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2017年11月8日(水)
マラソン大会ウォーズ ~激化する市民ランナー獲得競争~

マラソン大会ウォーズ ~激化する市民ランナー獲得競争~

高級和牛に、スイーツ食べ放題、さらには、有名ブランドのペンダントまで。実は、これら全部マラソン大会の“おもてなし”。今や年間数千件を超えると言われるマラソンイベントですが、ランナーの数が頭打ちとなるなかで、少しでも多くのランナーを獲得しようと、”おもてなし合戦”が激化しています。ランナーにとっても、また、開催する自治体にとっても、幸せなゴールとは何なのか、探ります。

出演者

  • 原田宗彦さん (早稲田大学教授)
  • 武田真一・鎌倉千秋 (キャスター)

マラソン大会に異変 参加者に和牛や宝飾品!

マラソンのゴールで、タキシード姿のイケメンが笑顔でお出迎え。

完走の記念に渡されるのは、高級ブランド「ティファニー」のペンダントです。その数なんと2万個。給水所で地元産の高級和牛を大盤ぶるまいする大会や、有名店のスイーツが食べ放題の大会まで出現。

市民ランナー
「レストラン選ぶのと同じ。サイトで『この大会いいよ』とか、『コース面白いよ』と書いてあると行く。」

一方、ランナーの獲得競争に敗れ、ふるさとの自慢だった大会が廃止に追い込まれるケースも。

廃止が決まった大会の担当者
「(大会費用を)負担し続けるのが厳しくなった。苦渋の選択をせざるを得なかった。」

過熱するマラソン大会の生き残り競争。果たして、地域にもランナーにも幸せなゴールはあるのでしょうか。

マラソン大会ウォーズ 激化!市民ランナー争奪戦

鎌倉:スポーツの秋を迎え、各地で開催されているマラソン大会。実は1年のうち、この時期が開催のピークなんですよね。今週末の2日間だけでも全国でなんと20以上の大会が開かれる予定なんです。

こんなにあるんですね。

鎌倉:2007年に始まった東京マラソンをきっかけに巻き起こった市民マラソンブーム。この10年で大会の数は5割増しに。ランナーの数も伸び続け、5年前についに1,000万人を突破したんですが、実はこの数年で頭打ちになっているんですよ。

僕も以前走っていたんですが、やめちゃいました。

鎌倉:そういう方が結構いらっしゃるみたいです。そんな中、各地の大会が互いに生き残りをかけて市民ランナーを争奪し合うマラソン大会ウォーズが巻き起こっているんです。

マラソン大会ウォーズ 激化!市民ランナー争奪戦

過熱するマラソン大会ブームにひと言言いたいという人が。
川内優輝さん。

公務員でありながら、この夏の世界陸上で日本代表にも選ばれた、最強の市民ランナーです。これまで出場した市民マラソン大会はおよそ300。

川内優輝さん
「日本中、市民マラソン出てますので、北海道から沖縄まで、完走証、いろいろあります。」

そんな川内さんが、特にすばらしいと評価していた大会が今年(2017年)3月を最後に廃止されることになったのです。

川内優輝さん
「種子島は本当によかったですよね。種子島の大会は、日本で10本の指に入るぐらい楽しいレースだったかなというふうに思っています。全体的によかった。1キロごとに距離表示がしっかりある。給水所がしっかりしている。安納芋をもらえたり、宇宙食をもらえたり。歴史がある大会がなくなってしまうのは、本当に残念。」

「たねがしまロケットマラソン」は、30年前島外から人を呼び込む目玉イベントとして始まりました。ピーク時の1993年には3,000人近くのランナーが参加し、にぎわいました。大きな経済効果を上げてきたイベントの廃止は、町に打撃を与えています。町で最大のホテルです。

例年だと64の客室が、マラソン大会の半年前から予約で埋まっていたといいますが、今は…。

大和温泉ホテル 支配人 濱村修行さん
「個人のお客様はほとんど、まだ(予約が)入っていない。(大会が)なくなると、こたえます。」

大会参加費は4,000円。30年間据え置き、地元の人々が手作りで歓迎ムードを盛り上げてきました。

南種子町商工会 会長 寺田栄一郎さん
「島でも一番大きなイベントがなくなった。(心に)穴があいたというか、非常に残念。」

大会廃止の決定は、主催してきた町にとっても苦渋の決断でした。大会への参加者は、一時ピークの4割にまで減少。町の人口減少で税収も減る中、700万円を超す費用が大きな負担となっていたのです。

南種子町役場 企画課 山田直樹さん
「数年前から(企業の)協賛金もなくなり、(町が)負担し続けるのが厳しくなってきた。」

追い打ちをかけたのが、2年前から同じ県内で始まった大会。おもてなしを全面に押し出して、1万2,000人を集客。たねがしまロケットマラソンで3割を占めていた島外ランナーの数は頭打ちになりました。

南種子町役場 企画課 山田直樹さん
「(鹿児島マラソンは)3月で同じ時期。それがなかったら、(ランナーが)増えていたかも。」

一方、この15年で参加者を10倍に伸ばした大会があります。
長野県の「小布施見にマラソン」。

人口およそ1万人の町に8,000人のランナーが押し寄せます。大会の売りは給水所。通常は、水やバナナなどが定番ですが、小布施では、りんごや野沢菜、さらには高級和牛まで。およそ20キロのコース沿いに30か所もごちそうポイントが。その数も年々増えています。

電話:小布施マラソン実行委員会 岡田貴大さん
「ランナーの皆さんの喜ぶ顔が見たい。『おいしいね』と言ってくださる顔を見るのが楽しみ。徐々に品数が増えていった。」

こちらは、世界最大の女子マラソンとしてギネスにも認定された名古屋の大会。

豪華な完走賞などで、ランナーの心をがっちりつかみます。およそ2万人の完走者には、高級ブランド「ティファニー」のペンダントが配られます。

名古屋ウィメンズマラソン事務局長 岡村徹也さん
「女性に喜んでもらうためには何か。やっぱり宝飾品だろうと。何が何でも完走賞を獲得するんだという気持ちが強く働いている。」

格付けされるマラソン大会 カギ握るランナーの評価

大会どうしのおもてなし合戦をヒートアップさせているのがランナーの口コミ評価です。国内最大、270万人のランナーが登録するポータルサイトの運営会社です。

社員は全員がランナー。自らも大会に出場し、情報を収集しています。

社員(自己ベスト:フルマラソン 2時間19分)
「大会は(年間)15〜18くらい参加しています。」

最近の大会の傾向は?

社員(自己ベスト:フルマラソン 3時間24分)
「今は地元の名産品だとか、ありとあらゆるものがあって、それが当たり前みたいな、ちょっと変な傾向もある。」

社員(自己ベスト:フルマラソン 3時間03分)
「昔は(大会のサービスが)横並びだったんですけど、差別化、個性化されて、どんどん変わってきている。」

大会に参加したランナーの評価をもとに、毎年ランキングを発表。今年のトップは、ゴール後に伊勢エビのみそ汁が振る舞われる、徳島の大会。競争は激化しています。
こうした中、ランナーたちによる評価を1年で20点以上も下げてしまった大会があります。
さいたま国際マラソンです。去年(2016年)より多くの市民ランナーを取り込もうと、定員を3倍以上に。制限時間も2時間延長しました。参加者は増えたものの、ベテランランナーの中には不満を持った人も。

3時間台の完走が目標 魚尾英生さん
「(制限時間)6時間とか5時間はゆるい。大会でモチベーションを上げて走りたい。」

さらに、規模が拡大したことで、運営側の負担が増えました。総事業費は5億円からおよそ7億5,000万円に。地元、さいたま市の負担も1.8倍に膨れ上がりました。去年の大会の担当者は、現場の混乱ぶりを克明に覚えています。

さいたま市スポーツイベント課 課長 横川康夫さん
「飲み終わった紙コップが足元に散乱している。足元が滑る、ビショビショの状態。ランナーにご迷惑をかけた。」

混乱の原因の1つは、ボランティアの不足でした。目標の7,000人に対し、集まったのは5,000人に届きませんでした。

マラソン大会ウォーズ 激化!市民ランナー争奪戦

ゲスト 原田宗彦さん(早稲田大学教授)

早稲田大学教授で、各地のスポーツイベントの支援もされている原田さん。
さいたまはちょっと苦戦していたが?

原田さん:やはりまだ始まって2年目なので、いろいろ改善点もこれからあると思うんですけれども、大丈夫だと思います。

競争も激しくなっているようだが、なぜ、ここまで全国でマラソン大会が、いわば乱立するような状況になっている?

原田さん:日本の自治体は、ほぼ例外なく、人口減と高齢化という危機感を抱いています。そういう時に、政策を決める時に、相互参照というのがあって。
(相互参照?)
相互参照、県は県、市は市、村は村で、横並びで何をやっているのかなと見るわけですね。すると、マラソン大会が交流人口も増えて、地域を活性化するなということで、一気に増えまして、成長期から今、成熟期に入ってきて、さまざまなランニングイベントを入れると、2,000から3,000ぐらいあるのかなと言われてます。

鎌倉:そのように市民マラソン大会が乱立する中、さまざまなトラブルも起きています。九州で初めて開催されたある大会では、ランナーをサポートするはずの給水所で、水や食料が大幅に不足。炭酸飲料ばかりが並ぶ事態となりました。さらに、先導者がコースの誘導をミス。「やった!ベストタイムだ」と思ってゴールしたら、距離が短かった。運営側がおわびする事態となりました。また、関東で行われるはずだったある大会では、開催の2日前に、主催者が道路の使用許可を取っていなかったことが発覚。参加者への中止が伝わらず、当日、走ろうと思って来たら、大会がなかったという前代未聞の事態に多くのランナーの怒りを買いました。

なぜ、このようなトラブルが増えている?

原田さん:やっぱり、いろんな人がマラソン走り出したと。マラソンの大会が増えるということは、これまでエリートランナーだった大会が一般の人へと民主化されていくわけですね。そうすると、いろいろな方が入ってくるわけです。さらに、大会で経験値が増えてきますと、ランナーの目が肥えてくるわけですね。すると、いい大会と悪い大会を選び出して、そのニーズと、やりたい、与えてもらえることがミスマッチが起きると、そこで不満が出てきたりということなので、これからますます成熟したランナーに対しては、マネジメントの力が重要になってくるのかなと思います。

エリートランナーが走る大会と市民マラソンでは、ノウハウは違う?

原田さん:違いますね。やっぱりエリートはもう、やはり記録への挑戦。一般市民は、やっぱり記憶ですよね。楽しい思い出の挑戦になりますので。

鎌倉:一方、先ほどのボランティア不足などが原因で、去年、厳しい評価を受けた、さいたま国際マラソン。もうランナーを裏切るわけにはいかないと、今週末に迫った大会に向けて、ある秘策を打ち出しました。

マラソン大会 新戦略 ボランティア集め大作戦

今年のマラソン大会運営に必要なボランティア数を6,000人と試算した、さいたま市。考えたのは、ボランティアが参加したくなる仕掛け作りです。
ボランティアが身につけるスタッフウエア。20人以上で参加すれば、グループの名前をプリントできるようにしました。

その結果、名前をPRしたい企業や学校など、グループ単位の応募が増えました。

目白大学 講師 櫻井健太さん
「今年からボランティアの特典ができたので、名前が出るのはすごくうれしい。」

各地のマラソン大会を職員が視察して思いついた、このアイデア。今週末に迫った今年の大会。目標の6,000人に到達したのか伺うと。

さいたま市スポーツイベント課 課長 横川康夫さん
「6,404人。目標を上回る数字。まずは一安心。本番はこれから。よい大会だったと思っていただける大会にしたい。」

鎌倉:さいたま市では、そのほかにも、ボランティアを集めると、大会のパンフレットに団体名を掲載してもらえるや、一定の数を集めた団体には、無料で走れる枠をもらえるなどのさまざまな特典を用意して、今週日曜日の本番に臨みます。

ランナーの満足度をどうやって上げるのか。ほかの大会でも、新たな戦略を打ち出しています。

マラソン大会 新戦略 “走りへの回帰”と“爆ラン”

戦略、その1「走ることへの原点回帰」。
ここ数年人気が急上昇しているのが、つくばマラソン。

今年は1万6,000人の定員が、わずか90分で埋まりました。人気の秘密は、「マラソンを科学する」というコンセプト。本番2か月前から、練習会を開くなど、ランナーが走り抜くために必要なサポートを提供しています。指導するのは、長距離走のトレーニングなどを専門とする地元、筑波大学の鍋倉教授です。

筑波大学 教授 鍋倉賢治さん
「おしゃべりOK。おしゃべりできないペースはダメ。おしゃべりしてください。」

鍋倉教授は、準備不足からケガをしたり、途中でリタイアしてしまうランナーが多いことに注目。初心者や中高年でも、無理なく完走できる方法を理論的に伝えます。

筑波大学 教授 鍋倉賢治さん
「ゴクゴクくらいの感じで。レースはスポーツドリンク、練習は水、なぜか?スポーツドリンクを飲んだら、その糖を使うから。脂肪は使われにくくなる。」

参加者
「すごく貴重ですね。難しい内容でも分かりやすく、かみ砕いて教えていただけますし、独学では限界がある。」

参加者
「(大会は)シンプルな方がいい。おもてなしがあるよりも、純粋に走りを楽しめる方が、私は好き。」

給水所の軽食。ちょっと地味に見えますが、専門家が栄養学の視点から厳選しています。

筑波大学 教授 鍋倉賢治さん
「これは大きいわ。」

つくばマラソン事務局 荒木奈己さん
「(去年)これよりも大きいサイズで出したら、大きすぎるって。」

筑波大学 教授 鍋倉賢治さん
「4分の1でも大きいから半分に。」

筑波大学 教授 鍋倉賢治さん
「安全に効果的にマラソンにチャレンジしてもらいたい。シンプルだけれども、初マラソンに臨むにはすごくいい大会。」

続いては、新たなランナー層を取り込む戦略です。
先月(10月)開催された新潟シティマラソン。

この3年で急増しているのが、外国人ランナーです。中でも増えているのが、中国や台湾からのランナー。中国では、空前のマラソンブーム。大会数が5年で15倍に増加しています。しかし、大気汚染や交通規制など環境の整備が追いついていません。

香港からのランナー
「日本は空気がきれいですね。天気もよいですし、気温もわりと低くていいですね。」

台湾からのランナー
「日本の大会は丁寧で用意周到です。トイレの数も十分だし、走り終わった後のサービスも丁寧ですね。」

外国人に参加してもらおうと、新潟市は積極的に動いてきました。台湾まで出向いて大会をPR。マラソンの時期に合わせて、チャーター便の運航につなげました。市が期待しているのは、外国人ランナーの消費力と発信力。名産品や観光地の情報まで、高い口コミ効果が期待できます。

新潟市文化・スポーツコミッション 星野隆さん
「マラソンをきっかけに新潟の名前も発信をしていただく。それによって、台湾のリピーターの方、中国のリピーターの方が、新潟を訪れていただけるんじゃないか。」

およそ90人の外国人ランナーが参加した、今年の大会。振る舞われたのは、シンプルながらランナーの水分や栄養補給のことを考えた、地元の旬の食材。特に、コシヒカリのおにぎりに、爆ランナーたちは大喜び。

台湾からのランナー
「おいしい、持ち帰りたい。」

台湾からのランナー
「このコースは、すばらしかったです。応援も盛り上がって、日本のマラソン最高!台湾では東京マラソンが一番人気。でも新潟マラソンは、それ以上に価値がある。」

進化するマラソン大会 満足度アップの秘策は?

マラソンの世界にも、インバウンドの波が来ている?

原田さん:ただ、新潟のケースは偶然ではないんです。
(偶然じゃない?)
というのは、2014年、観光庁が音頭を取りまして、日本から10のマラソン大会が台北で展示会をやっているんですね。そこでマラソンツーリズムの商談会をやって、その努力が今、実ってきているということです。

原田さんも海外に行かれることもある?

原田さん:その時は私も一緒に行きましたけど、やっぱり実感したのは、台湾もそうだし、さっきの中国もそうですね。アジア全域にマラソンブームが起きていますので、日本に行って、日本で走ろうと。きれいな空気、おいしい食べ物、こういうツーリストが、将来増えるような気はします。

つくばマラソンでは、ランナーの走る喜びそのものを高めようという戦略だったが、どうすればランナーにとっても、地元にとっても、幸せな大会になるのか?

原田さん:ただマラソンを走るだけではなくて、その土地土地の風物とか、あるいはマラソンガイドみたいな、何かプラスアルファみたいなものがいいですね。マラソンは1人で走っても楽しくないので。武田さんもそうですよね、たぶん。

グループで参加しても、途中ペースが違うので、結局1人になるんですよね。そういう時に一緒に走ってくれる人がいてくれるということですね。

原田さん:一緒に走ってくれて、しかも、夜はこういうお店がいいよとか、こういう温泉もあるよとか、そういったような、導いてくれるようなガイドさんがいてくれるといいのかなという感じはします。なので、マラソンプラスアルファを作ったマラソンのツーリズムっていうのが、今後、伸びていくのかなと思います。

市民マラソンブーム、これからどういうふうに発展していく?

原田さん:スポーツは隠れた資源だと思うんですね。さっき言いましたように、成長期から成熟期に入ってくると、これまで大会がランナーを選んでいたのが、今度はランナーが大会を選ぶようになると思うので、マラソンを主催する側にも、かなりの改善と創意工夫が求められるようになります。あと1つ、例えばマラソンだけではなく、土地にある文化とか、芸術、そういうものと組み合わせた新しいツーリズム商品ですよね、そういうのも大事ですし、あるいは自治体が県で1つだけ大きなマラソンやるのではなく、市とか町とか村、いろんな目配せをした、いろんなマラソンイベントもありなのかなという、そういう多角化の経営みたいのが重要だと思います。

マラソン大会がなくなってしまった種子島でも新しい動きがあるそうですね。

原田さん:「ロケットライド」ということで、今度、自転車のイベントをやろうという、ちょっと救われるような話もあるんですね。

マラソンだけじゃないんですね。マラソンがダメなら、自転車もあるぞと。地域、地域で特徴を生かして。

原田さん:種子島が持ってる資源を最大活用するというような、そういう動きですね。

私もここ数年、マラソンからはちょっと遠ざかっていたんですけれども、この間にこんなにバラエティー豊かな大会が増えているとは、まさに驚きでした。地域の応援と、自分のシェープアップも兼ねて走ってみようかな?