない親のすごさは、年齢を重ねてどんどん感じるようになってきたんですけど。
私が頑張れるのは、私が頑張れるフィールドを作ってくれる人がいたからこそ、今ここで頑張れているんだという意識。だからそれは忘れちゃいけないと思います。」

異例の大ヒットはなぜ “君たちはどう生きるか”

それにしても、なぜ81年も前に書かれた「君たちはどう生きるか」が今の時代に響くのでしょうか?
日中戦争が始まったこの年。言論や思想は厳しく統制され、国全体が戦争へ突き進もうとしていました。そんな世の中に危機感を抱いたのが、著者の吉野源三郎です。民主的で自由な考えは危険な思想とみなされ、吉野も厳しい弾圧を受けます。自由に考え生きることの大切さを、子ども向けのこの本に込めたのです。
物語が生まれた時代と、今の時代に重なる部分がある。そう考えるのが、ジャーナリストの池上彰さんです。

異例のブームが起きる前からこの本に注目し、いち早く講義などで紹介してきました。

ジャーナリスト 池上彰さん
「コペル君も、いろいろな経験があった後、それをじっくり考えるわけでしょ。」

ジャーナリスト 池上彰さん
「(80年前は)同調圧力のような、ちょっとでも政府の方針に違反すると、売国奴とか非国民とか、そういうことを言われるようになってきた重苦しい雰囲気。今なにか政府の批判をすると、それだけで反日とレッテルをはられてしまう。ネットですぐ炎上したり、なんとなく若者も空気を読む。まわりを見て忖度(そんたく)をして、という形で息苦しい思い。(原作が出版された)当時と、共通したようなものがあるのかなと思う。」

「君たちはどう生きるか」には、時代を超える普遍性が詰まっている。そう考えるのは羽賀翔一さん。漫画版の作者です。

漫画家 羽賀翔一さん
「コペル君の髪型とかは、時代考証的には間違ってたりするんですけど。(当時は)みんな坊主頭なので。自分がこう描いてて、生き生きするなっていう絵を優先してました。」

原作者の吉野が作品に込めたメッセージを現代にどう届けるか、試行錯誤してきました。

漫画家 羽賀翔一さん
「叔父さんが思想犯として捕まって、みたいな設定で描いたときもあった。」

当初、羽賀さんは吉野をモチーフに「叔父さん」を描いていました。弾圧を受けて投獄されていた重い過去を持つという、物語が生まれた時代を意識した設定を考えていました。
しかし、原作を読み込むうちに、羽賀さんは作品の持つ普遍性を大事にしたいと思うようになりました。学校や教室、自分の家など。いつの時代にも、そして誰にとっても身近な所にこそ考えるべき問題があることを、吉野は伝えようとしたのではないかと考えたからです。

漫画家 羽賀翔一さん
「世の中全体っていうものから、教室という狭い場所に限定して(吉野が)描いたからこそ、時代とかをこえて共感しやすいものになっている。一時のブームというか、終わってしまうんじゃなくて、原作がさらにまたこの先80年読まれるための、(漫画版が)かけ橋になったらと思います。」

“君たちはどう生きるか” あの後悔に背中おされて…

「君たちはどう生きるか」。タイトルにもなっているこの問いに、本は最後まで答えを出してはくれません。だからこそ、多くの人たちがこの本を通して、みずから悩み、考えようとしています。

「自分自身はどう生きるのか」。タレントのベッキーさんは、本をきっかけにその問いと向き合い続けています。

ベッキーさんは、かつて不倫関係にあったことを報じられ、仕事が一時、激減。支えてくれた人たちの思いを裏切ってしまったと後悔してきました。

タレント ベッキーさん
「本当にトンネルの中にいる感じでした。私は迷惑をかけた側なので、真っ先に言ってはいけないんですけど、正直つらかったです。申し訳ないなという気持ちとか、いろんな気持ちがありました。」

ベッキーさんには、印象に残った本の場面があります。仲間が上級生に制裁を加えられる場面。助けると約束していたのに、恐怖心から一歩も動けなかったコペル君。
友だちを裏切ってしまった…。後悔の意識にさいなまれるコペル君に、お母さんがみずからの苦い思い出を語り始めます。若いころ、街で重い荷物を運ぶおばあさんを見かけたとき、声をかけて手伝ってあげられなかった。お母さんは、そのとき感じた後悔が、あとになって背中を押してくれることがあると伝えます。

タレント ベッキーさん
「後悔が背中を押してくれるという言葉は、はっとしました。もう人を悲しませないって思いながら。あのときの日々が私の背中を押しているというのはありますね。後悔というか反省ですけどね。」

“自分の過ちを認めることはつらい。しかし、過ちをつらく感じるということの中に、人間の立派さもあるんだ。僕たちは、自分で自分を決定する力をもっている。だから誤りを犯すこともある。しかし―

僕たちは、自分で自分を決定する力をもっている。だから、誤りから立ち直ることもできるのだ。”

タレント ベッキーさん
「わたしは、まっすぐに生きたいです。格好つけると、人のために頑張りたいです。結果、それがまた自分のためにもなっているから。どれだけ仕事を頑張るか、その姿勢でありがとうを伝えたい。」

“君たちはどう生きるか” サッカー 頂点めざす若者たち

君たちはどう生きるか。その問いは、この冬、全国の頂点を目指した若者たちにも向けられていました。

全国制覇7度の強豪校・東福岡高校サッカー部。45年間このチームを指導してきた、総監督の志波芳則さんです。

本の中の言葉には、今の若者に必要なものが詰まっていると感じていました。

東福岡高校サッカー部 総監督 志波芳則さん
「ああ、なるほどな。やっぱり子どもと接する中において、ものすごく必要なことだなと感じました。」

志波さんの心に留まったのは、コペル君が叔父さんと共にデパートの屋上に上るシーン。コペル君は突然、不思議な感覚に襲われます。群衆に紛れる自分の姿が見えたような気がしたのです。物質をかたちづくる分子のように、自分も世の中という大きな流れの中の1つにすぎないのではないか。叔父さんは、それこそが大きな発見だと語りかけます。

“自分ばかりを中心にして、物事を判断してゆくと、世の中の本当のことも、ついに知ることができないでしまう。だから、今日、君がしみじみと、自分を広い広い世の中の一分子だと感じたということは、ほんとうに大きなことだと、僕は思う。”

東福岡高校サッカー部 総監督 志波芳則さん
「自分の目線だけでものごとを考えるのではなくて、もっと広いところから、ひとつの局面を見る。そういうものの見方、それを僕はあの本を読んで特に感じましたね。」

全国大会を前にした去年の暮れ。志波さんは選手にも本を薦めていました。
キャプテンの福田湧矢さんです。3年生最後の大会にキャプテンとしてどう臨むのか。志波さんは、本を通じて自分中心ではなく、広い視野を持ってほしいと考えていました。

3年生 キャプテン 福田湧矢さん
「人としてのあり方が大事だなと改めて気付かされましたし、人間として大きくなれるなと、この本を読んで感じました。」

志波さんは、福田さんからの感想文を受け取っていました。

東福岡高校サッカー部 総監督 志波芳則さん
「しっかり彼も読んでくれたんだと思いましたね。自分さえ良ければいいという部分が、だんだん消えてきました。我の強い子なんですけどね。」

先週、東福岡は、2回戦で優勝候補の一角と激突。ロスタイムに失点し、惜しくも敗れました。
敗戦後、初めての全体ミーティング。勝ち負けだけではなく、人としてどう生きるかが選手としての成長に大切だ。志波さんはそう語りかけました。

東福岡高校サッカー部 総監督 志波芳則さん
「本当に人間として当たり前のことを、当たり前にできる人間になってほしい。そちらの方がもっと大事かもしれません、最終的には。いいかい、戦うのは自分です。その気持ちを忘れないように。」

“君たちはどう生きるか” 考えることの大切さ

本が投げかける「どう生きるか」という問いに、答えを出したという人もいます。作家の高橋源一郎さんです。

30年以上前に初めて本に出会って以来、たびたび読み返してきました。高橋さんは「君たちはどう生きるか」に対する自分なりの答えとして、去年、小説を発表しました。タイトルは、「ぼくたちはこの国をこんなふうに愛することに決めた」。

小学生が自分たちで新たな国を作るという、一風変わった課題に取り組む物語です。憲法や国旗などをどうするか。先生は悩む子どもたちに、みずから考えることの大切さを語りかけます。

“わたしの考える『おとな』についてはなしましょう。『おとな』というのは『ひとり』ではなすことができるひとのことです。ただ『ひとり』で、自分の名前をもっていて、それだけの条件で、なにかをはなす、あるいはなにかを考える、それが『おとな』であることです。”

作家 高橋源一郎さん
「僕たちは疑問や質問があると、答えがあると思う。その答えがあるという場合の答えは、誰かが解いた答えなんです。自分の経験と知恵だけで頑張ってみる。そこで得られたものは、もしかしたら貧しいものかもしれないけれど、少なくとも自分の限界まで行ってみる。そういうことを繰り返すことで限界も広がっていくわけですね。」

作者・吉野源三郎は、物語の最後をこう締めくくります。

“最後に、みなさんにおたずねしたいと思います。君たちは、どう生きるか。”

私がこの本でいちばん心に残っている言葉は、「僕たちは、自分で自分を決定する力をもっている」です。先が見えない時代にどう生きるかを考え選び取ることは、時として怖いことでもあります。しかし、この言葉は、その大きな問いに向かっていく勇気を与えてくれるものだと思います。