クローズアップ現代

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2017年9月25日(月)
障害者と恋とセックスと

障害者と恋とセックスと

「障害者だって、恋をするし、セックスもしたい。障害者はただの人間なんです」 リリー・フランキーさんが脳性マヒの主人公を演じ、恋に落ちながら周囲の偏見や差別と闘う様子を描く映画が試写会で話題を呼んでいる。主人公のモデルとなった熊篠慶彦さんは、障害者が利用できるラブホテルを探したり、自由に身体を動かすことのできない人たちが“寄り添える”よう、「添い寝介助」の普及にも取り組んでいる。障害者のリアルな性の現場を見つめることで、「誰もが生きやすい社会」への手がかりを探る。

出演者

  • リリー・フランキーさん (イラストレーター)
  • 熊篠慶彦さん (NPO法人 ノアール理事長)
  • 岡原正幸さん (慶應義塾大学教授)
  • 武田真一・田中泉 (キャスター)

“障害者と恋とセックスと” 話題の映画がいま

“障害者だって、恋をするし、オナニーもするし、セックスだってしたいんです。障害者は聖人君子なんかじゃないんです。ただの人間なんです。”

障害のある人の恋愛やセックスを真正面から描き、今、話題を呼んでいる映画「パーフェクトレボリューション」。障害を理由に恋愛に臆病になっていた脳性まひの主人公が、パーソナリティー障害の女性と恋に落ちるストーリー。2人は、社会の差別や偏見にさらされ、時に絶望しながらも幸せを追い求めていきます。

“何してくれてんだシンショウ、いっちょ前に女連れて。”

“障害者と結婚するということは大変なことです。”

“私みたいなのとあなたみたいなのが幸せになったら、すごいことだと思わない?”

試写会に訪れた人
「知らない世界だと思いますし、聞けないことだったので。」

試写会に訪れた人
「『障害者と性』というのはタブー。それをちゃんと向き合って作品にしている。」

これまで介護の現場でさえ避けがちだった、障害者の恋愛やセックス。新たな模索が始まっています。障害のあるカップルどうしの触れ合いを介助する海外の取り組み。日本にも、こうした障害者の性を支える取り組みが広がり始めているのです。

作業療法士
「2人が体温を感じ合えたことで『生きていける』。それが得たもの。」

今夜は、映画の主役リリー・フランキーさんが生出演。私たちが生きる社会のもう一つのリアルを見つめます。

“障害者と恋とセックスと” 自立を目指して

映画の主人公には、モデルとなった人物がいます。18年前から障害者の性の自立を目指し活動してきた熊篠慶彦さん。脳性まひで、両手足に障害があります。

NPO法人ノアール 理事長 熊篠慶彦さん
「敷地が広いから行けるかな?」

活動は多岐に渡りますが、例えば、バリアフリーのラブホテルの情報を集め、発信すること。きっかけは大学生のころ、入口に段差があり、障害者が利用できるラブホテルがほとんどなかったことでした。

NPO法人ノアール 理事長 熊篠慶彦さん
「これは無理だよ。ここ上がれても、下がれない。」

障害者の恋やセックスには、社会から目が向けられることさえなかったと感じてきた熊篠さん。あえて過激なことばを使って、障害者にも人として当たり前の欲求があると訴えてきました。

NPO法人ノアール 理事長 熊篠慶彦さん
「障害者とか高齢者とか患者というのは、受動的な立場なんです。今まで困ってた人たちに手を貸しましょう、受動的な人たち、制度の対象者って言ってたけど、『セックスがしたい』『オナニーがしたい』と言ったとたん、『あっ?』みたいな。」

学生
「理解はできるし、理解したいと思うけど。」

学生
「本当に知識がないので、批判も賛同もできない感じで。」

“障害者の性” 福祉現場の戸惑い

これまでタブー視されてきた障害者の性の問題。社会はどう向き合えばいいのか。福祉の現場では戸惑いに直面しています。
自立支援センターの理事長、木村利信さんです。木村さんは、体に障害があり、みずから性的な欲求を解消できない利用者のため、自慰行為を補助する器具の導入を検討してきました。

自立支援センター 理事長 木村利信さん
「賛成反対も含めて、個々の意見を言ってもらいたい。」

しかしこの日、職員に意見を求めたところ、器具の導入以前に、福祉の現場が性の問題に対応することに疑問が相次いだのです。

職員
「性の話をされたときに私が対処するかといったら、多分、私はしない。
かなり負担がかかると思う。」

職員
「『どこまで、どうしていいのか?』という線引きは非常にむずかしい。デリケートだと思います。」

職員
「法人としてやるのか、ルール作りが必要になってくると思う。」

長年、障害と向き合ってきた現場でも、性の問題となるとすぐに答えが見つからないのが現状です。

自立支援センター 理事長 木村利信さん
「個々の考え方がちがう。なかなかむずかしいですね。私も今日聞いていて、どうしたらいいのかなって、正直なところ。」

“障害者の恋愛” ありのままを受け入れて

障害のある人たちが直面しているのは、物理的な問題だけではありません。熊篠さんが立ち上げたサイトには今、相談が相次いでいます。

NPO法人ノアール 理事長 熊篠慶彦さん
「すごいですよ、(書き込みが)ほぼ毎日。」

障害があることで恋愛や性に対して踏み込めないという、精神的な悩みが寄せられています。

障害のある男性の投稿
“『男性』として見られないことが当然のことで、『性』について向き合うことから遠ざかっていました。”

障害のある女性の投稿
“自分の中の女性の部分を、時には感じてみたいのがホンネです。ただ、世間的に障害者だからといって性のことを封印していたかもしれません。”

都内で1人暮らしをする、まゆみさんです。脳性まひで手足に障害があります。まゆみさんが恋愛や性に対する周囲との意識の差に気付いたのは、中学生のときのことでした。

まゆみさん
「彼氏がどうのとか、恋愛の話を始めた時点で『えっ』みたいな空気が流れてるんです。身体がちゃんと動かない見かけだったり、そこから抱くイメージで(恋愛感情が)ないのかなって。」

去年(2016年)、ようやく自分を受け入れてもらえると思える男性に出会ったまゆみさん。しかし、その男性からの心ないことばに深く傷ついたといいます。

まゆみさん
「その人の思い通りにならなかった。行為が思うようにできなかった。『しょせん脳性まひやな』といわれました。やっぱりきつかったですよね、本当に苦しんだ。この人は(自分のことを)理解してると思ったから、なおさら。」

障害のある、ありのままの自分とうまく向き合えなくなったというまゆみさん。

まゆみさん
「いいな。」

誰もが自然に抱く思いを、受け入れられるようになることを願っています。

まゆみさん
「やっぱり誰かにそばにいてほしいと思います。ちょっと激しくなりますけど、壊れるほど抱いてほしいと思います。壊れるほど抱きしめてほしいし、本当に抱いてほしいと思います。」

“障害者の恋と性” 社会の“もう一つのリアル”とは

ゲストリリー・フランキーさん(イラストレーター・俳優)
ゲスト熊篠慶彦さん(NPO法人ノアール 理事長)
ゲスト岡原正幸さん(慶應義塾大学 教授)

「壊れるほど抱きしめてほしい」ということば、どう聞いた?

リリーさん:いやぁ、なんかすてきでしたね。
工藤静香さんの曲のタイトルにあるんじゃないかっていうぐらい、なかなかいいこと言ってもらって。本当にまゆみさんが自分で出てくれて、ああいう自分の、本当に恋がしたいとか、本当に壊れるほど抱き締めてほしいということを言ってくれることが、「あれ、なんでそう思ったの?」という人もまだいらっしゃるかもしれないですけど。さっき東大の学生さんが「知識もないから批判も賛同もできない」って言ってたけど、でも、人間が誰かを好きになるとか、誰かに触れたいって知識は持ってるはずじゃないですか。だからまゆみさんが実際に自分の声で、そして熊篠君とかが自分の声で言ってもらうことが、僕ら健常者が持っている、あっ、どういう状態に人間はあっても、やっぱり恋愛はしたいし、性行為もしたいっていう気持ちを持ってるってこと、それに気付いてなかった健常者がいるということですよね。

話題の映画 障害者の“リアル”とは

映画の冒頭の「障害者だってセックスがしたい」というせりふが印象的だが、リリーさんが映画を通じて伝えたかったこととは?

リリーさん:映画はヒットしませんから、映画で伝えたいことというのは、もう劇場に行ってもらって、おもしろいかおもしろくないかで判断してもらえればいいんですけど。でもこうやって映画になったことで、僕の友だちの熊篠が10年以上活動してた、僕たちにも恋愛感情や人に触れたいっていう気持ちがあるんだって、すごく単純な活動が、ふだんだったら本当、地下でしか話せないことが、こうやってクローズアップ現代で話させてくれる、取り上げてもらえる、誰かに聞いてもらえる、やっと当たり前のことが人にメディアで話せるようになったということなんだと。

逆に言うと、それだけ知られていないということ?

熊篠さん:そうですね、知られてないですね。ただ、ことさらに口に出すことではないとは思うんですけど、でも何かにつけて介助が必要ということは、一つ一つ口に出さなきゃならないわけです。「ごはん食べさせてください」もそう、「入浴させてください」もそう、「排せつしたい」もそう。その中での気持ちとして、普通の恋愛もしたいし、マスターベーションもしたいし、セックスもしたいっていうのは、同じように口に出さないとならないということですよね。

リリーさん:さっきのVTRを見て誤解されたくないのは、「マスターベーションの介助をしてくれ」って言ってるわけじゃないんだもんね。

熊篠さん:そうじゃないです。

リリーさん:熊篠君が言ってるのは、自分たちもそういう気持ちがあるんだよということで、もし帰るときにここに器具をつけて帰ってもらえれば、それでいいわけ。

熊篠さん:手前の段階ですね。話ができない現状なので、まだタブーにはなってない、タブーにすらなってないと思いますね、僕は。
(それくらい認識がない、ずれている?)
だと思いますね。

“障害者の恋と性” 社会はどう向き合う

障害者の性がこれほどまで議論されない。健常者と障害者の間にどういう壁がある?

岡原さん:それは障害者ということ、あるいはセクシャリティー、セックス、この両方がタブーであって、何かこう、公で話しちゃいけないものにされている。だから、障害者は常に障害者として動かなくちゃいけない、障害者のパフォーマンスを演じさせられてしまう。それは健常者にとっては、すごく都合がいいですよね。自分は変わらなくていいわけだから。障害者のほうがなんかしなくちゃいけない、僕らのほうに近づかなくちゃいけない、でも僕らは何も変わらなくていいっていう、そういったものがやっぱり健常者側にあるんだというふうに思いますね。

先ほどのまゆみさんのことばを前にして一瞬立ち止まってしまうのはなぜか。自分が何もできないというのは、もしかしたら自分の中に、なんらかの差別意識みたいなものがあるのではないかと。

岡原さん:そうですよね、障害者にはそういったことはできないんだ、極端なこと言うと「やってはいけないんだ、やるべきではないんだ」みたいな差別意識は潜んでいるというふうに考えたほうがいいんじゃないかな。

リリーさん:どこかで、なんか日本のメンタリティーの中で、そういう援助を受けてるっていう立場の中で、それ以上のことを求めず慎ましく生きなさいみたいなのがあるのかもしれないけども、でも、例えばマスターベーションとか、セックスに対して手伝ってくれって言ってるわけじゃなくて、その気持ちを持っているということを否定しないでほしいっていうことなんですよね。

介護の現場でも、あまり理解されないということがあったが、どう考えるべき?

岡原さん:法的制度であるとか、もっとそういったものについて語り合う場所というものが出てこないと、実際のケアの現場にいる人たちも、なかなか対応はできないだろうというふうに思います。

リリーさん:だってね、あそこの人でも、マスターベーションのグッズを置かれて、理事長にこうやって言われたら、「私、それは手伝いません」というのは当たり前の感覚だと思います。そういうことを言ってるわけじゃないです。

田中:では世界では、どのように障害のある人の性と向き合っているんでしょうか。WHO・世界保健機関は、障害のある人たちの性の問題について、福祉の現場でも相談に応じることなどを推奨しています。またオランダでは、障害のある人が性的な介助を受ける場合に、地域によって保険の適用を受けることができます。ドイツでは20年以上前から、福祉の専門職の教育課程で、性の問題への対応を教えています。こうした中、日本でも障害者の性をめぐって、今、新たな模索が始まっています。

“好きな人に触れたい” 介護現場のある模索

一度でいいから好きな人に触れたい。そんな障害のあるカップルの願いに応える、新たな試み。互いに触れ合うのをサポートする、「添い寝介助」です。

きっかけは、熊篠さんのもとに寄せられた相談でした。難病で、お互いにほとんど身体を動かせないカップルからの介助の依頼。内容は「身体に触れたりキスをする手助けをしてほしい」というものでした。
添い寝介助の参考にしたのは、ドイツで行われている活動です。障害者のカップルから依頼を受けた介護スタッフが、2人の意思を確かめながらサポートします。

「頭を上げて。」

「もっと上へ。」

「ちょっと前へ。」

「彼の手を。」

2人を近づけたあとは、スタッフはその場を離れます。
熊篠さんは作業療法士などに呼びかけ、カップルの相談に応えられないか検討を重ねてきました。

介護福祉士 辻本敏也さん
「こんなにも、唇と唇をつけるのに苦労するとは思わなかった。」

実際に添い寝介助を受けたカップルが、そのときの様子を教えてくれました。出会って5年、視線を交わすことしかできなかった2人。初めて身体を寄せ合った僅かな時間に手を重ね、キスをしたといいます。

女性
「相手の存在を感じられたことで、映画や食事とか、2人でもっといろいろなことをしたいと思えるようになりました。」

男性
「恥ずかしいけど、どうしようもないのでお願いしました。とても勇気がいりました。彼女の手や指の力、この感覚があれば生きていける。」

作業療法士 髙橋由紀さん
「あの2人が体温を感じ合えたことで『生きていける』って強い表現がでたことに、自分には言えないものを感じていて、それが得たもの、人間として。」

作業療法士 田畑雄吉さん
「手を添えるだけでも、握るだけでも、本当に好きだったら握るだけでもすごくうれしいじゃないですか。そういうのを大事にしたい。」

“障害者の恋と性” 社会にとって大切なこととは

リリーさんはこの添い寝介助を受けられたカップルの、まさにその様子を写真でご覧になったそうですが?

リリーさん:本当になんていうんですかね、男性の方も「すごく勇気がいりました」とか、女性の方も、触れられたことで、もっと映画に行きたいとか欲求が出てきて、「これから生きていきたい」っていうみたいに。もともと本当に、僕らもそうですけど、初めて人と、好きな人とキスしたりとか、手に触れたときって、ものすごく本当に豊かな(ものが)あるじゃないですか。だから本当にこの介助がすごく意味があるなと思うのは、本能に対するボランティアっていうか、すごい先のことばっかり僕ら考えてたかもしれないけど、手が触れ合うだけで生きていきたいって思える、この本能を理解するボランティアというのは意外と少なかったのかなと思いますけど。

このお2人が感じた幸せというのは、障害があるなしにかかわらず普遍的なものだと思うが、そうした気付きが生まれるということが社会にどう影響する?

岡原さん:今のリリーさんのことばで、すべて足りてるような気がするんですけど、もう2人のことばもすごく感動的だし、それは人と人がやっぱり、手を触れ合うというこのすごく当たり前のことを、逆に僕らの社会はもしかしたら忘れちゃってる、こう(手をふれあう)ではなくて、さらにこう、こう、こう(手をどんどん伸ばしていく)のほうに目が行ってしまって、何か大事なものを忘れてるとすると、やっぱり障害を持ったこの人たちが、やっぱりすごく一生懸命触れ合いたいっていうその気持ちが、僕らにまた新しいものを与えてくれるだろうし、僕なんかやっぱりそれを拾っていきたいという気がすごくしますね。

リリーさん:やっぱり人間の欲求が埋まっていくことで、さらなる欲求がやっぱり生命力っていうかね、生きていきたいなみたいな気持ちにやっぱりなるんだなというのはすごくいいことだと思います。

(そういう議論って、障害あるない関係なく、人間の本質とは何かということを語り合うということでもありますよね。)

“障害者の恋と性” 誰もが生きやすい社会へ

田中さん:リリーさんも今、障害のある人とない人の間のバリアを取り払おうと、新たな取り組みをしているんです。こちらはリリーさんが、障害のある女性の写真集の制作をしている様子です。筋ジストロフィーの自分の体に、自信を持ちたいと依頼してきた女性のヌード写真を撮影し、その魅力を伝えようとしています。

どんな魅力を伝えたいというふうに感じた?

リリーさん:すべての障害あるなしに関係なく、女性の写真を撮るときは、その人をきれいに撮りたい、美しく撮りたいということで撮ってますけど、彼女に関しては本当にすごくかわいくて、おっぱいも大きいいい子なんですけど、今までと違って、彼女は障害を持っているから、ちょっと寝返りを打つことも自分でできないって、その戸惑いを僕も感じながら、なかなかいい写真が撮れずに、撮り続けさせてもらってるんですけど。
今まで僕は人に助けてもらってたということと、そして彼女は寝返りを打つことにも人の助けがいるということもまた教えてもらえたっていう。

ご自身の活動を通じて、社会がどう変わっていけばいいと感じている?

熊篠さん:難しいんですけど、とにかく話のできる環境、こちら側が何か言ったときに、そこで話が終わってしまうとどうにも進まないので、よくも悪くも話ができる環境がほしいですね。
(先ほどの添い寝ボランティアに来られた方々も、なかなか周囲には話しづらかったと。)
だから、なんで僕の所に相談が来るのかってことですよね。周囲の人に言えてれば僕の所に相談来ないわけですから。

リリーさん:こういうことをきっかけに、外に行ってもいいんだっていう意識がね、障害を持ってる方にも、できれば、しばらくあなたが窓口やるしかないわけだけど。
(そういう環境を作る責任は、健常者の側にもある?)
そうですね。熊篠君が長年活動してることは、障害者の権利だとか、本当にやりたいとか、どうにかしてくれということではなくて、僕たちが、彼らたちが人を好きになりたいとか、触れたいっていう当たり前の感情を持っていることを健常者の人に理解してもらいたいという、ものすごく単純なことだけど。それが僕たちが理解できなかったことだということに、今、気付かされてる。

恋や性について語るということは、お互いに、一人の人間として向き合うことだというふうに思いました。