クローズアップ現代

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2017年6月7日(水)
2兆円↑アニメ産業 加速する“ブラック労働”

2兆円↑アニメ産業 加速する“ブラック労働”

映画などの相次ぐヒットで活況を呈するアニメ業界。史上初めて2兆円市場に達したとみられている。しかし、「夢の仕事」だとして業界の成長を支えてきたアニメーターや、制作会社には、十分な対価は還元されず、低賃金や長時間労働が常態化。働き方改革が進む社会の中で、業界のリーダーたちからも「このままでは日本アニメの未来はない」という危惧の声が上がり始めている。岐路に立つ日本のアニメ業界、その未来を展望する。

出演者

  • 入江泰浩さん (アニメーション監督)
  • 渥美由喜さん (東レ経営研究所)
  • 武田真一・田中泉 (キャスター)

2兆円↑アニメ産業 その陰で…

市場規模が過去最大を記録した日本のアニメ業界。しかし、その陰で深刻な事態が広がっています。

大ヒットが相次ぎ、ブームを巻き起こしている日本のアニメ。市場規模は過去最高のおよそ2兆円に。制作本数は増え続け、年間300本以上に上っています。一枚一枚丁寧に描かれた質の高い作品が、世界から高い評価を受けてきました。国も今、クールジャパンの柱として海外展開を後押ししています。ばら色にも見える業界の未来。しかし、制作現場への調査からは、かけ離れた実態が見えてきました。利益が現場に届かず、低賃金が常態化。駆け出しのアニメーターの平均年収は、110万円にとどまっています。

若手アニメーター
「かなり限界ギリギリまで働いて、ようやくいまのギャラなので、やはり大変ですね。」

業界の中からも、人材の確保が難しくなると危機を訴える声が出始めています。

大手アニメ制作会社役員
「夢持ってアニメ界にきたら、金は安いし、入って半年くらいで辞めちゃう。アニメの現場はもう崩壊している。」

こうしたアニメ業界の実態を正そうと、労働基準監督署も動き始めました。

労働基準監督官
「労働基準法の基本的な労働条件が確保されていない。」

世界に誇る日本のアニメ。未来につなぐことはできるのか。徹底検証します。

2兆円↑アニメ産業 加速する“ブラック労働”

田中:活況の陰で、なぜこんなことになっているのか、こちらをご覧ください。アニメ産業の市場規模は拡大し、一昨年(2015年)は1兆8,000億円を超え、「君の名は。」など、大ヒット作があった去年(2016年)は、およそ2兆円に達すると見られています。その一方で、制作会社の売り上げは、黄色の部分ですが、2,000億円前後と、ほぼ横ばいです。

なぜ市場規模は拡大しているのに、制作現場の売り上げは伸びないのか。背景には、アニメ業界の構造があります。制作に多額の費用が必要なアニメでは、多くの作品で、テレビ局や出版社など複数の企業が出資をし合って、製作委員会というものを作っています。この製作委員会は、制作会社に委託し、さらに下請けの会社や、フリーのアニメーターが関わっています。作品の権利、版権は製作委員会が持っています。アニメの売り上げの大半は、関連商品の販売や、海外のテレビ局などへの販売といった二次利用によるもので、その利益は、先ほどの製作委員会に出資した企業のものになるんです。つまり、制作の現場には、ここに出資しないかぎり、どれだけ作品がヒットしても、利益がほとんど還元されないという構造になっています。調査会社によりますと、制作会社や下請けの4社に1社が、赤字になっているということなんですね。

こうした構造のもと、厳しい状況に置かれている制作現場の実態を取材しました。

設立されて10年になるアニメ制作スタジオです。下請けとして、数々のヒット作に関わってきました。経営する吉本拓二さん。業界の実情を知ってほしいと取材に応じました。少しずつ違う絵を重ねることでキャラクターを動かすアニメ。30分の作品には3,000枚以上の絵が必要だといいます。このスタジオではこうしたアニメのもととなる絵の制作を請け負っています。アニメーターに支払われるのは1枚当たりおよそ200円。一方で、年々、作品には繊細さが要求されるようになり、1枚にかかる作業時間は増えています。

イングレッサ代表 吉本拓二さん
「全身が入ってくるような絵だと、そこをまた細かく描いていかないといけない。」

作業の早いアニメーターでも1日20枚ほどが限界です。月収は10万円前後にとどまっています。

イングレッサ代表 吉本拓二さん
「求められるクオリティー。それに見合った予算、単価づけをしてもらえれば、全然普通に食べていけるので問題ないが、そこが追いついてきてない。正直、単価以上の仕事をやっていることが多い。」

アニメの業界団体が行ったアンケート調査です。現場の過酷な実態が浮かび上がってきました。業界で働いている人の4割近くが最低賃金の保障もないフリーランス。正社員は僅か15%でした。

フリーのアニメーターの1人、阿久津徹也さん。小学生のとき「デジモンアドベンチャー」という作品のアクションシーンに衝撃を受け、アニメーターを志しました。

阿久津徹也さん
「アニメーションの気持ちよさの原点が、僕のなかではここ(デジモンアドベンチャー)にある感じですかね。」

しかし今、憧れの仕事を続ける厳しさに直面しています。年収はアルバイトを含めて、およそ100万円。NPOが運営する月2万5,000円の寮で、ぎりぎりの生活を続けています。阿久津さんのようなアニメーターの平均年収は、111万円(動画担当)。業界全体でも333万円と全産業の平均を大きく下回っています。

阿久津徹也さん
「好きでこの業界にいるのは間違いない。僕は選んでこの業界にいます。ここで頑張っていこうと思っているんですけど、アニメーターの中で結婚できてる人って上位2割なんですよね。何かを諦めなければ、何かをささげなければ。」

調査からは、さらに長時間労働の問題も明らかになりました。労働時間は1日平均11時間。休日も月4日余りにとどまっています。アニメーターのスケジュールを調整する、制作進行の仕事をしていた男性。男性の勤務記録です。午前11時から深夜に及ぶ勤務が週に6日のペース。残業は月100時間を超えていました。

仕事を始めて半年で、医師からうつ病と診断されました。長時間労働が原因と見られ、仕事を辞めざるをえませんでした。

制作進行の仕事をしていた男性
「やっぱりどんどん辞めていく。緩やかな破滅を待つだけなんじゃないかな。」

全国で最も多くのアニメ制作会社を担当している新宿労働基準監督署。憧れの仕事として働く人が多いアニメ業界。低賃金や長時間労働の問題が表面化することは多くありませんでした。しかし、働き方改革を進める中で、そうした実態を見過ごせないと対策に乗り出しました。今月(6月)、過去最多となる250社を集めて、職場環境の改善を求めることにしています。

新宿労働基準監督署 主任監督官 森健一郎さん
「アニメ業界がクールジャパンとして注目されている一方で、若者を中心に低い労働条件で就労されている方がいる。違法な低い労働条件で就労している実態を改善する必要がある。」


ゲスト 入江泰浩さん(アニメーション監督)
ゲスト 渥美由喜さん(東レ経営研究所)

これだけ市場が拡大しているのに、なぜ下請けやフリーの人たちにお金が下りてこないのか?

入江さん:まず現在のクオリティーを維持するための総予算というのが圧倒的に足りないというのが、1点あります。もう1点は、いろんな作品がヒットしたあとの二次使用料であるとか、いろいろな印税というものが、アニメーターには支払われるシステムに今、なっていないというのが挙げられます。
(印税とは、収益に応じてあとから入ってくるお金のことですが、それが、その絵を描いているアニメーターに入ってこない?)
そうですね、監督であるとか、シナリオライターには分配されます。ですが、アニメーターに支払っているという事例はないと思います。
(1枚いくらで、その絵を買い上げられたあとは、もう何もないということになっているわけですね。)

労働基準監督署も動き出しているということだが、アニメ業界の労働環境がここまで問題になっている現状を、どう見る?

渥美さん:人気のある業界ほど、若く、やる気のある人たちが多く集まってくるがゆえに、やる気を逆手に取って、なかなか働き方改革が進まない。私はそれを“やる気の搾取”と言っているんです。どうしても歯車として、酷使されやすい。そうした職場を改善するためには、私は頭文字を取って、「でじかあこ」と言っているんです。まず、手を動かすアニメーター、時間を使うアニメーター、お金を出す製作委員会、頭を使う制作会社、心を動かすアニメファンと、こうやって関わっている人たちがいますけれども、手を動かす人たちが一番、尊重される、そういう人たちに正当な対価が支払われる、そういう職場を作っていかないと、人口減社会では、なかなか人が集まらなくて、業界全体の存続に関わる。今がちょうど分岐点になっていると思います。

現場から、制作費や賃金を上げてもらう交渉を上にすることはできないのか?

入江さん:交渉というようなことは、アニメーターは実は苦手です。それは絵を描くこと、アニメーションを作ることに、長年、まい進して、すごくそれに専念してきたというのがありますので、制作会社も、アニメーターも交渉するということを今まで、あまり経験していないということがあると思います。

予算を増やすのも難しい?

入江さん:製作委員会のシステム上、やはり予算を一気に増やす、1社の要望だけで増やすっていうのは難しいのが現状だと思います。増やしたいと言っても、ほかの会社がそれに納得できないと、すぐには上げられないというのがあると思います。
(従来どおりの水準でっていうことに?)
やはり前例を踏襲するのが、多いのではないかと思います。

加速する“ブラック労働” アニメ制作会社は

田中:こうした状況に制作会社も問題意識を強めています。攻殻機動隊などで知られる業界を代表する大手制作会社「プロダクション・アイジー」の石川社長は、今、たくさんのアニメが作られ、採算がとれないような仕事でも受けている制作会社もある現状を変えるべきだと指摘しています。

プロダクション・アイジー 社長 石川光久さん
「作品を絞ることで(ヒットする)確率を上げて、物をつくらないといけない。利益の構造を作る、継続的に利益を生み出すシステムをつくる人間がいないと、ビジネスとしてはものすごく厳しい。」

田中:石川さんは、制作会社みずからがリスクを取って二次利用の権利を確保するなど、ビジネスの感覚を持つことが必要だと提言しています。

2兆円↑アニメ産業 加速する“ブラック労働”

こうした厳しい状況を変えるためには、制作会社の努力も必要だということだが?

入江さん:そのとおりだと思います。いくつかの制作会社において、カフェを行ったり、物販、グッズを作ったりというので、冒頭にありました2兆円、そこに手が届くようなそういう取り組みをしている会社が出始めていると思います。
(小さい会社であっても、そういった二次利用に乗り出すことは可能?)
可能だと思います。そして、実現している会社からいろんなことが学べるんじゃないかと思います。

まさに下請け構造の問題だと思うが?

渥美さん:利益を制作会社とアニメーターに配分する仕組みが、大切になってくると思います。日本の下請け構造は、垂直関係が特徴だと。つまり、発注先が言われるがままに下請けは動かざるをえない。そうすると時間もコストもかさむ。ただ、最近ですと、例えば宅配便の業界で、そこをできるだけ対等な関係に持っていこう。例えば、再配達、コストがかさむ。それを発注先にノーと言う、あるいは受付時間を短くしよう。日本の業界は、なかなか自分たちのサービスの質を高いものを提供するために、自分たちを犠牲にするという、それが美徳だと思いやすかったですけど、正当なコストに見合った正当な対価を求めて、これからのアニメ界にも必要になってくると思います。

こうした中、従来の制作手法を大胆に変革して、労働環境を改善しようという企業も現れています。

脱“ブラック労働” アニメ制作会社の挑戦

徹底した業務管理で業界の常識を覆そうとしている会社があります。先月、公開されたこの会社の劇場アニメ。ほぼすべてを手書きではなくCGで制作しています。社長の塩田周三さん。かつて大手製鉄会社に勤務していた異色の経歴を持っています。最大の特徴は、各社員の仕事量やプロジェクト全体の進捗状況をコンピューターで把握できるようにしたことです。

社員
「全部で44カットあるうちの、OKのカットが14カットあって、チェック中のカットが26カット。」

最適な作業効率になるよう仕事の進み具合に応じて、人の配置を毎日見直しています。そうした結果、コストは最大で30%近く削減できました。

社員
「そんな工場みたいなこと、やりたくないという方も結構いた。」

社員
「ちょっとでも遅れると、すぐ突っ込まれるというか。そういう意味ではプレッシャーを常に感じながら作業しています。」

浮いたコストは最新の技術に投資。生産性と作品の質を両立させています。

ポリゴン・ピクチュアズ CEO 塩田周三さん
「生産性とクリエーティビティー(創造性)が不可分になると思う。時間には対価が発生することに対して、どうしても向き合わない土壌が(アニメ業界には)根強くあるんじゃないか。」

日本のアニメのよさを失わずに仕事を効率化しようと、新たな制作手法を取り入れた会社もあります。全員が朝9時に出勤し、夕方6時半に退社。土日は完全休業です。会社を設立した1人、元アニメーターのチェ・ウニョンさん。20代のとき、無理をして体調を崩した経験から、健康的な生活がよい作品を作るうえで欠かせないと考えるようになりました。

サイエンスSARU 取締役 チェ・ウニョンさん
「アニメーションというのは世界を創る、そういう仕事。6時半に帰ると映画を観に行けるとか、本を読めるとか、人に会えるとか、そういう仕事以外のこともできるので、それが作品に絶対に役に立つ。」

この考えを実現するために、あるコンピューターソフトを制作に取り入れました。これまで一枚一枚描くことで動かしていたキャラクターをデジタルの技術で動かしています。先月、公開された作品のワンシーン。動きの要所となる部分は手描き。キャラクターを動かすために必要な絵は描かずに済み、80枚以上を省略しました。さらにキャラクターの動きまでコピーが可能。従来なら多くの人手が必要だったこの映画。3分の1の人数で作ることができました。

観客
「やわらかく動いている感じがした。」

観客
「臨場感があるので、海の動きとか観ていて飽きない。すごく楽しかった。」

サイエンスSARU 取締役 チェ・ウニョンさん
「良いものをつくり続けるためには、どうすればいいかということで、同じことをやるんじゃなくて、もうちょっと前に進みたいわけじゃないですか。そのためにはどうすればいいかというと、やっぱり現場の効率を上げることだと思う。」

日本のアニメ産業 未来につなぐために

デジタル技術を導入して制作の効率化を図ったり、作業進行を管理する。なかなか有効なように見えたが?

入江さん:手描きだけではなく、そういうデジタル上のノウハウを使って効率化をする、それはとても有効です。実際、自分の現場においても、いろいろ役に立っている部分ですから、取り入れるべきだと思います。
(ただ、コストもかかりますよね?)
その部分は、制作費で賄っていかないといけないので、それは改善して取り組んでいかないといけない部分です。
(利益が上がれば、そういう設備投資もできるようになる。どっちが先かという問題ですが、積極的に取り入れていったほうがいい?)
いいと思います。

日本のアニメの魅力として、一枚一枚丁寧に手で描いてきた部分もあるが、CGなどを導入することで、これからも強みとして持ち続けることはできるのか?

入江さん:3Dであれ、フラッシュであれ、やはり作っている、その画面を見て、良いと判断するのは人間の目です。それは鉛筆でもそうなんですけれども、そういったところで人間の目が判断していく部分が残っているかぎり、人の手の作り出したアニメーションというふうなのが、魅力的なものを、力を失うことはないと思います。
(CGを導入しても、両立していける?)
両立していけると思います。同時に、3Dというのは、手描きにできない部分もありますから、そのいい点を積極的に取り入れて、ハイブリッドで作っていくというのもいいと思います。

日本のアニメが、これからも世界に誇れるものとして続いていくためには、働き方やコストと、どういうふうに折り合いをつけていけばいいのか?

渥美さん:これまで日本のアニメ業界は、アニメーターの皆さんのアニメ愛に依存して、なかなか就労環境の改善が進まなかった。一方で、かなりデジタル技術の運用が進んでいる業界でもありますので、AI・人工知能を活用することで、コスト、手間を省ける余地は大きいと思います。これは、一制作会社ができることではなかなかないので、国際的に見て、非常に競争力の高い、有望な分野ですから、ここは国が後押しする。そこでコストを浮いたものを、アニメーターに投資するという、国の姿勢がこれから大切になってくると思います。

(アニメ愛に依存するだけでは、だめだということですね。入江さんは?)

入江さん:これから、アニメーションを作り続けていくためにやるべきことというのは、まず国にお願いしたいことがあります。やはり、クールジャパンというものを推し進めている国ができること、自分が思うのは、健全な制作会社に対する税制の優遇措置。これはカナダやイギリスでも行われていることなんですけれども、ちゃんとした労働時間や賃金、そういった、さまざまなちゃんとした作り方をしているところに、税制面での優遇を行う。やはりアニメが2兆円規模になっているのであれば、そこからの税収というものも多くあると思いますから、そういうところで活用していただければと思います。もう1点、これはNHKを含め、いろいろなテレビ局にお願いしたいところなんですけれども、コンテンツとして、アニメーションをこれからも作り続けていくことが決まっているのであれば、制作費を倍にして、さらに安心してアニメーターが作ることができる、そういう環境を作っていただきたいと強く思います。

名作を作りたい、その一心で、今、この時間もペンを握っているアニメーターがいると思います。そして、多くの名作を見たい、私もファンの1人として、そう思っています。そのためにも、ブラック労働と言われることのない、新しい業界の仕組みを創造するときに今まさに来ていると思いました。