クローズアップ現代

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2017年12月6日(水)
“横綱の品格”その果てに~日馬富士暴行問題~

“横綱の品格”その果てに~日馬富士暴行問題~

先月、引退を表明した大相撲の元横綱、日馬富士。巡業先で、後輩力士に暴行した責任を問われていた。今回の暴行問題は、スポーツにおける暴力の問題、さらには、「横綱の品格とはどうあるべきか」等、相撲界が抱える様々な課題をあらわにした。また、相撲協会の危機管理体制のあり方も問われている。横綱引退という事態にまで至った暴行問題。その最新動向とともに、有識者の提言を交えながら、大相撲はどうあるべきなのか考える。

出演者

  • 守屋秀繁さん (横綱審議委員会 前委員長/千葉大学名誉教授)
  • 刈屋富士雄 (NHK解説委員)
  • 武田真一・田中泉 (キャスター)

新証言で迫る 日馬富士 暴行問題

横綱に昇進したばかりの日馬富士の映像。NHKのカメラの前である決意を語っていました。

日馬富士(2012年)
「横綱の上ってないわけであってね、だから本当に今は、みんなの見本となる横綱として、次の時代を一生懸命つくっていきたい。」

しかし、飲み会の席で後輩力士の貴ノ岩を暴行し、けがをさせた責任を取り、引退を表明。週明けにも書類送検される見通しです。
多くの人が人格者だという日馬富士が、なぜ?今回、日馬富士を間近に見てきた関係者が初めて取材に応じました。

日馬富士の元運転手
「独り言のように、ぼそっとおっしゃったのは、『大関のほうが楽だったのかな』。心の葛藤というか。」

背景に浮かび上がったのは、「横綱の品格」を巡る葛藤。さらに、問題発覚後の対応を巡っては、相撲協会のあり方を問う声も。

元日本相撲協会 外部委員
「起きたことを、しっかりと協会の上層部が把握できていなければ、また同じような問題が起きる。」

日馬富士暴行問題の背景を追いました。

日馬富士 暴行問題 “横綱の品格” その果てに…

日本相撲協会が公表した中間報告による問題の経緯です。
10月25日夜。巡業先の鳥取で、モンゴル出身力士や地元の関係者が集まり、酒を飲んでいたときのことでした。横綱・白鵬に説教されていた貴ノ岩。その態度に腹を立てた日馬富士が、平手やカラオケのリモコンで、顔や頭を複数回殴ったというものです。
それから、およそ1か月後。引退を表明した日馬富士。

日馬富士
「横綱として、やってはいけないことをしてしまった。」

礼儀正しく、稽古熱心で知られてきた日馬富士が、一体なぜ、暴行へと至ったのか。
日馬富士が横綱に昇進したのは、5年前。

日馬富士(2012年)
「横綱を自覚して『全身全霊』で相撲道に精進します。」

幕内最軽量ながら、激しい闘志とスピードを生かした相撲で多くのファンを魅了した日馬富士。相撲人気が低迷する中での待望の横綱誕生でした。

「綱を締めると気持ちが引きしまる?」

日馬富士
「全然違う感覚。つけた人しか分からないので、どう口で説明するか分からない。」

5年前、日馬富士の専属ドライバーをしていた男性です。

問題発覚後、初めて取材に応じました。

日馬富士の元運転手
「こういうことになって残念でしかたがない。とても優しくて、年齢的にはわたしがずいぶん上ですが、年齢に対しての配慮、ファンの方々に感謝の気持ちを持って接していた。」

実は、横綱になった日馬富士は“横綱の在りよう”について思い悩んでいたといいます。

日馬富士の元運転手
「横綱としての立ち居振る舞い、『大関のほうが楽だったのかな』と、ちらっと車の中で独り言のように言った。心の葛藤というか、迷ったことがあったのかな。」

品格・力量が抜群であること。横綱への推挙の条件に挙げられる一文です。

歴代の横綱は、強さだけではなく、この「品格」をそれぞれに追い求めてきました。
不滅の69連勝。無敵の大横綱と称された、双葉山。受けて立つ取組の姿勢だけでなく、日常までも泰然自若としている様が力士の理想とされました。
国民的人気を博した大鵬は、その潔さが横綱の品格とたたえられました。46連勝が懸かった昭和44年、春場所の一番。土俵際、相手の足が先に土俵を割っていましたが、結果は大鵬の負け。「世紀の大誤審」と言われたこの敗戦にも、大鵬は一切弁解をしませんでした。
自分はどんな品格を追い求めるべきなのか。横綱になったばかりの日馬富士は、師匠にもそのことを突きつけられます。

元横綱 旭富士 伊勢ヶ濱親方
「(後輩に)稽古つけてやれよ。」

日馬富士
「足首が痛いです。」

元横綱 旭富士 伊勢ヶ濱親方
「厳しい相撲を取らないと。」

自分の稽古をしているだけでは不十分だと、たしなめられたのです。その真意を、元横綱で師匠の伊勢ヶ濱親方が当時語っています。

元横綱 旭富士 伊勢ヶ濱親方(2012年)
「稽古を人一倍しなきゃいけない。みんなの見本になるように。みんなに稽古つけてあげなきゃいけない。安定した成績、優勝も常に思って、相撲を取っていかなくてはいけない。私生活でも品格のある生活をしていかなければいけない。これから、ずっとやらないといけない重圧はある。」

その後、優勝を重ねていく日馬富士。「横綱の品格」を追求していきます。弟弟子には積極的に胸を貸すようになりました。その結果、同じモンゴル出身の照ノ富士が大関に昇進するなど、伊勢ヶ濱部屋から多くの関取が育ちました。

日馬富士の元運転手
「横綱の務めに責任持って一生懸命やっていた。大関の時とは変わってきた。若い人たちはしんどいし、つらいこともある。そういう時こそ厳しく指導していた。強くさせなきゃいけないと。」

入門当初から日馬富士と親交があり、しこ名の名付け親でもある、草山清和さんです。

今回の暴行は決して許されないとしながら、その背景には、日馬富士が追求してきた自分なりの「品格」の考え方があったのではないかと感じています。

「(日馬富士の)横綱の品格とは?」

出雲大社相撲分祠 草山清和分祠長
「礼儀と礼節を持った強い力士。それを彼は目指したのではないか。しっかりあいさつをするとか、正しい所作をするとか。横綱に上がっていく時に身につけていったこと。相撲に勝つことだけではなく、付け人や部屋の人にあいさつをよくしろと、あいさつの仕方が悪いと何回もやり直させていた。もっと大きな声で話せ、相手の目を見てあいさつをしろと常に言っていた。」

そして起きた暴行問題。日馬富士は、説教を聞いていた貴ノ岩がスマートフォンをいじっていたことに腹を立て、謝罪させようと繰り返し殴ったのです。

日馬富士
「先輩横綱として弟弟子が礼儀と礼節がなってない時に、それを正し、直し、教えてあげるのは、先輩の義務だと思う。」

会見では、貴ノ岩への謝罪の言葉は最後までありませんでした。礼節を教えると言いながら、越えてはいけない一線を越えた日馬富士。「暴力」によって、大事にしてきた「品格」を汚す結果となったのです。

日馬富士 暴行問題 背景に何が

ゲスト 守屋秀繁さん(横綱審議委員会 前委員長/千葉大学名誉教授)

刈屋富士雄(NHK解説委員)

被害者である貴ノ岩は、今後、協会の聞き取りに応じるとしていますが、これまでのところ、本人や師匠である貴ノ花親方による公の発言はありません。
長年、大相撲を取材し、実況も務めてきた刈屋解説委員。
日馬富士は、理想の力士像を後輩にも伝えようとしていたということだが、最終的にそれを暴力によってやろうとしてしまった。これは許されることではないし、本末転倒だと思うが、どう見ている?

刈屋解説委員:新弟子のころから彼を見ていますけれども、本当によく稽古しますし、自分自身に対してすごく厳しくしているんですよね。そのことを、ほかの力士たちにもやってほしいという思いが強すぎて、特にモンゴル出身の力士に対しては、「だからモンゴル出身の力士はダメなんだ」と言われることを、非常に嫌がっていたんですよね。だから、その思いが非常に高じて、何としてもっていう、許されない方向へと走ってしまったんじゃないかなと思いますね。

長い大相撲の歴史の中でも、72人しかいない横綱。それぞれが品格を模索してきた。
今年(2017年)1月まで、横綱審議委員会の委員長を務められた守屋さん。
日馬富士の横綱昇進も承認された。この品格という概念は非常にあいまいのような気もするが、どう捉えたらいい?

守屋さん:品格については、横綱推薦内規の中でいろいろと述べられていますけれども、私は、品格とは、日常生活でも土俵上でも、常に尊敬されるような立ち居振る舞いができることというふうに受け止めています。
(思い当たるエピソードがある?)
かつて、大鵬親方とお話をする機会をいただきまして、親方に「22歳で横綱になられましたけど、それは親方の人生において、どういう意義がありましたか?」ということをお伺いしましたら、「22歳とはいえ、私は横綱であった。とはいえ、そういう若者に対して、大会社の社長さん、会長さん、それぞれの分野のリーダーの方々が丁寧にいろいろと指導してくださった。そのことが、私の最大の財産です」というようなことをおっしゃってて、さすが大鵬親方だなと、品格のある方だなというふうに思いました。

その品格というのは、どういうことだと感じた?

守屋さん:常にほかの人から尊敬されるような、そういう存在でなければならない。そのためには、常にいろいろなことに配慮して行動を取る。相撲もそういうふうに取る。日常生活でもそういう尊敬に値するような行動を取るということではないかと思います。

刈屋解説委員は、品格について、どう考える?

刈屋解説委員:朝青龍が横綱になったときに、僕、何度も質問を受けているんですよ。品格って何?と。強いことが品格ではないのかと。勝てばいいんじゃないかと。そのとき、私が説明したのが、人よりも多く稽古すること、誰よりも自分自身に厳しいこと、そして誰よりも寛容であること。そういう日々を送ったときに初めて身につくんだと。これは、モンゴル出身だからとは関係なしに、誰でも、この品格というものに向き合うわけですよね。その点で日馬富士関は、かなり勝てばいいというものではないということを理解して、社会的な責任感ということを自覚していたわけですけれども、ちゃんとしなきゃいけないという意識が、かなり強迫観念として変わって、伝えようという思いが、暴力という、あってはいけない方向に変わってしまったんじゃないかなと思いますね。

田中:なぜ暴力は繰り返されるのか。日本相撲協会は、この10年、暴力追放に取り組んできました。きっかけは平成19年、時津風部屋の力士暴行死事件。若手力士が親方や兄弟子から暴行を受け、死亡する事件が発生しました。再発防止のために講習会などの取り組みを始めましたが、その後も後を絶ちません。平成22年には、横綱・朝青龍が知人男性への傷害事件を起こし、責任を取って引退しました。そして、今回の暴行問題。本質的な体質改善には至らなかったことを示す結果となりました。

過去に苦い経験をしながら、なぜ暴力が根絶できていない?

刈屋解説委員:協会を挙げて暴力根絶に取り組んできた、この10年間。明らかに暴力は減っているんですよね。稽古場からは、暴力、体罰、そういうものは減っているんですけれども、ただ、日常的に張り手をしたり、体をぶつけ合ったりしている稽古、そのときの余韻というか、感覚が日常にまだ残っていたのではないかと。よく聞いた言葉で、「そんなのは暴力のうちに入らない」という言葉があるんですよね。つまり、指導のためには2、3発殴ってもっていうことが、まだ残っていたということですし、あと、相撲界を取り囲む後援者ですとか、あるいは、われわれマスコミ関係者も、お相撲さんだから、力士だからという、そういう感覚が一般の社会の暴力という意識と少しずれてきたのではないかと。その部分をもう一回、見直さないといけないんじゃないかなと思いますよね。

守屋さんは、この暴力の問題をどう感じている?

守屋さん:日本大相撲というのは、約1,500年の歴史を持つ組織でありますので、新しく暴力追放の基本理念を作ったとはいえ、すぐには親方、力士たちの体質改善にまでは及ばなかったのではないかなと、もうちょっと時間が必要だったのかなというふうに感じています。

田中:今回の暴行問題でもう1つ問われているのが、問題が起きてからの対応です。暴行事件が起きたのは、10月25日から26日未明にかけて、巡業先の鳥取でのことでした。しかし、相撲協会が事態を把握したのは、およそ1週間後の先月(11月)2日。警察の連絡によるものでした。そして、初めてこの問題を公表したのは、場所が始まった後の先月14日になってしまいました。ここ数年、組織改革を進めてきたはずの相撲協会の危機管理は、なぜ機能しなかったんでしょうか。

日馬富士 暴行問題 機能しなかった“危機管理”

日本相撲協会 八角理事長(先月30日)
「世間の皆様には、大変申し訳なく思っております。どうもすみませんでした。」

この10年、暴力だけでなく、大麻や野球賭博、八百長など不祥事が相次いだ大相撲。本場所の開催中止に追い込まれたこともあり、抜本的な改革が求められてきました。

日本相撲協会 北の湖理事長(当時:2014年)
「日本相撲協会は、本日より新たなスタートを切ることになります。」

平成26年、公益財団法人への移行をきっかけに、協会は組織改革に着手します。
もともとの日本相撲協会と相撲部屋との関係です。各部屋に高い独立性があり、力士の責任はその部屋が持つとされていました。

新しい組織では、相撲協会が、部屋の師匠と人材育成業務委託契約を結ぶとともに、全ての力士に協会のルールに従うことを求める誓約書の提出を義務づけました。さらに、暴力問題などの対策としては、協会に通報窓口を設置。力士や親方に対して、暴力などのトラブルがあった際には、速やかに協会に報告する義務を課したのです。

相撲協会の組織改革に、外部委員として携わった、慶應義塾大学の中島隆信教授です。

慶應義塾大学 中島隆信教授
「何か問題が起きた時に、全部、部屋任せでいいのかという話になる。ある程度、何か起きた時に、協会側が手をつけられる、なんらかの相撲部屋に対するガバナンスを効かせるような仕組みをどこかに作っておくことは重要だと思います。」

しかし、被害を受けた貴ノ岩がいる貴乃花部屋は、誓約書の提出を拒否していました。そして今回、暴力を把握しても報告しませんでした。

協会による貴ノ岩への聞き取り調査は行われていません。たび重なる不祥事の教訓から作り上げた組織の仕組みが機能しなかったのです。

慶應義塾大学 中島隆信教授
「ルールが一応立てつけはできてるけど、きちんと守られていなかったということ。どれだけ協会として本気で取り組んで手をつけていくかが、今後の課題になると思う。」

日馬富士 暴行問題 協会の対応は?

田中:実は相撲協会は、今回の問題が起きる直前の9月、ガバナンスの強化を図るため、「リスク管理規定」「倫理規定」「内部統制」の方針を定め、トラブルが起きた際の対処方法を明確にしたばかりでした。力士にも通報窓口を周知していました。それにもかかわらず、貴乃花親方は報告しませんでしたが、その理由については、協会を混乱させたくなかったとしています。一方、相撲協会の対応も不十分でした。警察から連絡があったにもかかわらず、両親方に確認しただけで、それ以上の調査には踏み込みませんでした。また、同席した横綱の白鵬など、ほかの力士も通報義務がありましたが、これをしていませんでした。

協会の危機管理対応をどう見る?

刈屋解説委員:巡業が始まる直前の9月28日の理事会で、全員で組織図も全部書いて、非常事態が起きたときにはこういうふうにしていきましょうということを確認しているんですよ。決議している。そこに貴乃花親方も出ているんですね。ところが、その約束を1か月もたたない後に、貴乃花親方が無視したということが、今回の機能しなかった最大のポイントだというふうに思います。その約束事を、もし、ちゃんと守っていれば、事態が起きたときに、すぐに貴乃花巡業部長が事態の収拾を確認するわけですね。被害者や関係者を全部集めて、掌握することができたと。その上で協会に報告したり、あるいは警察への対応をしたりと。今は警察に任せるんだという一点張りですけれども、同じような約束事を果たして報告しても警察に任せるということが主張できるポストにいたんですね。ですから、警察に任せることだからと言って黙っていることは、あるいは自分が機能できなかったことは、言い訳にならないわけですよね。ですから、ちゃんと約束事を守っていなければいけなかったのが、その重要なポストにいた人が、それをしなかったというのは、意図的なのか、あるいは何か理由があるのか、本人が説明すると思いますけれども、公益法人としての自覚が足りなかったと言われてもしかたがないと思いますし、じゃあ貴乃花親方だけが悪いのかというと、その1週間後に、警察から被害届が出ているという報告が来ているわけですね。それで危機管理委員会の方は、逆に言うと、その約束事にこだわりすぎて、報告を待っていたと。でも、被害届が出ていたわけですから、そのことの深刻さを理解して、自ら動いて事態の把握に、掌握に動いていれば、まだ1週間、初日まであったわけですから、九州場所がこんなに混乱しないで済んだのではなかろうかなと。つまり、2段階において、今回は機能しなかったということが言えると思います。

失われた信頼の回復には、何が必要?

守屋さん:日本相撲協会の運営、マネージメントについて、それぞれの分野の専門家の力をもっとお借りしたらいいのではないかなというふうに思います。プロ野球では、コミッショナーという名前でお願いしていますし、そのほかのプロスポーツでは、同じようにしているように思います。元力士だけで日本相撲協会を運営しているのは、もう難しくなってきている時代ではないかなというふうに感じています。

刈屋解説委員は、信頼回復には何が必要だと考える?

刈屋解説委員:私は、暴力に対する認識を一般の人と近づけるために、明確な罰則規定を設けるべきだと。
(今はない?)
そうですね、明文化していないですね。暴力によって傷害事件を起こしたら、土俵に上げない。それともう1つ、公益法人としての組織の自覚、これを徹底すべきだと思いますね。

今回、問われた横綱の品格。そして、相撲協会の組織の在り方を、時代に合った形にいかに作り上げていけるのか。まさに今、真価が問われています。