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2017年7月19日(水)
介護保険の大改革 住民力で費用を抑制!?

介護保険の大改革 住民力で費用を抑制!?

今年4月、介護保険の大改革が始まった。キーワードは「自立」と「住民力」。対象となるのは、介護保険の入り口、利用者のおよそ3割を占める「要支援1・2」の人たちだ。これまで介護士やヘルパーなど専門職が行ってきた介護予防や生活支援に、資格を持たない住民たちが積極的に関わることに。国が一律に決めていた介護サービスの内容を、今後は各市区町村が判断することになる。高齢者に自立した生活を送るよう促し、社会全体の負担を軽くすることが狙いだが、一方で必要な介護を受けられなくなるという恐れも。新たな介護保険の改革は進むのか?変わる現場の最前線から報告する。

出演者

  • 岩名 礼介さん (三菱UFJリサーチ&コンサルティング 上席主任研究員)
  • 佐々木 淳さん (医師)
  • 武田真一・田中泉 (キャスター)

介護保険の大改革 住民力で費用を抑制!?

今年(2017年)4月、介護保険の大改革が始まったのをご存じですか?私たちの保険料にも大きく関わる話です。

田中:近い将来、3人に1人が65歳以上という超高齢社会を迎えようとしている日本。介護の人手不足は深刻で財政状況もひっ迫。このままでは支える側が負担の重さに耐えきれず、押し潰されるかも。現役世代もひと事ではなく、不安ですよね。
そこで始まった今回の改革。対象となるのは、利用者のおよそ3割を占める要支援1・2。日常生活の一部に支援が必要な人たちです。こうした人たちの生活支援などを行ってきたのは、これまで介護士やヘルパーなどの専門職でしたが、今後は住民たちの力も積極的に活用していくことになりました。
では、どのようなサービスを提供するのか。これまでは国が一律に決めていましたが、今後は各市区町村が判断します。現場の実情に合わせたサービスを提供することで、高齢者ができるだけ介護保険に頼らず自立した生活を送れるよう促すねらいです。そうすることで全体の負担を軽くし、保険料の伸びを抑えられる可能性があるんです。高齢者の自立を促し、住民力を結集して支える。この2つを総合的に進めていく改革は「総合事業」と名付けられています。

全国一斉に始まった大改革。その最前線をお伝えします。

大阪のベッドタウン、大東市です。住民たちの力で高齢者の介護予防に取り組み、驚きの成果を上げているといいます。ん?ラジオ体操?いいえ違います。この町オリジナルの体操、その名も「元気でまっせ体操」です。

つまずいてけがをするなど、高齢者の日常生活に潜むリスクを避けられるよう考えられています。足腰が弱った人にとってはリハビリ効果が高いんですって!
「元気でまっせ体操」は、大東市の高齢者の間で大ブーム。市内各地に100以上の体操グループが生まれ、1,900人が参加しています。運営はすべて住民自身の手で行われ、通常、介護の専門職は参加しません。それでも効果はてきめん。こうした取り組みで、去年(2016年)は要支援1や2だった高齢者135人の体調が改善し、認定から外れました。

元『要支援1』の女性
「介護認定はもうゼロです。認定はもう無しに。」

元『要支援1』の女性
「やっぱりここに来ると体を動かすでしょ。そういうのがいいと思いますよ。」

この体操を考案した市職員の逢坂伸子さんです。住民たちに体操に取り組んでもらうため、この土地ならではの誘い文句で参加を呼びかけました。

大東市 高齢介護室 逢坂伸子さん
「大阪は商人の町なので、お金にすごく価値観を、重きを置いている方が多い。介護保険のサービスを使う人が増えれば増えるほど、使ってない人も払わないといけない、介護保険料が高くなっていく仕組みですと。逆にみんなが元気で介護保険を使う人が減れば、介護保険料は減らすこともできますよと。」

体操を始めた住民だけが受けられる、お得なサービスも次々と打ち出しました。プロの運動指導員を無料で3回派遣。1回3,000円の体力測定が、体操を続ける限り半年に1回タダ、などなど。大阪の人でなくても心をくすぐられそうですね。

体操に参加している住民
「こういうところへ来てね、体力維持できたらタダでいいんじゃないかなと思います。」

体操に参加している住民
「90歳と2か月です。笑うてな、長生きせないかんなぁと思って。」

住民たちの取り組みで、大東市は去年、要支援向けサービス費用を1億2,000万円削減。更に今年は、その倍の2億4,000万円削減できる見込みです。その結果、住民1人が支払う介護保険料を月300円以上抑制できると市は試算しています。

大改革のもう1つの柱が、住民自身による高齢者の生活支援。「生活サポーター」という制度を導入し、介護のプロに頼らず、住民同士で支え合う取り組みを始めています。
生活サポーターの田中吉明さん、74歳。30分250円の料金を利用者から受け取り、掃除や買い物を行います。更にこれまで介護保険ではカバーできなかった庭の手入れや、ペットの散歩などの困りごとにもきめ細かく対応します。

生活サポーター 田中吉明さん
「家ではめったにせぇへんけどな。」

田中さんは去年、経営していた会社を息子に任せて引退。地域の役に立ちたいと、週に2日、30分から1時間程度、生活サポーターを務めています。

生活サポーター 田中吉明さん
「自分で時間設定して、束縛されんとやっていけるいうのがある。喜んでくれる顔見るのも、やっぱりうれしいもんですからね。」

こうした生活サポーターを増やすために、「時間貯金」というユニークな制度も設けられています。高齢者の生活支援を行った時間がカウントされ将来自分に支援が必要となった時にはその分だけ優先的に生活サポーターに来てもらえるのです。

時間貯金している生活サポーター
「一種の保険です、私自身の。今は元気ですけどね、そのうちに自分がサポートしてもらうようになるでしょ。その時のために。」

生活サポーターは現在447人。人手不足に悩む介護の現場に住民という担い手が加わり、高齢者を支え始めています。

生活サポートセンター代表 吉村悦子さん
「このまま介護保険ばかりに頼っても、実際問題ヘルパーさん少ないっていうのも現実出てくるでしょうし、『住んでて安心やなあ』っていう町づくりの一環にこの制度がなれば。」

介護保険の大改革 住民力で費用を抑制!?

ゲスト岩名礼介さん(三菱UFJリサーチ&コンサルティング 上席主任研究員)

お年寄りがサークルを作って体操をやったり、近所どうし助け合う。これは昔からある風景のようにも見えるが、これが介護保険の大改革の最前線?

岩名さん:そうですね。大東市はとてもうまくいっている自治体のうちの1つだとは思いますけれども。過去にもこういう取り組みはあったんですが、どうしても長く続かないとか、途中でなくなっちゃったとか、そういうことも結構あったんですね。大東で住民の方が皆さん参加されているのは、やはり自発性を大事にしているということですね。自治体の方から「これをやってください」というのではなくて、「こういうものがありますけど、どうですか」という提案ですね。それに対してやりたいと思う方が自主的に参加されてる、ここが大きいと思います。

これまでのホームヘルプやデイサービスはどうなる?

岩名さん:この総合事業が始まってから従来のサービスが使えなくなるんじゃないかという不安の声もあるんですが、厚生労働省もはっきり言っているんですが、今お使いの方はそのまま。ただ、これからの生活の中でいろんな選択肢があった方がいいんじゃないかということはいわれているんですね。人の生活というのは本当に多様ですから、介護保険だけで全部やれるかというと…例えばペットの世話とか先ほど映像にも出てましたが、それはやっぱりカバーできないんですね。ですからそういったところは、実は住民同士の助け合いであったり、民間のサービスも含めて多様なものを組み合わせるというのが、目指している方向ということです。

この総合事業は2年間の移行期間を経て今年の4月から始まったが、ほかの地域の取り組みは進んでいる?

岩名さん:なかなか戸惑いも若干あるというのは事実でありまして、少し立ち上がりが遅い所もあるのも事実です。ただ、実は地域の中の活動というのはどこの地域にもあるわけで、全くない、今からゼロから始めるという所はむしろ少数というか、ほとんどないだろうというふうに思っています。

田中:4月から全国の自治体で始まった総合事業。岩名さんもおっしゃっていたように、まだまだ地域によって取り組み方に温度差があるようです。番組に寄せられた声です。
まず、長崎県で訪問介護事業所に勤める方。“市が住民への研修を予定しているが、参加希望者が1人もいない。こんなことで本当にやっていけるか不安”。
東京の介護事業所の方は、“資格のない人が訪問介護をしたときに、お年寄りを説教したことが問題になった。間に立つ私たちとしてもつらい”。
住民の理解が進まず、介護の担い手不足に悩む地域も多いようなんです。

総合事業のモデル自治体ともいわれる大東市も、全く問題がないというわけではないんです。

「自立」のはずが孤立? 介護保険改革の陰で

高齢者の自立を推進している大東市。しかし、その取り組みについていけない人たちも現れています。
公営住宅で独り暮らしをする83歳の男性です。

男性
「両方(手を離して)長いこと立たれへんから、こうしてなんとか持っとかな。」

妻に先立たれ、20年独り暮らし。トラックの運転手をしていた時の事故の影響で足腰に痛みがあり、要支援2と認定されています。

去年まで週2回、送迎付きでデイサービスに通っていました。スタッフや利用者どうしの交流が、孤独を癒やす支えになっていました。ところが総合事業が始まると、施設に頼っている限り自立が進まないと判断され、利用できなくなったといいます。しかし男性は、痛みで遠くに出歩くことができません。外出し、人と触れ合う機会がほとんどなくなってしまいました。

男性
「自分で動けるし風呂も家で入れるから(デイサービスの利用は)あかんっちゅうことで。毎日ゴロゴロ横になってるだけです。」

「自立」のはずが症状悪化 介護保険改革の陰で

自立への取り組みがうまくいかず、かえって要介護度が重くなってしまった人もいます。運送会社に勤めていた70代の男性。両足にしびれや痛みがあり、病院でほぼ寝たきりの生活を送っています。

男性
「足の裏からつま先にかけて、こう動かすと、もうガクガク。こうやって動かすとあかんねん。そりゃもう家は恋しい。帰りたい。」

実はこの男性、1年前までは、支えがあれば自分の足で歩ける要支援1の状態でした。ただし医師による診断書には「男性は糖尿病を抱えており、症状が進行するリスクがある」と書かれていました。そのため、専門スタッフがいる施設に通い、病気の経過を見守りながらリハビリや入浴を行うことが提案されていたのです。

ところが市は男性の自立を進めるため、施設ではなく自宅で体操や入浴を行うリハビリ計画を立てました。その後、男性は無理がたたって体調が悪化し、リハビリへの意欲を失ってしまったといいます。やがて足の血管が詰まり、両足の指先は壊(え)死してしまいました。要支援1から、僅か半年で最も重い要介護5となったのです。

男性
「パーになんのも一瞬や。良いほうに進むんやったらええけど、悪いほうに進んだんやな。」

男性を診察した医師は、一人一人の症状をより慎重に見極めていく必要があると指摘します。

男性を診断した医師 橘田亜由美さん
「今現在、要支援1・2であっても、その方の背景にある疾患はもっと重篤であるという場合がある。要支援1の人はみんな元気になるんだというふうに思いきってしまうと、思った目標を達成できないということが起きるのではないか。」

急速な改革が生み出した問題。市はどう受け止めているのか改めて聞きました。

大東市 高齢介護室 逢坂伸子さん
「事実を受けとめて、今から包括支援センターと一緒にその方々を再度元気になっていただくような関わり方をしたい。私たちがもっといろんな工夫をしていかないといけないんだと思います。」

介護保険改革の陰で 浮かび上がる課題

ゲスト佐々木淳さん(医療法人悠翔会 理事長・医師)

一律にどんな人にも自立を促すというわけにはいかない?

佐々木さん:そうですね。一般に要支援の人といってもいろんな方がいらっしゃいます。運動によって元気になれる方もいらっしゃれば、やはり病気などがあって非常に繊細なケアを必要としてる方もいらっしゃいます。実際このお2人の方は自立支援のために生活の質が下がってしまったということで、やはり個別にアセスメントをしていくということがとても大切だと思います。やはりその人ごとにお体の状態や病気、それぞれの方が生きてきた人生、あるいは人生観といったもの、みんな違いますので、それに基づいて本当にその人にとって必要な支援は何かというのを考えていくことが大事だと思います。

「自立支援」とひと言で言うが、そもそも本来どうあるべき?

佐々木さん:実は自立支援には2つの意味があります。日本では体に残っている「残存機能」といいますが、それを強化するということが自立支援と一般的には思われていますけれども、実は国際的には生活を継続できること。あるいは自己決定権が尊重されることが実は自立支援としてとても重要で、残存機能の強化というのはそのための手段にしかすぎないと考えられているんですね。なので、最後までその人らしい生活が送れること、最後まで自分自身の人生の主人公として生きられること。これこそがまさに自立支援なんだと思います。
(生活が継続できること、自己決定が尊重されるということ。それがセットでないと本当の意味での自立にはならない?)
おっしゃるとおりです。

田中:今回の改革の背景には、介護保険の財政がひっ迫しているという事情もあります。介護保険が始まった2000年に3兆円だった介護給付費は、現在10兆円を超えています。

40歳以上の国民が毎月支払う介護保険料の全国平均は当初の2,900円から現在5,500円にまで増え、あと8年で毎月8,000円以上になると予測されています。介護保険料の支払い年齢も現在の40歳から引き下げることが検討されているんです。

また、介護サービスを利用する際の自己負担も2年前、一定の所得がある人の負担が1割から2割に引き上げられました。さらに来年(2018年)8月から、単身で年収340万円以上の人は負担が3割になることが決まりました。

改革の陰で 介護事業所が苦境に

田中:こうした状況を背景に始まった今回の改革。実は介護を担う事業者を追い詰める事態も一部で起きているんです。
住民が参加することによって、介護の専門職は要介護度の重い人向けのサービスに比重を移す事ができるはずでした。しかし、九州のこの自治体では住民参加が進んでおらず、専門職が要支援1・2向けのサービスを続けざるをえない状況なんです。しかも、要支援1・2向けのサービスの報酬が下げられているんです。この女性が働く訪問介護事業所も、自治体から受け取る報酬が25%ダウンしたといいます。

この事業所は、要支援1・2向けについては利用時間を短縮したり、早朝・夜間のサービスを休止したりするなどして対応しているものの、経営は苦しいといいます。

訪問介護事業所 責任者
「これから要支援の方の支援がこれまで通り続けられるのかというところに不安は感じています。」

田中:要支援1・2向けのサービスの報酬引き下げは、全国的に多くの地域で広がっています。この訪問介護事業所ではサービスを続けていますが、ある大手介護事業所は報酬の下げ幅が大きい地域では要支援1・2向けサービスを続けるのは難しいと述べているんです。

介護保険の大改革 住民力で費用を抑制!?

なぜ要支援1・2の方向けのサービスに対して事業所に支払われる報酬が引き下げられている?

岩名さん:
今回は生活支援、要支援の方に対する生活支援については若干規制が緩和されて、介護の特別な資格がなくても従事していただくことができるようになっているんですね。資格がない方とある方、ちょっとやっぱり報酬は差をつけるというのが出てくる。これは自治体で決めることができるんですけれども、少し安く設定されること自体が問題ではなくて、実はそういう資格のない方がなかなか参加していただくまで少し時間がかかります。そういう方が参入される前に単価だけが設定され、そうすると、お客様は目の前にいらっしゃるわけですから、どうしても専門職の方がその安い単価で従事すると。こういうことが起こってしまっているんですね。
(事業所が耐えかねて手を引くということにもなりかねず、住民の参加も進まないということになってくると、支援の担い手そのものがいなくなってしまうのでは?)
今回もともと人口が減ってきている、担い手がちょっと足りないという中で、より多くの方に地域を支える力になっていただくということが主たる目的で始まった事業なんですね。ですから今みたいな話になって処遇が悪化する、入ってくる報酬が下がってしまうということでは本末転倒になってしまうと思うんですね。実は厚生労働省もこの点についてはやはり地域の事業者さんとよく話し合って決めるようにと、自治体だけの都合で決めてはいけませんよということは制度が始まった時からずっと言っているんですが、安く設定してしまうところが出ているということなんですね。

要支援の方々が自立できるように住民の力も加えて支えようというこの理念をうまく実現するためには、どんな仕組みが求められる?

岩名さん:全国統一の介護保険というのが17年ずっと続いてきたわけですが、ここに来て自治体単位で地域ごとに実情に合ったものを作ろうということになってきた。これは実は自治体の職員の方には結構大きなチャレンジになってるというか、新しいチャレンジになっているんですね。当然、自治体だけで考えていても駄目で、住民や事業所の皆さんと一緒に話し合いながら決めていくということが本当に重要になってきていると思います。これは逆に言うと、住民の皆様方から見れば自分の町に合ったものを自分たちで考えていける絶好のチャンスだというふうに前向きに捉えることも大変重要だと思っています。

佐々木さん:やはり忘れてはいけないのは、私たち人間は必ずいつか例外なく衰弱して、そして例外なく死んでいくということだと思います。自立支援をどんなに頑張っても必ずいつかはやっぱり弱っていくと。だから自立支援できないことが自己責任だと言ってしまうと、私たち全員必ず不幸になっていくと思うんですね。元気でいることはとても大事なことだと思いますけれども、やはり元気でなくても幸せに暮らせる、そういう社会を作っていかなければいけないと思います。弱って死んでいくということが私たち自身にとって例外なく私たち全員の未来ですから、一人一人が当事者意識を持って地域作りに取り組んでいくことが大事だと思います。
(私たちが考えていくことによって私たちが幸せに生きていく社会を作る、ひいては自分たち自身の老後を守ることにもつながるということ?)
そうですね。

安心して老いを迎えられる、そんな社会を作るために住民どうしが支え合い、そして自立を促すという仕組み作りが、もはや待ったなしの状況だということが今日はよく分かりました。地域の絆が弱まっている今、私たち一人一人も当事者としてこの支え合いに参加していくことが鍵になると思います。