クローズアップ現代

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2017年9月12日(火)
多発する“記録的大雨(キロクアメ)”新たなリスク

多発する“記録的大雨(キロクアメ)”新たなリスク

1時間で100ミリを越すような短時間強雨が、全国各地で頻発している。「記録的短時間大雨情報」いわゆる“キロクアメ”の発表は、ことし90回に達し、近年で最多を記録。被害の最新研究から、知られざるリスクが浮かび上がってきた。九州北部豪雨では、これまで警戒されてきた大河川ではなく中小河川が一斉に氾濫。川底から削られた大量の土砂が被害を拡大させた新たなメカニズムが明らかになってきた。短時間強雨から命をどう守るのか、最新の対策も交え考える。

出演者

  • 池内幸司さん (東京大学大学院 教授)
  • 武田真一・田中泉 (キャスター)

多発する“記録的大雨(キロクアメ)” 知られざるリスクが…

今年(2017年)、多発している記録的な大雨。全国各地に大きな被害をもたらしています。今日(12日)も奈良県で、1時間におよそ120ミリの猛烈な雨が。避難勧告が出されました。
数年に一度の大雨の際に気象庁が発表する記録的短時間大雨情報、いわゆる「キロクアメ」の発表回数は、今年、すでに90回に達しています。
民間の気象情報会社です。

全国からデータを集め、24時間体制で雨の監視を続けています。

「10分、35ミリといえば、キロクアメだ。」

気象予報士
「予測そのものが非常に困難。80ミリ、100ミリを超えるような非常に激しい雨。」

この記録的大雨がもたらす新しいリスクが見えてきました。
身近な小川がひょう変し、住宅を飲み込む危険性とは。全国に20万ある、ため池。突如、街を襲うメカニズムとは。

河川の専門家
「まったく考えもしないような現象が突然起きてくる。」

これまでの常識が通用しない記録的大雨。台風18号も接近しています。命をどう守るのか考えます。

田中:こちらが今年、記録的短時間大雨情報、いわゆるキロクアメが発表された場所です。全国各地に及び、その数90回に達しています。

記録的な大雨は、なぜ起きるのか。専門家の多くが指摘するのが、日本周辺の海面水温の上昇です。海面から大量の水蒸気が空気中に供給され続け、山などにぶつかり、積乱雲が次々と発生。それが線状に連なり、同じ場所に、大量の雨を集中的に降らせるんです。

想定外の雨が降り、24時間で19回ものキロクアメが発表された九州北部豪雨。取材を進めていくと、私たちの身近なところに大きなリスクが潜んでいることが分かってきました。

多発する“記録的大雨(キロクアメ)” “小さな川”が危ない

37人の命が奪われた九州北部豪雨。積乱雲が次々にかかり続け、1時間当たりの雨量は最大129.5ミリを記録しました。
記録的な豪雨による甚大な被害は、これまであまり警戒されてこなかった小さな川の氾濫によって引き起こされたことが分かりました。この地域は長年、九州最大の一級河川、筑後川の洪水に悩まされてきました。ところが今回、筑後川は氾濫せず、26の支流が一斉にあふれたのです。

支流近くの住民
「怖い。想像できないから、何が起こるか分からないから、自然は。」

豪雨の前に撮られた筑後川の支流の写真です。

穏やかな小川は地域の憩いの場になっていました。それが突然ひょう変し、人々を襲ったのです。
小さな川が、なぜ大きな被害をもたらしたのか。
筑後川の支流の調査をしている島谷幸宏教授です。

注目したのは、氾濫するまでの時間の短さです。雨が強まってから、わずか2時間で水が橋を乗り越えた川もありました。大きな川は水位が上がるのに時間がかかりますが、小さな川は流すことのできる水の量が少ないため、すぐに氾濫してしまったのです。さらに、山あいでは氾濫による被害が、より深刻になることも分かってきました。ここは、小川が氾濫し、川岸が激しく削られた場所です。

「横幅は何メートル?」

九州大学大学院 島谷幸宏教授
「計算したんですけど、平均80メートルぐらい。」

もともと幅が8メートルほどだった川。豪雨によって、川幅が最大で140メートルにまで広がりました。高台にある家だけを残して、住宅や道路が地盤ごと削り取られた所もありました。
島谷教授が考える大規模な地形変化が起きたメカニズムです。山あいにある小川に記録的な豪雨が降ると、水の勢いが増し川底が削られます。水深が深くなると、川底にかかる水の力がより強くなりさらに底が削られます。川の流れはやがて川岸の地盤を崩し始めます。地形が大きく変わり、住宅が次々と飲み込まれていったのです。

短時間に記録的な大雨が降ることによって、どこにでもある小川がひょう変し、甚大な被害をもたらす。被災した集落の数は100以上に上りました。

九州大学大学院 島谷幸宏教授
「1回被害が起こると、その地域の方には甚大な被害。こういう現象が起こる可能性は、全国各地である。」

多発する“記録的大雨(キロクアメ)” “ため池”が住宅を襲う

記録的な大雨がもたらすリスクは、全国に20万あるため池にも潜んでいます。
大雨によって、この10年余りで300か所以上のため池が相次いで決壊しているのです。九州北部豪雨でも、45の農業用のため池が決壊するなどしました。その1つ、7万トンの水を蓄えることができる、山の神溜池。豪雨前の写真です。

決壊によって流れ出た大量の水が、およそ1.2キロ離れた、ふもとの集落を襲いました。3人の命が奪われた、朝倉市山田地区。ため池の方から濁流が押し寄せている様子が映されています。

被災した住民
「すごかった。滝のようにガンガン流れた。」

ため池の調査を行っている矢野真一郎教授です。

この場所には、水をせき止めていた高さ10メートル幅30メートルの堤がありました。

堤は、どのように決壊したのか。
ため池には、決壊を防ぐために排水装置が設けられていました。1秒当たり、およそ46トンの水を排出することができますが、短時間で記録的な大雨が降ったため、水があふれ出します。堤は、下の土の部分が次第にえぐられ、根元から倒壊。たまっていた7万トンもの水が一気に流れ出たと、矢野教授は見ています。

九州大学大学院 矢野真一郎教授
「設計のときに想定していた洪水以上のものがきてしまった。一気に高く水がたまっていたものが、ドーッと流れるので、それはまさに津波と同じ状態。」

さらに被害を拡大させたのが、ため池を埋め尽くしていた流木です。
これは、決壊する直前に撮られた写真。

近隣の山の至る所で土砂崩れが発生し、大量の流木がため池に流れ込んでいました。決壊によって、ふもとの集落に押し寄せた流木。長さ5メートルを超える流木が、次々と住宅を破壊したのです。これまでは、むしろ大雨をせき止める役割を果たすと考えられてきたため池。専門家は、警鐘を鳴らしています。

農研機構 堀俊和ユニット長
「記録的な大雨が降ると、(ため池が)あふれて壊れてしまう。今はため池の真下にも住宅がいっぱいできるようになっていて、社会的リスクが増えている。」

ため池を豪雨に耐えられるよう改修できないか。7つのため池がある、この地区では、農家がお金を出し合って、ため池の維持管理を行っています。ところが…。

ため池の管理をする農家
「みなさんお年寄りで、年金暮らしの人も何人もいるので、経費の問題で、そこが頭痛い。」

改修が進まないため池。リスクは全国に広がっています。

多発する“記録的大雨(キロクアメ)” 新たなリスク

ゲスト 池内幸司さん(東京大学大学院 教授)

河川の防災対策に詳しい池内幸司さん。
中小河川やため池のリスクが浮かび上がってきたが、こうした被害を事前に想定して対策をすることは、やはり難しい?

池内さん:そのようなリスクがあることは分かっておりますが、やはりどうしても、氾濫した場合に被害が大きくなる大河川ですとか、あるいは中小河川でも比較的大きな河川、そういったものを優先的に対応しております。そういった意味では、今回のような小河川、非常に数多くありますので、マンパワー的にも、また財政的にも手が回っていないというのが実態だと思います。
(では、その河川やため池の近くに住んでいる方々は、どう備えればいい?)
具体的には、例えば最近ですと、スマートフォン、インターネットを通じて、多くの雨の情報ですとか、あるいは河川の情報が入ってまいります。そういった情報を入手しておくですとか、あるいは日頃から地域の情報、ハザードマップの情報ですとか、そういったものを把握しておくことが、非常に重要なんじゃないかと思っております。

田中:その危険性を察知する手がかりになるのが、川やため池の水位を測る水位計です。しかし、NHKの取材で、都道府県が管理する全国2万1,000あまりの河川のうち、この水位計が設置されているのは、わずか15%しかないことが分かりました。また、決壊すると、重大な被害をもたらすため池が全国に1万1,000か所以上あることが、国の調査で分かっていますが、そのほとんどについても水位計はついていません。1台設置するのに、およそ1,000万円かかるため、なかなか普及しないのです。水位計がなくても、住民を安全に避難させることはできないのか。新しい試みが始まっています。

予測困難な“記録的大雨(キロクアメ)” 氾濫を察知できるか?

新潟県糸魚川市です。市内を流れる36の中小河川のほとんどに水位計が設置されていません。

記録的な大雨から、どう命を守るのか。
市は、あるシステムを使う検討を始めています。全国のおよそ2万の河川について、洪水の危険度を示す気象庁のシステムです。10分置きに川ごとの最新の情報が更新されます。5段階で危険度を表し最も危ない場合は紫色で示します。

危険度は川の流域で降った雨の量から推定します。上流で降った雨が下流にどの程度流れ込むのか、地形などのデータを考慮して算出しています。このシステムは、水位計のように川の状態を直接測定するものではないため、どれほど正確なのか今、検証が進められています。
先月(8月)12日、糸魚川市に激しい雨が降りました。午前9時ごろから複数の川で色が変化。1時間後には、非常に危険な状態を示す薄紫色になりました。

「上流方面です。」

市の職員がすぐに現場を確認。システムの情報どおり、川の水は急激に上昇していました。

市は、水位計がない川でも、このシステムを活用すれば、住民の避難に生かせるのではないかと期待を寄せています。

糸魚川市 消防防災課 作本雅之主査
「危険度分布情報を上手に活用して、早めの避難行動など、より安全安心につながるように、積極的に使っていきたい。」

多発する“記録的大雨(キロクアメ)” 住民の避難 どう促す

このシステムは、気象庁のホームページで、どなたでも見ることができます。「洪水警報の危険度分布」というキーワードで検索してみてください。
水位計がない川はたくさんある中で、気象庁のシステムを活用するこの取り組みをどう評価する?

池内さん:このシステム、市町村の防災体制の立ち上げですとか、あるいは住民の方が避難準備をするのに、非常に有効な情報だと思います。また、併せまして、実際に避難勧告、指示を出す場合の有効な参考情報になると思います。一方で、この情報は、水位そのものを予測するわけではないので、実際の避難勧告、あるいは指示を出すにあたっては、他の情報も合わせて総合的に判断していくことが重要であるというふうに考えております。
(このシステムの情報は、実際にその川の状態を観測したデータではない?)
相対的に川の氾濫の危険度を表すものでありまして、水位そのもの自体を表すものではないということです。
(ただし、避難の準備のためには、一定程度有効な情報だと?)
そうですね。

田中:この記録的大雨によるリスクは、都市部や住宅街でも明らかになっています。
今日、キロクアメが発表された奈良県では、1時間におよそ120ミリの猛烈な雨が降ったと見られ、道路や住宅が冠水。コンクリートは雨がしみこまず、下水道や水路から水があふれる、いわゆる「内水氾濫」の被害が起きた可能性があります。この内水氾濫に備えようという動きも始まっています。

予測困難な“記録的大雨(キロクアメ)” 住民の避難 最新の試み

「どう下水は?」

記録的な大雨が引き起こす内水氾濫から、どう身を守るのか。
富山市の住宅街で、最新の取り組みが始まっています。この地域では、大雨のたびに急速に水かさが増し浸水被害が繰り返されてきました。腰の高さまで浸水し、避難できない住民もいました。

住民たちが新たに取り入れたのが、産官学で開発された、こちらのシステムです。

地域の防災組織に配られているタブレット端末。30分後、このエリアにどれだけ雨が降るのかピンポイントで予測が表示されます。さらに…。

「浸水予測マップ。この画面で、どの辺まで浸水してくるか表示される。」

どの水路があふれるか、どこが浸水しやすいか、地区ごとにきめ細かく表示されます。
予測を可能にしているのが、地域に3つ設置された小型気象レーダーです。レーダーは、半径30キロ圏内の雨雲の発生を正確にキャッチ。さらに、水路の幅や形状、住宅街の高低差など膨大なデータも活用しています。
先月、日本各地に被害をもたらした台風5号。住民たちは水路が氾濫しないか、タブレット端末に届く情報を注意深く見ていました。

「雨雲の動きを見ると、ここですから、これがだいぶ近づいてきたなと。」

画面を見ると、大雨をもたらす雨雲がこの地区に接近していることが分かりました。

すぐに水路の近くに暮らす住民に避難の呼びかけを始めました。

「そろそろ大雨警戒する段階になってきたので、すぐ退避できるような状況で。」

避難した公民館でタブレットを確認すると、30分後に水路の水位が上がるとの予測が。実際にその30分後、水位は付近の車両を避難させなければならない高さまで上がりました。
住民自身が早めに危険を察知して行動する試み。どこまで広がるのでしょうか。

「(これまでは)用水路見に行って、水の量確認して初めて動くという感じでしたから、先が予測できるデータがあるというのはすごくありがたい。」

「自分らの命は自分らの町の自分らで守る。」

多発する“記録的大雨(キロクアメ)” 都市に潜むリスク

水路や下水道の対策、1つの地区単位で、ここまできめ細かくリスクを察知する、こうした取り組みをどう評価する?

池内さん:なかなか優れたシステムだと思います。単に雨量の情報に合わせた雨量情報だけではなくて、実際に現地の水位情報を提供することで、的確な避難行動につながると思います。こういった事業の結果を踏まえて、今後、全国の都市に広げていくことが望ましいと考えております。
(このシステムを全国の都市に広げていくことは可能?)
特に大都市部が中心になると思いますが、結果を見て、コストと結果によりますけれども、その結果を踏まえて、普及していくことが重要だと思います。

そもそも水路があふれないようにするということも大切だと思うが?

池内さん:やはり東京都でやっているように、被害を防ぐためには、例えば地下調節池を作って水をためる、そういったハードの対策をしっかり行っていくことが重要だと考えております。ただ、このハードの対策も、やはり限度がございます。それを超える大雨については、避難体制の整備とか、そういったソフト体制で対応策を取っていく必要があると。要は、ハード、ソフト両方合わせて、総合的な対策を取っていくことが重要だと考えています。

田中:そして、気になる強い台風18号ですけれども、沖縄県の宮古島の南東の海上を西北西へ進んでいて、このあと非常に強い勢力に発達し、明日(13日)の午後、沖縄県の先島諸島にかなり接近する見込みです。気象庁は、暴風や高波などに警戒するよう呼びかけています。その後、台風は次第に東寄りに進路を変え、今週末にかけて、西日本に近づく恐れがあります。今後の情報に注意が必要です。

記録的な大雨を完全に予測するのは難しい中で、命を守るために、私たちは、どう心構えをしていけばいい?

池内さん:まず、最悪の事態を想定すると。そして、水害も含めて、身の周りのリスクを洗い出すということだと思います。特に具体的には、ハザードマップを見たり、あるいは川を見て、その周辺の地形を見る。そういった具体的な災害が発生した場合の状況を想定して、その場合に、どう避難行動を取るのかというのを考えていくと。もしできれば、家族とか、あるいは周辺の方々と話し合いをすると、さらにもう一段できれば、実際に避難行動を取ってみると、そういったことを年に1度でもいいからやっていただくことが重要かと思います。
(実際に避難場所に向けて、歩いてみると?)
そういった具体的な行動を取ることで、いざという時の的確な対応ができるというふうに考えております。

台風も近づいていますけれども、早めにそういった準備をしておくということが大事ということですね。
この記録的大雨による災害、多発していますけれども、私たちの身近な所に思いがけないリスクが潜んでいるということが浮かび上がってきました。自分だけは大丈夫だと思わずに、日頃から想定外のことが起きることを見越して、備えていくことが大切だと感じました。