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2017年6月6日(火)
原発事故から6年 未知の放射性粒子に迫る

原発事故から6年 未知の放射性粒子に迫る

福島第一原発事故の際、過去の事故では見つかっていないタイプの放射性粒子が放出されていたことが明らかになった。大きさは1/1000ミリ以下から0.5ミリほど。微細なガラス玉に放射性セシウムが閉じ込められている。水に溶けないため、体内や環境中に長期間、残留する懸念がある。従来、考えられてきた放射性セシウムとは影響が異なる可能性があるという。「さらなる研究が必要」としつつ、研究者たちは、今、分かっていることを伝えようしている。未知の放射性粒子とは、どのようなものなのか?影響と対策は?探っていく。

出演者

  • 甲斐倫明さん (保健物理学会・会長/大分県立看護科学大学・教授)
  • 森口祐一さん (東京大学工学系研究科・教授)
  • 武田真一・鎌倉千秋 (キャスター)

原発事故から6年 未知の放射性粒子に迫る

ゲスト 甲斐倫明さん(保健物理学会・会長/大分県立看護科学大学・教授)
ゲスト 森口祐一さん(東京大学工学系研究科・教授)

ビー玉のように丸い粒子、小惑星のようなゴツゴツとした粒子。今、研究者たちが注目しています。

ごく小さな粒の中には放射性セシウムが含まれています。そのため、「セシウムボール」と呼ばれるものもあります。東京電力福島第一原発事故の際に放出された放射性粒子です。最近になって存在が明らかになり、調査が続けられています。研究者が注目する理由は、水に溶けない性質にあります。「不溶性放射性粒子」と呼ばれています。そのため、環境中に長い間、留まると考えられています。吸い込んだ場合、体内に長期間、残留する可能性がありますが、影響はまだ完全には分かっていません。避難指示が解除されていく中、研究者たちは今、分かっている情報をしっかり伝えるべきだと声を上げ始めました。

九州大学 准教授 宇都宮聡さん
「別に健康影響が危ないということではなくて、僕等が出せる情報まで出す、最大限まで出す。」

事故から6年、徐々に明らかになってきた不溶性放射性粒子の実態。最新の調査報告です。

福島第一原発の事故で避難指示が出されていた地域で、除染が完了した地域では3月末から避難指示が解除され、帰還の動きが始まっています。そうした中、今年(2017年)に入って、不溶性放射性粒子についての研究発表が相次いで行われました。

鎌倉:事故の際に放出された放射性物質の中で、今も問題とされているのは、放射性セシウム。中でも、このセシウム137です。大量に放出された上に、半減期が30年と長いため、現在、環境中に残留している放射性物質の多くが、このセシウム137なんです。これまで、セシウムは水に溶けて環境の中で次第に薄まっていくと考えられてきました。しかし、水に溶けない不溶性の状態でセシウムが見つかっているんです。

この不溶性放射性粒子については、どこにどれくらい存在するかや、健康にどの程度影響があるのかなど、まだ、わからないことがあります。今回、私たちは、わかっていないことも含め、現時点での情報を伝えることによって、これから、この問題を判断する上で拠り所にしてもらいたいと考えました。まずは、「不溶性放射性粒子」とは一体どのようなものなのか、そして、健康への影響は どこまでわかっているのか、見ていきます。

今年3月、原発事故による被ばくについてシンポジウムが開かれました。日本原子力研究開発機構の佐藤達彦さんが発表したのは、これまでほとんど知られていなかった不溶性放射性粒子による、健康影響についてでした。

日本原子力研究開発機構 佐藤達彦さん
「セシウムボール(不溶性放射性粒子)が特定の場所に長期滞在した場合は、通常の内部被曝よりも局所性は当然高くなると思われます。従来の被ばくと応答(影響)は異なる可能性っていうのは否定できないと思います。」

不溶性放射性粒子は、どんな場所にあるのか。帰還困難区域での調査に同行しました。
事故直後から放置されている建物の内部へ入ります。

日本原子力研究開発機構 吉川英樹さん
「建物の中は雨だとか天候の影響を受けてませんので、入って来た当初のまま、粒子が残っている。」

室内に溜まっていたホコリを採取していきます。
研究室に持ち帰り、分析すると、黒い点がいくつも浮かび上がってきました。放射性物質があることを示しています。黒い点があった部分を、さらに調べていきます。

「当たり。」

小さな1つの粒子にたどりつきました。これが、不溶性放射性粒子です。

計測した結果、200マイクロメートルほどの粒子の中に、放射性セシウムが合わせておよそ60ベクレル含まれていることがわかりました。
調査を行った建物は27箇所。全てで同様の放射性粒子が見つかりました。

東京慈恵会医科大学 アイソトープ実験研究施設 講師 箕輪はるかさん
「震災後窓が開きっぱなしだったとか、隙間風の入るような所だと(粒子が)中にまで入ってきています。閉め切っていて新しい家で密閉性の高い所だと、わずかしか入ってないですね。」

水に溶けない不溶性放射性粒子。この性質が健康影響を考える際に、大きな違いをもたらすといいます。これまで、原発事故で放出された放射性セシウムは、大気中のエアロゾルと呼ばれる水溶性の粒子に付着し、運ばれていると考えられてきました。水にふれると粒子は溶け、セシウムは拡散、薄くなります。呼吸によって肺に入った場合も同様で、水溶性のセシウムは体液に溶け、全身に薄く広がります。その後、代謝活動によって徐々に排出され、成人の場合、80日から100日ほどで、半分に減ると考えられています。一方、不溶性放射性粒子は体液に溶けません。例えば、肺の一番奥にある肺胞に付着すると、排出されるまでに年単位の時間がかかることがあるというのです。水溶性の場合と比べ、同じ量のセシウムでも、肺の被ばく量は大人でおよそ70倍。影響を受けやすい幼児では、およそ180倍になるとされています。
実はこの不溶性放射性粒子、過去の原発事故ではほとんど確認されていません。なぜ、福島原発の事故で放出されたのか。

日本原子力研究開発機構 佐藤志彦さん
「これですね。」

この粒子の研究を行っている日本原子力研究開発機構の佐藤志彦さんが注目しているのは、ガラスの成分を含む断熱材。原発内の配管などに使われています。特殊な電子顕微鏡で、放射性粒子と断熱材に含まれる元素の傾向を分析、比べます。上が放射性粒子(Bタイプ)、下が断熱材です。ガラスの主成分であるケイ素や酸素など、いくつもの元素の傾向が、よく一致しています。

このことから佐藤さんは、放射性粒子(Bタイプ)が形成されるシナリオをこう考えました。事故の際、溶け出した核燃料から放射性セシウムが放出。原子炉内に充満しました。さらに格納容器、原子炉建屋内に漏れ出します。セシウムは建屋内の断熱材に次々と吸着されました。その後、1号機の原子炉建屋が水素爆発。断熱材が溶けてガラス状になる時、セシウムが取り込まれました。そして、爆風によって飛び散る時、小さな粒子になったというのです。
佐藤さんたちが見つけた放射性粒子は、直径0.5から500マイクロメートル。滑らかな丸いものからゴツゴツとしたものまで、形もさまざまであることがわかってきました。

日本原子力研究開発機構 佐藤志彦さん
「こういったガラス状の粒子が原発事故で放出されるというのは、従来の知見ではありません。福島事故固有の現象なのか、そういったのを、まず明らかにして行きたいと考えています。」

日本原子力研究開発機構の佐藤達彦さん。放射線1本1本の挙動を計算するプログラム、PHITS(フィッツ)を使い、不溶性放射性粒子による健康影響をシミュレーションしました。想定したのは、実際に見つかっている、肺に入る大きさの粒子です。臓器の表面の同じ場所に、不溶性放射性粒子が付着し続けた場合と、同じ量の放射性物質が均一に付着した場合を想定し、比較しました。均一に付着した場合、24時間経っても、被ばく線量が低いことを示す青や水色の部分が広がっています。一方、粒子の場合、近い部分の線量が、局所的に高くなり、オレンジや赤色の領域が広がっています。

放射性物質の量が同じでも、健康影響は変わる可能性があるのです。

日本原子力研究開発機構 佐藤達彦さん
「(粒子が)臓器内でどれくらい同じ場所に留まるかというような研究もやって行く必要があるんじゃないかという風に考えています。」

実際に不溶性放射性粒子を吸い込んだ可能性のある人のデータがあります。原発事故の際に被ばく量が多かった東京電力社員の調査です。体内の放射性物質の量を、定期的に調べたところ、赤で示したグラフ、胸の当たりの値が相対的に高くなっていることがわかりました。

全身に広がっていた放射性セシウムが、時間の経過と共に減っていく中で、胸の辺りだけ減少するスピードが遅かったのです。吸い込まれた不溶性放射性粒子が肺に残留していると疑われています。しかし、調査を行っている放射線医学総合研究所の栗原治さんは、国際放射線防護委員会の考え方に従えば、健康影響を心配するほどの量ではないといいます。

放射線医学総合研究所 栗原治さん
「おそらく、線量としては、健康に影響が出てくるような、そういったレベルにはならないんだと思います。」

放射線による健康への影響と防護がご専門の、甲斐倫明さん。不溶性放射性粒子が体の中に留まりますと、局所的に被ばく線量が高くなる可能性があると、そして、その影響を調査するべきだという専門家の見解がありましたけれども、これ、どう受け止めればいいのでしょうか?

甲斐さん:まず、線量が健康影響への“物差し”であるということは、みなさんご存じのわけですけれども、その線量を比べる時に、線量を受けた被ばくの範囲が小さい場合と大きい場合では比較することができません。一般的に「被ばくする範囲が大きいほど健康影響が大きい」とされています。従いまして、そういう臓器や組織の“全体の平均の線量”というものが大きいほど影響が大きいということですから、そういう意味では、この不溶性の粒子であっても、平均的な臓器、平均的な線量を評価していくことが大切だと考えております。しかし、まあ非常に局所的には線量が高くなる可能性がございますので、そういった心配もされるので、そこも、きちんと評価していくことが大切であろうと考えて、こういう評価を行っていると考えております。
(全体的な被ばくのほうが、局所的な被ばくよりも影響が大きい?)
同じ線量であれば、より広い範囲に放射線を受けた方が、影響が大きいという事が言えます。
(影響が大きいんだけれども、この局所的な被ばくについても調べていく必要はあるということですね?)
きちんと調べて、押さえておく必要があるだろうと思います。

そして、不溶性放射性粒子をはじめとしまして、事故による放射能汚染の調査を行っている森口祐一さんにも伺いますが、こういった放射性不溶性粒子ですね、どのくらいの範囲に存在しているのでしょうか?

森口さん:粒子にはさまざまな大きさのものがありますが、比較的大きな粒子が見つかっているのは、原発の近くに限られています。一方で、小さな粒子は風に乗って遠くまで運ばれて、関東地方にまで到達したという事がわかっています。

鎌倉:では、詳しくは、こちらをご覧いただきましょう。
森口さんたちは不溶性放射性粒子を大きく2つの種類に分けています。それぞれ「Aタイプ」、「Bタイプ」と呼ばれています。Aタイプは、大きさが10マイクロメートル以下と、比較的小さく、球形のものが多く、「セシウムボール」と呼ばれるのは こちらのAタイプです。粒子が小さいため、呼吸によって吸引され、肺に到達する可能性があります。一方、Bタイプは、数十マイクロメートル以上と、比較的大きく、いびつな形のものがほとんどです。こちらは、粒子が大きいため肺には入りませんが、皮膚や粘膜などへ付着する可能性があります。で、このA・Bそれぞれの飛散した地域が少しずつ明らかになっています。比較的大きく重いBタイプは福島第一原発の近く20キロ以内の範囲で見つかっています。一方、小さく軽いAタイプは関東地方でも見つかっています。気象研究所が論文で発表したシミュレーションによりますと、事故直後の3月14日〜15日にかけて、Aタイプの粒子は風に乗って、このように拡散したと考えられています。

「Aタイプ」と呼ばれる、より小さな粒子が事故直後に関東地方まで飛んで来たという事ですけれども、これはどういう事なのでしょうか?

森口さん:まさに我々がいま研究しているところで、先日も学会で発表したのですけれども。3月15日に放射性物質が関東まで飛んで来た、ということは以前から分かっていたのですが、その中に、実際にこの不溶性の放射性粒子があるという事を突き止めたわけですね。それで、いつ、そういったものがそこに届いたのかという事に関して今、解明を進めているわけです。特定の時間帯に放射性物質が放出されたのであろうという事が少しずつ分かってきています。
(確認ですけれども、これは3月14日から15日にかけて飛んで来たもの、という事ですね?)
はい。

どれくらいの量が飛散していると考えられているのでしょうか?

森口さん:「全体として どれだけ飛散したか」っていうのは、なかなか まだ分かっていません。けれども、3月15日に関東地方に飛んで来たものに関しては、これは別の研究グループの研究成果ですが、8割〜9割がこの不溶性の粒子Aタイプのものであろうと言われています。福島県から関東地方にかけて、かなり広い地域にまで飛んで来ているということで、その影響を慎重に評価する必要があるのではないかと思います。

甲斐さん、このAタイプの健康影響については、どうご覧になっているのでしょうか?

甲斐さん:放射線の場合、外部被ばくと内部被ばくがあります。国連科学委員会の報告によりますと、「外部被ばくの影響が大きい」とされています。従って、こういう不溶性の粒子が発見されたことによって、内部被ばくの影響は見直していく必要はございます。けれども、外部被ばくを合わせた全体の影響としては、内部被ばくの影響が変わったからと言って、大きく変えるものではないのではないかとは、わたくしは見ております。いずれにしても、内部被ばくの評価は、きちんと見直していく必要はあるであろうと思います。

国連の科学委員会では、首都圏での被ばく量については「健康への影響はない」と評価しているわけですけれども、この評価が覆るというような可能性があるのでしょうか?

甲斐さん:そういう意味では、内部被ばくの影響というものが変わってくるでしょうけども、「外部被ばくの影響が大きい」とされていますので、そこが覆ることはあまりないのではないかと思っております。

鎌倉:一方、原発の近くでは避難指示が解除されて帰還を始めた人もいます。この不溶性放射性粒子について、地元自治体はどのように受け止めているのでしょうか。例えば、大熊町の環境対策課ですが、「特別な対策は行っていないが、帰還困難区域へ入る際には、防護服を着る、マスクをするなどの指導を行っており、室内をそうじする時には、ほこりを巻き上げないように注意するよう伝えている」とのことでした。ご覧のように、いずれの自治体も基本的には「放射性物質を吸い込まない、体に付着させない」という、これまでに行ってきた防護対策で対応しているとのことです。

森口さん、原発の近くでは、避難指示が解除されて帰還を始めた人もいるわけですけれども、これ、どういう点に注意したらいいのでしょうか?

森口さん:除染が行われ空間線量が下がったということで避難指示が解除されていますが、実は、除染というのは屋外しか行われていません。それから、空間線量率が比較的低い所でも事故直後にこういう放射性粒子が室内に入っているような地域もありますので、事故後に初めて室内に入る際には放射線防護をしっかりとして、放射性物質を浮遊させないように室内の清掃を慎重に行っていただくということが必要だと思います。

この不溶性放射性粒子には、研究者たちが懸念するもう1つの問題があります。原発の敷地内や除染が済んでいない地域から、粒子が再度 舞い上げられて飛散する「再飛散」と呼ばれる問題です。実は、過去に、実際に再飛散したケースが観測されていました。

2013年8月19日、福島第一原発では、廃炉に向けて3号機のがれき撤去作業が行われていました。ところが、敷地内で放射線量が上昇。作業員の身体汚染が発生したのです。
ちょうどこの時、京都大学の研究グループが、原発から26キロほど離れた地点で、大気中の放射性物質の増加を観測していました。

京都大学 教授 小泉昭夫さん
「だいたい通常の30倍以上になっているので、何かあるなと考えました。」

また、原発と京都大学の観測地点の間にある観測施設では、不溶性放射性粒子が採取されました。
京都大学の研究グループでは、当日の気象データなどを元に、放射性粒子の飛散をシミュレーションしました。その結果、がれき撤去作業によって巻き上げられた粒子が広い範囲にわたり飛散し、観測地点に到達していたことがわかりました。

京都大学 教授 小泉昭夫さん
「念を押すために、現場の中で、現地で土壌汚染調査をしました。その中に原発でしか見つからないような汚染物質が少し高い濃度で、健康には影響ないレベルなんですけども、高い濃度で見つかりましたので、おそらく(がれき撤去作業で)原発から飛んでいったものだという結論になりました。」

この再飛散の問題、実際に健康影響という観点からは、どう考えたらいいんでしょうか?

甲斐さん:線量は比較的小さいと考えておりますけども、やはり、きちんと測定を通して見ていく事が大切だろうと思います。特に、連続ダストモニター(大気中の放射性物質の量を測定する装置)などが現場周辺には装備されておりますので、しっかり、そういう測定結果を注目していくという事が大切ではないかと思っています。

森口さんはどうですか。この再飛散対策については?

森口さん:再飛散によって大きな問題が起きるとすれば、やはり廃炉作業にともなう再飛散、これが大変重要だと思いますので、そこを、十分に気を付けていただくと、これが第一だと思います。

もう1つ、この不溶性放射性粒子の農作物への影響についてはどう考えればいいのでしょうか?

森口さん:大気中の放射性物質のモニタリングもされていますし、農作物そのものについてもしっかりモニタリングはされていますので、その情報を十分に知っていただくという事が大切だと思います。
(福島から出荷される分については、安心していいと?)
はい。しっかり検査が行われていると思います。

森口さんと甲斐さん、粒子がどこに飛散したのか、その被ばく線量をどう評価するのか、今年度中を目途に研究を続けているということです。
このように、不溶性放射性粒子のリスクについて、今 研究者たちが明らかにしようとしています。そして、私たちも継続して取材していこうと思っています。不安に思う方もいらっしゃると思いますが、今は冷静に情報を受け止めていく事が大切だと思います。